「私たちが見つかるまで10分もかからないと思うけど、出久くんはどう思う?」霊火は電光掲示板から目を離さずに尋ねた。
「僕もそう思うよ霊火さん。相手は15人もいて、その中には口田君や取蔭さんみたいな索敵に強い"個性"もいる。多分見つかった後の鬼ごっこの方が重要だ。でも向こうには角取さんや轟君みたいに機動力や拘束力に優れた"個性"もいてその上で20分逃げ切るとなると……」
「ポニーちゃんの方は私がどうにか出来るけど轟君の方はちょっと無理……」
昼下がりのヒーロー基礎学。今回の授業は『逃げる
くじで選ばれた5人が残りの15人から隠れ、逃げる。制限時間は20分で、
今回の演習場は一日十万人以上が利用する大型駅を模した巨大施設だ。地上には複数のプラットフォームと線路が走り、その上を覆うように大きな駅ビルが聳え立つ。見取り図を見る限り地下には複雑な線路網と地下街まで作られているらしい。つくづく雄英高校の予算は狂っている。
くじ引きで
駅ビルのピロティに設置されたバスターミナルは日陰で肌寒く、霊火はそっと彼に寄り添う。
標識板や電光掲示板、交通情報や天気予報を表示する液晶まで設置されている大きなバス停だが、人の気配は二人以外にない。
ここにはバスを待つ人など現れないというのに、交通情報などを表示する液晶の片隅には律義に一口ニュースが表示されていた。
どうやらネットなどからニュースを持ってくる仕組みになっているようで、現在はオールマイトが僧坊ヘッドギアを倒したとかの速報が流れている。
続けてオールマイトが1時間で3件の事件を解決したとかいう恐ろしい見出しまで流れてきて霊火はうんざりした顔をした。
「――つまり轟君は僕が担当するしかない。見たところ凍結しか使わないみたいだし開幕の凍結さえ避けることが出来れば、後は走って霊火さんと一緒に逃げられる可能性も……」
「出久くんは別に私を置いて逃げてもいいんだよ?」
未だにブツブツ呟いている緑谷に適当に対応しながら数分が過ぎ、そろそろ演習が始まる時間だ。
その時、霊火は異変に気が付いた。
今二人がいるのは『駅』の果て、演習場の最も端の区画だ。
そしてそこからさらに外側、演習場の周囲を囲む道路の向こうから、何かが近づいてきている。
霊火は、ん~~と声を出して、緑谷の袖を引っ張った。
「出久くん、あれ見える?」
緑谷も霊火が指さす方向に目を凝らすが、良く見えなかったようで怪訝な顔をする。
そして目のいい霊火が先に見分けた。あれは人間だ。大柄で、全身を銀色のアーマーに身を包んだ男が、地面を蹴りながら尋常ではないスピードで接近してきている。
どうやらアーマー男も霊火たちを見つけたようで、霊火達の方に鬼気迫る形相で走ってくる。
緑谷と霊火が顔を見合わせた、その時だった。
うううぅぅぅううぅぅぅぅううううう!!!!!!!!!!!!!!! と。
背後から甲高い警報音が鳴り響いた。
突然の大音響に霊火と緑谷は身体を強張らせる。背後の液晶が一瞬で真っ赤に染まり、毒々しい黄色の文字ででこう表示された。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』
「セキュリティ3? えっと……確か侵入者だっけ?」
「え、そうなの? 覚えてるなんてすごいね霊火さん……」
「入学資料で配られた分厚い資料の安全管理の欄にちょろって書いてあったの。 というより侵入者って何だろうね……?」
一度読んだものは大抵忘れないという地味な特技を発揮しつつ、霊火は首を傾げた。
雄英高校に侵入者……?
そんなことを考えている間にも、霊火達に高速で接近してきた男の姿がはっきりと見えてきた。
その顔立ちが見分けられるようになった頃、霊火は思い出した。
「覚えてねぇよクソ眼鏡!!!! 後出身校も聞いてねえ!!!!」
「いいから教室に戻るんだ! そろそろ授業が始まるぞ!」)
(あ、あの人か)
そう、あの入学式の日に喧嘩を始めた爆豪をB組に引っ張っていった人だ。
その彼は近くまでやってきてギャリギャリギャリーーーッ、と凄まじい音を立てて急停止しながら非常に切迫した声で、霊火たちにこう叫んだ。
「すまない君たち!! 僕はB組委員長の飯田天哉だ。緊急事態だ! この場に先生や大人はいないか!?!?!?」
「あ、相澤先生がすぐに……」
緑谷が飯田に対応している間、霊火は本能のままにサポートアイテムのカンテラに"個性"で火を灯していた。
嫌な予感だった。
手足の末端を痺れさせ、背骨の真ん中を伝うこの感覚。直感が放つこの危険信号の重要性を、『検死官』は良く理解している。
そして状況は待たない。
3人の中心、中空の一点に小さい真っ黒な穴が開いた。
まだ緑谷と飯田は気が付いていない。
それはある意味見慣れた光景ではあった。故に霊火は戦慄する。
この黒い穴は、空間を捻り、境界を隠し、繋がらない所を繋げてしまうあの“個性”の前兆だ。
(黒霧!? いまあいつここに来てるの!?!?!? オールマイトへの攻撃!?!? でもここには……)
あまりにも唐突に、霊火の学校生活に闇が侵入してくる。
こうなってしまうと、生きて帰るにはヒーロー志望の殻木霊火のままではいられない。
ここは既に戦場。一つのミスが破滅に直結する、正真正銘の鉄火場だ。
そして霊火は黒霧が、オールマイト殺害計画を立てていたことを思い出す。雄英にお邪魔するとかも言っていたし、『ショック吸収』の脳無も来ている可能性が高い。
しかしこの1年A組のヒーロー基礎学にオールマイトは来ない。今回のA組の授業の担当教員は相澤先生だけだ。
(そもそもこれどこに繋がっているの!? 私に繋げてどうするの!? この飯田君が言うことを信じればB組の方を襲撃しているんじゃないの!?)
霊火は、雄英高校に身分を隠して潜入中の身だ。
黒霧もそれは分かっている。そして彼ならば余計な疑惑を避けるために霊火への接触は出来る限り避けてくれるはずだ。
しかし実際『ワープゲート』は霊火の目の前に開いてしまった。
つまりここから霊火――『検死官』はどう立ち回ればいいのか?
黒霧の出現からここまでの思考は、実時間でコンマ一秒も経っていないだろう。
しかし状況は更に進行し。黒い霧がぶわりと広がり、アーマーを着た飯田天哉を呑み込んでしまった。
飯田がこの場から消失する。
「飯田君!?!?!?!? 待ってて今助けに行くから!!」
「ちょ……ちょっと待って!?!?」
緑谷が一瞬の躊躇もなくワープゲートに飛び込んでいった。
霊火は一瞬遅れて彼を引き止めるべきだったかと後悔したが、もう遅い。
急いで頭の中で情報を整理していく。
飯田が言っていた緊急事態、突然の警報、そして黒霧の出現。これらを総合すると、おそらく黒霧たちは1年B組を襲撃中で、その最中に逃げ出した飯田を捕まえようとしてワープゲートを開いた。
もしかして、そこに霊火がいたというのは黒霧側も想定外だったのではないか? そう霊火は推測する。
しかし、こうなると割を食ったのは霊火の方だ。
何故なら、霊火はこうなってしまうとこのまま演習場に留まれないのだ。
ここで霊火が留まってしまうと生徒として相澤先生に状況を伝えてしまうことになり、B組の情報が伝わってしまう。つまり相澤先生がB組を助けに行く展開になると、黒霧の前に『抹消』が現れることになる。
それは絶対に避けたい展開だった。『ワープゲート』が使えなくなると黒霧は逃げ道を失う。
おまけに、霊火としては緑谷のことも心配だった。
彼はまだいろいろと未完成だ。そこに誰かが困っているのを見ると即座に助けに行ってしまう彼の性格が合わさると、行った先で最悪の結果を招きかねない。
(出久くんの安全確保が最優先。あとは頃合いを見て逃げ出すしかない……!)
そう判断して、霊火はワープゲートに飛び込んだ。
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▷食堂
「おいバカ逃げろ!!
「は? さっきの警報の話? 私は暴走したマスコミが侵入してきただけで心配いらないって聞いたけど!?」
「違えバカ!!!!! マスコミの中に本物の
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▷演習場θ――通称『駅』 改札部
「おいお前ら、演習は中止だ。俺は敵が侵入した校舎の方に行く。 取蔭、委員長としてA組全員ここに集合させて動くな」
「
「ねえ皆で敵役の子たちを探して帰ってくるよ! 出席番号順に3人グループになって10分後にここに集合!」
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▷USJ――土砂ゾーン
「青山ァ!!!!! クソッ……俺と勝負しろやこのクソ野郎!!!!!」
「落ち着け鉄哲! 青山死んでねえよな!?!? 俺のセロハンテープでどうにか……!」
「あーん、野郎って言わないでよね♡ それにしても可愛い男の子じゃない♡ そう必死になられると私滾っちゃうわ♡」
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▷USJ――倒壊ゾーン
「ダメだ爆豪! 俺の『硬化』でも防げねえ切れる! 一旦退くぞ!」
「俺に指図すんじゃねえクソ髪! チッ……見るからにひょろがりの癖にちょこまかと……うおっ!?」
「肉」
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▷USJ――山岳ゾーン
「電気ってさ……地面に弱いじゃんね」
「骨抜さん流石ですわ! 今私が拘束具を用意しますので少々お待ちを!」
「クソッ……雄英のガキがよッ……」
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▷USJ――セントラル広場
「拳藤こっちに来るな!!!! 退いて救援を待て!!!! ここは俺に任せろ!!!!」
「『操血』、生徒を庇ってカッコいいぜおい。 でもこの脳無は無理だ。 ん、黒霧どうした?」
「いえ、チンピラしか使っていないとはいえ正門との二方面作戦は成功したようです。 つまりもう少し時間は稼げるかと。」
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世界が暗転し、次の瞬間、霊火は落下感に襲われた。
「うわっ!」
思わず声が漏れる。黒霧が開いたワープゲートはどうやら上空に繋がっていたようだ。
(黒霧あいつ妹分を殺す気か!?)
慌てて両腕を開いて落下姿勢を制御する。ふわりとしたコスチューム込みで何とか姿勢を安定させ、周りを見渡す。
ここは雄英高校のUSJだ。予期せぬ災害を想定した巨大な災害訓練施設で、確か設計は13号というプロヒーローだ。
普段なら先生の指導の下、救助訓練や災害対策の演習が行われる施設である。
そして上空から眼下に広がる光景を見渡す。黒霧が天井ぎりぎりの相当高いところにワープゲートを繋げたせいで、遠くまで良く見えた。
広大なドーム型の施設内には、火災、水難、悪天候など、様々な災害を再現したエリアが広がっている。
そんな中で生徒たちは各エリアに散らばされ、敵と戦わされていた。
その中の何人かを見て霊火は絶句した。
(嘘でしょ!? 『ムーンフィッシュ』と『マグネ』!? 過剰戦力すぎだよ黒霧……あいつもしかして雄英一年生が皆私レベルか何かと勘違いしてない!?)
というより来ているメンバーがかつて霊火が義爛にデータを渡した殺人敵たちだ。この様子だとおそらく、黒霧は義爛と取引して雄英襲撃の人材を揃えたのだろう。
……渡したリストの中に含まれている『血狂いマスキュラー』がいないだけマシだと霊火は判断した。正直『ムーンフィッシュ』も同じレベルで来て欲しくなかったが。
この戦力が、一番身近な雄英一年生が霊火だったせいで張り切ってしまった黒霧のせいなのかは後で聞くとして、当面は霊火自身の安全確保だ。
上空にいた時ちらりと黒霧も見えた。中央の広場で件の脳無や手だらけの敵と共にブラドキングと相対していた。あっちは心配なさそうだ。
「霊火さん! そのまま動かないで!」
下から大声が聞こえた。下を見てみると先に落下していた緑谷が、地面を蹴って大きく跳躍していた。
緑色のスパークをまき散らしながら器用に霊火の落下軌道に割り込んだ緑谷は、霊火の事を正面から抱きとめる。
「大丈夫だよ霊火さん!」
「あ、え……」
不意の密着に顔を真っ赤にした霊火は腕の中で完全に硬直した。
緑谷は気にした様子もなくふわりと地上に降り立ち、霊火を開放した。
「飯田君先に行っちゃったんだ。もう一回外に助けを求めに行くって言って……」
「わ、わたひ…私たちも早く逃げたほうがいいよ出久くん。 ここUSJって施設だと思うけど、上から見た感じテレビに出てくるような凶悪敵が出てきてるから……」
地上に降り立った霊火は持ち主の意思に反して暴れまわる心臓を必死に抑えつけながら、何とか元の調子を取り繕う。
「ここUSJって名前なの……? いや、今はそれどころじゃない、とにかくみんなを置いていくわけには……!」
「そうじゃなくて! 私たちも外に助けを求めに行くの! とにかく外にいるプロヒーローに任せて……」
そこまで言って、霊火は気が付いた。
ビタリと言葉が止まる。緑谷も突如電源が切れたように急停止した霊火に虚を突かれて話が途切れた。
これは、おかしい。注目すべきは黒霧でも、凶悪敵でも、脳無でもない。むしろ逆だ。
この襲撃の元々の目的を思い出せ。この場においては何かがいることではなく、何かがいないことこそが一番変なのだ。
「ど、どうしたの霊火さん……?」
「あれ……?」
オールマイトは?
オールマイトは今、どこにいる?
オールマイトがいない場所で、黒霧達は何をしているんだ?
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▷正門
「もう大丈夫だ皆、私が来た!!!!!」
「どうやらチンピラしかいないようだね。 オールマイトはもう仮眠室に向かってもう一度休むといい。後は別のプロヒーローに任せたまえ! 活動時間もそろそろ限界だろ?」
「ええ、今日は少し休ませていただきます……。shit...ブラド先生には後で謝罪に向かわないといけないな……今頃私はもうUSJにいなければならなかったのに……」
霊火目線だと暗中模索すぎるUSJ編をお楽しみいただけると幸いです
たくさんの感想と評価ありがとうございます。いつも本当に大きな励みになっております。