I-アイランド訪問。
その空白を埋めてみよう。
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▶9:15/ホテル自室
「流石オールマイトの同伴者枠。割と豪華な部屋で良かった」
ポーンとベッドの上に手荷物を放り投げ、霊火は伸びをした。
チェックインは午後からとかいうタイプじゃないのは都合がいい。
霊火はすぐにバスルームを見に行った。
広々とした空間だった。ユニットバスではあるが贅沢な面積だ。
白を基調とした内装が清潔感を漂わせている。手入れの行き届いたいいホテルだった。
ポニーテールの少女は迷うことなく浴槽に湯を入れ始めると、蛇口から注がれる水が浴槽に当たる音が静かに響く。
まだ午前中というのに風呂を沸かすのは少々気が早いかもしれないが、別に霊火は風呂に入りたいわけじゃない。
次第に湯気が立ち始め、浴室の鏡が曇っていく。
「えい」
ジジジザザッッッッ!!!!!!!! と。
ノイズ音と共に浴室内に現れたのは、車などに使われる大型のバッテリーだ。
浴室にはあまりにも似つかわしくないというか、密室の七輪とかため池に浮かぶ子供用靴レベルに相性の悪いアイテムだった。
古典的な推理小説で風呂桶にドライヤーを投げ込むというトリックが流行ったことがあるが、今回はもっと直接的だ。
少女はご機嫌に鼻歌まで歌いながら改造された端子を二本伸ばし、湯船の中に放り投げた。
追加でざざざーっと特殊なお薬まで投入して頷いた少女は、更に鬼火を出現させる。
『影収容』。これを使えばこんなものまで持ってこれるのだ。
「ジョンちゃん、今回はよろしくね」
ドクターから譲り受けた『転送』脳無だ。
一応挨拶してみるが、返事は無くただ尻尾を振られただけだった。
霊火は気にもせず、赤い眼鏡を取り出す。
『透視』
霊火の赤い眼鏡の仕様は、眼鏡を向けた方向の〇m先から見える光景をレンズに映すという形式だ。
服を透かして見るというのは仕組み的に難しいが、私室も銭湯もお手洗いも丸見えだ。間違っても外に持ち出してはいけないアイテムだった。峰田どころか、殆どすべての男子高校生が欲しがるアイテムである。
……まあこれが普及した社会ではまた別の羞恥心の概念が生まれるのかもしれない。それがどんなものなのかは想像もつかないが。
とはいえ霊火の使い方に比べれば、覗きなど無害な方だ。
「見つけた」
目標発見。
霊火は『転送』脳無のダイアルに手を置く。
タイミングを見計らって、対象が一人になる瞬間を狙い続ける。
「今!!」
『転送』先は、目の前の水槽内だ。
ちょっとだけ大きな水音があった。
派手な放電音も、大きな悲鳴もない。
まるで電源でも切られたかのような感じでバスタブにプカプカと浮かぶ、大柄な白コートを見た霊火はほっと一息。
ゴム手袋をはめてぺたりと「アマリリス」の付箋を貼り、ノイズ音と共に影の中に収容してしまう。
「OKジョンちゃん。この調子で5、6人行っちゃおうか」
この島に招集された
無理やり実行に移そうものならそのままヒーローに袋叩きにされて終わりである。流石にそこまでの馬鹿ではないと思いたいものだ。
「…………………………本当は欲しいけれどな」
今ならば、簡単にここに集まったヒーローたちも収容出来てしまう。
特にニイガングの『憑依』などは喉から手が出るほど欲しい”個性”なのだが、少女は頭を振った。
「自制自制……大丈夫だよ私。ただでさえドクターに似ているんだからここはちゃんと抑えないとね」
それは単なる自分ルールではあったが、越えたくない一線だった。これで轟冬美には手を出しているのだから割とフワフワではあるのだが。
そもそも人気ヒーローである彼をここに呼び出すこと自体リスキーではある。
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▶21:00/ホテル自室
パーティー会場から二人で抜け出し、ホテルの部屋に入ってしばらくたった頃。
まともな男女ならここからやる事なんて一つしかないぐらいの絶好のシチュエーションではあったが、残念な事にそうはなりそうも無かった。……今夜は襲撃の日なのでそういう展開になられても少し困ってしまうが。
因みに、パーティー会場では緑谷出久と殻木霊火がほぼ同タイミングで会場を出たことに気が付いた人が一人だけいたりする。
つまり意外と乙女思考な上に盗聴能力に秀でた耳郎響香が1人で顔を真っ赤にしている訳だが、肝心の二人はそんなことを全く知らなかった。
……霊火が緑谷を「招待主には挨拶したほうがいい」と一度会場に帰したのはそういう疑いを避ける意味もあったのだが、同級生の恋愛事情にここまで興味がある人がいるとは思わなかったのだ。
そしてホテルのサービスもフル活用し、2人でピザを食べて一息ついた頃だった。
BGM代わりにかけていたクラシックがブルースに切り替わった。
小さなシャンデリアが柔らかく照らすその空間で、霊火はふと思い立ったように緑谷の方へ向き直った。
ドレスの少女は恥ずかしそうに右手を差し出す。
「私と一緒に踊りませんか?」
「え? あ、いや、僕踊った事なんて一回も」
「マナー違反」
「踊ります!!!!!」
チョロかった。
霊火の脅しに屈した緑谷が、弾かれたように立ち上がる。
少年は少し緊張した面持ちで霊火の前に立った。
「でも霊火さん……僕ホントに踊った事なんて……!!」
「私がどれだけあなたと一緒にいたと思ってるの? それぐらい分かっているよ?」
「ならなんで……⁉」
「私が貴方と踊ってみたかったからだよ?」
緑谷は真っ赤になって目を逸らした。
反応に機嫌を良くした霊火はくすくすと笑いながら、右手で少年の左手を取る。
そのまま距離を詰め、殆ど密着状態にしてしまう。
彼の緊張がそのまま伝わってしまう距離だった。……霊火の方もすました顔で心臓がバクバクのため、それが彼に伝わってしまわないように祈る。
本当は伝わって欲しかったのかもしれないけれど。
「そもそもペアダンスはアイドルの曲とかバレエとかと違って、その場その場で即興で楽しむダンスなんだけれどお……」
緑谷が「そうだったんだ⁉⁉⁉」と言わんばかりの顔をしているのを見て霊火は可笑しそうに笑った。ものによるのだが、そこまで伝えなくてもいいだろう。
左腕を相手の背中に回す。彼にも同じようにすることを要求してホールドを組みつつ、霊火はパチンと至近距離でウィンクした。
「まあ本当は男性側がリードして女性側がフォローなんだけれど……まあいいか。とにかく私の足に合わせて動いてね」
「れ、霊火さん? ちょっと雑じゃない……?」
「別にいいの。正確にやる必要は無いんだから、楽しみましょう?」
ブルースは、1・2、1・2 のリズムで動くシンプルな2ステップだ。
ガチガチの社交ダンスとは違い決まった型を重視せず、その場のグルーヴ感を大切にする初心者向けのダンスである。
因みにワルツは踊りやすいダンスではあるが、スピンターンが初心者殺しすぎるので避けた方が無難ではある。今回ほどのお遊びなら逆にやっても面白いかもしれないが。
そのまま音楽に合わせ、2人で体を揺らしてみる。
「……ねえ霊火さん」
「んん?」
しばらくたって。
少年がそこそこ踊れるようになった頃、一つの質問があった。
「……ずっと不思議だったんだけど、どうして霊火さんは僕にこんな良くしてくれるの?」
「………………ねえ、
黒いドレスを着た少女は、少しだけ悲しそうに目を伏せた。
ぎくりと身体を強張らせる少年に対して、少女はいつも通りのトーンでこう続けた。
「その質問、答えてあげてもいいよ? でも本当に答えてもいいの?」
「霊火さん……?」
「本当は分かっているくせに。……別にいいもん。
片想い少女は、気にした様子もなくケラケラと笑った。
女の子は、感情の機微に鋭い。彼が自分に向けられる好意に、うっすら気が付き始めたことぐらいは分かっていた。まあそれでも遅すぎるぐらいだが。
そして自分が大切な友達――特別には思われていても、”好き”だとまでは思われていないことも感じ取っていた。
(……この友達関係さえ続けられるのなら、別にいいんだけどなあ。……他の女に盗られたくないって気持ちはあるけれど)
まあこんなことをしたのは間違いなくメリッサへの嫉妬だった。
他の女の子と楽しそうに話している彼を見るのが、本当に本当に辛かったのだ。
そして霊火の中の冷静な部分が、同時にこうも思うのだ。
もし仮に自分を選ぶようならば、女の子を見る目が無さ過ぎてそれはそれで心配だなあと。
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▶23:15/ホテル自室
「博士の奴、起こるはずの事が起こらなくて困ってるなぁ……」
バスルームの壁をじっくりと見つめながら、メガネの少女は独り言を漏らした。
fpsでウォールハックを入れているチーターみたいな挙動をしながら、霊火はノイズ音と共に必要なものを揃える。
アイランドに来ていた敵残党が、大慌てで帰りの飛行機のチケットを取って帰っていったことを霊火は把握していた。
まあリーダーや幹部格が神隠しじみた謎の失踪をしたら、仲間も慌てて逃げて同然だろう。次は自分の番だと思うに決まっている。
それで困ってしまったのは博士の方だ。
ただ平和に始まり平和に終わったレセプションパーティー。
この夜についてはそれが一番不自然だったのだ。
「うふふ……それじゃあ同じ方法でいっか……ああちょっと出力を弱めにして……」
全く同じ手法。
バスタブ感電式で2人を回収してしまった敵は、ニヤニヤ笑いが止まらなかった。
殻木霊火のロジック。
分かりやすい攻撃の裏側で、本命を通す必勝パターン。
ヒーローは【開拓主義】なんかに付き合っている時点で負け確定なのだ。
なにしろ氷の生き物が大暴れを始める頃には、とっくに攻撃は終わっているのだから。
「……アイランドの秘匿主義も良し悪しだなあ……他所にバックアップを取っておけないってことは、これもう二度と復旧できないんじゃない?」
第一撃。
巨大な氷の生物を作れるということは、小さくした生物も作れるということでもある。
ナノサイズに縮めた“バグ“を数十億体。アイランドのありとあらゆるサーバーや研究設備に潜り込ませてありとあらゆる場所を物理的に破損させながら少女は意地悪く口角を上げた。
この島に住む全ての研究者の人生を現在進行形でグチャグチャに破壊する。
もうここは沈める必要すらない。こうなってしまえばこの島の価値なんて無いに等しい。何も大規模なテロリズムだけがアイランド攻略では無いのだ。
一晩で人類の文明を軽く10年ぐらい巻き戻した少女だったが、勿体なさなんて全く無かった。
『金属操作』を手に入れた『彼岸花』は、既に工学分野でもこの島以上の存在なのだ。
限られた天才とは、こういう存在である。
ドクターや霊火のような存在は、たった一手で常人の積み重ねを軽々と飛び越えてしまうものだ。
「うーん……清々しい気分★ 後はサブターゲットをお兄ちゃんの方に任せてゆっくり観戦と洒落込みましょう」
『学会を追放されたドクター』のコピーらしいと言うか。
理屈すら飛び越えるレベルで、霊火はこういう“限られた良い子ちゃんインテリ(笑)が集う最高峰の研究機関☆“みたいな存在が大っ嫌いなのだ。
……実はデヴィット博士のアイランドの勧誘は、霊火にとって地雷ド真ん中だ。
何が悲しくて“認められ“てアイランド入りを“許され“なければならないのだ。
まあ、こればかりは本気でただの恨み+八つ当たりなので特に言い訳もない。
「うわあ魂が解放される!!!!! 雑な復讐劇もたまには気持ちいいなあ!!!!!」
強いて言うなら、霊火の中の『摂生』の影響が少し収まったぐらいだ。
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▶帰国後/工場
「それじゃあ博士とその助手くんの方の交渉は貴方に任せるね」
『おや、貴女が対応しなくて良いのですか?』
「博士のビックリした顔は見てみたいけれど、わざわざ正体を知らせに行く必要もないじゃん? まさかオールマイトが連れてきた雄英生徒が黒幕だったなんてね?」
工場の一角で、無機質な蛍光灯が実験台を照らしていた。
霊火はタブレットサイズの透き通った緑色の板を手にしてそれに集中する。
実験台の上には鉄の塊が置かれている。
少女が緑色の板の表面に指を滑らせると、まるでCGのように金属が流動的に形を変える。
最初は完璧な立方体へ、次には滑らかな球体へ、そして複雑な幾何学模様へと、まるで粘土細工のように自在に変形していく。
「うんうん……出来は良好と。出力はそこまで上げないで精密性を追求する形で……なんか3Dプリンタの応用系みたいな感じで設計図を呼び出せるようにしたら機械系へのアプローチがもっと簡単に……!!」
『新しい発明に満足なのは結構ですが、いくらなんでも誘拐してきた博士に興味が無さ過ぎませんか?』
「彼らは彼ら自身が目的って言うより文字通り回収してきたって感じだもん……」
少女はスマホゲームをしているかのようにタップを繰り返すと、机の上の金属塊はロングソードの形に変形。
タブレット表面を大きくスワイプすると長剣は風切り音をたてて飛び、そのまま研究室の壁に深々と刺さった。
「今回の話、結局あの助手が主犯でしょう? ”偽物の
『研究者という人種はいつでも世間知らずな所があるので』
「なんで私まで攻撃範囲に入れた? まあ”偽物の
『彼らが
「オールマイトがぜーんぶ拳で解決するから勘違いしちゃったんじゃないかな? オールマイト無しでパンピーが相対しちゃったらそのまま死ぬから
少女は呆れたようにため息をつき、緑の板を置いて立ち上がった。
そのままカツカツと足音をたてて移動をしながら話し続ける。
「それにしても『ウォルフラム』!!!!! ガチガチの大物だし……!! あっちの目的は完全に”個性”増幅装置だったから、そのまま計画を素通ししていたら大変な事になっていたけれど」
『増幅装置を使った『ウォルフラム』との仮想戦闘データがありますが、その全てにおいてアイランドは海底に沈んでいますね』
「……今回に関しては、一番民間人を救ったのは間違いなく私だもん。オールマイトはもう引退だってのに……ウォルフラムを問答無用で機能停止に追い込んだのが我ながら偉かった」
『……明日にも引退するオールマイトの為に増幅装置を取り戻そうとするなんて、博士も報われないですね』
「平和の象徴の秘密主義も困ったものだよ。むしろあの人は何で私にバラしてくれてるんだ……」
気密扉を数枚くぐって長い廊下に出る。
ポニーテールは早歩きで歩を急ぐ。
『私たちも『ウォルフラム』を追いかけていた事で勘づきましたが、これ『AFO』に喧嘩を売ったことになりませんか?』
「完全に売ってる。ウォルフラムの身体に『筋力増強』が入ってたもん。こんなの渡されても私たちじゃ扱いにくいんだけれどなあ……」
『少々危険な状態なのでは?』
「そこは主治医の弟子って事できっと見逃してくれるよ。だからこそのこれからの点数稼ぎでもある訳だし」
『林間合宿の件ですか?』
「うん」
ガラリと、扉が開く。
発明品置き場だ。少女はその中でも何個かをピックアップする。
『……[Class5:globalism]に[Class3:cannibalism]……? 貴女、学友を何だと思っているのですか?』
「舐めてはいないよ。ちゃんと本気を出さないとこっちが狩られる。そもそもUSJの襲撃で死者が出なかった奴らに手加減なんて出来ないよ。そもそも今回の襲撃で『彼岸花』も正式に
『数十人相手の襲撃に【開拓主義】と同じClass5を持ち込む精神にもドン引きしていますが、もう一つがマズいでしょう』
「私の作品にしては珍しい完全戦闘特化だからね……黒霧がいなかったらアイランドにこっちも投入していたかもしれないけれど……。いやこれ生徒としての私の方も本気で修羅場だなあ……。ちゃんと予定を組まないとダメそう」
少女は小さく肩をすくめた。
「……それにしても増幅装置ねえ。まあ”本当に反動が無いか”についてはちょっと疑わしいけれど、大したものだよあれは。博士もまた天才の類だね……あれだけの頭脳があって、政府に気にいられないと研究が出来ないって普通に息苦しくないのかな?」
『むしろ貴女がその辺りを反則で全スキップしているだけで、社会はどこもそのような物ですよ』
「だとしたら社会の方が間違ってるよそれ」
少女は小さく鼻を鳴らした。
「彼ら……まあ博士だけでもいいんだけれど、なんとか取り込んでくれる? 通信機器とか作られそうだから金属とか電池とかに触らせないこと」
『どのような手段を使ってもよろしいのですか?』
「可能な限り穏便にね。……ほら、博士にはあれがいるじゃん」
結局のところ、
生まれながらの敵の少女は、無表情に付け加えた。
「メリッサ・シールド。進行形の脅迫にせよ将来的な救済にせよ、あれを持ち出せば博士は絶対に強く出られない」
『鬼ですか貴女は』
「次の世界での生存権を確実に保証するとかならむしろ対等な取引だと思うけれどな……。私の場合は金属男と違って約束は守るし。……あと、博士にはこう伝えといて」
心底楽しそうで、恐ろしく危険な声だった。
「
実力さえあれば、面白い所ではあるのだ。
原作よりもオールマイトの弱体化が激しいので、原作通りにウォルフラムが増幅装置を使っていたらアイランドは海の底に沈んでいました
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