殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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054:シームレス

「出久くん、ここからどうしよっか」

 

「え、家に帰るんじゃないの? 家も近いし家までリムジンで帰れるよね?」

 

「ん-分かった。貴方がそう言うなら」

 

 海浜公園の海岸。

 びしょびしょのワンピースのスカートの水気を片手で絞りながら霊火は首を傾げた。

 

 白さと生地の薄さが相まってスケスケを極めているが、もうどうしようもない。

 最悪病院着をもう一度着ればいいだろう。そんなことを考えつつ霊火はつらつらと喋る。

 

「……私に恨みがある(ヴィラン)が襲い掛かって来るかもしれないけれどまあしょうがないよね。ちょっと怖いけど出久くんがそう言うなら1人で家にいるよ。まあ最悪自力で消し炭にすればいいもんね。それじゃあバイバイ出久く」

 

「ちょっと待って!!!!! 霊火さん、今夜は僕と一緒にいよう!!!!!」

 

「……終電過ぎた後にそう言われると完全にワンナイト狙いだね」

 

「れ、霊火さんがそう誘導したんじゃん!!!!!」

 

 相変わらず面白い反応を返してくれる緑谷を上機嫌に揶揄う少女。

 そのまま頑なに霊火(スケスケ白ワンピ)の方を見ようとしない彼に背後から駆け寄り、手を取った。

 びくりと肩を震わせる緑谷の耳元に背伸びして口を寄せ、悪戯心たっぷりで甘く囁く。

 

「それで、私をどこに連れ込むつもりなのかなあ……?」

 

「待って待って霊火さんなんで今日はそんな絶好調なの!?!? そういう話じゃないじゃん今!!!」

 

「……一応念のため言っておくと、流石に今日は無理だからね。私一昨日とかに腕が千切れたんだから痛すぎてそれどころじゃ——」

 

「念のためも何も霊火さんが嫌がる事は絶対にしないよ!!!」

 

「……意外と躱し方が上手。いや流石に思わせぶりすぎたかなって……」

 

 あまりがっつき過ぎても距離を取られる原因になるので程々の所で引く。

 ……彼に好きになってもらうと決めたものの相変わらずビックリするほど脈が無い。今はとにかく、これまで通り友達の距離をキープする必要があった。

 というか告白して振られたら流石に泣いちゃう。

 

 そして男女の関係に限らず、人間というのは自分に好意を向ける相手を好きになる傾向がある。

 霊火もここは素直に行くことにした。すなわち普通に日頃から、”あなたが好き”と態度で示すのだ。

 

 男子高校生の癖にやたらとガードが堅い彼を攻略するならば、定期的に言い逃れできないほどの好意をぶつける必要があるということだ。

 そして欲を出すならば向こうから、できれば“お世話になってて断れなかった“とか“同情しちゃった“とかではない経緯で自分を選んでほしいところだ。

 

「で、どうする? 実際どこに行く?」

 

「うーん……今日は僕の家に泊まるとか?」

 

「ん~…私はそれでもいいけれどさ、引子さんが私を見て卒倒しない? あの人って玄関に片腕失った女の子が現れても大丈夫なタイプ?」

 

「…………………………駄目だと思う。……霊火さんの家は……えっと……もしよければ……」

 

「分かってるって。揶揄いすぎてごめんね、そういう意味じゃないもんね? 私は出久くんを家に上げる事は構わないけれど、そもそも”ターゲット”の私の家だよ? 誰かがベッドの下で待ち伏せしてました! なんてホラー展開にならないといいけれどな……」

 

「え、じゃあリムジンに泊まるしか」

 

「こんな2人でべちょべちょなのに? ほら見てスケスケの——」

 

「ねえさっきから全部霊火さんが悪くない!?!?」

 

 顔を真っ赤にした緑谷が大声をだす。

 霊火はギャハハと元気に笑いながらも、こっそりと思考を巡らせる。

 

(うーん……意外と突っ込んでこないな。[Class1:heroism]……これを渡した時点で”どこで、どうやって作ったのか”ぐらいは聞かれると思ったけれど……)

 

 実を言うとあの首輪を彼に渡すのは非常にリスキーな選択肢だった。

 あまりにオーバーテクノロジーの塊の為、『アマリリス』に一発で関連付けられる可能性すらある。

 そうでなくとも、あれを警察かヒーローに持ち込まれた時点で一発アウト級なのだ。

 

 それでもあんな危険物を渡したのは、林間合宿で彼が敵に殺されるような可能性をどうしても許容出来なかったからだ。

 

(……あまり詳しく聞いてこないのは私を信頼しきっているから? なんか嫌な予感がするけれど……)

 

 とはいえ打てる手がない以上考え続けても意味が無い。

 取り敢えず頭の中で“保留“の枠に放り込む。実際、作成経緯を聞かれないこと自体は都合がいいのだ。

 

(そしてメンタルケアもそこそこうまく行ったかな? ……これはこれで私の評価下がってないか心配だなあ)

 

 そして今夜の霊火がここまで滅茶苦茶なのは、今夜の霊火が死ぬほど情緒不安定だからというわけではない。

 

 これは演技だ。

 

 そもそも霊火は『出水洸汰よりも私を優先しろ』と言えるほど道理が分からない訳では無い。

 此度、実年齢が9歳と判明したからといって精神まで引っ張られてどうするという話だ。

 

 まあつまり、彼への気遣いだった。

 彼の性格上、霊火の負傷を”僕が助けられなかったせいで……”とか“僕が雄英高校に引き留めたせいで一生物の大怪我をさせた“などと気に病みそうだと思い、こちらが先手を打ったのだ。

 

 即ち霊火が『あのクソガキよりも私を優先しろや』と癇癪を起こして、左腕を失ったとは思えない勢いでフェスティバルを開催する。

 

 そうしたら緑谷も『流石に洸汰くんを優先するだろ!!!』と返してくると思ったのだ。

 そして実際その展開になり、彼の罪悪感は軽減された。……面倒くさい女と思われてしまったかも知れないが、まあそれぐらいは許容しよう。

 

 善行でも悪行でも本当に意味あることはこれ見よがしにやるべきではない。

 こういうのはこっそりと、自分の意志だけで行うから更なる価値を持つのだ。

 

(きっつ……出来る女は辛いなあ……)

 

 つまり、実は霊火は元気なふりをしているだけで全く元気が無かったりする。

 

 というか現在進行形でありもしない左腕が死ぬほど痛い。

 血は相変わらず足りてないしなんか見えないダメージがいっぱいあるし、コンディションは最悪の一言だ。

 それでもはっちゃけた姿を見せたりして大丈夫だとアピールする必要がある。

 

 ポーカーフェイスも限界に近いのだがもうちょっと頑張る必要がありそうだった。

 体力的な都合も込みで後ろから彼に体を擦り付けるようにして体重を預けつつ、霊火はため息混じりに言った。

 

「……しょうがない。やっぱり私の家が一番マシか。出久くんと私がいたら誰がいても負けはしないでしょ」

 

「……『レイ』を付けて寝れば不意打ちも喰らわないだろうし、そうしよう。……因みにあのリングって霊火さんは付けられないの?」

 

「あ、そういう名前になったんだ。因みにそれ、貴方以外の人が付けたらそのまま縮んで首を捩じ切る仕組みになっているよ」

 

「危ないなあ!!!!!!!!!! 先に言ってよそういう事は!!!!!!! え、もしかして【橋姫】ってそういう意味!?!?!?!?」

 

「お、ちゃんと知っているんだ。道具だからって雑に扱わないようにね。捨てても戻ってくる呪いの日本人形ぐらい執念深いから」

 

 あれは『死因』が入っている“個性“機械なので殆ど自分の分身みたいなものだ。

 我ながらやっている事が髪の毛とか〇〇入りチョコとそう変わらない。自分で言うのも何だが、『死因』もかなりホラー寄りな“個性“でもある。

 

 まあバレンタインに起こる異物混入事件はさておき、女の情念は男の子の想像の遥か上を行く事が結構あるので注意が必要だ。

 給湯室や更衣室で巧妙に隠されているだけで女性というのは当たり前のように物凄い欲でまみれた生き物なのだ。自己顕示欲とか独占欲とか色々。

 

 戦々恐々とした表情でポケットから取り出した銀のリングを見つめる緑谷。

 霊火は『冗談だよ』と付け足して、少しだけ手を引いた。

 頑なに霊火の方を見ようとしない彼に苦笑しつつそのまま身体を預けてしまう。

 

 緑谷は、ようやく霊火の様子がおかしい事に気が付いたようだ。

 

「……もしかして霊火さん元気ない?」

 

「あー……流石にバレた……」

 

 ————————

 

 "個性"『死因』の本質は、死亡現場に残された残留思念を"鬼火"として顕在化させるサイコメトリー系能力だ。

 つまりどちらかというと、人より空間に紐づいた異能でもある。これは”鬼火”が死体ではなく死亡現場から採集できる所からも読み取れる。

 

 今回の『トランジスタ』は、この空間的特性をより深く活用したものだ。

 従来の方法が死因を"死亡者が受けた傷"として捉えていたのに対し、『トランジスタ』は"死の状況"そのものを再現する。

 

例えるならば火災による死亡の場合は

・従来の使用法:火傷という"結果"を再現

・『トランジスタ』:炎に包まれた"状況"を再現

 

 といった具合だ。

 もっと分かりやすく言うと『脳挫傷で死んだ』か『交通事故で死んだ』かの違いである。

 ”鬼火”は死亡原因を丸ごと保存しており、何処を切り取って攻撃力に変換するかは結構融通が利くのだ。

 

 そして今回、”鬼火”を身体に灯せるようになったことで応用方法に大きな分岐が生まれた。

 この辺りの理屈に関しては緑谷出久が推測した通りである。1つ補足があるとすれば、”鬼火”は元々場の記憶なので空間に作用させることに足がかりがあった事ぐらいだ。

 例えるならばこの技は目の前の空間に死亡現場を重ね合わせるようなやり方に近い。大火事や、交通事故現場を再現すると言い換えてもいい。

 

 

 因みに霊火は既に”複数の命を持つ人間”の開発に成功しているので、弾数の問題はある程度解決できてしまっている。

 

  ————————

 

「やば、合鍵なくない?」

 

「えっ? 霊火さん持ってないの!?!?」

 

「持ってない。いや参ったなあ……そういえば私の荷物今どこにあるんだろう……?」

 

 病院脱走犯殻木霊火と共犯者緑谷出久はマンションの前で立ち往生する羽目になった。

 マンションがオートロックのため建物内にすら入れなくなってしまったのだ。

 こんな初歩的なミスをするあたり、霊火もまあまあ限界なのかもしれない。

 

 少年は困ったように代替案を提示する。

 

「しょうがない。こうなったらお母さんには何とか説明するから僕の家で」

 

「『トランジスタ』」

 

「霊火さん!?!?!?!?!?」

 

 少女の右手で火花が散り、ロビーのガラス戸内部に置かれたベンチが何かに弾かれたように吹き飛ぶ。

 石のフロア上でけたたましい音を鳴らしながらゴロゴロと転がってきたオブジェクトは、器用にも自動ドア手前のセンサー圏内で停止。

 

 ウィ~ンと間抜けな音が響き、自動ドアが開いた。

 

「完璧」

 

「ちょ、ちょっと待ってこれ大丈夫なの!?!?」

 

「”個性”の登場以降、一般家庭の防犯なんかお飾りみたいなものだもんね~」

 

「だからといって好き放題していい訳では無いと思うよ!!」

 

 『すり抜け』持ちの空き巣に『千里眼』持ちの覗き魔や『念写』持ちの盗撮犯、『念動力』持ちのパチンカスに『読心』持ちの詐欺師。

 ”個性”を使った犯罪は防ごうと思って防げるものではないのだ。

 意地でも防衛しなければならない刑務所などはとにかく、銀行でさえ防犯を諦めつつある現在では一般家庭が防犯など事実上不可能である。

 

 正直この辺りに関してはある程度割り切った方が精神的に楽だったりする。

 何しろ意味ありげに防犯カメラを設置してまだ見ぬ犯罪者に威嚇するほど、腕に覚えがある大物に狙われて結果的に損という警備会社のデータさえあるのだ。

 

「い、いいのかな? これセキュリティ会社に通報行ったりは……」

 

「そもそも私ここの住人だし大丈夫でしょ」

 

 律義にベンチを元の位置に戻す緑谷は不安が止まらなかったが、霊火は何事も無かったかのように先を行ってエレベーターのボタンを押してしまう。

 

 そのまま2人で上階に移動。

 そして霊火の家のドアを前に辿り着くと、緑谷は更なる問題に気が付いてしまった。

 

「え、これこっちの合鍵はどうすれば」

 

「えいっ☆」

 

「霊火さん!?!?!?!?!!?!?」

 

 ぱちりと指を鳴らすと、熱したフライパンに水をかけたようなサウンドと共にドアノブごと鍵が消し飛んだ。

 

 鉄製のドアにぽっかり空いた直径10センチ程の穴に指をかけてドアを開く盗賊精神全開の霊火の後ろで、良い子の緑谷は極めて不安そうだった。

 

「だ、大丈夫だよな。霊火さんの家だもんな」

 

「ただいまーっ!!!!」

 

「お、おじゃましまーす……」

 

 電気をつけるといつもの光景が広がっていた。

 本棚には教科書や漫画が並び、机の上には使いかけのノートが開かれたまま。

 窓際に適当に買った観葉植物が鎮座する、特筆するべきことも無い普通の部屋だ。

 

 一応霊火は右手に火花を散らしてはいたが、何をどう解釈しても誰かに侵入された形跡は見当たらなかった。

 

「ん~……大丈夫そうかな。それじゃあさっさとお風呂に入りましょう。……あ」

 

「な、何……?」

 

 何かに気が付いたかのように硬直する霊火を警戒しながらも、緑谷は慣れた様子で自分の荷物を部屋の隅に置く。

 実は中学時代から何度も霊火の部屋に来たことがある彼は当たり前のように自分のクッションの上に腰を落ち着けた。

 

 もうここまで来たら、霊火の方から襲っても本格的に文句は言えないと思う。

 絶対に裁判官も”合意があった”と判断するだろう。逆もまた然り。

 

 そして部屋の主は、小さな声で言った。

 

「…………………………私のお風呂、手伝ってくれる気ある?」

 

「へ? む、無理無理無理無理無理無理」

 

「だよね……い、いや本当に困っちゃったな………流石に1人では無理かも……」

 

 なにしろこちらは一昨日に腕が千切れているのだ。

 お湯が少しでも傷口に触れるだけで冗談抜きに激痛で昏倒しかねない。

 身体を洗うのなんて夢のまた夢である。

 

 揶揄っている訳では無く本当に困っている様子の霊火を見て緑谷は固まった。

 彼の内面で、溢れんばかりの人助けの精神と女性に触れられないクソナード精神の頂上決戦が始まる。

 

 因みにこの場合、『シャワーを諦める』という選択肢はない。なにしろ霊火はつい先ほどよりにもよって海に浸かっているのだ。

 今の時点で若干アウトなのに、しばらく経ったら手が付けられなくなる。

 

 そして女の子という生き物は別に、素で甘い香りを分泌している訳では無い。あれはちゃんと努力で獲得している物であって身体を洗わなければ相応に臭くなる。

 だからヒーロー基礎学の後の女子更衣室は制汗剤の匂いで大変な事になるのだ。

 

 流石にちょっと赤い顔の霊火は、蚊の鳴くような声でこう提案した。

 

「……髪だけでもお願いできないかな? ほら、美容院の洗髪みたいに服着たまま洗うあれ……」

 

「え、どういう感じの……?」

 

「まさか出久くん1000円カットしか行ったことない?」

 

 そんなこんなで手取り足取りで頭を洗う方法を伝授する事になる。

 緑谷の方はというと複数ある謎のボトルを前に固まっていた。せめてラベルに”シャンプー”とか”リンス”とか”コンディショナー”とか”仕上げ”とか何でもいいから書いていて欲しいという顔だった。

 

 椅子と洗面所とシャワーを組み合わせて無理やり美容院の髪を洗うあれっぽくした物の上に横たわる少女は、混乱中の少年に正解のボトルを握らせつつ注意事項を話す。

 

「男の子の洗髪みたいに両手でわしゃわしゃ~!!!! ってやったら髪が絡まってどうしようも無くなるからやめてね」

 

「え? じゃあどうすれば……」

 

「う~……言葉で説明するの難しいな……」

 

 右手だけで何とか男の子の手を誘導しつつ、髪を洗ってもらう。

 これはこれでイチャイチャ出来てとても楽しかったが、この調子だと頭を洗うだけで1時間以上かかりそうだった。

 

 そこまでやらせてから思いついた。

 

「あれ? 首輪使えば良くない?」

 

「嘘!?!? そんなことも出来るの!?!?」

 

「多分いける。あれ根本的に私の思考回路を再現しているから……」

 

 そして一分後 

 装備欄に[Class1:heroism]をセットした瞬間、プロみたいな手付きで霊火の髪を洗い始める緑谷がそこにいた。

 

 自分が造り出した物の性能に内心戦慄する霊火だったが、少年の方もここに来てようやく危機感を抱いたらしい。

 固い顔の緑谷に霊火がため息交じりに話を切り出す。

 

「……ね? 美容学校と美容院と理髪店無くなるでしょ? だってこれが普及すれば散髪は家でやればいいんだもん。セルフカットも出来るし……」

 

「これは……ちょっと世に出せないかもね……。え、これ外科手術とか飛行機の操縦とかも出来るんだよね」

 

「プロより上手いと思うよ。いやこれ私が凄いな」

 

「霊火さんは凄いよ………いや本当に凄いんだけど……」

 

 高校生でも分かるマズさだったらしい。

 イラストレーターでも医者でも美容師でも、これはあらゆる技術の習得を否定する。

 これが世に出ればどれだけ社会が混乱し、どれだけ反発されるのだろうか。

 

「入ってるAIに読み込ませたデータから制御機構に至るまで、ありとあらゆる無許可と不正利用の塊だから個人利用に留めてね。……私こういうのまどろっこしくて大っきらいなんだよな……まあ私のを使われたら相応に苛つくんだけれど……」

 

「…………………………因みにこれ、悪用とかは……」

 

「絶対に捕まらない銀行強盗でも映画になりそうな超大規模な詐欺でも憧れのアイドルを手籠めにするでも大統領の暗殺でもご自由にどうぞな素敵仕様だぞ☆ ……あまりに悪用が怖すぎて出久くん以外が付けたら着用者を殺す仕組みも割と必須なんだよこれ……」

 

「……霊火さんは、僕を本当に信用してくれているんだね」

 

「ド深夜に一人暮らしの部屋に招いちゃうぐらいにはね。……因みにそれ、私が装着しても死ぬようになってるから。言っている意味分かるよね?」

 

 ギョッとした顔の緑谷を見上げながら、少女は困ったように笑った。

 そのまま少し面白がるような表情に切り替え、意味ありげに続ける。

 

「まあ私に関しては新たに作るっていう選択肢もある訳だけれど。……それに物理全開の戦闘ならとにかく、頭脳系技術系に関しては私は素で出来る……かも?」

 

「……霊火さんが良い人で良かったよ」

 

「それ本気で言ってる? 良い人でありますようにって言う願望が透けて見えるけれど?」

 

 酷く緊張した様子の彼に、悪い子は特に飾らない笑顔でこう付け足した。

 

「まあ貴方には話すときもくるかもね。私がどうしてこういう物をつくれるのか……とかね。もしその時は、2人だけの秘密だよ」

 

 ―――――――――

 

 結局シャワーは無理だったので、タオルをお湯に付けて身体を拭くという方式で乗り切ることにした。

 片腕しか無いと色々と不便だったがとにかく深夜2時。

 緑谷もシャワーを浴び、2人で一段落した頃だった。

 

「流石にそろそろ寝ようか?」

 

「そうだね。僕は下で寝るから霊火さんはベッドで……」

 

 ベッドに座った霊火は、“こっちで一緒に寝よう?“と自分の傍を手のひらで叩いて上目遣い。

 緑谷は真っ赤になって目を逸らす。今のが冗談ではなく本気で提案されたことぐらいは読み取ったらしい。

 

(流石にこれはいくら鈍感でも言い訳出来ないもんね。真っ向から素直な好意をぶつけてとにかく混乱させるのが大事!! ていうか何でこんなかわいい女の子がこんなに懐いててここまで脈が無いんだよ!!! 男子高校生ってもっと簡単なはずじゃん?!?!)

 

 やっぱり胸が足りないのかもしれない。ウエストが細いため全く無いと言うわけでも無いのだが……。

 ……胸の大きさは加点方式で、小さいからといって減点にはならない印象があるのだが実際はどうなのだろうか。

 

 ちょっと頬が赤い霊火は、パーカーにジャージのズボンという雑部屋着姿。

 そして緑谷は全身ジャージ(霊火の家に置いてある緑谷の物)だ。

 

 霊火は余った長袖のパーカーの左袖を緩く結んでしまっていた。

 時々緑谷がちらりと見て表情を曇らせているが慣れて欲しい。

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

 緑谷がスマホを見て急に声を上げた。

 目覚ましでもかけようとしたのかもしれないが、その時別のものが目についたのだろう。

 彼がこちらに見せてきた画面はネットニュースだった。

 

「あれ? ここって私の……」

 

「だよね。えっ……これって……」

 

 それは速報だった。

 病院が爆破されたというニュースで、負傷者続出とか書かれている。更に犯人は捕まっていないらしい。

 

 そしてモクモクと黒煙をあげるその写真は、9時間前まで霊火がいた病院だった。

 

「うっわあ……爆発現場が私の病室だし完全に暗殺狙いじゃん。 病院から抜け出していなかったらそのまま死んでたな……」

 

「え、それじゃあ霊火さんは……助かったのか……?」

 

「安心するのはまだ早いと思うよ? あっちには『ワープゲート』がある……これ下手したらこっちにも」

 

 パンッ!!! という乾いた音があった。

 ガラスが割れた音だ。

 

 霊火の部屋になにかが転がってきた。

 テニスボールぐらいの塊だった。

 

 おそらく中身はTXTとRDXだ。

 

「ばっ」

 

 ―――――――――

 

 ドガァッッッ!!!!!!!! と。

 外から見ても分かるような規模で、ド派手に部屋が吹き飛ばされた。




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