▶取蔭切奈 【A:優先確保対象】
”個性”『トカゲのしっぽ切り』。
全身を細かく分割し自在に動かす。
宙に浮かぶことも可能。目の部分ならば視覚、口の部分ならば発声が出来ると応用力が高い。情報収集に優れた”個性”。
失ったパーツの再生が可能。砂藤力道に破壊された左手のパーツは本体ですぐさま再生していた。鎌切尖との戦闘を見る限り斬撃への耐性もある様子。
怪我した部分を切り離して再生等も出来るようだ。単純に自己修復系”個性”としてもかなり性能が高い。
体のパーツを無尽蔵に生産できるという性質ならばパーツ取りなどに非常に有用。
脳の方の自己領域を弄って腕や足の本数を忘れさせることで、自己変容系の”個性”に進化できる可能性もある。
確保対象。
メモ:どちらかというとドクターが欲しがりそうな”個性”だ。脳無に搭載出来たらそれは強かろう。
▶常闇踏陰 【B:確保推奨対象】
”個性”『黒影』。
影のモンスターを身に宿し、自在に操作することができる。
長い射程と素早い動き、そこそこの破壊力と全てにおいて高水準。
所有者以外の意思を持つ実体を宿すタイプの”個性”として非常に強力。
戦闘訓練では芦戸の強酸を振り払い、緑谷の死角からの強襲も防いでみせた。しかし緑谷出久の素早いインファイトに崩れたあたりは中遠距離特化型か。
戦闘訓練を見る限り主人格のいう事を聞かないということもなく、関係は良好。単純に性能が高い。
メモ:この手の”個性”は事故が起こりやすいので注意。
▶口田甲司 【S:最優先確保対象】
”個性”『生き物ボイス』。
動物と意思疎通し、操る”個性”。
本当に動物に言語を理解させて操っているのかは不明。テレパシーに近い能力のように見える。
戦闘訓練では核兵器を守る上鳴電気と尾白猿夫を相手に鳩の群れを操り、位置情報や作戦を偵察させていた。
操れる動物の数に上限があるかは不明。動物を操る能力というより群れを操る能力に見える。
鳩側からの意思疎通も出来る模様。鳩がそういう事を伝えられる言語能力を持っているようには思えないがそこは考えても無駄か。
応用の幅が広い。毒蛇などを操れば限りなく自然死に近い暗殺を行える。毒性の少ない動物を使った体調不良なども誘発できる器用さも評価点。
感染症を武器にしたコウモリ等のキリングベクターの使用や、鳥類を利用した手紙や薬物やメモリの運搬等も可能だろう。
仮に蚊やダニなどの節足動物を扱えるようならば、更に応用力は広がる。総じて極めて優秀な”個性”。
具体的には、死体処理や証拠隠滅などの為に使う食人嗜好に組み替えたネズミの大群の制御のための特殊なフェロモン剤などの代替としての活用法などが考えられる。
また、分解者としての運用だけでなく直接的に相手にけしかける戦力のイグニッションとしての使用法などの発展可能性もあり利用価値は非常に高い。
最優先確保対象としてマーク。親戚の“個性”についても要調査。
メモ:動物は清い心の持ち主しか従わないとかいうとんでもない落とし穴がないといいのだけど……。
▶轟焦凍 【A:優先確保対象】
”個性”『半冷半燃』。
温度操作系。右で凍らせ左で燃やす。
出力が極めて高い。精密性も十分。将来的にはオールマイト級すらありえる非常に強力な”個性”。
戦闘訓練ではビル全体を凍結させ、円場硬成と小森希乃子を完封する。
文句なしで第五世代最強の”個性”。
実父のエンデヴァーや兄の荼毘周りには細心の注意を払う必要がある。
しかしリスク込みでも是非とも手元に置いておきたい。
確保対象。
メモ:エンデヴァーから一代でこの強度の”個性”が出現するとはどうしても考えづらい。要調査。
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小学校の教員が忙しいとは学生時代から知っていたけれど、まさかここまでとは思っていなかった。
授業の準備、テストの採点、プリントの準備、宿題のチェック、面談の調整、”個性”カウンセリングの報告に目を通し、運動会の準備を進め、遠足の予定を取り、下見をし、その他個別の対応も多くある。正直言って生徒相手の授業なんて、書類仕事に比べればオマケみたいなものだった。
そもそも一から五時間目までたっぷり授業を行った後からこの業務量があるのが根本的におかしい。定時の五時で仕事が終わるわけがないだろう。
その割に教師なんて残業代も出ないのだからもうどうしようもない。やりがい搾取もいい所である。
そういうわけで、新任小学生教員の轟冬美の帰宅時間は毎日夜十時である。
足音が静かに路地に響く。季節は春。すっかり暗くなった道を一人歩く。
轟冬美は今日一日のことを思い返していた。
職場に文句はあっても、それでも生徒たちを過ごす時間は特別だ。冬美は心地よい疲労感と共にあった。
その時だった。
ゴポ、と。
自分の喉から水音が鳴った。
轟冬美は一瞬、自分がゲップでも出したのかと思った。
しかし違和感はすぐに恐怖へと切り替わる。自分の口元から、明らかに唾液や胃液ではない真っ黒な液体が垂れていることに気が付いたからだ。
「っ……!?」
声を出そうとした瞬間、喉から黒い液体が溢れ出した。
悪臭のする粘度の高い液体に喉を塞がれ呼吸が出来なくなった冬美は、反射的に喉に指を突っ込み必死に液体を掻き出そうとする。
しかし指先は黒い液体の中をむなしく泳ぐだけで、何も掴めない。それどころか液体は更に勢いを増して溢れ出してくる。
呼吸ができない。酸素を求めて喘ごうとするが、吸い込むのは黒い液体ばかりだ。
パニックに陥り必死に手を伸ばし、何かにすがろうとするも、冬美は既に全身が漆黒の液体に包まれていた。
最後に見えたのは、黒い液体の中で揺らめく自分の指先。それすらも、やがて深い闇の中に溶けていく。
そして……
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ばしゃん、という水音が静寂を破った。
部屋の中央で、黒い液体の塊が床に広がる。その中から轟冬美が姿を現した。
彼女は床に四つん這いになり、激しく咳き込みながら酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。黒い液体が床に飛び散り、気化したかのように消えていく。
不自然な事に冬美の洋服には染み一つついていなかった。
薄暗い室内は、厚手のカーテンで外界から完全に遮断されている。
どこにでもありそうなワンルームマンションの間取りだが、家具が一切ない。むき出しの壁と床だけが、冬美の咳込む声を冷たく反響させていた。
「動かないでね。殺すしかなくなるから」
少女の冷たい声が響く。
冬美の前には室内にも拘わらず大きな黒いレインコートを着用した一人の少女が立っていた。
ぱっつん黒髪ロングに赤みがある目の、恐ろしく綺麗な女の子だ。冬美は教師として反射的に、目の前の女の子を中学一年生程度だろうと判断する。
少女は無表情で、大型の拳銃を冬美に向けている。銃口は僅かにも揺れることなく、ビタリと胴体に向けられていた。
冬美は恐怖と混乱の入り混じった目で霊火を見上げる。
状況を理解できない。まるで悪夢のような光景に、彼女の思考は完全に停止していた。
少女の傍らには異形の存在があった。
青緑色の肌の小さな怪物。上半身だけの体は複数のケーブルで何かに繋がれ、腕が生えている部分には靴を履かされていた。
頭部には透明なガラス製のヘルメットが装着され、剥き出しになった脳の各所には無数のコードが刺し込まれている。
少女が片手間にそれのヘルメットに取り付けられたダイアルを回すと、それはびくりと動いた。
周囲を見回して状況を理解した冬美は、勇気を振り絞って震える声でこう話し始めた。
「な……何? あなた何してるの? 今ならいたずらで許してあげるから何か相談があるなら……」
「意外と危機感が足りないね轟冬美。 死にたくないなら今から行う質問にすぐ答えて」
冷淡で、平坦。まるで合成音声のような無感情さで少女は告げる。出来すぎた造形も相まって、冬美はまるで感情のない機械と話しているような印象を受けた。
銃口がすい、と頭に照準され、恐怖で喉が干上がる。
少女はうーんと声を漏らして、こう続けた。
「轟燈矢について、貴女の知っていることを教えてね」
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深夜、霊火のアジト『工場』にてこういう会話があった。
『轟冬美はどうでしたか? 何か新たな弱みでも掴めましたか?』
「なんにも。 荼毘以前に轟燈矢が生きていたことすら知らなかったからもう完全に無駄足というか……」
殻木霊火はこれまで自分の研究に一般人を巻き込むことを極力避けてきたが、それは決して絶対のルールというわけではない。
これはあくまで自分ルール。
自分が好奇心に溺れたマッドサイエンティストでも力に溺れた悪人でもなく、研究者であると自己設定するための縛りに過ぎない。
つまりこういう例外がある。
「結構な下準備と無視できないリスクがあるにしてもやっぱり便利だね『混濁』。 こんな無茶が出来るなんてちょっと前は考えられなかった」
『誘拐した人間を脅迫しガッツリ脅迫して情報を聞き出して、欲しい情報を得られたらしれっと帰すなんてもう立派な
「私は自分を
”個性”『混濁』。
相手の頭に触れることで相手の前後五分間の記憶をおぼろげにする異能。
この”個性”を手に入れたことで、霊火の取れる選択肢は格段に広がった。
つまり霊火が取った手段はこうだ。
① ターゲットの轟冬美の情報を調べて日頃の通勤ルートや癖を分析。ターゲットが一人になる時間と場所を探り、近隣に密室を確保。
② ドクターから譲ってもらった『転送』持ちの脳無で直接部屋内に誘拐。
③ 五分以内に可能な限りの情報をありとあらゆる手段で聞き出し、最後には『混濁』で証拠隠滅。何食わぬ顔で元の場所に帰す。
「でも轟冬美さんは本当に何にも覚えてないからね。悲しむ人も傷つけられた人もいないからルール違反にはならない」
『『混濁』、どれほど強烈なことがあってもちゃんと忘れますからね。でもそれで一般人を巻き込まないからノーカウントって主張するのもどうかと思うんですが……』
自分の組んだAIに痛い所を突かれた霊火は『転送』持ちの脳無を撫でながら少し困った顔をした。
言葉に詰まったご主人に対して、機械仕掛けの鳥はこう畳みかける。
『それにしてもやり方が意地悪いですよね~。 轟燈矢が生き残って今は
「轟冬美みたいな善良な人間は被害者であるうちは威勢がいいけど加害者になってしまうと本当に脆いからね。短い時間で強烈な情報をいくつも提示して冷静な判断を奪った上で、感情的な涙で心を揺さぶったらもう楽勝だよ。 訓練を受けていない一般人じゃ絶対対抗できない」
嘘は、真実の中に混ぜ込むことで信憑性が増す。
『燈矢は生き残って荼毘として連続殺人犯になった』という非常に強烈な真実は、その後の『復讐に燃える遺族の少女が自分を殺しに来た』という極めて不自然で出来すぎた嘘すらも覆い隠してしまうのだ。
そして殻木霊火は、殺人犯の抵抗意思を完全に削いで奴隷化することが生業の『検死官』である。
人の恐怖と罪悪感を際限なく煽って、相手の意思で自分が望む行動をさせることに関しては専門職だ。
結局、轟冬美も最後には泣く霊火に寄り添って謝罪し慰める有様だった。
そしてその過程で手に入れた情報もいくつか。
「轟家の家庭内問題についてはそこそこちゃんと分かったね。 私エンデヴァーと気が合うかもしれない」
『もしかして”個性”配合仲間ってだけで親近感が湧いてきてます? 絶対そんなことはないと思いますよ?』
轟家、思った以上に闇が深い家族だった。
ただ、轟燈矢周りの話については、霊火にとっても思うところがある。
やはり発達しすぎた”個性”は、人には毒だ。このような事故はそのうち世界中で発生するだろう。
「…………………………私ね、こういう不幸な事故を、なくしたいと思ってるの」
『なんかいい感じのこと言って自己陶酔しているところ悪いんですが、ついでとばかりに轟冬美の血液を回収しているのは倫理的にどうなんですか?』
「しょ、しょうがないでしょ欲しかったんだから!?!? 親の教育が悪いの!! そもそも『摂生』の影響下でここまで倫理感をセーブできている私を褒めてほしい所なんだけど!?!?」
『あの老人の倫理観がマイナス100だとして、貴女の倫理観は精々マイナス50なんですよ。人情派みたいな顔をされても普通に極悪非道過ぎて、一般人からは全く見分けがつかないのではないですか?』
多くの感想や評価ありがとうございます。
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