殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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078:カウンターショック

▶アクシデント発生より47秒経過

 

 悪夢のような光景だった。

 緑谷出久の腕の中で、霊火がぐったりと意識を失っている。

 

「マズいぞ少年……出血量が多すぎる!!」

 

 ジェントル・クリミナルの焦ったような声が響く。

 

「分かってます!!!!! 今すぐ本州の病院へ僕が――」

 

「待って緑谷くん!! 病院はどこも閉鎖中よ!!」

 

 ラブラバも叫んだ。

 

「じゃあどうすれば……!!」

 

 霊火の右目の眼孔に、手の指ほどもある鋭利な金属片が深々と突き刺さっていた。

 閉じられた瞼から滴る血が長い睫毛を伝って頬を濡らす。暗がりの中ではその色は鮮やかな赤ではなく、黒ずんだ鈍色に見えた。

 

「お、応急処置を……何からすれば……」

 

 雄英高校ヒーロー科では救助における応急処置も学ぶ。骨折、打撲、熱中症、低体温症。基本的な対処法は緑谷も理解している。

 しかし、眼球に異物が刺さった際の処置など、習ったこともなければ想像したことすらない。

 

 伸ばしかけた手が、途中で止まる。

 刺したナイフと同じだ。おそらくこの金属片には触れてはいけない。しかし、このままにもしておけない。

「どうすれば」という言葉が頭の中を渦巻き、呼吸が浅くなる。

 

(マズいマズいマズい……!!!!!! 明らかに僕の手に負える傷じゃない!! そもそも最初の一手から分からない……!! 大体、眼球に刺さっている”これ”を抜いてもいいのか!?!? なんでこんな所から大出血してるんだ!?!?)

 

『で、いつになったら分からないことがあったら”私”を呼び出す癖が付くんですかねご主人様は』

 

「うわあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 唐突に頭の中で霊火の声が響いた。

 思わず悲鳴をあげた出久に、ジェントルとラブラバが飛び上がる。

 

「ど、どうしたのかね少年!?!?」

 

「な、何でもないです!!」

 

『ああ、例によって私の声は周りに聞こえていないので、大きな声で独り言を喚く異常者と思われたくなければ会話する際はお気を付け下さい』

 

 緑谷の”首輪”の電源が勝手に入った。

 『レイ』は、霊火に託されたサポートアイテムに搭載された人工知能だが、AIは霊火の声でつらつらと話を続ける。

 

『やれやれ。私の造り主は何をやっているのやら……』

 

「れ、『レイ』!! 霊火さんをどうしたらいい!?!? 霊火さんは今どういう状況!?!?」

 

()()()()()()()()。ああ、眼球に刺さった金属片は絶対に抜いてはいけません。抜くと大量出血や眼球の更なる損傷、感染を引き起こす可能性が高いです』

 

 ゾッとするような言葉があった。

 緑谷の視界全体に地図やバイタルサイン、その他様々なウィンドウが展開する。

 『レイ』は極めて無感情に、しかし軽薄な雰囲気で次々と言葉を発する。

 

『ご主人様も覚悟してください』

 

「あ」

 

『端的に言えば、助からない可能性が高い、という事です』

 

 緑谷の心臓が、不気味な跳ね方をした。

 信じられない気持ちで霊火を抱き寄せる。

 小さな身体は軽すぎるほど軽い。完全に脱力したその重さは既に命の無い人形のようだった。

 

『眼孔内の動脈が損傷している場合応急処置だけでは止血が困難なことが多く、出血多量で命を落とすリスクがあります。また、金属片は多くの細菌を眼球内に持ち込むため短時間で重篤な眼内感染症を引き起こす可能性があります。抗生物質がなければ感染は急速に広がり、命に関わる敗血症を引き起こすこともあります』

 

「嘘だ……」

 

『しかし即死していないのは幸いです。これはつまり、金属片が眼窩を貫通して脳にまで達していない事を意味します。即ち、必要なのは手術室での止血と異物除去です。眼球の除去まで行くかもしれませんが。とにかく感染管理された手術室で手術用顕微鏡を使い、出血をコントロールしながら金属片を安全に除去する必要があります。抗生物質の投与や全身管理はその後に考えればいいかと。逆にそれさえクリアできれば、生存の目は僅かに残ります』

 

 呆れたようなテンションの『レイ』だが、キュイン、と。霊火の”箒”が一人でに浮き上がった。

 "首輪"が制御するそれは自動的に緑谷の傍に滞空して蛍光色のピンクを光らせながら、後部のジェットエンジンを点火させる。

 

 茫然とする緑谷に、『レイ』は僅かに楽しげに言った。

 

『さあ、成功率が低いギャンブルを試すつもりはあります?』

 

「……ありがとう『レイ』」

 

『AIにお礼を言ってもいい事はありませんよ』

 

 緑谷は”首輪”のガイドの指示通りに霊火を抱き上げた。

 霊火の左腕が自動的にほどけて、霊火と緑谷と”箒”を固定する。

 ジェントルが慌てて叫ぶ。

 

「少年!!! 私に手伝えることは何かね?」

 

「ジェントルも一緒に来てください!!!」

 

 緑谷と霊火を乗せて、ドン!!!!!!!!!!!!!!! と、”箒”のエンジンが吼えた。

 緑谷は強烈な加速を姿勢を低くして耐える。『レイ』は緑谷に対してこう続けた。

 

『必要な物をリスト化します。無菌環境、マイクロサージャリー器具、専門の内視鏡、吸引・灌流装置、止血機器、麻酔薬、抗生物質、生理食塩水、縫合糸。ああ、手術用顕微鏡は”私”の拡張視覚で代用します』

 

「マイクロサージャリー器具って何!?!?」

 

『極めて細く繊細なメスやハサミ、ピンセットなどです。眼球内の異物を除去するために使います』

 

「でもそんなのどこで手に入るの!?!?」

 

『奪うか買うか作るかの三択です。私のお勧めは”個性”にモノを言わせた盗難ですが……』

 

「買うか作るかにして!!!」

 

『交渉の時間はありませんのでぼったくられますよ。それに、どちらにせよ売る側も買う側も犯罪です。この国では無免許の医療行為自体が違法なのですから、窃盗と大差ありません』

 

「僕が捕まるのはいいけど作るのは!?!?」

 

『『創造』の八百万百がいれば、或いは。しかし彼女が何処にいるかは私も知りません。どうやら2人いるとかいう情報も入っていますが……いいえ、気にしなくていいです。”買う”方向で考えましょう』

 

視界に半透明の線と図形が大量に展開され、無菌環境の構築に必要な物がリストアップされる。

手術に必要な器具の所在地もマッピングされていく。やはり大半は病院などの医療施設に集中しているようだ。

 

『今の日本は病院が全滅に近いです。廃墟と化した病棟内から拾い集めるか、そうでなければ持ち主から買い集めるのが現実的でしょう』

 

 ラブラバの端末が着信音を鳴らした。

 

「来たわ!!! 私の端末に送られたリスト通りにお買い物すればいいのね!!」

 

「それでは不肖、このジェントル・クリミナルも協力しよう!! この私に任せたまえ!!!」

 

「ありがとう『ジェントル』、『ラブラバ』!!! 後で現地で会いましょう!!! 僕はまず霊火さんを休ませられる環境を探します!!!」

 

『一応言っておきますが、私の造り主は非常に身体が弱く、おまけに麻酔が効きにくい体質なので手術は難航します。そもそもご主人様は、殻木霊火の眼球にメスを入れることができますか? 少し想像すればご理解いただけると思いますが、相当精神的にキツいですよ。外科手術とは、ある意味で合法的な傷害行為です。訓練を積んでいない素人ができることではありません』

 

「で……出来る! 僕がやらなきゃ!」

 

 その会話の内に、緑谷たちは本州に辿り着く。

 霊火の声を持つAIは、楽し気に付け足した。

 

『その意気や良し、です。まあご主人様の手元が狂ってトドメを刺すとかいう展開にならなければいいのですが』

 

「怖いこと言わないで!?!?!?」

 

――――――――――――

 

▶アクシデント発生より23分経過

 

「新品のシーツ、アルコール消毒液、包帯……あっ、発電機!?」

 

 煌々と照明のついた24時間営業のディスカウントストアにてジェントルとラブラバの二人が忙しく駆け回っていた。

 時間は深夜だが店内には疎らに買い物客が残っている。慌ただしくカートを押す二人は、大騒ぎしながら店内を駆け回っていた。

 

「ラブラバ、次は何だ!?」

 

「折り畳みベッド!! あと簡易ライトと延長コード、発電機の燃料も必要よ!!」

 

「あの少年、私が人力で運ばないといけないのを忘れてないかね!?!? 引っ越しの量だぞ!?!?」

 

 怪盗紳士は燕尾服を翻して次々と棚から商品を掴み取っていく。

 ラブラバが追加で叫んだ。

 

「アルコール系消毒液は全部まとめ買いよ!! ほら、棚の下に大きいボトルがあるわ!!」

 

「……ジェントル・クリミナル、この程度で音を上げはせん!!」

 

 カートがギシギシと悲鳴を上げた。

 すでに新品シーツが何袋も積まれ、バスタオル、使い捨て手袋、箱詰めのマスク、さらには工具類までが山のように載っている。

 

 ラブラバの端末が短く「ピッ」と鳴り、画面に新たなリストが追加される。

 

「今度は……滅菌ガーゼ、縫合糸、それから……え!? 料理用の圧力鍋!?」

 

「な、何故に圧力鍋!?」

 

「リストには『簡易滅菌に使える』って注釈が……」

 

「……なるほど! ではその通りに!!」

 

 そうは言いながらも首を捻る二人は、調理器具売り場に駆け込んで巨大な圧力鍋を二つ抱えた。

 

「ジェントル!! 発電機は!?」

 

「防災器具のコーナーに!!!」

 

「それが9台必要みたいだわジェントル!!!」

 

「あの少年は何をする気なのかな!?!?」

 

「多分手術器具とか冷房とかを動かすのに必要なのよ!!」

 

 二人は息を合わせて発電機をカートに積み上げる。

 相方が重量オーバーのカートをガタガタと派手な音を立てて進めるのを見て、ラブラバは決心した。

 

「……運搬する時には私の”個性”を使うわ、ジェントル」

 

「そうするしかないだろうな。しかしラブラバ、キミはあの少女に随分と肩入れしてないかい?」

 

「あの子、何か他人って感じがしないの。好きな男性の為ならなんでも差し出せちゃう辺りにシンパシーを感じているのかしら」

 

「なるほど、私にとってのキミがそうであるように、彼女が少年の”ファム・ファタール”という事か!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「ジェントル、”ファム・ファタール”は男性を破滅へと突き落とす悪女よ? ここは”ミューズ”とかの方が適切じゃない?」

 

――――――――――

 

▶アクシデント発生より23分経過

 

 夜の闇を緑谷は”浮遊”で翔けていた。

 頬を打つ風は刃物のように冷たく、眼下では街路灯が背後に流れていく。

 

 傍らに霊火の姿はない。

 今は安全な場所に寝かせているが、彼女の目には金属片が突き刺さったままだ。

 あの苦しげな表情が脳裏に焼き付いて離れない。”首輪”に言われるがままにあれ程の大怪我をしている霊火を置いてきてしまったが……。

 

「霊火さん……本当に大丈夫なのかな。あんな場所に一人で……誰かに見つかったりしたら……」

 

『外敵からの襲撃を懸念しているのであれば、その心配は無用でしょう』

 

「どうして?」

 

『何故なら私の造り主に脅威が接近した場合あの”箒”が自動で迎撃するようになっているからです。戦車すら一刀両断に焼き切るアセチレンバーナーを自由自在に振り回す空飛ぶ殺戮マシーンに、喧嘩を売りたい人はそうそういないでしょう』

 

「あの箒にそんな物騒な機能が!?」

 

 とんでもない話だった。どちらかというと霊火よりも鉢合わせた一般人が心配だ。

 色んな意味で早めに霊火の元に帰ろうと決意を固める緑谷だが、ここで霊火の惨状を思い出しつい弱音が漏れてしまう。

 

「……もし、僕が戻った時……霊火さんが、もう……」

 

『彼女の状態から予測するに生命活動の限界はあと30分程でしょう。いかに迅速に医療器具を調達できるか、時間との勝負です』

 

「30分……」

 

 無機質で淡々とした『レイ』の声が、逆に心臓を締め付けるように緑谷の焦りを掻き立てる。

 

「……やっぱり、お金を払ってでもお医者さんに診てもらうべきじゃないか?」

 

『その提案は賛同しかねます。理由は主に二つ。第一に、現在の医療インフラでは物資が絶望的に不足しています。大金を積んで手術にこぎつけようにも麻酔が足りないから始められない、といった事態も十分に考えられます。我々で金にモノを言わせて必要な器具や薬品を完璧に揃えてから、手術に臨むのが最善です』

 

「……二つ目は?」

 

『物資不足は手術そのものの難易度を跳ね上げます。並の外科医ではまず失敗するでしょう。私の補助を受けるご主人様が執刀する方が、成功率は遥かに高いです』

 

「”首輪”をつけた一般人の方が本職のお医者さんより手術が上手くなるの……? 霊火さんの技術力って一体全体どうなってるの……?」

 

 ――――――――

 

▶アクシデント発生より314分経過

 

 

「う……あ、あれ……?い、痛たたたた……!」

 

 意識が浮上すると同時に、右目に信じられないほどの激痛が走った。

 顔全体が腫れ上がっているような感覚もある。

 

 鼻をつくのは消毒液の鋭い匂いだ。しかし、涙で滲む視界で辺りを見てもそこは病室や手術室ではなく、絵画や彫刻がガラスケースに並べられた美術館のような場所だった。

 

「……どこ……?」

 

 周りを見渡そうとして霊火は自分の視界が左半分しかないことに気づいた。

 右側が30度ほど欠損しているのだ。さらに、無数の生命維持装置から伸びるケーブルや針が、自分の体に繋がれているのが見えた。

 まだ覚醒しきらない頭で霊火はぼんやりと考える。頭にモヤがかかったようなこの感覚はおそらく麻酔の影響だろう。

 

(美術館……?)

 

 彫刻や絵画が並ぶその光景は、そう解釈するしかない。しかし周りの医療器具とはあまりにミスマッチな建物だった。

 

 霊火が横になっているベッドのフレームは新品で、シーツも清潔だった。

 しかし、それは病院のものではなくディスカウントストアの値札がついたままのキャラクターものだ。

 

「……あ、あれ? いったい何があって私はこんな所に……痛っ!」

 

 再び、顔の右半分に強烈な痛みが走る。

 霊火は体をぎゅっと縮こまらせて痛みをこらえ、泣きそうになりながら目を閉じた。

 

「なんなの、ここ……。本当に、なんなの……」

 

 寂しかったし、心細かった。

 目が覚めたら知らない場所にいるというのは女性にとって最も身近で悍ましい恐怖だ。眠っている間に何をされたか分かったものではない。

 

 霊火はおそるおそる自分の体を確認する。腹部、胸、手足。血の匂いと痛みは残っているが、幸い衣類に乱れはないようだ。

 そっと目元に手をやると、眼帯のようなものがつけられていることに気づいた。更に髪が、黒くて細いリボンで纏められていた。

 

 あまりの不安で霊火がいよいよ泣きだしそうな、その時だった。

 

「霊火さん! よかった、目が覚めたんだね!」

 

 とても聞き慣れた大好きな声がすぐ近くから聞こえた。

 薄く左目を開けると、緑谷出久が部屋に入ってくるところだった。彼の手にはドラッグストアの袋が提げられており、中には洗面器やペットボトルの水、包帯などが見える。

 

「お……おはよう……?」

 

「大丈夫だよ、霊火さん。よかった……本当によかった、目が覚めて! 怪我をする前のこと、覚えてる?霊火さんはサーバールームの爆発に巻き込まれて気を失っていたんだ。あれからもう5時間くらい経つんだけど……」

 

 ――――――――

 

 右目の失明。

 霊火の怪我を端的に説明すると、そういうことだった。

 

「―――島で霊火さんが気を失ってから、僕たちは急いで治療できる場所を探したんだ。でも、どの病院も停電や断水で受け入れ態勢が整っていなくて……。怪我人も多くて、完全にパンク状態だった。それに、霊火さんの怪我があまりにもひどくて長距離の移動は危険だったから……」

 

「う……私データセンターがあるあの島に着いてからの記憶が全くないんだけど……。とにかく、それで私をこの美術館に?」

 

「停電している中で霊火さんの手術をするためには、人目につかず清潔な場所を確保する必要があった。それで、近場にその条件が満たされるのがここしか無かったんだ」

 

 確かに美術館はその性質上、湿度や空調管理が徹底されている施設だ。

 霊火は懸命に状況を理解しようと努めながら緑谷の手を握った。そっと目を覗き込んで、反応を探る。

 

「私の右目、どうなってるの? そこに置いてある使い終わったメスや注射器は何? もしかして、出久くんが……?」

 

「……霊火さんの目に大きな金属片が刺さってて、それを取り除く手術をしないと命が危なかったんだ。……ごめん、霊火さん。僕が、君の眼球を摘出する手術をした」

 

「眼球に金属片……そっか、眼球の摘出までしなきゃダメだったか……。え、じゃあ私、隻眼に……?」

 

「……っ!! 霊火さんが覚えてるか分からないけど、僕と一緒に入ったサーバールームに爆弾が仕掛けられてたんだ。僕は無事だったけど霊火さんは重傷で……。実は爆発の直後は霊火さんもまだ意識があって、サーバールーム全体を凍らせて更なる爆発を防いでくれたんだ。でも、その後すぐに……」

 

 霊火は驚いて首を横に振った。

 島を上空から見た記憶を最後に、その後のことは何も覚えていない。

 人間という生き物は大きな事故に遭った際に前後の記憶が飛ぶことは珍しくないが、まさか自分が体験するとは思ってもみなかった。

 

「え、データセンター自体はどうなったの? サーバーが落ちてた原因は?」

 

「……その話は後でしよう。ヒーローネットワークは復旧できたよ。ラブラバがカメラで内部の映像を撮ってくれてたから、元気になったら見て」

 

 明らかに話を逸らされた。

 緑谷や自分自身から漂う強い死臭から察するに、データセンターは相当悲惨な状況だったのだろう。

 となると、誰の仕業かが気になるが……。

 

「ま、まあ、ヒーローネットワークが復旧したならよかったのかな。いや、全然よくないんだけど……」

 

「……守れなくて、ごめん」

 

「ううん。助けてくれてありがとう。出久くんは本当によくやってくれたよ。……でも、無免許での医療行為は普通に犯罪だから、これは二人だけの秘密ね?」

 

 彼の存在があまりにも頼もしかった。

 目に刺さった金属片の除去と手術などオールマイトにすらできないだろう。オールマイトのパワーと霊火の頭脳を併せ持つ、スーパーヒーロー誕生計画がいよいよ現実味を帯びてきた。

 

「いや、僕だけじゃないんだ。このベッドや医療器具の調達、ここの電源復旧はジェントルが担当してくれたし、手術の時はラブラバが補助をしてくれた」

 

「う……。大きな借りを作っちゃったな。二人は今どこに?」

 

「抗生物質とか輸血用の血液を買いに行ってくれてる」

 

「輸血用の血液なんて今の日本にまだあるの?」

 

「大阪の病院にはあるらしい。さっきも言ったけど、出血がひどい霊火さんを遠くまで運ぶのは危険すぎたんだ」

 

「でも、出久くんには悪いことをさせちゃったね。人の眼にメスを入れるなんて専門的な訓練を受けていないと、執刀する側も精神的にきつかっただろうに……」

 

「『レイ』が丁寧に指示してくれたから、なんとかね」

 

「”首輪”を渡しといてよかった……。まさか、私がそれで助けられるなんてね」

 

 霊火は痛みに耐えながら、小さな声で確認を続ける。

 

「出久くん、麻酔とかメスとかそういうものはどうやって手に入れたの? 眼球の摘出なんて、かなり難しい手術のはずだけれど」

 

「……あまり大きな声では言えないけど、お医者さんから買ったんだ。メスも、電気メスも、電源も、輸血パックも、点眼薬も、全部」

 

「うわ。いくら払ったの?」

 

「ざっと30億円くらいかな……」

 

「うっわ」




助けて良かったのかなあ……?

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