殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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049:とある人形の死

 月明かりに照らされた森で、12人の影が移動していた。

 

 麗日お茶子、取蔭切奈、轟焦凍、常闇踏陰、鎌切尖、角取ポニー、庄田二連撃、障子目蔵、鉄哲徹鐵、切島鋭児郎、蛙吹梅雨、物間寧人。

 彼らは襲撃発生時、肝試しの中間ポイントから復路にいたメンバーだった。マンダレイの『テレパス』を受けて同じ目的地を目指すうちに自然と合流したのだ。

 

 轟は心配そうにちらりと、隣の常闇の様子を確認する。

 

「おい大丈夫か? あんまり無理すんな」

 

「……悪い。まだ少し昂っているようだ。いざという時は俺を抑えてくれると非常に助かる」

 

「ああ離れねえよ。……だが何だったんだあの噛みつき女は……」

 

 轟と常闇は肝試しの第2グループだった。

 そして彼らがそろそろスタート地点に帰還できるかといったタイミングで、2人の前に5人の男が飛び出してきたのだ。

 

 そして轟と常闇は最初肝試しの演出の一部だと思った。しかし男たちの手に握られた刃物や言動を見て何かがおかしいと勘づく。

 まあ5人組のマッチョマンは実際に(ヴィラン)だったのだが、結局その不審者どもは轟焦凍があっさりKOした。

 そして彼らは、異常の発生に気がついた障子目蔵や庄田二連撃とその場で合流。

 

 ただその後が問題だった。

 

 B組の庄田が「これは敵の襲撃ではないか?」と考えを示した瞬間に、轟たちは背後から強襲を受けたのだ。

 

 そして轟焦凍は今でも自分が見たものを信じられなかった。

 

「小学生ぐらい……だったよな……?」

 

「ああ……信じられんことにな……」

 

 文字通りの夜襲だった。

 彼らが新たな襲撃者の存在に気が付く前に障子の腕は何らかの手段で切り飛ばされており、具体的な迎撃アクションに出る前に常闇と庄田も初撃を喰らっていた。

 

 そして闇夜の中でようやく下手人を見据えた4人は、そのまま自分の目を疑うことになる。

 

 改造振袖の少女だった。

 相手は、黒のボブカットに額から生えた蒼い角、そして金色の眼が印象的な女の子だった。

 それも中学校にも入っていないような年齢だったのだ。

 

 これが分かりやすいモヒカン革ジャン大男だったらそうはならなかったのかもしれない。

 しかし夜の森に存在するにはあまりに非現実的なビジュアルに4人の思考は一瞬停止する。

 そして次の瞬間には、轟焦凍は歯をむき出しにした童女に噛みつかれていた。

 

 その後数分に渡って4人とやり合ったあの怪物は、もう用は無いとばかりに逃走。

 追撃を仕掛けようとする轟だったが今度は隣で常闇が暴走をはじめてそれどころではなくなったのだ。

 『黒影』が光に弱いと教えてもらっていなければ大惨事になっていたかもしれない。

 

「私たちもその子に襲われたけど……」

 

「私もデス……」

 

 腕や首筋の傷を押さえる麗日と角取が轟に同調する。

 

 集まったメンバーの話を統合すると、鬼の童女は肝試しの中間ポイントに出現。その後、復路を辿って通りすがりの生徒全員を攻撃しながら宿の方角に進んでいったようだ。

 この場にいる全員が身体のどこかに刻まれた噛み傷を庇っていた。

 

 とにかく、マンダレイの『テレパス』通りに一行は施設を目指すことになる。

 時折襲い掛かるチンピラに対処しながらもヒーロー科生徒たちは指示に従い、冷静に動いていた。

 

 そしてそろそろ施設に辿り着くといった頃だった。

 

「待て!!!!!」

 

 障子が大声を出し、全員が足を止めた。

 

 彼は"個性"で複製した耳を前方に伸ばし、一行に向かって静かにするようジェスチャーを送る。

 彼は耳を澄ませ、聞きとることに成功する。

 

「……飯田の声だ。『こっちに来るな! 動けなくなるぞ!』? ……どういう意味だ……?」

 

 それを聞いた一同は緊張した面持ちで前方を見つめる。

 一見すると何の変哲もない森の獣道だ。しかし――

 

 蛙吹梅雨は眉をひそめた。

 

「言われてみればおかしいわ。ほら見て、少し地面が陥没しているの」

 

 それを聞いた轟は右手に小さな氷塊を作り、振りかぶって投げる。

 氷は一定の地点を超えた瞬間に不自然に落下し、地面に深く刺さった。

 

「なんだこれ。重力か?」

 

「分からないこんな事誰が——」

 

「え、でもこれマズくない? この()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?」

 

 取蔭の言葉に一同の表情が凍りつく。

 宿では確か補習が為されていたはずだ。そして宿全体がこの高重力の影響下にあるとすれば――。

 

「!!! 重力なら私が!!!」

 

「だが麗日、自分に”個性”をかけて長時間動くのは……」

 

「もしかして僕の出番かな!?!?」

 

「ケロ、私も手伝うわ」

 

 ——————

 

 どこに行っても安全地帯がない。

 出水洸汰を背負った緑谷出久は内心焦っていた。

 

「施設は重力ゾーンに呑まれてた……洸汰君をどこに届けたら……」

 

『そこら辺に穴を掘って放置が一番安全だと思います』

 

 洸汰を送り届けようと施設に行こうとしたら、目的地が謎の超重力ゾーンに囚われていた。

 二人纏めて重力フィールドに突入して動けなくなるのを警告で阻止してくれた『レイ』だったが、肝心の救助者の扱いは雑を極めていた。

 

(……この救助者に滅茶苦茶適当な感じは凄く霊火さんっぽいけど!!)

 

『何かいま失礼なことを考えましたか……?』

 

「なんにも!?!?!?!?!?」

 

「さっきから誰と話してんだ……?」

 

「誰とも!?!?!?!?」

 

『インカムで会話しているとかもっとマシな言い訳があると思うのですが』

 

 洸汰に怖い物を見る目で見られる緑谷は冷や汗が止まらなかった。

 『レイ』が自分の事を絶対に秘密にしてくれとお願いしてきたので、こういう場面で辛い。街中でハンズフリー通話をしている人みたいになっている。

 

 高校生にもなってイマジナリーフレンドと会話する不思議枠になるのは正直キツイものがある。というか傍から見たら普通に危ない人だ。

 (霊火さんに改良できないか聞いてみよう)などと思いつつひとまずマンダレイに洸汰君の無事を報告しようと走る緑谷だったが、ガイドはこう続けてきた。

 

『しかし実際、背負い続けるのもそれはそれで高リスクです。更にスタート地点には絶対に(ヴィラン)がいるのでそこに行くのは推奨しません』

 

「でもマンダレイから追加のテレパスがない……多分プロヒーローたちは宿が重力ゾーンに呑まれていることに気が付いていないんだ!! このままじゃ避難する生徒が皆重力ゾーンで捕まっちゃう!!」

 

『しかしマスターも生け捕り指定です。ここは出水洸汰と共に隠れていい場面だと判断します』

 

「だけど僕より霊火さんがもっと危険だ。早く安全な場所を見つけて助けに行かないと……!!」

 

 呼応するように、視界に青いマーカーと赤いシルエットが次々に表示される。

 緑谷は丁寧にマーカーを踏んでスムーズに複数の敵を蹴り倒す。……流れ作業のように見えるかもしれないが、この程度すら未熟な少年一人では難しかっただろう。

 

 しかし先ほどよりもかなりアシスト機能の強引さが減った気がする。”慣れて”きているのだろうか。

 

 そんな少年の考えを知ってか知らずか、音声ガイドは高く澄んだ声で明朗に方針を提示する。

 

『では周りの(ヴィラン)を全て無力化して安全地帯を確保する方針で行きます。背中に救助者を背負った状態で選べる戦闘手段を構築します』

 

「ありがとう『レイ』!! 洸汰君を避難させられる場所を確保したらマンダレイに報告して、その後霊火さんの方に行こう!!」

 

——————

 

「舐めやがって……!!」

 

「ううん。あなたが強いんだよ。そこは素直に受け取って欲しいなぁ……」

 

「だったら黙って死ねや!!!!!」

 

 多重”個性”。

 誰もが想像して、誰もが諦めた夢物語。

 

(紅白頭のハイブリッドって感じじゃねえ……コピー野郎の”個性”系の、そういう振る舞いをする“個性“と考えた方が自然。つまり油断が出来ねえ……!!!!! 雄英の”個性”ばかり想定して戦っていたら、事前に食い溜めしていた謎“個性“で踏み潰されるなんて想定もしないといけねえクソカスが……!!!!!)

 

「意外と考えるタイプ? 勘もセンスも良いとなると本当に大成するかもねぇ……」

 

「ああ!?!?!? するわゴミが!!!!!」

 

「うちのメンバーも最初はあなたが欲しかったの。まあ色々事情があって変わったんだけどぉ……」

 

 激戦。

 次々に”個性”を切り替え同時使用可能。そのパターンで無限の攻撃手段を構築する脅威の相手に、爆豪は何とか食らい付く。

 

 キュガッ!!!!!! と暗闇の中を何かが伸びた。

 

 『ツル』+『もぎもぎ』+『刃鋭』

 一度絡めとられたらそのままバラバラ死体確定の凶悪な組み合わせによる攻撃。

 

 即死攻撃を勘だけで対処しながら少年は舌打ちした。

 

「やられてんじゃねえよあの棘女ぁ……!!!!」

 

「『透明化』も食べたいんだけれどな……見逃しちゃった」

 

 『トカゲのしっぽ切り』+『複製腕』+α

 周囲を飛び回る童女の身体のパーツの一つ一つが凶悪すぎて、爆豪以外はそちらにかかり切りの状況だ。

 更に『複製腕』が口まで再現できるのが最悪だった。何しろ飛び回る口の噛みつきが成功しても、本体に”個性”が渡ってしまうのだ。

 

 童女がバックステップしながら、両手で自身の改造振袖の裾を摘まんでたくしあげた。

 細くて白い脚がギリギリまで晒される姿は酷く犯罪的で思わずギョッとする爆豪だったが、スカートの中から影の化け物が4体も飛び出してくるとなるとじっくり見ている場合ではない。

 

「あっぶねぇっっっっ!!!!!」

 

「わあ本当に強いねぇ……」

 

 『爆破』で影の怪物を追い払い、4対の鋭いかぎ爪の直撃だけは回避。

 しかし掠った。

 

 そしてヒット確認をした童女が両手を合わせるのを見て爆豪は歯噛みする。

 そのモーションは――

 

解放(ファイア)

 

「クソがっ!!!!!」

 

『黒影』+『ツインインパクト』

 

 爆豪は思わず身構えるが、何も起きなかった。

 

 ()()

 

「ありゃ?」

 

「死ねえ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 あてが外れた顔で小首を傾げる童女に間髪入れずに爆撃を叩きこむ。

 手応えあり。あっさりと吹き飛んでいく童女に果敢に追撃を入れつつ、爆豪は叫ぶ。

 

「遅えんだよ!!!!!!」

 

「っ!!!!! すまん待たせた爆豪!!!!!」

 

 ブラドキング、イレイザーヘッド。

 

 2人のプロヒーローを前にして、特に傷を負った様子もない童女は目を細めた。

 

「あれ? まだ潰れているはずなんだけどなぁ……」

 

「爆豪、あれは?」

 

「喰った相手の”個性”を使う化け物だ。見た目で油断すんな、あのクソガキ、もう半分近く”取り込んでる”からな!!!!!」

 

「……分かった。後は俺たちに任せろ」

 

「ああ!?!?!? ここまで来たら最後までやらせろや!!!!!」

 

 ブラドキングとイレイザーヘッドは確かに重力で潰れていたが、自身の生徒たちが救出に来てくれたのだ。

 麗日お茶子と物間寧人が互いに互いを浮かせて負担軽減。そして”個性”により無重力下でも地面を歩ける蛙吹梅雨と組んでのスリーマンセル。

 彼らはフィールド内で救助者を無重力にし、蛙吹がエリア外に投げる方法で補習メンバーと担任と波動ねじれを救出したのだ。

 

「ブラド、俺は少し引いた位置で”見る”」

 

「ああ、お前が取られたら終わりだ。……爆豪、今あの(ヴィラン)に一番詳しいのはお前だ。俺の一歩後ろで支援を頼む」

 

「そう来なくちゃなぁ……!!!!!」

 

 敵よりも凶悪に笑う爆豪を見て、鬼は嘆息する。

 『しっぽ切り』も切れて多面攻撃を失った。足止めしていた他のメンバーが集まってくる気配もあった。

 

「『抹消』が欲しかったんだけどなぁ……」

 

 金色の目がキランと光った。

 

 ブラドキングがそれに対応できたのは実戦経験に裏打ちされた直感によるものだ。

 反射的に自身の血をプリズムみたいな形に整え、相澤狙いの一撃を逸らす。

 

 血液が蒸発する恐ろしい音が響いた。 

 

「イレイザー!!!!!」

 

「『抹消』出来ている!!!!! ()()()()()()()()()!!!!!」

 

「嘘だろ目からビームだぞ!?!?!?!? ”個性”じゃ無ければ何だって言うんだ!?!?」

 

 金色の目の童女は、そのやりとりを聞いてくすりと笑った。

 

[Class3:cannibalism]

 

 鬼の童女の正体は、いわゆるアンドロイドだ。

 不気味の谷を越えた先の、人間と区別がつかない純粋なロボットである。

 

 コンセプトとしては『ヒーロー飽和社会特効』。

 次々と襲い掛かるプロヒーローの力を逆用して戦闘力を雪だるま式に増大させる純戦闘用”個性”機械。

 

 性能を落としてまでも10にもならない少女の姿にしたのもヒーローに対する嫌がらせのためだ。

 ヒーローという人種は、基本的に善人であるが故に庇護欲を誘うような見た目の幼い少女を殴り倒すことを相当嫌がる。そこに手加減の一つでも生じればそれだけアドバンテージになる。

 

 そしていかに身長120センチの女の子の形をしていても、これは制限時間内で上手に”食いつなぐ”ことが出来たら手が付けられなくなる類の兵器だ。

 上振れた時のスペックはドクターのハイエンドを超える結構な究極兵器である。まあ安定して強いハイエンドが凄いという話でもあるが。

 

 搭載している”個性”は3つ。

 

 一つ目は『再現』。

 これはファットガム事務所の資料を盗み見て霊火が思い付いた『天喰環が人を食べたら複数の”個性”を使えるようになるのでは?』という考えをそのまま採用。

 自説を試してみたくて天喰家を総当たりで調べ、ガードの薄い一般人から”回収”した“個性“が入っている。

 

 二つ目は『サーチ』。

 その有用性は言わずもがなであろう。

 

 そして三つ目。

 これこそがある意味本命。

 このヒーロー社会が最も嫌がる”個性”であることは間違いない。

 

 そして何より、この鬼はオーバーテクノロジーと異能のハイブリッドだ。

 

 『抹消』下の鬼が何かを掴むような動きをすると童女の周りで空気が渦巻き、その小さな手に目には見えない”何か”が形成されていく。

 

 その見えない刀身でもって自身に伸びてきたイレイザーヘッドの捕縛布を何らかの理屈で易々と切断し、アンドロイドは曖昧に笑った。

 

「……まあ勝てなくもないかなぁ……『抹消』さえ手に入れば楽勝なんだけどぉ……」

 

「……生徒を傷つける奴は何人たりとも許さん!!!!! 行くぞ!!!!!」

 

——————

 

 あらゆる人に、平等に死は訪れる。

 

 死は、人が何かを成し遂げるのを待ってくれない。

 どれだけやり残したことがあろうとも、ほんの小さなきっかけで人は死ぬのだ。

 

「…………………………悔しいな」

 

 青い炎に包まれた木々の間に少女は横たわっていた。

 

 その左腕は根元から千切れ、断面は焦げ付いていた。

 動くことも出来ないその姿は壊れた人形か、あるいは車に轢かれた猫のようだった。

 まだ息をしているというだけで、ただ死を待つだけの状態。

 

 ……最初から警戒心だけはあった。

 霊火はそれほど運が強い方ではない。雄英に入った時から、こんな綱渡りの生活が長続きする訳が無いと分かっていた。

 

 今思えばステイン戦の後に除籍された時がラストチャンスだったのだろう。

 あそこで緑谷に絆された瞬間が、霊火にとっての死だったのだ。

 片想いの末路としては、あまりに残酷な結末ではあった。

 

 だから準備だけはしてきた。

 霊火の”工場”は、主が死んでも”個性”特異点を乗り越えられるように調整してある。

 

 後は工場のAIたちが引き継いでくれるだろう。あれは霊火が死亡した瞬間にリミッターが外れるようになっている。

 あるいは霊火の”後継”は、霊火よりも冷酷に事を進めるかもしれない。もうその辺りは信じるしかなかった。

 

 そしていくら準備をしてきても、それでも死ぬのは怖かった。

 

「やだな。こわいな……。助けてほしかったな……」

 

 自分でも、痛みなのか悲しみなのか恐怖なのか良く分からない涙が零れる。

 命が流れ出ていく感覚があった。少女の良く知る、『死』の感覚だ。

 

 都合のいい助けなんて来ない。

 じきに荼毘か、襲撃者が霊火を見つける。

 その後に待つのは確実な死だ。もはや簡単に死なせてくれるかも怪しい。これに関しては霊火の自業自得だった。

 

 緑谷出久は遠い。他のクラスメイトにしてもヒーローにしても、絶対に間に合わない。

 助けられる権利を出水洸汰に譲ってしまった以上、少女にここから生存する道なんて残っていないのだ。

 

「……」

 

 眠い。

 

 少女は一つ一つ心残りを整理する。 

 

 そしてやはり、思い浮かぶのは緑谷出久の事だった。

 

 緑谷出久は泣いてくれるだろうか。

 霊火の正体を知ってショックを受けたりしないだろうか。

 ……一応『橋姫』がその辺りの説明をしてくれるはずなのだが、彼がどういう反応するのかは流石に予想しづらかった。

 

 まあ、別に全部忘れてくれたって構わない。

 彼が最高のヒーローになってくれるなら、それで全部許せる気がした。

 

「……」

 

 実はまだ仕事がある。

 

 敵連合の背後には『ドクター』がいる。

 あれがいる以上霊火の死体をそのまま残すのは怖い。

 うっかりもう一回脳無に改造されて緑谷出久の前に現れるなどの展開は避けたい。

 

 小さな燐光があった。

 

 始まりの『死因』。

 戻橋火燐が、飛行機事故で死んだときの鬼火。

 

 元が死体である以上、『死因』は霊火に対して絶対の相性だ。

 そして少女は更に2つの鬼火を追加する。これは両親の物だ。

 

 今度こそ、この身体を完全に破壊する。

 ドクターに再利用なんてさせない。元の少女の人生を終わらせる。

 

 そして少女は目を閉じた。

 

 生きてもいないのに死ぬのが怖くて。

 心残りなんていっぱいあって。

 

 最後の最後に、自分が本当は彼の一番になりたかった事に気が付いてしまったりして。

 

 それでも、他の選択肢なんて無かったから。

 

 鬼火が、殻木霊火の身体に接触して。

 

 

 弾けた。




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