シスターフッドの不良神父が生徒の情緒を掻く回したい話 作:ああああああ
〇月×日
俺は記憶喪失らしい。俺を拾ってくれた先輩曰く何処にも俺の痕跡は残っていなかったそうだ。聞き込みをしても誰も覚えていないと。外から来たのかもしれないと先輩が言っていたがヘイローがあるのでそんなわけないと思う。
〇月×日
取りあえず週一で日記を書くことにした。願わくばこれが俺の生きた証になることを願う。
〇月×日
先輩がトリニティ総合学園に進学し、俺も来年には進路を決めないといけない。しかし進路を決めろと言われても、やりたいことは特にない。どうやら俺の神秘は強力らしく喧嘩なら早々負けないのが数少ない特技だ。明日、先輩に相談してみよう。
〇月×日
部活を作った。『相談部』というもので学校問わず相談を受け、その解決を手伝うというものだ。先輩は言った。『日記を書くくらいなら記憶に残る生徒になりなさい』と。だから人と接する部活を作った。
〇月×日
キヴォトスには男が少ないので、そもそも男の俺に相談しにくいという問題が発覚した。先輩に相談したら見た目を変えたらいいんじゃない?と言われ、元々長かった髪をさらに伸ばしつつ、喉仏を隠すチョーカーをつけ中世的な格好をするようになった。男の娘スタイルという感じだ。
〇月△日
初めての依頼が来た。匿名の相談で『嫌な思い出を紛らわせる方法を知りたい』とのことだった。聞けば記憶力がかなり良いらしく嫌な思い出もすぐに思い出せてしまうらしい。俺からの回答は『楽しい思い出で塗りつぶしましょう』。居場所を聞き出し半月ほどその生徒と過ごして『決して色褪せないいい記憶を提供して見せる』と大見えを切った。一応満足してもらえた。
〇月×日
ゲヘナの情報部に付けられていたので盛大に喧嘩した。アホみたいに強い女が混じっていたけど誰なんだ。
〇月△日
最近は結構依頼が来る。わりと忙しいのだ。だから最近は先輩と会えていないな。何をしているんだろう。
〇月×日
先輩が自殺した。
●月×日
先輩の後を追って、トリニティ総合学園に入った。部活は即座にシスターフッドを選択し、その情報網を利用して相談部を細々と続けている。グレーなことをやるときはシスター服を着て変装し、普段は神父服を着ることにした。しかし、もう相談部を公式に続ける気はない。だって、理解したから。先輩が教えてくれた。記憶の残り方を。
ヘルメット団の不良生徒達は息を切らしながら逃げ惑っていた。
爆音と突風、耳鳴りが彼女達を襲う。
逃げ切った先にも爆弾が仕掛けられていた。彼女たちから絶叫が響いた。辺りには粉塵が酷く舞っていて、互いに互いを見失っているようだった。
「どうする?リーダー。あれ、相当やると思うけどッ」
「やばいって!」
「痛てえ」
「容赦無さすぎだろ」
泣き言を叫ぶ面々。リーダーの少女は考える。一体どこで間違えたのか?いや、間違いは初めから犯していた。しかし、この状況に陥ったのは、トリニティの生徒を襲ってからだ。服をひんむいて、その写真を撮り、脅すことで金を取っていた。どうやらその悪行がバレたらしい。
いや、ヘルメット団のリーダーとしても、これはやりすぎだと思っていたのだが、同調圧力で誰も止まることができなくなっているのである。
「………迎え撃つしかないだろ!気合い入れろ」
打って出ようとしたヘルメット団の頭上、ビルの屋上に座る彼女は笑っていた。
シスターだ。少なくとも、シスター服を纏っている。恐ろしいほど整った顔立ちを持った少年。誰もが彼を見て、その容姿に注目するだろう。肩まである白銀髪は、常に濡れそぼっているかの様に艶やかだ。赤い眼は虚空を写すようにこちらを見ていない。身体は細く、四肢の先までスラリと伸びていた。
だが、凄みがあった。好戦的な笑みと付けすぎと言われる銀色のピアスがシスターのイメージから解離する。
反射的にその額に目掛けてリーダー格は引き金を引くが、弾丸は少年の携えた分厚い聖書に軽く弾かれる。
「物騒だな」
そう言ってシスター服の少年は彼女らに向かい飛び降りた。
着地と同時に手に持っていた聖書でリーダー格の少女を思い切り殴りつけた。
銃弾などより遥かに威力があり 轟音と衝撃がリーダー格の少女を襲った。そのまま紙のように吹き飛ばされた。
「ッ!!!!!!!!」
何の身動きも取れないまま背中から床に落ちそのまま、道路の反対側まで吹き飛んでいき、仰向けに横たわる。数秒後、えずきながらも立ち上がった少女だったがふらついついる。
恐怖した他の少女たちを横目にシスター服の少年が追撃を加えようとゆっくりと歩き出した。
「思い出した………白銀の髪、赤い瞳のシスター!こいつ鮮血聖女」
「その名で呼ばれるの久しぶり。よく知っているな」
「ていうかこいつ聖女のくせに聖書で殴らなかった?」
「何言っているんだ?この世に存在するあらゆるものは見方を変えれば武器になるんだ。聖書ってのは人を殴り飛ばすものだぞ?」
ドン引きするヘルメットの少女たちをスルーし、リーダーの少女がスモークグレネードを投擲する。
「逃げるぞ………!」
「おいおい。逃がすわけないだろ?」
地面を強く蹴り飛ばして大通りの方へ向かう彼女達に瞬時に肉薄した。
またもや銃声が聞こえた。彼女らは振り返らないではいられなかった。幸い、自身にも仲間にも負傷はなく、数箇所で煙がもうもうと上がっているのみだった。
「駄目だぜ?目をそらしたら」
ヘルメット団のリーダーは驚愕で声をだした。
シスター服の少女はすでに通りにいたからだ。くるりと振り返ってから皮肉気に哂ったシスターは呟く。
「祈れよ?神様ってやつが居るんなら救われるかもしれないぞ?まあ、そんなケースは見たことないけどな」
シスター服の少年が構えたのは禍々しい色をしたデザートイーグル。デザートイーグルは輝きを放ち、光を放った。
瞬間、先程の路地裏は一瞬で瓦礫に埋もれ、硝煙の香りが辺りを満たす。
「ハァ………帰るか」
「………リオンさん、やりすぎです」
「そう怒らないでくださいよ。サクラコセンパイ。やらかしたのは俺ではなくて鮮血聖女ですよ?」
鮮血聖女、シスターフット所属2年生のリオンはお説教を受けていた。脅迫を受けていたトリニティ生徒を救うためにヘルメット団をボコボコにしたことではない別の理由である。
それは助けたトリニティの生徒に対する言動だ。
『怖がって声をあげられないならお前はこの先も駄目なままさ。弱虫女』
「傷ついている彼女に対してなぜああ言動をしてしまうのです?彼女は被害者なのは理解しているでしょう?」
リオンはサクラコを睨みながらため息を吐いた。
「分かってるでしょセンパイ、正義実現委員会はああいった場面では動けない。証拠も乏しく助けも求められていない状況じゃ何もできないんですよ。正直俺が動いたのだってシスターフットとしてはよろしくない。だから、架空の存在に変装した。だけど、ダメなんですよ。そもそも、助けてくれが言えないやつは助けられないんです。助けてもらえる奴ってのは助けられる準備がしてあるやつなんです」
教会の長椅子に腰かけ、脚を組み耳に付けたピアスを触る少年はとてもシスターフッド所属には見えない。凄まじい不良シスター否不良神父である。
「だからあんな風にうずくまって泣いているだけじゃやっていけないって言ってやったんです。それの何が間違ってるんですか?」
リオンは席を立ち、サクラコの横を通り過ぎる。すれ違いざまにサクラコが呟く。
「………誰もが立ち向かえるわけではありません」
「なら祈れと?祈っただけじゃ世界を変えることはできないだろ?貴方が一番よく知ってるはずだ」
そう言ってリオンは教会を後にした。