殺人現場より、愛をこめて   作:トリスメギストス3世

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009:入学試験

 殻木霊火、通称は『検死官』もしくは『彼岸花(アマリリス)

 

 『どんな死因でも必ず特定し、秘密を暴く』という異能を持ち、加害者の特定や追跡、口封じされた秘密の確保、行方不明者の死亡確認などを得意とする専門家。

 ただ、実は黒霧から依頼されたトガヒミコの追跡案件のような、『依頼された人物を追いかける』タイプの探偵仕事は基本的にあまり受けない。

 そもそも闇の住人たちは欲しい情報を手に入れたら平気で口を封じに来るから色々怖いのだ。ハッキリ言って商売にならない。

 だからあのような依頼人と対等な関係で取引するのはあくまでレアケースだ。黒霧の依頼は兄貴分への情で受けたようなものである。

 

 そして実際のところ彼女の(ヴィラン)としての本質は全くの別にある。

 

 彼女の本業は脅迫だ。

 まず、未解決・未発覚の殺人事件を収集し、解析。『死因』とリアルの両方から加害者のあらゆる情報を調べ上げる。

 例えば遺産目当てに夫を毒殺した若奥様、例えば学生時代にいじめで誰かを自殺させた芸能人、例えば政敵を殺し屋を雇って謀殺した政治家、例えばうっかり一般人を殺したヒーロー、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば。

 

 そんな人物の、世間に公表されたら一発で人生が終わる破滅的な急所を握って加害者を縛り付ける。

 いつ(When)どこで(Where)誰が(Who)何を(What)何故(Why)どのように(How)、殺したかを完全に洗い出し、私は全て知っているぞと匿名で送り付け、心の芯を叩き折る。 

 それで一度服従させてしまえば後は容易いものだ。金でも、情報でも、何でも、どんなものでも差し出してくる。

 

 この段階まで行くと霊火としては殺人犯(ターゲット)が警察に捕まってしまっては損なので、本当に捕まってしまわないようにアフターサービスでプロ仕様の本式の証拠の隠滅まですることもある。

 すると、今度は加害者(ターゲット)が霊火に感謝するようになる。

 殆どの殺人犯は警察に捕まるよりも、姿の見えぬ脅迫者に屈することを選ぶのだ。もはやWINWINの関係である。

 

 それでも反抗してくる奴には容赦しない。その場合警察に情報を渡すのはとびっきりの恩情措置だ。

 大抵、他の敵団体に情報を売ることになる。その後のことは霊火は関知しないが、大体の加害者は『検死官』に搾取されていた時代は天国だったと後悔することになる。

 『検死官』は極めて悪質で凶悪な敵ではあるが、残虐さに関してはもっと上の連中がたくさんいるのだ。例えばドクターとか。

 

 何故、霊火がこのような稼業をしているかというと半分は金のためだ。どの時代でも研究は何かと金食い虫だ。

 

 そしてもう半分は趣味だったりする。加害者を脅迫する下りはまだしも死因の収集自体はそもそもが面白いのだ。

 人間死に方が全てとはよく言われるが、実際どんな凡人でも死ぬときにはドラマがある。

 作り物の話が載った本を読むより、臨場感がある映画を見るより、『死因』こそが圧倒的に生で強烈なストーリーなのだ。

 

 そんなわけで霊火の趣味は死亡現場巡りである。

 悲劇の場所を見て回っていろんな死にざまを集めて悦に浸る史上最悪のスタンプラリーが彼女の癒しなのだ。

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

(まあ手に入れた鬼火を一つ一つ脅迫の道具に使ってたら身が持たないから基本は見て見ぬふりなんだけどね……)

 

 大切なのは加害者に守るべきものがあるかどうかである。例えば家族とか。

 

 そんな最悪なことを考えながら、ビルが立ち並ぶ通りを霊火は黒い傘を差して歩いていた。

 

 冬の冷たい雨音が耳に響く。

 アスファルトは濡れて光り、通行人たちは皆足早に行き交っている。霊火も黒いコートの襟を立て、少し身を縮めるように歩を進める。

 

(流石に今日はやめた方が良かったかな……寒いし濡れるし……)

 

 片手でスマートフォンの画面を開き、目的地までの経路を確認する。雨に濡れないよう傘の下で慎重に画面を操作しながら、霊火は地図を眺めた。

 今日の目的地は10年以上前の事故現場だ。当時それなりに話題になった事故なので特定は容易で、裏の記録に頼らずともネットで調べるだけで容易に場所は分かった。

 

 吐く息が白く凍る。ここまで寒いと雪にならなくて良かったまである。

 そもそも学校をさぼってまで遠出する価値があったかどうか、自分の判断に自信がなくなってきた。

 明後日は雄英高校の入学試験という日に無理する必要はなかったかもしれない。

 

 そんなこんなしているうちに、目的地に到着した。

 

 ビルの谷間にある、なんてことのない建物の一角。

 十年以上の時が流れ、当時の面影は全く残っていない。

 それでも意識を集中すれば霊火には確かに感じ取れた。この場所に染み付いたかすかな死の気配を。

 

 左右を素早く確認する。通行人の姿はまばらだ。冷たい雨が静かに降り続ける中、霊火はそっと片手をかざした。

 

 一瞬白い光が発生し、すぐ消えた。

 数秒とかからない出来事だった。誰にも気付かれることなく、霊火は静かに傘を持ち直す。

 

「…………………………へえ」

 

 前言撤回。

 なるほどこれは、学校をさぼるだけの面白さはあるかもしれない。

 

―――――――――――――――――――――――――― 

 

 雄英高校。入学試験日。

 

 オールマイトやエンデヴァーといった超有名ヒーローを輩出してきた日本一の英雄養成機関だ。

 ヒーロー科に関しては例年、倍率が300倍を超える狂気の学校である。相変わらずこの国のヒーロー人気は留まるところを知らない。

 

(……まあ敵発生率が下がった現在じゃもうヒーローなんてやり得だもんね。死のリスクと引き換えのはずの高い報酬が安全に手に入るマジでアホらしい時代だし)

 

 校舎前で霊火は、仮にもヒーロー志望とは思えないやや偏った思想を巡らせていた。  

 殻木霊火は『検死官』だ。

 一端の(ヴィラン)としてヒーロー社会への恨み妬み悪口批判などそれこそ三時間ぶっ続けで語れる程には溜まっている。

 が、そんなことを聞いてくれる人もいないのでヒーロー嫌いの思考は早々に切り上げることにした。

 

(オールマイト先生ねえ……)

 

 今度はドクターの言葉を思い出しながら霊火は首をひねった。

 オールマイトが教壇に立って授業をする。それこそ緑谷など狂喜乱舞するだろう。

 ただ、それはそれで不思議な話ではあった。何故あの平和の象徴はそんな謎の副業を始めるのだろうか。

 

 それに霊火としては、あの化け物は生徒の前に立たせるより敵の前に立たせた方がいいんじゃないかと思わなくもない。

 何事にも適材適所というものがある。名プレーヤー名監督にあらずというやつだ。

 というより霊火がそもそもオールマイトに会いたくない。絶対気が合わないもん。

 

 考えれば考えるほど暗澹たる気持ちになる。普通にヒーロー嫌い過ぎて雄英高校に入りたくなくなってきた。

 緑谷が雄英を目指していなかったらこの場で帰っていたかもしれないほど憂鬱な気分だ。

 

 そんなわけで特に緊張することなくさっさと校門を通り抜け、試験会場に向かった。

 受験生たちが不安そうな表情で集まる中、霊火はただ虚無の表情をしていた。これはこれで緊張しているように見えるかもしれない。

 

「え!? 殻木さん!?」

 

 突然聞こえた声に振り向くと、そこには目を丸くして驚いている緑谷がいた。

 

「え!?!? え!?!?!? えぇっっっっっ!?!?!?!?!? 殻木さん!?!?!?」

 

「やっほ、言ってなかったけど実は私も受けるよ」

 

 死ぬほど驚いている緑谷を見て霊火はちょっと元気が出てきた。

 緑谷も少しは緊張がとけるといいのだけど……などと思っていると新たに知り合いが来た。

 

「……チッ」

 

 爆豪の爆音の舌打ちが響き渡った。

 異常に強い殺意のこもった目で二人を順番に睨みつけると、それ以上何も言わずに立ち去っていく。

 霊火と緑谷は呆然とその背中を見送った。

 

「……出久くんの幼馴染やっぱりちょっと問題ない?」

 

「……かっちゃんはこう……短気なだけだから」

 

「それが一番の問題なんじゃ……?」

 

 している会話があまりにいつもの光景すぎて緑谷も少し緊張が抜けてきたようだった。この会話が日常なのもどうかとは思うが。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 試験会場の指定された席は霊火、爆豪、緑谷の順番だった。広い試験会場に配置された机の中で、三人は見事に隣り合わせになっていた。

 どうやら同じ中学だと席順が近くなるらしいが、この場の空気は信じられないほど重い、というより気まずい。

 

 よりにもよってなんで爆豪が真ん中なんだ。霊火は内心で呟く。

 白々しい蛍光灯の下で、三人の間に流れる空気は凍りつくように冷たかった。

 

 爆豪は両手を組んで前を睨みつけ、その表情は明らかに不機嫌そのものだ。

 緑谷は震える手でノートをめくっている。ページをめくる音だけが、重苦しい空気の中で時折響く。

 あまりの気まずさに耐えきれず、霊火はため息をつきながら教室の前の方を見て虚無になっていた。

 

 苦痛に満ちた待機時間が過ぎると、ステージにプロヒーローのプレゼント・マイクが姿を現した。

 ラジオのレギュラー番組を複数持つ人気ヒーローだ。ヒーロースーツに身を包んだ彼を見て、会場がざわめく。

 

「あ、山田だ」

 

「まさかの本名呼び!?!?」

 

 爆豪を挟んで緑谷から突っ込みが来た。爆豪の纏う不機嫌オーラが一層強くなる。

 

(噂をすれば早速来たじゃん、黒霧の身内)

 

 『ワープゲート』をもつ黒霧の元になった人物は白雲朧という人物なのだが、プレゼントマイクはその関係者である。

 因みに『雲』の元の持ち主も白雲朧だ。世界は狭い。ドクターたち御一行が白雲にちょっかいかけすぎなのもあるが。

 

 そう、一昨日雨の中遠出したのは『白雲朧の死因回収ツアー』だったのだ。

 兄貴分のルーツやこれから行く学校の教師の背景情報なども合わさって実に刺激的なツアーだった。なんなら普通に感動した。

 

 『今日は俺のライヴにようこそー!!!!!! エヴァバディセイヘイ!!!!!!』

 

「……………………………………………………」

 

 壇上で滑り散らかす彼を見つめながら霊火は不思議な親近感を覚えていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 プレゼントマイクが語った模擬市街地演習のルールは割と単純で、

 ①試験会場には1ポイント、2ポイント、3ポイントの三種類の仮想敵ロボットが配置されている。

 ②それぞれサイズも異なり、ポイントが高いほど大きく、倒すのも困難になる。

 ③さらに、ポイント対象外の特大ステージギミックも存在する。

 ④制限時間10分の間に、できるだけ多くのポイントを稼げ

 ⑤妨害行為やアンチヒーローな行為はNG

 といった感じだった。

 

「周りの受験生全員消し飛ばして一位ってことは出来ないんだね」

「殻木さん!?!?」

 

 そして最後にマイクはこう締める。

 

『”Plus Ultra”!! それじゃあ皆、いい受難を!!』

 

 演習会場の移動のため、受験生たちが一斉に動き出す。

 霊火は移動中の人込みの中で緑谷の服の袖をさっと掴むと、緑谷から伝わる困惑の反応を無視して人混みからすこし離れた廊下の隅へと引っ張り出す。

 因みに爆豪は舌打ちをしながら早足で立ち去った。

 

「え?  あの、殻木さん?」

 

 緑谷の声には明らかな動揺が混じっている。それは霊火に連れ出された驚きだけではなかった。

 顔色も優れず、手の震えも隠せていない。試験への緊張が相当なものなのは一目瞭然だ。

 

 元々、緑谷があんまり本番に強くないことは分かっていた。

 同じ中学校のクラスメイトなのだ。これぐらいは予想できる。

 だから霊火は手を打ったのだ。

 

「出久くん」緑谷をじっと見つめる。「ちょっとしゃがんで」

 

「え? あ、うん...なんで…?」

 

 戸惑いながらも言われた通りにしゃがむ緑谷。

 霊火は正面から彼を優しく抱きしめた。

 

「!?!?!????!?!???!!?!?!?!?!?!?!?!??!???!?!?!?!?!??!?!?!?!??!?!?!」

 

「落ち着け~~?」

 

 胸元から言葉にならないほどの動揺が伝わり、思わず苦笑する。

 別に霊火だってそれなりに気恥しいのだがここまで反応されるとむしろこっちが落ち着いてしまう。

 

「うーん……時間もないから手早く言うんだけど、よく聞いてね」

 

「わ……分かった……」

 

 意外と真剣で真面目な調子で霊火が話し始めたからか、緑谷はまだ若干顔が赤いもののショックから立ち直る。

 霊火は「あのさ」と前置きしてこう続けた。

 

「あの形式なら、目についた仮想敵にまっすぐ走って行って殴るか蹴るかしたらそれでOKだと思う。ポイントはいくら頑丈そうでも怯まないこと。仮想敵が今の出久くんが壊せない強度ってことは流石にない」

 

 そんな硬さだと受験生のほとんどが0ポイントで終わっちゃうし……と続けると緑谷は「確かに……」と納得したかのように呟く。

 

「正直想定していた中では一番いい模擬演習引いたと思うよ私たち。その場で即席チームを組んで何かミッションに取り組みなさい系のコミュ力重視パターンとかが来るのが一番めんどかったし、ここはラッキーと思っていこう」

 

 緑谷がこくこくと頷く。

 彼はかなりの理論派なので、変に励ますよりもこういう理屈っぽい何かで丸め込んで納得させちゃった方が効果的なのだ。

 

 彼を開放すると緑谷は顔が赤くなっていたが、ちゃんと自信があるときの表情をしていた。

 霊火は我ながらカウンセリングの才能があるかもしれないとか考えながら髪をかきあげた。

 

「ありがとう殻木さん!! 元気出てきたよ!! お互い頑張ろう!!」

 

「ふーん……」

 

 なんか勝手に納得して立ち去ろうとしている緑谷を、霊火はジト目で意味ありげに見上げる。

 彼は再度混乱したように目を泳がせた。時間もないので霊火はため息をついてこう言った。

 

「私のことは励ましてくれないんだ」

 

「!?!?!??!?!?ご、ごめん!!!!!! 殻木さんも頑張っ」

 

 言葉が急に止まったのは霊火がハグを要求するように両腕を上げたからだ。

 緑谷が完全にフリーズした。

 霊火がわざととっっっても悲しそうな表情をすると、緑谷はロボットダンスのような動きで起動した。

 

「ガ、ガンバッテクダサイ」

 

「……まあ合格にしてあげようか」

 

 ハグはしてくれなかったが、不器用に霊火の手を取って自身の両手で包んでくれた。

 霊火は肩をすくめて最後の確認をする。

 

「おーけー? まっすぐ走って殴るか蹴るかするだけだからね?」

 

「りょ、了解!!!! 殻木さんも頑張って!!!!」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 試験が終わった。もちろん余裕だった。

 

 ヒーロー志望の一般中学生として”個性”は『死因』……の一部機能しか扱えないものの、流石に簡単だ。

 そもそも霊火は対物に関しては無敵に近いのだ。

 問題があるとすれば、一回の死亡で一つしか鬼火は集められず、鬼火は一回で使い切りという破滅的な燃費の悪さだが……

 とにかくこの程度の実技試験で苦戦するようでは、そもそも敵として活動できない。

 

 試験終了後、霊火は校舎のエントランスで手持ち無沙汰に待っていた。が、いくら待てども彼の姿は見えなかった。

 出入口で待機していれば緑谷と会えると思ってたのだが……さては見つけ損ねたかなと霊火が考え始めた時、後ろから声をかけられた。

 

「ヘイガールズ? 試験はもう終わったぞ? ん? あれ? さては……」

 

「あ! ごめんなさい人を待っています」

 

 振り向くと、そこにはプレゼント・マイクが立っていた。

 トサカみたいに立てた金髪とヘッドフォンが特徴的なヒーローだ。サングラスの下の目が興味深そうにこちらを見る。

 

 「Hey! さっきの実技、すっげぇパフォーマンスだったぜ!」マイクは親指を立てながら、にやりと笑った。「それで人を待ってるって言ったか? そいつは」

 

 「すみません、あのぉ……」

 

 今度は女の子の声だった。

 振り返ると多分霊火と同じ受験生、茶髪のボブに丸顔のかなりかわいい子が申し訳なさそうにこちらを伺っていた。

 

「ご、ごめんなさいお話し中……私ちょっとお話があって……」

 

 おとなしそうな外見に反して意外とずけずけと霊火とマイクの間に入ってきて彼女は続けた。

 

「あのぉ……頭もっさもさの……えーっと……そばかすの……え~~~~っと……地味目な」

 

 なんか知っている人の気がする。

 興味をそそられた霊火はひとまず静観することにした。

 

「その人に私のポイント分けるって出来ませんか⁉」

 

「ごめん何があったか教えてくれない?」

 

 霊火は口を出した。

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 夕暮れ時の街を、緑谷と霊火は並んで歩いていた。試験の緊張から解放され、二人の足取りは軽い。

 

「呆れた、あの子を助ける為に0ポイント敵に突っかかったんだ。それで”個性”MAXでぶっ放して骨折⁉ 正気?」

 

「でもホントに危なかったんだよ殻木さん……でもすぐ治してもらえたから……」

 

「だからといって骨折し放題ってわけじゃないでしょ……」

 

 つまり話はこうだ。

 緑谷は試験開始8分時点まで順調に仮想敵をなぎ倒していたらしい。しかし終盤で0ポイントのギミック大型仮想敵が出現。

 もちろん推奨された通り逃げようとしたがその時がれきに挟まれた受験生を発見してしまい、それを助ける為に0ポイント仮想敵に向かって自損しながら攻撃したということだ。

 

「お人よし……」

 

「しょ、しょうがないじゃないか!! 僕が行かないとどうなっていたか!!」

 

 その助けられた受験生が件の茶髪ボブのあの女の子ということだろう。あっちはあっちで底抜けのお人よしだ。

 なんだポイント分けるって……もしかして雄英高校に入ったら生徒はこのレベルの善人ばっかりなの……?

 

 霊火が内心げっそりしていると、緑谷がそういえば……と前置きしてこう話しかけてきた。

 

「殻木さんはどうだったの? 確か殻木さんの”個性”って……あんまり発動しているのを見たことがないけど……」

 

「中学校の軽い個性訓練ぐらいでしか見せたことないもんね。そんな派手なことやってないと思うけど覚えてる?」

 

「もちろん!! 霊火さんの”個性”は……」

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 

『呪い火』――――殻木霊火

 

 八木俊典はその受験者名簿を見た時、動揺を隠せなかった。そもそも殻木少女が雄英志望だということも知らなかった。

 彼女は去年一年ですっかり見知った顔だったが、確か八木が何かの流れで志望を聞いた時には医療従事者希望といっていたはずだ。

 

 そして何より、八木の記憶でも殻木霊火が何かしらの”個性”を使っていた覚えが全くなかった。

 だから八木も自然にそこまで強力な”個性”ではないのだろうと考えていたのだが……

 

「おい、あの子ヤバいぞ……!?!?」

 

 教員の誰かが零すが、それはこの部屋にいる全員の本心だったと言っていい。

 

 少女が一回指を鳴らすたびに色とりどりの火の玉が一瞬で仮想敵に飛んでいき、着弾と共に破壊する。

 それも炎上、衝撃、切断、圧搾と、様々な方法で仮想敵がズタズタにされる。

 

 射程、火力、正確さ、どれもとっても最強格。

 霊火の視界に入ったその次の瞬間には仮想敵は原形もとどめないほど損壊されてしまうため、他の受験生はポイントが中々手に入らず途方に暮れていた。

 

 八木は再度、殻木霊火の資料に視線を落とす。

 

 ”個性”『呪い火』、様々な破壊現象を引き起こす鬼火を作り出し操る。

 一日にストック出来る個数は5個で、最大ストック数は50。対物ならば確実に対象を破壊できるが、対人だと効果が薄い。

 資料にはこう書かれていた。

 

「確かにロボットの仮想敵相手だと最強に近い”個性”かもしれませんね」

 

 プロヒーローのセメントスが冷静なコメントをする。

 

 残り2分、超大型の0ポイント仮想敵が現れる。

 ビルよりも大きい鉄の塊。ギミックみたいなもので回避推奨。

 誰しもが逃げ惑う中で少女はただ指を鳴らした。ただそれだけだった。

 

「……0ポイント仮想敵、6基、全損しました」

 

 圧倒的。あまりにも凶悪な制圧力。

 

 殻木霊火が新たに生み出した鬼火が、強烈に不吉な青白い光を放っていた。




 『死因』は”個性”届けに出されていません。検死官としての生命線なので。
 代わりに『呪い火』という名前で出されています。

 一回の鬼火を手に入れるのに一回の死亡原因を集めなければいけない極めて下準備が大変な類の能力です。入試では無理して大盤振る舞いしました。
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