仮面ライダーガヴ×カシバトル スイート・ジェネレーションズ   作:壱肆陸

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もたもたしてたらカシバトルの週刊連載が終わってしまった。
納得できない……


決戦のスイーツパーティー!

 彼は高名な一族に生まれた。

 永く続く歴史。生涯の全てをその一部にする。生まれた時に、そう決定された。

 

『立て落ちこぼれ。世界を救えぬ者に、我がハービスト一族たる資格は無い』

 

 暴力を制し、不平等を正し、愛を執行する知られざる一族。

 出来損ないの彼に、一族は暴力を以て、不平等に、憎しみを押し付けた。

 

『なんという……坊ちゃまは天才です! ストマックの奴らなど問題にもならない!』

 

 力が全ての世界で力でのし上がった一族。

 その最高傑作として生まれた彼は、何もかもを出来る権利を与えられ、何もかもを望まれた。

 

 彼が一族から貰ったものは、一族の存在と共に全て失われた。

 最後に残ったものは捨てることなどできない『誇り』と、そして───

 

「進捗は如何です?」

 

「急かすな。俺様のペースが最高速度だ。唯一無二ってのは、そういう意味だろ?」

 

 (シエン)とべゼロ。菓子工場の運転室を改造した工房で、ただ2人。

 べゼロは山積みにされたお菓子の中からプリンを取り、スプーンで掬って口に落とす。

 

「はッ……砂利にも劣る。こんなもんに執着するなんて、くだらねぇ感性だな。この時代の人間も、赤ガヴも」

 

 べゼロは宝石を一口齧り、舌に残った味をこそぎ落とすように咀嚼する。

 

「だから理解できねぇな? こんなゴミを取り戻すために戦うバカ共は。本当に来るのか? 身の程も弁えず、俺様に歯向かいに」

 

「えぇ来るでしょう。揺るがぬ正義を持つ、彼らならば必ず。そして……貴方の刺客を跳ねのけた彼らも、ややもすれば」

 

「そう、それだ。在り得ねぇんだよ、ヒュドロの肉体を与えた俺様の下僕が、あんなカス共に負けるなんてなァ」

 

 エージェントの目を通じてべゼロは見ていた。発掘恐竜チョコの力で一つになったチョコとガヴが、不可解なほどに凄まじい力を発揮したのを。そこから成立するのは、ある一つの仮説。

 

 卓上にあるのはお菓子と、ヴァレンから奪ったゴチゾウと、使()()()()()()ヒトプレス。それらを一瞥すると、べゼロは最後に未完成の『鋼鉄の塊』を掴んだ。

 

_____________

 

 オアズーケ王国の大工場への潜入は、課題(クエスト)として何度も試みられてきた。

 ポップン達は潜入経験があるベッコウの口から、その命懸けの課題の仔細を聞いていたが、

 

 そこにあったのは、もはや全く別物の地獄だった。

 

「どうなってやがんだ……まだ何かやってるようには見えねぇけど、例のスーツ怪人だらけじゃねぇか……!」

 

「噛木の里からの報告にあった、べゼロっていうグラニュートの手下だね」

 

「少ないけど人間もいる。あれが多分、新装(ネオ)レジスタンスの菓子能力者(カシマスター)。ここにいたはずの王国の連中は見当たらないのが……嫌な想像をさせるな」

 

 敵の服装を真似て潜入調査をするレモネド、ポップン、ぽた子。

 

 恐らく(シエン)の能力で奇襲をかけたのだろう。設備など工場内部に戦闘の形跡は無い。レジスタンスがあれだけ攻略に苦しんでいた大工場を、こうも簡単に制圧したという事実。計り知れない敵の実力に戦慄する。

 

「……どうも製造ラインを改造してるっぽいね。やっぱりこれが大工場を占拠した目的か」

 

「っつーことは、マジで量産する気なのか、『闇菓子』……材料が、人間だっていう……ッ! ふざけやがって……! そんなもん作って、なんの意味があるってんだよ!?」

 

「確か……『究極の菓子能力を生み出す』って報告にはあった。どういう意味なんだろう」

 

「『闇菓子』の菓子能力者(カシマスター)でも作る気なのか? でも狙って菓子能力者(カシマスター)を作るなんて出来るワケない。それに……!」

 

 それが何を意味するのか、頭で言葉にすらしたくない。

 込み上げる吐き気。脳がぐちゃぐちゃになりそうな程の怒り。3人はその全部を静寂に押し留め、任務に没頭する。

 

 その時、エージェントの一体の視線が3人に留まった。

 向けられた懐疑に反射的に身構えた。気付いた時には、空間にある全ての眼が、3人を視ていた。

 

「───バレた」

 

 即座に判断したレモネドが外套を脱ぎ捨て、粉ラムネの粉塵で煙幕を張る。

 だがそれで脱走できるほど安い窮地じゃない。動揺を知らないエージェント達が侵入者の命を狙う。

 

「クッソ、なんでバレた!?」

 

「いやそれよりなんだか……あたし達がいるって最初から分かってて、いま見つかったみたいな……なんて、考えてる場合じゃないよね!」

 

 襲い掛かるエージェントには『スコーン』だったり『ソフトキャンディ』だったり、数人の菓子能力者(カシマスター)も混じっている。彼らが放つ菓子力(カシカ)も並ではなく、一対一でも苦戦する相手ばかりだ。

 

 その一糸乱れぬ混沌を裂き、エージェント達を押し退け、甘く苦い芳香が戦場の最前列に滑り込んだ。

 

「レジスタンス……! 待ってたよ、来ないはずがないから。正義で先生を否定した、おまえ達が……!」

 

「来たか、フラン=プディング……! ぽた子ちゃん、この子が!」

 

「そっか。チョコくんと3人がかりで戦ったっていう、プリンの菓子能力者(カシマスター)!」

 

「チョコ……! 鐘木チョコ! わたしには雪ぐ責務がある。あの汚名と、敗北を! わたしの利用価値を取り戻すために! だから殺す、レジスタンスの邪魔者は全て!」

 

 カスタードで間合いへと滑り込み、揺らがぬ脱力から放つ殴打。プリンの特性で大きな質量と弾性力を持つこの一撃は、喰らえば肉体を貫くような衝撃となる。

 

「『拳骨堅揚げ七味味!』」

 

 ぽた子は迷わず前に出て、フランの拳を迎撃する。プリンの柔らかさに相対する煎餅の硬さ。それに加えて辛味の炎でプリンの弾性力の源、ゼラチンを溶かす。

 

「わたしの『ケミカルプリン』が……!」

 

「それだけじゃないよ。移動用の『カスタードプディング』も、熱し過ぎると『す』が入るでしょ! あなたのことは対策してる!」

 

 『す』が入る───プリンは蒸しに失敗すると、細かい気泡が入って滑らかさを大きく損なう。それが意図的に引き起こされ、フランの動きが大きく鈍った。

 

「鶴田ぽた子……! オマエもそうか、わたしの消費を妨げる……っ! 熱くさせるな、わたしを!」

 

 ぽた子の煎餅の拳に亀裂が入り、鋭い高熱と共に砕き刻まれる。

 ここからが本当の勝負。フランの切り札『焦げる刃(ブリュレ・エッジ)』だ。

 

 ポップンとレモネドが他の菓子能力者(カシマスター)を抑え、フランを相手取るぽた子をサポートする。しかしこれは端から無理のある戦い。逃走を前提にしても、複数の手練れに加えて無尽蔵のエージェントがいるこの状況は、絶体絶命以外に呼ばれる名を持たない。

 

「こんなとこで止まってられねぇ……こうなりゃ一か八かだ!」

 

「だねっ。いける? ぽた子ちゃん」

 

「OK、アレだね! 合体技(トッピング)───」

 

 ぽた子の『米』、ポップンの『とうもろこし』、レモネドの『炭酸』。

 それを一つの球体に練り上げ、砲弾として放つ。

 

「『三味一体大花火』!!」

 

 空気中で圧力が解放され、中身の素材がポン菓子、ポップコーン、炭酸ガスとなって急激に膨張して爆発。その散弾はパチパチとした刺激と程よい甘味・塩味を伴って拡散する、範囲攻撃の手段だった。

 

 しかし、新装(ネオ)レジスタンスの一人が迷わずフランの前に出て、その砲撃を受ける。

 

「バカ! オマエ、何やって……!」

 

 ポップンが咄嗟に制止したところで躊躇することもなく、彼は砲弾に内包された威力を全て一人で引き受け、倒れた。それを一切気に留める様子もなく、フランは攻撃を再開する。

 

「意味わかんねぇよ……! なんでこんな真似ができるんだ……おまえら仲間じゃねぇのかよ!」

 

「最も強いわたしを優先的に守る。継戦のためには最適な判断、わたし達なら誰だってそうする」

 

「そんなのおかしい! 犠牲になるのが当然なんて、そんなの……仲間じゃないよ!」

 

「だから甘いと言っている! わたし達は『世界を救う』以外の全てを閉じた。先生の想いを成し遂げる、それ以外の何にも意味は無く、それ以外の何もいらない! それでいい!」

 

 狂気、そして狂信。ポップンは向けた掌───銃口を、思わず躊躇う。

 彼女はきっと、例え腕が千切れようと、体に風穴が開こうと、戦いを止めない。

 

 一瞬の停止の後、3人は再び合体技を放つ。しかし、それは炸裂の寸前にフランのカラメルの刃先に弾かれ、工場の天井を突き破って上空で派手に散った。

 

 目の前の絶望に目が曇った気がした。その一瞬で、決着はついた。

 『焦げる刃』が3人を斬り伏せ、暴れるような熱を冷ました目でフランが見下ろして言葉を投げかける。

 

「……やっぱり惜しい。その力は、必ず王国を倒すのに役立つ。余分なものを捨てて、閉じて、先生の望みに尽くすことを誓え。わたしは……それがいい」

 

 フランは(シエン)によって見出され、能力開花を前提に10年以上の鍛錬を積んだ精鋭。煎餅屋の娘、児童施設の兄貴分、貴族の落ちこぼれとは、生きた時間の質が違う。

 

「確かに……アンタの言う通りだよ。何かを叶えたけりゃ、それ以外は重荷になる」

 

 レモネドが呟く。

 格の差はある。力の差もある。ここで首を縦に振れたならよかったのかもしれない。

 しかし、そこに気持ちの強さの差は、きっと無い。

 

「でもさ、そんなの本当に強いやつには関係ない」

 

「……何だと……!?」

 

「本当に強いやつは、望んだものを全部守ろうとするんだ。それを見るとさ……必死に冷静になって、固く閉ざしたはずの想いも、勝手に動き出した。『勇気』って鍵が、臆病者の心をこじ開けたんだ」

 

「レモネド……!」

 

「なぁ、アンタには無いのかよ! 大事なものを曝け出して戦う、『勇気』ってやつが───!」

 

 そのレモネドの言葉で、フランの瞳に再び熱が灯る。

 閉ざした心の牢から激情が溢れ出し、怒りのままに刃を振り下ろした。

 

「───それは違うぞレモネド。母親のために生きる決断をしたあの時のキサマは、決して臆病者などではなかった!」

 

 フランのカラメルの刃を受け止めたのは、チョコレートの剣。

 そして、鍔迫り合う剣を弾き返す、もう一つの赤い刃。

 

「遅くなってごめん! ここからは俺に……いや、一緒に戦おう!」

 

「チョコちゃん!」

 

「ショウマくんも一緒だ! うん……ずっと待ってたよ、二人とも!」

 

 フランに防がれ、上空で爆ぜた合体技が居場所を知らせた。

 ブルキャンバギーでエージェントを蹴散らし、チョコとガヴが最前線へと降り立った。

 

「……ま、来るのは知ってたんだけどネ。チョコちゃん達見つけたってメール来てたし」

 

「うん、海の上でお菓子工場の船に助けてもらったんだ!」

 

「工場長と、そして星野大地が必死に探してくれたと聞いた。感謝してもしきれん!」

 

 レジスタンスの菓子工場は、客船に偽装して海上を移動している。

 以前、そこで新たなチョコレートを受け取ったチョコは、『感謝』を通じて作業員の青年、星野大地と絆を結んだ。

 

 船上で交わされた固い握手を見て、ショウマは思った。鐘木チョコという人物が誰にも全力でぶつかっていくから生まれた縁がこれまでも、これからも、彼の力になるのだろう。

 

 一人の強さが全部じゃない。繋がる想いと、絆。これこそが人間の力だ。

 

「しっかりと休み、体力も回復した! ゆくぞ、戦闘開始だ!!」

 

「鐘木……チョコォォォォォッッ!!!」

 

 フランがその目に捉えるのはチョコの姿だけ。

 

「彼女はオレが引き受ける!」

 

「わかった! だったら俺は……皆と一緒にこいつらを!」

 

「なんかチョコくんとショウマくん、知らないうちに仲良くなってるね! じゃあ行くよ、変則的『きのこチーム』!」

 

「ぽた子ちゃん気に入ってんのな、交流戦のそれ」

 

「いーじゃん。オイラも大好きだよ『きのこチーム』!」

 

「きのこ?」

 

「えっとねショウマくん、前に交流戦っていうのが……」

 

 間の抜けた会話をする少年少女も、敵が迫ると同時に戦士の表情を見せる。

 先陣を切るのはガヴ。それを追いかけるように、レモネドがラムネを含んで蹴りを放つ。

 

「『バブルボルトダイレクト』!」

 

「レモネドくん!」

 

 レモネドが敵の菓子能力者(カシマスター)を、ガヴがエージェントを斬り付ける。ガヴの粗削りの動きに、レモネドが冷静に呼吸を合わせてコンビネーションを成す。

 

「……アンタを最初に疑ったのはオレだ。嘘吐きの悪者なんじゃないかって。でも、チョコちゃんが言うならアンタはいいヤツで、間違ってたのはオレだった。ごめん」

 

「ううん、レモネドくんは正しかったよ。俺は本当の事を言う勇気が無かった。いや、チョコに助けてもらっただけで、勇気なんて今も無いままなんだと思う」

 

「そっか、じゃあオレと一緒だな。でも、オレはいつも疑ってばかりだ。オレ自身のことも、母さんの想いも」

 

「……それでいいよ。そんなレモネドくんがいたから、チョコは今まで戦ってこれたんだと思う!」

 

 ショウマの言葉にレモネドは顔を伏せる。

 立ち上がる敵。その周囲をラムネの粉が漂い、白い剣となって動きを妨げた。

 

「『ブドウ刀』」

 

 その瞬間、2人が背中を合わせた。レモネドは宙に舞うブドウ刀を蹴り、ガヴは地に刺さったブドウ刀を振るい、敵を牽制。その隙にガヴが新たなゴチゾウを咀嚼する。

 

《ラムネ》

《EAT ラムネ》《EAT ラムネ》

 

《バブルラムネ》

 

 ガヴの姿はポッピングミのまま、右腕に装着される瓶ラムネのような大砲。

 眷族『バブルラムネ』の力を備えた『追い菓子チェンジ』。怯んだ敵に対し、レモネドは電流を蓄え続ける泡を踏みつけ、ガヴは過剰にシェイクした右腕の銃口を構える。

 

「『超炭酸バブルボルト』!」

 

《チャージミー》《チャージミー》

《バブルラムネショック!》

 

 4つの眼と、バブルラムネゴチゾウの単眼が眦を決し、レモネドが蹴り放ったバブルボルトと、ガヴが放った泡と粒ラムネの大洪水が両側の敵を一掃した。

 

「ありがとね、ショウちゃん!」

 

「うん、こっちこそありがとう。今度は信じてくれて!」

 

 ガヴは再び駆け出し、今度はぽた子の方へ。彼女に飛び掛かるエージェントを殴り飛ばす。

 

「ありがと、ショウマくん!」

 

「大丈夫!? 平気、ぽた子さん!?」

 

「大丈夫だよっ。あたしだって負けられないから戦ってる! おばあちゃんの煎餅屋を復活させるために!」

 

 ショウマに負けじと、ぽた子も煎餅の拳で奮闘。その光景にガヴは思わず声を出して感心した。

 

「すごいな……なんだかぽた子さんって、幸果さんに似てる気がする!」

 

「幸果さん?」

 

「俺が働いてる、なんでも屋『はぴぱれ』の社長。俺に色んなことを教えてくれた、とっても優しくて、カッコよくて、強くて……大事な人なんだ」

 

 甘根幸果。人と共に生きると決めたショウマが居場所に選んだくらい、彼女がショウマに与えた影響は大きかった。

 

『ウチ……名前に幸せって付いてるからかな、みんな幸せなのがいいと思うんだよね』

 

 幸せの意味を知れたのも幸果がいたからだ。彼女は人の幸せを喜び、人の不幸を悲しみ、怒ることができる、そんな人だ。

 

『人の事喜ばして騙しやがって……ふざけんじゃねぇ! 地獄に落ちろ!』

 

 戦場に突撃してグラニュートにペンキをぶっかけた事もあった。

 あれには肝を冷やしたが、それくらい強い人だ。

 

「そんなにすごい人と似てるって……いいのかな……?」

 

「すごく似てるよ! しかも戦っても強いなんて、本当にすごい!」

 

 エージェントが連携モードに入ったのか、一斉に銃を構えた。

 守りたいという思いからか、咄嗟にガヴが前に出た。そして、再びゴチゾウを咀嚼する。

 

《EAT せんべい》《EAT せんべい》

《ビュンベイ》

 

「お煎餅の……盾!」

 

 エージェントの一斉射撃を、ガヴは盾一枚で完全に受け切った。

 この盾はポテトチップのように軽いが、キャンディのように硬い。

 

 その戦況を見かねたソフトキャンディの能力者が、自在に形を変える飴の武器で攻撃を仕掛ける。だが、そこを今度はぽた子が迎え撃った。

 

「そこまで言われたら、あたしも頑張らなきゃだよね! その『幸果さん』に恥ずかしくないように!」

 

 ぽた子が大きく頭を振り、風を巻き起こし敵を上空に巻き上げる。その動きはまさしく歌舞伎の連獅子。しかし、敵も手練れの能力者。空中だろうが巧みに姿勢を制御し、反撃を試みんとする。

 

「はあああっ!!」

《ビュンベイローリング!》

 

 ガヴが投げ放った煎餅の盾が、円の軌道を描いてエージェントたちを薙ぎ倒した後、空中の能力者に直撃。勢いは弱まっていたが、動きを止めるには十分だった。

 

 ぽた子の拳が、傘のように反った岩肌のような煎餅───歌舞伎揚げへと変化する。香り高く、甘く、そして深く。落下してきた獲物に、逞しく美しい百獣の王が牙を剥く。

 

「『歌舞伎アッパー』!!」

 

 ぽた子の勝利。そしてレモネドも菓子能力者(カシマスター)を一人撃破。ポップンの奮闘もあり、あの絶望的な大群はかなり数を減らしていた。

 

「どういう事……我らが、こんなはずは……!」

 

 フランの殺意の前に割って入る3人の菓子能力者(カシマスター)、そしてガヴ。形勢は逆転したように見えて、まだ増援が奥から進軍しているのが分かった。だが、恐怖よりも先にレモネドが違和感を覚える。

 

「妙だ……侵入者数人に、いくらなんでも戦力を注ぎすぎてる。まるで、どうしても今だけは奥に進んでほしくないみたいに」

 

「今がチャンス、いや……今を逃せば取り返しがつかねぇってことか。だったら1秒だってこんな場所で止まってられるかよ!」

 

「手分けなら俺が先に行くよ。ヒュドロは……俺が倒す」

 

「それなら……彼女の相手は、ぽた子さんに頼みたい」

 

 チョコの言葉にぽた子は「あたし!?」と目を見開く。一度フランに打ち勝った3人ではなく、チョコはぽた子を選んだのだ。それは、以前の戦いで感じた彼女の『内側』に起因する判断だった。

 

「ヤツは……王国を倒すためなら自分がどうなってもいいと、そう思っている。自分の幸せを願っていないのだ。彼女はきっと、チャーリーではなく(シエン)に出会い、ぽた子さんに出会わなかったオレだ」

 

「チョコくん……」

 

「だから救ってやって欲しい! 以前オレにしてくれたように……これはぽた子さんにしか頼めない!」

 

 鐘木チョコは悪を許さない。だが、彼は誰の人生にも光があると信じている。だから、そこに苦しみがある限り、敵だろうと救わずにはいられない。

 

「わかった、任せて。あの子は必ずあたしが止めてみせるよ!」

 

「でも、流石にぽた子ちゃんだけはキツいでしょ。オレも残るよ。チョコちゃん、ポッちゃん、ショウちゃんは先行って♬」

 

「っ……感謝する! レモネド、ぽた子さん! 必ず無事で!」

 

「鐘木チョコ……ッ……! 誰が行かせるか!!」

 

 そのやり取りをフランが黙って見ている訳もない。しかし、彼らを追おうとするフランを、別の強大な菓子力(カシカ)が阻んだ。それはガヴと似ているようで違う、力強く凛々しい甘い、果汁とゼラチンの香り。

 

「危険を冒せって指図するばかりじゃな。遅くなっちまったが、来てやったぜ」

 

「ゼラチさん!」

 

 ぽた子が所属する『チームグミ』の責任者、ゼラチがフランと相対する。彼女はハイシャの会では湾田に準ずるクラスの実力者で、今のレジスタンスの中でも上澄みの猛者。

 

 しかし、彼女はフランではなく、迫る増援に視線を向けた。

 

「このままその幹部格ぶっ倒したいところだが、話は聞いてた。言っても引き下がらねぇだろ、ぽた子」

 

「はい。チョコくんに頼まれたので!」

 

「だろうな。だからオメー等はそいつに集中しろ。もうじきアルミ達も駆け付ける……雑魚は全部引き受けた」

 

 チョコ達はその隙にとっくに先に行って、もう姿は見えなかった。

 振り返ることを知らないのか、彼らのレジスタンスでの躍進は止まらない。それでいて、彼らは何一つ零すことなく進むのだ。

 

「止まんなよガキ共。尻拭いは、オレ達『ハイシャの会』に任せな」

 

 小さいクマのグミが彼女の周りに集う。

 多勢に無勢を物ともしない圧倒的なオーラ。レジスタンスの女傑が、その拳を振りかざした。

 

__________

 

「侵入者が先に行った……か。さて、そろそろぼちぼち、仕事の時間ですよっと」

 

 戦況を見てヤイガは思案する。

 恐らく敵に手こずっているであろうフラン。今も進行を続ける侵入者。どちらに向かうべきか。

 

 ───そんなの、考えるのが間違っている。

 ヤイガは目を閉じ、侵入者のもとへ向かうことを決めた。

 

「待ちな!」

 

 しかし、それを引き留める無駄に熱い声。眠そうに、ダルそうにヤイガが振り返ると、そこにいたのはレジスタンス潜入別動隊。純黄ベッコウとハコガイ=ダブリ。

 

「ようやく見つけたぜ、ヒーローの偽物のネガヒーロー! 映画なんかじゃあるあるだよな……じゃねぇ! オレ達がぶっ倒してやるぜ!」

 

「報告にあった新装(ネオ)レジスタンスの筆頭格とお見受けします。戦いが始まったらアナタを止めるのが、ワタシ達の役目です!」

 

「……はぁ、舐められたもんだな。オレも」

 

__________

 

 ガヴ、チョコ、ポップンは先に進むことだけに集中する。

 奥に行くほど嫌な予感が強まる。何かが待ち受けているという確信が濃くなっていく。

 

 ポップンはふと横を向いた。この2人はきっと、止まりたいなんて微塵も思っていないのだろう。

 

「ショウマ……」

 

「ポップンくん……?」

 

「オレは……正直まだビビってる。この先もそうだし、おまえがグラニュートだってことにも。情けねーよな……」

 

 ポップンはまだ、心のどこかでショウマの嘘を許せてない。

 いや、こんなのはただの言い訳だ。『自分の弱さを他人のせいにするな』。ポップンはこの期に及んで、人間を食う怪物という存在に恐怖している。

 

「でも、止まれねぇ。おまえ等に置いて行かれたら、オレはオレを許せねぇ! だから悪ぃ、ショウマ。それだけは言わせてくれ!」

 

「うん……大丈夫。わかるから、ポップンくんの気持ち」

 

 こんな自分が嫌になる。仲間の中で自分だけが凡人なのは、自分が一番わかっている。

 でも、どんな自分でも進まなければ何もできない。

 

『怯えながら立ち向かう者ほど立派なものはない!』

 

 能力に目覚めて最初の戦いで、チョコから貰った彼自身の言葉は、あれからずっと彼を支えている。

 

「───赤ガヴ」

 

 まるでガラスの壁に衝突したように、3人の脚が一斉に止まった。

 工場の心臓部、工場内最大の設備を司る制御室。その道に佇んでいたのは、確かめるまでも無くヒュドロだった。

 

 この先で何かが行われている。それを止めるためには、3人でこの怪物を突破しなくてはならない。

 

 静寂。強者はただ黙して待ち、挑戦者は戦いの火蓋の行方を見極める。

 

 その静謐を叩いて砕いた靴の音。

 ヒュドロの背中の影から現れたのは、(シエン)とべゼロ。

 

「遅かったなァ。タイムアップだ、愚図共」

 

 (シエン)が鉄の塊を構える。それは能力発動用の缶詰のようだが、違った。

 円柱型の缶詰を、蓋の向きに倒したような外観。それをレバーやスキャナー、スロットなどが取り囲んでいる。明らかに常軌を逸した特殊装置。

 

 それを、(シエン)は腰にかざした。

 

《キャンドバックル》

 

「あれは……ベルト、いや大きなバックル……?」

 

 チョコが呟く。その瞬間、ショウマの体を悪寒が貫いた。

 それを裏付けるように、べゼロがそれを───濁った小麦色の『ゴチゾウ』を見せつけた。

 

「そんな……それって!」

 

「見覚えあるよなぁ、赤ガヴ! コイツの能力から俺様が作った。お前に、ストマックに出来ることは、当然俺様が上回るんだよ! さぁ名前は好きに決めろ、どうでもいい」

 

「了承しました。今こそ再びこの名を掲げる、誉れ高き我が一族───来なさい、『ハービスト』」

 

 ゴチゾウに名が焼き付き、(シエン)の手に収まった。

 彼は『ハービスト』をバックル右部のスロットに装填し、缶詰の中に入るようにゴチゾウを装入。

 

《SHUT ビスケット》

 

 あらゆる機構が駆動し、戦車が迫るような重い音。彼が背負い込んだ正義を綴った軍歌のようなメロディが鳴り響く。

 

 (シエン)はつまんだ乾パンを齧り、胸の前で右拳を堅く握る。

 そして『この言葉』と共に、レバーを掴んでバックルの『缶詰』を開けた。

 

「変身」

 

《ガガガ・ゴン》

 

 ゴチゾウと菓子能力から生成された乾パンが宙に整列し、バックルから生成された鋼鉄が(シエン)を取り囲む『缶』を形成する。

 

 乾パンは缶の中に収められていき、最後に蓋が閉められ密封。

 そのまま缶詰は中心に向かって収束を始め、鋼鉄も乾パンも混然一体となって一人の戦士の形を成した。

 

 それはまるで、硬く乾いたビスケットの肉体を鋼鉄の兵器で武装する、甘さを忘れた改造兵士。

 

《フルメタル ジャスティス》

《ヴェロス ブートアップ》

 

「これが世界を救う力───仮面ライダーヴェロス」

 

 強大で、狂暴で、壮大。

 その名は、世界を救い、人間を守る者として。

 この世界に新たな『仮面ライダー』が顕現した。

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