ビナー先生のキヴォトスでの優雅なティータイム   作:ひいろの鳥

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...え、前の投稿2週間前...んなまさか.......はい、本当にごめんなさいでした。Library Of Ruinaとかいう神ゲーが楽しすぎるのがいけないんです。それと流石に作者もリアルが割と忙しくなるので頻度はいっそこのままでも...ダメか?



天童アリスは憧れる

天童アリスは、目の前の人間をそれなりに尊敬している。その人は聡く、静かで、何よりも――強い。

否、実際にその人の全力だとかを見たことは、アリスには無かった。それでも、その片鱗だけからでも、恐らく今の自分よりも強いのだろうと踏んでいる。

アリスはまた、勇者に憧れてもいた。刷り込み的なものであると言ってしまえばそれまでだが、それでも、勇者というそれこそが、彼女自身の存在理由にも繋がっている。その流れで例えるなら、目の前の大人は宛ら賢者だとかに類するものだろうか、などとアリスは他愛もないことを考えていた。

詰まる所、アリスにとって目の前にいる大人――ビナーと言うその人間は、アリスにとって大きい存在であった。

 


 

アリスには、ミレニアムサイエンススクールに来るまでの記憶が朧気だった。その時には、まだアリスという名すら無かった。

記憶が全くなかった訳ではない。ただ、自分が何故存在しているのか、今座っている場所が何処なのか、そういったことは何一つとして分からない、そういう状態だった。否、気にすることすら無かったのだから仕方がない。

ただ、日がな無機質な壁と、天井の隙間から差し込む陽の光を浴びながら、呆としていた。白紙の状態では何かを考えることすら出来ず、本当に呆と佇むだけだった。

 

その日も何時ものようにそうして、決まった時間にスリープモードに移行していた。

ただ、その最中に、外から人の声が聞こえた。尤も、アリス自身に人の声という概念は無く、鳥のさえずり等と同質の、ただの雑音として処理されていたが。

 

その雑音の中、何かが歩み寄る音が空間に響いた。酷く静かな音は暫くして鳴り止み、直後、不意にアリスの頭に何かが置かれ、続いて雑音の正体であった存在もまた、アリスの傍に近づいてきた。

そうして、アリスは何かに突き動かされるように――恐らく、それは内部に組み込まれていたプログラムか何かだったのだろう――目を開いた。周囲には、人間と定義されている存在が、三つほど在った。

 

「状況把握、難航。会話を試みます。状況を説明願えますか。」

 

規定された通りにそう言うと、人間達は、一人を除いて当惑する仕草を見せた。そうして、アリスの疑問に対する返答がないまま――

 

気づけば、全く知らない部屋にいた。

ただ、アリスにとっては困惑することでもなく、ただ位置情報の変化としてしか捉えられていなかった。

そこにもまた人がいて、ガヤガヤと何かしらを喋っているのを、コントローラーなるものを口に入れてみながら眺めていた。

そしてまた、いつの間にかゲームをやらをする流れになり、時の経つことすら関知せずに、一心に積まれてあったものを言われるがままに、途中からは言われなくともやり進めていった。

 

そして、皆が寝静まった静かな部屋の中、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

振り返ると、アリスが声を始めて発した時に、唯一動揺しなかった人が立っていた。

 

「そなた、名は何というのじゃ?」

 

一先ず、ゲームから得た話し方をそのままに、名を問うた。

 

「私はビナーと云う。」

 

その人間は、静かにそう答え、一瞬間アリスを凝と見詰めた。

奇妙な沈黙の後、ビナーと名乗る人間は続けた。

 

「御前は、己を如何視るか。」

 

その質問の意図や意味するところは、アリスには正確には読み取れなかった。ただ、だからこそ――

 

「アリスは、勇者です。このゲームに出てくるような、そんな勇者です」

 

アリスは、単純に思ったことを言った。その答えに、ビナーは静かに頷いた。

 

「其れもまたそうなのだろうな。」

 

その言葉を残し、ビナーは静かに部屋を去った。

それを静かに見送り、アリスはまた、暗い中煌々と輝くテレビ画面に向き合った。

 

 

 

 

そうして、アリスは自我というものを獲得した。創作上からしか得た経験は無いが、それでも人格を形成するのに不備は存在しなかった。

そしてそのまま武器を貰い、また鏡と呼ばれるものを奪い返さなければならないということも聞いた。

暫くの間は、アリスも、アリスの周りの人間も目まぐるしく動きながら作戦やら何やらを立てていた。彼女自身に、それをする意味や意義などは分からない。けれど、仲間達(ゲーム開発部)を助けるために、優者たる己がしなければならないのはそれなのだろうと、一人勝手に理解していた。

 

そうした最中、またビナーが近付いてきた。

その時、アリスはまた部室に独りでいた。アリスには時々、こうして一人ゲームを眺める時間も必要だと感じられていた。それが何故か、合理的な説明は出来ようも無かったが、その行動は己を満たす感覚――これもゲームの受け売りだが、そういったものを感じるような気がした。

 

ビナーは、矢張り静かにアリスの傍に歩み寄ってきた。

アリスはそれに気が付くと、ビナーの顔をじっと見つめた。暫くの間、この人間と共に過ごす中で、アリスには気づいたことがある。それは、この大人は恐らく賢いのだということ、にも関わらず、何もしないということだった。その振る舞いはまるで数多のRPGに出てくる謎めいた賢老のようで、仲間には加わらないが役には立つ、不思議な立ち位置がアリスの中で確立していた。

 

「御前は、己を如何視るか。」

 

数日前に投げかけられたのと同じ質問だった。

そしてまた、アリスには同じ、而してあの時よりも確信に満ちた答えしか持ち合わせていなかった。

 

「アリスは勇者です!このゲームに出てくるような勇者なんです!!」

 

元気に満ち溢れた声でそう答えると、ビナーは軽く頷き、またアリスの顔を、今度は瞳の奥を覗き込むように凝と見詰めた。

一瞬の間静寂が身を包んだかと思うと、ビナーはまた口を開いた。

 

「御前は、其れをどの様に定めるのか。」

 

その言葉に、アリスは躊躇うことなく答えた。

 

「勇者は、仲間を助ける存在です!」

「御前にとって、仲間とは何だろうか。」

 

続け様に問われたその言葉にも、アリスは淀みなく返答した。

 

「モモイ達です!!」

 

その答えに、ビナーは今度は頷くことなく、静かに扉の前に立った。

 

「御前は、人では無い。覚えて於きなさい。」

 

その言葉を後にして、ビナーは静かに部屋から立ち去った。

アリスは、その最後の言葉の意味を理解しようと、暫く考え込んだが――結局分からずに、ゲーム画面に立ち戻った。

 

 

そうして、鏡奪還作戦の中身も定まり、皆がそれに沿うように、また別の人間は邪魔するように動いた。だが、ビナーとその付き人たるシャオの二人は、その一切に関わりを持とうとしなかった。

確かに、自分たちは何もしないと始まる前に宣言はしていたが。実際に傍観するだけとなると、アリスの中では一時ではあるが、仲間という概念から弾き出されそうになっていた。

 

だが、そうしたことも、あるワンシーンだけで、容易に覆ることでもあった。

その時、モモイとミドリは部屋に閉じ込められ、アリスはそれをユズと共に助け出そうとしていた。

只管長い廊下を走り、また走っていた時、不意に曲がり角から黒いのっぽの影がチラリと姿を見せた。

はや敵かと()()()を構えると、そうする必要は無いというように、ゆっくりと手を翳して、影は音を発した。

 

「御前達は、彼の者を助けたいか。」

 

その静かな声に二人が頷くと、ビナーは静かに、而して疾く歩を進めた。まるでモモイ達の居場所を分かりきっているような、確信に満ちた足取りで進むビナーに、不思議と頼りになる感覚がして、そのまま着いて行った。

暫く進むと、シャッターにぶち当たった。即ち部屋が向こう側にあるという事なのだろう。耳を当ててみると、モモイとミドリの悲鳴が聞こえてきた。

 

「アリスちゃん、お願い!」

「分かりました!」

 

ユズの期待に応えるべく光の剣を構えると、ビナーが一歩、前に歩み出た。

 

「先生、退いて下さい!」

 

ユズの半ば悲鳴とも取れる声にも動ずることなく、ビナーは静かにシャッターに手を当てた。

 

「開け。」

 

瞬間、その言葉と共に、けたたましい音が部屋中に響いた。その轟音に少しばかし目を丸くしているのも束の間、シャッターは何事も無かったかのように、すんなりと持ち上がった。それと同時に──正確には、ビナーが姉妹の頭を押さえ付けた直後に、光の剣も放たれ、部屋の中にいたユウカ達を光の剣で薙ぎ払いながらその場を脱出した。

思えば、この事が無ければ、アリスは先生のことを無視とは行かずとも、一つ下の段階で認識していたのかもしれない。ただ、この事があったから、また秘められた力という何とも心躍る事実があったからこそ──アリスは、ビナーに対する憧れを得るようにもなった。

 


 

そうして鏡を奪還し、ミレニアムプライスにも何とか受賞する事が出来て、ゲーム開発部はまた新たなゲーム制作に取り掛かっていた。

だが、シナリオライターたるモモイのスランプにより、思うように進まないまま、早くも一週間が経とうとしていた。

 

「アリス、ミッションだよ!」

 

そんな中、モモイは唐突にアリスにそう言った。

 

「新しいクエストですね!内容は何でしょうか!」

 

元気よくそう答えると、モモイは少し声を潜めて、アリスに囁きかけた。

 

「先生──ビナー先生の事を探って欲しいの」

「探る...ですか?」

 

そう聞き返すと、モモイは少し唸りながらも答えた。

 

「探るって言い方は違うかもだけど...先生って凄くミステリアスじゃん?」

「肯定します!」

「だから、先生について調べれば、何かいいアイデアが出るかもしれないじゃん!」

「なるほど!」

 

確かに、ビナー先生には得体の知れなさというものが如実に醸し出されている。それはアリスにも伝わっていた。その中身を少しでも知ることができれば、モモイの助けになるかもしれない。そう考えると、やる気も出てくるというものだ。それに──アリスは、先生のことについてもっと知りたがってた。憧れは理解から程遠い感情というのは幾度となく言われてきた言葉ではあるが、それでもアリスは、憧れの存在に対する理解を少しでも深めたかった。

それ故に。

 

「はい、クエスト受注です!」

 

彼女がそう答えるのも、また必然ではあった。

モモイはその答えに歓喜しながら、外で響くユウカの怒声に引き摺られるように外に出た。

アリスは一人残された部屋の中で荷物を纏めると、幾許かの期待を胸に込めながら、颯爽と部屋を飛び出していった。

 

 

 

「先生はいらっしゃいますか!」

 

シャーレの部屋に、アリスの大きな声が響いた。

それに反応したのは、ただ一人だった。その部屋に唯一いる、これまた黒に黄色の装飾の付いた奇妙な服装の青年──シャオと言う、ビナーの補佐を名乗るその者が、突然の大声に少しカップを揺らしながら振り返った。

 

「ビナー様をお探しですか?」

 

シャオは平静を保つ様にそう聞きながら、アリスを応接用のソファに座らせ、ティーカップを差し出した。偶々淹れていた所だったのか、想像以上に薫り高い。アリスに味の善し悪し等は余り判別の付かない所ではあったが、それでも彼の淹れる紅茶は"美味しい"と形容されて然るべきものであると思っていた。茶色い液体を少し飲んで落ち着いてから、改めてシャオの言葉に頷いた。

 

「ビナー様は、今はいらっしゃいませんね。」

 

アリスの返答を受け入れると、青年は淡々とそう言い放った。この人間は、少々言葉を端的に言い過ぎる節がある。それこそ、ミレニアムの長たるリオ会長も、こんな喋り方だったと記憶している。

 

「ビナー様に何か要件でもありましたでしょうか。急ぎでないのなら、私が代わりに伝えておきますが。」

 

そう問い返すシャオに、アリスはここまでの経緯を話した。その言葉を咀嚼する様に頷きながら聞き終えた後、シャオは再び問うた。

 

「その...モモイさんの制作状況は分かり兼ねますが、急を要する話でしょうか。」

 

その端的な疑問に、アリスは少し悩んだ。と言うのも、アリス自身何れ程切羽詰まっているのかを把握していなかったからだ。活動の事で怒られるのは大抵モモイなので、アリスにその事を把握する術は余り持ち合わせていなかった。だから、ただ聞き知った事をのみ伝えた。

 

「はい、今朝ユウカの怒る声が聞こえてきました!」

 

多分、その様子から、危ないのはそうなのだろうと、アリスは了解していた。その事を伝えると、シャオは少し腕を組んで考える素振りを見せながら、壁一面に広がる本棚に歩み寄った。そこから一冊の本を取り出し、真ん中辺りを開き一瞥すると、再び本を仕舞いながらアリスの元に近寄った。

 

「ビナー様は、恐らくトリニティにいらっしゃいます。今から向かえば、間に合うとは思いますが──行きますか?」

 

勿論、それを断る選択肢は、アリスの中には無かった。勢いよく肯定すると、シャオは了解したように頷きながら、今度は机の上に積まれてある本の山から、一冊を取り出した。

『紫の涙』と表紙に刻まれてある本を開き暫くすると、一瞬間の内に、シャオの服装が紫色に変わった。モモイから聞いてはいたが、この人間は()()()()が得意だという。シャオについての話題になると度々話の遡上に上がるので聞き及んではいたのだが、改めて目の当たりにすると、これまた異様な光景ではあった。

 

「急ぎましょうか。このままだと帰りが...ああ、モモイさんが心配すると思いますよ?」

 

呆然とするアリスに、シャオはそう言いながら彼女の腕を掴んだ。

 

「掴まっていて下さいね。私も人を運ぶのは余りしたことが無いので...。」

 

その言葉の真意は分からなかったが、警告通りに、アリスは確りとシャオの腕──身体と言っても差し支え無い程に、掴まった。

その瞬間、ほんの一瞬だが、身体が中空を浮かぶ感覚に陥った。

その奇妙な感覚に咄嗟に目を瞑り、再び目を開けると──眼前には、見慣れない路地裏が広がっていた。

そういえばと、アリスは旗と思い返した。シャオは時々、瞬間移動でもしているみたいに一瞬で別の場所にいる事があるとか、そう言った噂話だ。だが、実際に体験してみると、これまた驚かざるを得ないものであった。

 

「わっ...!シャオさん、これは──」

 

興奮しながら捲し立てようとするアリスの口元に、シャオの指が当てられた。

 

「一応、口外という事で...。」

 

そう言いながら、困った様に、然し表情は矢張り変えないままに、シャオはそう言いながら再び黒い服装に()()()た。

 

「急ぎますよ。時間も余り残されていませんし。」

 

シャオの言葉通り、空は既に少し赤くなっている。このままだと、直ぐに夜になってしまうだろう。シャオの足早に進む動きに、アリスも合わせて走り出した。

 

ミレニアムの合理的かつ無機質な建造物に比べて、この辺りの建物は華美で、無駄とも言える装飾がこれでもかと施されている。その見慣れない光景にアリスが目を輝かせる隣で、シャオは地図を広げながら道を指でなぞっていた。

 

「トリニティ総合学園の校舎から程近く、尚且つ評判の良い店と言えば...ここでしょうね。」

 

凡そ検討が着いたのか、シャオは地図をアリスに見せながら、ある一点を指差した。そこには、矢張り見慣れない文字列が書かれた建物──恐らくカフェと推定されるものが映し出されていた。

 

「そこに行けば、先生が居るんですね!」

「その可能性は高いかと。」

 

その声を聞くや否や、アリスは一目散に駆け出した。今度はシャオもそれに追いつこうと、真っ直ぐした姿勢を崩すことなく走り出した。

 

複雑な経路を辿り暫くすると、地図に描かれた通りの建物が姿を現した。窓越しには、目的のビナーの姿が垣間見えた。少し息を切らしながら追い付いたシャオは、音を立てながら扉を開けて、アリスに中に入るように促した。

 

「先生!!」

 

中に入った途端に、アリスはビナーの座っている席に駆け出した。シャオもそれに着いていくと、ビナーにチラリと目配せをした。ビナー自身もそれに目を合わせると、小さく頷いて、アリスに席に着くように勧めた。

 

「それでは、後のことはお任せします。」

「御苦労だった。御前も確り息みなさい。」

 

短くそうやり取りすると、シャオはそのままカフェを出て、一つの席という狭い空間の中には、ビナーとアリスのみが残っていた。

ビナーは、アリスの事を気にも留めずに、紅茶を啜っている。暫くすると、ウェイターがもう一つカップを、今度はアリスの方に差し出してきた。注文したような素振りは、少なくともアリスが席に着いてからは見なかったので、何とも奇妙な事であった。ただそれを受け流して、アリスはカップに一口つけた。シャオの淹れるものとは違い、ビナーの勧める紅茶は得てして、仄かな甘さがある。否、モモイと一緒に初めて飲んだ時はそんなこと無かったのだが、それ以降の味は円やかなものが殆どだった。

紅茶をちびちび飲んでいると、ビナーが不意に、アリスに目を合わせてきた。

こうして、この大人の顔を覗き込むのは、意外にもそう無い事だったかもしれない。その眼は深い暗さに満ちていて、吸い込まれそうと言うありふれた表現は、こういう事を指すのだろうか等と無意味にそう考えてもみた。

 

「御前は、機械の身体を持っている様だね。」

 

ふと、ビナーがそう聞いてきた。確かに、それは事実だったが──些か唐突な言葉に、アリスは戸惑いながらも頷いた。

 

「そして、御前には仲間がいる。」

 

その言葉にも、また勢い良く頷いた。アリスにとって、モモイ達ゲーム開発部や、ユウカなどの頼れる先輩、そして、目の前に佇む大人までもが、彼女の仲間であった。

その答えに、ビナーも頷きながら、今度は疑問を口にした。

 

「御前は、其の者達をどの様に思うか。」

 

疑問形ではあるが、その語尾は何らかの確信に満ちていた。それに、アリスは深く考えることなく、率直に答えた。

 

「皆、アリスの大切な、共に冒険をしていく仲間です!」

 

その答えに反応するよりも、ビナーは再び疑問を問うてきた。

 

「御前は、何故にそう思うのか。」

 

何故か──それは、アリスには考えたこともなかった。それ故に、その疑問に、アリスは少し悩んだ。ビナーの方をチラリと見ても、答えを待つように茶を飲んでいるばかりであった。

暫くの無言が続いた後、アリスは漸く答えた。

 

「皆、アリスのことを大切にしてくれて、アリスを仲間として扱ってくれました。だから、アリスも皆を大切にします」

 

それが、数多のゲームが教えてくれた、()()だったから。アリスの答えは、結局はそこに帰結していた。

ビナーは、アリスのその答えに納得がいったのか、カップを机に置いて、再び話し始めた。

 

「私は、己が使命を棄てて久しい身であるが...御前を見ていると、郷愁すら感じられよう。」

「使命、ですか?」

 

その言葉に、アリスは反応した。この大人も、自分と同じで勇者であるのか、と少し意外な気持ちでいると、ビナーはそれに気付いたのか、言葉を続けた。

 

「人ならざる物でありながら、限りなく人であろうとする不純物を、広大な砂漠に棄て於いていた。この様にな。」

 

そう言いながら、ビナーはカップを少し傾けた。それに少し目を取られた瞬間──アリスの身体は硬直し、思うように動かなくなった。それに少し戸惑っていると、ビナーは静かに席を立ち、アリスの元に近づき、頭に手を乗せた。その瞬間、何か厭な事が、想像こそ出来ないが起こってしまうのだろうと、恐怖に目を伏せた。

──だが、そのような事は無く、ただビナーの手の感触が頭に置かれているだけであった。

顔を上げると、少し愉しそうに微笑むビナーの顔があった。

 

「恐がらせてしまったか。安心なさい、唯、識りたかっただけなのだよ。」

 

そう柔らかく言いながら、ビナーは再び席に着き、戸惑うアリスに再び言葉を投げかけた。

 

「御前は、御前自身を星──御前の言葉で表せば、勇者だと観ているね。」

 

その言葉に頷くと、ビナーは意地悪そうに続けた。

 

「御前は星であろうとしている。だが、人ならざる物が星を目指せど、行き着く所は──受け容れられずに棄てられる、不純物だ。」

 

そう言いながら、ビナーは再度アリスの瞳を覗き込んだ。恐い。今度は、その感情がアリスの中にはあった。

 

「私は、御前の様に、規定されるがままに動き続けた者を識っている。其の者もまた、御前と同じ機械であった。」

 

ビナーはそう続けながら、懐かしむような声色のまま、外にチラリと目を遣った。

 

「だが、其の者は──考えた。考え続け、そして、考える己自身を見つけた。私という恐怖から眼を背けなかった彼の者の様にな。」

 

その言葉の本当の意味は分かり兼ねたが、理解する前に、ビナーはまた席を立ち上がった。

 

「御前もまた、考えるべきなのだろうね。星空は、独りで輝く者では無いが故に。」

 

その言葉を最後に、ビナーはアリスを連れて店から出た。

外に出ると、すっかり夜だった。頭上には、満点の星空があった。

その光景は、ゲームでは見たことが無いほどに、幻想的で神秘的だった。

 

アリスは、未だ勇者に憧れている。だが──きっと、この大人が言いたいのは、それではいけないということなのだろう。

でも、まだ分からない。だからこそ──。

少し、勇者について考えてみようと、そう思いながら、再び満点の空を見上げた。

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