よくよく考えると、文化祭を二人で回るくらい友達同士でも普通にする気がしてきた。
つまり、デートだと考えるのは早とちりだ。
「あのさあ切奈、相談があるんだけどさ」
「なあに?」
冷静に考えると、緑谷がいきなり霊火をデートに誘うという行為そのものが違和感の塊だ。
一度頭を落ち着かせよう。
緑谷のことだ。単に霊火と文化祭を回りたいだけで恋愛感情なんてまったく無い。そんな可能性も普通にあり得る。
向こう目線は友情百パーセント。
こっちだけがデートだと思って行ったら普通に友達扱いされて死ぬほど傷つく未来がはっきり見える。
ここで勇み足をしたらちょっと立ち直れない。
自分が思っている以上に繊細なことを自覚しよう。初恋なのだ。
現場でうっかり大粒の涙を零したりでもしたら事故どころの話じゃない。
そして霊火は意を決してこう聞いた。
「男の子に文化祭を二人で回ろうって言われるのって、一般的にデートのお誘いになると思う?」
「え、うん」
「相手が出久くんでも?」
「……ごめんちょっと分からなくなってきたかも」
「でしょ?」
霊火は机に突っ伏す寸前で耐え、指先でストローの紙袋をくしゃりと潰した。
放課後の購買横、臨時休憩スペース。
文化祭前だからか普段よりも人の出入りが多く、廊下の向こうでは装飾用の段ボールを切る音が断続的に響いている。
取蔭切奈はガタンと身を乗り出した。
「……え!?!? マジで!?!? もしかして緑谷に誘われたの!?!?」
「うん……」
「いやなんでそんな元気ないのもっと喜んで霊火!!! 進展だよ進展!!!」
「そうかな……?」
霊火は思い切り首を傾げたが、切奈の勢いは止まらない。
彼女はじれったそうに髪の毛を掻きむしると、大声でこう続けた。
「いやさあ、これまでずっと霊火が押せ押せだったじゃん!!」
「そんな押せ押せって感じだったかな……?」
「でも今度は緑谷がリードしてくれるんじゃん!!! 恋愛感情かどうかはとにかく、霊火を楽しませようって気はあるわけでしょ!?」
「………まあそういう考えもあるのか?」
割と実用的なアドバイスが出てきた。
確かに、これは進展といえば進展だ。
彼が霊火の事を異性として見ているかどうかは置いといて、一緒にいる相手であってはいてほしいわけだ。
「………ふふふ…えへへへへ……」
「良かったね霊火。一歩ずつだよ!! 文化祭マジックとかもあるし!!」
「うん……!!」
「相談内容がウブすぎて腰抜かすかと思ったけど 」
「なんで最後に刺してきたの?」
放課後の食堂。
机の上には紙コップ、半分残ったフライドポテト。どこか甘ったるい菓子パンの匂い。
遠くの席では誰かが進行スケジュールの打ち合わせをし、別のテーブルでは衣装班が布を広げている。
彼女はトレーを乱暴に脇へ押しやると、肘をついて霊火をじっと見た。
「いやだってさあ、文化祭に誘われるのはデートかって……」
「なに?」
「小学生かよというか」
「急な暴言やめてくれない?」
何か取蔭に悪いことしただろうか。言葉の端々がちょっと痛い。
「そんなに天才なのに自分の気持ちは全く分かってないんだね」
「え、何? なんで攻撃されてるの私?」
「要はさ、デートかもって思って舞い上がってる自分が恥ずかしいんでしょ?」
「棘のある言い方……」
「でも慎重派の霊火は、なんだかんだで自信がないわけだ。友達扱いされるのが怖いんだよね?」
霊火は押し黙った。
取蔭切奈は特に気にした様子もなく自身のスマホの液晶に目を落とす。
ここまで歯に衣着せぬ言い方をされるという事は、彼女は霊火の事を友達だと思っている証拠でもある。
「霊火はあれだよね。他の女に盗られるとは思ってないんだよね。実は」
「え、めっちゃ怖いけど……」
「違うね。例えば私が緑谷に告白しても緑谷は百パーセント断ると思うでしょ?」
「……………まあ」
「ね?」
多分、彼はちゃんと断るだろう。
取蔭切奈は文句なしに美人で、スタイルも性格もユーモアも何もかもを持つ。
しかし、緑谷が切奈と付き合うイメージは全く湧かないのが正直なところだ。
取蔭切奈は前髪を軽く持ち上げると、切れ長の目を妖しく細めた。
爬虫類じみた瞳孔が収縮する。
「まあ私が本気でやれば恋愛感情抜きで義務感からのアプローチとかで落とせる気が―――ごめんマジでごめん泣かないでお願い」
「………やめてね」
「バカバカバカバカ私がいじめてるみたいじゃん。冗談だよ私は緑谷イマイチ好みじゃないからそんな事しないって。ごめんねなんでこうウチの霊火はいつも鋼のメンタルのくせに……」
結構本気で焦った彼女は話を先に進める。
「でさ!! 霊火は結局自信があるわけよ。どちらかと言うと緑谷の攻略難度の方に!!」
「たった今その自信が折られたところなんだけど……」
「ポッと出の女に彼を落とせるわけがないから!!」
「切奈はポッと出の女じゃないじゃんか……」
麗日だって優しすぎるから譲ってくれているだけだ。彼女に関しては本気になられた瞬間に霊火の即負けがあり得る。
取蔭切奈は肩を竦めた。
「でも実際、マジで緑谷狙いをしようとするとなんだかんだで霊火がキツすぎるのも本当。それで諦めてる子いっぱい知ってるし」
「煩いなあ……どうせみんなスタイルなら圧勝とか思ってるんだ……」
「男って意外とスタイル興味なくね?」
「……まあ分からんくもない」
「やっぱり顔よ。顔の可愛さ。ほら機嫌直して霊火は最強だよ」
「雑に慰めやがって……」
容姿を褒めたら段々と機嫌が直っていく性質を利用されている。
霊火は渋々頭を上げた。でも結局は嬉しいんだから我ながら単純だ。
「というか純粋な戦闘力が絶望的じゃね霊火相手の恋戦……」
「純粋な戦闘力は恋戦に必要ないでしょ。トーナメントで勝ち進んだ優勝者が出久くんを嫁にでもするの?」
「いやそういう事じゃなくってヒーローとしての優秀さの話」
「というと?」
「超可愛い激強トップヒーロー相手に、女としての戦いを仕掛ける気が起きない」
「今日はすっごい持ち上げてくれるけど何かあった?」
「でも霊火はその性格を治した方がいいね」
「あ、これの前振り?」
「驚いたらすぐ手が出るところは結構致命的だと思うよ……?」
それはちょっとPTSDが入っているので難しい。
敵意を向けられたりすると、無意識でスイッチが入ってしまうのだ。
普通に日常生活で困るのでちゃんと矯正したいとは霊火自身も思っているのだが……。
「だけどそこも魅力なんだよねえ……」
「いや流石にそれはないでしょ」
「ほら、優秀な女性って隙が無くて可愛げがないとかよく言われるじゃん?」
「まあそういう風潮はあるよね」
微妙に話が飛んだが、霊火は頷いた。
優秀さと可愛さは基本的にトレードオフだ。特に女性の場合は。
「でも霊火はあり得ないぐらい優秀な癖に、この世の終わりぐらい危ういんだよね」
「やっぱり褒められてないな?」
「褒めてるよ。同性の私でも滅茶苦茶庇護欲を誘われるって事。優秀さと危うさの両方を両立しちゃってるのよ。めっちゃ才能だわ」
「嬉しくない……」
「とにかく霊火は魅力的だよ。でも相手が緑谷だからね」
そして彼女は呆れ顔で言い切った。
「霊火は他の女には勝てるけど、オールマイトに勝てていないのよ」
「正解」
つい大声が出てしまった。
「恋愛感情が入り込む余地がないんだよね緑谷は」
「そうなの!!!!」
「夢と使命感に一生懸命で、どうしてもそっちが優先なんだよね」
「そうなの!!!!!」
「緑谷は立派だと思うし尊敬してるけどさあ、やっぱり霊火は苦しいよね」
霊火は勢い良く頷いた。
でも、彼のそんな姿が好きになったのだ。その上で少女は縮こまってこう呟いた。
「……もうちょっと餌をくれてもいいと思うんだけどな」
「霊火って滅茶苦茶特別扱いされてるよ」
「え~……出久くんって誰に対してもあんな感じじゃない?」
「それはない。絶対にない。無いったら無い」
凄い顔で否定された。
霊火はやや納得いかないながらも不承不承で頷く。博愛主義の彼は霊火含めて全方向にあんな感じのイメージだ。
「で、霊火はどうなりたいの?」
「え?」
「結局そこが分からないんだよね。つまり緑谷と交際関係になりたいのかってことなんだけど……」
切奈が身を乗り出してくる。
霊火はちょっと身を引いたが、逃がしてくれなかった。
「緑谷と手、繋いだことある?」
「あるけど」
「二人きりで遊園地行ったことは?」
「あるよ。雄英に合格した後に一緒に行った」
「相手の部屋行ったことは?」
「受験勉強の時とか毎日行ってた。私の部屋に来たことも割と」
「え?」
「緑谷のお母さんと料理したりとか、ランチや買い物に行ったりとか」
「…………………………同じ部屋で寝たことはある?」
「同じベッドで寝た事もあるけれど」
「ちょっと待って」
取蔭切奈は頭を抱えた。霊火は首を傾げる。
「話が違う!!!!!!!!」
「ごめん私も思ったよりも仲いいなって」
「え、これ本当に付き合ってない? とんでもない惚気話に付き合わされてない?」
「付き合ってない……。いやでも待って。添い寝は左腕消し飛んだ後にめっちゃ弱っていた時期の話だからね?」
「ならしょうがないかとはならないよ霊火」
霊火は首を縮めた。
取蔭はこめかみに指を当てながら目を閉じる。
「え、ちょっと聞いていい? 前の話だと、霊火って緑谷に告白はしてるんだよね?」
「まあ……うん……」
「え、どこまでやってるの?」
「……………………………………………………キスとか?」
「え? 待って?」
「キスで告白したというか……」
「待って待って待ってなんで今さら文化祭デートで悩んでるの順番おかしくない?」
「ごめんって。マジでごめん。怒らないで切奈。私もそう思うわ」
しかしこちらにも言い分はある。
可能な限り小さくなりながら、少女は小さな声で抗弁した。
「……いやだって全部私からなんだもん。あれも不意打ちだったし……これ絶対誰にも話さないでよ?」
「話さないけどちょっと待って。あ、エリちゃんの一件で緑谷が落ち込んでる時?」
「見ていられなくて……衝動的に……」
嫌がられていないか心配なぐらいだ。
取蔭は、恐る恐るといった具合で霊火を見ると囁き声でこう聞いた。
「……してないよね?」
「……? っ!?!? し~て~な~い……!!」
「良かっためっちゃ安心したビックリしたなんの相談されてんのかと思った」
安心した様子の取蔭だが、霊火は注意深く周りを見回す。誰かに盗み聞きされてたら嫌すぎる。
「あのね、良く聞いてね。緑谷と霊火は事実上付き合ってる状態だよ。普通に恋人だよそれ」
「……………………………………………………そういうことじゃなくって」
「つまりアレだね。霊火はちゃんと選ばれたいんだね? この関係に名前が欲しいわけだ」
流石は取蔭切奈。
キチンと要点を抑えてきた。
「うん……」
「…………………………一応聞くけど、緑谷が女の子に興味が無いとかは?」
「それはないと思う。女の子に話しかけられたら顔真っ赤だし、綺麗な人を目で追ってることとかもあるし」
「霊火は容姿でダメって言われることは絶対に無いよ。滅茶苦茶可愛いから」
「私って出久くんにも、見た目だけは手放しに褒められるんだよな……」
つまり性格に問題があるという事だ。なお悪い。
霊火は視線を逸らして紙コップを指で転がした。
取蔭は大きく伸びをして、少し迷いながらもこう続ける。
「霊火は猫だよね。高貴な家猫」
「ごめん何の話どこに飛んだ?」
「緑谷にとっての立ち位置の話。緑谷の霊火への対応、なんか大切にしている猫っぽいんだよな」
「猫? 私が?」
少女はきょとんと首を傾げた。
A組の委員長は指折り数えて列挙する。
「小さくて特別可愛い。気まぐれだけど懐いてくる。スキンシップもしてくる。寂しがり屋で身体的には弱い。だから緑谷も霊火を撫でるし、距離が近くても違和感がない。そして出来れば一緒にいたい」
「妹扱いから姪扱いに降格した時もショックだったのに、ついに動物になっちゃった……」
切実に妹扱いにまで戻してほしい。
異性に見られないどころでは無い。この際、姪っこでもいいから人間だと思って欲しい。
「でもさ、大切にしている猫だったら命がけで守ったりもするじゃん? 猫が傷ついたら怒る。猫が喜んでくれたらこっちも嬉しい。困っていたら必ず助けるし危ない事をしていたら止める」
「そう考えると猫って愛されてるね」
「ね? 告白のキスをされたらビックリするけど嬉しいかもね。でもさ、結局は猫なのよ。猫と恋人になろうとはならないでしょ? 緑谷にとっての霊火ってそんな感じなんじゃない?」
「……左脚の無い猫ってこと?」
「そこまでは考えてなかった。いやあくまで例え話ね。庇護欲よ庇護欲。でも緑谷は霊火の事を対等な存在だと尊重しているよ。猫というには有能すぎるしさ」
無性愛的な愛着とでも言うべきだろうか。
結局、霊火は女の子として見られていない。
異性と思われていない。
「…………………………そっか。そうだよね」
「ごめん言い過ぎたかもマジでごめんそんなに落ち込むとは思ってなくてさ。これって逆転の目はむしろ滅茶苦茶あるじゃんって話をしたいのよ。実は中々手に入らない凄い立ち位置でもあるの」
「いやまあ分かってたから大丈夫。ありがとね切奈」
「待って話を終わらせようとしないでお願い泣かないで霊火。いや身体狙いとかより1億倍嬉しいって!! 今はまだ脈が無くても最後は絶対霊火を選んでくれるよ緑谷は。間違いないから安心して」
「いつの話なのよそれ……」
「現実的には卒業後ぐらいじゃない?」
「吐きそうになってきた」
霊火は思い切り遠い目をした。
取蔭はこのことを知らないが、大変不本意なことに卒業後という条件では間に合わない。
その時には霊火は死んでいる。
見る間に萎れていく霊火。焦る委員長は早口でフォローを入れる。
「霊火に問題があるわけじゃないの」
「うん」
「あのオールマイトオタク、ミッナイ先生レベルの蠱惑的な女性にアプローチされてもヒーロー科にいるうちは彼女を作らなくね?」
「なんで止め刺したの?」
「助けて霊火の地雷がどこにあるか分からない!!!」
オロオロと周りを見回す取蔭切奈は、最後にこう口走った。
「え、『そっかー、今は猫でも気長に待つか』ってなるところでしょ!?」
待っている間に猫が死体になる。
緑谷出久自身が殺処分する可能性すら結構ある。
―――――――――
「おかえり~」
「あ、霊火さん……ただいま」
「今日もお疲れ様。またトレーニング?」
社交辞令として一応聞いてはみたが、寮に帰って来た緑谷は何をどう解釈してもトレーニング後だった。
ジャージは汗で色が変わり薄く汚れ、前髪はぐっしょりと額に貼り付いている。
肩は上下し呼吸は荒い。強烈な疲労が見た目からして滲み出ている。
彼は頷いた。
「うん。今日は……”個性”を使わずに……20キロを70分で走って……」
「普通に超速いんだよな」
「その後、”個性”を使って50キロ10分ダッシュを……6回連続……」
「新幹線かな?」
なまじトレーニングで出力を上げられてしまう増強系個性は、トレーニングが過酷になりがちだ。
全校集会で校長の話を聞いているだけで倒れた霊火としては、ちょっと同じ人類とは思えない。
「そのあと鉄骨を使って筋トレを―――」
「この文化祭準備期間中に良くやるね……」
緑谷出久は忙しい。
五時半に起床し、朝食を済ませると始業までトレーニング。午前の授業を受けたあと昼食。
午後はきつい授業が続き、夕食の後は再びトレーニング。風呂に入り、少しだけ勉強して二十四時過ぎに就寝。
これにたまに深夜のヒーロー活動が付随したりするのだ。マジで頭おかしい。
(……そりゃこんなに忙しいと、彼女とか作る余裕は無いよねえ)
これは緑谷に限った話ではなく雄英ヒーロー科全体に通じる話でもある。
根本的にカリキュラムとトレーニングに時間を取られ過ぎるため、恋愛に現を抜かしている場合じゃないのだ。
向上心ゼロでサボり魔の霊火は、例外中の例外だったりする。
「だとしても今日はいつにも増してハードだね」
「もっと頑張らなきゃなって」
「出久くんのヒーロー活動関連の書類は作っておいたけど」
「いつも本当にありがとうございます霊火さん」
「いや別にいいけどさあ……」
深々と頭を下げる緑谷に肩を竦める。
無気力サボり魔の霊火は緑谷に比べたら常に暇なので、彼の仕事を代行することも良くある。
勉強だって良く教えているし模擬戦にも付き合ってあげる。
……都合のいい女に見えるだろうな、とは思う。
クラスメイトにそう指摘されたことすらある。
相澤に注意されたことも引子さんに止められたことすらあるので、結構本気で不健全なのだろう。
彼らには本当に搾取構造に見えているらしい。緑谷自身も怒られたりしているらしいし。
因みに霊火の率直な意見としては、緑谷への手伝いは負担じゃない。
心情的にどうこうという話ではなく、そもそもそこまでリソースを割いていないのだ。
周りには良く『尽くしすぎ』やら『献身』とか評価されがちだが別にそうでもない。
具体的に言うと、彼の書類仕事の代行とかはいつも10分で終わらせている。
普通の人がやると5時間かかる作業ではあるため、やっている行為だけを見ると都合のいい女に見えるだろう。
しかし霊火にとっては、趣味の映画を見ながら行う手遊びに過ぎないのだ。
そして彼に勉強を教えるのは元から好きで、模擬戦は楽しい。
霊火は、自分が好きだから緑谷に協力しているのだ。
……なんか余計に都合のいい女みたいになってしまったが。
「だけどいつまでも霊火さんに頼りっぱなしは良くないね。すぐに自分でも出来るようにするよ」
「ああ、じゃあ後でマクロを作っとくよ。分かりやすいように、質問形式で自動的に書類が完成するようにしておくね」
「……また霊火さんに頼っちゃうね。お願いしてもいい?」
「大丈夫大丈夫、今使ってる奴を出久くんにも解読できるようにするだけだから」
ここで、『隣で一緒に書類作りの勉強しようね』とか言えたら、一緒の時間で良いのになと思う。
だけどそれよりもっと圧倒的に効率的な手段を、具体的に取れてしまうのだから救えない。
出来る女の宿命だ。
構ってほしいけど、彼の時間を奪うのはもっと嫌。
ヒーローとしての彼を応援する友人としての霊火が邪魔してくる。
(……根本的に『頑張ってる出久くんが好き』なんだよな、私)
惚れた弱みとはよく言ったものだ。
取蔭切奈には色々言ったが、結局こうやって彼の喜ぶ顔を見るだけで全て許せてしまうのだから。
緑谷は心配そうに霊火の顔を覗き込んだ。
「……霊火さん、大丈夫? ちょっと元気が無さそうというか、悩み事?」
「……………にゃ~ん」
「何故この質問でネコの鳴き真似を……!?!?」
ずっと聞き耳を立てていた切奈が能面みたいな無表情で緑谷を見た。
どうやら"危機感知"に引っ掛かったらしく、緑谷は物凄い勢いで振り向いた。
素知らぬ顔でそっぽを向く取蔭に対して、霊火は軽いアイコンタクト。
気にしなくていいんだよの意味を込めてパチパチと両目を瞬かせると、彼女は手に持ったペンを折れそうなぐらい握り込んだ。
「全体的になんだったんだ今の……」
「出久くんも疲れてるんじゃない? トレーニング帰りなんだからそろそろお風呂入りなよ」
「あ、その前に霊火さん。明日の夜って空いてる?」
「え? 何? 空いてるよ?」
取蔭がぐりんとこちらを見た。
赤い瞳の少女は両目を大きく見開くと、次の言葉を待つ。
彼は言った。
「じゃあ一緒に外に出ようよ。見たいものがあって……」
「夜遊び?」
「放課後の寄り道ぐらいにしといて……」
そう言って彼が取り出したスマホ。
液晶に映るのは大手の映画館予約サイトだった。
霊火は首を傾げる。
「ん? 気になるヒーロードキュメンタリーでもやってるの?」
「ううん。この前、霊火さんがちょろっと話してた昔のミュージカル映画なんだけどさ、それのリバイバル上映をやってるんだって。文化祭の参考にもなるし、僕と二人で一緒に行かない?」
「いいよ。絶対行く。めっちゃ行きたい。でも出久くんは時間あるの?」
「霊火さんが書類片付けてくれたり、トレーニング手伝ってくれたりで空けてくれた時間の方が千倍ぐらいあるよ」
「ふうん、じゃあ行っちゃおうかなあ……」
霊火は一瞬で元気になった。
褒めれば身を寄せ甘え癖、歩けばトコトコついていく。
いつかはあなたの敵になる、赤い瞳の小さな子猫。
「じゃあ決まりだね。いつもありがとうね霊火さん。楽しみにしてるね」
「にゃーん」
「ごめんさっきからそれどういう感情なの?」
仲のいい女の子が高速で一生話してるやつ好き
感想や評価ありがとうございます。いつもとても大きな励みになっております。