殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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073:『ピースキーパー』

 殻木霊火は『正義のヒーロー』があまり好きじゃない。

 

 しかし、個人的な好みを曲げて秩序の側に立つとするならば。

 

 概ねこんな感じになる。

 

 ―――――――――

 

 夜の繁華街だった。

 涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにして泣きながら走る小柄な男と、冷汗ダラダラで何度も後ろを振り返りながら走る大柄な男の姿があった。

 彼らは裏返った声で意味もなく騒ぐ。

 

「な、何だよアレ!?!?!? 警察もヒーローも動けねぇんじゃなかったのかよ!!!!!!! 今ならやりたい放題だって!?!? どうすんだアニキィ!!!!!」

 

「知るか走れ!!!!!! ギンタもナミキもヤラれた!!!! 早く逃げるぞ!!!!!!」

 

 恐怖に駆られて必死に手足を動かす彼らに悪としての威厳など何も無いが、彼らは彼らで『レディ・キーパーズ』といういっぱしの凶悪犯でもある。

 なお”キーパーズ”という単語から連想するやんわりとした秩序側の印象とは違い、彼らは異形排斥系思想団体でも異形の女性を否定する方向に走った変種だ。彼らは彼らが認めた女性以外の"ニンゲン"を排斥することで、女性を守る。

 これで男女問わずにそこそこ支持者が居るのも怖い所なのだが、とにかく"これまで殺してきた命の数なんて覚えてねーよ。だって人間じゃねぇし"と真顔で言う類のとびっきりの悪党だ。

 しかし何だかんだでオールマイト時代を生き残ってきたその悪名も、今は見る影もなかった。

 

「……っ!!!! もう許してくれよ!!!!!!!! なんでも、何でもするからさァ!!!!!!」

 

 地を這う彼らを嘲笑うかのように超上空で致命的な橙が明滅する。

 

 ゴオッッッッ!!!!!! と。

 空気中の酸素が呑み込まれる凶悪なサウンドと共に、男達が逃げ込もうとしていた避難経路を大蛇のような炎が纏めて封鎖した。

 

「クソが!!!!!! 警察もヒーローも来ないって話じゃなかったのかよ!!!!!! 『ピースキーパー』なんてふざけたアプリユーザーなんて俺たちの敵じゃ……!!!!!!」

 

 リーダー格の敵が歯を剥き出しにして真上を睨みつけるが、夜空をバックに悠々と飛行し、赤い瞳を嗜虐の光で爛々と輝かせる魔女から返ってきたのは更なる大火力だった。

 高熱混じりの強烈なダウンバーストで頭を抑えつけられた敵達は悲鳴を上げてその場に蹲って身を守る。

 

 魔女を地面に引き摺り下ろす術を持たない男が呻く。

 

「ま、マズイ!!! ここで逃げられなきゃギンタたちを瞬殺したもう一人が……!!!!」

 

 噂をすれば影。

 仲間を打ち倒した馬鹿みたいに強い近接担当が、吹き荒れる炎を突き破って一息で踏み込んできた。

 

 全身から緑色の火花を散らす少年は、荒事慣れした敵でも到底対応できない速度で敵たちの懐に潜り込む。

 

「デトロイトォ……」

 

「く、クソ!!!」

 

「スマッシュ!!!!!!!!!」

 

 鈍い打撃音が2回響く。

 呼吸を整える緑のモサモサ頭に、鋼鉄の箒で空を舞う赤い瞳の魔法使いが叫んだ。

 

「撃破4!! ちょっと手間取ったけれど、これでも合計1000万円超の大物敵だよ!!!! ていうか危険度と影響度から考えると安すぎるぐらいだけれど!!!」

 

「OK霊火さん次行こう!!!!」

 

 ドンッ!!!! と。

 片方はその強化された脚力で、もう片方は箒に搭載されたジェットエンジンで凄まじい加速を実現する。

 束の間の休息、僅かな移動時間を用いて2人は素早く意思疎通を行う。

 

「お次は高速バスジャック!!! 犯人は3人グループで、乗客やらバス運転手やらから金銭を奪おうとしている感じの悪党!! この手の犯罪で目的が逃走でも身代金でも無いのはシンプルに馬鹿だね。リスクリターン手数技術難易度どれを取ってもカツアゲを20回繰り返すとかで良いと思うんだけれど……目的と手段が逆転しているのかなあ?」

 

「どっちにしてもダメだよ……それで、侵入手段は?」

 

「バスなら私が"個性"で屋根を丸ごと吹き飛ばす。『デク』は間髪入れずに高速バス内部に侵入してインファイトで全員仕留めて。あと、もし運転手が敵だったとしても気絶させちゃって大丈夫」

 

 それからぴったり4秒。

 問題の高速バスを目視した魔女は片目を瞑って、右手の人差し指でターゲットをビタリと指差す。

 対する少年は早めに地面に接地すると、少女の先を急ぐ。

 

 モサモサ頭が緑のスパークを散らしながらバスの斜め後ろから併走を始めたのを確認した霊火が、攻撃の口火を切った。

 

「今!!!!」

 

 ズバンッ!!!!! と。

 バスの屋根が薄く切り飛ばされ、四角い板が丸ごと吹き飛んだ。

 オープンカーと化したバス内部に鋭角の走り幅跳びで飛び込んだ緑谷は、全身に強大な力を漲らせながら目出し帽に殴りかかる。

 

「な、なお前っ!?!?!?」

 

「うおりゃあぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 バスジャック犯に何か具体的な形で反撃のアクションを起こされる前に、キングオブ近接ゴリラが華麗なる徒手空拳で全員瞬殺した。

 あまりのスピード感に呆然としているバスの乗客を置いて、緑谷は安全のために犯人から拳銃を回収して銃身を折り曲げる。

 そしてすぐに上空から少女が飛び込んできた。

 

「霊火さんバスの運転できるの!?!?」

 

「初めてだけど多分出来る!!!!」

 

 運転席に座るのは、目出し帽の敵丸出しの男だった。

 そして霊火の指示で緑谷が気絶させてしまっているため、誰かがバスを運転しなければならない。

 

 緑谷が運転席の目出し帽の上着を掴んで席から引っこ抜き、空いた席に霊火が収まった。

 滅法小柄な霊火はブレーキを踏むために席に浅く座りながらも、複雑なシフトレバーとデカいハンドルを巧みに操作して速度を落としスムーズに道路の端に寄せていく。

 

 大きなバスを無事に減速させて路肩に停車させた無免許ちゃんがそっと息をつくと、緑谷は乗客の方に向き直った。

 

「大丈夫です皆さん!!!! ここはもう安全です!!!!」

 

 緑谷の声が天井の無いバス内に響く。

 

「しばらくしたら敵の収容と皆さんの保護のために警察が来ますので、そちらの指示に従って下さい!!」

 

「『デク』!!!! 次、行くよ!!!」

 

 乗客たちには悪いが、ここから避難や誘導までしている余裕はない。

 どうやら警察にも『ピースキーパー』で捕えた敵を収容するだけの余力は残っているようなので、残りは任せる。

 

 霊火と緑谷が空気を叩く音と共に夜空に飛び立つと、後ろから沸き起こる拍手と歓声があった。

「助かった!」「ありがとう!」という声が次々と上がる中、緑谷は満足げに深く頷いた。

 

「霊火さん、次は?」

 

「銀行強盗。7人組で全員が銃持ちって事は、この悪徳フィーバータイムで気が大きくなった素人とかじゃないな。元々アウトローだった奴らがハッスルしているパターンと考えるのが自然。荒事にも慣れていて人を傷つける事にも躊躇が無いと想定するべきで、狡猾に人質を取ってるみたいだから私の雑な範囲攻撃は使えない……」

 

「制圧自体は僕の役割って事だね。変な事をされる前に速攻で終わらせないとダメって感じかな?」

 

「……いや、最初に私が突入して孤立している悪党を速攻でダウンさせる。銃火器の破壊も可能な限り私が担当するから、貴方は上手く建物に飛び込んで残りを刈り取って欲しい」

 

「責任重大だね、了解!!!」

 

 高速バス制圧から15秒。その前の『レディ・キラーズ』との接触から数えても1分足らずの高速進行。

 件の銀行を上空から確認した霊火は空中でぐるんと縦向きに一回転すると、そのままド派手な急降下を行う。

 

 霊火は最初に、銀行のガラス戸を内向きに炸裂させた。

 その甲高い破砕音が悪党どもの注意を引いている隙にガラス戸とは全く別方向の分厚い壁を四角く焼き払い、その大穴から銀行内に突入する。

 

「なっ!?!?!?!? どこから――」

 

「甘い!!!」

 

 割れたガラスから慌てて意識を引き剥がし霊火の方向に銃口を向ける銀行強盗だが、フェイクを入れただけあって霊火の方が数段早かった。

 対物最強の"個性"がそのままぶっ刺さる。

 ぱちりと小さな音が響き、男どもが持つ全ての火器がそのまま焼失した。

 

 そして事件発生が夜だったこともあり、元々客はいなかったらしい。

 ヒーローが来ないという油断もあっただろう。銀行員から離れた位置に立つ悪党に対して霊火は範囲攻撃を選択。

 鬼火で受付のバーカウンターやらソファやらATMやらをフロアから引き剥がし、人が死なない程度の殺傷力で屈強な男どもに叩き込む。

 

「ば、バカ野郎!!! おいふざけんなよ今すぐ止まんねえとこいつを殺――」

 

「させない!!!!!!!!!!!」

 

 霊火を睨みつけて女性銀行員に刃物を突き付けて叫ぶ大柄な男に、裏口から行内に侵入した緑谷が完全なバックアタックを成功させた。

 首の後ろに強い打撃を加えられて昏倒する男からナイフを没収し、そのまま目を白黒させる女性行員を抱き抱えてそっとフロアに座らせながら、緑谷は確認を行う。

 

「霊火さんそっちは!?!?」

 

「全員ダウン!!! 銀行って事は対強盗の拘束マニュアルぐらいあるでしょ。指示だけ出したら次行くよ」

 

「了解!!! 皆さん!!! もう安心です!!! もう大丈夫なので落ち着いて行動してください!!!」

 

 敵退治が余りにも迅速過ぎた故に、銀行員たちの表情には状況を飲み込めていない戸惑いが色濃く残っている。

 全体的に緊張感の余韻が漂っている行内だが、その中でも黒の上質なスーツに身を包んだ中年の男性が最初に立ち直った。

 彼はまだ信じられないといった様子で、ヒーロー(?)に話しかける。

 

「助かった……? あ、ありがとうございます!!! 本当にありがとうございます!!!!!!!!!!!」

 

「いえいえお気になさらず!!!!!!!!!! 多分暫くしたら警察が来ると思いますので、そちらの指示に従って下さい!!!」

 

「もうなんてお礼を言ったらいいのやら……!!! それで……貴方たちは……。……あ、あの有名な雄英の子どもたちじゃないか!?!?」

 

 驚愕する中年男性を他所に、霊火が緑谷に向かって軽く手をふる。

 緑谷はパートナーに軽く目配せすると、しっかりと笑顔を作って大きく頷いた。

 

「それじゃあ僕たちは行きます!!! お仕事頑張ってください!!!」

 

「あ、ありがとう!!! 君たちは恩人だ!!!!!!!!!!」

 

 銀行員たちが段々と現実に戻ってきた。

 感謝の声が次々と響く中、霊火と緑谷は一瞬にして夜空に飛び立つ。

 

 高速飛行中はあまりの豪風で声が聞き取りづらい。

 上空の2人は互いに叫ぶような状態になりながらも、大声で会話を交わす。

 

「行動開始から4時間で撃破1500オーバー。10秒に1人ペースで悪人を片付けている事になるけれど、全く尽きないね!! 法律や警察が抑えつけていた人間の本性って言うのが噴出しまくりだけれど!!!!!!」

 

「っ!!! 悪い事をしても捕まらないって、ここまで危険な状態なのか……!!」

 

「今はまだ気が大きくなったパンピーがお試し感覚でする万引きとかも多いけれど、そのうち社会全体の罪悪感が麻痺して強盗強姦殺人オンパレードになるって考えた方がいい……!!!」

 

「……そんな事になる前に秩序を取り戻さないとね!!!!!!」

 

 ドォン!!!!!! と、強烈な加速音が夜空に響く。

 空を飛ぶ2人が光の帯のように引き伸ばされ、一瞬で夜の闇に溶け込む。

 

 ……今の霊火たちがここまでの機動力を実現できるのは、試作品だったジェットエンジン付きの飛行アイテムの使用を解禁した事が大きい。

 これはあまりの出力の高さ故に既存の法律では禁忌扱いされてきたサポートアイテムなのだが、どうやら民間人相手に自衛を目的とした強烈なサポートアイテムを出回らせている会社があるらしく、その関係で霊火のジェットエンジン付き空飛ぶ箒もギリギリ合法判定になったのだ。

 ……多分まだ全然違法だが、最初の一回は知らなかったで押し通せる気もする。

 

「……次は大捕り物だよ出久くん。全国に8人しかいない懸賞額3000万越えのネームド敵!! ていうか知ってる顔でもあるけれど!!!」

 

 目的地の近くに辿り着いた霊火は自身のサポートアイテムを操縦して緩やかに減速させる。

 霊火の"左手"にしっかりと掴まり、ジェットエンジンの猛烈な推進力に”相乗り”していた緑谷は、その光景を見て絶句した。

 

「敵連合か……!!!」

 

「警察も脱走だけは本当に勘弁してほしいけれど……!! 私たちの頑張りって何だったんだよってなるじゃん!! ()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 夜の街並みを覆い尽くす桃色のガス。

 毒々しい色彩が渦巻く死の領域。『ピースキーパー』の情報が正しいとすると、被害人数は6000人を超えたらしい。自動計算の懸賞金がものすごい勢いで上昇している。

 

「……この懸賞金システム、賞金狙いなら犯罪者が被害を広げるのをしばらく待ってから攻撃するのが必須テクニックになっちゃいそうだね」

 

「ねえ、何で霊火さんは悪用手段ばっかり思いつくの?」

 

「ええ……? 悪用方法を思いつかないヒーローっていうのもそれはそれで危うくない?」

 

 巨大な渦巻きを見た霊火は軽く舌打ちすると、毒々しく呟く。

 

「……それにしてもガスマスクとかがあれば警察でも十分に対処できるレベルなはずなんだけれどな。それが出来ない程度には混乱状態って事か……」

 

「今回はどうアプローチする?」

 

「私は既に一回あのガキと交戦してる。手札の割れてる私よりも初見殺しを仕掛けられる出久くんを軸に攻めたい」

 

 ……黒霧と交わした『敵連合に攻撃しない』という約束が微妙に足を引っ張ってくる。

 そもそも彼らの脱獄を仕掛けたのが霊火なのだから、この場で彼らを逮捕しようというのも不思議な話ではあるのだが……。

 

 『AFO』が全ての手続きを無視してタルタロスの最下層に押し込まれたのは正直言って助かった。

 

「……あの煙の中にどれだけの民間人がいるか分からない以上、私が適当に空爆するのも巻き添えが怖い。確かに奴の『ガス』はかなり凶悪な部類の”個性”だけれど、本人の格闘センスはない。私でも問題なく制圧出来たクラスだもん。……私が上空からガスの中心点に貴方を放り込むから、君は息を止めたまま素早く実行犯を仕留めて欲しい」

 

「了解!!!」

 

 霊火は左手で緑谷の腕をしっかりと掴んで一気に高度を落とすと、適当なタイミングで腕を放す。

 自由落下以上の速度で落っこちていった緑谷が桃色の霧の中へと消えていった。

 

 0.5秒後には霧の中から激しい打撃音が響き、2秒後には桃色の靄が晴れていく。

 あまりの"暴"にちょっと引き攣った顔の霊火は、自身の感情を紛らわせるかのようにひゅうと口笛を吹いた。

 

 ……ここまで霊火たちが傷一つ負わない全勝を実現出来ているのは、やはり緑谷出久が強すぎるという点が大きい。

 

 亜音速の飛行から遠近織り交ぜた複雑な奇襲を組み上げて押し付ける霊火の役割も勿論大きいのだが、そもそも霊火の無茶振りに対応できる緑谷のスペックが高すぎるのだ。

 だいたい、刻一刻と戦況が変わり続ける現在進行形の事件現場はプロでも普通に失敗する高難易度案件だ。

 

 何と言っても注意するべきポイントの多さと頻発する不測の事態で頭の中の優先順位がごちゃごちゃになって、普通に致命的なミスを犯すのが『突入』という行為の難しさなのだが――。

 

「霊火さん、終わったよ!!!!!!」

 

「私は貴方の強さにドン引きしてるんだけれど……」

 

「ぜ、全部霊火さんの指示じゃないか!?!?」

 

 ――緑谷にはそれがない。

 ただただスペックが高すぎて自分の行動を相手に押し付ける事が可能な上、不測の事態へのリカバリー力も高い。

 ……こればかりは、霊火が一生懸命に、彼に色んなことを教え込んでいたのが効いたのかもしれないが。

 

 再び、飛ぶ。

 ルールを逸脱した奴らを片っ端から叩き折る”正義”の実行者が、立派な大義名分を得て夜空を駆ける。

 

 連戦連勝。文字通りの快進撃。

 順風満帆そのものといったこの状況ではあるが、霊火はむしろ不安が止まらなかった。

 

 霊火は、この程度の正義に酔えるほど青くない。

 生まれながらの悪人は呻くように言った。

 

「……ねえ、思ったよりもマズい制度だよこれ。やってみて分かったけれど、いくら何でも振るわれる暴力に対する正当性が薄すぎる……!! 暴力の独占なんて主権国家の大前提なのに!!」

 

「マジか……霊火さんから見ても、そんなに危険なのか……!?!?」

 

「そもそも保安官制度自体が失敗してるから今のプロヒーロー制なんだよな……それに保安官だって誰にでもなれるっていう物じゃなかったのに『ピースキーパー』ときたら……オマケになんか監視国家じみてるし……」

 

「…………………………”あの”霊火さんがプロヒーロー制を評価するレベルってこと……?」

 

「出久くんってたまに私に凄い辛辣だよね」

 

――――――――

 

「諸君!!!! 私はジェントル・クリミナル!!! 人外魔境名古屋に現れた正義の義賊!!!」

 

「うぜぇ邪魔すんなぶっ殺すぞ!!!!」

 

「ちょっ!?!? 気をつけ給えキミたちちょっと引き金軽くないかね死ぬ所だったぞ!?!? さ、さあさあ今から繰り広げられるは快傑浪漫!!! ラブラバ!!!!」

 

「ちゃんと撮れてるわジェントル!!!! 今日もステキよ!!!!!!!」

 

 水を得た魚。

 『ピースキーパー』の導入後、あり得ないレベルで保安官制度に適応していく怪物も、いるにはいた。

 

 敵名『ジェントル』、飛田弾柔郎。

 現代の義賊を勝手に名乗る迷惑系動画投稿者の彼だが、やはり根っこが善人だ。

 人よりかなり強い功名心が悪さはしたが、基本的に平和を愛するヒーローサイドの人間。そんな人物が合法的に"世直し"を行う大義名分を得たことで、一気に跳ねた。

 

 そして実力だけはホンモノかつ『弾性』の性質上機動力に優れることも手伝って、活躍の仕組みさえ出来上がれば結果を出すまでは一瞬だ。

 

「ジェントリィィィ!!!! トランポリン!!!!!」

 

「キャァァァ!!!! カッコいいわジェントル!!!!!!!」

 

 そして相方がカメラとデジタルのプロフェッショナルである事も幸いした。

 いきなり発表された『ピースキーパー』の存在と価値に一瞬で気が付き、何処ぞの頭脳派少女よりも早く活躍までの基盤を整えた彼女は、愛しの彼の勇姿を見て涎を垂らしていた。

 

「やったわジェントル!!! 再生数が初の50万超えよ!!! 高評価率も視聴数比10%超え!!! 登録者数もインプレッション数も凄い勢いで伸びているわ!!!!」

 

「HAHAHAHA喜ばしい事だ!!! しかしラブラバ、間違えてはいけないよ。本当の本当に大切なのは、数字じゃない。分かるね?」

 

「な、なにかしら?」

 

「勿論!! 市民の皆様が安心して暮らせる平和な社会さ!!!! さあ行くぞラブラバ!!!! 私は救世の義賊ことジェントル・クリミナル!!! 皆が私を求めている!!!!!!! さあ、高評価とチャンネル登録をよろしく!!!!!!!!!!!」

 

「キャァァァ!!!!! 輝いている、輝いているわジェントルゥゥゥ!!!!!!!!」

 

 ―――――――――

 

「撃破3000!!! 出久くん大丈夫? 疲れたならちょっと小休憩入れるけれど?」

 

「大丈夫だよ霊火さん!!! まだ動ける!!!」

 

「……ま、ワンミスで人の命が失われるとても難しい現場だって自覚は常に持っておいてね」

 

 そう話している間にも、空を飛ぶ2人は次の事件現場の上空に辿り着いた。

 上空からの遠隔範囲攻撃と地上の近距離攻撃のコンビネーションで5秒もかからずに3人組の強盗犯を無力化した後、霊火はこう続ける。

 

「……!!! でも、新たな犯罪発生件数がだいぶ減ってる!! ヒーローや警察が来ないからといって悪事が見逃される訳でも無い、そういう圧力がちゃんと効いてる!!! 何もかんも私たちが滅茶苦茶頑張っているからだけれど………!!!」

 

「……っ!!!! ……よし!!!! まだ頑張れるよ霊火さん!!!!!!!!」

 

「……せっかくのリズムを崩すのも良くないかもね。……ああもうしょうがない、ここまで来たら気が大きくなって勇み足した悪党どもを根絶やしにしちゃおう!!!!!」

 

 ――――――――

 

 この時点で『ピースキーパー』運用における総撃破数の75%が、緑谷と霊火による物だった。




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