ビナー先生のキヴォトスでの優雅なティータイム 作:ひいろの鳥
ビナー様と生徒がただ紅茶を飲んで駄弁るだけ()のシリーズですが、是非よろしくお願いします。
七神リンは、その実少し扉を叩くのを躊躇っていた。
というのも、扉の向こうに、あのシャーレの"先生"がいるからだ。
はっきり言うと、あの大人は苦手だ。自分にここまで言わせる先生も先生だと、少し責任を投げ出したくなる。
立場上は会わざるを得ないし、それなりに顔を合わせる機会もある。勿論、不平を言える訳でもない。
それでも、未だにあの雰囲気には慣れない。
そう思う理由は幾つかあるが、矢張り決定的なのは"解らない"ことだろう。
そう、七神リンは先生のことについて何一つ理解していない。その未知があの近づき難さを醸しているのかもしれない。
何となく、彼女――ビナー先生との出会いを思い返してみた。
その日は何となく浮足立っていた。理由は勿論、連邦生徒会長が任命した"先生"なる者が来たらしいからだ。
突如として連邦生徒会長が失踪したことを皮切りに、彼女の住む学園都市――キヴォトスは混乱の時代を迎えようとしていた。
無論、リン自身も事の対処に尽力しようとした。だが、彼女一人が統括するにはこの世界は余りにも広く、諸々の問題が複雑に絡まりすぎていた。
よく連邦生徒会長はこれを纏め上げられていたなと感心するとともに、何故唐突にこんな大仕事を自分に任せて消えたのかという疑問が、怒りの芽を出し始めていた。
兎に角、余りにも膨大すぎる仕事量に加えて各地から起こる批判と暴動に、七神リンはもはや限界を迎えていた。
そこに現れた"先生"という存在は、正に救世主のようだった。
これで少しでも自分の仕事が楽になればと、そういった期待に胸を膨らませながら、扉を叩いた。
「御入り。」
扉の奥から聞こえる声は厳かに彼女の耳に入った。
その言葉の端々にさえ、何処か静かな圧を感じたが、なるほどこれが大人というものなのかと、疲弊しきった脳はそう判断して気に留めることなく扉を開いた。思えば、この時点で警戒しなければならなかったのだろうか。
扉を開くと、眼前には、ソファに座り茶を啜る妙齢の大人と、その傍で本を抱えているらしき青年がいた。
どちらも、黒を基調として金色の装飾が入った、傍から見れば少し奇妙に見える格好でいる。
「あなたが、シャーレの――」
その言葉に青年が顔を上げて答えようとしたが、それを遮るように女性の方が手を翳した。
「私はビナーと云う。」
先生なのか、という言葉を遮り、女性はそう短く答えた。
そして言葉を続けさせないように、カツカツと音を鳴らしながらリンの近くに立ち寄った。
間近まで迫った時、七神リンは漸く恐怖を覚えた。
全てを呑み込みそうな黒い眼、少し愉快そうに口角を上げた口元。その顔に睨まれるようにされて、リンは少し後退った。
その様子を気に掛けることもなく、ビナーと名乗る者は静かに口を開いた。嗚呼何を言われるのだろうかと、七神リンは内心静かに恐れていた。
「少し――疲れているようだね。」
だが、その口から放たれたのは、意外にも労いの言葉だった。
「シャオ、少しソファを整えてお呉れ。」
振り返ることもせずに、女性は後ろに声を掛けた。
その言葉に反応して、青年は本を片付けソファを整え始めた。どうやら青年はシャオと呼ぶらしい。
そのままリンはビナーに半ば抱かれながら、ソファに連れられ倒れ伏した。
「見つけたわよ代行!早く生徒会長を...あれ?」
「主席行政官...?」
「眠っているようですね...それに、そちらの方は...。」
「んぅ...。」
喧しく響く外からの声に、不格好な声をあげながら目を開けた。
まだ視界が薄ぼんやりとしているが、辛うじて先生の姿は見て取れる。
「主席行政官、何故この期に及んで眠っているんですか!?」
「早く連邦生徒会長に対する説明を...!」
その口煩い言葉に、何とか声を上げようとしたが、目覚めたばかりのせいか上手く声が出ない。
「この子供は唯疲れていただけに過ぎない。身に余る苦痛は人の身には耐え難く、孰れ砂城の如き崩れるばかりであるが為に、之は必然とも云えるだろうね。」
その代わりに、先生が答えた。が、その難解な言い回しに、リン本人含め、先生とシャオ以外の誰もが首を傾げた。
「体調のほうは大丈夫ですか?」
シャオという青年が、柔らかな物腰で問いかけてきた。こちらは、先生とは違い親しみやすそうな口調と顔つきだ。
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます。」
そう言いながら、既に手遅れだろうが少しでも体裁を整えようと眼鏡を掛けなおし、そのまま立ち上がった。少し足先が痺れている。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正確に言うと、行方不明になりました。」
「「「「!?」」」」
「現在、『サンクトゥムタワー』の制御権の最終管理者が消えてしまったため、今の連邦生徒会は行政権限を失ったままです。」
自分で言っていて、厭になる事実だ。だが事実である以上、受け入れざるを得ないこともまた本当ではある。
そして――。
「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」
そう言いながら、二人の方に目を遣った。
唐突にこのようなことを言われれば、戸惑うのが常であろう。しかし、二人はその言葉を聞いてなお泰然としていた。
「ちょっと待って。そういえばこの先生はどなたなの?」
「見たところ、キヴォトスの外から来たようですが...。」
その言葉に先生のことを紹介しようとしたが、その前に一言
「私はビナーと云う。御前達の好きに呼ぶと好いよ。」
と言い放ち、そのまま彼女は押し黙ってしまった。
「私はシャオと言います。ビナー様の補佐役として受け止めていただければよろしいかと。」
隣の青年は、先生とは正反対に丁寧に挨拶をした。
「...先生には、ある部活の顧問を担当してもらいます。」
若干話の腰を折られながらも、先生に対して諸々の説明をした。自分で説明しておきながら、何故連邦生徒会長がこの様な置き土産をしたのか、七神リンには理解できなかった。
そして。
「――シャーレの建物は、ここから30kmほどあります。連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とあるもの』を持ち込みました。先生をシャーレの部室にお連れしなければなりませんが...。」
そこまで言って、モモカにヘリの手配を頼もうとした矢先に、先生は突然立ち上がった。
「...先生?」
「何処かの若造では無いが、刻を無為にするべきでは無い様だね。」
そう言いながら、彼女は静かに扉の方向に歩みを進めた。
「シャオよ。」
「分かりました。"本"は持っていくべきでしょうか。」
「用心に越したことは無いだろうね。」
傍から聞いてもよく分からない会話が繰り広げられたと思えば、先生の後に続いてシャオも一冊の本を抱えて彼女の後に続いた。
「え、ちょ、ちょっと、何処に行くの!?」
「...もしかして、サンクトゥムタワーへ、でしょうか...。」
「あそこは今、戦場になっているはずです。」
「そんな、キヴォトスの外から来た身では余りにも危険です!」
再び生徒たちが活発になってしまった。しかし、彼女たちの言う通り、あのまま行けば身が危険にさらされ、サンクトゥムタワー奪回どころの騒ぎではない。
「...皆さん、すぐに追いかけてください、今すぐに!」
そう言いながら、七神リン本人も拳銃を持って足早に部屋を出た。
連邦生徒会長の用意した存在が、この様な騒ぎで潰れることがないことを、心から祈った。
――結論から言えば、その祈りは全くの無駄であった。
繰り広げられていたのは、蹂躙。だが、それは生徒の手によって、ではない。
先生達が、道行く生徒を薙ぎ払っていた。
「な、なんだこいつ!?」
「は、早く撃て!!」
そう叫びながら飛び交う銃弾は、先生の周囲に現れる黒い波に掻き消され。
それよりも速く奔る黄黒いナニカに、道程に立つ者は皆引き裂かれていった。
死角から飛んできている弾丸も、先ほどとは異なりオレンジと黒の服を着た、指揮官のような佇まいのシャオが、片手に握った剣でそれとなく弾いている。
「こ、こっちに来るな!!」
「...。」
そう叫ぶヘルメット団員の言葉を無視するように緩慢と近づき、ゆっくりと腕を、脚を壊していき。
動けなくなったソレに対して、踏み躙る様にしながら、亦歩き出す。
そして、何よりも―――
先生は、その光景を静かに笑いながら行っている。その蹂躙劇が、彼女の中の本能を刺激しているかのように。
正に阿鼻叫喚と言える目の前の光景と、それを繰り広げている二人の大人。
その後ろ姿に、七神リンは、出会った時とは一線を画す、途方もない恐怖に包まれた。
「リン行政官、これは...。」
「...前方に先生がいます。」
後ろから声をかけてきた早瀬ユウカに、短く答えた。誰もが、目の前の状況に狼狽えている様だった。
それに構うことなく、先生達は先々に進んでいる。置いておくわけにはいかないだろう。
そう思い、竦む足を持ち上げて、後を追いかけた。
先程の惨状の所為か、周囲にいた人やヘルメット団は殆ど消えてしまっている。
しかし土煙が上がる中、その奥に、もう一つの影が浮かび上がった。
「...あらら、まだ連邦生徒会は来ていないみたいですね。」
そう独り言つ声には聞き覚えがある。矯正局から脱獄した凶悪な生徒、狐坂ワカモだった。
まるでこの有様に気づいていないか、気づいていたとしてもよもやそれが先生の手によるとは思わないだろう、彼女は泰然と、先生の進む途上にいた。
幾らこの先生とはいえ、凶悪犯たる彼女に生身で接することは、矢張り不安だった。
「先生、止まってください!そちらにいるのは脱獄犯の狐坂ワカモです!!」
力の限り、そう叫んだ。だが先生は止まらない。
「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしているものとなれば壊さないわけには...おや?」
漸く異様な気配に気づいたのか、ワカモが振り返った。それでも先生は尚進み続けている。
「おや、貴女は...。」
ワカモの声にも応えることなく、淡々と歩みを続けていく。
そして必然と、先生とワカモは間近まで迫った。
ワカモは武器を構えることなく、先生もまた無防備に、殆ど距離も取らずに向かい合っている。
リンがそれに対して危険を警するより早く、ワカモが言葉を発する前に、先生はワカモにぐいと顔を近づけた。
「あら、あららら...。」
「...御前は。」
ワカモが反応するよりも少し早く、先生が口を開いた。
「御前の斯様な眼は、私に似て居るな。崩れる物にこそ悦楽を見出す其の眼...懐かしいな。」
嗜虐的でありながら、また何かを懐かしむような薄い微笑を湛え、ワカモの頭を撫でた。
暫くの間、沈黙が続いた。
「...し、し、失礼しましたわ―――!!」
暫し呆然としていたワカモだったが、突然そう叫ぶと、何処かに消えてしまった。
それを見送ることもせず、先生達はまた歩き出した。
その光景にどうすることも出来ず、リンも矢張りただ歩くしかなかった。
暫く砂埃を払いながら進んでいくと、先生が目的地に入っていく様子が伺えた。それに追いつくように、リンは走り出した。
息を切らせながら中に入り地下に続く階段を下っていく。暗さの所為か、3人分の足音だけが鳴り響くこの空間は緊張感をもたらした。
階段を降り切り、暗闇に目が慣れないまま扉を開いた。
その先には、既に先生が佇んでいた。手には――例の物が収まっている。
「それは、『シッテムの箱』です。連邦生徒会長によれば、それによって制御権を回復できるはずだと言っていましたが...。」
説明を終える前に、先生はシッテムの箱を起動し始めた。
先生達がシッテムの箱を覗いている様子を見守りながら、生徒会長の言葉が真実であることを祈った。
そうして暫くすると、一通の連絡がきた。確認すると、サンクトゥムタワーの制御権が回復した――即ち、連邦生徒会の行政権が回復したということだった。
その知らせに、膝から崩れ落ちそうになったが、慌てて取り繕いながら先生のほうに向き合い、頭を下げた。
「お疲れさまでした、先生。連邦生徒会を代表し、深く感謝いたします。では、これから『シャーレ』の部室を案内いたします。」
エレベーターに先生達と共に乗り込み、暫くして件の部屋の前に着いた。
【空室 近々始業予定】
堂々と書かれた張り紙が、その部屋の存在を些か下らないものにしているように見えた。
それを無視しながら、扉を開けて、これからすべきこと――そんなものは制御権を得た今ではもうあまりないのだが――について説明した。
先生は静かに説明を聞き続け、それが終わると一言
「お疲れ様。ゆっくり休むと好い。」
労いの言葉を掛けて、リンを部屋から出した。
そう、ここまでは、唯異様な力を持つ大人なのだと、ただそうとだけ認識していた。
だが、それだけでは決してなかった。
先ず、先生はシャーレを空けることが多い。
とはいえ、仕事をしていないわけではなく、寧ろ早々に日毎の分は終わらせて、出かけている――シャオ曰く「散歩」――らしい。逆にシャオはずっとシャーレにいるために、そちらを先生と勘違いしている生徒も一定数いる。
先生が部屋にいるときは分かり易い。決まって、紅茶の香りが部屋に充満しているからだ。先生と会おうと思えば、その香りが外に漏れ出ている時機を狙うしかない。
だが、そこはさして問題ではない。問題なのは、彼女の素性、思考、何もかもが未知数であることだった。
先生は平時殆ど口を開かない。だが、口を開けば飛び出すのは難解かつ冗長、それなのに何処か心の奥底を突いてくるような言動。
何よりも、彼女自身がそれに対する反応を愉しんでいる様で、紅茶を飲みながら返答に詰まる相手の顔を覗き込んで微笑を崩さない。
それでも普段はシャオがある程度分かり易く噛み砕いて教えてくれる。だが、そんな彼でも、相手自身に問い掛ける言葉については教えられない――否、分かっていながら敢えて教えていないのだろう。
何度か会話を交わしたが、どれも何かが胸に引っかかるような後味を覚える。
率直に言えば、何もかも"解らない"のである。それは七神リンが"先生"という存在に期待していた、明瞭な存在とはかけ離れていた。だからこそ、七神リンは先生のことを苦手としている。
そして、今まさに、七神リンはシャーレの扉の前に立っているのだが。
ここからでも、茶の香りが匂い立つ。則ち、先生がいるということの証左に他ならない。
それ故に、些か――否かなり気が重かった。
だが、書類の受け取りは済まさないといけない。どうかそれだけで事が終わってくれるように祈りながら、扉を叩いた。
「御入り。」
短く、扉の奥から返事が聞こえる。それに応えて、重々しく扉を開いた。
少し軋む音を聞き流しながら、一層強くなる紅茶の匂いに少し顔を顰めた。別に嫌いなわけでは無かったのだが、今までの体験と結びつくとそれ自体も厭になってくる。
部屋の奥では、先生が相変わらず紅茶を嗜んでいる。隣では、シャオが本棚の整理をしているようだ。どちらの机にも、既に終わっているであろう書類が綺麗に纏められいる。
「書類を受け取りに来ました。」
短く用件を伝えて、書類を手渡して貰い早々と部屋を出ようとした。
しかし。
「そう焦る事も無いであろうよ。シャオ、紅茶を淹れてやりなさい。」
その言葉が、短く七神リンの背中を刺してきた。
もう逃げられないという絶望を確かに受け止めながら、諦観の元一応言葉を発した。
「私は書類を受け取りに来ただけですので、そこまで...。」
「刻を無駄にしないこともまた重要なことではあろうが、時には歩みを留めて振り返ることもまた同じであろうよ。」
「...暇だし急ぐこともないから、少しはゆっくりしていけ、だそうです。」
「御前は些か簡潔に云い過ぎる所があるな。茶の薫りが充ちる前に終って仕舞うではないか。」
シャオの要約に諭すように言い放ちながら、先生はじっとリンの方を見続けている。
そこまでされてしまえば、帰ることも出来ない。どうすることも出来ず、結局席に着くことにした。
シャオが早速紅茶と茶菓子を卓上に並べながら、先生とリンは向かい合う形になった。
「御前は」
席に着くと、早速先生が口を開いた。
「御前は、私を恐れている様だね。」
その言葉とともに、黒い眼でリンのことを射竦めてきた。
その言葉と視線に、自然と身が固まった。
「そんなことは...。」
「包み隠す必要は無いよ。御前の心の儘に従うと好い。」
その言葉に黙っていると、横から正直に思っていることを話せということです、と半ば無意味な翻訳を耳に入れられた。
それでも、矢張り正直に話すことは怖かった。
先生が自分の期待していたような大人とは違っていたこと、未だに正体が掴めないこと、全てを知っている様でありながら何も語らないこと、様々な思いが胸に去来した。だが、それらが七神リン自身のエゴであることもまた知っていた。それ故に話せなかった。
暫くの間、シャオの本を捲る音だけが静かに響いた。
「先生は...」
漸くそこまで口を開いて、次に続ける言葉を失った。
そのまま咳払いでもして、あわよくば席を立って去ろうかと思ったとき、先生が言葉を発した。
「私が何者であるか、気になる様だね。」
それまで抱えていた疑問を見事に言い当てられ、七神リンは少したじろいだ。
それに関わらず、先生は続けた。
「私は唯私であるのみよ。御前が唯御前であるように、だ。
御前は、私に如何なる意義を求めたであろうか。」
そこまで話すと、持っていたティーカップを持って顔を近づけてきた。
間近で見るとその漆黒がより鮮明に食い込み、その奥に自分の姿が映り込み、その姿が一層不安を駆り立てた。
「...全ての生徒の規範となるような、明瞭な人だと思っていました。ですが...。」
正直に答えると、最後まで言い切る前に先生の方が口を開いた。
「星に如何なる名をつけても、その輝きは損ないも増しもせぬであろうよ。其れを知らぬが故に、目を背ける子供もまた多くいたね。
だが、御前もまた、如何なる者にも輝きを定められぬであるが故に、その光はまた御前自身が定め輝かなくてはいけないのだよ。」
婉曲を重ねたような言い回しに当惑し、シャオの方を見遣ったが、彼は何も答えなかった。
「御前は唯、御前だけの星を見詰めれば好い。」
「星...とは...。」
辛うじて発したその言葉に、先生は口角を上げた。
「其れは、御前自身が見つけるべきだろうね。」
「...私には、分かりません。」
「御前には視えていない訳ではないだろう。唯、視方を識らないだけだ。故に――私はいるのだよ。」
そう言いながら、空になったティーカップを置いて、先生は窓辺に歩みカーテンを開けた。
窓の外には、美しく澄んだ星空が、キヴォトス中を明く照らしていた。
「人と人、星々、都市...彼らは皆、等しく絡まり合って居る。其の縺れの中に御前達はいる。けれども、御前は唯御前であろう。
故に、御前だけの星も、御前だけの方法で何れ見つかるであろうよ。急いて仕舞えば、茶も味を損ねてしまうものだ。」
星空を背に、先生はそこまで言って、また近づいてきた。
「御前との話は愉しかった。そうだな...此れを受け取りなさい。」
そう言いながら、リンは先生から小さな包みを手渡された。
「これは...。」
「紅茶の茶葉だよ。今日買ったものだが、中々に薫りが善い。落ち着いたら、また斯様に話そうじゃないか。」
そこまで言って、また薄く微笑んだかと思うと――先生は、デスクに戻り傍にあった本を手に取り捲り始めた。
カップに残った紅茶は、とっくに冷めてしまっていた。だが、それでも美味しかった。
それを少し飲みながら、今度は一人で星空を眺めてみた。
美しく、何処までも澄み渡る星空と、それに照らされた、暗く静かになったキヴォトス。
結局、七神リンは解らなかった。星が何であるか、先生が何者なのか、全てはぐらかされてしまった。
それでも。
まだ、今は解らずとも。
今はただ、それでいいような気がした。
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