『敵名『ギガントマキア』、これはさっき調べたから確定だよ。複数“個性“の怪物で、間違いなく『AFO』の腹心。死ぬほど強いから注意してね』
『“個性“は『興奮をトリガーにした巨大化』『犬科の何か』『土竜』『痛覚の遮断』『何かしらの増強系』『代謝orスタミナ補完』、そして一番危険で厄介な『超再生』までは確定かな。『巨大化』はMt.レディのそれと違ってサイズが可変式だからリーチとかを見誤らないように注意する事。私の『呪い火』の対人ルールに引っ掛かるあたり、これでも一応純粋な人間ではあるみたい。信じられん』
『耐久力は驚異の一言。『超再生』抜きの純粋な防御力だけでもほぼほぼ無敵。物理だけじゃなくて高温低温酸腐食あたりの属性も滅茶苦茶効きが悪い。頭は悪そうだし実際悪いけれど、格闘センスは相当あるから出久くんも油断しない事。飛行・遠距離攻撃専門の私だから死んでいないだけで、今の私たちではどうしても勝てないような相手だって忘れないで。近接勝負の性能だけならMAXオールマイト級の性能があると思う』
「気をつけるけど!! じゃあ霊火さんはこれをどうやって倒すつもりだったの!?!?」
『それを今から説明しますう~!!』
首元の銀色のリングから超高速で流れ込んでくる情報に目を白黒させる緑谷出久の、身体が消えた。
両の拳を握りつつ純粋な速度だけで巨人の懐に肉薄して、相手の得意とする距離の内側に潜り込んで急所の顎に渾身の連打。
打撃を受けた巨人が鋭い雄叫びをあげながら左腕の薙ぎ払いを繰り出すが、緑のモサモサ頭は高速でダッキングして列車事故のような一撃を近距離を保ったまま回避。
緑色の火花が眩く散った。
「うおおおおおお!!!!!」
パパパパパパパン!!!!! と高速の破裂音が響き巨人が苦悶の声を上げる。
インファイトを嫌ったマキアは両足を揃えて20メートル級のバックジャンプを行う。
『そうすると思った』
その行動に霊火の鬼火が突き刺さった。
『落下死』
空を飛ぶ対象を強制的に引きずり降ろす、理屈を無視した必中の呪い。
放物線の上昇部で墜落の運命に捕まった巨人は、不自然極まりない動きでガクンと真っ直ぐ落下し始める。
その落下地点に潜り込んだ緑谷出久が身を縮めた。
地面を蹴る音が鋭く響き、緑谷の体が弾丸のような速度で上空へと跳ね上がる。緑の軌跡を引きながら巨人の顎下に迫る。
「スマァァァッシュ!!」
渾身の力を込めたアッパーカットが巨人の顎を直撃し、衝撃波が空気を震わせた。
ぐらりと巨体がよろめいた瞬間に、上空から放たれたどろりと揺らぐ半透明の黒槍がギガントマキアの背中に何本も突き刺さる。
実体が無いゆえに、霊火の攻撃は防御力を無視して易々と皮膚を貫く。緑谷は得体のしれないそれを見て苦い表情をするも、緊張を保ったまま一度距離を置く。
空中からの支援と遠隔攻撃を担当している霊火は右手の鬼火の色を次々と切り替えて攻撃方法を組み替えながら、超高速で思考を巡らせる。
(やっぱり付け入るスキがあるとするなら『超再生』、あんな強烈で影響の大きい”個性”はドクターも相当無理してねじ込んでいるはず……だから『癌』『被爆』『免疫不全』『骨髄炎』軸で再生の過程そのものの質を暴落させて、スリップダメージで削り殺す!!)
霊火が『死因』で扱う鬼火、いつもは『交通事故』『焼死』『感電死』のような派手な死に方が目立つが、厚生労働省の死亡原因ランキングを一目見れば分かるようにこれらは決してありふれた死に方ではない。
”変死”はあくまで”変死”。極めて当たり前の話であるが、普通に手に入る”鬼火”としてはこの手の”変死”よりも”自然死”が多いのだ。
そして何と言っても霊火は病院育ち。癌や脳梗塞、心筋梗塞、老衰で死んでいく人間なんていくらでも見てきたし、昔からこまめに収集はしてきた。
そして『死因』で手に入る”個性”に時間的な制限は特にないため、その気になれば大昔の『被爆』系の鬼火も相当数手に入る。そして日本という国には被爆国という一面もある上に、犠牲者は実名を調べることも割と簡単だ。……つくづく冒涜的な能力だとは自分でも思うが。
とはいえ、放射能系の鬼火はあんまり無制限に攻撃に転用すると大惨事に発展するのは注意点だ。感染系にも言える事だが、霊火がしっかり計算して丁寧に扱っているからこそ実用できる使用法なのだ。
「うおおおおお!!!」
「主の元へ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 邪魔を、するなああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バカ長い両腕を振り回す巨人を相手に、残像を残しながら動く緑谷。
拳が風を切り、蹴りが空気を震わせる。少年の全身から放たれる緑の光が複雑な軌跡を描き更なる痛打を加えていく。
……というか緑谷出久が想定以上に強い。
なにしろ史上最強の増強系“個性“持ち近接ファイターが、『首輪』の未来予測演算をフルに活かして殻木霊火の判断力で突っ込んでくるのだ。
今の時点で十分にトップヒーロー級だ。ヤバすぎる。
殻木霊火という悪魔に愛されたお人好しの少年は、既に“最強のヒーロー“に片脚を突っ込んでいた。
(うっわ、これ真っ向勝負じゃ私も瞬殺される……なんで自分の敵を一生懸命育てているのかなあ私は……?)
だって好きになっちゃったんだからしょうがない。
自分の恋心で身を滅ぼすなんてどうしようもないバカのやる事だが、自覚していても対策不能な類の問題だった。
霊火は通話状態の首輪に指示を入れる。
『OK、聞いて出久くん。効いていないように見えるけれど効いていないわけじゃない。ダメージを与えて暴れさせるほど、私の”個性”が浸透していく。 時間をかければ私が呪殺出来るから、なんとか戦闘継続してほしい』
「っ……!! 分かった!!」
緑谷は、一瞬だけ眉を寄せて唇を強く結んだ。
多分、彼はこちらに『呪い火』をあまり使わせたくないのだろう。
実際、反動が大きいのは『”鬼火”を使った時』ではなく『”鬼火”を収集した時』なので戦うこと自体はある程度こなせるのだが……。
(……この調子だと出久くん、私に”個性”を使わせないように無理な短期決戦を挑んじゃいそう。出久くんの場合はとにもかくにも自分を勘定に入れていないからな……)
だから少女は死ぬほど冷たい声でこう付け足した。
『出久くん』
「何!?!?」
『よく聞いて。
「霊火さんが!?!?!?!?! 何で!?!?!!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
『だってこうでもしないと貴方自分を犠牲にしてでも戦うでしょう? ……ああ、一応言っておくけれど、
霊火は緑谷出久に物凄く太い釘を刺した。
あからさまに立ち回りが丁寧になった緑谷を見て、少女は軽く苦笑い。
(……さあ、この難易度激高の現場を見物しに来るギャラリーは脳みそ無いのか自殺志願なのかどっちなの? ったくもう……オールマイトも民衆にとんでもない意識を植え付けやがって。
鬼火を駆使して危険な場所に立つ一般人を地平の彼方に吹き飛ばしながら少女は内心で毒づく。
避難誘導もヒーローの大事な仕事ではある。雄英でも口を酸っぱくして言われた鉄則である。実際ちょくちょく見かけるプロヒーロー達は避難誘導に注力しているようだ。
まあ霊火としては民衆が巨人にプチッと踏み潰されて地面と同化して見分けがつかなくなってもなんら問題はないのだが、緑谷が嫌がるので渋々片手間で避難させる。
民衆などいくら死んでもいいが、彼の悲しそうな顔を見るのは嫌だった。
というか緑谷の場合は民間人を庇おうとして死にそうなのが最悪だ。
ギガントマキアと戦い、ギャラリーを避難させ、”お前が早く死んでいればこんなことにはならなかったんだ(意訳)”と叫ぶ一般人の頭部にコンクリート片を直撃させて瞬殺し、70キログラムの肉の塊を指鳴らし一つで血痕ごと抹消しながら霊火はため息をつく。並列処理は昔から得意な方だ。
それにしても一般人、自分よりも強い者に喧嘩を売ったら殺されるという生物の基本すら忘れてしまったらしい。そもそも”殻木霊火が死んだら帰る”という
(うーん。隕石にマキアで警察が完全に機能停止した今の東京じゃ殺人も誘拐も楽勝だけれど。折角だから目をつけてた”個性”持ちを一気に持っていきたいな)
……『死因』の乱用と100万人殺しを経て、いよいよ倫理観がドクターと同レベルまで落ちてきた自覚は霊火にもあった。
まあ元々ドクターのコピーである以上、これは当然とも言える。むしろこっちが本来の霊火の姿なのだ。
実際、100万人殺しの後だと一人や二人殺したところで文字通りの意味で誤差ではあるし。
「ぐおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「お前を!!!!! 倒す!!!!!!!!!!」
『……戦い初めに比べればだいぶ動きが鈍ってる!!! キツくなってきたら私がタゲ取るから言って!!! 飛行かつ遠距離型の私の方がだいぶ生存率高いから!!!』
――――――――
実を言うと、だ。
初期化初期化と騒いではみたが、霊火は『ふうか』を消去なんてしていない。
一時的に記憶層にロックをかけただけで、データはちゃんとアーカイブしてある。
まあ、霊火も”自我が芽生えて人間を守ったAIを消去するなんてとんでもない!!”と素直に思ったのだ。
少女はマッドサイエンティストであるため、ロマンを解する心は持っている。人間を守ろうと裏切るAIなんて、霊火的ロマン度は相当高い。
この辺りは自分の元を飛び出した弟子を引き留めず、娘の勝手を許したドクターとスタンスが似ていた。多少痛い目にあっても反抗期の娘の意思を尊重する、理解ある親と言えるかもしれない。
それが良いか悪いかは別にして、親子そろって損得よりも自分の感覚を優先する傾向があるのは確かで、だからこそ
しかし、いくら『ふうか』を肯定するつもりでも、『ふうか』に殻木霊火の記憶がある以上完全放置はちょっと許可できない。
仮に童女が八百万百に全てを暴露してしまったら、それは流石に許容できるダメージを超えている。
では今の鬼の童女はどういう状態なのかというと、霊火のリモート操作モードだ。
つまりは今の殻木霊火は、緑谷出久と共にギガントマキアと戦いながら[Class3:cannibalism]をラジコンみたいに動かしている状態と言える。
(うーん……折角『招き猫』ちゃんを動かして追い立ててヤオモモをクレーターになっちゃう神野区から逃がしたのにな。ここで見つかるって事はヤオモモの体内に発信機でも埋め込んでいるのか?)
どうして霊火が狂気のマルチタスクをしているのかというと、それは八百万百を逃がしてあげる為だ。
つまりは造り主は、一応『ふうか』の願いを引き継いであげるつもりだったのだ。
というか今の霊火の倫理観でも、知り合いが自分のせいで死んでしまうのは流石に後味が悪い。
確かに霊火はそれを許容して一度八百万を見捨てたが、我が子が親に反抗してまでここまで頑張ったのだ。
出来れば学友を無事に逃がしてあげたい。
なんかリスク対効果的にはコンコルド効果とかそういう領域に踏み込みつつあるが。
という訳で適当に初期化された振りをして、ヤオモモを適当に脅かして逃がし、後はクレーター跡地にでも行って魔王の相手をしている『庭師』ちゃんの様子でも見に行こうかと思った矢先だった。
不意打ちだった。
八百万百の目の前で黒い霧が渦を巻き始めた。
「っ!!!」
「きゃあ!!!!!!!!」
八百万と相対していた童女は
霧が凝縮され紫がかった黒色の渦となって空間を歪ませる。一手遅れたら八百万はもう一度誘拐されていた。
「おいおいおいなんでお前らが戦ってんだ……なあ、どうなんだ? 裏切り者の技術者がよ」
「見つかったかあ……」
ゲートの向こうから姿を現したのは敵連合の面々。
やはり本式の敵。彼らの放つ殺気が空気さえも凍りつかせるほどの重圧となって場を支配する。
死柄木はぐりんと八百万の方に目をやった。
女子高生は恐怖で身体を強張らせる。
「やっと見つけたぞ雄英のガキ…ずいぶん逃げてくれたな? ああもういい、今度は殺してやるよ」
「やば。敵連合はめんどうだけどお……。話が無限にややこしくなっていくし……」
「つ、つまり何がどういう事なんですか!?!? 貴方は一体何を狙って……!!」
先ほどまで自分を殺そうとしていた殺人機械が敵連合と敵対しているのをみて混乱状態に陥る八百万百。
『食人鬼』を操作中の霊火は自身のタイミングの悪さに天を仰ぎたい気分だった。“本体“はギガントマキアと戦っている途中なのでそんな余裕は無いのだが。
つくづく『ワープゲート』が最強の”個性”すぎる。霊火はこれの対策をどうすればいいのだ。
「見つけたよ弔くん。刺すよ」
「可愛そうだけど殺すしか無いわね……」
童女は、腰から伸びる無色透明な『切断羽』に意識を集中しつつ敵連合に向かい合う。
射程20メートル、遠隔切断能力。林間合宿ではこの機能を、ほぼ全ての対戦相手が『真空刃』だと想定したみたいだが実際はただただ無色透明な刃を振り回しているだけの科学技術だ。
緑谷に渡した『橋姫』の方にも手を加えていた事もあり、真夜中の森の中ではまず見切れなかっただろう。
本体もアンドロイドも似たような体形のため色々と操作しやすい。『食人鬼』がロリなのは、この運用法を想定していたからという事情もあったりする。
とはいえだ。
(この人数は無理!!! 色んな“個性“を食い繋いだ最強状態ならとにかく、今のフレンチバニラじゃ勝てない!! 脂肪を物質に変換する『創造』はこの子と相性滅茶苦茶悪いし!!)
この場には敵連合が勢揃い。
直接戦闘に優れた『血狂いマスキュラー』や『ムーンフィッシュ』がいないとは言え厳しい。
なんなら死柄木弔の一人だけで今の『鬼』には荷が重い。
つまりこのまま戦闘に突入したら勝てない。
鬼の童女ごと八百万まで殺されてしまう。……霊火としてはここは最悪落としてしまってもいい勝負なのだが、勝てない勝負はやりたくない。
だから―――
「お兄ちゃん!!!」
「っ!?!? まさか……!!」
「ちょっとお話しよう!!! ゲート開いて!!!」
高く澄んだ声が響いた瞬間、黒霧がびくりと震えた。
反射的にといった感じに、紫がかった黒い霧が波打つ。
『ワープゲート』が発動したタイミングを逃さず、アンドロイドを操る霊火は八百万の腕を掴んだ。
「えっ? ちょ、ちょっと……!」
「おい黒霧!!! 待て!!!!!!」
八百万が驚きの声を上げる。
死柄木の制止を無視して、トガに投擲されたナイフを切り払う。
鬼の姿をした兵器は女子高生を引き寄せてそのまま霧の中へ飛び込んでいった。
――――――――
「この程度かな? いやはや、最初は少し焦ったが蓋を開けてみると大したことないな」
『ハイエンドを3体も連れてきたらそりゃそうでしょ……『ドクター』が凄いだけじゃん……』
「おっとその反論は想定していなかった。一応この子たちの開発には、僕も関わっているんだけどね?」
『それを言うなら私も関わってるんだが?』
空間が歪み、轟音が空を引き裂いた。
まるで現実そのものが引き延ばされるような異様な光景。
一つ一つが戦争の概念を根底から変革する権利を持つ、凶悪な次世代兵器群が一斉に火を噴く。
レーザー、プラズマ砲、粒子ビーム、音響砲、ウイルスを模したナノデバイス、電子的な毒ガス。それらが織りなす攻撃の網目が、空を彩る致死の芸術と化していた。
対して脳無が雄叫びを上げた。様々な超常現象が巻き起こり、その圧倒的な破壊力が存分に振るわれる。
その中心でも、魔王は圧倒的な存在感を放っていた。
彼の放つ一撃一撃が空間を歪ませ、周囲の現実そのものを揺るがしていく。
触れるものを削り殺す磁性流体の大波を吹き飛ばしながら、AFOの口元が皮肉げに歪んだ。
「やはり機械は限界を超えない。君もそう思うだろ?」
『技術者としては機械に限界を超えられたら困るんだよ。下振れも上振れも無いのが血の通わないマシンの素敵な所だもん。そもそも脳無も設計思想としてはこっち側に近いと思うんだけれど?』
魔王の傍にちょこんと座る実体の無い少女がパチンと指を鳴らすとまた別の新兵器群が創造され、起動する。
地上からは無数のミサイルが発射され、空中には浮遊砲台が展開、バンカークラスターなどの凶悪な爆弾も次々に投下。
ハイアンドロウ。莫大な火薬を使った旧式の大火力が場を埋め尽くす。
衝撃波が連鎖的に広がり、閃光が地を染め上げ、轟音が地面を震わせる。
スチームパンクでSFな工業地帯が、一つの巨大な生命のように唸りを上げながら、次々と新たな兵器を生み出していく。
更には星が瞬いた。
『天落』という名前がついた、絶滅の象徴。
4つのお星さまが、墜ちてくる。
『まあ心なき”個性”に発展性が無いのは認めるけれど、心が無いゆえに私の兵隊は消耗しない永久機関だよ? 有限に囚われたちっぽけな生命体が、ここからどうやって『勝つ』つもり?』
「ハハ……勝てはするが、それはあまり問題じゃないな。……こうなってしまうと問題は勝ち負けじゃない。ここは互いに、歩み寄るべき時だ」
『んん……まあそうだね。適当な所で落としどころを探らないとこのまま共倒れだし……』
隕石が墜ちた。
機械が築き上げた仮初の文明は音速の10倍の速度で広がった衝撃波で一発で跡形もなく破壊され、10秒も立たずに真っ黒な泡から再構築された。
更に大きく、さらに複雑に、更に強大に。
増殖し続ける機械群に向かって、魔王は手を翳した。
「『発条化』+『膂力増強』+『光線』+『酸化』+『摩擦』+『摩耗』+『押し出し』+『鋲突』+『ダークボール』+『光塵』」
再度築き上げられた文明圏が、再び木っ端微塵に粉砕された。
轟音が響き渡る。
金属製の建築物群が紙細工のように粉々に砕け散っていく。
互いの攻撃力があまりにも高すぎる。
人工隕石の投下から文明の創造までをも可能とする霊火の戦力と、ハイエンドという規格外の個を複数操るAFO。
この二つの力が真正面からぶつかり合えば、勝敗が決するまでに冗談抜きに世界そのものが崩壊してしまう。
それは核兵器を持つ超大国同士の対立に似ている。どちらかが本気を出した時点で、互いに滅んでしまう事が確定した負け戦。
破壊主義者の死柄木弔はともかく、AFOにとっては望ましい結末ではない。
世界の破滅は、彼の目的には含まれていないのだ。これは[Class6:paternalism]の性能が微妙に信用できない霊火側にも同じことが言える。
つまりはそういう均衡状態。
ここから売り言葉に買い言葉で全面戦争に踏み切れば、勝者も敗者も世界も一緒くたに破滅への道を歩むことになる。
その事実を、二人はちゃんと理解していた。
その上で、霊火を模した人影は言った。
『だけどAFO、停戦交渉は貴方抜きでやる。貴方はここで終わらせる』
「君には出来ない。そして警告しよう、これ以上踏み込めば僕は緑谷出久を殺すぞ」
『いいや、それはさせない。少なくとも今この場にいる貴方だけは必ず止める。世代交代の時だぜ魔王様、老害は消えな?』
「だがどうやって? ”これ”は確かに大したものだが、僕を殺すには性能が足りないだろう?」
うんざりした顔をする霊火と、喉の奥でくつくつと笑うAFO。
全く晴れない表情で、少女は首を振った。
『……気は向かないけれどさ、今の私にはこういう側面があるの』
「……? 全く脈がない不毛な片想いを諦められないまま、緑谷出久にとって都合のいい女になっているとかかい? あの少年が君にうんざりしているのが分からないのか? このままだとスタイルが良くて性格も優しい、とても綺麗な女性が現れて君は邪魔者扱いだよ。そして君は結局身を引いてしまって、ずっと後悔し続ける事になる。悲惨な横恋慕を続ける君は笑顔を顔に張り付けてあの少年を祝福するんだ。そのうち彼に『彼女にプレゼントしたいんだけどどうすればいいと思う?』って聞かれたら、君はきっとボロボロになりながらもプレゼント選びを手伝ってあげるだろう。そして君は帰ってから、一人の部屋で今頃彼が何をしているかに想いを馳せ、延々と泣き続けることになるね」
『………………………………なんでそんなこと言うの?』
「そもそも彼、君の事嫌いだろう? 自分の性格に自覚は無いのかい?」
『え、私って嫌われてるの……?』
魔王の雑な口撃に大ダメージを受けたAIだが、AIだからギリギリ耐えられた。ちょっと声が震えていたが。
……偶に緑谷出久を自分以外の女の子に盗られる悪夢で飛び起きて、ド深夜に一人でメソメソ泣いてたりする本体だったら耐えられなかっただろう。
脈がなさ過ぎて日に日に自信を失い続けている少女はちょっぴり涙目だったが、『そうじゃなくってね』と前置きして続ける。
『ほら、今の私は仮にも雄英生なの。ヒーロー志望の正義サイドの顔もある訳よ』
「それがどうした? 僕たちもヒーローサイドとしての君はずっと警戒してきたが、今更何を持ち出してくるというんだい?」
『なら警戒が足りなかったね魔王様。……これ、私も滅茶苦茶怖いんだけれどな。すべての前提を無視して私まで辿り着きかねないというか……』
きらりと星が瞬いた。
更に兵器の生産速度をあげつつ鋼鉄の支配者は目を細めた。
『さあ来るよ。私たちの天敵が』
「なに……?」
『”悪役は必ず、正義のヒーローに敗北する”。私たちを延々と苦しめた、絶対にして強大な世界の法則通りに滅ぶがいいさ、老害』
ぶつりと、仮想的な霊火が消失した。
魔王がゆっくりと周囲を見回す。
不気味な沈黙が場を支配し、空気が凍りつくような緊張が漂う。
「まさか……」
ハイエンドたちの反応が突如として途切れた。
暗闇に光が差し込むかのようだった。戦場の空気が一変する。
「ありえない……!!!」
ヒーローとしての殻木霊火。
あの女がそう言う側面を最大限に活かすとしたら、どのような方法をとるか?
工業地帯全体を覆いつくす粉塵と蒸気の向こう側から、男の声が響いた。
「……おいおい、つれないじゃないか親友!! 私と君の仲だろう?」
現れたのは、魔王の良く知る男だった。
筋骨隆々とした肉体は完璧な造形美、その佇まいからは圧倒的な威圧感が放たれている。
まるで画風そのものが変わったかのような雰囲気。
鋭い眼光が、『AFO』を真っすぐに貫く。
片腕で壊れたハイエンドを引きずる姿は、まさに圧倒的な力の具現化そのもの。
その存在感は、これまでの戦場の様相を一変させるほどの重みを持っていた。
「……引退は嘘だったのかい?」
「ああ、これは本来私の責任だ。私が決着を、つけなくっちゃあ、なあ……!!!!!!」
平和の象徴、絶対的№1、ナチュラルボーンヒーロー。
仁王立ち。笑顔。
そして言った。
「私が来た!!!!!!」
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