仮面ライダーガヴ×カシバトル スイート・ジェネレーションズ   作:壱肆陸

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ドライでスパイシーな正義

「なに? エストマの生き残りが動いてるだと?」

 

 2024年。人間とは異なる種族が暮らす異世界、グラニュート界。

 グラニュート社会の裏で暗躍し、密かに『闇菓子』を製造・販売する一族経営の製菓会社。それがストマック社だ。

 

 その社長でありストマック家の長男、ランゴ・ストマックは、自身の眷族(エージェント)からの報告で額にしわを寄せる。

 

「エストマ……随分懐かしい名前が出たね」

 

「あの闇菓子の技術を掠め取ろうとした連中でしょう? 念入りに叩き潰してやったはずだけど」

 

「そうだった。さすが姉さん、容赦が無い」

 

 会議に参加していたのは、血を分けた2人の兄弟。

 技術担当の次男、ニエルブ。そして製造担当の長女、グロッタ。それぞれが『エストマ』という名前に違った反応を示す中、ランゴは情報を声に出して整理する。

 

「知っての通り、エストマ家は我々ストマック家の遠縁にあたる一族だ。奴らにもそれなりの技術があったからな、親父の代では懇意にもしてたらしいが、奴らは我が社の技術を盗もうとスパイを送り込んできた。だから報復し、根絶やしにした。そのはずだったんだが……」

 

 ランゴのエージェントが卓上に写真を広げる。それはエージェントが捉えたエストマ家の家来が持っていた、人間に擬態するための『ミミックキー』と、人間を圧縮する『ヒトプレス技術』だった。

 

「ちゃっかり技術は盗んでたってわけか。まぁ、昔から猿真似は上手かったからね、あの連中」

 

「そういえば私も覚えてるわ。あの一族が抱えてた、やたら強い……ヒュドロとか言ったわね。アレは本当にグラニュートなの?」

 

 心底面倒くさそうに、ランゴは写真と資料を机に叩きつける。

 仕入れ担当の次女のシータと三男のジープを解雇し、あの忌々しい末っ子の『赤ガヴ』が材料調達の邪魔をしている現状で、これ以上余計なことに割けるリソースは無い。

 

「とにかく、闇菓子の粗悪品など流されたら厄介だ。エストマの残党は見つけ次第始末する。いいな」

 

「そういえば……ニエルブ。エストマといえばあんた、あそこの御曹司によく噛み付かれてたじゃない?」

 

「御曹司……? あぁ……べゼロ君ね」

 

 ニエルブは眼鏡を指で押し上げ、物でも落としたように呟いた。

 

______________

 

 里を襲った怪人たちの元凶、グラニュートのべゼロ・エストマ。 

 べゼロは眼前を塞ぐ噛木羽子妙に顎を向けながら、背後の巨木を切り倒した。その巨木は一瞬で削られて、細かい造形が施された椅子となる。

 

 そこに腰かけたべゼロは腹の口───『ガヴ』からスーツの怪人を数体生み出した。ストマックの血族が持つ特異能力、眷族『エージェント』の生成だ。

 

「何のつもりだ?」

 

「言っただろ。小物に構ってる暇は無ぇんだよ俺様には。お前も菓子の能力者とかだろ? 精々いい材料になってくれねぇと損なんだ、分かるよな?」

 

「材料だと……?」

 

「この時代にしかいない品種だ、研究しない手は無いだろ。俺様はストマックの連中とは違う。ニエルブのヤツより先鋭的で画期的に! グロッタのヤツより効果的で蠱惑的な! 既存の枠を壊した『闇菓子』を作るんだよ。そして俺様が、ジャルダック家に代わって世界を統べる支配者となる」

 

 べゼロが片手を振ってエージェントを噛木に差し向けた。

 噛木はミント味の板状ガムを口に入れ、噛む。噛む。何度も何度も噛み続ける。

 

 噛木は『ガム』の菓子能力者(カシマスター)

 その能力は単純かつ強力。ガムを噛めば噛むほど集中力や体の筋力が向上し、強くなる。

 

「『顎骨隆々(がっこつりゅうりゅう)』!」

 

 噛木は強化された脚力と腕力でエージェントに攻撃を仕掛ける。だが、その一撃で仕留め切ることができず、反撃を喰らってしまった。里で暴れていた個体は動きが機械的だったが、この数体はそれらとはまるで別物だ。

 

「言ってなかったが、眷族は俺様が近くにいるほど強くなる。視界にいりゃこうやって直接操作もできる。雑魚を伸していい気になってたんだよお前は。ちゃんと計算しねぇとなァ、自分の愚図具合は」

 

 エージェントの銃が噛木の体を蜂の巣にし、声もなく倒れるのを見てべゼロは嘲笑う。しかしその身体はエージェントに触れようとした途端に形を失い、粘着力の高いガムとなってエージェントを拘束した。

 

「……あ?」

 

「忍法・我夢分身───」

 

 噛木の能力は噛めば噛むほど効果を強める。10カミで腕の筋力が、40カミで動きの精度が飛躍的に向上。そして50カミを突破すると、進化した身体能力が『技』として顕現する。

 

「60カミ、『瞬殺前歯』!」

 

 影から現れた本物の噛木は両手を向かい合う前歯のように構え、瞬く間にエージェントたちを噛み切った。

 

「噛木一族は600年前から世の裏側で暗躍してきた忍の一族だ。妖怪、物の怪の類の相手など珍しくも無い。悪いがオレも、小物に構ってる暇は無いのでな」

 

「調子に乗るなよ人間の分際で」

 

 不敵に笑う噛木に、べゼロの声が怒気を帯びる。

 べゼロのガヴからまた新たなエージェントが生み出され、噛木も再び顎を動かし始めた。

 

 

 一方、その横で戦いを繰り広げるのは、仮面ライダーヴァレン。

 相手は新装(ネオ)レジスタンスの筆頭格、菓子能力者(カシマスター)の少年、更見ヤイガ。

 

「あ~~~面倒くせぇ~~~」

 

「そりゃこっちのセリフだ!」

 

 ヤイガが銃を手あたり次第に乱射し、ヴァレンがそれを避け続ける戦闘が続く。気だるげに雑に撃ち続け、弾切れを起こした辺りでヤイガは『それ』を食べてリロードしているようだった。

 

「これだけ繰り返せばいくら俺でも分かるわ。『カルパス』か、お前の超能力は! ふざけやがって……は俺が言えたことじゃねぇな!」

 

「おー、名探偵」

 

 『カルパス』

 鶏肉や豚肉のソーセージを燻製・熟成させて作られたお菓子。ドライソーセージとも呼ばれる。お菓子としてだけでなく、お酒のつまみとしても好まれている。

 

 ヤイガは能力で生み出したカルパスを銃の中に装填し、銃弾として放っているのだ。これで殺傷能力が出るというのだから、菓子能力というのは恐ろしい。

 

「撃たれないのは楽でいいけどさ、いつまで避けてる気? 時間稼ぐ意味なんかないだろオッサン」

 

「誰がオッサンだ! まだ23だっつーの! テメェこそ、なんで人間のくせにグラニュートと手なんか組んでんだクソガキ!」

 

「それならクソガキもやめてくれ、これでも二十歳は越えてる。オレ達だって好きであんなのと組んでるわけじゃないんだよ」

 

 ヴァレンが攻勢に出れないのは、いくら怪物紛いの力を持っていても相手が人間だからだ。この力は、憎きグラニュートを殺すために手に入れたもの。それを人間に向けるのは、やはりどうしても抵抗がある。

 

 しかし、絆斗だって理解はしている。人間もまた人間を脅かす存在であると。

 それにこのまま雑な銃撃を避け続けていても、先だけは絶対に無い。

 

「……分かったよ。泣いても文句言うんじゃねぇぞ!」

 

 ヴァレンがその一歩を踏み出し、銃口を向けた。

 銃弾と銃弾がすれ違い、チョコレートとカルパスが飛び交う戦場。その間を抜け出したヴァレンが拳を振りかぶってヤイガへと向かう。

 

 接近されても動揺することなく、冷静にヴァレンの殴撃を躱したヤイガ。そのままヴァレンの顔面に一撃を加えると腕を掴み、柔術を以てその動作を制した。だが負けじと強引に腕を解いたヴァレンが反撃に出る。

 

 短くない戦意のやり取りが続いた。能力のみならずヤイガの戦闘技術は卓越しており、ヴァレンが仮面ライダーとしてのスペックでギリギリしがみ付いている、という現状。このまま均衡が続くと思いきや、突然ヤイガが銃を指にかけて両の手を挙げた。

 

「やめだ。意味ねぇし疲れるだけだこれ」

 

「あぁ!? 急に何言ってやがるテメェ!」

 

「話があるって言ったろ? 戦うためにわざわざアンタ等をこの時代に連れて来たわけじゃない」

 

「なっ……!?」

 

「大変だったんだぜ。特にグラニュー糖……じゃねぇ、闇菓子の技術を持ったグラニュートを見つけ出すの」

 

 絆斗たちをこの時代に飛ばしたのがヤイガ達だというカミングアウトに、ヴァレンが言葉を失う。グラニュートと手を組んでいるということは、恐らく本命はそっちだったのだろうが、何にせよ目的が全く見えない。ヴァレンも一度銃を下ろし、会話の卓に付いた。

 

「どうやって時間移動すんのかは知らねぇが、何のために俺達を……100年も前から呼びやがった。まさか悪戯だなんて言いやがらねぇよな」

 

「なわけ無いだろ。結論から言えば、仲間にしたかった。王国を倒すための」

 

「王国……噛木もそんなこと言ってたな」

 

「そっからね。この時代じゃ、オアズーケ王国ってのが実質的に世界を支配してんだよ。オレ達はそいつをぶっ潰して世界を救うことを目的にしてる」

 

 ヤイガの口からこの時代の真実が語られた。

 オアズーケ王国による『お菓子禁止令』。不当な食糧の独占、流通の制限、人々への加害、破壊行為に強盗行為……悪事を挙げればキリが無いほど出てくる。

 

 絆斗は甘いものが好きではないし、お菓子を禁止されたって然程困ることは無いと思う。しかし、ライターとして多くの人生に触れて来たからこそ分かる。『お菓子禁止令』はきっと、数えきれない人間の人生を狂わせて壊してきた。とても許されることじゃない。

 

「でも警察が手に負えないだけあって、王国の戦力はバケモノじみてたわけだ。センセイは王国を倒す力を探し続け、100年前の記録に辿り着いた。『最強の生物』について記述された研究……そこに在ったのが『仮面ライダー』と『グラニュート』、そんで『闇菓子』」

 

「……待て。一応聞いとく。その研究ってやつ、誰のだ」

 

「あー。名前は確か……酸賀(すが)とかだったっけ?」

 

  「あの野郎」と絆斗は心の中で叫んだ。酸賀(すが)研造(けんぞう)は、絆斗を仮面ライダーにした張本人だ。

 

 ここだけなら聞こえはいいが、実態はグラニュートのことを嬉々として語ったり、麻酔なしで絆斗にグラニュート器官を移植したりとかなりの狂人。まさか100年越しにこんな大騒動を起こして絆斗とショウマを巻き込むとは、なんて迷惑な男なのだろう。

 

「残念ながらこの時代じゃ失われた存在だったが、そこは我らがセンセイの『おまけ能力』。100年前にタイムスリップして、アンタ等を見つけ出したわけだ。ここから交渉だ。オレ達に力を貸してくれ。そうすりゃ元の時代に帰してやるから」

 

「冗談じゃねぇ!! グラニュートと手を組む連中なんかと、誰が! 知らねぇのか!? お前の言う闇菓子の原料は人間だ! グラニュートは人間を食ってるんだぞ!?」

 

「知ってる。だからこそだ。倫理を踏みつける魔性の菓子……そのドス黒い気持ちの強さが、究極の菓子能力を生む……ってセンセイが。そこまでしなきゃ勝てないんだよ、王国には」

 

「だからって……何もしてねぇ人間を犠牲にしていいわけねぇだろ!」

 

「何もしてねぇ市民の癖に文句言ってんじゃねぇよ……とまでは言わないが。この里の連中のこと言ってるんだったら、的外れだな」

 

 ヤイガは感情の薄いため息をつき、頭を重そうに傾けて、怒るヴァレンに対して軽々しく真実を吐き捨てた。

 

「湾田ファイア……またの名を『苦味のジョージ』。オアズーケ王国の四天王、軍団長だった男だよ」

 

「……は?」

 

「苦味のジョージだけじゃない。この里、明らかに忍者じゃないやついただろ。そいつらは全員、元は王国で悪さをしてた構成員共だ。里の連中も元は王国の飼い犬だったし、まぁ同罪だろ。で、どこにいたんだっけ? 何もしてない人間」

 

 ヤイガの言葉が信じられない、というわけじゃないのが絆斗の心を痛めつける。

 色々と腑に落ちることはある。でもあの人たちが、絆斗を信じてくれたあの人が、そんな悪人だなんて思いたくない。

 

「王国を潰すために必要な『犠牲』は、王国から削った分で補充する。地産地消……は、ちっと違うか。オレ等だって好きでやるわけじゃないし、あのクソ野郎と組むのも不本意だ。でもさ、目的のためには仕舞えよ、余計なもんは」

 

 返す言葉すら、見つからなかった。

 湾田とは僅かな関わりだ。でも、心から信じていた人に裏切られたのは事実だ。

 

 悲しみと怒りで胸が苦しい。苦い。

 それが正しいのなら、ヤイガの言う通りここは嘘でも味方になって、べゼロを倒して2024年に帰る方法を探すべきなんじゃないのか。こんな強い人間と戦ってまで、世界をめちゃくちゃにした悪人共を助ける必要なんて、どこに───

 

「───馬鹿か。そういうんじゃねぇだろうがよ!」

 

 ヴァレンは右足を強く踏み出し、銃口をヤイガへと向けた。

 

「どういう流れだよ」

 

「冷静になったんだよ。なんだかんだ言ってたが、お前がグラニュートを匿ってんのは変わらねぇ」

 

「目的のためだって言ったろ。あれもやる、これもやるなんか通らない。実現しない思想に意味があるのかよ」

 

「それでも、譲れねぇもんはあるだろうがよ!!」

 

 絆斗が見た湾田は、心から人を信じ、誰かを守り救うために必死になれる人間だった。

 この里の人間───噛木が王国と敵対しているのも、ここまでの会話で察した。それでも湾田たちを自由な状態で受け入れていたということは、湾田たちがもはや敵ではないという証拠だ。

 

 彼らは改心したのだ。そして、贖罪として王国と戦うために、この里で修練を重ねている。それが絆斗が見出した真実。

 

 過去は決して消えないのかもしれない。でも、絆斗は自分が見たものを信じたい。

 そして、許せないのは、あの傲慢なべゼロとかいうグラニュートだ。

 

「俺はグラニュートを許さねぇ! それは、人間を虫けらみてぇに殺すからだ。それが俺の心に巣食ってやがる『苦虫』だ! もしグラニュートと同じように人を殺すなら、人間でも同じだ! ぶっ倒してでも、俺が止める!」

 

「はぁ……怒りとか、執着とか、そんなもんが何か変えるんだったら……弱いヤツが死ぬ世界になっちゃいねぇよ」

 

 ヴァレンがトリガーを押そうとした瞬間、その肩をカルパスの弾丸が撃ち抜いた。

 

「痛っ……!?」

 

「オレは王国に恨みなんて無い。アンタには何も語らない。オレはなんとなく王国を潰すんだ。全ては、センセイの望むままにな」

 

「センセイだと……あガっ!?」

 

 ヤイガは口以外全く動いていない。しかも、狙撃の方向は真反対。何も分からないうちに、次の弾丸がヴァレンの脇腹を抉る。

 

 これはさっき湾田を襲った攻撃と同じ。無数の方角からの無音の連続狙撃だ。

 

「カルパス弾は時間経過で乾燥熟成される。さっきオレが出鱈目に撃ちまくった弾丸は、消さずにこの密林の木々に埋め込んで、熟成させてたんだ」

 

「お前と俺が喋くってる間に熟成されて、時間差で発射されてるってことかよ!?」

 

「やっぱ鋭いねアンタ、探偵でもやればよかったのにな。戦うの向いてねぇよ」

 

 菓子能力『偏差熟成ジャッキーバレット』

 計算し尽くされた軌道で襲い来る、カルパス弾の集中豪雨。ヴァレンが逃げる場所は指先一つ分すら存在しない。

 

「仲間にならねぇなら始末しろってお達しだ。悪く思わんでくれ」

 

 ここが死の淵。ヴァレンは己の直感に決断の舵を切った。

 銃弾の雨が止んだ。燻煙が晴れ、スパイスとスモークのそれの隙間を抜けて香り立つのは、チョコレートとは別の甘い匂い。

 

《DOUMARU》

《MOFUMOFU》

 

 空洞の中にヴァレンの体を納めていた4つの『ドーナツ』が、再びヴァレンのアーマーとして一体化する。

 

 仮面ライダーヴァレン ドーマルフォーム。

 『ドーナツ』のゴチゾウで変身したこの形態は防御・サポート特化。『モフモフ』とした弾力を持つドーナツによって、ヴァレンはカルパスの弾丸を凌いでいたのだ。

 

「聞いてねぇ~」

 

「勉強不足だなっ!」

 

 ヤイガとヴァレンの戦いが仕切り直された一方で、噛木の戦場は硬直していた。

 

「70カミ、『粉砕奥歯』!」

 

 更にガムを噛み続け、能力を強化。噛木は立ち塞がるエージェントの四肢を粉々に砕いた。だが、べゼロは立ち上がることもせず、消えた分のエージェントをすぐさま生成。戦況は振り出しに戻った。

 

(この兵士共を倒すのは容易だ。しかし、何体倒してもヤツは疲れた様子すら見せん……!)

 

 それに何か絡繰りがあるのかは分からないが、怪物の生態など知る由も無い。謎解きに期待はできないと噛木は判断し、顎に力を入れてガムを噛み続ける。

 

 80カミを達成し、噛木は両手を獣の牙のように構えた。

 この技が決まれば致命打になるだろう。しかし、このまま馬鹿正直に直進したところで数体のエージェントを盾に使われるのがオチだ。

 

「どうした? 疲れたならできるだけ屈辱の顔をしろ、ヒトプレスにしてやるから」

 

(この技をヤツに叩き込む方法……それに、あの男は……)

 

 噛木が気にしているのはヴァレンだ。ドーマルに換装したはいいが、それで形勢が覆ることはなく、数分もすれば再び詰みの状況まで追い込まれるだろう。能力や肉体の強度は優れているが、ヴァレンは場数でヤイガに劣りすぎている。

 

「しつけぇなぁ……わかった、投降しろ。そしたらお前は元の時代に帰してやるから」

 

「この時代で好き勝手やるのを放っとけるかよ! そこのグラニュートも……お前も、ぶっ潰す! 俺がどうなってもだ!」

 

 噛木の記憶に強く刻まれたチョコレート能力者は、2人。

 片方は過去に里を襲撃し、妹を含め自分以外の一族全員をチョコレート像に変えた男。どんな怪物よりも不気味で、化け物じみた強さを悪戯に振り回すあの男。

 

 もう一人は、反吐が出るほど甘い考えで噛木のプライドに真っ向から噛み付き、そして打ち砕いてみせた男。

 

『しつこいぞ! オレは群れん! キサマらに協力を頼む? ()っ! だれがそんな藁にも縋る事……』

『バカ者が!! 本当に妹を救いたいのなら、藁にも縋れ!』

 

 噛木にとってはまだ少し気に食わないが、彼は紛れもなく妹と一族の恩人だ。

 

 絆斗は噛木の目から見ても未熟だった。

 だが、他人の犠牲を決して見過ごさず、自分の命を使うことを厭わない。危うくもあるが、それは心に深く根差した『誇り』。妹の食華や、彼───鐘木チョコが魅せたそれと同じものを噛木は感じ取った。

 

「辛木田絆斗!! オレを見ろ!!」

 

 ヤイガの銃口が突きつけられそうになった瞬間、噛木の声でヴァレンが振り返る。

 

 技を構える噛木の視線は、べゼロとヤイガの両方を捉えている。600年の歴史を継ぐエリートによる、無言の指示にして協力要請。それを見たヴァレンは、己の成すべき事を直感し、ヴァレンバスターのレバーを開いた。

 

「こういう事か!!」

 

《DOOOOUMARUUUU!》

 

 もう一度レバーを閉じ、ゴチゾウの能力が全開放された。

 体から分離した4つのドーナツに加え、バスターから生成された複数のドーナツが周囲を不規則に浮かび、舞う。

 

()っ! 上出来だ」

 

 笑みを浮かべ、すかさずそこに飛び込んだ噛木。技の構えを取ったまま、ドーナツを足場にして空中で方向転換。この良質の感触のドーナツならば一切勢いを殺さず、それどころか加速し、噛木は縦横無尽に戦場を飛び回ることが可能。

 

「なんだいきなりチョコマカと……!」

 

「あー、これはやべぇ」

 

 訳も分からず立ち上がるべゼロに対し、その攻撃の意図を察したヤイガは、噛木の動きに合わせて回避行動を取る。しかし、そこはヴァレンが黙っていない。捨て身の肉弾戦を仕掛け、ヤイガの動きを阻害した。

 

 宙を舞いながら噛木は最適な軌道を見極め、一度に全てを貫くイメージで、噛み千切る!

 

「80カミ、『龍乃噛床(たつのかみどこ)』!!」

 

 それは雷雲を裂いて進む龍のように。その一撃は一息でエージェントを全滅させると、ドーナツで方向転換してべゼロ、ヤイガを噛み砕いた。

 

「話は聞いていた。王国を倒すため、如何なる手段も取る覚悟は認める。だが、この怪物は人間を命とも扱わぬ邪悪だ。『縋る藁』を、間違えたな」

 

「……オイ。なんだ……? なんの真似だ!? 食材如きが勝った気になって、上から口利いてんじゃねぇぞ!! あァ!?」

 

 『龍乃噛床(たつのかみどこ)』を喰らっても、べゼロはまだ倒れてはいなかった。これは噛木の誤算。グラニュートの体は想像以上に頑丈で、その分だけヤイガへの威力も殺された。ヤイガもまた、負傷こそすれどすぐに立ち上がる。

 

 猛り狂ったべゼロが再びエージェントを生み出そうとした瞬間、異変に気付く。

 

「随分と締めも守りも甘かったんでな。どさくさで封を解かせて貰った」

 

 噛木の狙いは、べゼロが仕舞っていた『ヒトプレス』。

 攻撃を喰らわせた一瞬で、念のため本体に傷をつけることなく正確に周囲の紐だけを断ち切った。噛木が取った処置は正しく、ヒトプレスにされていた『彼』が解放される。

 

「『黒弾(クロダマ)』」

 

 酸味と苦味が絡み合ったような香りが、微かに漂った。その刹那を通り、べゼロの体を爆発的速度のコーヒーキャンディの弾丸が撃ち抜いた。

 

「……っ! 湾田さん!」

 

「よぉ絆斗。それに、噛木の長男坊。やるじゃねーかお前等」

 

「ふん、キサマに評価されるまでもない」

 

「素直じゃねーな。さて……」

 

 2人向けた優しい表情から一転、湾田の切り裂くような眼光がヤイガとべゼロを刺し、その両手が純黒に染まる。菓子能力『苦手(ニガテ)(ソウ)』。湾田の本気の証だ。

 

「ここまで好き勝手やってくれたんだ。アンタ等には、ニゲー目に遭ってもらうぜ」

 

 オアズーケ王国四天王。元・『(ビター)』軍軍団長、苦味のジョージ改め湾田ファイア。

 澄んだ視界に捉えた敵を、その苦い眼差しが貫いた。

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