人間殺したら駄目だよ
死なせても駄目だよ
本人の意思もあって初めて結婚出来るよ
上位存在が現実世界に君臨するのは3時間程度あれば良い位だった。
既に各国は人が国を動かしているのではなく、上位存在が動かしている。体制だけ保った中身がまったくの別物になった国家の法律は歪み始めた。
曰く。『人間は死んではならない』
曰く。『人間は上位存在に保護されるべき』
曰く。『上位存在に逆らってはいけない』
そんな世の中になってしまい、人間は上位存在に怯え続けなくてはならない日々を過ごす事になった。
初めは活気付いていた反上位存在へのデモ活動やテロ行為等が数ヶ月後にはもう誰もそんな気を起こさないようになった。
そして、かくして人類は上位存在に保護されたのであった。
そして、それから20年後。数多の事件によって人類補完計画並びに保護法の制定が行われ、若干人類が過ごしやすくなったそんなある日。また一つの事件が起きた。
その事件は一人の青年と淫魔の上位貴族の少女が中心になって起こった事件だった。
「セイくん!!今日も来てあげたわ!!」
「あ、淫魔さん!!おはよう!いつもありがとう!!」
2人はかなり親密な仲で少女が毎日学校へ送り迎えをする程の仲であり、いつも2人は一緒であった。
それは中学校に入っても変わらず、思春期も過ぎて高校に入った頃に青年はバイクに乗り始めた。
「へ〜……それがバイク?」
「そうなんだよ!!やっと免許取れてオヤジがもう乗らないからって譲ってくれたんだよ!!」
「ふ〜ん……そんなのよりワタシに乗れば良いのに………」
青年はバイクに乗ると幼馴染を置いてよく遠出するようになりました。
「………メールしても中々返信来ないし付き合い悪くなったし……全部あのバイクが悪いんだわ…………なんで私こんなに胸が痛いの……?」
徐々にそんな青年の行動に嫌気が差してきた少女。だが彼を悲しませたくは無い為なにも言えずに居ました。
ですが、スマホを弄っているととある昔のニュースを見付けてしまいました。
『バイク事故!?運転していた23歳の男性がトラックの下敷きなり死亡』
「ヒュッ……」
『【バイク事故】またもやカーブ曲がり切れずか?バイクと共にダムの底へ【年々増加】』
「…………」
『【死亡事故】バイク事故の悲惨さ【啓発ニュース】』
段々と沸いていた胸の黒い感情が胸を更に締め付ける。
ニュースを見れば見るほど彼への心配と怒りが湧き上がる。
沸騰しているのではないかと思うほどに彼女の胸の中は熱く、辛く苦しめていた。
「………いや……そんなのいや」
「ただいま〜。ん?あれ、来てたん?」
そんな所に彼が運悪く夜遅い時間帯に帰ってくる。
そこから始まったのは喧嘩だった。
「バイクは危ないって書いてあるじゃない!!こんなのに乗せられないわよ!!」
「正しく乗れば危なくない!!現に事故なんて起きてないし、もしなっても俺の問題だろ?」
「あなたが傷付くのが嫌なのよ!!なんでわかってくれないのよ!?」
「そっちこそ!!もう俺はバイクが無いなんて考えられない……そんな唯一の楽しみを奪う気かよ!?」
「そんなもの!!また新しく作れば良いじゃない!!」
歯止めの無い口論の行き着く先は簡単でどちらかがこの場から去る事だった。
この時去ったのは青年のほうで、バイクに乗って何処かへと夜空の中、猛スピードで走っていった。
少女も喧嘩した心が追い掛ける考えなど許さなかった。
それが、後の事件となる。
青年が出掛けてから数日後。彼女は心配と怒りと嫉妬が渦巻く感情をどうにか抑えつけ、彼に謝ると同時にまた話そうと考えられる程度には落ち着いていた。
だがかなり長い間学校にも来ない彼の姿に嫌な予感が過る。そんな事あるはず無いと恐怖を振り切り彼の携帯電話の番号のコールが鳴る。
ガチャ
「ッ!あ、ねぇ……」
『突然すみません。あなたは彼の関係者でしょうか?』
「うぇ!?え、誰でしょうか?」
だが、出たのは警察と名乗る者。そして、入れ替わりで電話に出たのは……
『もしもし。わたくし、人間専門外科医の◯◯と申すんですが……実は事故で――』
彼は事故に遭っていた。原因は夜道の山道で対向車線から飛び出てきた動物を避けようとしたせいで。
しかし、幸い軽い骨折程度で病院へも自力で来れる程度の怪我ですぐにでも退院出来るとの事だった。
「…………………」
ああ、良かった。その程度で済んで……
なんて、簡単に終わるわけが無かった。
数日後。まだ様子見で入院していた彼の部屋へ彼女がやってくる。
「………キツネを轢きそうになったんだ。俺があの時。感情のままに走ってしまっていたから……」
「……………」
彼は彼女のほうを見ずにこの部屋から見える駐輪場を窓越しに見ていた。
「で、でもな?普通はこういう事は中々起きないんだよ。それにこの位で済んだし、特に後遺症も無いんだ。だから、安心して――」
彼女がどんな顔をしているかなんて、見えるわけも無く。思い思いに言葉を連ねた。
「…………………あのね。私、わかったの。なんで人間は保護するべきかって」
「え?突然何を「黙って」え、うん……」
青年の顔が少女の方へ向く。
彼女の顔は、常に微笑んでおり、少し狂気染みたものを感じた。
「ヒッ……!?」
「何を言っても聞いてくれない。弱くてちょっと数百M落ちただけで死んじゃう………それが人間なの」
何かがおかしい。こんな今の状況に恐怖を覚える。
考えれば理解出来てしまう。彼女は上位貴族で、法律なんて今も昔もすぐに変わってしまう。
上位存在が一声言ってしまえば、それが当たり前かのように法律は変わる。
「だから……危険な事。全部やっちゃ駄目にしたよ。バイクだけじゃない。車も、自転車も、歩く事だって私達が見てないと駄目。食事も喉を詰まらせるような固形物は駄目になったし、働くのも駄目にしたの。まう私達が常に一緒じゃないと駄目な法律………作っちゃった❤」
そんな、雁字搦めに全てやっちゃ駄目だと言われ。ただして良いのは生きる事だけ。
危険な趣味は全てやっては駄目。
趣味だけでなく、前のように生きる事が駄目。
人間保護法の抜け道全部使ったかのような凶悪な法律。
出来るのは、私達の側で一生死ぬことも無い。そんな危険も無い。
許されたのは
「…………………………は?な、なんで?そんなの……そんな法律…………!!?」
上位存在からすれば安全の為に、人間の為になのかもしれない。
だが、それは人間からすれば。
俺達からすれば……
家畜以下の扱い
「お前………お前はなんでそんな事を!!」
理解よりも……いや、理解してもまだ怒りが恐怖を上回る。
普通ならば恐怖して嫌だと嘆く事だろう。だが、彼は違った。
怒りが全身を蝕む。身が張り裂けそうな怒りと悲しみが身体を支配していた。
「全部。君の為だよ」
トドメにこの言葉であった。もう怒りを通り越して何も感じなくなってしまった。
何故なんだろう?こうなって……そんな元凶が前に居るのに………
涙が出てくる。悔しい…?悲しい?もう、なんの感情が自分を支配しているのか、彼にはわからなかった。
俯いてしまった彼を優しく少女は抱き締める。
「大好き……❤大好き❤大好き❤❤大好き❤大好き❤❤❤大好き❤❤大好き❤大好き❤❤大好き❤❤❤大好き❤大好き❤❤❤❤大好き❤❤❤❤❤❤大好き❤❤❤❤大好き❤❤❤❤❤大好き❤❤❤❤❤❤」
耳元で囁かれる甘い言葉。
彼に届いているかは関係ない。ただ溢れるかのように彼女の口から溢れ出る。
それが後の最悪の原因の一つだとは、彼以外知るものは居ない。
退院まで残り数日。
ずっと一緒に居るための準備で彼女は去り、病室には彼一人が残されていた。
「……………………」
ただひたすらに無言になる。
目は虚ろに何も見ておらず、俯いた頭は少しも動きやしない。
「………………………………アァ……」
だが、そんな彼が段々と動き始める。
「………アグッ……………ウゥ………」
枯れたはずの涙が流れ出る。
何も感じなかったはずの脳に感情が雪崩込む。
止められない。止まりやしない感情の土砂崩れに彼は一つの決心をした。
推定死亡時刻 23:15
死亡原因 窒息、脊髄の分裂 即死
場所 503号室の窓の外
メモ 『整備不良による窓の完全開放によって成り立った
遺書と思われる書類があるが、怨念による呪具化現象により、神聖結界内部へ封印作業が行われている。
内容は特記規則に則り記述不可能。ただ……人は身体だけでなく、心も脆く、そして心だけは我々でもどうにも出来やしない。そう思わせる文書であった。
………そんな彼女の事が、少し羨ましいと思うのはおかしいのだろう』
そう、彼は自殺した。5枚の遺書は既に封印され、後に制定され現在の新人間保護法の制定に多大な影響を与えた。
後に関係者である上位貴族淫魔は精神崩壊を確認。遺書による呪いを受けた事もあり現在も生存を確認。
いや、生存なんて本当はしないほうが楽なのかもしれない。なにせ彼女が生きている間、それは地獄にも恐ろしい生き方をしなくてはならないからだ……
この事件から人間にはある程度の自由を決められる権利が無くてはならず、それを人権と昔に倣いそう名付けられた。
彼は遺書の中にはあるものを遺したという。それは彼女にのみ与えられる罪であると。
人権事件遺書記録4
『君と過ごした毎日はとても楽しかった。本当に楽しくて、一緒に過ごせるのが嬉しくて毎日幸せだった。たまに喧嘩したけど、それでも何回でも仲直りしてまた一緒に騒いだりして毎日を過ごすんだろうなって、そう思った。好きだった。大好きだ。今も大好きだ。君のことが世界なんて言葉で抑えきれないほどに。だから、好きだったから……オレはお前を許さない。俺の事を本当に考えてくれていたのなら、こんな事をしてほしくないよって、言わせてよ。君のその大好きは僕の事が好きな自分が大好きなんだ。本当に僕の事を大好きって。そう思うならあの時。どうか、僕の為だなんて言わないでほしかった。最初から出会わなければ良かった。なんなら、僕が産まれてこなければ良い。そうすれば、君にこんな感情抱かなくて良かった。もう会えないって思うと怖いよ。ねぇ、なんでこうなっちゃったんだろう』
死んだら蘇生魔法あるけど彼は助からなかったよ。
彼女は自殺出来ず、死ぬことを許されなくなったよ。
彼はもう、魂すら消えて無くなってしまった存在だよ。
もう、仲直りの無い喧嘩だけが彼女と彼を今も繋いでいるよ。
ifルート書くかもしれん…