『自分を殺しに来た相手を絶対に生きて返すな』
―――――――――
「『最初に殻木霊火が潔く死ぬべきだった』『戻ってきて戦ったからといって許されると思うな。被害をこれ以上広げないために今すぐ死ぬのが義務だ』。……いやはや、人間は本当に恐ろしい。これが一番同意を集めている意見だというのだから驚いてしまうね」
『”善良な市民”の皆様は、時に儂らでさえ思いつかん残虐さを発揮するからのう……。いつの時代も、多数派という名の正義が一番おっかないのは共通じゃ』
「それでマキアはどうかな? どうやら楽しく遊んでいるみたいだね?」
『霊火はあの程度なら易々と踏み越える。一見どれほど相性が悪かろうと、根本的にあの子が頭が悪い奴相手に負ける気がせんわい』
「随分と彼女を高く買っているじゃないか『ドクター』。それでは敵のアキレス腱はどこかな?」
『霊火の弱点は分かり切っておるがのう……』
工業地帯みたいにパイプだらけの大仰なヘルメットを被ったスーツの男性は、楽し気に靴底でコンクリートの地面を叩いた。
こんなのはただの確認作業だ。
裏切り者を始末し、自分の安心を確保するだけの仕事。
電話から老人の声が響いた。
『緑谷出久。霊火の弱点は最初からこの男じゃった』
「体育祭に優勝したあの少年だね? まあ体育祭の映像を見ただけでも彼女が想いを寄せていることはハッキリと伝わってきたが、実際に殻木霊火は彼にどれぐらい入れ込んでいたんだい?」
『1年通して勉強を見て一緒に登校してといった感じじゃな。儂にはよく分からないが、まあ常識的に考えて男女の関係ではないのかのう……。 少なくとも林間合宿での生け捕り指定といい、彼を相当大切にしていることは間違いなさそうじゃ』
「……オールマイトの弟子と? 実際どうなのかな。彼女はそれを知ってて利用しようとしているのかい? それとも最初は打算だったけど、そこから本気になったパターンもありえると思うかい?」
『……実を言うと霊火に限っては、『好きになった男の子が偶然オールマイトの弟子だった』なんてミラクルもあると思っているのじゃが』
「冷静になっておくれよ『ドクター』。いくら何でもそれはあり得ないだろう。何というか、確率的に」
『……それはそうじゃの。先生の言う通りじゃ。なら霊火は『OFA』に近づいて何をしたいのやら……』
ドクターが頓珍漢な事を言い出した、親馬鹿が過ぎる。
魔王はふうと息をついて、核心に切り込んだ。
「緑谷出久を利用するのは?」
『先生も、霊火のような相手にそれをする恐ろしさは分かっておるはずじゃ』
「もっともだ」
核心ではあるが、これもまた分かり切っている質問と回答だった。
あの小さな魔女にとって、緑谷出久は聖域だ。
確かに対象の大切な人に手を出してそこから相手を屈服させるのは『AFO』のよく使う手段ではあるが、それでも相性というものがある。
問題は、何か不測の事態が起きた場合だ。
確かな技術を持った悪人が自暴自棄に陥る事ほどおぞましい物は無い。
あのクラスの悪党が怒りに任せて本気の復讐者に変質した場合、流石の『AFO』といえども安全圏にはいられない。
「……僕にここまで警戒させる相手は久々だな。全く、恐ろしいのを造り出したよ君は」
『流石儂の娘じゃな!!』
「君には結構真面目に反省してほしいところなんだけどね?」
結局のところ、こう見えて彼らは最後の一線を守っているのだ。
パイプ仮面はやれやれと首を振ると、こう呟いた。
「しょうがない。万が一マキアがやられそうになったら僕が直接出よう。オールマイトに勝手に引退されて、僕も少し不完全燃焼だったんだ。なあに、どうせ生き残っても針の筵だ。引導を渡してあげるのが優しさだろう?」
『……なら霊火はここで終わりかの。全く、墓を用意してあげんといかんわい』
「そういえばドクター。殻木霊火の『死因』は大丈夫なのかな? 戦闘場所が戦闘場所だ。無限に死因を蓄え込んだ反動で、何か影響が出るんじゃないかい?」
『ホ?』
「えっ?」
―――――――――
巨大な高層ビル2棟がロールケーキを切り分けるよりもお手軽に5等分される。
若干斜めに切断された影響で高層階のブロックが、重力に従ってズズズと重苦しい音をたてて滑り落ち始めた。
倒壊まで10秒弱というタイミングで、軽いテンションの声があった。
「えい☆」
霊火の右手からぱちりと小さな音が響いた。
拡大されたダルマ落としだった。
一つ一つが千トンを超える巨大なコンクリート塊が、巨大な木槌で叩かれたかのように射出される。
『死因』は、対物であれば絶対だ。
実際、緑谷出久に霊火が語った『新横浜にいる暴徒はこの場で全員殺せる』という内容はまんざら誇張表現でもない。
指鳴らし一つで巨大構造物をへし折って、チアリーダーのポンポンよりも気軽に高層ビルを振り回す事が可能な霊火の能力であれば、その気になればギガントマキアよりも効率的に一つの都市を破壊出来てしまう。この方法でも鬼火の大量確保は出来るわけだし。
死が死を呼び込み続ける『死因』は、これ以上無いほど大量殺人に向いた“個性“でもあるのだ。
10個の巨大なコンクリートと鉄骨の塊がボディブローじみた軌道で巨人に襲い掛かる。
それぞれが凶悪極まりない破壊力を持つ莫大な質量が、分厚く不吉な風切り音を奏でた。
「ふうん!」
巨人は両足を踏ん張り、大地を震わせるような気合の声を上げて両腕を素振りする。
その逞しい両腕と長い爪が風を切る音が鋭く響き、空気の流れが目に見えるほどの威力で周囲を揺らす。
最初のブロックが飛来すると巨人の右腕が滑らかに動いて、千トン以上の質量塊を軽々と弾き飛ばした。
続く第二、第三のブロックもテニスボールを払うかのような気軽さで撥ね返される。
轟音が連続して響き渡る中巨人の動きは止まらない。
大男は両腕を高速で振り回し、すべての攻撃を完璧にはじき返していく。
しかし勘違いしてはいけない。
あの『ギガントマキア』に防御行動を取らせている時点で圧倒的な偉業といえるのだ。
弾き飛ばされて放物線を描いて遠くに飛んでいくブロックを慌てて”消去”しながら少女は舌打ちした。
あれを見逃していたら、巨大な瓦礫が街中をサイコロみたいにゴロゴロと転がっていって相当な量の死者が出ただろう。
「うおお……周辺被害とか考えてる余裕ないぞこれ……」
「殻木霊火あああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
”巨人が何故か来た道を戻っていく”というデマを死ぬほど流した甲斐あって、『あの巨人がもう通って行ったから職場に帰ろう』なんてことを考える極限の社畜はいないようだ。火事場泥棒までは知らん。
ちょうど今雑に消費したビル2棟に関しても、中に誰もいなかったのは何気に奇跡だったりする。
正直霊火は、高層ビルでダルマ落としをしたときに”鬼火”の10個や20個追加で出てくることを覚悟していた。
「主の仇!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
何の小細工もなく襲い掛かってくる巨人を相手に接近戦なんて論外だ。
霊火は踵を返して巨人と逆方向に加速すると、後方にほっそりとした右手をかざした。
ゴッッッッ!! と少女の後ろ側、直線状にある空気が急激に焼け焦げる。
遥か後方で高速道路の高架が粉々に吹き飛んだ。
「ぐおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ああもう何にも効かないじゃん!!!」
少女が”左腕”内部に潜ませた掌ほどの大きさのブラックホール銃をそれとなく構えると、巨人は何かを感知したのかいきなり横っ飛びに身を躱す。
何もない空間がぎゅわん!!!!! と妙な音を立てながら強烈に歪んだ。
「あああああああああ!!!!!」
「勘もいいと……」
霊火の”銃”は、それほど甘い性能ではない。
何しろ、まず発砲音が無い。そして銃弾が飛んでいくような方式と違い発射=着弾のため、見てから避けるという事も絶対に不可能……なはず。
更にガード不可。座標攻撃のため障害物を盾にするという方法でも防げない。
本体は超小型で、今は霊火の左腕に格納されてしまっている。避けるなんて普通は不可能なはずなのだ。
こちらに走ってくる巨人が、勢いそのままに右の爪をアスファルトに突き立てた。
鋭い爪が舗装を容易く貫き、その下の層まで到達した。
「うわ」
「ガあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
巨人の腕が地面を抉るように動く。
アスファルトと土が津波のように巻き上がっていく。高さ30m程の大都市の土石流は、個人が身一つで行える攻撃を完全に逸脱してしまっている。
霊火はすぐ傍にあった大型の複合ショッピングモールに、窓から飛び込んだ。
ガラスが砕け散る音が静寂を切り裂いた直後、くぐもった衝撃と共に建物全体の構造が悲鳴を上げた。
天井からは細かな粉塵が降り注ぎ、壁には既に何本もの亀裂が走っている。
「や、やばかった……命が幾つあっても足りないよこれ……」
8階建ての吹き抜けの中央に浮かび上がる霊火は冷汗が止まらなかった。
停電中で辺りは暗い。見回してみると、両側には無数の店舗が並んでいる。
高級ブティック、バッグショップ、雑貨店、ゲームセンターなど、全ては避難時のままの状態で放置されていた。
ショーウィンドウに飾られたマネキンたちがどこか物悲しい。
そして数秒しか安全な時間は無かった。
凄まじい轟音と共に、ショッピングモール全体の壁が内側に向かって崩れ落ちた。
巨人が一名、無遠慮に入店してきた。大型ビルの側面を、何層ものフロアを横からぶち抜く格好で。
「……これ誰かが賠償するのかな?」
大破壊を見る霊火は、この期に及んで素朴な質問が出た。
……霊火も結構いろんなものを壊してしまっているのが心配だ。
まさか霊火が壊したビルは霊火が弁償しなければいけないのだろうか。流石に都心の高層ビルを10棟も20棟も弁償できるほど金持ちでは無いのだが……。
……最悪の場合強力な電磁パルスであらゆる電子データを吹き飛ばそう。
ATMの預金から株の取引きまで纏めて潰して、一回世界の経済を終わらせればいいかと少女は思案した。大きな借金を抱えた人の手段の問わなさをあまり舐めないほうがいい。
そしてギガントマキアが壊したビルだってまあまあ大問題だ。
多分これを修理するのに必要な金を出すのは保険会社なのだが、彼らだって霊火と条件は同じで都心で何千棟もビルが壊れた場合のマネープールなんてないはずなのだ。
ここまで思考を巡らせた霊火は、道中で大手の保険会社の本部ビルが数棟見事に全壊していたのを思い出した。というか途中で保険会社の社員の鬼火を数万単位で収集した気がする。
……流石に倒産しているのではないだろうか?
「有事に真っ先に死なれたら顧客は困っちゃうよ保険屋さ~ん……」
「ぐおおおおおおお!!!!!」
「そして貴方は全体的にそれでいいの?」
咆哮を放つ巨人の全身には、壁をぶち破った時に引っ掛けた婦人服売り場の商品が無数に張り付いていた。
一枚一枚が最低でも云万円する高級ブランドの衣服が大量に巨人の体に絡みついているのは恐ろしくシュールだった。服飾ブランドがせっせと築き上げた実在しない高級感が粉々に吹き飛んでいくのを感じる。
先ほどから複数のヘリコプターのローター音が聞こえるし、これも中継されているのだろう。
キラキラビルのデザイナーと経営者たちが頭を抱えているのが目に見えるようだった。
「……いやあのブランドの本社社員の鬼火もたくさん収集したな」
しばらく海外ブランドの時代になりそうだ。なんなら量産品が天下を取るかも。
軽い現実逃避に入る少女を他所に、巨人が動く。
腕の一振りで建物全体が悲鳴を上げる。高級ブティックのショーウィンドウが次々と砕け散りマネキンが無残な形で倒れていく。
少女は右手で無色透明なワイングラスのステムを摘まむような仕草をすると、そのまま反時計回りで存在しない液体を攪拌する。
空中に位置する少女は緩やかな動作で手首を傾け、不可視のグラスの中身を下方へと注いだ。
その液体そのものに色彩は無い。
しかし霊火が遥か下のフロアに垂らした猛毒の果実酒は、凄まじい速度で周囲の床と壁をどす黒く変色させていく。
ありとあらゆる無生物に感染し侵食していく腐敗の黒は、そのままギガントマキアを呑み込もうと広がっていくだけだ。
そしてそのまま巨人の体に直撃した。
「……避けなくて良かったの?」
巨人の体に纏わりついていた衣服から異変が始まった。
腐食は黒い蜘蛛の巣のように広がっていく。高級ブランドのコートやブラウスが蝕まれるように変色し始める。
布地が腐り、黒く変色した部分からは粘つく糸を引いていた。
「ぐぅ……!」
巨人が初めて声を上げる。
霊火が放ったのは単なる腐敗させるだけの攻撃ではない。エッセンスとしては『毒殺』『エイズ』『”個性”による呪殺』『免疫不全による体内の黴の繁殖』『生きながら腐って死ぬ病』などの混合だ。
ただただ甘く不快な、強烈な死の匂いがショッピングモールの空間に充満していく。
「……やっと効いた。やっぱり病気系か? 癌系と放射能系の鬼火で『超再生』を逆用して内部から崩壊コースとか……」
激しく咆哮しながら体に引っ付いた真っ黒な洋服を振り払う巨人を傍目に見て、場所を移そうとした霊火が凍りついた。
霊火の何が壊れたのかが分かった。
少女が見てしまったのは、化粧品売り場の鏡だ。
「……うそ」
鏡の中には確かに自分自身の姿が映っていた。
小柄で細い輪郭。斧を握る手、殆どロングになってしまったストレートの黒髪。
少女は思わず自分の頬に手を当てる。確かにそこには肌の感触がある。
鼻も目も口もある。顔側に手の感触だってある。
しかし鏡の中では、手が虚空を撫でているかのように見えた。
「……まさか」
”個性”の副作用。人間性の喪失。
これまでは共感性の減退や罪悪感の麻痺、恐怖の抜け落ちといった感情面が主だったが……。
無理やり意識を鏡から振り払い、それでも未練がましく顔を撫でる。
ガラスを割ってぐずぐずに腐敗したショッピングモールから脱出しながら、少女は強く歯噛みした。
「…………マジ? そう言うパターンもあるの!?!?」
自分の顔が認識できなくなるというのは顔貌失認系の精神疾患だ。
自分限定というのは相当珍しいが、ドクター絡みでそういう症例は見たことはある。確か『No.6』とかいう被検体の――
しかし知識があるとはいえだ。
自分で実際になってしまうと……これは……。
「…………………………私って、どんな顔だっけ?」
自分の顔が好きだった。
もう思い出せないけれど、”元の少女”とお揃いな可愛らしくて愛らしい見た目。
霊火だって、本当の本当に気に入っていたのに。
「………………………うぅぅ」
酷い罰だった。
あまりにも失ったものが大きい。左腕を失った時より圧倒的にキツイ。
油断すると今にも涙が出てしまいそうだ。
低層階が丸ごと腐食し、ギガントマキアを収容したまま沈み込むように崩壊していくショッピングモール。
そこに更に追加で鬼火を叩きこみ、アルミ缶を踵で踏み潰すような感じで建物の高さを半分にする少女は、結局こう思わざるをえなかった。
まだ、大丈夫。
ツキには見放されていない。
こと”個性”の反動に関してはもっと悲惨な出目を引くパターンも十分にあった。
……これ以上戦闘が長引くと、更に致命的なものが壊れる可能性もあるけれど。
(…………………………長引かせられない。覚悟を決めるしかないか……あんまり使いたくなかった方法なんだけれどな……)
罪悪感を発生させる心の働きも、今回で完全に壊れた。
それに"善良な市民"は既に霊火の事を嫌っているのだ。霊火が彼らに配慮する義理なんて全く存在しない。
やられたら、やり返せ。
殻木霊火のルールに従って、粛々と行動しよう。
でも大丈夫。
殻木霊火がいなければ、人類なんて滅ぶのだ。
人類なんて滅んでも、殻木霊火ならば立て直せるのだ。
―――――――――
『……マズい、先生!! 今すぐにs』
ブツン!!! といきなり手中の通信端末の電源が切れた。
『AFO』は怪訝そうに首を傾けて、黒い液晶をコンコンと叩く。
もちろん複雑な電子機器はそんな事で直らない。ドクターは何かを伝えようとしていたが、それを嫌ったかのような壊れ方だった。
魔王はゆっくりと立ち上がった。
“個性“で周りを見回してみると、直ぐ側に佇むハイエンド脳無たちも何かを感じ取ったかのように警戒態勢に入っている。
「そろそろかな?」
『AFO』は今回の抗争において、殻木霊火という敵対者を甘く見ていなかった。
ドクターの娘は、こちら側が刺客を放っているだけで削り殺せる相手ではない。
一応ギガントマキアという刺客を放って嫌がらせはしてみるが、殺せるとまでは期待していない。
とにかくあの女はどこかで何かしらの反撃を通してくる。そう想定した上で準備した。
だからこその神野区の隠れ家。ハイエンド3体の護衛。
黒霧は弔の方に回した。彼ならば必ず、”次の僕”を守ってくれるだろう。
完全迎撃態勢。殻木霊火がどれほど凶悪な兵器を構えていても臨機応変に対処する。
そういう作戦だった。
(……電磁パルス? いや違う……ハッキングでもしたのか?)
とにかく、こちらをモニターしているドクターとの意思疎通を封じられた。
つまり何かが来る。魔王はハイエンドたちに警戒の指示を下し、倉庫に偽装したアジト内をゆっくりと歩きだした。
魔王は極めて強烈な悪寒を無視できなくなっていた。
極めて嫌な予感がする。……そしてこの感覚を、闇を生きる者は決して軽視しない。
『AFO』は何となく、工場に偽装した隠れ家から外に出た。
「…………………………なるほど」
“個性“でそれを察知した『AFO』だったが、流石の彼も一瞬実感が追い付かなかった。
眼球のない顔面を大空に向けて、世界最悪の魔王様はこう呟いた。
「これはまずい」
音が聞こえないのは、落下速度が音速を超えているからだ。
”個性”で感じ取れる光度が非常に高いのは、落下物が大気との摩擦で激しく発光しているからだ。
魔王は終末の空を見上げて、それでも口角を吊り上げてみせた。
「……………だがこの程度の攻撃で、この僕を殺せるとでも思っているのかい?」
――――――――
いくら形容詞を重ねても足りない程の速度と圧力。
着弾点を中心に発生した円形の衝撃波が全てを消し飛ばす。
音速の7倍もの速度で熱波の壁が、矮小な人間が築き上げてきた構造物を欠片も残さず消失させる。
アスファルトでコンクリートで覆われた地表が一瞬で剥き出しとなり、あまりの熱量に融解して激しく赤熱しだす。
この時点で、死者100万人超。
後に神野の悲劇と呼ばれる大災害は、まだ始まったばかりだ。
――――――――
「随分と滅茶苦茶をする……!!」
耐えた。
複数”個性”を操る魔王は、人類が経験したことのない規模の大災害が直撃したのにも関わらずそこに立っていた。
3体のハイエンドも無事だ。黒霧への警告も間に合った。
つまり一番危険な初撃は凌ぎ切ったのだ。
ガラス化しつつある大地と流れ込む海水。
そして禍々しいきのこ雲を”視”ながら魔王は思案する。
(直接的な出力では対抗できないとしても、無敵の維持や空間の歪曲に注力すれば問題なく防げる。インパクトは抜群だったがやはりワンパターン……おっと)
『――ぇい!!!!! 先生!!!!! 無事か!?!?!?』
「ああドクター。繋がったか。こっちはどうにか無傷だよ。全く、君の娘は大したものだ」
『次が来る!!!!! 霊火の奴、宇宙開発に手を伸ばしておった!!!!! 人工衛星からの運動エネルギー爆撃なんて実用化しおって!!!!! 先生、気を付けておくれ!!!!!』
視力のない顔を上を向けた『AFO』は感心したような声を上げた。
スーツに仰々しいマスクの男は、無造作に空に手をかざした。
”個性”黎明期を生き抜いてきた。この程度では狼狽えたりしない。
「大丈夫だドクター。既に対処法は編み出した。5発でも10発でも必ず防げるよ。そしてここまでの範囲攻撃だ。僕が殻木霊火に近づいたら使えなくなるだろう?」
『違うのじゃ先生!!!』
ドクターの焦ったような声が響く。
『AFO』は不審そうに首をひねる。ドクターが焦っている光景は偶に見かけるが、今回のそれは色々と珍しい。
なにしろ彼が、自分に”違う”と叫ぶこと、つまり強く否定すること自体が異常事態なのだ。
世界最高の頭脳の一角の声がスピーカーから響く。
『単なる運動エネルギー爆弾? そんなもの”個性”黎明以前から散々囁かれてきた陳腐な構想じゃ!!! ただでさえ機械に強いあの子の事じゃ。この程度のオモチャ、その気になれば小学生の時でも作れたぞ霊火は!!!』
「ドクター、なにを……」
『今の霊火は本物の怪物じゃ!!! あの子はここまでド派手にやっておいて、これで終わりなんて中途半端な事は絶対にしない。儂の娘の本気はこの程度じゃない!!! だから気をつけておくれ先生――』
5つの流星が、極めて不自然な動きでガクンと軌道を曲げた。
どのようなテクノロジーを使っているのか、それぞれが全く違う動きをして別々の場所に落下しようとする隕石を観測しながら魔王は警戒レベルをまた一つ高める。
世界のルールが書き換えられたのを、魔王も肌で感じたのだ。
『ここからが本番じゃ!!!!!!!!!!!!!!!!』
感想や評価ありがとうございます。大きな励みになっております。