殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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014:戦闘訓練①

 かつて街の中心として賑わいを見せていたであろう寂れた商店街の、更にその裏路地。

 深夜、人気の絶えたその場所に二つの人影があった。

 

 錆びついたシャッターには落書きが残り、割れた窓ガラスにはベニヤ板が打ち付けられている。

 そんな商店街の一角で、空気が凝固したように重くなった。

 

 二つの人影の片割れ、白のパーカーにチェックのスカートの少女が中空に手をかざすと、その目の前で赤黒い炎が突如燃え上がり、消える。

 

「…………………………ぅわあ」

 

 少女は手をかざしたまま目を閉じて、困ったように小さな声を上げた。

 霊火の脳内に殺人現場の映像、被害者の断末魔、殺人者の思考、あらゆる情報が直接流れ込んでくる。

 

 そして霊火はこう結論付けた。

 

「無理だよ黒霧。これはダメだと思う。多分黒霧でも交渉にならない」

 

 ジジッと音を立てて切れかけの街灯が不規則に明滅を繰り返し、古びたコンクリートの壁に歪な影を作り出す。

 大小様々なゴミ箱が建物の陰に並び、周囲には生ごみの匂いがうっすらと漂っている。

 

 人影のもう片方、黒い靄が人の形をとったような異形の男はそれを聞いて首を傾げた。

 

「……話が通じないタイプということでしょうか」

 

「話を聞かないの方が正確かな。いやあ凄いな人間、自前の思想一つだけでもここまで壊れるものなんだ」

 

 現在、プロヒーローを次々と殺害する連続殺人犯が出現している。ここはその最初の殺人現場だ。

 今夜、霊火は黒霧に協力してもらってその犯行現場を巡るつもりだった。

 

 この『ステイン』という殺人鬼は、「真のヒーローは無私で無欲云々」という思想を掲げ、それに反すると判断したヒーローたちを次々と殺害している。

 そんな狂気の敵だということぐらいは事前情報として霊火は聞いていた。

 

 しかし実際に現場の鬼火を回収してみると、その正体は霊火の想像を超えていた。

 

「純然たる使命感で人を殺し続けるって一番手が付けられない奴じゃん。利用しようと近づいても大怪我して終わるのがオチな気がするけど……」

 

「分かりました。私たちも直接の接触は出来るだけ避けましょう」

 

 霊火はこれまで数多くの殺人犯を見てきたが、それでもこの『ステイン』はかなり珍しい部類の(ヴィラン)だった。

 

 こういう「正義と使命が常に自分にあると思い込める」タイプは、どちらかというとヒーロー側の特質で(ヴィラン)が持つことは比較的少ない。

 そして大体の場合、こういうのが一番凶悪なのだ。本当にロクな奴がいない。

 

「まあでも黒霧もしばらくこの男は放っておいてよ。狂った思想激強敵がスーパーエリート様のプロヒーローを殺す事件の鬼火なんて何個でも欲しいぐらい刺激的だし。 私としてはこの連続殺人(フィーバータイム)が終わってほしくない」

 

「結局、貴女も相当に悪趣味ですね」

 

「流石に露悪的すぎたかな。 私も変にヒーロー科に入っちゃったから無意識にバランス取ろうとしてるのかもしれない」

 

「ああそういえば雄英高校はいかがでしたか? 学生生活は楽しめましたか?」

 

「つまらないってことは無いけど……。みんな善良で、コミュ力高くて、自分に自信がある子ばっかり。思ったより普通に息苦しいかも」

 

 霊火としてはいい子たちに囲まれるのも決して嫌いではないのだが、それでも相当に抑圧されるものがある。結局のところ殻木霊火は(ヴィラン)でしかないのだ。

 お金が落ちていたら警察に届けよう、迷子の子供がいたら助けて当たり前、電車でお腹の大きい女の人がいたら席を譲ろう、そういった『いい人』であることを前提とした雄英のコミュニケーションは、異物である霊火にはただただ負担だ。

 一対一ならば大丈夫なのだが、集団でそれを示されると霊火としては自分の全てを否定され続けているような気分になる。これは人間が社会的動物である以上抗えない本能だった。

 

「まあでもありがとね黒霧。急な連絡なのに付き合ってくれて」

 

 こうやって平日の夜に無理言って黒霧に夜の散歩を申し込んだのも、やはり学校生活でストレスを感じていたからだ。あの学校は清く正しくを地で行き過ぎていて少し適応しづらい。

 こういう時は自分の素性を知っている人と楽しいことをするに限る。

 実際、今の霊火は晴れ晴れとしたいい気分だった。

 

 黒霧は霊火の感謝の言葉を受けて、しばらく沈黙した。再度ジジッと、街灯の光が揺らめく。

 霊火は何だろうと首を傾げながら、次の言葉を待っていた。

 

「そういえば」と、ようやく黒霧が口を開く。

 

 そしてたっぷりとタメを作って、この男は言った。

 

「学校生活で、気になる人はいませんでしたか?」

 

「…………………………………………………んん⁇⁇」

 

 何の話だ?

 

 予想外な問いに、今度は霊火が沈黙する。

 意味深な問いだった。雄英高校で、気になる人?

 

 急いで黒霧と雄英高校の関連性を頭の中で検索する。そして霊火の脳内で不意に一つの可能性が浮かび上がった。

 

(あ、もしかして相澤消太の事?)

 

 黒霧の素体、白雲朧はかつて相澤消太の親友だ。しかも共に雄英高校に通った学友というかなり親しい関係性である。

 それが今は雄英高校で教師をしているとなると、確かに黒霧が気にするとしたらあの人だろう。

 

 そしてすこし遅れて霊火は少し怖いことが起きていることに気が付く。

 

(え、もしかして黒霧、生前の事を思い出してる?)

 

 脳無は、生前を思い出すことはない。

 これは別に脳無の作成者サイドが記憶を封印しているからとかではなく、単純に元になった死体の脳が壊れているからだ。

 

 人間の脳はCDやDVDのように、それ単体で記録を保持することはできない。

 電源を切っても記録が残る電子媒体と違い、脳は電源が切れれば――つまり血流が止まれば、記憶を維持できない。

 心筋梗塞や溺水で深刻な脳障害が起きることから分かる通り、脳は根本的に虚血に弱い臓器なのだ。

 

 そして霊火たちのような脳無は、ドクターの「血流が停止して何時間も経過した脳の回路を繋ぎ直し身体や”個性”を動かす機能を復元する」謎の技術で動いているのだが、それでも生前の記憶までは流石に復元できない。事実、霊火も生前の事は全く思い出せない。

 というより仮にそんな技術があったらあのマッドサイエンティストは死者蘇生にまで手が届いてしまう。

 脳無の性格にどことなく元となった人物の残滓が残ることはあっても、記憶や人格の完全な復元はドクターや霊火ですら手が届いていない本物の神秘の領域なのだ。

 

 全くの余談だが、霊火自身も『小さな世界』の高速”個性”配合で相当な工数をかけて本当の意味での『死者蘇生』の実現を目指してきたが、結局実現しなかった。

 それどころか『生死』は時間に優先するような挙動を見せることすらあったのだ。霊火の推察が正しければ、『時間遡行』のような”個性”が実現しても何らかの理由で死者は戻ってこないはずである。

 ”個性”の登場で世界の常識は次々と覆されてきたが、死者は決して復活しないというルールだけは未だに絶対なのだ。

 

 つまりは黒霧が相澤消太を思い出すことは絶対にないはずだ。

 

 (…………………………記憶が”個性”因子の方に残ったか? ちょっと面倒かも)

 

 霊火たちのような存在はあまり深く自己分析に踏み込んではならない。

 結局、霊火や黒霧は既に死んでいる。その始点を辿ると最初には死があり、それ故に禁忌の領域が存在する。

 

 基本的に普通の範疇の女の子だった殻木霊火が自身の死亡現場に行った日に色々と壊れたことから分かる通り、生物というのは根本的に死を乗り越えることを全く想定されていない。自分が死んでいるという事実は、普通に一発で精神を崩壊させるほど強烈な衝撃なのだ。

 つまり黒霧が相澤消太や山田ひざしの事をうっかり思い出したら最後、彼は確実に壊れる。

 

 それで自己崩壊してくれるならまだいいのだが、黒霧は元がヒーロー志望だ。そのためうっかりヒーローサイドに寝返ってしまう可能性も想定しなければならない。

 そして『ワープゲート』は極めて強力な異能だ。この”個性”がヒーローサイドに渡ったら、霊火たちは確実に破滅する。

 

 単に気軽な夜の散歩のつもりだったのに意外なリスクに直面した霊火は高速で思考する。

 冷や汗を流す少女を見て黒霧は、小さく笑ってこう言った。

 

「いえ、もしかして好きな男の子でも出来たのかと。 すこし印象が変わったように見えたので」

 

「ごめん待って私ってそんなに分かりやすい?」

 

 白雲朧、死んでもなお愉快な性格らしい。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 霊火がひそかに楽しみにしていたオールマイトの初授業は、戦闘訓練とのことだった。

 

 クラスメイトたちは既に入学試験で使用した市街地を模した演習場に集まっていた。

 全員が思い思いの戦闘服に身を包み、期待と不安が入り混じった表情を浮かべている。

 

 霊火のヒーローコスチュームは、蛍光色の緑のラインが幾何学的に走る黒いローブだった。

 フードに猫耳を付けて背中にはくるんと巻かれた尻尾。猫足を模したブーツに猫の手を模したグローブといった小物で固め、ふわりとしたスカート部と肩掛けケープでシルエットを作り出す。

 全体的に小動物っぽい雰囲気でコスチューム届を提出していたが、霊火としては中々満足な仕上がりだった。

 

 そして何より特徴的なのは、彼女が手にするサポートアイテムだった。長めの柄の片刃の斧で、刃先は意図的につぶされている。故に機能としてはむしろ棍棒の方が近いか。

 刃がついている部分の根元には古めかしいカンテラが括り付けられていた。

 

 「わ、霊火さん、すごく似合ってるよ!」

 

 緑谷が霊火の方に近づいてきた。意外と真っすぐな褒め言葉に霊火は少し頬が熱くなったが、気合で冷静さを取り戻す。

 平然としたなんてことない表情を作り上げて

 

「出久くんも似合ってるよ。お母さんが作ったんでしょ?」

 

 霊火は緑谷のコスチュームを観察する。緑のジャンプスーツは明らかな手作り感が漂い、頭部にはオールマイトへのリスペクトを込めた二本の角が生えている。

 全体的に超スマートな見た目とは言い難かったが、緑谷らしい誠実さが感じられるデザインだった。

 

 周囲を見渡すと、クラスメイトたちは皆、思い思いのコスチュームに満足げな様子で身を包んでいた。

 きょろきょろしている霊火に気が付いたのか、麗日お茶子が霊火たちに近づく。

 

「あ、デクくん?かっこいいね!地に足ついた感じで!」

 

「麗日さ……うおお!!」

 

 緑谷は麗日を相手に顔を真っ赤にしてテンパった。

 確かに麗日のコスチュームは宇宙服をモチーフにしたデザインながら全体的にパツパツとしたシルエットで、かわいいが少しセクシーだ。

 

「あ、霊火ちゃん! わあかわいいねえ!」

 

「お茶子ちゃんもすごくかわいいよ」

 

「えへへ…でも要望をもうちょっとちゃんと書けばよかったかな…ちょっと恥ずかしいかも…」

 

 照れくさそうにコメントする麗日にやっぱり恥ずかしかったんだと内心思いながら曖昧に微笑み返す。

 そんな和やかな雰囲気の中、オールマイトが颯爽と現れる。

 

 「よーし、みんな!なかなかカッコイイじゃないか!」

 

 オールマイトは満面の笑みを浮かべながら、親指を立てて生徒たちを褒める。

 

 続いて、オールマイトは手元のカンペに目を落としながら、訓練内容について説明を始めた。

 

「今日の戦闘訓練は屋内で行う!真にさかしい敵は屋内に潜むものだからな!」

 

 開幕から滅茶苦茶身に覚えのある話だった。

 オールマイトは更に詳しく訓練の内容を説明していく。

 

「訓練は2対2の対人戦!組み合わせはくじ引きで決める!」

 

そして、具体的なルールの説明に入った。

 

・敵チームがアジトを構え、その中に核兵器を隠している

・ヒーローチームはその情報を入手し、核兵器の確保に向かう

・各チーム2名ずつで構成され、制限時間は15分

 

勝利条件は両チームで異なっていた

 

【ヒーローチーム勝利条件】

・敵チームの両名を確保する

・核兵器に触れて確保する

・制限時間内に上記のいずれかを達成すること

 

【敵チーム勝利条件】

・ヒーローチームの両名を確保する

・制限時間が経過するまで核兵器を守り切る

・上記のいずれかを達成すること

 

また、補足ルールとして:

・専用のテープを巻き付ければ捕獲したことになること

・過度な破壊行為は減点対象

 

 オールマイトはカンペを確認しながら、一つ一つ丁寧に説明していった。

 霊火は若干ほほえましくなりながらもルールを覚える。そして思った。

 

「これ、ヒーロー側がガン不利だね」

 

「そうだね……」緑谷は真剣な表情で考え込みながら続ける。「ヒーローたちは核兵器の位置を知らされてないわけだし、制限時間15分っていうのも結構シビアだよね。建物の中を探しながら、なおかつ敵と戦って、その上で核兵器を確保するなんて……」

 

 ブツブツと独り言を言い始めた緑谷を放置して、霊火はくじを引きに行った。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 訓練用の5階建ての建物の前。

 霊火は最初のグループに選ばれ、ヒーロー側の担当だ。相方は件の麗日お茶子。

 彼女は明るく霊火に話しかけてくる。

 

「よろしくね、霊火ちゃん!!」

 

 麗日の元気な声に、霊火は小さく頷いた。二人の手には建物の見取り図が握られている。

 霊火は既に頭の中に間取りを記憶し終えていた。シンプルな四角い建物で、各階に大小の部屋が配置されている。

 

 上階を見上げると、建物の最上階からは風に揺られるカーテンが見える。今は敵役のチームが核兵器を設置する準備時間だ。

 霊火は作戦を練るため、まず相方の能力を確認しておく必要があった。

 

「お茶子ちゃん、あなたの”個性”って確か『無重力』だよね?」

 

「うん、私のこの肉球で触れると重力を消せるの。 上限は3トンぐらいでそれを超えると吐き気が……」

 

 麗日はとっても真面目な顔で指先の肉球を霊火に見せつけてきた。とてもかわいい。

 霊火はたっぷりその意味を考えて、こう結論付けた。

 

「…………………………死ぬほど強くない?」

 

「え!?!? いやいやいやいやそんなことないよ!! ただ触った物を軽くするだけの能力で派手さなんか……」

 

 つまり彼女は一度触るだけで相手を上空に打ち上げて、能力を解除するだけで落下死させられるということだ。

 霊火に褒められてあわあわしている麗日を見て霊火は首を振った。流石雄英、とんでもない”個性”が当たり前のように出てくる。

 

「それで霊火ちゃんはどういう”個性”か教えてくれない?」

 

「うーん、私はねえ……」

 

 霊火は、肩に乗せて支えていた長さ80cm程の長柄の斧を中ほどを軽く持ち直した。そのまま斧身に括り付けられたカンテラを前に向ける。

 その瞬間、古びたカンテラの中で青い炎がボウッという音を立てて灯る。

 『死因』の鬼火だ。

 

「わぁっ!」麗日は目を見開いて息を呑んだ

 

「私の”個性”『呪い火』は鬼火を作り出して操作。鬼火が当たった相手に様々な現象を引き起こすことができる。一日に五個ストックされるチャージ型」

 

 霊火は手早く説明する。

 そして話が終わるか終わらないかのうちに、カンテラの中の青い炎が突如として強烈に輝き上がった。

 青白い炎は激しく揺らめきながらその光を増していく。明るくするのはパフォーマンスみたいなものだが、せっかくの初陣、派手にやってもいいだろう。

 

 そして試験開始の合図とともに、霊火は斧を後方に振ってカンテラ内の不気味に輝く鬼火を外部に開放する。振られるカンテラに置いていかれたかのように中空に漂うそれは、今となっては隠しきれないほどの不吉な輝きを見せていた。

 

 左手の指を重ね合わせ、構えた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 『殻木少女!!!! ストップだ!!! 殺す気か!?!?』

 

 オールマイトの声がスピーカーに増幅され、建物全体に轟き渡った。

 

 ビルの3階、長い廊下に身を潜めていた回原旋と角取ポニーは、突然の大音量に思わず体を強張らせる。

 彼らが待ち伏せしていたのは、上階に行くために絶対に通らなければならない要所だ。幅の広い廊下は両サイドに部屋が並び、天井には蛍光灯が規則正しく配置されている。

 

 二人は、ぞっとしたように顔を見合わせた。

 

「今のはなんだったんデスか……!?」

 

「知らんがヤべえ!! 殻木って奴何しでかそうとしたんだ!?」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 

 オールマイトの静止で、霊火はしぶしぶと構えを解いた。

 青白い炎は不満げにゆらめきながら、ゆっくりと小さくなっていく。

 

 隣では麗日が呆然とした表情で霊火を見つめている。霊火は間の悪そうな微笑みを浮かべる。

 

「霊火ちゃん、なんしようとしとったん……?」

 麗日が恐る恐る尋ねてくる。

 

 実は霊火の計画は単純で、ビル全体を一気に『感電』させて内部にいる対戦相手を沈黙させようとしていたのだ。

 

 鬼火は、対人だと効きが悪いが一枚何かを噛ませることで威力を確保できるようになる。例えば着ている服を燃やしてみたり飛ぶ飛行機を落としてみたりといった使い方だ。

 とはいえオールマイトに怒られてしまったならば仕方がない。

 

 霊火は、諦めたようにこう言った。

 

「しょうがない。地道に行こうかお茶子ちゃん」

 

「う……うん!! 頑張ろう!! ごめん何しようとしてたのかだけ教えて!?!?」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 階段を二人で駆け上がる足音が響く。三階の長い廊下に出た瞬間、霊火と麗日は敵チームを視認した。

 

 長い廊下の反対側には回原旋と角取ポニーが待ち構えている。

 回原が前面に立ち、角取が後方から援護する基本に忠実な配置だ。霊火と麗日は一瞬アイコンタクトをとると、すぐさま廊下を走りだす。

 

 霊火の記憶が正しければ、回原の”個性”は全身を回転させる近距離戦闘型。角取は角を遠隔操作して戦う遠距離型だ。

 相手の陣形は理に適っている。故に麗日と霊火は迷うことなく突進した。靴底が廊下を強く蹴る音が響く。

 

「イキマス!」角取の声が向こうから響き、ビュンッ!という鋭い音とともに二本の尖った角が廊下を高速で飛来する。

 角の先端は見るからに鋭利で、強い殺傷能力を感じさせる。それが空気を切り裂く音が高速で接近する。

 

 パチン!と指を鳴らす音とともに、霊火の目の前に赤い炎が二つ放たれた。

 鬼火は、一瞬停滞し、すぐさま超強力な磁石がくっつく時のような挙動で飛来する角に吸い付く。

 着弾。ゴォッ!という音とともに角が発火し、一瞬で焼却されてパラパラと塵となって消え去った。熱気が霊火の頬を撫でる。

 

「No way! 」

 

 刹那の間に角を破壊された角取が驚愕の声を上げる。

 

 その隙を突くように回原が接近戦を仕掛けてきた。ギュイーンッ!と、モーターが回転するような音をだしながら指先から手首まで高速回転させての突進。

 床を蹴る足音が響く。霊火は更に一つの黄色の鬼火を放出。カンテラは青く明滅する。

 

 バチン!! と音が鳴った。

 

 飛んできた鬼火に対して回原は、反射的に両腕でガードの態勢を取る。

 しかしそれは無意味な行動だ。鬼火は実弾と違って当たってしまえばその効果を十全に発動するのだ。

 今回使った鬼火は『転落死』だ。

 階段を踏み外して転がり落ちて死亡という、どこにでもある事故。

 

「……は?」

 

 鬼火が直撃したにも関わらず、予想していたであろう痛みや衝撃が何も発生しなかった回原は虚を突かれたような顔をする。

 しかし次の瞬間、回原は何もないところでまるで段差でもあるかのようにバランスを崩した。

 回原が横向きに体勢を崩したその一瞬の隙に霊火は斧を構えて接近。振り上げられた斧に括り付けられたカンテラが揺れる。

 彼は不安定な姿勢ながらも横向きに薙ぎ払われる斧を防ごうと両腕をクロスさせる。しかし霊火は斧を振りかざすだけ振りかざして、攻撃に移ることなく回原の隣を走り抜けた。

 

 霊火には初めから近距離戦を挑む気などなかった。

 回原が狙いを外され混乱した瞬間、霊火の後ろにピタリと後ろについていた麗日が回原に触れ、彼を無重力状態に陥れる。

 「えいっ!」という麗日の掛け声が響き、回原は霊火達が走っている方向とは逆向きに投げられていった。

 

 霊火は勢いそのままにカンテラのついた斧をくるりと持ち直しながら後衛の角取へ接近。まだ次の角のリチャージが終わっていない角取は、「OH MY GOD...」と絶望的な声を漏らす。

 次の瞬間、ドガッ!という鈍い音とともに霊火の斧の石突の部分が角取の腹部に突き刺さり、ドサッ、と角取が崩れ落ちる。

 

 霊火と麗日はそのまま五階まで一気に駆け上がると、そこには確かに核と設定された巨大なロケット型のオブジェクトが鎮座していた。

 霊火が躊躇なくそれに触れる。その瞬間、スピーカーから『ヒーローサイド、WIN!!!!』とアナウンスがされた。

 

「完璧」

 

「やった!!!! ナイス霊火ちゃん!!!!」

 

 麗日は霊火に抱き着いてきた。

 




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