殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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058:絆して絆されて絆されないで

 どんな時にも守るだなんて。

 彼には可哀想な約束をさせてしまった。

 

 それを言われた時、霊火だってとても嬉しかった。ただそれを上回る複雑さだった。

 ……一般的に考えて異性に対するこの台詞は愛の告白かそれ以上の言葉でもある。

 

 しかし彼に関してのみ、この台詞にそれほど特別感は無い。

 緑谷出久という少年は誰に対してもこれを言う人種だ。まじめに受け取ればそのまま損をする。

 もっとも霊火は彼のこういう所が好きなのだが。

 

 そして彼の場合、この約束はその場の口説き文句という訳でもないのが話をややこしくする。

 緑谷出久は殻木霊火を必ず救けて一人にしないという、文字通りの決意表明。

 ……あるいは、ボロボロになってしまった華奢な少女相手に、彼なりに思う所があったのかもしれない。

 

 だが、彼の約束が果たされるときは来ない。

 

 こんな事は最初から決まっている。

 緑谷出久と殻木霊火の関係はいつか必ず破綻する。

 霊火はそれが分かっていて、彼に近づいたのだ。

 

 抜け道は、無い。

 

 ―――――――――

 

 「うわあああああああ!!!!!!」

 

 ゴウォッッ!!!!!! と。

 ごちゃごちゃと工作機械と段ボールが並ぶ地下室全体を、毒々しいオレンジ色が舐め尽くす。

 霊火の『死因』は対物であれば無敵だ。”焼死”の鬼火は僅か数秒でありとあらゆるものを殺し、不可逆的な死をもたらした。

 

 

 驚愕の大声を上げる緑谷と対照的に、ストライプの入った車輪付きアルミ製スーツケースを左手に引く美少女放火犯は涼しい顔だった。

 

(別に隠れ家もここだけって訳じゃないし……)

 

 指鳴らし一つでごちゃごちゃした隠れ家をガランとした空き部屋に変身させ、数多の犯罪の証拠を丸ごと闇に葬った霊火は何食わぬ顔で頑丈な金属製のドアを潜り抜け、地上へ続く階段に脚をかける。

 そう、霊火の”個性”は証拠隠滅と死体処理に死ぬほど強い。そしてミステリ小説やドラマを見ればわかる通り、殺人事件の調査はやはり凶器か死体が取っ掛かりだ。これを指鳴らし一つで復元不可能にしてしまうからこそ、霊火は捜査機関を手玉にとれるのだ。

 オマケにカメラにも映らない霊火は世界最強の完全犯罪メイカーという側面もある。

 

 少女は呆然と立ち尽くす緑谷に呼び掛けた。

 

「さっさと行くよ出久くん」

 

「これって左から右に流していい事なの!?!? え、結構な大事件だと思うんだけど!?!?」

 

「持ち主たる私が被害届を出さなければ事件にはならないよ。それに逃走中は自分の痕跡を消すのは基礎の基礎でしょう?」

 

「……もしかして霊火さん、こういうの慣れてたりする?」

 

「現代日本で、一番”被誘拐・被暗殺”回数が多い個人だとは思うよ。……それらが全て未遂という所にレアリティを感じて欲しいけれど」

 

「……そりゃ人間不信にもなるよね」

 

「いやあ、分かりやすい敵組織とかならまだいいんだけれど”公的”な組織が殺しに来たこともあるからね。例えばどこぞの大国の特殊部隊とか☆」

 

 雑に設定を付け足した霊火が振り返ってみると、緑谷は(そんな事もあるんだ……大変だ……)という顔をしていた。

 少しは疑って欲しい。ここまでくると素直で可愛いまであるが。

 

 因みに残念な事にこの話は半分本当だ。

 

「……霊火さんってそういう時、どうやって対処するの?」

 

「あー…………()()()()()()()()()()()()()。誇れる話でもないから……」

 

 これには沈黙が返ってきた。

 

 ……この部分は賭けでもある。

 正義感の強い彼の事だ。霊火が濁した部分を追求してくるようなことも、十分あり得る展開ではあったが、その時には更なる嘘を重ねなければならない場面だった。

 しかし霊火は幸いにして、小さな賭けに勝った。

 

「……分かった。()()()()()()()()()()。それで霊火さん、どこに行くの?」

 

「横浜のホテル。折角変装したんだし、のんびり気軽に新幹線を使って行こう?」

 

 空き室になった地下室から出て、階段を上って追いついてきた彼は、霊火が引いているスーツケースを代わりに持ってくれる。

 そのまま2人で軽い雑談をしながら、夜の屋外に踏み出していく。

 

 その間にも霊火は1人で思考を巡らせていた。

 

(……スルーか……実際は何も起きていないという希望的観測ではなさそう。聞く勇気がないわけではない。私だからの特別対応は多少あるだろうけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”が近いか?)

 

 彼としては、かなり『らしくない』行動だった。

 

 霊火の知る限り、緑谷出久は相当な潔癖だ。

 決して悪を許さず、彼が思う正義を為す。……これはこれで危うい気もするが、彼の行動基準はとにかくハッキリしている。

 ……実はステインと似たタイプというのが、霊火の正直な印象だったりもする。

 

 そんな彼が、追求してこなかった。霊火がかなりの明確さで何らかの犯罪を匂わせたのにも拘わらずにである。

 見て見ぬふりとは少し違う。聞いても意味が無いから聞かないという選択。

 その背後には確実に計算が存在した。

 

 霊火は小さく首を振る。

 

(……余計な秘密を探らずトラブルを回避するのはどちらかというと私の処世術……これ私の影響か……?)

 

 不要な場面で腹を探らない。嘘だと思っても信じたふりをする。聞かれたくなさそうなら話を変える。

 別にこれといって特殊な事をしている訳では無い。人間関係を円滑にするため、誰でも心掛けるちょっとしたテクニックだ。

 まあこれが”大人”ってものだ。小さな染みも許さない潔癖なだけの思春期など、早めに抜けるに限る。

 この辺りを拗らせた人間は時折見かけるが、何かと悲惨だ。例えばヒーロー殺しとか。

 

(うーん……これいい事なのかな? 出久くんに関しては多少無神経な方が彼らしいんだけれど……)

 

 とはいえ良く言えばヒーロー性。悪く言えばお節介。

 緑谷出久の象徴たる要素が、少し薄まっているようにも感じられた。

 つまり、霊火としては少し心配な変化ではあった。

 

(……清濁併せ吞むといえば悪くないか。これまでの真っ白な漂白剤みたいな価値観のままじゃ、そのうち現実に押しつぶされるのが確定しているようなものだもんね……)

 

 まあ彼の親友は規格外の悪人なのだ。

 これだけ近い関係である以上、彼の精神性にある程度霊火の影響が出るのは自然な話と言える。

 

「ねえ、手を繋いでいい?」

 

「繋いでから聞くんだ……」

 

「……嫌?」

 

 口ではそういいながらも、女子大生風でちょっと大人な霊火は勝手に恋人繋ぎを成立させていた。

 あからさまに演技っぽいテンションで分かりやすく落ち込んだ声を出す霊火の右手を、緑谷は半笑いで握り返す。

 

「いい? 今回のコンセプトは大学生カップルだよ。つまりイチャイチャすればするほど変装の成功率は上がるからね!!」

 

「僕は別にカップルでもいいんだけど、霊火さんは本当にいいの? 僕なんかと一緒じゃ釣り合わないんじゃ……」

 

「これをツッコミ待ちとかじゃなくて本気で言ってるんだから質が悪いんだよな……」

 

 因みに霊火の中で”こちらの好意が全く伝わらない理由”は、緑谷出久が極限のクソボケだからという事でだいぶ前に決着が付いていた。

 というかここまで好き好きアピールをしている女の子がいるにも関わらず、自分に向けられた感情に気が付かないというのはそろそろ本格的に有罪だと思う。

 余裕そうに見えるかもしれないがこっちは毎回ドキドキしているのだ。不公平すぎる。

 

 ちょっと背伸びしたコーデの少女は、そのまま彼の左腕を両腕でホールド。

 そのままガッツリ密着し、胸元に押し付けてみる。

 

「ちょちょちょちょちょええええ待って霊火さん待ってむむむむむむむむ胸が」

 

「……これ詰め物だよ? 男の子ってもう柔らかければ何でもいいの?」

 

 真っ赤になって死ぬほど動揺する緑谷に対して、霊火は余裕の表情でくすりと笑う。

 しかし緑谷はパニックのままこう返してきた

 

「いや、()()()()()()()()()()()()()()()()……あ」

 

 それを聞いた貧乳少女が石化でもされたかのようにピシリと固まった。

 ギギギギギ……と油の切れたロボットみたいな挙動でゆっくりと相手を覗き込む霊火。

 やらかした!!!!!! という顔をする緑谷。後悔先に立たず。

 

 彼が具体的なリカバリー策を思いつく前に、路上で霊火の暴走が始まってしまう。

 

「…………………………ふうううううううぅぅううぅぅうんんんん???????????????? 出久くんは本物の、おっきいおっぱいが好きなんだあああああああぁぁぁぁぁあああああ???????????????? 私なんかお呼びではないと!?!?!?!?!?!? そういいたいわけ!?!?!?!?!?!?!?」

 

「ごめんごめんほんとごめん霊火さん声おっきいから抑えて!?!?!?」

 

「…………………………なんで今謝ったの? 私の胸が無いって言ってる!?!?!?!?!?!?」

 

「ちょっと落ち着いてよ霊火さん!?!?!?!?!!?!? 僕ここからどう返せばいいの!?!?」

 

 傍から見たら極限のバカップルにしか見えないやり取りをする2人だったが、極めて触れにくい話題を前に少年が本格的に困り始めた事を察した少女は渋々と矛を収める。

 あからさまにホッとした緑谷を霊火はジト目の上目遣いで睨みつけると、諦めたように息をついた。

 

「えー、緑谷出久様のご意向に添えない貧相な身体で申し訳ない限りだけど、取り敢えずカップルのフリをしてくれると嬉しいな」

 

「そんなこと無いよ……霊火さんは素敵な人だよ……」

 

「……まあ出久くんは私を助けてくれている立場だし、そういう意味では凄い感謝してるよ」

 

 少女はぎゅむぎゅむと彼の左手を握りながら、更に強く腕を抱え込む。

 当たり前だが異性と身体を密着させる恥ずかしさは詰め物をした程度では全然低減されないためこちらの心拍数が凄いことになっているのだが、今はこの役得を堪能するべき時だ。

 

 背伸びをする少女はいつもよりも少し低く、甘く、柔らかい声で少年に囁きかけた。

 

「例えばの話。もしも恋人が出来たなら、出久くんは何をしたい?」

 

「……恋人と言えば遊園地で手を繋いで、クレープを半分こするとかかな?」

 

 霊火は露骨に微妙な顔をした。

 

「……クレープ? ひと口あげるとかじゃなくて? あれ半分こ出来る仕組みじゃなくない?」

 

「れ、霊火さんが聞いてきたんじゃん!!!!!」

 

「付いてきてくれたお礼で貴方の理想のシチュエーションに付き合ってあげようと思ったんだけど……。 というか遊園地で手を繋ぐ所までは私たちが中学生の時にやってない? 本当にその程度でいいの?」

 

「その程度って……()()()()()()()()()()()()()……?」

 

「嘘だろこの手の話題で知らないフリは女の子の特権なはず……。なんか……うん……あるでしょ……?」

 

 想定以上にぴゅあぴゅあな男の子を相手にして本気で頭を抱える実年齢一桁ガール。

 緑谷があまりにも『これ以上なんてあるのか……?』みたいな顔をしているため、霊火の中で彼の“恋人“定義はMAXでキス程度なのではという謎の疑念が発生してしまう。

 

 そんな“個性“発現前でも時代遅れな、”昭和”の価値観を持たれてたら困ってしまう。

 常識として、現代の高校生カップルは一般論として行く所まで行くのだ。

 

 そして今どき珍しいレベルの純朴さは少し心配でもあった。

 何しろ今の緑谷出久は、天下の雄英高校ヒーロー科にして体育祭1位のガチ有望株だからだ。つまりはあんまり無防備なままではこっちが困る。

 今の彼は見る人が見れば、鴨が葱を背負って来るようにしか見えないだろう。

 

 この調子だと、彼の前には今後半年未満の内に恋愛経験豊富百戦錬磨の黒髪ロングが現れる。霊火からしてみれば何で男どもの中で黒髪ロングが清楚系枠になるのかが分からない(身だしなみがしっかりした美人の黒髪ロングは超高確率で経験豊富だ)が、とにかくクソナード君など瞬殺確定だ。デキ婚とか洒落にならん。

 何が恐ろしいかというと、これは決して霊火の誇大妄想では無いことだ。何しろこちらは既に、男の子には絶対に教えられないような女同士のドロドロ小競り合いに思い切り巻き込まれているからだ。

 

 そう、雄英高校普通科の女はヒーロー科狙い率が高いなんて事、女子の間では公然の秘密だ。

 オマケに奴ら、『……スタイルは圧勝』とでも言いたげに滅法小柄な霊火のことをガッツリ見下してくるのでこちらとしてもいい思い出がない。

 そもそも霊火は自分の体型を心の底から気に入っているため勝手に勝ち負け判定されること自体が誠に遺憾だ。

 

 とにかく見知らぬ女に彼を掻っ攫われるのだけは、霊火としては絶対に許容できないシナリオだった。

 

 そしてどこまで行っても最後には臆病な小柄で華奢な初恋少女は、蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「ほら、これ以上って…………例え話だからね? ……ホテルで……ほら……ね?」

 

「……………? っっっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!? そそそそそそそそういうのは結婚してからだろっっっっ!!!!!!!!!」

 

 貞操観念はしっかりしていた。些かしっかりし過ぎだが、まあ一応は完全な無知というわけでは無いらしい。

 良かった、”赤ちゃんはコウノトリが運んでくるのようふふ”なレベルだと本格的に霊火の手に負えなかった。

 

 ……数秒後、自分たちがこれからホテルに行くことを思い出してしまった霊火だったが、渾身の力で動揺を心の奥に閉じ込める。

 

「うぅ……何で私がこんな事……あのねぇ出久くん。今どきそんな純情カップルいません!! 何だよ遊園地でクレープ半分こって……やってあげてもいいけれど、小学生でももうちょっと進んでるよ……!!」

 

「べ、別にいいじゃないか!!! 逆に何で僕の願望にそんなに拘るんだ……!! ()()()()()()()()()()()()()()……!!!!」

 

「……っ!!!! い、いじわる!!!! ほんっっとうにいじわる!!!!!! 何でそんなに私をいじめるの!?!?!? 困ってる私を見るのがそんなに楽しい!?!?」

 

「ご、ごめん……そんなつもりじゃ……?」

 

 関係ない扱いされた霊火は、普通にしっかり傷ついた。

 ……正直、”関係ない”とまで言われると思わなかった。脈無し片想い過ぎる。本当に苦しい。

 

 すぐ隣の少女がじわりと涙目になった事に気が付かないウルトラミスをやらかす緑谷は、どうして霊火がここまで自分の恋愛観に拘ってくるのかを考えていた。

 

 少年は自分の持つ情報をしっかりと精査し、数秒の思考の末に結論を出す。

 そう、彼女が密着してきたり恋バナを沢山してくる理由なんて“これ“しかないのだ。

 

 緑谷は一瞬迷う。

 それが、場合によっては霊火に対してとても失礼な考えだったからだ。

 

 しかし少年は霊火に対する牽制として、敢えて仕掛けてみることにした。

 

「……()()()()()()()()()()()()?」

 

「まあ可愛い女の子がいきなりベタベタしてきたらそれぐらい疑った方が良いだろうけど……」

 

 霊火はちょっと拗ねたように、それでも普通のテンションで返した。

 それを聞いた緑谷は諦めたように、でも少しだけ楽しそうに笑う。

 

 少女は冗談だと捉えて、少年は本気だった。

 少女は素直に返して、少年ははぐらかされたと受け取った。

 少女は少年を信じていて、少年は少女を信じていなかった。

 

 しかし。

 

「もう……だったら私で耐性でも付けてよ。……どんな女の子が言い寄ってきても、私の方が可愛かったなって思っちゃえば少し落ち着くでしょう?」

 

 私で練習しよう? と楽し気にからかってくる霊火を直視できず、緑谷はついと顔を逸らした。

 顔なんてずっと熱かった。左腕に押し付けられる柔らかい感触が更に圧力を増すのを否応なく意識してしまう。

 

 そう、どれだけ危険な影がチラチラしていたとしてもだ。

 可愛く賢くて、距離が近くて、ずっと自分の事を応援し続けてくれる小柄で綺麗な女の子なんて。

 悪くなんて思えないに決まっている。

 

「……僕には霊火さん以外に、そういう人は出来ないよ」

 

「わわ。今のはきゅんと来たかも」

 

 ――――――――

 

 ハニートラップは今でも国家規模で運用されている、非常に強力な情報戦術の一つだ。

 そもそも人間の脳は、自分に好意を持つ相手を疑うことに大きな抵抗を示すように出来ている。

 ”分かっていても引っ掛かる”。だからハニートラップは怖いのだ。

 

「この人は違う」「この子だけは大丈夫」

 そう思わせることこそがハニートラップの本質だ。

 どれだけ警戒していても、どれほど用心深い人間でも、心の奥底では「自分を好いてくれる人」を信じたがっている。

 

 それは生物としての本能であり理性で制御できる類のものではない。

 むしろ賢ければ「私なら見抜ける」という思い込みが強くなり、効果が増す。

 

 結局のところ人間の感情に付け込むこの手法は、知能の高さも、経験の豊富さも、意志の強さも、あっさりと無力化してしまうのだ。

 

 ましてや殻木霊火は、緑谷出久を利用する気はない。

 『AFO』を倒してくれればなと漠然とは思っているもののそれどまりだ。そもそも緑谷出久本人を育てる方が危険でもある。

 故に彼女が彼に向ける態度は、純度100%の好意と恋心で構成されている。

 これをどうやって見破れというのだろうか。

 

 だから緑谷も、結局破滅への道から外れていない。

 そもそも彼が”自分から話してくれるのを待つ”なんて対応をしている時点で殆ど勝負はついているようなものだ。というかその思考はハニトラ被害者の典型的な負けパターンでもある。

 

 それに霊火が本当に秘密を話すときが来るとするならば、それは宣戦布告の時だ。

 こうなると残るのは『緑谷出久が殻木霊火の正体を暴く』可能性のみだが。

 

 ただの男子高校生にこれを許すほど、(ヴィラン)としての霊火は甘い存在ではない。

 

 ――――――――

 

八百万百・データ(1/87)

 

- 身長:173cm / 体重:58kg

- 血圧:112/68mmHg

- 総コレステロール:168mg/dL

- HDLコレステロール:75mg/dL

- 骨密度:同年齢比122%

- 視力:両眼2.0

- 肺活量:3,800cc

- 安静時心拍数:54回/分

- 体脂肪率:18%

- 個性:別紙参照

 

メモ

”個性”柄体重を気にする様子は無し。おまけに栄養は胸に行く様子。かなり食べる量が多いのを留意する事。細かい食の好みやアレルギーについては別紙参照。

かなり鍛えているがヒーロー科としては並程度。数値上は立派に見えるが根本的に鈍臭い。期末試験辺りのデータ参照。

詳しいトレーニングメニューについては別紙参照。

 

 

出身・居住

 

-出身地:愛知県長久手谷市深谷町1-42

-実家:別紙参照

 

メモ

ハイパーお嬢様、実家の稼業や経済状況、家族構成については別紙参照。

受賞歴についても別紙参照。

デマの拡散や資金力を総動員すれば実家を落とせなくもないので、そのルートを選ぶ時はこちらに相談すること。別紙参照。

育ちが良すぎるため、お手洗いとシャワーを許さず数日置くだけで折れる可能性がある。この場合服は着せたままの方が効果量は大きい。

 

 

・アパレル情報

- スリーサイズ:B92-W58-H88

 

・普段着

 

- MAISON DE L'AURORE 2025春夏コレクション限定シルクブレンドワンピース(¥468,000)

- CELESTIAL BELT プラチナライン サファイアバックル付きクロコダイルベルト(¥385,000)

- STELLAR STEPS カスタムオーダーパンプス(¥278,000)

 

下着:LA ROSE SECRÈTE特注品

 

他データについては別紙参照。

 

メモ

化け物じみたモデル体型。発育良すぎ。

自身の容姿には自覚が無い振りをしているだけで自覚あり。というか自覚が無ければこの服を選べない。

服のセンスは絵にかいたようなお嬢様。ただしこの手のタイプには珍しく、露出に抵抗なし。

 人の目にどう映っているかに関心が無いガチ天然型。彼氏が出来たら気が気じゃないだろうな。

 

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・コスメティック

 

使用ブランド:ÉTOILE DIVINE(年間100名限定顧客制)

 

基礎化粧品

- クリスタルエッセンス美容液(30ml・¥380,000)

- ダイヤモンドパウダー配合ファンデーション(¥198,000)

- プラチナコロイド含有化粧水(¥265,000)

- 真珠エキス導入美容液(¥420,000)

- 金箔入りナイトクリーム(¥315,000)

- 幹細胞培養エキス原液(¥580,000)

 

メイクアップライン

- オーロラパール配合リップ(¥45,000)

- ダイヤモンドアイシャドウパレット(¥168,000)

- プラチナムマスカラ(¥78,000)

 

ボディケア:

- 金箔入りボディクリーム(¥245,000)

- ダイヤモンドボディスクラブ(¥198,000)

- 白金ミストローション(¥156,000)

 

メモ

一周回って成金趣味まである。これでおそらく無自覚。多分店が勧めるものをそのまま買っている。

容姿には気を使っているが、手間のかけ方は普通の範疇。非常にレベルの高い美人。

 

 

・ 読書傾向

 

読書時間:平日3-4時間、休日は最大12時間

最近読了:詳細なデータは別紙参照

- 『量子物質創造理論』

- 『素材物性の量子力学』

- 『建築と空間の物理学』

- 『創造性の脳科学』

- 『高次元物質構造論』

 

詳細なリストは別紙参照。

 

メモ

文系分野も意外と好きそう。恋愛小説も読むが友達との付き合いの為。最近はロックに興味が出た様子。

読書話で打ち解けられるとは思わないこと。

 

頭はかなり良い(別紙参照)。雄英高校の筆記入試は2位。中間・期末データに関しては別紙参照。

私がいなければ筆記は完全な一強だったと思うが、やはり普通の範疇。

試験前に試験勉強をするタイプのつまらない秀才。ただし低学歴集団の敵連合では丸ごと出し抜かれる可能性が普通にある。“個性“も含めて取れる手段が多すぎるため、拘束時は絶対に目を離さないこと。というか追い詰め過ぎたら特製爆弾で心中してきそうで怖い。

 

 

 

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携帯スプレー:

 

- 2024年夏-現在:CELESTIAL GUARD プレミアムミスト(¥29,800)

- 2024年春:ROYAL SHIELD アドバンストスプレー(¥25,600)

- 2023年:NOBLE PROTECTION クラシックタイプ(¥22,400)

 

使用ブランド:LUNA COMFORT(高級オーガニックライン)

 

- シルキータッチパッド・デイタイムロング

- エアリーフィット・ナイトユース

- オーガニックコットンライナー

 

・最新健康診断結果:別紙参照

 

メモ

長期監禁懐柔パターン想定で一応調べたけれど悪用するなよ。服薬については別紙参照。

 

・ 個人履歴

 

初恋:実家の執事・日向誠一郎(42歳)※片想いで終わる

初恋時期:6~10歳頃まで

 

備考:完璧な礼儀作法と教養を持つ執事への憧れが恋愛感情に発展。数度告白もしたがうまく躱された。今も一番の信頼を置いている。彼の詳細については別紙参照。

 

メモ

この執事はボディーガードも兼ねたガチ戦闘型なので、うっかり手を出して大火傷しないように。因みに既婚者。彼女も当時、それを知って諦めたらしい。

 

・言語

 

 標準語プラス東海地方、愛知のイントネーションやや混じり。標準語の訓練形跡有り。

 

 別言語については別紙参照。

 

メモ

『変身』成り代わりルート向け情報。

 

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メモ

 

 私が八百万百について調べられたのはこの程度だけれど。マジで可哀想だから絶対に流出させないように。敵連合の他のメンバーにも見せないこと。

 

 勧誘方法についてはそっちで決めて。私が口を出すと激甘になる。

 ただ、どうしても敵連合に入りたくないと言うならば無傷で解放してあげるのも手段の一つだと思う。少なくとも格は上がるはず。

 

 それじゃあ林間合宿でまた会いましょう。

 マジで来ないで欲しいけれど。

 

 クソ馬鹿お兄ちゃんへ。

 愛すべき妹より。

 

 ――――――――

 

 ところで八百万さんちの百ちゃんは意外と元気だった。

 

「――――というわけで、これがウチの方針だ。ま、これは話半分に聞いてくれていい。これはあくまで俺の意見で、他のメンバーに聞いたらまた違う答えが返ってくるはずだ」

 

 手足の拘束は説明が始まる前に解かれていた。

 背筋を伸ばしてガチガチに緊張した様子の八百万百と、タブレット片手の死柄木弔。

 誰もが恐れる凶悪敵の彼は、極めて大真面目に連合のプレゼンをしていた。

 

 鬼の童女は珍獣でも見るような目付きでそれらを見て、そのまま隣の黒霧に小声で話しかける。

 

「……スライドまでつくって……なんかイメージと違うんだけどお……え、もしかして練習してたあ?」

 

「ええ、していましたね。私も付き合わされました」

 

「おいそこ黙れ殺すぞ」

 

 特級の危険人物から警告を受けた童女は肩を竦めて首を振る。

 

 そして天下の敵連合、どうやらアットホームな雰囲気を演出することに全力らしい。目つきの悪いJKと大柄なオカマなんかは楽しげに化粧品について語り合っている。因みに『スピナー』は不在だ。

 

「いいか八百万。何度でも言うぞ。俺たちには、お前が必要だ。……こっちも『君はヒーローよりも敵が向いている』なんて寝言をいうつもりはねえ。確かに、お前は俺たちと違って優秀だ。まあどこに行っても活躍できるだろうな」

 

「い、一体何を言って……」

 

「だが俺らにはお前が必要だ。俺らは確かに社会のはぐれ者で、だからこそこのヒーロー社会を壊して自分の価値を証明したい。……その為にもお前の力がいる」

 

「ちょっとおリーダー!! 大人がJKを口説くんじゃないわよぉ!!!!!!」

 

「そうですよ弔くん!!!!!!」

 

「お前らもちょっと黙ってろ」

 

 時々飛んでくるヤジに対応しながらも死柄木弔は終始冷静だった。

 童女はいよいよ不審そうに眉を顰めると、小声で黒霧と会話を続ける。

 

「(……何か心境の変化でもあったのあの人? もっと短気だって聞いてたけど?)」

 

「(おやキャラ作りは止めたのですか? ええ、弔にも付いてきてくれるメンバーを裏切る訳にはいかないという責任感らしきものが芽生えてきたようです。その為にはプライドを捨てて下手に出ることも苦ではない……と)」

 

「(ああ……仲間意識って成功体験を共有するところからだもんね。USJ事件の時から体験を積んで一皮むけた感じ?)」

 

「(ええ、それに貴方の”親”の資料で『頼まれると断れないタイプ』等と書かれていた事もあり、ではそちらからアプローチしていこうかと話し合った次第です)」

 

「(悪くない作戦だと思うけどちょっと弱くない? あの人ならもう一押しをすると思うけど……あ……)」

 

 木製の椅子がきしむ音。

 荼毘がゆっくりと立ち上がる。縫い合わされた皮膚のつぎはぎが不気味な影を作り、全身のケロイドも合わさって見た目の迫力は十分だった。

 夜道で会ったら死を覚悟する敵ランキングがあったら相当な上位に入るであろう強面が、不機嫌そうに八百万を睨んだ。

 

 童女とバーテンダーの纏う空気が変わる。

 場の緊張感が跳ね上がる。哀れな八百万は空気を敏感に感じ取り、じわりと涙目になる。

 

「おい。何でこんな奴に媚びてんだ死柄木。いう事聞かねえなら殺すでいいだろ」

 

 低く危険な声だった。

 八百万百が全身を震わせているのを見て、放火魔の唇の端がせり上がる。

 死柄木は、さらりと八百万を庇う立ち位置に移動した。

 

「まあ待て『荼毘』、そういう訳にもいかねえだろ。無理やり言う事聞かせて仲間にしても、そのままヒーローの所に逃げ込まれて終わりだ。仲間にするにはまずこちらの信頼を示さないとな」

 

「ハッ!! そんな事考えてんのかよ”リーダー”……そんなの丁寧に勧誘してもリスクは一緒だろ。それより『言う事聞かなければ指を落とす』『裏切れば家族を殺す』『情報を漏らせば友達を殺す』とかでガチガチに縛って利用したほうが有効に決まっている。……こいつ『創造』なんだろ?」

 

「”だからこそ”だ。まず俺の方法に従ってもらう。……こんな奴を飼い殺しなんて勿体ないぜ……」

 

「……生きたまま改造したほうが手っ取り早いだろ……」

 

 小さな嗚咽があった。

 恐怖が閾値を超え、泣き出してしまう女子高生を見て童女は感心したように呟いた。

 

「(”怖い警官役”だ……。これリーダーが考えたの?)」

 

「(どうやら事前に打ち合わせはしていたようですが……)」

 

 死柄木は内緒話の二人組を一瞥すると、再度攻略対象に向き直った。

 

 横合いから箱ティッシュが投げつけられ、咄嗟に受け取る。

 五指で触れないように気を付けながらも投手のMr.コンプレスを睨みつけ、箱自体は八百万に差し出した。

 

「拭け」

 

「……結構です」

 

「そうか」

 

 断られても特に感情を害した様子も見せずに箱をすぐ傍に置き、こう続けた。

 

「いいか。俺たちは勝つつもりだ。オールマイトも引退した今、これは決して夢物語ってわけじゃねえ」

 

「……嘘」

 

「いや本当だ。だからそんな悲観的な顔をするな。お前は今、勝ち馬に乗る最大のチャンスを掴んだ。……冗談抜きにヒーローを目指すよりビッグになれる可能性もある。……まあそんな事は別に望んでないのか」

 

「…………………………」

 

「こちら側に来いよ八百万百。……表でドンパチやるだけが(ヴィラン)じゃねえ。裏方で支援してくれるならば、それはそれでだが、それほどありがたい話はない。これならお前のリスクも最低限に抑えられる」

 

「…………………………しかし」

 

 八百万には、もう余裕なんて無かった。

 綺麗な瞳から涙が止めどなく溢れ落ち、頬を伝っていく。

 肩を震わせてすすり泣きしながらも、彼女はボロボロのまま、堂々と自身の在り方を宣言して見せたのだ。

 

「敵連合には入れませんっ……!!! わ、私はっ……絶対に、何があっても……日々を当たり前に過ごしている、普通の市民の皆様に、危害を加えるなんて悪事はしません……!!!!!!!!!!」

 

 ――――――――

 

(…………………………まあそうか。ヒーローの卵だもんね。……それにしてもここまで後味が悪いのも久しぶりだけれど)

 

「どうしたの霊火さん、考え事?」

 

「ん、ボーっとしてただけ。なあに出久くん?」

 

(まあ死ぬだろうな。『創造』自体は既に工場の方に送っちゃってるからいいけれど……うー、罪悪感とか持てる人間性がまだ残ってたんだなあ私……)




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