殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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028:家庭の事情とトーナメント

 そんなこんなで緑谷出久と殻木霊火は、無事に最終種目への切符を手にした。

 

「うぅ…………二度とやらない……」

 

「霊火さん大丈夫だった……?」

 

 地上に降り立った緑谷チームだが、霊火は緑谷に背負われたままだ。

 少女は男の子の耳元で内緒話をしながら、グラウンド端に置いてある車いすまで運んでもらう。

 

 ようやく地に足がついた安心感に、霊火は車いすの背もたれに深くもたれかかった。高所での緊張から解放され、ほっと息をつく。

 

「ナイス作戦でした緑谷クン!」

 

「いやあ良かったよデクくん! 勝敗は、戦う前から決まっている! だね!」

 

「いやいや今回は二人のおかげだよ! 僕は作戦を考えただけで今回は何も……」

 

 角取と麗日が緑谷に駆け寄ってきて、勝利を分かち合う。

 霊火は緊張からの解放でやや放心気味だが、それでも勝ちは素直にうれしい。

 

 緑谷の作戦は理想的だった。

 対空砲火の届かない超上空まで逃げ切り、1000万ポイントを守り抜く。

 一戦目の障害物競走とは違う完全なる頭脳戦での勝利を収めた霊火たちだったが、その間に地上でもまた大きなドラマがあったようだ。

 

「来年、来年またここに来よう! また準備してここに来てリベンジしよう!

 

「「「おう!!!!」」」

 

 グラウンドではサポート科の、筋肉隆々の"例外くん"が漢泣きに泣いていた。

 霊火もサポート科で勝ち進む可能性があるとしたら、メカニックの癖に何故か自前の筋肉を持ち合わせた”例外くん”とその周りの筋肉ムキムキマッチョマン御一行チームだと思ったのだが、悲しきかな、彼らの所持ポイントはゼロポイントだ。

 世の中には筋肉だけで解決できないこともある。オールマイトレベルになると少し話が違ってくるが。

 

 なんかやたら熱い空気が漂う一帯から目を逸らして、第2位、爆豪チームを見た。

 

「爆豪はさあ……」

 

「かっちゃん……」

 

 折寺中出身の二人は仲良く呆れた声を出した。

 金髪の爆発頭は何本もの鉢巻を首に掛け、全体的にイレイザーの捕縛布みたいになっていた。

 見られていることに気が付いたのか物凄い目つきで緑谷と霊火の事を睨んできたので、慌てて目を逸らす。

 

「ん……もしかしてだけど私たちが相手しなかったから、腹いせでサポート科をいじめてたのかな?」

 

「多分……かっちゃんは完全主義だから相手に逃げられて手出しが出来なかったストレスが……」

 

 相変わらず凶悪な幼馴染だった。霊火の小学校にあんな奴はいなかったと断言できる。

 去年の折寺中学校が魔境すぎる。雄英体育祭障害物競走の上位4位の内3人が同じ中学校なんてどれだけの進学校なのだという話だが、あの学校はただの地元の公立である。

 そもそも霊火が京都から静岡に拠点を動かした理由の一つはドクターの”孫”の……

 

『1時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!! じゃあな!!!!』

 

 確か予定表では、騎馬戦→昼休み→レクリエーション→最終種目といったスケジュールだった。

 

「障害物競走の後に90分も時間あったから、昼ご飯の時間設定が遅すぎない?」

 

「僕もうお腹ペコペコだよ……もしよければ麗日さんと角取さんも一緒に食べない?」

 

「あ、ごめんデクくん!! 私たちさっきの90分でもう食べちゃったの!!」

 

「あ、ううん! 全然気にしないで!! それじゃあ霊火さん行こう? 早くしないと食堂凄い混みそうだし……」

 

「じゃあねえお茶子ちゃん、ポニーちゃん。 レクでまた会おう!!」

 

 霊火はひとまず彼女らに元気に手を振る。

 それじゃあ食堂に行こうかと緑谷と視線を躱した瞬間、更に話しかけられた。

 

「緑谷、殻木、ちょっといいか?」

 

「轟くん? どうしたの?」

 

 こういう普通の話しかけ方も出来るんじゃんと思いながら轟を見る。

 彼は体育祭前と比べてどこか吹っ切れた顔をしていた。

 

 霊火ははあと息をついて提案する。

 

「場所移そう? あんまり大声でする話でもないんでしょう?」

 

 ――――――――――――

 

「まず最初に……殻木、障害物競走の時はありがとう……ございます」

 

「なに畏まってんだこの人。 別にいいよそれは。 そもそも最初の不意打ちが私発案だし、これで感謝されてもマッチポンプで微妙な気持ちになるの」

 

「いや、あの肘打ちを受けたのは俺の甘えだった。 それについて気に病む必要は全くない」

 

 霊火はそのことについては一ミリも気に病んではいないのだが、そこを突っ込むと話が永遠に進まなそうなので一度スルーする。

 

「……お前らには話しておきたいことがある。エンデヴァーと……この火傷の話だ」

 

 ――――――――――――

 

(概ね轟冬美から聞いた話と同一だったけれど……見え方の違いか、受ける印象もだいぶ変わってくるな……。 それに男の子って普通女親の味方をするものだし……)

 

 荼毘の記憶まで合同すると轟家の地獄度がドンドン高まっていくのが真面目に怖いが、とにかく轟焦凍は障害物競走では少し父親との確執を忘れたらしい。

 

 それにしても轟焦凍目線の話はまだまだ”底”じゃないのが恐ろしい。

 この分だとエンデヴァー目線で見るとまた別のものが見えてくるかもしれない。揉め事というのは誰から聞いたかで印象が違ってくるものなのだ。

 

 話のあまりのヘビーさに隣の緑谷が絶望顔になっているが、この辺り霊火はドライだった。

 『死因』なんて”個性”を持っていると、この手の話への耐性が無限に身につく。霊火がこれまでに見た鬼火の中には轟家”以上”の悲劇も普通にある。

 悲劇の比較など虚しいだけではあるが、それでも世界は悲劇で溢れているのだ。

 

「――ところで緑谷お前、オールマイトに目をかけられているよな」

 

「へっ?」

 

 虚を突かれた声を出す緑谷と共に、霊火も思索から急に現実に引き戻される。

 いきなり世界の秘密に物凄い勢いで突っ込んできた轟は、そのままこう言った。

 

「お前、オールマイトの隠し子か何かか?」

 

「え、そうだったの?」

 

「そんなわけなくない!?!?!?!?!?!?!?」

 

 まだ何か隠し事をされていたのかと思ったが、流石に違うらしい。

 引子さんから父親は火を噴く”個性”で海外で単身赴任中と聞いていたのだが、あれが嘘という訳でもないらしい。

 良かった、またしても他所様のお宅の秘密を握ってしまう所だった。

 

「……まあ詮索はしねぇ。 緑谷に突っかかってたのは、オールマイトに目をかけられているお前を超えたかったからだった。 わりぃな」

 

「いや、別に……」

 

「……悪い、一度席を外す。 少し頭がごちゃごちゃしてきちまった……」

 

 そう言って、轟は3人しかいない控室から出て行ってしまった。

 ……微妙に何を霊火たちに伝えたかったのか良く分からない話だったが、おそらく彼もまだ混乱しているのだろう。

 

「……まあ」

 

 霊火は纏めた。

 

「エンデヴァーの”自分が出来ないから自分より優れたものを作る”って考え方は割と私と似通っているんだけど、それを人間でやられると本人の意思を無視することになっちゃうんだよねえ……」

 

「……うん。 でも轟くんは……」

 

「まあそれについては一先ず後にしよう。 あとこれは病院の娘としての忠告なんだけど、他所の家庭問題に頭を悩ますのは色々と良くないよ」

 

 『小さな世界』なんて劇物を日頃から使っているせいか、ついエンデヴァーの”個性婚”に思考が引っ張られてしまう。

 霊火は頭を振って考えを一度放棄する。

 

「まあとにかく、私にとって大事なのは轟が最終種目で炎を使ってくるかどうかだけれども」

 

「霊火さんはその辺りハッキリしてるよね。 僕も本当は見習った方がいいんだろうな……」

 

「だって考えてもみてよ。私、あなた達みたいにお手軽に火傷が治らないんだよ? 正直彼と戦う展開になったら先に降参させてほしいぐらい」

 

「えっ? 霊火さんが轟くんに炎を使って欲しくない理由ってそれだったの?」

 

「なあにその言い方……悪いけれど私にとってこれは勝ち負けとかより余裕で優先されるけれど? 命が懸かった場面ならとにかく、『高校の体育祭で出来た火傷痕のケロイドです~』は流石に経緯が馬鹿らしすぎて一生の後悔モノになるのが確定なの」

 

 ――――――――――――――

 

『あくまで体育祭!!!! ちゃんと全員参加のレクリエーションも用意してんのさ!』

 

「で、なんでチア服なの?」

 

 緑谷と二人で食堂で飯を食べてレクリエーションに戻ったら、霊火以外の1年女子がチアリーダーの服を着ていた。

 見た感じはA組もB組もだ。一瞬霊火が何かの知らせを見逃したかと思ったが、いくら記憶を思い返しても”チア服を着ろ”という指示はどこにも書いていない。

 塩崎とかいう名前の生徒から凶悪な殺意が発現していて超怖い。

 

「霊火ぁ……聞いてよ峰田に騙されたぁ……」

 

「切奈ともあろう人が何で騙されてるの……?」

 

 聞けばA組の煩悩溢れ組、峰田と上鳴が1年女子相手に詐欺を決行したらしい。

 彼らは性欲が発揮される場面のみステータスが上がる系なのかもしれない。生物としては当たり前の挙動かもしれないが、それでチア服というのが何とも高校生らしかった。

 

「ええ……それじゃあそのコスチュームはどこから出てきたの?」

 

「B組の八百万って人の”個性”が『創造』って言うんだけど」

 

「ごめんなんて? 『創造』? そんな”個性”が一年にいるの!?!?」

 

 紫髪の精神感応系といい、とんでもないレア”個性”がその辺にいるのが雄英クオリティだ。

 そんな呆れ顔の霊火の元に峰田が忍び寄ってくる。その手には霊火の分と思わしきチア服があった。

 

「どこ行ってたんだよぉ……ほら、お前も着るんだよ殻木ィ……」

 

「私右脚がアレ過ぎて着替えも一苦労なの。そもそも脚出るミニスカが傷が目立って嫌だし」

 

「…………………………ならしょうがねえか……。 観客は殻木を一番楽しみにしてると思うんだがなあ……」

 

「別にそんな事はないんじゃない? チアって割と適性ハッキリする衣装だし、私より似合う人いっぱいいるよ?」

 

 とにかく一応引っ込んでくれた。峰田にも最低限の良識があるらしい。

 単純に霊火が峰田の好みの真ん中にいないだけかもしれないが。

 

『さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目』

『進出4チーム総勢16人からなるトーナメント形式!! 1対1のガチバトルだ!! さあ、選ばれし16人はくじを引けぇ!!!!』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うわあ轟と同じブロックかあ……上鳴もまあまあめんどくさいなあ……」

 

「心操くんって確か……」

 

「そっちは私と対策しよう出久くん。 貴方、ビックリするぐらい簡単に引っ掛かりそうだもん」

 

 ――――――――――

 

『ヘイガイズ!!!! Are You Ready? 色々やってきましたが、結局最後はこれだぜガチンコ勝負!! 頼れるのは己のみ!!』

 

「相手は心操くんかあ……大丈夫かなデクくん……」

 

「私も超心配……」

 

 我ながら物凄く不安そうな声が出た。

 観客席の車いすスペースからグラウンドを見下ろす。

 

 

『一回戦!! 入試も第1種目も第2種目も1位!! 超優秀な優勝候補!! その割に顔が地味すぎるぞ!!!! ヒーロー科緑谷出久!!!!』

 

『対』

 

『最終種目ただ一人の普通科!!!! 目つきが悪すぎるぞ!!!! 心操人使!!!!』

 

 

「まあ顔は本当に地味だもんね……」

 

「霊火ちゃん!?!?」

 

 それは事実だから仕方がない。ヒーローというのは容姿の良さも結構求められる以上、そこは認めなければならない弱点だった。

 オールマイトですら見た目が整っているからこそ平和の象徴にピッタリハマったという側面も否定はできない。

 

『ルールは簡単!! 相手を場外に落とすか、行動不能にする、『まいった』と言わせても勝ちなガチンコだ!! 怪我上等!! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから、道徳倫理は一旦捨て置け!!』

 

「これ私の時にも道徳倫理を捨てられちゃうと正直滅茶苦茶困るんだけれど」

 

「『治癒』使えないんだよね? 霊火ちゃんも大変だね……」

 

「でも私と戦うヒーロー科の子たちが私の体質を知って遠慮するのもそれはそれで困るんだよね……」

 

 何故なら霊火の方は最初から道徳倫理を持ち合わせていないからだ。こういう場での容赦のなさは恐らく余裕で爆豪を超える。

 だからこそ、相手は遠慮しているのにこっちが全力全開というのは流石に決まりが悪かった。

 

「それで心操くんって問いかけに答えた人を操っちゃうんだよね。でもそれさえ知ってたら怖くなんて……!!」

 

「……出久くんその手の心理戦とかトラッシュトークへの耐性すごく低そうじゃない?」

 

「……霊火ちゃんはデクくんに何かアドバイス伝えた?」

 

「次に私と会うまで誰とも……それこそオールマイトや審判とも一切話さずに口を閉じ続けろ。すべて身振り手振りで意思疎通をしろって」

 

 霊火は呆れ顔で首を振った。

 ああいう手合いの対策は緑谷よりも霊火の領分だ。故に出来れば彼は霊火が潰したかったのだが……やるべきことはやった。

 

『レディィィイ!!!! START!!』

 

「いいなあ緑谷……!!!! そんなお誂え向きにヒーロー向きの力があって!!!! 俺のような”個性”を持った奴の気持ちなんて考えたこと無いんだろ!!!!」

 

「…………………………」

 

 案の定心操は対戦相手を煽り始めたが、それに対して緑谷は真剣な顔でパントマイムをし始めた。

 霊火の指示通りではあったが、あまりの滑稽さにスタジアムが静まり返る。

 

「ええと……『これは……僕の……つかみ取った……力だ……僕も……君……の知らない……努力を……重ねて……来た』かな?」

 

「霊火ちゃんはあれで何で分かるん!?!?!?!?!?!?!?」

 

『お、オイオイどうした大事な初戦だぜ盛り上げてくれよ!?!?!? 緑谷、何故かパントマイムで対戦相手と会話開始!?!?!?!?!?!?!? どうした緑谷!?!?!?』

 

「……っ!!!! おい!!!! ふざけないでちゃんと答えろよ!!!! こっちは真面目なんだよ!!!!」

 

「ええと……『こっちも……真剣……これは……君対策で……ある人が……考えた……方法だ……これで……僕は……君に勝つ!!!!』ですって」

 

「す、すごい……凄いけど物凄くシュールだ……」

 

「……彼の場合は”会話に応じるな”より”パントマイムで返答しろ”の方が受け入れやすいかなと思ったんだけど……。あ、『行くぞ!!!!』だって」

 

「ひゃ~……デクくんの事良く分かってるんやねえ……」

 

 そしてグラウンドでは緑谷がついに勝負を決めに行った。

 

『動いたぞ緑谷!!!! 一歩、二歩、低い姿勢で距離を詰めて、心操の脚をむんずと掴む!!!!』

 

「お、おい!!!! 黙ってないで返事しろよ!!!!」

 

『そのままスイング!!!! 一回転、二回転、三回転!!!! 十分なエネルギーを蓄えてぇぇぇぇ 心操を場外に投げ飛ばした―!!!!!!!!!!!! 心操になすすべ無し!!』

 

「心操くん場外!!!! 緑谷くん、二回戦進出!!!!」

 

 隣で麗日が「やったあ!」と喜んでいるのを感じながら、霊火はまだグラウンドの彼を注視していた。

 

「……っ!!!! クソっ……!! ふざけやがって……殻木の奴が考えたのか……!?!?」

 

「……………………………………………………」

 

「『あの人も……強い……”個性”……だと言って……いた……まだ……警戒は……続ける』かな」

 

「なんでデクくん試合終わったのにまだパントマイムなん?」

 

「心操が”個性”で出久くんに【勝ちを心操に譲ります、と言え】とか指示してきたら面倒でしょ? ”私に会う”まで口を開くなって指示したのはその対策なの」

 

 麗日が感心したかのような声を漏らしながら霊火を見た。

 こちらは少し居心地が悪い。

 

「……霊火ちゃんって本当に頭が良いんだね」

 

「これは性格が悪いって言うんだよお茶子ちゃん」




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