対人爆弾で一々死んでいたら
爆発の直前、霊火は能力を床に向けて振るっていた。
ドグシャッッッ!!!! とフロアに大穴をこじ開け、爆弾を見て硬直している緑谷を階下に突き落としながら一緒に飛び込む。
「っ……!! これ下の階の人は大丈夫!?!?!?」
「まず私たちの心配しない!?!? 下の階も私の部屋だから心配しないで!!!!!」
話の途中で爆音が響いた。
一つ下の階に軽く着地した霊火は慣れた様子で両目を閉じて耳を手で塞ぎ、口を開いて爆音と衝撃をやり過ごす。そして何事も無かったかのように早足で玄関の方に向かいながら大声で文句を言った。
緑谷の方は直接三半規管を揺さぶられたらしく、ふらふらしながら霊火について行く。
爆弾はベランダ側から投げ込まれたので、反対方向から脱出することになる。
2人の背後で二度目三度目の爆発が起きる。顔の見えない爆弾魔は霊火の部屋を玉入れのカゴか何かと思っているらしい。少女は苛立ちを隠さずに大きく舌打ちした。
緑谷は焦った様に言う。
「警察に通報しなきゃ!!」
「バカ!!! こっちは進行形で攻撃されてるんだよ!!! そんなの暇な市民に任せておくの!!! 実際警察なんか来たって何の役にも立たないし!!!」
空っぽの玄関の天井を抜いて上の階の靴を今いるフロアに落としつつ、爆音に負けないように霊火は叫ぶ。
2人で靴を履いてマンションの廊下に出ると周囲は廊下に顔を出したご近所さんで騒然としていた。
「救助なんて言い出さないでね。犯人がうっかりお隣さんに爆弾を放り込まない事を祈るしか無いから」
「僕たちはここからどうすれば……!!」
「見えない敵に一方的に攻撃されている時に必要なのは一度行方を晦ませて安全を確保して仕切り直すこと!! 出久くん、
「ちょっ」
ひらりとマンションの廊下の柵を乗り越えてそのまま自由落下を始める殻木霊火。
少年も慌てて後を追う。緑の火花が煌めき、少年の身体が手すりや壁を蹴って空中で加速。両腕で少女を捕まえた。
「高所恐怖症はどうしたの!?!?」
「治った!!!!」
「そんな感じで治るものなんだ!?!?」
そう叫びながらも緑谷は綺麗に着地する。
そのまま走って300メートル程距離を取ると、霊火は自分から地面に降りた。
「……よし。取り敢えず初手は凌いだかな。……ごめんね、多分出久くんを巻き込んじゃってる」
「いや、霊火さんが病室にいなくて本当に良かったよ……。それじゃあ、後はヒーローに任せる?」
「どちらかと言うと出久くんの家に行かなくて良かったよ。……それに今の、多分一時間前に長野の病院にいた奴らだよ? 『ワープゲート』もセットなのが確定している以上、プロヒーローに任せても捕まる訳が無いけれど」
「じゃあ」
「……私に付き合う気ある? かなり危険な選択ではあるけれど」
緑谷は少し迷ったようだが、頷いた。
霊火はにやりと笑う。赤い瞳が危険な光を宿す。
「あんな危険な奴ら放置しておけない。どんな手段を使ってもここで確実にダウンを取っておきたい」
「でももう逃げちゃってるんじゃない?」
「まさか。あんな派手に爆発した以上、向こうでは私が死んだことになってるんじゃない?」
「……つまりニュースとかで被害が報じられるまでがタイムリミットってことになるのかな?」
「御名答。あ、今回首輪は無しね。警察に聞かれたらハイパー面倒くさいし、私が傍にいるなら十分でしょ」
淡々と語る霊火だったが、内心は穏やかではなかった。
元々自分に対する悪意に100倍で返すピーキーな性格という自覚はある。
今回の連中も暗殺しに来たというなら、同じだけの事をやる。
しかも今回は霊火の不注意で友人を巻き込んでしまっている。
自分の巻き添えで守ると決めた対象を危機に晒すのはプロの仕事とは言えない。これまでの人生で一番のミスと言ってもいいぐらいだった。だから必ず取り返す必要がある。
そして今回の敵はおそらく、林間合宿での霊火狙い組の残党だろう。
何にしても敵が手の届く位置にいるという状態は幸せだ。ここで脳みそを吹っ飛ばすだけで身の安全を必ず確保できる。
(……まあステイン殺しと林間合宿はどちらかというとヒーローとしての私に起きた問題だから難しいところだけれどね。いつものテンションで行動すれば一瞬で
物騒な思考を巡らせる霊火を緑谷は不安げに見た。
「……あまりやり過ぎちゃ駄目だからね。でもどうやって見分けるの?」
「私を見てビビったら犯人」
「分かった。行こう」
「頼りにしてるよ」
そう語る霊火の右手が、不吉な燐光を発し始める。
緑谷はそれを見て更に不安そうな顔をした。
「本当にやり過ぎないでね霊火さん……」
「私を殺そうとしてきた相手だよ? 同じだけの事をやり返す権利が私にはあるけれど」
「絶対駄目」
「甘い人……まあしょうがないか。ここは出久くんの顔を立ててあげるよ」
―――――――――
「……多分あの人たちだ。だって林間合宿で見たもんあの2人……」
「……一般市民に紛れて、爆発現場の見物人のふりをしているね」
「深夜2時なのに何でこんなに集まるんだ……私こういうヒーロー目当ての野次馬大嫌い。それがお仕事のヒーローはとにかく、敵も被害者も事件も見せ物じゃないんだよ……?」
「何で霊火さんが僕の友達でいてくれるのかが良くわからないよ……」
「私、貴方のやることなら大体許すよ? ついでに聞いておくと、出久くん的には野次馬ごと
「無しに決まってるだろ……」
「絶対そっちのほうが簡単で安全なんだけれどなあ……。ああもうそんなに怒った顔しない。貴方のお願いなら基本的に聞いてあげるから……」
いつにも増して本音がダダ漏れすぎる霊火だった。ちょっと好感度が心配になってきた。
とはいえ今は体調が悪くて自分を取り繕う余裕が無い。左腕が痛すぎて世界の全てが憎く見える。その辺りは分かって欲しい。
そして緑谷にも”本当の私も愛して”とまでは要求しないが、この程度の黒さなら許容して欲しいところだ。
そもそも女の子なんて皆こんなもんだと思う。
霊火たちは物陰からそっと様子を伺う。
共に異形“個性“のコンビ。おそらくその片割れの、肩幅が異常に広い筋肉肩パッド女が爆弾を投げ込んだのだろう。
「……まあ余裕があるから確定を取ろうか。私が話してみるから戦闘に突入したら貴方が無力化して」
少女は一方的に指示を出すと、緑谷の返事をまたずに堂々と
難なく2人のすぐ後ろを取り、気軽に話しかけた。
「ハロー」
「っっ!?!?!?!? なんっっっ?!?!?!?」
「お、おい!?!?!?!? 何でここに!?!?!?!?」
凄く分かりやすい犯人だった。
ちょっと知らないふりをするだけでだいぶリスクを減らせるのに、霊火が生きている事自体が想定外の塊だったらしい。
文字通り幽霊を見たような顔で驚いている。
まあこの辺りが暗殺に爆発物を使うデメリットだ。爆薬というのはとにもかくにも標的の死亡確認が取りづらく、信頼性に欠ける。
大口径のスナイパーライフルが重宝される理由がこの状況に詰まっていた。公安の元ヒーローとかもさぞ扱いやすかっただろう。
全身ぬめぬめ粘液男と肩パッド女王を見上げた霊火はフンと鼻を鳴らした。
何にしても、犯行の後に現場から立ち去る基本ルールさえ実践できないのは完全な素人だ。初撃さえ躱せば怖い相手ではない。
ただ、ここからでもしらばっくれられたら少し面倒くさい事になる。
何しろあっちには『黒霧』がいるのだ。一瞬でも目を離せば逃げられてしまう可能性が出てくる。そうなったら霊火は安全に眠れない生活だ。
……考えてみると彼が完全に敵対しているというのも中々謎だった。
いつか壊れるとは思っていたがそろそろ限界か?
(……いや、冷静に考えてみると黒霧が本気で殺しに来たらこんなもんじゃないな。ゲートを開いてそっと爆弾を置くとかもっとえげつない方法も取れるのに中途半端だ。……もしかして彼も乗り気じゃない?
霊火と黒霧は互いに裏切るにも裏切れない関係にある。
何しろ霊火は公的な書類上でも殻木球大の養子である。
もし霊火を追い詰めすぎて『収容影』を使った大暴れなんかを始めた場合は、自動的に『ドクター』の正体が割れる仕組みだ。
これは逆も同じで、敵連合を追い詰めすぎて『ドクター』まで辿り着いてしまった場合はこちらの正体が割れる。
これは互いにやられてもやり返せないという事でもあり、互いに相手を売れないということでもある。
この感覚は日陰者の
(……私の予想が合っていたとしたら黒霧も中々可哀そうだな。何しろ現場が『殻木霊火を殺す』って沸騰しているのをそれとなく止めるしかない立場だもん。私の方に突っ込み過ぎたら『ドクター』の正体が割れちゃって、そのまま敵連合が滅ぶことが分かっているもんね)
だとするとあっちもあっちで高難易度な事をやっている。
霊火の正体を明かさずに霊火を守るなど結構な無理難題だ。
出来ることと言えば、『霊火が目を覚ますまで時間を稼ぐ』とかしかない。
(……なんだこれ。敵連合内で黒霧が発言しやすいように、ここでこいつらを削り取った方がいいのか?)
ならば、猶更目の前の異形2人を再起不能にしたい。
とはいえ霊火が雄英ヒーロー科である以上、目の前の
可能ならば相手から攻撃させてこちらが反撃したという形にしたい。そのためには挑発で煽りたいが、流石に林間合宿でやったようなトラッシュトークをここでやるのは避けたい。
だから妥協点としてこうなった。
「根本的に見た目じゃないよね」
「は?」
「……見た目というよりそのしょうもない精神が、貴方たちの人生を惨めな物にしているんじゃない?」
「ふざっふざけるな!?!?!?!? うわあぁぁぁぁぁぁ!!?!?!?」
激昂した2人が霊火に襲い掛かろうとした瞬間、飛び出してきた緑谷に蹴り飛ばされた。
人生で何も成しえずに沈黙する襲撃犯を無視して、少女はジト目でヒーローに視線を流す。
「……今思っていることを正直に言ってみて?」
「霊火さんに任せるより僕が制圧したほうがこの人たちにとっても安全かなって思って……」
「ようし私の扱いについて話し合おうか」
―――――――――
(いい加減言い訳が利かなくなってきたかも……)
霊火は素直に考える。
流石に爆弾魔への対応が鮮やか過ぎた。『検死官』なんてやっていると都合の悪い情報集まりまくりの刺客来まくりで被暗殺経験が豊富になってしまうのだ。
ぶりっ子ぶってウソ泣きの一つでも挟めば良かったかもしれないが、それで刺客への対処を誤ったら本末転倒だ。
夜の住宅地に赤と青のランプが規則的なリズムを刻む。
爆発音から数十分も経つと現場には更に野次馬が集まり始め、警察の張った規制線の向こうで住民たちが首を伸ばして様子を窺っていた。
「……それじゃあ爆発の瞬間、君たちは2人で同じ部屋にいたのかい? この時間に?」
「は、はい。でも僕たちそういう関係ではなくって至って健全な」
少し離れた場所で緑谷が警察官と話をしているのをハラハラしながら眺めていると1人の警官がこちらに近づいてきた。
ご丁寧に女性の警察官だった。夜遅くに駆り出されてご苦労な事だ。
「殻木霊火さんですよね。こんな夜遅くに大変でしたね、もう大丈夫ですよ」
「はあ」
制服の襟元がきちんと整えられた、笑顔がステキな若い警察官がゆったりとした調子で優しく話しかけてきた。多分性犯罪の被害者向けマニュアルを流用されている。
まあ最近のヒーロー科での扱いがアレなだけで霊火は本来、荒事と最も遠い位置にいそうな見た目の小柄な女の子なのだ。
霊火はちょっと懐かしい気持ちになるが、女性警官は勝手にこう続けた。
「これから警察の方で保護させていただきますのでご安心ください。雄英高校の事情は把握しておりますので、様子が落ち着くまでの間私たちと一緒にいましょう」
「あー……ごめんなさい。お気持ちは大変ありがたいのですが、今回は遠慮させて下さい」
若い警官がそのままの笑顔でピシリと固まった。
まさか断られるとは思っていなかったらしい。こちらの様子に気が付いたのか、マッチョなおじさん警官やスーツ姿の初老の警官が集まってくる。
不安そうにこちらを伺ってくる緑谷にアイコンタクトを飛ばしつつ、霊火はにこやかな他所向きの笑顔で対応する。話し相手がおじさん警官にバトンタッチされた。
「ええ、私に警察の助けは必要ありません。来てくださってありがたいのですが、そこの
「本気かい? 雄英から事情は聞いている。君の学校からもすぐに保護してくれと要請が入っている」
「出来ればこいつらが来る前に何とかしてほしかったですけれどね。まあいいです。とにかく、助けは必要ありませんので」
「ちょっと霊火さん……」
見るに見かねて口を挟んでくる緑谷を無視して、霊火はまっすぐスーツの男性を見据えた。
白い髪をきっちりセットした初老の男性は真っすぐこちらを見返した。
「……ステインの一件の後、私たちが君にどういう扱いをしたのかは知っている。あれでは君に警察に対する不信感があって当然だ。しかしその拘りに従って更なる危険を呼び込むのは賢い振る舞いだと思うかい?」
「警察の方が私の事を案じてくれているのは分かっています。しかしやっぱり、助けは結構です」
「なるほど。ところで今回君たちが無力化した敵についての事情聴取に同行してほしいのだが、それには協力してもらえるかい?」
「……折角面子を立ててあげようと思ったのに」
霊火の声が低くなり始めた。
おろおろとする緑谷を置いて、世界一無意味などうしようもないバトルが始まった。
「私の病室が爆破された時点で、貴方たちはもう失敗しているんです。私がたまたま病室を抜け出せたから良かったものの私は貴方たちを信用できません」
「あちらの病院は君が逃げ出したことで警戒レベルが下がっていた。むしろ君が勝手にいなくなったことで現場は混乱状態だったのだ」
「私があの病院で無防備に寝てたら警察が防げていたみたいな言い方するじゃないですか。冗談キツイですよ? 2回も同じ犯行を許して、結局私たちが自力で対処している時点で大減点です。
「それでは何で君は病室を抜け出したのかね? 君には
「私が片腕失っている時点でコントロール不能な戦場だったことはご存じでしょうし、実際貴方たちは私に何もできない。何故なら私は殺害対象で、刑法上正当防衛にしかならない。私相手に自分が詳しく知りもしない法律を振りかざしても無駄ですよ。それにしてもここまでハッキリ言わないといけないとなると、怒りより先に残念な気持ちになるけれど」
ハッ!! と思いっきり馬鹿にしたような声を出して霊火は核心に切り込む。
それはやり手らしい初老の警官に、苦々しい顔をさせるのに十分な言葉だった。
「そもそも貴方たち御自慢の保護施設なり拘置所なりが私には安全地帯に見えないです。敵連合に『ワープゲート』がいる以上、いかに防衛力が高い施設に行くかよりいかに目立たないかが重要な気がするんですけどねぇ」
「……ならば尚更私たちと一緒に行くべきだ。ストーカー対策の為に最近新設した住所すら極秘の女性用シェルターがある。特例として彼氏さんも同行出来るようにする」
「残念ながら出久くんは彼氏ではないですが、とにかく結構です。というかその理論だと警察と話している今が一番危な」
話している途中で
ビクッとする警官を置き去ったままそのまま手振り一つで複数の鬼火を生み出し、ぱちりと指を鳴らす。
放物線を描いて飛んできた爆弾を霊火の対空砲火が迎撃する。
上空20メートルほどの位置に何個もの閃光が走り、凄まじい爆音が複数響いた。
自分たちが危険だと気が付いた野次馬から大きな悲鳴が上がる。そのまま一人二人死んでしまえばいいと思う。
「言わんこっちゃない!!!!!! もう!!!!! だからこんなピカピカ光るパトカーと一緒にいるのが嫌だったの!!!!!! 私が気が付かなければ今ので全滅だからね!?!?!?」
「な、なにぃ!?!?!?!? 堀内君、可部君、市民の皆様の避難誘導を!!!!!! 殻木霊火さんは……!!」
「ああもう事後処理のつもりでプロヒーロー呼んでいなかったな!?!? 出久くんも勝手に
続けて四発。再度風切り音をたてて飛んでくる爆弾を空中で吹き飛ばす。
夜空を見上げながら片腕の少女は切迫した声で叫ぶ。
「お巡りさんも色々難しい立場でしょうがまずは撤退を!!! これが林間合宿のリベンジだとするとこの程度で終わるとは思えません!!! そしてこれは元々私狙いの攻撃です!! ここが幾つもの異能が飛び交う戦場になってしまったら、私では警察も市民も守れなくなる!!!!」
「でも君だって……!!!!」
「私は『ステイン殺し』です!! お巡りさんならあの映像は見たでしょう!?!?
初老の警官が反応する前に、場は次のステージに移行する。
赤い瞳の少女の目線がぐるんと動き、次なる敵を見据えた。
爆音、閃光、熱線、真空刃、爆発。
激しい攻防。初撃反撃迎撃。空気にヒビが入り、光は歪んだ。
日常生活ではまず聞くことが無いような破滅的なサウンドが何種類も、3秒間に20以上も響く。
白髪にスーツの警官は気が付けば地面に這いつくばっていた。
視線をあげると何者かと対峙する霊火の後ろで庇われている。何が起きたのかはさっぱりだが、片腕の少女が自分を安全地帯に吹き飛ばしてくれたことは理解する。
空気が切り替わって行くようだった。しかもその発生源はこちら側。
殻木霊火が何か異常に濃密な――陳腐な言い方をするならば凶悪な殺気を発し始める。
初老の警官はそのキャリアの中で常人は経験することが無いような修羅場を何度も潜り抜けてきたが、この少女の気配は別格だった。
そう。まるで“死“そのもののような……。
「『呪い火』ちゃんだあ……やあっと見つけたぁ……殺すね?」
「ああ、貴女が複数能力を操ると噂の鬼の童女か」
危機的状況だというのに呆れた口調の霊火。一方で警官の方は襲撃者の正体を見て目を剥く。
改造和服に蒼い角、金色の瞳の童女だった。
資料にあった顔を見て、男は倒れたまま叫ぶ。
「お、お前!!!!! どうやって護送から逃げ出したんだ!!!!」
「うっわ……ニュースの逃走した敵ってこいつのこと? なんて化け物逃がしてくれてるんだ警察……」
童女の周りでゴウッ!! と空気が渦を巻き、少女はその五指に明らかに不吉な力をチャージし始める。
童女から目を離さずに、殻木霊火は小さな声で囁いた。
「ここを切り抜けたら私は一度身を隠します。お巡りさん、もしよければ出久くんのお母さんを保護して下さい。あと私の親の方は大丈夫だと思いますので」
そして警官が返事をする猶予なんて最初から設定されていなかった。
少女の右手が動き、超高速で新たな攻撃手段が組み上げられる。
「『トランジスタ』クワッドサーキット三一三四接続・“燃焼““高温““燃焼“・“衝撃“・“圧縮““圧縮““圧縮“・“バックドラフト““爆風““指向性““ジェット“」
「『反芻』発動準備」
「再現『プロミネンスバーン』・スイッチオン!!!!!」
“個性“戦闘かくあるべしといった感じだった。
炎熱が、低温が、雷鳴が、爆音が、獣が、爆音が、真空刃が、熱線が。
様々な異能が飛び交うそれはまるで神話の大戦だ。
鬼と魔法使いの超常戦争が始まる。
―――――――――
超常戦争は八百長でもあった。
というかこの対戦カードは対物ルールが素通しなため、本来普通に霊火ガン有利だ。
ついでに言うと2回目の爆弾遠投に対応できたのも黒霧の気配があったからで、霊火の勘が死ぬほどいいからとかではない。
「ナイスタイミング!!」
「私も超ビックリ!!! 霊火ちゃんも無事でよかったよ〜!!」
因みに鬼の童女の間延びした口調は演技だったりする。
……AIに対して演技と言うのもおかしな話だが、とにかくあの口調は後から入れたものなのだ。霊火としては軽い口調のこのモードの方が親しみがあった。
2人が立ち話しているのは地下鉄のレール上だ。
鬼が“個性“を色々と併用してアスファルトの地面をぶち抜き、2人で落ちていったのだ。
周囲のカメラを丸ごと無効化し野次馬も排除。ようやく話す時間を確保できた。
「まず霊火ちゃんが狙われている理由だけど、まあ想像通りだよ。異形メンバーとステイン信者がブチギレてる。霊火ちゃんは煽りすぎ!!!」
「うおお私もちょっと後悔してるんだそこは。でもああでもしないと林間合宿で死んでたの」
「黒霧が頭を抱えてたよ!!! 次会ったら謝ってあげてね!!!」
「ええ!? 私悪くなくねぇ!?!?」
傍から見れば楽しく話しているように見えるだろうが、本質的にこれは一人遊びだ。
AIに言葉や性格を覚えさせて会話相手を作るとかいう限界友達作りなど、相当な思い込み力が無いと虚しくなるだけだ。
鬼の童女はすすっと霊火に近寄ると、内緒話をするように囁いてくる。
「……
「うっそ!?!?!?!? え、マジで!?!?!?! どうやっ……あっ。 『二倍』か!!!!!」
「今の今まで気が付かなかったの? 霊火ちゃん自分が思っている以上に疲れてるよぉ……? 気を付けてね?」
「妙なミスが多いと思った!! え、どうしよう。え、え、本当にどーすんの……!!!」
「どーすんのも何も回収不可能じゃん? まだ目を覚ましてないみたいだけど、霊火ちゃん的にはあのおっぱい大きい人はどんな感じなの?」
「……多分敵連合には入らないと思うんだよなぁ……。いやこうなっちゃったら
「えぇ〜!! もうしょうがないなあ……私が何とか頑張って勧誘してみるよお……」
「とにかく演技でもいいから頷けって言い含めておいてね。うっわ『創造』が渡った事自体も超厄介なのに!!! ていうか何で重力圏から抜け出してんだあの巨乳ポニーテール!!!!」
「なんか相澤先生も来てたし皆逃げ出してたよ?」
「それじゃあ何!?!? あの重力、結局ヒーロー側の戦力を無意味に削いでただけって結論なの!?!?」
霊火は線路上でうずくまり本気で頭を抱える。
童女は腰ぐらいの高さにきた頭をポンポンとたたいて慰めた。
「私たち連絡先交換するべきだと思うよん? 話を伝えるにも一苦労だもん」
「通信って私以上の化け物がちょくちょくいるから怖いんだよなあ……」
そんなこんなで2人で立ち上がる。
そして最後に鬼の童女はこう言った。
「あ、そういえば『半冷半燃』ゲットしたよ」
「それを最初に言え!!!!! え、マジ? 『創造』手に入れたらストレートフラッシュじゃん!!」
「『抹消』も本当に頑張ったんだけどな……『操血』の方は無限に取れた。後『生き物ボイス』」
「マジかそっちは【開拓】ちゃんの方に搭載したい!! お魚沢山育てられるよ!!!」
「使用感としては『複製腕』死ぬほど強かったけどな……あれ脳無に搭載したら化け物が出来上がる気がする!!」
「ドクターの奴、あれぐらいなら自力で作り出しそうなんだよな……まあいいや。とにかくこれで色々大きく進歩したね」
霊火はにやりと笑った。
「次は2つ目の[Class:6]開発か……楽しみだな」
「個性強度が『永夜』を超えるんだっけ? ……因みにそれでハイエンド軍団に勝てるようになるの?」
「無理☆ ……なんか最近“生きている脳無“とか作ってるらしいんだよなあの人。脳無対策の私対策の脳無ってなんだよ」
「ビックリするぐらい本末転倒だね。バカじゃないの?」
「是非とも一緒にバカにしたいところだけれど、困ったことに私もその傾向はあるんだよな……」
「ああ……そういえばカッコいい子だったね。緑谷出久くん」
「私の本末転倒ポイントを的確に抉り出すのやめてよ」
「たった一人の個人に惚れ込んで、そのまま全部を捧げちゃうところもドクターにそっくりだね……」
「うごごごご………気付かないフリしてたのにい……!!」
そして霊火は本格的に虚無感が抑えられなかった。
自分で組み上げたAIと友達みたいに話してどうしろというのだ。
感想や評価ありがとうございます。大きな励みになっております。