先日の爆破事件の傷跡がまだ生々しく残る長野の病院。
そしてギガントマキアが暴れて、神野区に隕石が墜ちる日の朝のことだった。
入院患者の家族向けラウンジでは警察官やプロヒーローたちが慌ただしく行き交っていた。
そんな緊張感漂う空間に、突如として不釣り合いな着信音が響き渡る。
『メールが来た!! メールが来た!!』
「!!」
ガリガリに痩せた男——八木俊典は、素早く携帯端末を掴んで画面を開く。
同じ場所にいた相澤消太もすぐに反応する。こちらはやや憔悴した様子だ。
「緑谷ですか!? 殻木の様子は!?!?」
「あ、ああ……緑谷少年は……」
メールの文面を見たオールマイトの肩の力が抜ける。
オールマイトは長い指で携帯を持ち直すと、相澤の方へと画面を向けた。
短い文章だったが、メッセージには二人の自撮り写真が添付されていた。
部屋着で顔を寄せてにへらと嗤う寝癖少女と、緊張した様子でちょっと仰け反っているぼさぼさ頭の少年。それを見た相澤は呆れ顔だ。
左腕を失った少女の不均衡なシルエットがあまりにも痛々しい以外は、至って平和な写真だった。
「……あいつら本当に仲いいですね」
「とりあえず元気そうで良かったが……」
2人の気が抜ける。
彼らは命を狙われているというのになんなら結構楽しそうだった。特に少女の方は。
……殻木霊火が敵の襲撃で左腕を失ったと聞いた時、オールマイトは無力感で胸が潰れるような思いだった。
先生としても、教員としても課せられた責務を全うできていないと深く感じたのだ。
その上少女は大人を信用せず、誰にも相談せずに病院から無断で抜け出してしまった。
しかもその日のうちに彼女の病室は爆破されてしまい、いよいよ彼女を取り巻く状況は危機的なものになってしまう。
もちろん、この時点で雄英の教員会議では、今すぐにでも緑谷と殻木を助けに行くべきだと言う事で意見が一致した。
しかし問題があった。
「なんで殻木は、俺たちに自分の居場所を伝えないのでしょうか?」
「あの子が警察嫌いな事は何となく知っていたが……大人に任せるよりも自分で対処した方がいいと判断しているのか……?」
「ああ、本物の自信家ですからねあれは。……実際その判断も間違ってはいないのがまた難しい所です。もし殻木が大人の言う事を聞いて病室にいたら、おそらく爆破に巻き込まれていたでしょう」
……霊火が雄英ヒーロー陣に自分の居場所を伝えないのは”雄英内部に内通者がいる”可能性を疑っているからだったりするのだが、彼らはそれを知る由もなかった。
実際のところ霊火の人間不信は、決してオープンなわけではない。深い付き合いの緑谷しか彼女の病の重さは知らないのだ。
しかし、実際いくら霊火が『私で全部対処できますので』みたいな顔をして実際に襲撃を躱すだけの実力を持っていたとしても、教師としてはそれを許すわけにもいかない。
現在、教師一同で殻木霊火の居場所の特定にかかっているのだが、状況は良くなかった。
「それで相澤君、殻木少女がどこにいるかについては……」
「先ほど警察から話がありました。尾行は振り切られたとのことです。現場の警察車両が全て謎の不具合が発生して動かないという報告は上がりましたが、実際の関連性は不明。噂によると北海道と沖縄の監視カメラの両方に映ったらしいですがどちらもフェイクかと。敷かれている検問もすり抜け、『遠視』系”個性”のヒーローの監視からも抜け出したそうです」
「あの子は一体何と戦っているんだ……?」
全く意味不明だが、彼女は敵連合の刺客と並行して警察やヒーローとも戦っていることになる。
……彼女はそこまでして何を警戒しているのだろうか?
そして霊火との付き合いもそこそこ長い八木は頭を抱える。というか大の大人が公権力の下で行う尾行をあっさり振り切るなどそこらの学生に出来る事ではない。
殻木少女が極めて優秀だとは重々知っていたつもりだが、まさかここまでの天才だとは思ってもいなかった。
担任である相澤は晴れない表情で頭を押さえると、低い声で言う。
「……私たちが生徒を助けに行くとしても、彼らが居場所を教えてくれない事にはどうしようもないですね。オールマイトさん、殻木はとにかく緑谷の方を何とか説得出来ませんか? 緑谷もあれでいて、殻木の事は無条件に信頼しきっているわけではないでしょう」
「彼には確かにそういう面もあるが、殻木少女の判断力に関しては疑っていないはずだ。彼女が少年に口止めしているならば私でも聞き出せないだろう」
「……あまり深入りするつもりは無いのですが、彼らは男女の関係だったりするのですか?」
「いや、あの二人は友達だよ」
奇妙に断言するオールマイトに少し怪訝な目を向けつつも、相澤は本日数度目になる大きなため息をつく。
ラウンジを重苦しい空気が満たす。オールマイトは頭を振って、ソファから立ち上がった。
「相澤君、私は少し外の空気を吸ってくる」
相澤は黙って頷いた。
オールマイトは自動ドアを抜けてエントランスホールを通り過ぎる。
外の空気が肌を撫でる。病院の裏手には小さなベンチが置かれていて木々の間から差し込む陽光が目に心地いい。
平和の象徴はベンチに腰を下ろすと重いため息をついた。
ふと自分の手のひらを見つめてみると、かつては強靭な筋肉で覆われていたその手は今や皺だらけで、骨と皮だけが残っている。
『OFA』を譲渡してから既に半年以上が経過していた。嬉しい事に後継者である緑谷出久は、驚異的なスピードで成長を遂げている。
彼の活躍のニュースを見るたびにオールマイトの胸は誇らしさで満たされた。
……林間合宿で彼が『マスキュラー』を無傷で撃破して子供を助けたと聞いた時には流石に驚きが勝ったが。
しかし今この瞬間。彼らが戦いに身を投じているその場所へ、自分は駆けつけることができない。
「この体では……」
人の役に立ちたい。
細い指が震える。皺の刻まれた手のひらにかつての力は宿っていない。
今、殻木霊火は非常に大きな危機に晒されている。
彼女も緑谷が傍にいる限り大抵の事には対応できるとは思うが、それでも彼らを助けたいという思いは強くなるばかりだった。
無力感に苛まれた元最強の男が天を仰いだ。
その時だった。
「
突如として響いた声に、オールマイトの思考が凍りついた。
良く知っている声だった。しかし、絶対にここで聞けるはずのない声だった。
ギョッとして横を向くと、隣には最初からそこにいたかのように、デヴィット・シールドが座っていた。
「デイブ……? ぶ、無事だったのか!?!?!?!?!」
オールマイトの声が大きく震える。
I-アイランドの騒動にて行方不明になった親友。絶対に見間違いようのない彼がそこにいた。
「い、いや、待て待て待て」
オールマイトは目を何度も瞬かせる。
「本当にデヴィット・シールドなのか!?!?!?!? 私の目の錯覚か!?!?!?!?」
「ハハ……決まっているだろ相棒」
声も、話し方も。何もかもが八木のよく知る彼だった。
やや疲れているように見えるが、特に見た目も変わった様子はない。
ポロシャツにジーンズの至って普通の格好だ。ただ一つ、銀色のトランクケースの存在を除けば。
金属の表面が、朝の陽光を鈍く反射している。
「トシ……これを渡したくてね」
「待て、君はどうしてアイランドからいなくなったんだ!?!? お、おい!!!!! メリッサがどれだけ悲しんだか知っているだろ!?!?」
「……っ!! 悪いがこれを渡すことしか許されていなくてね。……もしよければメリッサは、君が守ってくれ」
彼の顔には何かを言いたげな苦悩の色が浮かんでいた。眉間には深い皺が刻まれ、普段の明るい雰囲気は影を潜めていた。
オールマイトは事情を詳しく聞こうとしたが、科学者はそれを制止した。
「これを、受け取ってくれ」
その声には普段の力強さが欠けていたが、デヴィットは無理に笑顔を作ってみせる。
銀色のトランクケースが、二人の間でゆっくりと受け渡される。
――――――――
あまりにも強力で社会に与える影響が大きいうえに、政府に凍結された技術。
デヴィット・シールドの『個性増幅装置』は、元々オールマイトの衰退を食い止めるために開発された物だった。
そして失踪した悲劇の科学者は闇に呑み込まれて全てを失った後に皮肉にも、『オールマイトにかつての力を取り戻させる』という最初の目標だけ達成したのだ。
例えそれが、一度限りの夢だとしても。
――――――――
とん——と、足先がコンクリートの床を叩いた。
童女が周りを見回すと『ワープゲート』を抜けた先はどこかの狭い地下室だった。操縦者たる霊火も知らない場所だ。
夏のじめっとした空気が籠る部屋。背後でゲートが音もなく閉じていく。
八百万は放心状態で目を見開いたまま周囲を見回している。
そんな彼女の腕を(万力クラスの握力で)掴む鬼は、黒霧と素早くアイコンタクトを交わす。
「その雄英生を」
「了解」
童女が指を鳴らすと、まるで見えないスイッチでも弾いたかのように八百万百の意識が落ちた。
力の抜けた女子高生をそのへんにあった適当な段ボールの上に放り投げ、蒼い角の鬼は首を振る。
「やあっと一息ついた……ありがとうお兄ちゃん。……正直、話を聞いてくれるかは結構分の悪い賭けだと思っていたけれど」
「その前に確認です。今の貴女は“殻木霊火“ですか?」
「うん。今は霊火ちゃんのリモート操作中だよ。……何らかの理由で電波が途切れたら元の状態に戻っちゃうから気をつけてね」
『霊火』は両目をパチパチさせて眼の色をワインレッドに変更。
ぐりぐりと目を動かして操作感を確かめながら、非常に幼い容姿に全く似合わない疲弊のため息をついた。
右手で髪をかき上げようとして今の自分がロングヘアじゃなかった事に気が付き、なんとなく頭をガシガシと掻く。
しかし人間系統の触覚センサーを搭載していないため何も感触が返ってこなかった。ものすごく変な気分になる。
『右手をグーにしながら右手をチョキにする』『息を吸いながら息を吐く』を死ぬほど発展させた感じの複雑怪奇な並列思考を続ける霊火は機械側の身体で肩をすくめた。
「……さっきこの身体で『死因』を使いかけた時にも思ったけれど、これの”リモート操作”ミスの温床だな」
霊火は、演劇畑の経験があるわけでも変装の専門家というわけでもないので他人の振りという行為自体が色々と不慣れだった。
例えばティーカップに付着したリップを拭うとか本体の右足を庇う歩き方とか。
推理小説ならそこから名探偵に目を付けられてしまうような些細な間違いが大量発生しそうだ。
黒霧は霊火の幼女生活にはあまり興味が無いらしく、話の流れをぶった切って本題に入った。
「私は現況をあまり掴めていません。今朝早くに貴女が『大規模攻撃を仕掛けるから神野区から迅速に離れろ。『先生』と敵対したけど、死柄木弔と敵対する意思はない』という連絡受けた時にも混乱しましたが……とにかく詳細な説明をお願いします」
「そもそも私は貴方たちを裏切るつもりは無かったの。”これ”が八百万百を連れて逃げたのは単なる誤作動。まあそれ自体は私の責任なんだけれど、そこから厄介な事になってね……」
「……『先生』がすぐに粛清に動いてしまった、と」
「そう。……そもそもあの人、林間合宿の時点で私を殺そうとしていたみたいだけれどね。『死因』持ちの私相手にいつまでも顔が見えない黒幕でいられるわけがないだろゴミフィクサー……」
黒霧はやや呆れた口調だった。
「おや、『検死官』の貴女の事です。
「ふうん? 『確定』が欲しいのかにゃ?」
「やめておきましょう。昔から貴女の秘密話は聞いても碌なことがない」
それを聞いた霊火はけらけらと明るく笑った。
まあ実を言うと、霊火が何故『AFO』に命を狙われているのかについてはあまり難しくない。
『死柄木弔の『崩壊』の由来』を知ってしまったこと。
霊火としても狙った訳ではないが、これが致命的だった。
『OFA』周りの調べ物をしていた時、うっかりこの真実に辿り着いてしまったのだ。
そしてこれが『AFO』にとってあまりにもクリティカルな秘密だったからこそ、霊火は命を狙われている。
だからこそだ。
「ま、そう言う訳で”お兄ちゃん”。可愛い妹から提案があるんだけれど」
「ほう」
「私が『先生』までは倒すから、その後は停戦しましょう?」
現状黒霧は、霊火にとって唯一話が通じる相手だ。
そしてこの男は、『死柄木弔に危害を加えない』の一点さえ抑えれば安全に取引ができる相手でもある。
また、『ワープゲート』は絶対に敵に回してはいけない”個性”だ。……この場所にハイエンドが控えていなければ、ここで黒霧の抹殺も視野に入れていたほどに。
「私は『ドクター』相手に世界一危険な消耗戦をするのは絶対に避けたい。それに『敵連合』だって行く先々にあの隕石をドコドコ落とされたら困るでしょ?」
「……『ドクター』はどこに?」
「貴方は知ってる癖に。……まあここで私が『ドクター』の息の根を止めに行ってないのがそのまま答えでしょ。いくら私でも、死んだ人間は殺せない」
そんな訳で共に極限の黒。たった一人の天才科学者が造り出した闇夜の怪人たち。
裏社会を我が物顔で歩き回って真っ当な生活を送る善良な市民を好き放題に食い潰す、そういう類の凶悪な犯罪者。
互いによく知った仲だ。2分も掛からずに合意が取れた。
童女はコホンと咳払いして交渉の具体的な条件を確認する。
「OKお兄ちゃん、私が一度ダウンを取るから、その時に『ギガントマキア』は出来るだけ早く回収しに来てね」
「そして私からの約束——『敵連合』への攻撃は直接的・間接的問わず行わない」
「『血狂いマスキュラー』『ムーンフィッシュ』『マスタード』の脱獄もトライしてみる、サービスだよ?」
「そして黒霧、『敵連合』側の条件はまず『アマリリス』への敵対行動の停止。『殻木霊火』の方もいい加減諦めて」
「『変身』『二倍』『圧縮』、この3人の血液の譲渡。特に『変身』は最優先でお願い」
「ついでに『転送』脳無も頂戴ね?」
童女が指折り数えて確認すると、長身の男も頷いた。
そして最後に疑問を1つ。
「期間は来年の3月末まで……しかし貴女は本当に、『先生』を倒せるのですか?」
それに対して童女はバチコーン☆、とド派手なウインクまでして見せた。
「あっはは!! 本気で言ってる黒霧? 正義は必ず勝つんだよ?」
――――――――
その頃霊火の方はというと、同時進行でギガントマキアと戦闘中だった。
戦況はもう滅茶苦茶だった。
平和だったはずの平日昼下がりの住宅街は今や完全な瓦礫の山と化し、南へと一直線に進む巨人を霊火と緑谷は止められないでいる。
ギガントマキアの進行速度が落ちない。単純に体力が高すぎる。
(マジで……? 『超再生』に相乗りさせた癌細胞で全身侵されて、凶悪な末期がんでとっくにくたばってもおかしくない頃だと思うんだけれど!?!?)
ギガントマキアも戦い始めに比べて動きは鈍くなっている。効いていないわけでは、ない。
ただ、とにかく体力が高すぎる。そしておそらく、この感じだと”癌”を始めとした免疫系の対策も何か別枠で組まれている。例えば癌にならない植物の構造を一部流用しているとかだ。
やはり生物系の分野において『ドクター』は霊火より格上だ。
……霊火もかつてはドクターから色々と教わったが、彼の科学は正直霊火ですらも理解が難しいのだ。
何か秘密にされているという事もなく、根気強く1から10まできっちり教わったうえで分からないのだからどうしようもない。ぶっちゃけた話、霊火は未だに『脳無』がどうやって動いているのかを理論立てて説明できなかったりする。
(うーあー……あの人はその気になれば癌という病気を根絶する事だって可能なんだけれどなあ。 あのレベルの才覚が敵になっているのも全部昔のドクターを排斥した馬鹿どもが悪い……。 馬鹿は黙って天才に従う事だけが唯一にして絶対の善行なのに、それが出来ないから馬鹿は馬鹿なんだもんねえ。 救いようがな~い!!!)
まあもし実際に癌を根絶したら、それはそれで高齢化が進行しすぎて別枠で世界が滅びそうだが。
個人単位の善行が全体の益にならないから人間社会というのは難しい。
霊火が雑な考え事をしている間にも、巨人の一歩一歩が地面を揺るがしていく。
一軒家は巨人の足下であっけなくぺしゃんこになり、コンクリートの建造物も紙細工のように押し潰されていく。
(1回ダウンを取れば、黒霧が回収しに来てくれる!! それでどうやってダウンを取るかなんだけれど……)
少女は上空から戦況を見渡し、華奢な右手を地面にかざした。
『一酸化炭素中毒』軸。
火災現場では高熱よりも危険な致死性の黒煙が渦を巻き、範囲内に巨人を捉えた。
巨人の視界を完全に奪って、有毒な煙が巨人の嗅覚を麻痺させる。
霊火は大きく息を吸って新鮮な空気を胸の内に溜め込むと、上空から黒煙の中に急降下していく。
右手を煙を掻き分けるように伸ばし、巨人の頭部を撫でた。
『混濁』
対象の頭に触れることで、相手の記憶を前後5分間おぼろげにする異能。
巨人の巨体が痙攣し、止まった。
……やはりギガントマキア、精神系”個性”のガードは甘かった。
そして終わり方は呆気ない。
停止したギガントマキアの周囲に霊火の煤煙とはまた違った黒い霧が発生し、一瞬で巨人を覆いつくしていく。
最後の一瞬、巨人のシルエットが闇の中でかすかに浮かび上がった後、完全にその姿は消失した。
霊火は一応叫んでみる。
「『ワープゲート』!?!? ちょ、えっ!?!?」
同時操作で『鬼』の方も動かしていたので、霊火はだいぶ判断力が落ちていた。
ついでに自分で生み出した黒煙をしたこま吸い込んだ。
――――――――
「私の弟子が頑張っているんだ……私も頑張らなくっちゃなあ!!!!!!」
気合と共に大地が割れ、周囲の空気が振動する。
AFOが何か言い返す前に、一人で勝手にボルテージを上げる平和の象徴はこぶしを構えた。
「ここで終わりだ、『AFO』!!!!!」
大声が響き渡った。
オールマイトの巨体が一瞬で消失し、次の瞬間にはAFOの目前に出現する。
「UNITED STATES OF...」
オールマイトの拳に、全ての力が集約されていく。
「SMAAAAAAASH!!!」
渾身の力を込めた拳が、AFOの顔面を直撃。
衝撃波が四方八方に広がり、無人の街並みが砕け散る。
文句なしの一発KO。
……オールマイトとAFOは知る由もないが、霊火が改造した『個性増幅装置』は一度限りという制約の代わりに全盛期の力を引き出すようになっている。
”残り火”を増幅するというより、彼の体内に残っている空の器に霊火が整えた無色透明の『”個性”因子』を山ほどつぎ込んで全盛期『OFA』と同じ出力を実現するやり方。
緑谷出久というサンプルを参考にして、『OFA』という”個性”に誰よりも深く踏み込んだ霊火だからこそできるアプローチだった。
「……デイブ」
そして平和の象徴は、自分のこぶしを寂しそうに見つめた。
……時間切れだった。本当はあの巨人の元にも行って少年たちも助けたいのだが、それは叶わない。
「緑谷少年……」
オールマイトは、ここに来るまでに中継で見た自分の弟子の雄姿を思い出す。
あの超大型敵に立ち向かうモサモサ頭の少年は、オールマイトの目から見ても素晴らしい強さだった。
あの中継を見た市民が少年の戦い方に自然と希望を見出してしまうような、そういう強さだった。
彼が、自分を超える日は近いだろう。
だからこそ八木は思う。
もし。
もしデヴィット・シールドがあと1カ月待って、今の緑谷出久を見ていてくれたら。
彼は、友の事であれほど苦しむ事は無かったのかもしれない。
落ち着くまであと2話か3話かかります
その後は多少ほのぼのに戻せる……かな?
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