殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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043:タイタニック

「ばかばかばか!! どうして貴方は何かあったらすぐに現場に走って行こうとするの!!」

 

「だって霊火さん!!!! 皆を助けないと!!!」

 

助ける対象が雑だなあ!!!! それで私がどれだけ酷い目にあったのか知ってるでしょ?!?! 人を助けて逮捕とかバカらしいから一旦落ち着いて?!?!」

 

 極大サンショウウオの氷ブレスがベランダに到達する寸前、緑谷の服を引っ掴んで室内に引き倒した。それで少年を氷漬けから回避させた霊火は少年をフロアに押さえつけながら叫ぶ。

 そして外に飛び出す少年と揉み合いになり、フロアの上でドッタンバッタン大騒ぎだ。

 

 ベランダの外は一面凍りついて真っ白だ。

 

「ホテルのベランダにいた人たちだけでも解放しないと!! 多分皆固まって動けなくなってる!!」

 

「……まあそれぐらいならいいけどお……」

 

 彼の場合絶対にそれだけじゃすまないのが目に見えていた。

 

 2人して立ち上がる。

 再度、街をこんなことにした霊火のサンショウウオを見ると、かの存在はちょうど町中に降りようとしているところだった。

 

「なんだあれ……」

 

「誰かの“個性“かな……? 巨大化……? いやだとすればこの氷結攻撃は……」

 

(ああなるほど、何も知らない人から見たらこれ誰かが巨大化しているように見えるのか……)

 

 霊火はうっかり口を滑らせないように気を付けつつ、自分の作品の様子をチラチラと観察する。

 

 そして短い脚をドタドタと動かして進軍を開始しようとした極大サンショウウオが、唐突に側面から極太のビームに貫かれて真っ二つになった。

 

 ガッシャーン!!!!!!!! と、特大のシャンデリアが落下したかのような爆音が響き渡る。

 

「ゴジロの放射火炎だ!!!!!」

 

「大丈夫なのそれ?!」

 

 緑谷の解説によると、ゴジロのそれはそういう技名というだけらしい。

 日本で活動しづらいってまさかそう言うことだったのかといらぬ邪推をする霊火だったが、その間にも状況は動く。

 

 土手っ腹を撃ち抜かれて頭部と尾部で2つになった極大サンショウウオだったが、全くのタイムラグ無しにその両方がギュルンと変形して、別物になった。

 

 頭部は特大のヒキガエルに。

 

 尾部が特大のコウテイペンギンに。

 

(……ヒーロー……ちゃんとしてくれないと困るなあ……。 分かりやすい低温生物どもにかまけていると、あっという間に詰んじゃうよ?)

 

 どちらも全長800メートル級。

 小さめの山みたいなスケール感の動物たちはそれぞれ周囲を見回して。

 

 蛙はその両脚に力を込めて1000メートル級大ジャンプを始め。

 ペンギンは腹這いになって凍りついた街を勢いよく滑走し始めた。

 

 ―――――――

 

 三重攻撃の、二撃目。

 山みたいな大きさで分かりやすく大暴れする動物たちに目を奪われているならば、それは霊火の術中だ。

 

 実はあのサンショウウオは大して強くない。

 なにしろ正体は凍らせた海水でしかないので、当たり前ながら氷の強度しかないハリボテなのだ。

 彼らが全力で攻撃してもコンクリートの建物にはまともにダメージを与えられないし、硬いものにぶつかったら氷の生き物の身体が砕ける。

 生身の人体をプチっと潰したりしない限り基本的に無害な存在なのだ。

 

 とにかく低温である限り復活し続ける物理無効体質こそ強烈だが、見た目程強力ではない訳である。

 

 むしろ第一攻撃。

 

 グンタイアリにチャバネゴキブリ、ノミにナメクジといった小さな氷の生物たち。

 それらをアイランド内部に潜り込ませる初撃の方が脅威度としては上だろう。なにしろ配線という配線を噛みちぎり、その身体を溶かしてそこら中を故障させ、電気系統を全てダウンさせてしまう極悪攻撃なのだ。

 

 アイランドの設計者はセキュリティ構築に当たって侵入者と情報戦でもするつもりだったのかもしれないが、霊火はそれに付き合わない。

 物理的なセキュリティ破損。

 文字通りの“バグ“でもって迎撃システムを機能停止に追い込んだ第一攻撃は既に成功してしまっている。

 これがなければサンショウウオなど銃火器と爆発物の嵐を前に、アイランドに辿り着くことも叶わなかっただろう。

 

 そして第三攻撃。

 これこそが本命。霊火が用意した渾身の意外性。

 

 アイランドの住民を端から端まで恐怖のどん底にまで叩き落とす、究極の悪趣味をご覧あれ。

 

 ――――――――――

 

 ガコォン……と。

 世界で一番不気味な音が、足元から響いた。

 

「は……?」

 

「次から次へと……?!」

 

 エレベーターが上がっている時のような感覚。

 足元が持ち上がるような重量感と共に、ホテルの備品のベッドやテーブルが一方向にズルズルと動き始める。

 

 周囲から大きな悲鳴が何個も響く。

 状況を理解した緑谷が、頭を振って呻いた。

 

「う、嘘だろ……? 傾けてる……?」

 

「本気かあの両生類……!!」

 

 傾斜3度、4度、5度。

 平坦な地面が、段々と坂道になっていく。

 

 I-アイランドは、学術“移動“都市だ。

 海上に固有の位置を持たない、陸と接続されていない島。

 実際の所そこまで単純なものではないが、機能としては“船“に近い。故にこのような攻撃も可能である。

 

 そして緑谷は言った。

 

「……いや違う霊火さん!! これは海だ、多分海の中から氷山みたいなのを作り上げてこの島を持ち上げているんだ!!」

 

「うっそでしょ⁉」

 

「……多分本体は海だ。つまりあのサンショウウオやペンギンは囮……海中の安全圏から何らかの手段で操っているからあれをいくら叩いても意味が無い。これを収めるには海の中の本体を叩かないと……」

 

(…………完璧。いくらなんでも勘の良さだけで説明できない……もしかして私の思考パターンに接しすぎたか……?)

 

 緑谷の推理は、あまりにも完璧だった。

 今回のアイランド攻略戦は、分かりやすい攻撃手段をチラつかせて全く別枠の本命で決めに行く霊火の癖をハッキリ反映している。……無意識のうちに霊火のロジックを敵に当てはめているのかもしれない。

 

 緑谷の言う通り、この攻撃を仕掛けている【開拓主義】の本体は海中にある。

 つまりこの攻撃の正体は、アイランド”下”からの氷結攻撃だ。

 

 アイランドの真下に氷山を生成し、その上にアイランドを乗せる形でバランスを崩す。

 つまりはアイランドそのものを沈没させてしまおうとしている途中なのである。

 

「……霊火さん、やっぱり僕行かないと」

 

「さっきまで人を助けるだけとか言ってたくせに……。まあ聞いてくれるだけマシか……」

 

「ごめん霊火さ」

 

 ぎゅうっと。

 何か謝ろうとしてきた彼の事を抱きしめて、パッと離した。

 

 少女は諦めたかのように首を振って、弱々しく笑った。

 

「はいはい。いってらっしゃい出久くん。……無事に帰って来てね」

 

「……!! いってきます!!!!」

 

 ドンッ!!! と。

 

 霊火の元を去って行った彼を、少女は心配そうに見送った。

 

(…………私の“匂い“はつけてあげたから、死ぬような事はないはず)

 

 今回の[Class5:pioneerism]は完全な独立稼働状態だ。

 そして自動操縦の低温動物たちがうっかり霊火に攻撃を仕掛けないように少女は自身にある種の香水をつけていた。

 この無臭の香水がついた人物を、動物たちは全力で攻撃しないようになっている。このためだけに氷だけで成立する嗅覚器官の開発をした甲斐があった。

 香水はもちろん水中でも落ちないようになっているため、彼が氷のシャチに噛み千切られて死ぬような事はないだろう。

 

 ……自分でも緑谷に甘すぎると思う霊火だったが、別にこれぐらいなら計画の範疇だ。

 実はここに霊火がいる以上、今回の攻撃も本当にアイランドを海底に沈める所までやるつもりはなかったりする。

 そして別に【開拓主義】自体は破壊してしまっても構わないのだ。

 

(うーん……この際出久くんが無事に勝ってくれる方が収拾をつけやすいかも)

 

 そんなことを考えながら、霊火は再度ベランダから道路を見下ろした。

 ちょうど体高5メートルほどのゴールデンレトリバーが楽しそうに走り込んでくるところだった。

 

「わあ!!! 逃げろ!!! 早く逃げろ!!!! 殺されるぞ!!!!」

 

 安全な室内から屋外に逃げている判断ミスをした観光客に元気よくじゃれつき大きな悲鳴を上げさせていた。

 氷の塊だってのに毛並みがやたら滑らかでフサフサな感じだった。

 

 大型トラック程もある超大型犬が、観光客に遊んでもらおうとしっぽを振りながら凍った路面をスライディングするのを見て、少女はものすごく微妙な顔になった。

 

(…………………………戦闘用じゃないからなあ。流石にあそこまでフレンドリーにした覚えは無いんだけれども……)

 

「だ、大丈夫なのか……? おい、お前はこっちを攻撃してこな……うおっ?!?!? 舐めてくるな冷たい?!?!?!?! 舌が顔に貼り付………痛たたたた!!!!!」

 

 じゃれつかれた観光客が悲鳴を上げながらも必死に顎の下を撫でると、真っ白なレトリバーは千切れんばかりにしっぽを振り回す。

 如何せん大きさが大きさなため人をパクっと咥えておもちゃみたいに振り回しそうな危うさはあったがどうやらこっちで設定したセーフティがちゃんと働いているらしい。

 

「痛たたたた落ち着け!!!!!! 撫でてやるから!!!!! ほぅら、よしよしよしよし!!!!!!」

 

 人間様に撫でられたひんやりレトリバーはそのまま路上で腹を見せてひっくり返った。

 そして霊火が見る間に、様子がおかしいことに気が付いたホテルの宿泊客たちが恐る恐るといった感じで超大型犬に近づいていく。

 

 すぐに動物園のふれあい広場みたいになる現場を見て、少女は思いっきり困った顔をした。

 

 「……意思を持った雪だるま並みの悲しい結末になりそうだけれども」

 

 すぐに溶けて消える儚い命。

 あまり感情移入すると余計な精神的ダメージを喰らうこと間違いなしである。

 

 ――――――――――

 

「少年?!?!?!」

 

 海岸近くの前線にて60メートル級ハナカマキリと対峙していたオールマイトだが、緑のスパークと共に海に向かって全力疾走する愛弟子の姿を見つけてしまって思わず叫ぶ。

 

 緑谷は敬愛する師匠の方をちらりとみて、走りを止めずにこう言った。

 

「海の中ですオールマイト!!! 本体は海の中にいます!!!」

 

「なんだって?!?!?!」

 

 静止する間もなく少年はアイランド外周部の壁を駆け上がり、向こう側に消えていってしまった。

 

「ったく……!! もう少し詳しく状況を説明するよう教えないといけないな!!!」

 

 ドッカーン、とカマキリを消し飛ばしながら、平和の象徴は宣言した。

 

「待ってろ少年、私も行く!!!!!」

 

 ――――――――

 

 ドボンと。

 緑谷は島の端まで全速力で走った後、凍てつく海に身を投じた。

 

(冷たっ!!!!!!!!)

 

 夏の海の温度ではない。

 あまり海中に長居出来ないと、少年はすぐに判断する。ちょっとでも手間取ったら体温を完全に奪い取られて動けなくなってしまいそうだった。

 

 海中で目を開くと、滲んだ視界には流氷が漂い、微かに白く発光する無数の氷の生き物たちが蠢いていた。

 巨大な氷のシャチが月光を反射して不気味に輝き、透き通った鮫の群れが彼を取り囲む。

 

(ヤバい?!?! 思ったよりも敵が多い!!!!)

 

 少年は息を止めたまま、冷たい海水を力強く蹴る。幸い氷の生き物が薄く発光しているため、何も見えないという事はない。

 氷のイソギンチャクが触手を伸ばしてくるのをギリギリで躱し、巨大なタコの触腕が伸びてくるが何とか拳を合わせて破壊する。

 

 光を屈折させながら幻想的な動きをするそれらを何とか捌き、時々水面で呼吸しながらも、少年は”本体”を探す。

 イカの群れが触れる物を問答無用で凍り付かせる冷気を放出する。それらを掻い潜りながら、緑谷はついに発見した。

 

(見つけた!!!!!!!!)

 

 クジラだった。

 氷の海中、緑谷の目に一頭のクジラが飛び込んできた。全長10メートルほどの小振りなそれは、他の氷の生物たちとは違い、半透明の体の中に何かが埋め込まれているのが見える。

 

 間違い無い。あれが本体だ。

 あれこそが、氷の怪物たちを生み出している本体に違いない。

 

(でも深い……!!!! 行くならば一息に……)

 

 その瞬間、背後から巨大な影が差す。そして少年は思念でこう受け取った。

 

(緑谷少年!!!!!!!!)

 オールマイトが後ろから追い着いてきた。

 世界最高のヒーローは、水中でも圧倒的な存在感を放っていた。二人は一瞬の視線の交換で意思を通じ合わせる。

 

(行くぞ!!!!)

 

(はい!!!!!)

 

(ダブルデトロイトスマッシュ!!!!!!!!)

 

 

 ―――――――――

 

「それで氷のシャチや鮫、特大ウニにタコやイカが蠢く氷の海に2人で元気に飛び込んで、本体を壊して一件落着と」

 

「うん。メリッサさんのフルガントレットのお陰で何とか」

 

「…………………………ふうん……良かったね……」

 

 無事に帰ってきたことをちゃんと喜んであげようと思ったのに、出鼻を挫かれて大変不機嫌な霊火だった。

 

 部屋から持ってきたタオルをびしょびしょの緑谷に頭から被せて、面白くなさそうに鼻を鳴らす霊火の視線の先にはオールマイトが担いできた【開拓】本体が転がっている。

 

 クラゲ型。

 半球状の本体から鉄の触手を無数に伸ばすそれは、地上に放り出されてピクリともしない。

 

(まあこんなものか……本来氷河期に動かすことを想定している奴だもんね。こんな温暖な環境じゃ本来の性能の5分の1も発揮できないけれど……)

 

「……機械だった。機械がこんな攻撃をしていたんだ……。でもこんなの、一体誰が作ったんだろう?」

 

 誰が作ったも何も、自分の頭をタオルで拭いている女の子が製造元だ。

 帰還した少年を路上で無理やりしゃがませてモサモサ頭の水分を拭き取りながら、真犯人はいけしゃあしゃあと意見を述べた。

 

「……これって厄介だよ。だって“これ“を造っただれかが見つからない以上、何度でもコイツを作り出せる可能性があるし」

 

「うん……必ず捕まえないと……」

 

 とは言ってもここから霊火まで辿り着くのは事実上不可能だ。

 なにしろ【開拓】は本体を壊される所まで折り込み済みだ。何しろこの現場にはオールマイトがいるからである。

 最終的にはオールマイトが全て解決し、アイランドが海の底に沈む展開は無いだろうと最初から思っていた。これも信頼の一つではある。

 

 むしろヒーローサイドで、【開拓】を止めてくれないと霊火も困る。霊火の体力で寒中水泳なんかしたらそのまま心臓が止まりかねない。

 霊火がオールマイトのマッスルフォームの維持時間を気にし続けていたのもこれが理由だったりする。【開拓】を倒す余力をちゃんと残してほしかったのだ。

 

 そしてもちろん、痕跡抹消もバッチリである。

 あの機械の内部からは何の情報も出てこない。特殊な強酸であらゆる機構は溶けて、海に流れ出てしまっている。“個性“による復元や追跡も見越して色々噛ませてあるため、世界中のどの機関も解析は出来ないだろう。

 なまじ霊火自身が最高格の解析系“個性“持ちのため、その辺りの捜査の躱し方には心得があるのだ。

 精々が外装に刻まれている『Amaryllis』が製造元と知るだけだろう。いい宣伝だ。

 

「うーん……まあよく頑張りました。お疲れ様です出久くん。……オールマイトは?」

 

「なんかすごい勢いでどこかに行っちゃったけど……」

 

 少女は、それを聞いて薄っすらと笑った。

 

「まあいっか。それに出久くんもお風呂に入らないと風邪引くよ? ……ああそっか電気系統やられてるんだっけ」

 

「今日からの一般公開も延期になるみたいだね……」

 

「それは一般公開組も災難な……」

 

 ――――――――

 

 雲の上だった。

 

「分かるんですよ。”個性”発現以前は飛行機は安全な乗り物だったって……でも今となってはセキュリティをいくら強化しても誰もが航空機を落とせる時代じゃないですかあ……皆が銃火器を持ってるようなもので滅茶苦茶危険だと思うんですけれどお……」

 

「君の航空機への拘りはどこからきているんだい?」

 

 そんな訳で帰りの航空機。

 オールマイトの同伴者こと殻木霊火は、シートに顔を埋めながらくぐもった声で呪詛を吐いていた。

 死にそうな声を出す生徒に、先生も困り顔だ。

 

「確かに私は落ちる飛行機を支えて飛んだことも一度や二度では無いが……」

 

「貴方は航空機内のテロに対応したり翼の折れたジャンボジェット機を支えて飛んだりその辺りの逸話には事欠かないじゃないですか……」

 

HAHAHA!!! 緑谷少年から聞いたのかな? だから殻木少女、君も大丈夫だ!!」

 

「マッスルフォームの維持時間全く残ってない癖に……。 ……まあやっぱりテロといい墜落する旅客機といい飛行機周りはヒーローの花形ですよね」

 

「もちろん無事故が一番だがな!!!」

 

 ……一番大事な飛行機事故には来てくれなかったのにと思わなくもないが、流石にそれは筋違いだ。

 そもそも『墜落死』するジャンボ機はその原理上オールマイトでも止められない。軟着陸させようにも、高度が下がり切る前に機体強度が足りずに空中分解するのだ。

 

 ……それでも平和の象徴ならどうにかしてくれたかもしれないが。

 

「それにしてもどうでした? オールマイトとしての最後の活動は。中々いい形で終われたんじゃないですか?」

 

「……そうだな。あの島が無事でよかった。緑谷少年のお陰だ」

 

「……彼、本気で貴方の後継者になるつもりですからね。貴方も随分と大きなものを背負わせたなとは思っちゃいますけれど」

 

 そもそも今回の襲撃セットアップ自体、オールマイトの引退試合のために組んだものだったりする。

 ド派手な敵性生物の数々に難攻不落のアイランド襲撃のインパクト。島傾けと強烈な事ばかりして、本体はかなり弱めに設定した。

 

 超難敵なようで、それでいて簡単に倒せる見栄えのいい敵。

 つまりは最初からそういう設計の襲撃なのだ。事実オールマイト(と緑谷)は全世界の新聞の一面で絶賛の嵐だった。

 そもそもオールマイトのヒーローコスチュームにも件の香水を振りまいていたりと、こちらも色々頑張っていたのである。

 

 しかし八木の表情は晴れない。

 霊火はシートに顔を埋めたまま、軽く息をつく。

 

 行方不明者2名。

 デヴィット・シールド

 サミュエル・エイブラハム

 

 避難も終わり、厳戒態勢も解けてしばらくたったころようやく発覚した事実。

 彼らが何の跡形もなく失踪していたのだ。

 

「……メリッサさんは」

 

「……私は、彼女を泣き止ませることが出来なかった。何が平和の象徴だ……!!」

 

 メリッサの取り乱しようは悲惨の一言だった。

 オールマイトや緑谷が懸命に慰めようとするも、全部無駄だったと言わざるを得ない。

 彼女が落ち着くには、時間が必要だろう。

 

 少女は大きく嘆息して、少しだけ顔を上げた。

 じろりと横目で八木を見て、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「…………………………私の話、聞きます?」

 

「君の話だ。もちろん聞くつもりだが……」

 

「あまり面白い話じゃないですよ」

 

 霊火はそう断わって、目を閉じて本題に切り込んだ。

 

「……私には、彼らが誘拐されたようには見えないんです」

 

「……は? いや、だとしたら一体どういう訳で……」

 

「オールマイトの手前言い出せなかったんですけれど、私、アイランドに行く前からデヴィット博士の事あまり信用していなかったんですよ」

 

 驚愕。

 青天の霹靂そのものな表情の八木に、霊火は手持ちのスクールバッグからノロノロと紙の束を取り出して渡す。

 デヴィット・シールド博士の経歴や研究、特許についてまとめたものだ。研究チームなどについても纏められた本格的な物である。

 

「ほら、デヴィット博士はちょっと有名すぎるのでこう言うのも追えてしまうんですけれど、なーんか不自然な空白があるんですよね」

 

「待ってくれ……デイブは……!!」

 

「この人、つい最近とある研究を凍結されてるんですよ。まあこの辺りがとにかく全部不自然でですね……」

 

 八木が資料を捲ると、そこには霊火の手書き交じりの資料が何十枚も連なっている。

 その中でも一番目立つ文字。それを呆然と読み上げた。

 

「”個性”増幅装置……?」

 

「はい。……少なくとも検索して出てくるようにはなっていなかったですけれど、とにかくそういう研究をしていたみたいです。……ほら、こういうアカデミックな所って世界が狭いので、専門家も技術者も有名どころの流れを追えばどういう研究をしていたか読めたりするんですけれど」

 

「しかし凍結……」

 

「まさにそこです。……陳腐な言い方になっちゃいますけれど、これ政府からの圧力で潰されていますよ。全てのスポンサーから不自然に支援を打ち切られている。まあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 ぼそぼそと、少女は真実を明かしていく。

 

「で、まあここからは私の推測交じりなので話半分に聞いてほしいんですけれど、博士がなんでこの研究を始めたか。なんか分かる気がするんですよね」

 

「…………………………まさか」

 

「ね? 貴方が『AFO』と戦って、弱体化したからじゃないかなって」

 

 霊火は追加の資料を八木の膝に放り投げた。

 【私にとって、オールマイトとは】雑誌のインタビューだ。日付は3年前。

 

 八木はそれを見て、顔を歪めた。

 

「…………………………」

 

「憧憬、懐古、信仰。もう何でもいいですけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()って意欲を感じる記事じゃありません?」

 

「しかしデイブは……今回の事件との関係が私にはどうにも……」

 

「……まあ”個性”増幅装置、ヒーローが使うにしても(ヴィラン)が使うにしても心底恐ろしい技術ではありますが、為政者もそう思ったんでしょうね。……私も同感ではありますが」

 

 そして小さな少女は、とどめを刺しにかかる。

 

「……私聞いちゃったんですよね。無くなってるんでしょう? 研究成果。中央タワー最上階にあったアイランド最大の機密事項」

 

「……!!! ……もう隠しても無駄か。……ああ、そうだ」

 

「でも報道には出てこない。……そこにあってはいけない物、もしくは絶対に奪われちゃいけない物だったんじゃないですか? だから報道できないのではないです?」

 

「君は少し賢すぎるな」

 

「びっくりしたこのまま口封じされるのかと思いました。……まあ長生きできない方だとは思いますけれど」

 

 世渡りのコツは、適度に馬鹿であることだ。

 世間の誰も自分よりも頭のいい部下なんて求めていない事なんて社会人であれば常識だ。

 

「はあ……これ私の性格が悪いのかな。ここまでの情報を統合すると、ちょっと別の物が見えてくると思うんですよね」

 

「……敵が博士と研究データを両方奪っていったという事か?」

 

「いえそうではなく」

 

 嘘つき担当。

 ポニーテールの小さな少女は、それはそれは言いづらそうにこう続けた。

 

「……これ本当に”()()”なんです? ”()()”ではなくて?」

 

「待て待て待て殻木少女!!!!!!!! デイブは……!!!」

 

「だってこっちの方が絶対に筋が通るんです!! 政府によって凍結された自分の研究を取り戻すため、敵の攻撃に合わせて自分の研究を持ち去り逃亡した。これが一番素直な流れじゃないです?」

 

「彼は私の親友だぞ!!」

 

大きな声出さないでください怖いっ!! でもでも今回のあの氷の怪物、産み出してた本体は機械だったんでしょう? それこそ開発元はデヴィット博士って考えるのが自然じゃないですか? だってあの人、世界最高の発明家だもん!!」

 

「……っ!!! しかし……っ!! 彼はそんなことをするような人では……!!」

 

「私はまさにそこが最大の疑問なんですけれどお……」

 

 オールマイトに大声を出されて涙目の少女は、ビクビクしながら続ける。

 霊火はこういう時、弱者のカードを切るのに躊躇いが無い。

 

「だってこの装置、貴方の為なんでしょう? 彼にとって貴方が、それだけ大きかったってだけじゃないですか?」

 

「だからといって彼は何の罪のない市民を危険に晒すような人ではないのだ……」

 

「………()()1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 八木がギョッとしたように霊火の方を見た。

 ……問題は10万人どころか全人類との天秤になるところなのだが。

 

「まあ私の事はとにかく、あの氷の怪物自体もそう考えるとつじつまが合うんですよね……だって死亡者ゼロでしょ? あのレベルの怪物が飛んだり跳ねたりして死亡者が出ないって、それこそ何らかのセーフティが設けられているとしか思えないのです。……ね、デヴィット博士っぽくなってきたでしょう?」

 

「……嘘だ」

 

「まあ認めづらいのも分かります。だから話半分に聞いてください。……まあ氷の怪物それ自体は博士の制作物ではなくとも、彼が手引きした敵って説もありますけれどね」

 

 もしそうだとしたら()()()()()()()()()()(ヴィラン)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? と。

 最後の最後に悪質な真実を織り交ぜて、高所恐怖症の少女は一旦息をついた。

 

 オールマイトは大きな大きなため息をついて、疲れたように呟いた。

 

 或いはそれは、彼にしては極めて珍しい弱音でもあったのかもしれない。

 

「……私が、『OFA』の事をデイブにきちんと伝えていたら少しは違ったのだろうか。譲渡可能と知っていたら……いやせめて引退すると知らせていたらこのような……!!」

 

「流石にそれは……。『OFA』を知ることで『AFO』に狙われて一家全滅なんて可能性も普通にあり得たわけですし……まあ結果論かと……」




二人の英雄冒頭の30年以上前の空飛ぶ車を見て、発明品ももっと派手にやっていいんじゃないかと思いました。

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