殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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第3章:体育祭編
024:AFOとOFA


 雄英高校は1年B組へのUSJ襲撃の後3日間の間を休校にしたので、今日は久しぶりの登校となる。

 

 朝もやの立ち込める中マンションの正面玄関から出てくる霊火を見て、緑谷が駆け寄る。

 

「おはよう霊火さん!」

「おはよう出久くん」

 

 中学生時代から二人の登校時の集合場所は緑谷のマンションの前だったが、この度霊火の脚の怪我により待ち合わせ場所を変更した。

 もっとも二人の家はご近所さんの為それほど大きな変化という訳ではない。

 

「わあ、霊火さんまた髪染めたんだ……」

 

「うん。今回は少し明るくしようかと……車いすってだけでだいぶ印象暗くなっちゃうからね」

 

「いやいや凄く似合ってるよ!」

 

 緑谷の反応に満足してご機嫌に笑う霊火の髪は、透明感のあるプラチナブロンドに染め上げられて朝日を受けて柔らかな光を放っている。

 ふわっとしたミディアムヘアも相まって相当可愛く仕上がり、当人も朝に鏡を見て頷いた会心の出来だった。

 

 実はこれは昨日のド深夜に『工場』で自分で染めたので、またしても寝不足である。

 ヘアカラーリング剤も自作という拘りぶりだった。おかげで中学時代からクラスの女子に『何で染めたの?』と聞かれて毎回困る羽目になる。

 

「ところで雄英に行くのも随分と久しぶりな気がするね」

 

「うん……3日間も休みだったからね。 霊火さんみたいに大怪我した人がいるから当然な気はするけど……。 そういえばニュースで校長先生が『この期間で更なるセキュリティを導入して、生徒の安全を守る』とか言ってたけど何かな?」

 

「あの校長先生、黒霧の『ワープ』相手に何か有効な手でも思いついたんじゃない?」

 

 車いすの上で霊火は不思議そうに首を捻った。どんな防衛設備でもあの”個性”相手に防衛など不可能な気がする。

 本気で黒霧を相手するならば、不審者を感知した瞬間に自動化されたガトリングから対戦車攻撃用の30㎜をバラまくぐらいは必要だ。それを『セキュリティ』と言っていいのか分からないが。

 

 ただ、この手の設備をハイテクにすると今度は霊火の『霊障』などといった”個性”に完全スルーされたり逆用されてしまう可能性も出てくる。自動化された銃火器がぐりんと生徒の方を向いてしまったら学校側も困るだろう。

 あの切れ者の校長がその危険性に気が付かないわけがないため、おそらく安易なオール電化はしてこないはずだ。

 どちらにしても校長の言う『更なるセキュリティ』の内容で、警察や雄英が『電波ジャック』や『霊障』といった機械殺しの”個性”をどれほど重く見ているかが見えてくる。

 

「まあ意外と正統派な『たくさん人を雇って人海戦術』で侵入者対策って感じかもね」

 

「うーん……でもUSJでは結局通信がやられたのが問題なわけだから、もし仮にあの場に警備員がいたとしても助けを呼べなくてあまり変わらなかったんじゃないかな?」

 

「そこは一定時間ごとに報告義務とかの決まりにすればいいんだよ。『異常なし』って感じで。 報告が来なければ異常発生みたいな感じで現場に部隊を派遣するみたいな仕組みを作れば……」

 

 いつも「侵入する側」かつ「撃退される側」の霊火としては、この手の侵入者対策にやられて一番嫌な事は『すぐに大騒ぎする』だ。

 警報機が真っ赤に光って大音量でサイレンが鳴る展開は遅れれば遅れるほどいいのだ。その上で電子的な小細工の通じない人間の警備員は相当めんどくさい一手である。

 

 ただ今回の襲撃メンバーに『変身』を持つトガヒミコがいた以上、雄英内に人を増やすことは『敵が警備員に成りすまして校舎内に潜り込む』ようなリスクと隣り合わせでもある。

 雄英側も『怪盗の予告状を受け取った富豪が慌てて雇った警備員がまさに変装した怪盗だった』みたいな間抜けな展開は避けたいはずだ。

 

「それじゃあ雄英を動かすとかは? 下に穴を掘って雄英ごと動くようにするとか!」

 

「私昔見たロボアニメで見たことあるよそれ。 でもいくら天下の雄英様でもそこまでは出来ないでしょ」

  

 そんなこんなで最寄り駅。

 これから雄英高校登校名物山登りという場面で、行先を見上げた霊火は何かがおかしいことに気が付いた。

 

 遠目から見ても山の上の雄英高校の校舎のフォルムがとても変だった。

 入学からそこそこ時間も経って、それなりに見知ったはずの場所に、全く知らない建物が見えた。

 

「ねえ出久くん。 山の上になんかない?」

 

「なにか見えるね、霊火さん」

 

 一度の会話のラリーで、霊火は自分の目に見える”それ”が寝不足の幻覚か何かではないことを把握する。

 だとすると、あれはなんだ? あのランドマークになってしまいそうなほどの高い塔はなんだ?

 

「え、まさかあれが『セキュリティ』!? ウソでしょ!?!? いくらなんでもゴリ押し過ぎではないかしら!?!? お金はどこから出てきていらして!?!? 雄英の裏庭には沈めたものが金になる魔法の泉でもありますの!?!?」

 

 驚きすぎてお嬢様になりつつある霊火の視線の先には信じられない建造物が聳え立っていた。

 

 天を突くように伸びる巨大な塔。高さは目測300メートル。

 全体が艶消しのブラックで統一されていて、SF映画の未来都市じみた迫力だった。

 黒色に輝く外壁に無数の謎のセンサーが埋め込まれ、頂上部には展望台らしきものが設置されている。

 更に上には複数の観測装置とアンテナっぽい何かが林立していた。

 

「うわあ……」

 

 霊火は呻いた。

 建築系の法律はどうしたんだとか工事のスピードが速すぎないかとか疑問が止まらない。

 なんかこう……あの手の建物って日照権とか航空法とか色々と建設までのハードルが高くなかったか? 国のお役人が何年も手回しをして取り分とか利益とかを厳密に定めた上で、死ぬほど金をバラまいた末にようやく建築の認可が下りるようなシステムだったような気がする。

 とはいえ、目の前にあるものは認めるしかない。もしかして豊臣秀吉の一夜城を見た武将もこのような気持ちだったのだろうか。

 

「もしかして、高い塔を作ってそこから学校全体を監視することで生徒の安全を確保する感じでまとまったの……?」

 

 敷地全域を監視し続けるハイテクでも、人の目で死角を潰すローテクでもない。

 まさかの高い場所から限られた人数で敷地全域を見渡す天守閣スタイルだった。

 この調子だと次は城壁とか堀の建設が始まる。

 

 

 ――――――――――――

 

 始業まで90分というかなり早い時間に霊火と緑谷は雄英高校の校門前に辿り着いた。

 この時間に二人が登校していたのは八木からメッセージを受け取っていたからだった。どうやら、あの平和の象徴は三人で話し合いたいことがあるらしい。

 

 八木は、オールマイトの姿で正門前まで二人を迎えに来てくれていた。

 彼はプラチナブロンドに染めた霊火の姿を見て、驚いたように話しかける。

 

「殻木少女! また大胆なヘアチェンジだね!?!? とてもよく似合っているよ!!」

 

「ありがとうございますオールマイト。 出久くんに切ってもらったんです」

 

「ちょっと待って欲しい緑谷少年が君を⁉ え、オジサン困っちゃうな。 君たち本当はどういう関係なんだい?」

 

「友達!! 友達ですオールマイト!! ね!! 霊火さん!!!! 互いに何とも思っていませんし霊火さんに悪いですから!!」

 

「(………………何とも思ってないの……?)」

 

「あー!! すまない!! 少々配慮に欠ける事を聞いてしまったな!! 私が悪かった!! 私も教員なのだから気をつけなくては!!」

 

 №1ヒーローは、朝から予期せぬ修羅場に巻き込まれておろおろしていた。

 

 というか、最初に話を仕掛けたはずの失恋少女が車いすで俯いていた。目元にはじんわり涙さえあった。

 目の前で悲惨なコミュニケーション事故を見せつけられたオールマイトが、ゴホンゴホンと大きく咳払いをする。

 

「ようし!! それじゃああの”雄英監視塔”の最上階まで案内するぞ!! 生徒で上に登るのは君たちが最初だぞ!!」

 

 件の”監視塔”は、雄英高校の敷地のど真ん中に建っていた。

 

 オールマイトに導かれ正面から塔の内部に入ると広々としたエントランスホールが霊火たちを出迎える。

 内部にはまだ引っ越しの時などに壁や床などを搬入物から守るための緩衝材やビニールの敷物が残っていて、いかにも新築といった雰囲気だった。

 ホールを抜けて3人でエレベーターに乗り込むと、それは静かなモーター音だけを響かせながら揺れもなく上昇を始めた。急激な上昇に伴う重力の変化を感じながら、窓の外では地上が物凄いスピードで遠ざかっていく。

 

「凄い……雄英にこんなものまで……」

 

「校長先生が生徒の安全には代えられないと言ってね、いきなり自費で建てたのさ!! いやああの方の教職への思いには感動してしまうな!!」

 

「自費……!?!? この建物を自費で!?!?」

 

 まだちょっと立ち直れてない霊火を除いた師弟間で会話が交わされる。

 その内上昇速度が徐々に緩やかになり、体が少し浮き上がるような感覚。そしてポーンという控えめな音と共に、女性の声が流れる。

 

「展望台フロアです」

 

 扉が開くと、全方向の壁面がガラス張りの階層だった。

 部屋の中央部に革張りのソファと木の机が配置され、ガラス越しに差し込む朝日が室内を柔らかく照らしている。

 

「わ、私高い所苦手なんだけどなあ……」

 

「え、でも霊火さんUSJで空を飛んでいたよね?」

 

「あれも結構無理してるよ。……元々は落ちるのが怖くて落ちない練習をしていたら、飛べるようになっちゃったって感じなの。 そもそも飛ぶのが苦手なのに……」

 

 改めて説明すると、何とも本末転倒な話だった。

 肘あての部分をギュッと握りしめて真っ青な少女を見てオールマイトが申し訳なさそうな顔をする。

 

「す、すまない。 折角新しく出来た監視塔だから喜んでもらえると思ったのだが……」

 

「いえ、私も結局ヒーロー活動では飛ばなきゃいけない場面も多いでしょうし別に大丈夫です。 そのうち慣れないと……」

 

 そんな会話を交わしながらオールマイトと緑谷が対面してソファに座り、霊火は車いすを緑谷の隣につけた。

 そして平和の象徴は両肘を机につけて話を切り出した。

 

「私の活動時間ね、もう1日に50分前後といった感じなんだ」

 

「そんな……オールマイト……!!」

 

 想定よりも少ないなと、霊火は冷静に考えた。

 オールマイトは覚悟を決めるように息をついた。

 そしてこう言った。

 

「やはり……きちんと話しておくベきかと思ってね。 緑谷少年にも、殻木少女にも」

 

「え、まだ隠し事があったんですか?」

 

 八木――オールマイト同一人物ショックが秘密の底だと思っていた霊火は、つい素のテンションが出てしまう。

 隣に座る緑谷の方を見ると、彼は気まずそうに目をそらした。

 

「え、ええ~? 八木さんも出久くんもどれだけ私に隠し事があるんですか? ええ……私たちが会ったのって丁度一年前ぐらいですよね……?」

 

「それほど重要な事なのだ殻木少女。 君はこの一年間ずっと緑谷少年に献身し続けてきたのを私は見てきたし、遂には同じ雄英のヒーロー科に進学したのだ。 私も悩んだが、秘密を共有するのに相応しいのは君しかいないだろうと考えた」

 

 ……オールマイトに見る目があるのか無いのか良く分からなくなってきたが、とにかく霊火は秘密の共有者に見込まれたらしい。

 これ以上何が出てくるんだろうと内心で戦々恐々としている霊火に、緑谷出久は隣から語りかけてきた。

 

「霊火さん。ごめんなさい、僕も君に嘘をついてきたんだ」

 

「え、でもそれはオールマイトの事じゃ」

 

「僕、去年まで”無個性”だったんだ」

 

 今度こそ、霊火はビタリと停止した。

 そしてオールマイトが更に霊火にこう伝える。

 

「そして私の”個性”はね、”譲渡”出来る”個性”なんだ。実は私自身はかつては”無個性”だった。オールマイトとしての力は、遥か過去から受け継がれてきたものなのだよ」

 

「……つまり今のオールマイトは”無個性”? そして”後継者”というのはそういう?」

 

「おお、流石理解が早いね!! 流石入試座学一位だ!!」

 

 ”譲渡”出来る”個性”を、霊火は一つしか知らない。

 しかし全ての”個性”は唯一とは限らない。もう一つぐらいあったのだろう。

 

 少女の頭の中で高速でパーツが組み上がっていく。霊火は去年からずっと緑谷の傍にいたのだ。

 敢えて秘密には踏み込まなかったが、彼との記憶の中に不自然な点はたくさんある。

 

「『超パワー』じゃなかった。去年まで……つまり私が海浜公園で出久くんに会った時にはまだ移っていなかった? 12月……年始? あの最初の実演の前か? いやそれよりも……今は何代目……?」

 

「……これは恐ろしいな。私はこれまで世界中で様々な天才に出会ってきたが、君はその中でも頭一つ抜けているよ。そう、緑谷少年で九代目だ」

 

(な、なるほど……オールマイトの異常な強さの正体はそれか……。譲渡だから遺伝と単純比較は出来ないにしても、それで”世代の進行”みたいな現象が起こっていたのかな……?)

 

 道理で強いわけだと霊火は内心で納得する。

 良かった。オールマイトしかり緑谷しかり、こういう凶悪な出力の”個性”が虚空からポンポン出てきたら霊火としても困ってしまう。

 しっかりした積み重ねがある”個性”だと分かってむしろ霊火は安堵した。理解可能なら、対策も組める。

 

 黙り込んでしまった霊火から緑谷へと視線を移して、オールマイトは更に声を潜めた。

 

「それに緑谷少年。ここからは君にも伝えていない話になる。『ワン・フォー・オール』の成り立ちについてだ」

 

 びくりと、霊火の身体が揺れた。

 

「かつて超常黎明期、『オール・フォー・ワン』という敵がいた」

 

 ――――――――――――――――

 

 『先生』と『検死官』である霊火の関係は、実は結構微妙な間柄だ。

 

 まず第一に、霊火は"先生"を根本的に信用していない。

 そもそも『死因』の能力を使うたびに、あの魔王が関与した鬼火の痕跡が次々と見つかるのだ。霊火は『AFO』という敵の事をよく知っている。

 だからこそ彼を信頼することなど到底できないに決まっていた。

 

 第二に、二人の目指す世界観が完全に相反している。

 霊火はある意味人類の未来のためだけに行動している(ヴィラン)だ。一方の彼は未来そのものを潰そうとしている。

 その根本的な価値観の違いは、決して埋まることはないだろう。

 

 つまり()()()()()()A()F()O()()()()()()()()()

 問題は、これがある意味オールマイト以上の難題となるであろうことだ。

 

 なにしろAFOの持つ力は常軌を逸している。

 "個性"の奪取と譲渡を瞬時に行える能力。霊火が何十もの工程を経て行う"個性"の移動を、彼はたった一手で実現できる。

 長年の経験により蓄積された"個性"のストックも、計り知れない量だろう。正面から戦っても、無策では叩き潰される。

 

 さらに厄介なことに、これはヒーローと敵の戦いとは異なり、(ヴィラン)(ヴィラン)の争いだ。

 

 霊火とて対ヒーローであれば打てる手はある。なにしろヒーローとは根本的に民衆から望まれる存在だ。

 つまり人類の9割が死亡した後でも、その時に霊火が過半数の支持を獲得してしまえばヒーローはヒーローになり得ないのだ。

 

 一方で(ヴィラン)(ヴィラン)の戦いにはいかなるルールも存在しない。

 その場合、黎明期から数々の戦いを生き抜いてきた老獪な(ヴィラン)に対して霊火の力はおそらく一手及ばない。

 おまけにあのご老体には『ドクター』が付いている。おそらく頭脳戦でも完全な勝ちは難しいだろう。

 

 結論として、霊火には『AFO』に勝利する術がないのだ。

 故に半端な中立を保って、消極的に問題を先延ばしするしかなかった。

 

 

 その上で、オールマイトは『ワン・フォー・オール』の由来について語った後、こう締めた。

 

「『ワン・フォー・オール』は言わば『オール・フォー・ワン』を倒すために受け継がれてきた力!! 緑谷少年、君はいずれ巨悪と戦わねばならない……かもしれない」

 

 それに緑髪の少年は、グッと拳に力を込めてこう応えたのだ。

 

「頑張ります……!! オールマイトの頼み……何が何でも応えます!!」

 

 なんか決意を固めちゃっている少年を見て、霊火は呆れ顔だ。

 この場でただ一人、極大の悪性を隠し持っている少女。

 そんな『検死官』としてはオールマイトに『あのご老体の死亡確認をちゃんと取っておいてくれよ』と思ってしまうが、その本音は呑み込む。

 

「……まあ随分と重要な秘密が残ってたというか、良く私相手に一年も騙し続けたなとしか言いようがないけれど」

 

 少女はくすりと笑った。こくりと首を傾けて隣の少年を見ると、うっすらと目を細めた。

 

「…………いいよ。 貴方が『オール・フォー・ワン』って奴を打ち倒すその時まで、私が傍にいて守ってあげる」

 

 

 ――――――――――――――

 

「ところで体育祭の話だ。 13号先生も無事見つかった事もあって、雄英としては実施する予定だ!!」

 

「え、本当に? 私は参加できないのに……」

 

 霊火はギプスで固定された右脚を持ち上げて見せた。

 

 雄英体育祭と言えば知名度注目度共に全国規模の一大イベントだ。

 ヒーロー自体には興味は無くとも季節の行事が好きな霊火にとっては、少し参加したかったイベントでもある。

 正直な話、自分が参加できないなら中止になっちゃえというのが本音だったのだが残念なことに開催されるらしい。

 

「ああ、そういえば体育祭について相澤先生がキミに話したい事があるらしい。 今日のうちに呼ばれると思うよ」

 

「え、右脚ぐちゃぐちゃになってもいいから出ろとかですか? 普通に嫌なんですけれど……?」

 

「相澤先生も流石にそんな無茶な事は言わないと思うよ霊火さん……」

 

 緑谷に窘められた。

 霊火がそれに反論しようと口を開いたため、オールマイトはゴホゴホと咳払いをして話の流れを元に戻す。

 

「そう、少年!! 君は私の想定よりもずっとずっと速いスピードで成長してきた!! だからこの雄英体育祭、日本中に見せて欲しい!!」

 

 君が来た! ってことを、世の中に知らしめて欲しい!!

 

 と、オールマイトは言った。

 

 ――――――――――――――

 

「で、どうなの? 勝算はあります? 緑谷選手?」

 

「どうなのって……そりゃあ全力で頑張るつもりだけど……」

 

「ぶっちゃけ優勝候補って出久くん、爆豪、後は轟辺りでしょ? 爆豪はUSJで凶悪敵とガッツリ命の取り合いしたらしいし、轟はエンデヴァーの息子だし」

 

「おいおい優勝候補ならオイラを忘れてもらっちゃ困るぜ!! この峰田実をよう!!」

 

 放課後の教室。霊火と緑谷で話をしていると横から峰田実が話しかけてきた。

 テストステロンが過剰に分泌され過ぎていると霊火の中で話題の彼だ。しかし彼でも霊火に対しては、他の女子生徒に向ける程の情熱が生み出せないようだった。

 まあ霊火としては話しやすくてありがたい。

 

「『もぎもぎ』で? あれ対人向かなすぎじゃない? 見た感じ徒手空拳も無さそうだし」

 

「殻木ィ!?!? お、オイラが気にしていることを!?!? クソっ!! オイラだって『呪い火』みたいに派手でカッコいい”個性”が欲しかったんだよ!!!!」

 

「み、峰田君! 君の”個性”だって凄い”個性”だよ!! ほら、一度相手を嵌めれば殆ど勝ちで一発逆転可能な」

 

「一度相手をハメれば一発!?!?!?!?!?」

 

「私の”個性”も対人向かないけどね」

 

 少女は下ネタをスルーした。

 

 そして『轟はエンデヴァーの息子』発言から轟焦凍に睨まれているがそちらもスルーした。

 申し訳ないが、霊火からすると轟焦凍はどうしても“エンデヴァーの息子“という印象が先に来てしまうのだ。

 荼毘の鬼火や轟冬美の話のイメージが強すぎる。悪いとは思っているが。

 

「その点俺は最強っしょ!! どうよ『帯電』!! 優勝候補!!!!」

 

「そっちは早めに潰しとかないとダメかもね」

 

「ちょ、ちょっと待って、俺もしかして余計な敵作っちゃった!?」

 

「うわあ凄いね皆バチバチだ!! 頑張ろうね体育祭!!」

 

「顔がアレだよ麗日さん!?!?」

 

 上鳴電気と、全くうららかじゃない顔の麗日お茶子が話に加わってきた。気合が入りすぎて怖い。

 流石ヒーロー科、クラスメイトのやる気は十分といった感じだった。

 

 霊火はちらりと緑谷の方を見て目配せする。そろそろ時間だ。

 

「私相澤先生に呼ばれてるから。 また明日」

 

 クラスメイトの別れの挨拶を背に受けて、二人は教室を出た。

 

 そして教室を出た二人はすぐに異変に気が付く。

 隣のB組の教室の前にかなりの数の生徒が集まって小さな人だかりを作っている。

 

「え、何?」

 

「あー多分あれだよ霊火さん。 USJ事件を生き残ったって噂のB組を見に来たんだと思うよ」

 

「ああなるほどね。 敵に襲われた生徒たちを事前に見ておきたかったのか」

 

 幸いな事に、ここにいる緑谷と霊火の二人もUSJ事件に巻き込まれていることまでは知られていないようだった。

 取り囲まれたら素直に面倒だ。ましてや霊火など大怪我しているわけだし質問攻めとかされたら困る。

 

「俺らを体育祭の前に見ておきたかったんだろうが、意味ねえからどけやモブども」

 

 そして人だかりの中から聞き覚えのある声が聞こえてきた瞬間、霊火と緑谷は思わず顔を見合わせた。

 二人で同じことを考える。この場にい続けるのは良くなさそうだ。

 そして言葉を交わす必要もなく互いに小さく頷き合い、二人は素早くその場から立ち去った。

 

 ――――――――――――

 

 

 放課後の職員室は、夕暮れの光が窓から差し込み独特の静けさに包まれていた。

 机の上には未処理の書類が積み重なり、誰かのコーヒーの香りが漂う。

 

 オールマイトが言っていた通り霊火はちゃんと相澤先生に呼び出されたのだ。

 先生は自分の席で何故か寝袋に半分包まれながら二人を待っていた。

 

「来たか殻木。 それに……ああ、緑谷も一緒にいてくれて構わん。 体育祭の話だ。 殻木、お前出るつもりあるか?」

 

「出、出る? この脚で? 出たいとは思いますが流石に……」

 

「そうか。 パワーローダー先生がお前に話があるそうだ」

 

 相澤がポンポンと話を進めていくので霊火は置いてけぼりだ。

 そして相澤は霊火の返事も聞かずにパワーローダーを呼んでしまう。

 彼はサポート科担当のプロヒーローだ。確か掘削が得意なヒーローだったはずである。

 

 きょとんとしたままの霊火を見て彼は一人でうんうんと頷いた。

 

「君が殻木霊火だよね。 あの”個性”で空飛ぶ機構を盛り込んだサポートアイテムの斧の設計図を送りつけてきた」

 

「は……はい。 そうです私が殻木です」

 

「あれだけど、君だけもう要望書の全てがおかしかったよ。サポート科の3年が卒業制作で送ってくる設計図だったね。 一人だけ被服控除の図面が本格仕様で開発会社の人がビビってた……それで君、工学系いける口だろう?」

 

 霊火は訳も分からないまま頷いた。

 確かに霊火は工学系が得意だ。そもそも霊火は”個性”を使う機械を作る唯一の人間なのだ。ガチガチの専門職と言える。

 霊火がドクターに勝っている所と言えば、それは間違いなく工学系だ。鉄と電気を扱う瞬間に関しては霊火は完全に師を超えているのだ。

 

 むしろ被服控除の時は、コスチュームの図面に逸脱した技術を盛り込まないように注意したほどだった。

 

「校長がね、敵の襲撃で怪我した生徒が出られないのはおかしいとか言って特別ルールを作ったんだが……君、体育祭をサポート科のルールで出てみないかい?」

 

「サポート科……?」

 

「ああ、ヒーロー科には普通許されないんだけど、サポート科は自分が開発したアイテムに限って体育祭への持ち込みが許可されるんだ。 君にもそのルールを適用してもいいと校長先生が判断された。 まあつまり、折角3回しかない体育祭、車いすとかを作って参加してみたらどうだいという提案だね」

 

「えっ、それって……」

 

 霊火は、自分が強くなくとも自分よりも強いものを作ればいいという考え方をする研究者だ。

 そんな少女に開発したアイテム持ち込み可というルールを適用すればどうなるか?

 

 当然、両足で立つ状態より数段強くなる。

 

「え、本当にいいんですか? そんなことしたら普通に私が優勝しちゃいますよ?」

 

「もの凄い自信だね君……気に入った。 今からでもサポート科の工房に来てみるといい。 体育祭まで1週間と少ししかないけれど、出来るところまでやってみるといいよ」




体育祭編突入だ!!!!

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