殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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027:逃走心(闘争心)

「………………まあ、実に出久くんらしかったけれどね。うん。ゴール手前からの逆走」

 

「ご、ごめん霊火さん!!!!! そんなに怒らないで!?!?!? 僕はアナウンスを聞いて霊火さんが危ないと思って……!!!!」

 

「嘘つき」

 

「うっっ……!?!? そ、そりゃあ……あのアナウンスを聞いてかっちゃんも危ないと思ったよ? だけど僕は霊火さんの事も心配で……」

 

「それでどっちの方が心配だったの?」

 

「霊火さんはなんとかするかなって思ってましたごめんなさい!!!!!」

 

 霊火の喉からガルルルル……といかにも不機嫌な唸り声が響き始めて、緑谷はあたふたし始めた。両手の行き場を失っている。

 

 よりにもよって爆豪に心配度で負けるというのはあまりにも屈辱だった。信頼されているというのも考え物だ。

 というか轟・爆豪ペアを単独で相手出来ると思われているならば、それは流石に霊火を買いかぶり過ぎである。

 

 別にヒーロー志望でも何でもない少女としては、想い人にあまり戦力的に信じられても困る。

 か弱いヒロイン扱いで別に全然問題ないのだ。相棒扱いも気分は全然悪くないのだが……。

 

「……でも霊火さんの言う通りだ。 ごめん先に行っちゃって」

 

「え? いや競技は競技なんだからそこは全然勝ちに行って貰って構わないんだけど……」

 

 二人がいるのは選手用の小さな控室だった。

 障害物競走後、轟と爆豪の怪我が酷く第二競技までの間に90分の休憩時間が設けられたのだ。

 今頃リカバリーガールに怒られながら治療を受けていることだろう。

 

 そして緑谷と霊火は共に治療を終え、今は隙間時間だった。そして霊火の左耳は爆豪によって鼓膜を破られ治っていない。

 左からの音が滅茶苦茶くぐもって聞こえるが、ひとまず日常生活は過ごせそうだった。

 

 緑谷は車いすの少女に手を伸ばして頭を撫でる。霊火はされるがままだ。

 不思議そうに首を傾げる少女に彼はこう言った。

 

「僕は……霊火さんにだけは本当に怪我をしてほしくないんだ」

 

「……あのねぇ出久くん? それが無自覚なのは相当悪質だよ?」

 

「え!?!? な、何か悪い事言っちゃった!?!? 霊火さんは『治癒』を使えないから怪我が長引くと思って……」

 

「だろうね!!!!! そんな事だろうと思ったの!!!!!」

 

 一応心配されてはいると霊火は前向きにとらえる。

 赤くなる頬を意識的に抑える。これが出来てしまう自分を恨みたい気分だった。

 勘違いしてはいけない。この男は同じ状況ならこれを誰にでも言う。霊火もいい加減慣れたかった。

 

 浮いてしまった緑谷の手を自分の頭の上に戻しつつ、霊火はため息をつく。

 ちらりと壁に備え付けられた液晶を見ると、そこではちょうど雄英体育祭の中継が行われていた。

 

 スタジオは急に出来た90分のスケジュールの穴に困っているようだ。

 2年3年ステージもやっているはずなので丸ごと雑談という事はなさそうだが、それでもテレビ局側にはつらいものがあるだろう。

 

「一位出久くん、二位爆豪、三位私、四位轟、五位ポニーちゃんで六位瀬呂……? うーん……B組の子たちもお見舞いの時に名前ぐらいは覚えたけど結構ヒーロー科落ちたなあ……」

 

「A組B組合わせて41人で予選突破は上位42名だっけ? 元々枠がギリギリとはいえ、ヒーロー科で本選いけないのはつらいね……」

 

「私が『ザ・フォール』を壊しちゃったから、あれを突破できた人がまんま上位に来た感じだね」

 

「……サポート科が皆飛べたってアナウンスが言っていたけど、もしかして霊火さん……」

 

「私が”飛行”できればいい事あるかも、って言ったのは3日前だし……。 3日で空を飛ぶ手段を構築したサポート科の子を褒めてあげよう?」

 

 霊火の『ザ・フォール』の破壊はサポート科贔屓な面も否定しきれないが、それでも追っ手を振り払う通常の戦法の範疇ではあるだろう。

 無理なく足場を崩せる手段があるならば誰でも崩していた場面だった。

 

「……だけどやっぱり強いのはヒーロー科だよね」

 

「私としてはサポート科の肩も持ってあげたいけれど……それはそう。 本来、サポート科のサポートアイテムをヒーロー科が使うのが一番強い形だもん」

 

 この場合、サポートアイテムをヒーロー科が使っている例はまさに今の殻木霊火だ。

 右脚が壊れているとはいえ雄英側もとんでもないものを許容したものである。

 今頃先生たちも頭を抱えているかもしれないが、それは霊火の知ったことではない。

 

「彼らはあくまでメカニック。 ヒーローを安全圏からサポートする役割であって実戦を求めるのは無理があるし、本戦では正直上手くいかないと思う。 いやまあ彼らを煽ったのは私なんだけど……」

 

「うん、僕もそう思う。 もちろん彼らのアイテムは凄い物なんだけど……」

 

 液晶には障害物競走のハイライトが流れている。

 

 上鳴電気が一本しかないロープを掴んで放電し、既に掴まっている人を全員麻痺させ谷底に消していた。

 その後、空いたロープを彼が一人で渡っていく様子を見て、控室の二人は仲良く「うわあ……」と声を漏らした。

 

「意外と手段を選ばないね上鳴電気……」

 

「上鳴くんの場合は大焦りで何も考えないで放電したんじゃないかな?」

 

 緑谷のコメントが意外と辛辣だった。

 

 ――――――――――――

 

「殻木!! 殻木ありがとう!!!! お前すげえよドンピシャだ!!!! 俺も本戦に行けた!!!!」

 

「霊火ちゃん!!!! 霊火ちゃんって凄いんだね!!!! あんなヒーロー科のトップとバチバチの競り合いできるなんてかっこよかったよ!!!!! 私はダメだったけど頑張ってね!!!!」

 

「おうおうくるしゅうない落ち着いて……」

 

 サポート科大躍進の年だった。他の学年を見ているはずのパワーローダー先生が様子を見に来る程だった。

 

 因みに『ザ・フォール』自体は越えられても、アイテム背負ったまま4キロがスタミナ切れで走り切れなかったパターンがサポート科にそこそこ見受けられるのはご愛敬だ。

 サポート科は運動神経お亡くなりみたいな人も多く、霊火以上の虚弱体質がゴロゴロいるのだ。文化系ここに極まれりである。

 

 霊火に礼を伝えに来た全身筋肉モリモリマッチョのサポート科の例外くんが、「ありがとな」と叫びながら立ち去る。

 彼は予選でサポートアイテムが壊れたらしい。彼に限らずサポート科の本選出場組は皆忙しそうだ。これはヒーロー科にはない特徴と言える。

 

「霊火ちゃん……!!!! 私ね……あとあ゙どぢょ゙っ゙どだ゙っ゙だの゙に゙……!!!!」

 

「貴女は惜しかったねえ……」

 

 残った霊火ぐらい小柄な女の子は、ブースター付きのグライダーを用意し実際離陸には成功したが、ブースターが止まらなくなり上空に飛んで行ったまま降りられなくなったレアケースちゃんだ。

 

 物凄い上空まで飛んでいった上に明らかな大パニックを起こしたため、危険と判断した観客席のエンデヴァーが飛んで回収したらしい。

 明確な緊急事態でプレゼントマイクのアナウンスも焦っていたため、競技に割り込んだ彼の判断は正しかっただろう。そして彼女はもちろん失格となった。

 

「ああ、もう私そろそろ行かなきゃ……」

 

「わ゙がっ゙だ。゙が゙ん゙ば゙っ゙でね゙」

 

 騎馬戦前の休憩時間もそろそろ終わりだ。レアケースちゃんに別れを告げてグラウンドに向かう。

 その時だった。

 

「いいなあ……ヒーロー科なのにアイテム使えて。 君、敵の襲撃で怪我したからそんなの許されたんだろ? どんな気持ちなんだい?」

 

「喧嘩を売ってるなら買………………………………?」

 

 意識が飛ぶというより、意識が遠のく。

 霊火は何かマズイことが起きているのを悟る。

 話しかけてきた紫の髪の死ぬほど目つきの悪い男の声が頭の中にガンガン響く。

 

 これは”個性”だ。世にも珍しい精神感応系の操作系統。

 レア度では『サイコメトリー』に並ぶある種の頂点。

 

 何故か訳も分からずドクターと白雲朧の幻影を見ながら、霊火は内心舌打ちをうつ。

 それにしても物凄く仲の悪そうなコンビだ。この二人だけなのだろうか? もっと……

 

(ヤバ……完全にかかった、もう私からはどうしようもない……!!!!)

 

 霊火が焦っていると、こんな会話が遠くなる意識の中で微かに聞こえた。

 

「ねえ、霊火ちゃんに何してるの? 殺すよ?」

 

「は? あ、お前、おい!!!!」

 

(レアケースちゃん!?!?!?!?!?!?!?!!?)

 

 つい先ほど別れた、さっきまでギャン泣きしていたサポート科の子が戻ってきた。

 

 なんかサポートアイテムを紫髪の男に突き付けていた。

 霊火にはそれがなんだかスタンガンのように見えた。

 

 ノータイムだった。

 

 ズヴァチィッッッッ!!!!!!!!!!!!

 と、恐ろしい音が響いた。

 

(レアケースちゃん!?!?!?!??!?!??!?!??!?!???!?!?!?!?!?)

 

「ぐあっっっっっ!?!?!」

 

「聞こえなかった??? 霊火ちゃんを解放して????」

 

「く、クソっ……なんだよお前?」

 

 目つきの悪い男がへたり込む。

 男の問いかけに返事は返ってこなかったが、代わりにもう一度破滅的な音が鳴り響いた。

 

(レアケースさん!?!???!?!?!?!?!??!?!?!?!?!??!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!!?!?)

 

「うぉぉぉおおおお!!!?!?!??? クソっ……!!!! なんだよ一体!?!?!? 誰だ!!!!」

 

「……………………」

 

 紫髪が至極真っ当な事を言っていた。

 彼女は不思議そうに自分が持つスタンガンを見ると、今度はスタスタと霊火の方に近づいてきた。

 

 正直霊火もだいぶ怖かったが、幸いな事にその子は霊火にまでそれを向けることはなく霊火の頬をぺちぺちと叩いた。

 意識の主導権が戻ってくる。

 

(なるほど、かけた方ではなくかけられた方への刺激がトリガーか……)

 

「……!!!! あ、ありがとう助けられた」

 

「霊火ちゃんどうする? あれ、殺す?」

 

「見知った人の見知らぬ一面をみて私はちょっとドキドキしてるんだけれども……!!」

 

 可愛いだけの女の子はいないというのが霊火の持論ではあったが、ここまで極端なのは流石に珍しい。

 

 それにしてもサポート科と築いた関係性がここまで即効で分かりやすく役に立つとは思わなかった。

 この男の”個性”相手だと、次々と霊火の様子を見に来たヒーロー科まで絡みとられて利用される展開もあり得た。

 

「会話で発動……ちょっと話相手になってくれる?」

 

「いいよ?」

 

「精神感応系……意識を極限まで薄れさせて身体の制御を乗っ取る”個性”だ。ディクテイターの『独裁』と系統は一緒だけど仕組みは全然違う。 ただ解除方法は似ているね」

 

「ものすごくレアだよね霊火ちゃん。 噂に聞いたことはあるけど私も初めて見た」

 

「雄英物凄い”個性”がポンポン出てくるね……。 いいなあ……()()()()()。 ……でもあの感じだと問いかけに返答させる必要があるから、タネが割れていたら危険度は低い」

 

「うーん……そうだ、そこの人!!」

 

 レアケースちゃんは痛そうに腕を抑えている目つきの悪い男子生徒に話しかけた。

 

「……何だよ。 もういいだろ? 失敗したんだよ」

 

「良くないよ。 もっとその”個性”の事を教えてくれないと!!」

 

 彼女は霊火の方を見て首を傾げて見せた。

 霊火は首を横に振る。”個性”には掛かっていない。

 どうやら全ての応答で発動するわけではなさそうだ。

 

 黙り込む相手を見て、レアケースちゃんが不満げにもう一度スタンガンを構えるのを制止する。

 

「大丈夫、典型的な初見殺しだから今の段階で一度掛かったのはアドバンテージだよ。 ……もうちょっと私を見ていてくれる?」

 

「分かった」

 

「そこの目つきの悪い人」

 

 霊火は薄く目を細めた。

 

「私は優しいから、これからの集合場所で大音量で貴方の”個性”の秘密を喋るのは辞めてあげる。 流石に特に仲のいい子には教えちゃうけれど」

 

「……流石ヒーロー科、親切だな。 それで俺は代わりに何をすればいいんだ?」

 

「いや別に。 こう言う貸し借りは長く寝かせた方が得だし気長に待ってるよ。……でも一つアドバイスするならその”個性”『味方を作る能力』と捉えない方がいいと思うけれど」

 

「は?」

 

「”個性”使わなくても出来ることはあるよねって話。折角そこまで凶悪な”個性”なんだから一番刺さる場面で使わないと勿体なくない?」

 

 ――――――――――

 

「さーて第二種目よ!! 私はもう知ってるけど~~~」

 

 ドラムロール音が鳴り響く。

 

「これよ!!!!」

 

 【騎馬戦】

 

「さては本気で私に競技させる気がないな?」

 

 まさかの団体戦。それも騎馬戦。

 雄英は車いすを本当になんだと思っているのだろうか。

 

「霊火さん……!!」

 

「ふぇっ……!?!?」

 

 ルール説明も終わっていないのに緑谷が霊火の手を取った。

 なんか力強く頷かれて自信満々に引っ張られてしまう。霊火は何も逆らえずに車いすごと引っ張られる。

 

「参加者は2から4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ。 そして先ほどの結果に従い各自にポイントが割り振られる!」

 

「ちょっと出久くん……あまり気にしないで……!! そんな無理に私を助けようとしなくても」

 

「違う霊火さん……あるんだ。 この競技には必勝法が!!」

 

 緑谷は素早く目的の人を見つけ、パッと捕まえる。

 角取ポニーと、麗日お茶子。

 二人は車いすの霊火を見てかなり不安そうな顔をするが、霊火にも緑谷の狙いが見えてくる。

 

「与えられるポイントは下から5ずつ! 42位が5ポイント、41が10ポイント……そして1位に与えられるポイントは1000万ポイント!!!!!!!!!!!!

 

「よし……!!!! 都合がいい!!!!」

 

「Really⁉(マジで!?)」

 

 周囲の注目が緑谷に集まる。が、緑谷は緊張気味ながらも自信ありげに笑った。

 

 緑谷が既に4人集めてしまっているのを見て、周囲に動揺が走る。その中に車いすの霊火までが混じっているのを見て、更に訳が分からないといった感じだ。

 角取と麗日が不安そうにする中、彼は説明を始めた。

 

「角取さん、麗日さん、霊火さん、この3人を集められれば絶対に勝てる。 僕に作戦があるんだ」

 

 1位の1000万ポイントに、車いすの霊火。不安要素を二つも抱えたチームにも関わらず自信満々だった。

 麗日はそんな彼を見てふうと息をつく。

 

「ええよ、デクくん……私は信じるよ!!!! 元々デクくんには声かけるつもりだったし、仲いい人とやった方が良い!!!!」

 

「……!!!! そ、そうだね!!!! チームを組むならなるべくスムーズに意思疎通出来る人が望ましいもの!」

 

「…………。 はあ…Well, trust us, listen to the strategy.(まあ私たちを信じて、作戦だけでも聞いてよ)」

 

「…………Are you sure you can trust them?(本当に信じて大丈夫なの?)」

 

「It's an easy win if you work with us.(私たちに協力してくれたら楽勝だよ)」

 

 日本語がまだ少し不自由な角取ポニーとの意思疎通は霊火が担当する。

 彼女は教室でも席が近いこともあり、一緒に行動することも多い友達だった。

 

「But Reika, why do you look a little weepy? Are you okay?(でも霊火ちゃん、なんでちょっと泣きそうなの? 大丈夫?)」

 

「............ In Japanese, this is called brain destruction.(…………日本語ではこれを脳破壊っていうの)」

 

「Brain destruction⁉(脳破壊!?)」

 

「Please. Don't tell anyone.(お願いだから誰にも言わないでね)」

 

「二人とも、英語で何話してるんやろ……」

 

「早口過ぎて僕にも聞き取れない……」

 

 ▶緑谷出久・殻木霊火・麗日お茶子・角取ポニーで騎馬成立

 

 ――――――――――

 

「青山がいねぇのは寂しいが……鉄哲、俺と組め!!!!」

 

「応!!!! それでどうする……残りは……」

 

「あー失礼……君たちヒーロー科だろ? ……俺の力使ってみないか?」

 

「普通科か? ”個性”は……」

 

「私と組みましょそこの人!!!! 本当は1位と組みたかったのですが既に組まれてては仕方ありません!!!!」

 

「うおおなんだこのあけすけな人は!!!! サポート科!?!?」

 

 ▶瀬呂範太・鉄哲徹鐵・心操人使・発目明で騎馬成立

 

 ――――――――――

 

「クソ髪ィ!!!! 幽霊女ァ!!!!」

 

「よし来た爆豪!!! 騎馬の前衛は俺に任せろ!!!」

 

「私はその呼び方不本意なんだけど……。 それで、もう一人はどうするの?」

 

「そこは僕を使ってみないかい? 同じB組のよしみでさ」

 

 ▶爆豪勝己・切島鋭児郎・柳レイ子・物間寧人で騎馬成立

 

 ――――――――――

 

「よし、これが最善か……」

 

「……轟、このチーム……俺の宿命とは少し相性が良くないが……」

 

「え、何でだ⁉ このメンバーなら緑谷達にも負けないパワーあるくねぇ!?!?」

 

「君たちが何故B組委員長たる俺に話を持ってきたのかが分からないが……」

 

「いや、これでいい。飯田、俺は障害物競走でお前のパワーとスピードを見込んで、お前を選んだ。 常闇、今回の騎馬戦は防衛に専念するだけでいい」

 

「それぐらいなら行けるが……」

 

「えぇ!?!? そこは緑谷狙わねえの!?!?」

 

「俺もそうしたいのは山々だが先手を取られた。 せめて殻木だけでもいたら……」

 

「殻木……あの俺がUSJに巻きこんでしまった車いすの生徒だな? ……この騎馬戦でか?」

 

「そのうち分かる……クソっ……緑谷にやられた……」

 

 ▶轟焦凍・常闇踏陰・上鳴電気・飯田天哉で騎馬成立

 

 ――――――――――――

 

『さあ上げてけ鬨の声!!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!! 狼煙を上げる!!!!』

 

「あんなこと言うから私とか爆豪に競技をぐちゃぐちゃにされるって学ばないのかな?」

 

「見てる側としてはそっちの方が面白い所があるからね……やっぱり体育祭もハチャメチャな回が人気だし……」

 

 前方緑谷出久、右陣角取ポニー、左陣麗日お茶子、騎手殻木霊火。

 全体的にちんまりした騎馬だが、障害物競走1位、3位、5位、8位という最高アベレージの騎馬。

 1000万570ポイントからのスタートだ。

 

『よぉーし組み終わったな!!? 準備がいいかなんて聞かないぞ!! 行くぜ残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』

 

「霊火さん! 麗日さん! 角取さん! 勝負は最初の数秒だよ!!!! 作戦通りに!!!!」

 

「「「Roger!!(ラジャー!!)」」」

 

『3』

 

「本当に緑谷狙わなくていいの?」

 

「デクはもう無理だ!!!! クッソ気に食わねぇが、別の雑魚を狙う!!」 

 

『2』

 

「心操何とか緑谷狙えねえ!?!?」

 

「……!! すまん無理だ!! 殻木に俺の”個性”がバレている!!」

 

『1……!』

 

 「よーい」

 

『START!

 

「ドン」

 

 揃ったら勝ちのロイヤルストレートフラッシュ。

 対抗手段はこの場に無い。

 

『なにぃぃぃ!!!!!!!!!!!! 緑谷チーム、飛翔!!!!!!!!!!!! も、物凄い速度で騎馬ごと上空に!!!!!!!! 10メートル、20メートル、30、40、50……もっと上に飛んでいく!!!!!!!! 緑谷狙いチームは完全に空振り!!!! 遠距離攻撃は既に届かない!!!!!!!!!!!! あ、これは、これはまさかぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!!』

 

『見事な作戦だ。 麗日の『無重力』と角取の『角砲』を真っ先に確保した策略が完全にハマった……撃ち落とせるとしたら殻木の『呪い火』ぐらいだが、その肝心の殻木が緑谷チーム。 ……これは緑谷のメンバー決めの時点で勝負は決まっていたな』

 

 ――――――――――

 

「こ、怖いぃ……や、やだ……なんでいつもこうなの……?」

 

「霊火さん落ち着いて!?!? 大丈夫だから!!!」

 

「霊火ちゃん高所恐怖症なのにこの作戦に乗ったん!?!?!?」

 

 足がすくむ。それが最初の感覚だった。

 遥か眼下に広がるスタジアムが遠い異世界のように感じられる。視界の端がぼやけ始め体中から冷たい汗が滲み出てくる。

 緑谷の肩にしがみ付く手に力が入り関節が白くなる。

 

 息が浅くなり、心臓は激しく鼓動を打ち始める。

 目を閉じても高さを意識してしまう。足場はふわふわと不安定で、本当の本当に最低の気分だった。

 

 ”個性”『無重力』。霊火にとっての最大の鬼門。

 抗いようのない根源的なトラウマ。高所であることに乗算するようにこの感覚が最悪だった。

 

 何といっても霊火の元の少女の死因は”飛行機による墜落死”。

 その最期の記憶は、まさにこの無重力感そのものだ。

 

「お茶子ちゃん嫌いぃ……」

 

「なしてぇ!?!?!?!?!?!?!?!!?」

 

 麗日お茶子に割と最悪の八つ当たりをしつつ、緑谷の首にしがみつく。

 首筋に顔をうずめてそのまま動かなくなる霊火に、緑谷は提案する。

 

「霊火さん本当に大丈夫!?!? 少し高度落とす!?!?」

 

「……それはいい。 もっと高く上がって……」

 

「ほ、本当に大丈夫デスか……?」

 

 つまりは作戦はこうだ。

 麗日以外の3人に『無重力』を使って、角取の『角砲』で飛ばす。

 1位の1000万ポイントを持ったまま上空に退避して逃げ切り勝ちを目指す。

 

「……これを打ち落とせるのは霊火さんだけだから、だからこそ霊火さんと組んだんだけど」

 

「ご、ごめんね出久くん。 ポニーちゃん、お願いだからぜっっったいに揺らさないでよ!!」

 

「…………分かりマシタ」

 

「今ちょっと迷ったでしょ」

 

 緑谷が霊火を誘ったのは騎馬に必要というよりも、むしろ鬼火に打ち落とされないためというのが正しい。

 障害物競走のVTRで見た『呪い火』の対空能力を高く評価してのメンバー入りだった。

 

 爆豪が緑谷チームを狙えないのも霊火がいるからだ。仮に飛んだとしても撃ち落されてしまうため緑谷チームの高度まで辿り着けないのだ。

 

 そして霊火とて、第2種目まで障害物競走みたいなガチ勝負をしてられない。

 『治癒』が使えず怪我が後を引く上に場に出れば出る程手札が割れていく霊火は、実は可能な限り出し惜しみする必要がある。

 そう言う意味ではピッタリ合う逃げ切り作戦ではあったが、その肝心の『上空へ退避』との相性が悪かった。

 

 もう涙も出ない。

 ガタガタ震えて緑谷に後ろからしがみつくしか無かった。

 

「……下はどうなっているかな。 パッと見た感じ普通に強い騎馬が順当に勝ちそうだけれど」

 

「首筋に顔押し付けてもごもご喋らないで霊火さんくすぐったい!! ……うわあ轟君は完全に防御方針だ……あんな氷の壁貼られたら周りはどうしようもないよ……」

 

「爆豪は?」

 

「…………サポート科の騎馬をぼっこぼこにして全てのハチマキを奪い取っている最中だね。 物間くんえぐいなあ……あの騎馬、『爆破』が二人いるのか……」

 

「……私としては少し残念だけど、爆豪は小手先が通じる相手じゃないからね。 障害物競走でも思ったけれど、あのセンスは普段から訓練を受けていないサポート科ではちょっと崩せないかも……」

 

 ――――――――――

 

 霊火の『ザ・フォール』崩落で、ヒーロー科はかなり足切りされていた。

 

 第2関門をロープを使わずに正面突破したのは17人(蛙吹、飯田、麗日、瀬呂、常闇、爆豪、轟、緑谷、峰田、八百万、殻木、塩崎、角取、円場、物間、柳、取蔭)

 ロープを使って突破したのは7人(尾白、切島、障子、拳藤、鉄哲、上鳴、宍田)

 

 この第2関門を抜けた24名が、そのままヒーロー科の予選突破者となった。

 

 普通科からは心操人使ただ1人。

 そしてサポート科から17人の突破者が出ている。

 

 そしてサポート科からの予選突破者数は過去最高を記録した。

 体育祭の表彰台の悲願の達成まであと少しに見えたが、それもここまでだった。

 

「おらぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!! そんなチャチな道具で、この俺に、勝てると思ってたか、おらぁ!!!!!!!!!!!! 死に晒せぇ!!!!!!!!!!!!」

 

「爆豪少し落ち着けって……」

 

「緑谷に勝負を逃げられてストレスたまってる? ウラメシイんだけど……」

 

 『爆破』『コピー』『ポルターガイスト』『硬化』

 攻防が非常に高いバランスで揃ったこの騎馬を崩すのはそう簡単なことではなかった。

 

「ウェー――イ!!!!!!!!!!!! 俺相手にメカは無理っしょ!!!!!!!!!!!!」

 

『クスン……コイツ怖イ……』

 

「頼む黒影!!! ガードだけに専念して持ちこたえてくれ……!!」

 

『帯電』により最強の機械耐性を確保した轟チームは、早くも守りに入っていた。

『エンジン』で機動力の確保。『黒影』と『半冷半燃』を防御に使い対応力も最高水準。

 時折攻撃に出ながらも、安定して開幕から上位をキープし続ける。

 

「おいそこの騎馬!! それは無しだろ!! いい”個性”があれば何でもやっていいって思ってそうだなぁ……!!」

 

「ルールには反して…………?」

 

『そのままその腕を開け』

 

「は? え、おい障子⁉ どうした!?!?」

 

「もらったッ!!! よっしゃぁ!!! ナイス心操!!!!」

 

『洗脳』を有する瀬呂チームは隙を見ては初見殺しでポイントを奪取し、確実に点数を積み重ねていた。

 

『試合時間は残り5分!!! しかし勝負は既に決まったか!?!? 結局、結局ヒーロー科が強い!!!! というかさっきから無双している爆豪と轟の騎馬を誰か止めろぉ!!!!!!!!』

 

『……サポートアイテムが軒並み上鳴にやられるのがサポート科の苦しい所だな。いい工夫を感じる素晴らしいアイテムもたくさんあったが……実際に現場でヒーローが”個性”相手に戦う事がどういう事なのかを経験し、是非ともこれからに役立てて欲しい』

 

 ――――――――――

 

 【騎馬戦】結果

 

 1位・緑谷チーム

 2位・爆豪チーム

 3位・轟チーム

 4位・瀬呂チーム




発目は力をためている……
お茶子がありとあらゆる意味で天敵になってる

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