殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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060:難易度ナイトメア+++

 中(・)学(・)の(・)制(・)服(・)に身を包んだ下校中の男女は、軽い口喧嘩をしていた。

 

「――だとしてもあそこまでやる必要無いでしょ!!」

 

「あれでも相当セーブした方なんだけれど……? ほら、かわいー(笑)顔は避けたりとか」

 

「だからといってあんな……!! もう謝った相手の……その……あんな所を蹴るなんて……!!」

 

「うふふふ………ね、絶対にバレないところだったでしょう?」

 

 なんてことは無い。学校内の人間トラブルだった。

 小柄で愛嬌たっぷり。ずば抜けて頭が良い癖にあまり群れない霊火は何かと喧嘩を売られやすいのだ。

 

 それも嫉妬に駆られた女子。特に”一軍”と言われるカースト上位連中にだ。

 

 もちろん普段の霊火もクラス内のパワーバランスにはある程度気をつけているのだが、たまにしくじる事もある。

 例えばクラスの合唱伴奏ピアノポジションを、プライド激高女王蜂から奪っちゃったりとかだ。

 内申に書けるぞ♡

 

 まさかの音楽教員の指名制でござった。回避不能もいい所だ。

 あの瞬間のクラス女子達のやっちまった感は傑作だった。

 

 そして女の子同士の虐めは苛烈で、男どもとはまた違った怖さがある。

 

 今回は霊火が死ぬほど凶暴だったから良かったものの、他の人がターゲットにされてたら大変なことになっていただろう。

 音楽教師は真面目に反省してほしい。

 

「殻木さん!!!!」

 

「ああもうハイハイこれだからヒーロー志望は……。多分爆豪の奴もこの辺りが気に入らないんだろうな……」

 

「今の話にかっちゃんの何が関係してるんだよ…!!」

 

「だってそうでしょう? “やられてもやり返すな“。今どき小学校の道徳の教科書にも書かれてない理想論を真顔で吐かれたら普通に鬱陶しいじゃん」

 

 はあ。と。

 

 暴力を振るった側のくせに正義面の破綻した少女は、ため息混じりにこう続ける。

 

「あのねぇ出久くん。人は舐められたら終わりなんだよ?」

 

「だからといって」

 

「いじめられっこが何故イジメられるのか? 『やり返さないから』だけれど。出久くんも身に覚えない?」

 

 緑谷出久は黙り込んだ。

 霊火は女の子らしさを遥か彼方に放り捨てた治安の悪い舌打ちを大きくかまして、極めて不機嫌な低音で説明を続ける。

 

「いじめっ子なんていくら強そうな顔をしていても、自分が傷つく可能性なんて考えちゃいないんだよ。喧嘩と違うのはまさにそこ。いじめっていうのは基本的にノーリスクな行為なの。だからその前提を突き崩せばいじめは止まる」

 

「……」

 

「だからやり返せ。いじめなんて最初の最初からフルスロットルで来ることなんて然う然うない、必ず軽い物から始まってそこからエスカレートするものだもん。だから初動の些細な無視とか仲間外れを、ヘラヘラ笑って流さずにしっかりやり返せるかで話はだいぶ違うんだよ。つまりイジメが嫌なら、そういうのを感知した瞬間に具体的な暴力で元凶に殴りかかれ。その場面で勝てなくても別にいい。”こいつはやり返してくる存在だぞ”と、こんな風にいじめに“リスク“がついた時点で、いじめっ子のルールは勝手に崩壊する。……まあ、これが難しいんだけれど」

 

 因みに最初から明確な上下関係がある会社とかのイジメはまた少しルールが違うよ、と付け足しながらも霊火はニタニタと笑った。

 

「貴方の幼馴染はこれを良くわかってるよ。……あれに関しては“個性“が強すぎるのと頭が回るのとで色々と特別性だけれどね」

 

「……殻木さんはかっちゃんと似てる所が結構あるよ。……あ、だから僕は殻木さんの”これ”に慣れてるのかな?」

 

「私たちが性格真反対な割に上手くいくのはその辺りが理由なのかもね。というか貴方とあの凶暴な幼馴染は一体どういう関係なの?」

 

「かっちゃんは……いやかっちゃんの事は今はどうでもよくて!!」

 

 話の流れをコントロールし、自分に対する説教から話を逸らそうとする霊火。

 しかしここで緑谷が我に返った。

 

 特大の舌打ちをもう一度する霊火。

 

 そう、特(・)に(・)狙(・)っ(・)て(・)も(・)い(・)な(・)い(・)男(・)の(・)前(・)で(・)猫(・)を(・)被(・)る(・)必(・)要(・)な(・)ん(・)て(・)霊(・)火(・)に(・)は(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)。

 ……後(・)か(・)ら(・)好(・)意(・)を(・)自(・)覚(・)し(・)た(・)場(・)合(・)に(・)引(・)っ(・)込(・)み(・)が(・)つ(・)か(・)ず(・)、大(・)後(・)悔(・)す(・)る(・)可(・)能(・)性(・)は(・)あ(・)る(・)が(・)気(・)に(・)し(・)な(・)く(・)て(・)い(・)い(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

 

「今日の殻木さんはやり過ぎ! 校舎裏に呼び出された君が心配で、後ろからこっそりついて行ったらビックリしたよ! 何あれ!?!? あんな泣いてる相手を踏み潰す必要無いでしょ!!」

 

「あそこで半端に情けをかけると明日が怖いの。私は嫌だよ学校で自分の持ち物が行方不明になり続ける生活。だから事が起こる前にこっちが格上だってことをハッキリ示して、思いっ切り頭踏んづける事が重要な場面だったの」

 

「頭まで踏んづけたの!?!?」

 

「比喩表現!!! 私は昔からこういう方法でしかいじめの回避が出来なかったの!!」

 

 相手の持ち物を『死因』で全焼却した事までは話さないほうが良さそうだ。

 あの時の絶望顔は実に面白かった。出来れば写真を見せてあげたいぐらいだ。

 

「ったく……出久くんはさあ……女の子同士のパワーバランスなんて気にしてる余裕あるの? ハッキリ言わせてもらうと男子どもには立ち入れない世界だから、首突っ込むのは止めときな」

 

「……殻木さんがあの人に、もう酷いことしないなら」

 

「私は確かに性格悪いけれど、だからといって人をいじめたりはしないよ……。私はそこまで暇じゃないし、今時はいじめる側も何だかんだでリスクあるからね。一足飛ばしの警察とか、内申とか、有名になった後の告発とか」

 

「言ってることがマジでかっちゃんと一緒なんだけど……」

 

「いじめっ子にも器用なやつと不器用な奴がいるからね。あれはとびっきり器用な部類。他所から見たらいくら過激な事をしていても、結局は見えない一線を守り続けてるから大した問題にはならないんだよ」

 

 少年は非常に渋い顔をして言葉に詰まった。

 それを見る少女は呆れ顔。しかし一応親愛なる友人にアドバイスはしてみる。

 

「まあ貴方に関してはもうちょっと姿勢良くして胸を張りな。男の子なんてちょっと筋肉つけてガッシリしていれば、それだけでかなり舐められなくなる単純な生き物じゃん。そういう意味で出久くんは自信を持ったほうがいいよ。実際あの極悪幼馴染も最近あんまり絡んでこないでしょ」

 

「そ、そうかな……」

 

「……筋肉式マウント、顔が可愛いだけじゃ逆にいじめの対象になる女子とはまた違った仕組みで羨ましいけれど。何しろ女の子たちのルールはとにかく平均主義。顔の良さでも成績でも、金持ちか貧乏かも、と(・)に(・)か(・)く(・)平(・)均(・)か(・)ら(・)外(・)れ(・)れ(・)ば(・)外(・)れ(・)る(・)ほ(・)ど(・)リ(・)ス(・)ク(・)が(・)増(・)大(・)し(・)て(・)い(・)く(・)仕(・)組(・)み(・)になってるからね。女の子社会」

 

「……それは霊火さんも大変だろうね」

 

「可愛い、低身長、金持ち、大病院の娘、全科目満点、体育は全て見学、一人暮らし、超高級メイク、病弱、先生のお気に入り、さぼり魔、割と付き合い悪い、愛想も悪い、それでいて超目立つ。オマケにピアノも出来ると来た。これでも結構ないじめられっこ体質なの私。今日のあれも、別に好きでやってる訳じゃないのよ……」

 

 少女は適当な嘘混じりで善人を丸め込みつつ話を纏めにかかる。

 説教なんて聞いてられない。

 

「それで? 私のありがたいお話を聞いて出久くんが学んだことは?」

 

「えっ? え、そういう話だったっけ? えーっと……男の子は鍛えていればどうにかなる?」

 

「……まあそれでも良いけれどさ」

 

 少女は最後に真面目な顔になる。

 緑谷と話すとき、霊火はいつでも真剣だ。この馬鹿話の中にも彼に伝えたいことはあった。

 

「『やり返すこと』。一方的なイジメを対等な喧嘩にグレードアップする唯一の方法。なんにしても、人間は舐められたら終わりだからね」

 

 自分が攻撃されている時に防御に徹するのは雑魚のやることだ。

 とにかく、『こいつはやり返してこない』と思われる事だけは絶対に避けなければならない。

 やられたら、やられた以上をやり返せ。

 

「『自(・)分(・)を(・)殺(・)し(・)に(・)来(・)た(・)相(・)手(・)を(・)絶(・)対(・)に(・)生(・)き(・)て(・)帰(・)す(・)な(・)』。まあ流石にこれは極論だけれどさ、貴方の場合はこれぐらいの反骨精神を持っていても損はないと思うよ」

 

―――――――――

 

▶The day 4:32

 

 朝方のホテル。人気のない廊下。

 自分のスマホをじっと見つめる霊火は難しい顔をしていた。

 

「……どうするかな」

 

 ”お父さま”と事実上の縁切りをした。

 これに関しては、霊火とて思う所はある。どれだけ倫理の壊れたマッドサイエンティストであっても、彼は霊火にとっては父親であり師匠なのだ。

 彼は、彼の持つ技術や知識を惜しげもなく霊火に注ぎ込んでくれた。

 

 結局、嫌いになんてなり切れないのだ。

 

 しかし、今はどうしても感傷的になっている余裕が無い。

 

 『AFO』と『ドクター』を敵に回した。

 信じられない程危険な状態だ。そもそも『AFO』が自分を殺そうとしていること自体、事実上の死刑宣告と言える。

 

(……ドクターが連絡してきたって事は、あの人も『次』は私が躱しきれないと判断したということ。……ならば一体どんな方法で私を殺しにかかってくるんだ……?)

 

 ここで、一つの前提条件が崩れる。なにしろ今回の敵は『ドクター』なのだ。

 つまりこれまでは考えなくて良かった、”真(・)面(・)目(・)に(・)や(・)っ(・)た(・)頭(・)脳(・)戦(・)で(・)普(・)通(・)に(・)負(・)け(・)る(・)”可能性が出てくる。

 今回の敵は霊火と同格の頭脳を持つのだ。故に思考を読み切れず、当然死ぬほど怖い。

 

「……少し楽しみではあるけれど」

 

 状況は悪い。

 [Class3:cannibalism]は事実上の暴走状態。自分には際限なく刺客が襲い掛かってくる。

 冷静に見てかなりの負け戦だ。ドクターがわざわざ電話をかけて逃げ道を提示してくれるぐらいには追い詰められている。

 

「…………………………しょうがないか」

 

 反撃手段は、あるにはある。あまり使いたくなかった手段でもある。

 しかし、霊火はここで負けるわけには行かない。どんな手段を使ってでも生き残らなければならない場面だ。

 

 ここは基本に立ち返ろう。

 今の、”攻撃され続けて防御一辺倒”な状態はマズい。最初にここを崩すところから始めたい。

 

 そしてここは意外性を求められる場面でもある。

 ドクターにもAFOにも予想が出来ない究極の初見殺しでもって、一度”やり返す”必要が出てきた。

 

「……マジで使いたくないけれどな、……ドクターと『AFO』がどれだけリミッターを外してくるか次第だなあ。場合によってはそこまで派手にやらなくても……」

 

 そう言いながらも、霊火はかなりの部分を諦めていた。多分、絶望的な規模の攻撃の応酬になる。

 というかドクターがこちらの危険度を見誤っているとは思えないのだ。

 

 相当えげつない方法で霊火を殺しに来るはず。

 それこそ、霊火にさえ予想が出来ない次元の悪辣さで来てもおかしくない。

 

 ―――――――――

 

▶The day 4:54

 

「ちょっと意外だったかも。まず交番とかに直行して、助けを求めるのかなって思ってた」

 

「私もそうしたいのは山々ですが、あの『ワープゲート』相手では悪手だと判断しました。こちらが逃げ込んだ先に先回りされた挙句、警察の方を危険に晒すわけには行きません。……それとあの間延びした口調は演技だったのですか?」

 

「”俺”がこんなロリロリしい見た目なのと同じ理由なんだが……。フフッ、だってねえ、目の前の相手の見た目と話し方が子供っぽいだけで、清く正しいヒーローたちは動きが鈍ってしまうのよ? だから実際『創造』ちゃんの先生とかクラスメイトも相当やりづらそうだったよ☆」

 

「……最低ですわね」

 

 口調どころか、その気になれば成人男性の声すらも出せるようだった。

 本当に見た目と声を合わせているだけで、本(・)当(・)の(・)声(・)すら無いらしい。

 

 そんな会話を交わすJKと殺人兵器が歩いているのは、身を屈めながらでないと歩けないような狭い下水道だ。

 八百万は敵連合のアジトから抜け出すとまず真っ先に近くの雨水と書かれたマンホールに近寄り、マンホールオープナーを用いてそのまま地下に潜行したのだ。

 

「でも正解だったと思うよん。実際、『創造』ちゃんが直接交番とかパトロール中のヒーローなんかにアプローチしてたら『黒霧』に捕捉されてゲームオーバーだったはずだもん」

 

「……瞬間移動のあの”個性”。あれの裏をかかなければ私たちはどこに行っても安心できませんが……」

 

「あ、こっちも数に入れてくれるんだ」

 

 八百万産の懐中電灯二つ。

 2人の手に握られたそれが数少ない光源として狭い空間を照らしていた。

 

 水が壁を伝って滴り落ちその音が不規則なリズムを刻む。

 足元には既に薄く水が溜まり、足音がトンネル内を反響する。

 

 ヌルヌルの壁を這いまわる黒い昆虫を見て、生粋のお嬢様は嫌そうな顔をした。

 

「……とはいえ、ここもあまり安全とは言えませんわ。……匂いも良くありませんし、はやく安全な場所を見つけなければ……」

 

「雨水用とはいえ下水は下水だからね。う(・)っ(・)か(・)り(・)変(・)な(・)ガ(・)ス(・)溜(・)ま(・)り(・)に(・)突(・)入(・)し(・)て(・)そ(・)の(・)ま(・)ま(・)愉(・)快(・)な(・)変(・)死(・)体(・)コ(・)ー(・)ス(・)だ(・)っ(・)て(・)普(・)通(・)に(・)あ(・)り(・)得(・)る(・)し(・)」

 

 その言葉を聞いた八百万は顔色を変えて、慌てて豊かな胸元から鉱山労働などで使われるガスの検知器を創り出す。

 

 鬼の童女はニタニタと笑いながら手の中の懐中電灯をくるくる回した。

 こちらは機械であるゆえにガスや毒といった脅威は根本的に問題にならないのだ。

 

「……時間はこちらに味方してくれています。なにしろ時間が経てばたつほど、私たちがどこにいるのかは絞れなくなっていく。そして彼らも追われる身である以上、大々的な聞き込み捜査など出来ない。だから彼らもそのうち私たちのことは諦めなければいけなくなるはず……!!」

 

「その意見には部分的に反対。あの手の連中は面子を何よりも大事にする以上諦めるという選択肢はないはず。むしろいつまで経っても付け狙われると考えるべき。ま、具体的に言うとその内『創造』ちゃんの家族とかの方に矛先が向くと考えた方が良いかもね」

 

 物騒な発言内容に顔色が悪くなる八百万だったが、ひとまず目の前に意識を向けなおす。

 

「……どちらにしても、私たちも一度は完全に敵(ヴィラン)を振り切らなければ話が始まりません。それからの事は後から考えましょう」

 

「なんか一々私の事を含めてくるけど、実際『創造』ちゃんは私をどうするつもりなの?」

 

「『ふうか』さんの減刑を、私が訴えるつもりです。なので一緒に自首して下さると……」

 

「減刑も何も私はアンドロイドなんだって。殺人事件で使われたナイフを裁判に掛けて刑務所に収監するぐらい意味不明な事言ってる自覚ある?」

 

「……だったらあなたの造り主を」

 

「あっちは誤作動を起こした私の処分に踏み切るんじゃないかな……頭おかしいオーバーテクノロジーを投入して、どんな手段を使ってでも口封じに来るはず……」

 

 八百万は呻いた。

 蒼い角の童女はそれを見て可愛らしく首を傾げる。

 

「まあ、縺セ縺ゅ≠縺ョ縺イ縺ィ繧ょ卸騾?縺。繧?s縺ッ騾?′縺励※縺上l繧九°繧。 ありゃ?」

 

「え!?!? 何!?!? どうされました!?!?」

 

「なるほど。最低限のブロックは掛かってるわけね?」

 

 一人(?)で勝手に納得してしまった鬼の童女を心配そうに見る八百万だったが、可愛らしいふうかちゃんに詳しく説明する気は無いらしい。

 相変わらず懐中電灯をくるくる回す童女は、不意に話題を変える。

 

「まあいいや。ところで『創造』ちゃんは自分の誘拐が何で世間に知られていないかについてはどう解釈してんの?」

 

「……あの『変身』で、私に化けていると考えておりましたが」

 

「ああ、あの破綻JKはUSJの襲撃にも参加していたんだっけ。因みにそれは外れだよ。……『二倍』と『創造』、割と誤作動が起きそうな組み合わせだけどどうなのかな……? 生成物がちゃんと機能するのかとか……」

 

「よくわかりませんが、とにかく私の偽物がいるという認識でいいのでしょうか?」

 

「『創造』ちゃんって”沼男”とかを認めないタイプ? だとしたら中々刺激的な出会いになるかもね」

 

 あまり具体的な説明では無かった。言葉は通じても話が通じないのは、相手がAIだからなのだろうか。

 八百万は適度な所で質問を切り上げ、逃走に集中する。

 複雑で危険な地下道、足元を滑らせて壁に頭でもぶつけたらそのまま死ぬ難易度だ。

 

 そして最後の最後にふうかはウォールハックを入れているFPSゲーマーのように何も無い天井を見つめ、重要な情報を口走った。

 

「やっべえ遂に私たちを捕捉しやがった。ガチガチの戦闘型Class:4だよあれ。というか対個人というより対構造物の戦争用じゃなかったっけ。なんか一応タルタロスを丸ごと沈められるとかいうカタログスペックの」

 

「待って待って待って下さい今なんて言いましたか詳しく説明してくださいお願いしてもいいですか」

 

「こんな地下道であんなのと対面したら戦闘という形すら取れずにそのまま化石になっちゃうよ☆ さあさ暗闇の水路で死の鬼ごっこを始めましょ☆」

 

  ―――――――――

 

▶The day 8:15

 

 2人でルームサービスの朝食をつつきながら、霊火はジト目で上目遣い。

 

「……無防備に寝てる女の子の、ほっぺをふにふにして起こすの楽しい?」

 

「ま……まあ? ごめん、気を悪くしたならもうしない」

 

「……してもいいよって私に言わせたいだけじゃん……本当に腹立つ」

 

「してもいいんだ……。ごめんね霊火さん?」

 

 頬をほんのり染めた霊火は、ついと目線を逸らした。

 ……同年代の異性と同じ部屋で寝る以上、こちらもちゃんと覚悟は決めていたりする。

 

 しかし緑谷出久に関しては、寝込みを襲うとかそういう事は無さそうだった。

 まあ霊火も今は流石に体調不良過ぎて、ちょっとしんどいが。

 

「なんかごめんね。出久くんだって忙しいのに、長い時間付き合わせちゃってるね」

 

「いやいや気にしないで!! 僕も楽しいから!! 別に夏休み中ぐらいならずっと付き合うよ!!」

 

「わあ結構付き合ってくれるね? あと3週間はあるよ……?」

 

 穏やかな朝であった。

 今後起こる事を知っている身としては、非常に居心地が悪い。

 

(意外と何も起こらないな……こっちにも準備があるから都合は良いけれど、こう露骨なタメを作られるとそれはそれで気持ち悪いし……)

 

「霊火さんお茶いる?」

 

「あ、ありがとう!」

 

 ホテル備え付きの電気ケトルで湯を沸かす緑谷をぼんやりと見つめる。

 

(……これ出久くんの方を程々で逃さないといけないな)

 

 緑谷出久はヒーロー科だ。

 こうやっていつまでもこちらの事情に付き合わせるのも、霊火の本意ではなかった。

 いくら片思い中であろうと、そのぐらいの分別はある。

 

 本来は霊火に、彼のそばに立つ権利なんて一切存在しないのだ。

 

―――――――――

 

▶The day 10:15

 

『――り返します。繰り返します。該当地域の住民はすぐに避難を開始して下さい』

 

『繰り返します。現在、超大型の敵が東京都北千住から南南東に向かって真っ直ぐ直進しております』

 

『予想進路。浅草、上野、東京、有楽町、新橋、芝公園、泉岳寺、五反田、旗の台、多摩川、武蔵小杉、日吉、綱島、新横浜――』

 

『平日の都心を横断するコースです。避難エリア内の人数は400万人を超す予想――』

 

「主の敵」

 

『多くのヒーローが事態の収拾に動いていますが止められず―――既に行方不明者は7万人を―――医療現場は完全に崩壊―――敵の移動速度は時速100キロ以上、迅速な避難を―――』

 

「主の敵」

 

『避難経路はパニック―――電車は使えません―――車を使わないで下さい―――現在電波障害が―――テレビ局やラジオ局の倒壊が確認され――― 』

 

「殻木霊火」

 

『敵はうわ言のようにある人物の名前を繰り返しており――現在警察からの発表はなく―――雄英高校からの―――』

 

「主の敵、殻木霊火を」

 

『大型敵の他に黒い――通称『脳無』の存在が複数確認されており――皆様どうか落ち着きを―――』

 

「殻木霊火は、死ななければ」

 

『皆様迅速な避難を。落ち着いて、迅速な避難を。周りの人と助け合い――――』

 

「殻木霊火を、出せ」

 

―――――――――

 

▶The day 10:17

 

「もう良いから殻木霊火を連れてこい!!!! おい!!!!! あの病院に俺の娘がいるんだよ!!!! 病気であそこから動かせないんだ!!!!」

 

「殻木ってステイン殺しの女の子でしょ!?!? 家を爆破されたってニュースで見たけど今は何してるの!?!?」

 

「……ステインに殺されてればよかったんだ。その時にちゃんと殺されてさえいれば私の父さんは……」

 

「ヒーローは何してるの!?!? こ(・)ん(・)な(・)の(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)志(・)望(・)の(・)高(・)校(・)生(・)じ(・)ゃ(・)な(・)く(・)て(・)プ(・)ロ(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)の(・)責(・)任(・)で(・)し(・)ょ(・)!?!? 誰かが止めなさいよ!!!!」

 

「やっぱりオールマイトがいないから」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い何で私がこんな目に遭わなきゃいけないの」

「殻木霊火はどこだ……!! 悪いとは思うが早く殺さないと被害が……」

 

「殻木を差し出せばあの巨人は止まる!!! そうだろ!?!?!?」

 

「頼(・)む(・)か(・)ら(・)死(・)体(・)は(・)綺(・)麗(・)に(・)残(・)せ(・)よ(・)!?!? あの巨人が分からなきゃ意味がねえぞ!!!!」

 

「実家の方は!?!? 両親だか兄弟姉妹だかをとって誘き寄せれば!!!!」

 

「だからそっちは悪くねぇだろ頭冷やせ!!! あの巨人を直接止める方法を……!!」

 

「綺麗事言ってんじゃねえ俺の家族の命が懸かってるんだ!!!」

 

「雄英高校にはいない!?!? 数日前からいないってあのゴミ女……」

 

「殺せ」

 

「「「「「「「殺せ」」」」」」」

 

「「「「「「「殻木霊火を殺せ!!!!!!! 今すぐ!!!!!」」」」」」」

 

 

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