殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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031:本当は……

▶病院地下

 

「思ったよりも自制が効いているのう……もっと過激なテクノロジーが顔を出してくると思ったのじゃが」

 

「そうでしょうか?  彼女も十分すぎるほど強力な武装を持ち込んでいるように思えますが」

 

「その気になれば『血栓』や『金平糖』も持ち込めたはずじゃ。技術的には出せるのに出さないという事は、自重したのじゃろう。考えてみればあの子は昔から雄英体育祭が好きでな……視界を遮る煙幕やガス系が出てこないのはカメラ映りを気にしておるのかもしれんのう」

 

「……あれで自重しているとは恐ろしい話です」

 

「黒霧には分からんじゃろうがな、ワシや霊火は『世界を滅ぼす兵器』程度なら簡単に作れるのじゃ。そしてそれを作ることは大した自慢にもならん。核兵器ですら"個性"黎明期以前の大戦からあったのじゃからな。だからこそワシらのような者は単なる破壊力や強さだけでなく、美的センスとそれぞれのロマンに沿うものを作ることこそが重要なのじゃ。ワシが小型核兵器を作らず、その何千倍ものコストをかけてハイエンドちゃんを作っているようなものじゃ。産み出される破壊力が同じでも、そこにはワシのロマンがある!!」

 

「では、ドクターにとってあの車いすはどうなのですか?」

 

「霊火の奴意外とパフォーマーじゃのう。あの子といえば無音で小型、機能は1つの実用性重視の中に美を見出すイメージじゃったから、あんな派手な変形機構まである多機能芸術品を持ってくるとは思わんかったわい。悪趣味ではあるが割と見栄え重視じゃ。……好きな人でも出来たのかもしれんの」

 

 ――――――――――

 

「かっちゃん……」

 

「爆豪少年……」

 

「爆豪……」

 

 3人で絶句した。

 選手用控室の壁に設置された大型液晶画面には麗日と爆豪の対戦がリアルタイムで映し出されていて、ちょうど麗日が顔面で爆破を受けた所だった。

 

 それでも諦めず爆豪に接近しようとする彼女を見ながら、車いすの少女は嘆息する。

 

「……お茶子ちゃんの”個性”相手に接近したくないのは分かるけれど、それにしてももうちょっとスマートに決められない? これプロヒーローの心証大丈夫?」

 

「彼のあの徹底する姿勢を評価するプロヒーローも必ずいるさ。どんな時でも手を抜かないというのは中々得難い性質だからね」

 

 オールマイト――八木は公平な意見を述べるが、それで大切な友達をボロボロにされる霊火は面白くない。

 麗日にも失礼な考え方かもしれないが、爆豪もあれ程の実力差があるならば別の手段を取って欲しいのが本音だった。

 

「ああそう徹底と言えば……どうしようか私たちの対戦。 一応聞いておくんだけど、出久くんは本気でやるつもり?」

 

「……もちろん全力で行くつもりだよ。 それが心操くんや飯田くんへの礼儀だと思ってる。だけど……」

 

「『治癒』がない私を殴れるかは、出久くんにとってちょっと別の問題だよね……」

 

 爆豪や轟なんかは殺意すら感じる勢いで霊火を攻撃してきたが、緑谷はそうもいかないだろう。

 実態はどうであれ、霊火はたまに小学生にすら間違えられる程華奢で非力な女の子なのだ。

 些細な事ですぐに痣も出来るし内出血もやたら痛々しい感じになる。しかも『治癒』が使えないため、傷跡も残り続けるおまけ付きだ。

 緑谷がそんな少女を、試合とはいえちゃんと殴れるのかには大いに疑問が残るところだった。

 

「……教師としてはもちろん、全ての生徒が全力で取り組んで健全に競い合って欲しい所だが……」

 

「……私もちょっと難しいかも。轟にやったような戦法を出久くんに対して取るっていうのもなあ……」

 

 この場合、『轟にやったような戦法』というのは足を金属塊で踏み潰すなどといった行動の事だ。

 あれを麗日にやれと言われたら最悪可能だ。何ならその辺を歩いている小学生にも一応出来る。

 しかし緑谷にだけは難しかった。こればっかりは殻木霊火の根本的なモチベーションに関わる。

 

「……まあ程々に本気ぐらいでいくつもりだよ。折角だから楽しみましょう出久くん」

 

「……!! 怪我には気を付けるけど、僕も全力で行くからね霊火さん!!」

 

 そんな会話をしていると外から突然大きな歓声が響き渡った。

 控室にいる三人は思わず息を呑む。

 

 数秒遅れて壁の液晶画面で試合結果が表示される。

 霊火は呆れ声を出した。

 

「結局お茶子ちゃんの全ての策を正面から破って、完封したままスタミナ勝ち? あいつの完全主義もここまでいくと病的だね」

 

「……霊火さんってかっちゃんと何かあったの? だいぶ辛口じゃない?」

 

「同族嫌悪。容赦のなさとか気の短さとか思考回路とか、私と爆豪って割と似た者同士なの。……そう考えると出久くんってこういうタイプと縁があるのかもね」

 

 その割に霊火自身は完全主義とは程遠い。

 霊火は過程を問わないのだ。典型的な『結果良ければすべて良し』タイプである。

 多分その辺りが爆豪と嚙み合わない原因なんだろうな、と少女は自己分析した。

 

 ――――――――――――――

 

「物間の『コピー』、複数の”個性”をストック出来るんだ……普通にヤバくない?」

 

「上鳴くんに加えて柳さんのコピーまで……!!!! 常闇くんの『黒影』に完全なメタを張ってる……!!」

 

 ……『複数の”個性”を使える身体』というのは霊火の趣味には合わないが、ドクターが滅茶苦茶欲しがりそうな被検体だった。

 そしてあの“個性“を『条件を満たせば別の“個性“の挙動を取れる“個性“』と解釈するならば、やりようによっては望む“個性“を引き出せるワイルドカードになり得る。割と物間家最大のピンチかもしれない。

 ハッキリ言って黄信号だ。ここから物間一族が皆そろって行方不明など全然あり得る。

 そして脳無になって再登場というコースが普通に現実的なのがドクターの怖い所だ。

 

(……あのご老体、テレビの前で大興奮してないといいけれど)

 

 ドクターが物間に手を出すとしても、霊火が彼の為にしてあげられることなど無いに等しい。

 現状、霊火とドクターの間は単純に戦力差が激しいのだ。

 あのご老体周りだと、例えばあの巨人が出てきたりした場合は霊火も泡吹いて倒れるぐらいしかすることがない。

 少女は物間とその家族の平和を、心の中で3秒間ぐらい祈った。

 

「……緑谷少年、殻木少女。 時間だ。そろそろ行こう」

 

「!! 了解ですオールマイト!!」

 

「は~い」

 

 ――――――――――――

 

『さあそろそろ終わりが見えてきたぞ!!!! 出身中学校も障害物競走も騎馬戦も一緒!!!! なんなら入学試験も一緒に受けていたぞコイツら!!!! そんな仲良し同士の対戦カード!!!!』

 

「え、凄い恥ずかしいんだけれど出久くん……」

 

「ちょっと照れちゃうね……」

 

 スタジアム全体が轟くような歓声に包まれた。観客席から響く声援が波のように押し寄せる。

 ……霊火としては顔を手で覆って帰ってしまいたい程の恥ずかしさなのだが、気合で耐える。

 

『堂々の優勝候補!!!! ビジュアルに華が無くとも圧倒的実力派!!!! 身一つでここまで勝ち進んで来た、入学試験実技1位!!!! ヒーロー科、緑谷出久!!!!』

 

『対』

 

『こちらも優勝候補!!!! 圧倒的ビジュアルから繰り出される超凶悪な攻撃の数々!!!! ”個性”もアイテムも超強い入学試験ペーパー1位!!!! ヒーロー科、殻木霊火!!!!』

 

「……霊火さんと海浜公園で会った時は。まさかこんな日が来るとは思ってもみなかったよ」

 

「それはお互い様だよ。そもそもあの時、私は雄英に行くつもり無かったもん」

 

 あの夜は、まさに運命の夜だった。

 彼が思う以上に、少女にとっては特別な日なのだ。

 

『さあ準決勝!!!! START!!!!』

 

 開始の合図と共に、ばちり、という鋭い音が響いた。

 しなやかな指が空気を叩き、鬼火が緑谷に向かって放たれる。上鳴の時と全く同じ、先制攻撃での場外狙いの一撃。

 

 そして霊火の初手を完全に読んでいた緑谷は、ステージに向かって全力で足を踏み込む。

 轟音が鳴り地面に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。その衝撃で足首まで地面に埋め、緑谷は低い姿勢を取った。

 直後鬼火が着弾する。強烈な衝撃が緑谷の全身を叩くも地面に刺さった脚が支えになり吹き飛ばされるようなことは無い。

 

 その後間を置かず、ドンッ! という音と共に緑谷の体が一気に加速して霊火へと迫った。

 

 そして霊火は、彼の動きに全く反応できなかった。

 

 手加減や油断はしていないつもりだった。

 ただ緑色の稲妻のような速さで飛んでくる緑谷の動きが想定の何倍も速く、視線も思考も追いつかなかった。

 

 霊火は気付いた時には既に懐に潜り込まれ、彼に胴を抱え込まれて車いすから引き離されていた。

 

 地面に押し倒され、背中を打って息を詰まらせる。

 グローブをつけた霊火の両手は彼の右手だけでステージの上に抑え込まれ、右脚は緑谷の体重を掛けられ全く動かせない。

 ……霊火の頭の下に左手を添えて、後頭部を地面へ打ち付けないようにする配慮の余裕さえ彼にはあった。

 

 彼の踏み込みで舞い上がったスタジアムの砂埃が、二人の周りにゆっくりと降り注いでいく。

 少女は上から覆いかぶさる緑谷の姿を、ただ茫然と見上げていた。

 

 信じられないといった表情で、少女はただ瞬きをした。

 

「負……け……?」

 

「…………」

 

「……参りました。 出久くんの勝ちだよ」

 

 

「……っ! 殻木さん降参!! 緑谷君決勝進出!!!!」

 

『瞬殺!!!! 緑谷、一瞬で決めた!!!! 車いすから引き離し、殻木に何もさせずに無力化!!!!!!!!!!!!』

 

『……やはり殻木は近距離戦が鬼門だったか。緑谷も一瞬の隙を最大限に活かしてそのまま持っていったな』

 

 緑谷に支えられ、霊火はゆっくりと背を起こす。

 砂埃の舞うステージで、しばし二人は向き合っていた。

 

「……そっか。私、もう出久くんに勝てないんだ」

 

「霊火さんが工房にいる間、ずっと鍛えていたんだ。……霊火さんに勝ちたかったから、見せないようにしてた」

 

「一瞬だけ”個性”の出力を大幅に上げてスピードを速めたの? それちょっと無理してるでしょ」

 

 霊火は困ったように笑った。

 座ったまま、右脚のかかとを軽くかんかんと地面にぶつける。

 それだけで金属製の義足がぱかりと開き、脚から外れた。

 

 その中から現れたのは白い包帯が巻かれた、歪な形の細い脚だ。

 緑谷はそれをちらりと見たが、苦しそうな顔ですぐに視線を逸らす。霊火はすぐ脚を動かして体操着の裾を降ろし、周りから見えないようにした。

 

「退場するときは抱っこしてね」

 

「え、別にいいけど……」

 

 パチンと指を鳴らした。

 

 金属製のギプスと、転がっている車いすのどちらも燃え始めた。

 

『な、なにぃぃぃ!?!?!?!? 殻木!?!?!? も、勿体ねええぇぇぇ!!!!!!!! せっかくの車いすとギプス、もう用はないとばかりに焼却処分!!!!!!!!』

 

「れれれれれれ霊火さん!?!?!?!?」

 

「もう……いいでしょ? 私の物なんだから」

 

 2つの制作物が完全に燃え尽きて塵になったのを見て、霊火は息をついた。

 今回はちょっとはしゃぎ過ぎた。もう色々と限界だ。そろそろ退場しないとマズい。

 霊火が軽く目配せすると、彼は霊火の状態に気が付いたようで顔色を変えた。

 

 緑谷は、片腕で背中を支えもう片方の腕を膝の下に回しお姫様抱っこの形で霊火を抱え上げる。

 霊火の方も両腕を彼の首に回し、胸元に身を預けた。

 

『お? お……と、とりあえず両者の健闘を讃えてクラップユアハンズ!!!!』

 

 ありがたいことに、プレゼントマイクはお姫様抱っこに言及することは無かった。彼が取り上げる事柄と取り上げない事柄の違いが分からない。

 観客席からの拍手の中に先程までとは別に意味のどよめきが走るが、そのまま霊火たちはグラウンドから退場していった。

 

 バックヤードに入り、緑谷は慌てたように腕の中の少女に語りかける。

 

「霊火さん……!! 体調悪い!?!? いつから無理してたの!?!?」

 

「轟戦の後から……ずっと堪えてたけど、なんとか貴方と戦う所までやれて良かった」

 

「……っっ!!! リカバリーガールの所まで行くから待ってて!!!」

 

 スタジアムの喧騒が徐々に遠ざかっていく中、2人は会場に設置された保健室へ向かう。

 

(……っ!! 最悪……これ多分心拍数とか下がってる……無理しすぎた……!! 緊張が途切れた途端これとか反動が洒落にならない……!!)

 

 轟戦で『摂生』を切ったのがマズかった。

 発目に挑戦されて、思わず全力を出してしまった。

 

 霊火は虚弱体質だ。元が死体であるが故に”生きる力”が致命的に弱い。

 生命力を2倍にする『摂生』込みでも『治癒』を受けられないレベルの、筋金入りの虚弱さなのだ。

 

 そんな体質で『摂生』を切り、あれほど活動したら反動も甚大な物になるに決まっている。

 

(ああもうこの感情に任せて後先考えなくなる所、ちゃんと直さないとそのまま命を落とすよ私……!!)

 

 一瞬、霊火は自分の思考のどこかに絶大な違和感を感じ取ったが、それが形となる前にその影を見逃してしまった。

 

 抱きかかえられたまま保健室に入ると消毒液の匂いがツンとした。

 実に都合がいい事に保健室には誰もいないようだ。おそらく、怪我人たちは無理してでも試合を見に行ったのだろう。

 緑谷がリカバリーガールに軽く説明をし、その後霊火はすぐにベッドに座らせられる。

 

 彼は霊火の目の前にしゃがみ込み、視線を合わせて心配そうに聞く。

 

「霊火さん大丈夫!? 熱は無さそうだったけど……」

 

「……海浜公園でも時々やらかしてたあの体調不良だと思って。 ちょっと今日は頑張り過ぎたかも」

 

「……霊火さ」

 

「はいはい、ここまで運んでくれてありがとう出久くん。 貴方は早く控室に行かないと」

 

 何か言いだそうとした緑谷の頭を撫でて話を遮る。

 

 心配そうな彼を見て、少女は愛おしそうに笑った。

 そして少し言葉を選んでこう切り出す。

 

「アドバイス。物間はともかく爆豪は、同じ中学だから入試実技は別の会場だったでしょ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()0()()()()()()()()。私が言っている意味が分かる?」

 

「……っ!! でもそれは……」

 

「勝ちたいでしょ? なら本気出しちゃえ私が許可する。 ……必ず一度のチャンスで勝負を決めること。初手はお勧めしないけれど、出し惜しみして途中で悟られないよう注意すること。狙い所は相手の大技に合わせることかなあ……最大出力で負けることだけは絶対に無いから」

 

 ここまで”早く試合に行って”と暗に促しても、緑谷はそれでも霊火の事が心配なようでこの場から動かなかった。

 ……それはそれでとても嬉しいけれど、彼が決勝の場で勝負に集中できないのも悪い。

 

「もう……心配性だよ貴方。 大丈夫、いつも明日には治ってるの」

 

 これは希望的観測だった。

 心配性の想い人を元気づける為、少女も小さな覚悟を決めた。

 

 霊火は彼に腕を伸ばして抱き寄せて、そのまま頬にそっと口づけする。

 解放して彼を見ると、流石の緑谷も放心状態だった。

 一方の霊火は恥ずかしがっている余裕が無い。本格的に体力が尽きるまでの間に彼を送り出したい。

 

 何が起きたのか分かっていないという感じの彼の前でバチンと指を鳴らして覚醒させつつ、霊火は苦笑した。

 

「頑張れ出久くん。 このままここにいたらもう1回キスするよ」

 

「!?!?!?!?!?? ぼ、僕行くよ霊火さん!!!!!!!! 頑張ってくる!!!!!!!!」

 

「頑張れ~~~!!」

 

 何とか緑谷の背中を押すことに成功し、部屋を出る彼を見送って霊火はそのままばたりとベッドに倒れ込む。

 本当に限界だった。

 

「青春だねえ……私は胸焼けしそうだったよ」

 

「彼の事が好きなので。ビックリするぐらい一方通行ですけれど」

 

「あれだけやってもかい? あんたみたいに可愛い子にあれほど尽くされたら、大抵の男の子はコロッと落ちそうなものだけどね」

 

「……シンプルに私が好みのタイプじゃないからかなって思ってるんですけれど……。まああれだけやっても脈が無いから逆に何でも出来るというか……」

 

 しれっとやって来たリカバリーガールと会話する。

 渡された体温計を受け取りつつ、霊火は彼へのあまりの脈の無さに首を捻った。

 万が一、本当に万一緑谷に交際を申し込まれたら霊火は絶対に断わらないのだが、それはそれとして脈は相変わらず無い。

 案外、彼も今は将来に向けて頑張る時だと自制しているだけの話かもしれない。それか、どこかで霊火の本性に勘づいているとか。

 

 一度死んでいる割に妙に高めの平常体温通りの数値が出た体温計をリカバリーガールに返した頃、保健室の扉がノックされた。

 入ってきたのは八木だった。

 

「殻木少女!!! 緑谷少年から聞いたが……」

 

「元気ですって感じではないですが、まあ大丈夫です。 出久くんはどうでしたか?」

 

「オーラが見えそうなぐらいやる気十分だったが……」

 

「…………」

 

 彼も割と単純だった。緑谷らしいとも言える。

 リカバリーガールと呆れ顔で顔を見合わせる。八木は不思議そうな表情だった。

 

 校医は患者に菓子を渡すと、そのまま真剣なトーンでこう切り出した。

 

「この際だから言わせてもらうとね、あんた、その体力じゃヒーローは厳しいよ」

 

「まあ……そうですよね。 私も薄々分かっていました」

 

 霊火は弱々しく微笑んで答えた。

 八木の方をちらりと見るが、№1ヒーローは否定も肯定もしなかった。

 

「無理は禁物だよ。……”個性”も”頭脳”もあるのに人並みの生命力だけが無いなんて、世の中上手くいかないものだね。 それにあんたの場合はサポート科とかの方が得意を活かせるんじゃないかい?」

 

「あれだけやっといてなんですけど、機械いじりは別にそれほど趣味じゃないんです……」

 

 窓から差し込む日の光が、保健室を優しく包み込む。

 静寂を破ったのは八木だった。

 

「今のヒーローには色んな形がある。誰もが私のようなヒーローを目指している訳じゃない。人より体力が無いからと言って諦める必要は無いかもしれないよ」

 

「……オールマイトがそういう事をいうのも意外ですけれど。タレントとかアイドル系のヒーローって事ですか?」

 

「HAHAHA!!! 私は多様性にも配慮出来るヒーローだ!! ヒーローに求める形も時代で変わる!! ならば時代に置いていかれない努力もするさ!!」

 

 オールマイト何故か一瞬だけマッスルフォームになると、笑ってそう言った。

 そして八木の姿に戻り、こう続ける。

 

「いや実際ね、君は知っているかな? 少し前まで私には相棒(サイドキック)がいた。彼もまたプロヒーローだったが、その優れた頭脳で私をサポートしてくれた。まあ随分と助けられたよ」

 

「『ナイトアイ』ですか? ……喧嘩別れって噂ですけれど」

 

「HAHAHA!!!!!!!! まあそういう話もある!! ……しかし殻木少女、君もまた彼と同様に凄まじい頭脳の持ち主だ」

 

 霊火は、この話がどこに繋がるかを悟った。

 オールマイトは話し続ける。

 

 「……もしよければ……将来的にはあの少年の。 優しいが、少し甘い所がある彼のサポートとして、彼の相棒(サイドキック)として活動していく気はないだろうか……?」

 

 ギシリと、罪悪感で霊火の心が軋んだ。

 泣きたくなる程理想的な自身の未来の情景を心に描いて、霊火はそっと目を伏せる。

 

 ……霊火だって、本当はそれがいい。彼と一緒になりたい。

 溢れ出る感情に耐えきれなかった少女の声は、少し震えていた。

 

「……そんな風に、なれたらいいな……」

 

「……まあじっくり考えてくれ。君の場合、ヒーロー資格を取るぐらいまでならばそこまで苦労はしないはずだ」

 

 八木がどういう風に霊火の言葉を受け取ったのかは分からなかったが、とにかくそこが少女の最後の記憶だった。

 

 ここで、霊火の体育祭は終わった。




次回は目を覚ました後からです
描写出来なかった試合は後から回想とかで出てくる感じです

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