殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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基本ギャグです


第1章:中学生編
002:焼け残りに遺された秘密


 ”個性”を悪用する人間が(ヴィラン)だと定義するならば、殻木霊火は間違いなく(ヴィラン)だ。

 

 殻木霊火は『検死官』と呼ばれている。

 

 "個性"は『死因』。

 死亡現場を見るだけでその場所から死因を鬼火の形で抽出し、その死の真相を読み取ることができる。

 直接の死因はもちろん、犯人は誰か、どんな動機で、何を凶器として使ったのか。さらにはその時の関係者たちの感情の機微まで、あらゆる情報を解析することができる”サイコメトリー”系の能力だ。

 

 故に霊火は殺人事件の捜査には滅法強い。

 霊火は、警察の手が及ばない闇の世界で数えきれないほどの死亡事件に関わってきた。

 

 誰もが目を背けたくなるような残虐な現場も、彼女は平然と調べ上げていく。

 そして経験と積み上げた実績は彼女を完全な闇の住人へと染め上げた。

 

 一方で、霊火には表の顔もあった。

 平日の朝になると彼女は制服に着替え、ごく普通の中学生として教室の椅子に座る。表に出ない残虐な事件の真相を暴いていた昨夜の「検死官」が、今は他愛もない学校の話題に笑いながら頷いている。

 

 確かに、クラスメイトたちとの関係は決して深いものではなかった。

 それでも休み時間に会話を交わしたり、たまに一緒に昼食を食べたりする友人はいた。そんな時の彼女は、普通の女子中学生そのものだった。

 

 しかし不思議なことに、この二つの顔は霊火の中で何の違和感もなく共存していた。「検死官」としての冷徹な探究心と、普通の女子中学生としての無垢な好奇心。

 一見相反するはずのその二面性は、霊火の中でむしろ自然な形で調和していた。

 

 ――――――――――――――

 

 夕暮れが迫る地方都市の駅に、一人の中学生が降り立った。

 制服姿の霊火はスマートフォンの地図を確認しながら目的地へと足を向ける。春の風が彼女の髪を揺らし、制服のスカートがわずかにはためいていた。

 

「やっぱり時間かかるなあ……宿題もあるのに…」

 

 放課後すぐに電車に飛び乗ったもののこの街までは優に二時間以上かかった。

 霊火は移動中居眠りとスマートフォンでの調査とネットサーフィンを行っていたが、暇なのは否めない。

 

 バイクも車も使えない中学生の身ではこれが精一杯のスピードだ。別の手段もあるにはあるのだがとにかく目立つ。黒霧のワープでも使えればいいのだが、今回の用事は完全な私用だ。

 ……頼めばあの男は協力してくれる気もしたが、移動のめんどくささより妙な借りを作りたくない気持ちが勝った。敵同士の貸し借りは何かと怖い。

 

 今回の目的は最近この街で頻発している無差別焼死事件だ。確実に”個性”による犯罪だ。

 ニュースによると死体は完全に焼け焦げており警察の捜査も難航しているという話だ。

 

 霊火は薄暮の街を歩きながらスマートフォンに表示された地図とメモに書かれた情報を照らし合わせる。 

 街灯が少しずつ灯り始める中、霊火は路地裏へと足を踏み入れた。人通りの多い大通りから一歩入るとまるで異世界のように街の喧騒が遠のいていく。

 

 古びたビルの間を縫うように進んでいくと路地はますます細く、暗くなっていった。時折見かける自動販売機の明かりだけがわずかに道を照らしている。

 生活感のある路地は次第に廃れた景色へと変わり、そこかしこに打ち捨てられた家具や錆びついた自転車が転がっていた。

 

 路地裏の奥まで来て、霊火は足を止めた。

 

「これまた分かりやすいね」

 

 黒く焦げた壁面と、焦げ付いた地面。警察の規制線が張られているもののもう捜査は終わったのか人影はない。絵にかいたような事件現場だった。

 

 今なお微かに残る焦げ臭い匂いが、ここで起きた惨劇を物語っている。

 霊火は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。その瞬間、三つの鬼火がゆっくりと宙に浮かび上がり、夕暮れの路地裏を幻想的に照らし出す。

 薄暗い路地に浮かぶ青い炎。それこそが『死因』だ。ここで命を落とした3人の犠牲者、その最期の輝きがこの火の玉だった。

 

 霊火は死の痕跡の上で揺らめく炎に手をかざす。するとまるでバーナーの元栓を閉めるかのように光は弱まり、すぐに路地裏は宵闇に満たされた。

 

 霊火は『死因』を回収する。

 

「えぇ……」

 

 回収完了。

 霊火は困惑した。

 

「えぇ……????」

 

 なんで?どうして?

 

 霊火の心を満たすのは溢れんばかりの混乱と疑問だった。

 

(荼毘……本名は轟燈矢……ナンバー2ヒーローのエンデヴァーの長子……!?)

 

 そうはならんだろと更に思考を巡らせる。

 ”個性”『死因』は加害者の背景情報についてもある程度解析するが、ここまで衝撃のものは彼女であってもそうそうお目にかかれない。

 

(個性婚……体質……虐待……????なんだこれ……ドクターまで出てくるんだけど……あの人はもう……)

 

 しかし加害者側の情報はかなり読み取りづらい。ある一定の時期以前のデータが破損しているような感覚。かといって最近の情報もまあまあ不明瞭だ。

 

 この感じは薬物で激しく混濁した人を対象にとった時に起こりがちな現象だ。明らかに脳機能の何かが破損している。

 霊火は断片的な映像を追いかけてなんとか時系列を整理しようとする。

 

(弟……轟……うーん……なんだろうこれ……⁇)

 

 長子が殺人鬼な時点で望み薄だったが、家族円満というわけではなさそうだった。

 

 №2の現役ヒーローエンデヴァーのウルトラハイパー特大激ヤバ超スキャンダルをうっかり入手してしまった霊火は呆れたように首を振った。

 

 「えぇ……」

 

 殻木霊火、中学3年生の女の子。

 

 こんな感じで絶対に世に出てはいけないこの世の終わりみたいな秘密を、ついうっかりで暴いてしまうから、彼女は(ヴィラン)にしかなれないのだ。




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