「ん~……?」
大きな木箱を覗き込んで、霊火はわざとらしく首を傾げた。
傍から見れば、年端もいかない少女が初めて見る骨董品に目を輝かせている。そんな微笑ましい光景にしか映らないだろう。
霊火はかなり幼い外見をしている。まあ実際のところは実年齢も9歳なのだが、とにかく華奢で可憐で異形系でもない殻木霊火は基本的に警戒心を抱かれにくく、何かと懐に入り込みやすい。
小さく鼻歌を口ずさみながらどれにしようかと無邪気に目を泳がせるその姿は、霊火が長年かけて身につけた迷彩だ。こうやって一人きりの場面でもついそうしてしまうぐらいには。
その木箱の中は、さながら宝石箱だった。
深紅、琥珀、翡翠、瑠璃。
霊火の目の前の木箱の中には小さな半球が1ダース詰まっている。
どれも磨き抜かれた宝石のように煌き、光を受けて淡く輝いていた。
霊火は首を傾げ、細い指先で一つひとつの色合いを吟味する。
ネイルチップを選ぶみたいな軽やかさで、無邪気に鼻歌を口ずさみながら少女は選ぶ。
(ここは可愛く『C-クリスタル』? 攻撃的に『F-ルビー』? 豪華かつ豪勢に『A-ダイアモンド』……? でもなあ……)
非常に悩ましい場面だった。
木箱の中の宝石は、『魔眼』だ。霊火自作の”個性”機械である。
その全てが『Class:1』。それ単体では機能しないが、人体の眼孔に嵌め込んで脳に接続する事で超常を発動する仕組みとなっている。
「うう……全部試したい……!! 日替わりで付け替えるか……? 『抹消』が手に入っていればなあ……!! う~ん……今日は……」
透視能力に未来視過去視千里眼暗視、熱線に念動力、石化幻覚洗脳魅了。
あくまで傾向としてだが、『目』が起点となる”個性”は『視界に収めていれば発動する』モノが多く、発動条件の緩さ故に扱いやすい。因みに『射程無限で解除不可、常時発動型の石化』辺りの世界が滅ぶ凶悪な”個性”が無視できない確率で出現し始めるのはこれから50年後ぐらいの話だ。
霊火はその扱いやすさに目をつけて、前々から『魔眼』シリーズの作成には力を入れていた。あくまで『絶滅』後のインフラとしての開発であり、まさか自分自身の右目が吹っ飛んで自分で付けることになるとは夢にも思っていなかったが。
「……よし、ここは堅実で大人っぽく、『M-アイアゲート』。これにしよう」
そうと決まれば後は早い。
白と黒の年輪状の模様を持つ『魔眼』を選び眼孔内に装着。
木箱は『影収容』で隠蔽。こんな危険物を部屋に置いておけない。
そして次にするべきなのはメイクだ。
指先に細かな化粧道具を握りしめ、眉間にしわを寄せ首を捻る。
「ん……んんん……?」
自身の鏡像を見ようと努力はしてみるものの、『死因』の反動で霊火は自分の顔を認識できなくなってしまっている。ここでいくら鏡を見ようとも、主観的に視認できる目や口は茫洋として位置も色も定まらない。
とてもではないが、化粧などできたものではなかった。リップを塗ろうにも唇は何処から何処まで続いているのかすら分からない感じだ。
(……『サブノーティカ』にいる間は、メイク専用の『Belle』に任せれば何とかなったんだけれど、あんな大型機材をここに持ち込むわけにはいかないからなあ……)
あのシェルターは正真正銘霊火の切り札の為、既に『潜行』させてある。
霊火が嫌がるため緑谷はそうしなかったが、彼がもしあのシェルター内にある『FACTORY』と書かれた扉を開けば、ダイレクトに霊火の正体に勘づいたはずだ。
メイクアップを諦め、少女は天を仰いだ。
周囲を見回してみると、部屋は書斎めいた雑然さで満ちている。
本棚には技術書が積み重ねられ、大型テーブルには開いた雑誌や流行りの推理小説が所狭しと並べてある。壁際には背の高い衣装箪笥が複数鎮座し、その向かいに無理やりベッドを押し込んだせいで、自由に歩き回れる空間はほとんど残っていない。
「……部屋がもうちょっと広かったら良かったんだけれどなあ」
霊火がいるのは雄英高校敷地内、校舎から徒歩五分の位置に建設された学生寮だ。生徒の安全を確保するために急遽導入されたこの建物の名は『ハイツアライアンス』。
地上五階地下一階建てで、ヒーロー科各クラスが一棟に入寮する規模だ。生徒は一人につき一部屋があてがわれ、エアコン、トイレ、冷蔵庫、クローゼット付き。ついでにペット、リフォームも可となっている。
しかし、生粋のお嬢様である霊火にしてみれば、少し部屋が狭いというのが正直な感想だった。特に収納スペースが足りない。霊火は洋服が大好きなので、ウォークインクローゼットが三つぐらいは欲しいというのが本音だ。
「隣のお部屋、使わせてくれないかなあ…………まあ、ダメだろうな……」
なおも霊火は鏡の前でしばらく格闘していたが、結局メイクはほどほどで切り上げた。
霊火は元々超可愛い(断言)ので、ノーメイクでも一応問題は無い。今日は緑谷に会う予定も無いし。
その代わりにクローゼットから比較的フォーマル寄りの服を選ぶ。黒を基調にした長袖で、足元まできちんと隠れる落ち着いたデザインのワンピースだ。
さらに、チェーン付きの縁無し眼鏡をかけると、全体の印象は一気にスマートで洗練されたものになる。
「……しまった、これじゃレンズのギミックが正常に機能してるか自分では分からないな」
霊火の右目は摘出されている。
そして『魔眼』は、やはり見た目が良くない。その対策のため、この眼鏡のレンズを通してみると自然な人間の目に見えるような仕組みとなっているのだ。一応コンタクトレンズ版もあるが……。
まあ霊火自身ではこの機能の効果が実感できないため、誰かに確認してもらう必要があった。
「思った以上に面倒だな、コレ。自力じゃ化粧すら出来ない……」
流石に対策を考える必要があった。偶にならまだしも、女子高生がノーメイクなどあり得ない。
ドアを開けて廊下に出る。
三階のフロアはひっそりと静まり返っている。しかし人影がないのは当たり前だ。何しろこの建物にはまだ霊火しか入居していないのだ。
足音だけが壁と床に反響していく。
そのままエレベーターまで歩き、乗り込む。軽い振動と共に扉が閉まり、数秒の沈黙を挟んで一階に到着する。
開いた先に広がる共用スペースはとても開放的だ。ソファがいくつも並び、壁際には大きめのテレビ。奥には共同の風呂やシャワーに繋がる廊下があり、住人たちが自由に使えるようになっている。
……因みに霊火が他の生徒よりも一足早く入寮しているのは、一人暮らしをしていた霊火の自宅が暗殺未遂の時に爆破されてしまって住居が無いからだ。
「……………さあて」
雄英高校は全寮制に移行するにあたって、生徒たちの家庭訪問を実施するとのことだ。
今日は霊火の家庭訪問日。今の霊火には保護者と言えるような大人がいないため、先生方と対話するのは霊火自身だ。
――――――――――
面談に来たオールマイトに対して、霊火はこう言った。
「全寮制には賛成ですよ。部屋も爆破されて住む場所に困ってましたから」
新築特有の建材の香りがまだ残る、ハイツアライアンスの共用スペース。磨き上げられた床は窓から差し込む陽射しをやわらかく反射し、置かれたソファやテーブルも新品らしい艶を帯びている。
広々としていながら生活感の薄い空間なのは、まだ入居者がほとんどいないからだろうか。
その中央――ソファの端に、八木の生徒がちょこんと座っていた。
黒いワンピースに、チェーン付きの眼鏡。
極めて華奢な体躯に宿る静謐さは、愛らしい子供というより精巧に造られた人形を思わせる。
その人形が、感情の読めない目で八木をじっと見つめた。
「ここに来る途中にも謎の弓使いに襲われましたし、殺害予告は毎日山ほど届きます。雄英が安全を保証してくれるなら、大歓迎です」
教員――八木俊典は、あまりに淡々と語られる悲劇に言葉を失う。
ワンテンポおいて、絞り出すように声を出した。
「そうか……。それにしても殻木少女、こうして無事に会えて本当に良かった。実のところ、“ピースキーパー”制度が施行されてから、私たちは緑谷少年と君が本当に心配でね」
「……ああ、そうだった。報告を忘れていましたね」
少女はメガネに指先をかけ、すっと下へとずらす。
光を受けてあらわになった右目は、レンズ越しには隠されていた異質さを放っていた。
――そこには、白と黒だけで描かれた無機質な眼球があった。
生きた瞳が宿すはずの温度も、濡れた光もなく、ただ造り物めいた冷たさだけが八木を見つめている。
「な、なんだそれは!? 殻木少女、その目は……!」
「活動中に失明しました。詳しい経緯は後ほど。まあ件の活動中の私たちは活動内容もあって相当グレーに近い側だったので、色々と伝えづらい所はありますが……」
八木は絶句する。胸の奥を万力で締め付けられるような痛みが走った。
義眼。精巧な、作り物の瞳。
彼女が片目を失っているという事実が否応なく突きつけられる。
自分は雄英高校の教員だ。一人の生徒を預かる、責任ある大人だ。
オールマイトには、彼女の身の安全と心の安寧を守る責任があった。しかし、結局はまたしても――。
「……すまない、殻木少女。私は今回も、君を守ることが出来なかった」
「んにゃ、雄英高校が禁止している活動を強行したのは私達です。これは自己責任ですし」
左腕も右目も父親さえも失ったというのに、人形に悲壮感はない。
強がりではなく、本当に気にしていないように見える。
八木が出会った頃と比べても無感情になった少女は目を薄っすらと細め、どこか皮肉な笑みを浮かべた。
「それより我らが担任の先生は来ないんですね。やらかしたことがアレなので普通に除籍だと思ってましたが」
「……我々は君を外に出すのは危険だと判断した」
「なるほど。建前はそういうことにしておきます。トップヒーロー級の戦力を手元に置いておきたい”誰か”がいるのかなあとは薄々思っていましたけれど……」
八木は言葉に詰まる。
少女は面白そうに目を細める。
「八木さんが気に病む必要はありませんよ。最近の日本政府はどこかおかしいですし。私や出久くんにプロヒーロー資格を配った背後でどんな政治的意図があったのかも気になりますけれど……八木さん、知ってるんでしょう?」
「……今は答えられない」
「立場ある大人は大変で窮屈だ。元トップヒーローともなれば、発言内容一つ一つに責任が伴うから推測を交えたらダメって感じです?」
「もう少し調べて、確信を得たら君たちにも話すよ。私も、最近の公安委員会や警察の動きには色々と気を配っている」
「へえ、貴方程の方でもここまで慎重になるなんて、いつでも本当の意味で無敵なのはヒーローでも敵でもなく権力そのものですねえ。えっと……『『リヴァイアサン』は国家と呼ばれているが、実は一種の人造人間に他ならない。自然の人間よりも巨大かつ強力であり、自然の人間を守る事を任務としているところに特徴がある』でしたっけ?」
「……ホッブズかな? ……そうだな。もしかしたら君には少し、この学校で不自由を強いることになるかもしれない。外出は制限され、付き添いが必須となる可能性は高い」
「それは特に問題じゃないです。 他人の手で押し込められれば牢獄ですが、自分の意思で入れば快適な引きこもりライフですから」
霊火はさらりと肩をすくめ、続けた。
「私は最初から雄英に、モラトリアムを求めていました」
八木が目を瞬かせる。
急に話題が変わったように見える。
しかし霊火の中では話は繋がっているようで、滑らかにこう続けてきた。
「子供でも大人でもなく、働かなくても生きていける猶予期間。テストに追われたり、友達と写真を撮ったり、ときどきバイトしたり――そんな『ありふれた学生生活』が欲しいです。プラスの英雄でもマイナスの戦犯でもなく、折寺中学のモブAに戻りたい」
「……そうか」
「私はもともと出久くんについて来ただけです。彼みたいに“何者かになりたい”わけじゃない」
霊火は「意識の高いヒーロー科でこんなことを言うと大変顰蹙を買うので自重していますが」と前置きして、表情を変えずに続ける。
「
少女はそこで、これまでの平坦さが嘘のように、実に愛らしく困ったように眉を寄せた。
「――私は緑谷出久と出会って、彼に恋をしてしまった」
「………良いことだと思うよ」
「彼を夢中にさせたい。でもそれ以上に、彼が『最高のヒーロー』になる姿を、この目で見届けたいです」
少女はほんのり頬を染め、視線を逸らした。
その仕草に、八木は思わず口元を緩める。
「……なるほど。君が危険を冒すのも――」
「ぜーんぶ出久くんのためです。尽くす女なんですよ、私」
ここで一区切り。
殻木霊火はコホンと小さく咳払いすると、いたずらっぽく八木を見つめた。
「全寮制については、概ね伝えたいことは伝えましたかね。色々と怪奇を極めた『悪夢の八月』についての私なりの考察は、後日また詳しくやりましょう。八木さんもクラス中の実家を回らなきゃいけなくてお忙しいでしょう?」
「そうだな……。確かに、回らねばならないご家庭は多いがどれも大切な事だ。君とこうして話せたことは何よりも大事な時間だった。いつもありがとう、殻木少女」
「……これは単なる興味なんですが、家庭訪問で親御さんに「殻木さんのご家庭のようなことになったらどうするんだ!!」とか言われたら、雄英の教師サイドとしてはどう返答するんです?」
父親を民衆の悪意で殺されている霊火が話すと洒落になっていなかった。
この問いに、八木はこう返答した。
「……私たちの落ち度を完全に認めた上で、全寮制こそがお宅のお子さんを守る唯一の方法と伝えるつもりだよ」
「うええ……大変そうですねえ……。それでは八木さん、わざわざありがとうございました」
「殻木少女も体に気を付けて。それでは――」
家庭訪問が終わり、八木は椅子から腰を上げようとした。
しかし霊火から目を逸らしたその瞬間、八木の全身から力が抜け落ちるように膝が揺らぎ、咄嗟にソファの背に手をつこうとする。
「っ……!!」
「ちょ、八木さん⁉」
霊火が慌てたように声をかけてくるが、返答できない。
八木はそのまま3秒ほど動けなかったが、どうにか力を取り戻す。
「すまない……立ち眩みかな? 少し疲れが出たようだ」
「……あんまり無理しちゃダメですよ?」
八木は額に手を当て、苦笑を浮かべる。
右手をこちらに差し出そうと中途半端な体勢で固まっている霊火に頼らず、ソファから身を起こす。
「ハハ、あまり歳は取りたくない物だな!!」
「……まあお体には気を付けて」
霊火は眉を寄せ、心配そうに彼を見上げた。
少女の右目の義眼が、何故かこちらを見ている気がした。
――――――――
”個性”『弛緩』
睨んだ相手を3秒間弛緩させる能力。元の持ち主は万偶数羽生子。
――――――――
そして八月下旬の夏日。
1年A組はハイツアライアンス前に集まった。
「霊火!! 大丈夫!?!? 元気だった!?!? ニュースとかで色々話は聞いていたけど……!!!」
「久しぶりだね切奈。まあ色々あった八月だったよ……」
義腕の説明をするのが面倒なので、今の霊火はシャツの左袖を結んでしまっていた。
あまりに痛々しい姿に取蔭切奈は言葉を詰まらせる。
「霊火ちゃん!?!? それ大丈夫なん!?!?」
「霊火ちゃん!」
「殻木!!!! お前ニュースではあんな事が――」
切奈の声に気づいた他のクラスメイトたちも次々と集まってくる。
彼らの視線は、霊火の空になった左袖に注がれていた。誰もが心配そうな表情で、何と声をかければいいのか分からない、そんな戸惑いが空気に満ちる。
……霊火がギガントマキア関連で強いバッシングを受けたり、一度は全国指名手配されたり、霊火の父親が暴徒と化した民衆に殺された事はニュース等で報道されているので、彼らも霊火に触れづらいのだろう。
逆の立場なら霊火だってどう話しかければいいのか分からない。
(……右目が吹っ飛んだ事を伝えたらお通夜ムード一直線だな。しばらく黙っていようか……)
そっと眼鏡を持ち上げて、義眼を見えないように調整する。
義眼の見た目を調整する特殊レンズの効果は、当然ながらレンズ越しにしか意味がない。眼鏡の縁の上や横から直に目を見られた場合隠蔽が出来ないが、そこはパーソナルスペースの調整で気を付けよう。
霊火はぞろぞろと集まってきたA組相手に声を張りあげた。
「ほら、こんなジメジメした天気で外にいてどうするの? 早く寮に入りましょう?」
「あれ? 殻木、相澤先生は?」
「貴方も久しぶりだね回原。相澤先生はご多忙の為不在だよ。なんか敵犯罪が起きたとかで呼び出されていって……」
霊火は肩を竦めてみせた。
「相澤先生の代役として私が皆を出迎えろとのことです。まあ治安も回復しきってないし、まだまだ人手不足って事だね」
「……そういう先生の伝言とかは学級委員長である私の役目なんじゃ……」
「緊急で招集された時に私しかいなかっただけだよ切奈。まあ私なんてプロヒーロー資格持ってるんだし、殆ど先生みたいなもんでしょ。さあさあ早くこっち来る!!」
取蔭が出してくれたパスを活用して、霊火は雰囲気を和らげる。
すぐに歓声が上がった。
「うわっ……めっちゃ綺麗じゃん!」
「本当に私たちが住んでいいの? 高級マンションみたい……」
「広キレー!! そふぁあーー!!」
一気に盛り上がった。
皆の視線が寮の豪華さに移っていくのを見て、傷についてはひとまず触れないでいてくれるのだと霊火は悟る。
「はーい、一階は共同スペースだよ。風呂や洗濯はこのコーナーです。後ここに部屋割りの紙があって―――」
「聞き間違いかな……? 風呂洗濯が男女で共同? 夢か?」
爆音というより、衝撃波が一面に炸裂した。
峰田実の小さな身体は見えないトラックに撥ねられ、今通り抜けたばかりのエントランスを逆進して外部へと高速で吐き出される。
霊火は自身が吹き飛ばしたクラスメイトを一瞥もせずに、自身の右手をまじまじと見つめた。
「やば、つい反射的に。暴力のトリガー軽くなってるなあ私……」
「み、峰田!?!?!?」
「大丈夫だよ上鳴。死んではないから」
霊火は女子生徒の中では峰田に相当甘い方だが(峰田は霊火に対して殆どセクハラしてこないのだ。どうやら峰田の好み云々というより、緑谷に悪いと思っているらしい)、流石に共用スペースを覗かれるのは許容範囲外だ。
というか峰田に関しては『本当に覗く』タイプのため油断ならない。彼は割と真面目に性依存症のクリニックに行った方が良い。性欲というのはつまるところホルモンの分泌のため、増強するにしても減退させるにしても科学的な手段があるのだ。
「まあいいや。他の男子たちは大丈夫だと思うけれど、当たり前だけど男女別だよ。そして個室は2階からです。それでは皆さん、今日は自分の部屋を作ってください!!」
「……流石”ピースキーパー”第二位。おっかねえ……」
そのまま一度解散していく流れとなった。
クラスメイトたちは霊火が配った自分の部屋割りが書かれた紙を確認し、エレベーターや階段へと向かっていく。
霊火を見た時の重苦しい空気はすっかりと霧散し、これから始まる新しい共同生活への期待に胸を膨らませているようだ。
「……霊火、お疲れ様」
「切奈もお疲れ様。互いに一応は無事なようで何より」
「……左腕、痛くない?」
「めっちゃ痛い。右目も痛い」
霊火が眼鏡を挙げて人工物の眼球を見せると、取蔭切奈は相当怯んだようだった。
話しかけに来てくれた学友を怖がらせてご機嫌な霊火は、くすくす笑いで話を先に進める。
「まあA組の皆は”ピースキーパー”に参加しなくて正解だったと思うよ。私レベルでも死に掛けたもん」
「皆、特に轟とかB組の爆豪とか切島は学校を飛び出さんばかりの勢いだったけどね」
「そんな良い物じゃなかったよアレは……大体災害救助のボランティアも決して楽な現場じゃ無かったでしょ?」
「ま、その辺は色々ね。考えさせられる事も多かったよ。でもそれより―――」
取蔭はここで言葉を区切った。
周囲を見渡して、誰もいないことを確認すると囁き声でこう続ける。
「緑谷はどこにいるの? 霊火と一緒に居るんじゃないの?」
「もしかして私たち二人で一つだと思われてる? そんなことないよ?」
「……林間合宿の後からずっと、緑谷と霊火が一緒に過ごしているの知っているんだからね。……いや、どうせ"最後"まで行ったんだろうなって……」
「左腕が消し飛ばされた直後なのに? 流石に痛くてそれどころじゃなくなりそうだけど……」
「それはそうか。ごめん霊火変な事聞いた」
「…………………………もし手を出してくるなら、私は受け入れるつもりではあるよ。まあ彼はそういう事しないから……」
良い機会なので、恋心自体は認めてしまうことにした。
……あんまり彼に気が無い振りを続けていると、クラスメイトの誰かに緑谷を掻っ攫われそうだ。
恋は基本的に先手必勝である。どういう経緯であろうと『誰かが好きな人』にアプローチするのは、女の子の社会では重罪なのだ。
霊火は「あー……」と曖昧に声を漏らして、少し考えるそぶりを見せてから肩をすくめる。
「ほら、出久くんはアレだよ。人助けというか……ヒーロー活動というか……」
「げ、緑谷、マジで外行って敵退治とか救助とかしてんの?」
「帰って来ないのよあの人。プロヒーロー資格を手に入れたからってもうやりたい放題だよ……」
あの調子だと、次のヒーロービルボードチャートでは余裕でトップ5入りしそうだ。強すぎる。
「……切奈は、私たちがプロヒーロー資格手に入れたの、ズルいと思う?」
「あのギガントマキア戦や”ピースキーパー”での実績を見せられたら、そりゃプロヒーロー試験やらなくてもいいんじゃないとしか……。クラスの皆、大体同じ意見だよ」
「そう解釈してくれるなら嬉しいけれど……」
世間に何を言われようと霊火は気にしないが、クラスメイトに文句を言われたらいくら霊火でも結構傷つく。
だからこの回答にはホッとした。
それなり以上にA組に愛着がある霊火(自覚無し)
あと緑谷を抜きにしても、クラスメイトとの共同生活をとても楽しみにしている側面があります
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