キャサリン・ロングボトムという名のジニーと同い年でネビルのはとこの女の子が主人公です。
第一話 ハリーポッター世界にはじめまして
夏のある朝、その日は朝から蒸し暑い風がロンドンのスラムに吹いていた。どこからか据えた匂いに混じって、小鳥の声が聞こえる。
この日は、キャサリン・ロングボトムには特別な朝となるはずだった。
ロンドンのボロアパートにて、一人の少女、キャサリンが目を覚ます。明るい朝日が頬を照らすのに気づいた少女は、すぐさまベッドから飛び起きた。
今日は、待ち焦がれた特別な日になる。キャサリンにはその確信があった。
古くてあちこちに細かいひびが入った鏡の前で、キャサリンは着替え始めた。
小鳥の巣のようになった明るい金髪を梳かし、ポニーテールにまとめる。マグルの古服屋でみつけたキャサリンの瞳よりも暗い青色のT-シャツと緑色のハーフパンツを着ると、鏡を見返す。鏡には、明るい青の瞳と金髪、どこか野性的な印象の少女が立っていた。
キャサリンは笑みを浮かべ、悠々とドアを開けた。
「ママ、もう手紙は来た?」
「おはよう、カーチャ。まだよ」
キャサリンの母、フレイヤ・ロングボトムは、ドアのすぐ向こうのキッチン兼リビングで、朝食の手を止め、苦笑した。
まだ、日刊預言者新聞すら届いていないのだ。もし、今日だとしても、こんな朝早くに届くわけがないだろう。
窓から入ってきた風で、フレイヤの金髪もふわりと揺れる。フレイヤは、キャサリンと同じ色の瞳と髪を持っていたが、キャサリンのどこか野性的な雰囲気ではなく、柔らかでいつも優しそうな雰囲気を持っており、似ているのに対照的な母子だった。
「カーチャ、座って朝ごはんを食べましょう」
母のフレイヤ・ロングボトムの声は、いつもどこか歌うように柔らかい。ロンドンのスラムにある古びたアパートの部屋には、その声だけが不釣り合いなほど優しく響いていた。
フレイヤの杖を振るわれると、コースターからはこんがり焼いた食パンが、棚からはバターとジャム、オレンジジュースがコップに入った状態で出てきた。
キャサリンは、そのことを一切異常だと思わない。なぜなら母は魔女であり、娘である自分も魔女だからだ。
小さなころから母を困らせるほどの魔法と身体能力を持っている自分は魔女ではないわけがないのだ。
そして、今年、キャサリンは11歳になる。
11歳になった魔法族には特別なイベントがある。ホグワーツ魔法学校からの入学の招待だ。
「ママ!絶対に今日だよ。ホグワーツから手紙が来たら、午後はダイアゴン横丁に行こう!」
「いいわ。もし、来たらね…。カーチャの杖と必要なものを買ってあげる。」
キャサリンはガッツポーズをした。
フレイヤは元気いっぱいといった様子の愛娘に、ふわりと笑った。
この子は杖が欲しくてたまらないのだ。シングルマザーのフレイヤが家にいられる時間は限られているが、家にいる限りは魔法が使い放題と思っているのだろう。
キャサリンは、娘であるという贔屓目を差し置いても、生まれつき魔法族としての魔法力や身体能力に優れていた。さらに、勝ち気で集中力と学習能力が高い。フレイヤがさっき料理のために使った魔法くらい、何も考えずにやり遂げるはずだ。
そして、魔法を学べる場所と友人も求めている。
純血の魔法族であるにも関わらず、フレイヤはイギリスの首都ロンドンのスラムでマグルに混じって働いている。孤独なシングルマザーで、キャサリンを魔法族の友人が作れる場には連れて行ったことは無い。
いつも、すまなく思ってもいたが、フレイヤは同族を恐れていた。キャサリンもそれを察し、そのことを言葉に出すことは滅多にしない子供に育ってしまった。
きっと、ホグワーツはフレイヤがかつてそうだったように、キャサリンの居場所になってくれるはずだ。
開けっ放しの窓から風が吹き、羽音が聞こえた。
キャサリンとフレイヤの明るい金髪が日を浴び、キラキラ光る。
「ママ!!」
口の中のトーストの最後の一片を飲み込み、キャサリンは叫んだ。
茶色のフクロウは優雅に食卓に下り立つ。その足には、一通の手紙が括り付けられていた。
キャサリンは、満面の笑顔を浮かべる。
それは、まさしくキャサリンが求めてやまないもの、ホグワーツ魔法学校からの入学の招待だった。
ホグワーツ魔法学校からの入学届が届いたこの日の午後、魔女と魔法使いしかいない繁華街、ダイアゴン横丁をキャサリンはフレイヤと共に歩いていた。
フレイヤは魔法族のいる場に行くときはいつもそうであるように、暗い色のローブのフードを頭まで羽織り、印象的な金髪を目立たないようにしていた。キャサリンは特に何もせず、マグルの子供のようなショートパンツにT-シャツのままである。ホグワーツに学用品を買いに行く人間が多い時期だったためか、2人は特に目立つことも無い。
3歩歩けば、新たな店で立ち止まってしまい、買い物はあまり終わっていない。
すべてが魔法で彩られたダイアゴン横丁は、魔法を日常的に使う家で育ったキャサリンにとってもなじみのないものが溢れていた。
母はキャサリンの好きにさせると決めているようで、ニコニコ笑って待ってくれている。
さっきまでは、キャサリンは箒専門店のショーケースの前で立ち止まり、ニンバス2001を30分は眺めていた。もちろん買えるわけないが、見ているだけで心が躍る。
あと、見ている途中で店内に入った生意気そうな薄い金髪をオールバックにした少年と父親と思しき金髪の長髪の男性がニンバス2001を目の前で購入した。購入した本数が店員の慌てようから1本ではなさそうで、世の中には想像もつかないお貴族様がいるのだとキャサリンは思った。
「鍋、ローブはこれで大丈夫ね。あとは…。」
「ママ、教科書と杖だよ!」
「そうね、どっちの店に先に行きたい?」
キャサリンは、近くにある方が先でいいと言った。本当は杖が先が良いが、楽しみは後に取っておくべきと言う意見もある。
フレイヤにそういうと、杖はすごく長くかかる人もいるしね、と言って、先に魔法本専門店に行くことになった。
「やれー、やっちまえ」
「負けるな、パパ」
「そこだ!」
本屋はすごい騒ぎだった。有名作家であるギルデロイ・ロックハートのサイン会でそれでなくても人が集まっているところで、殴り合いのけんかを始めた連中までいたのだ。
赤毛のおっさんと金髪のおっさん二人が殴り合っている。さらに、赤毛のおっさんの家族と思しき赤毛と子供たちがけんかを煽りまくっていた。赤毛3人が主に煽っていて、まわりで少し困った顔をしている黒髪と赤毛も赤毛のおっさんの仲間らしい。煽っている赤毛3人のうち2人は双子だ。
驚いたことに、金髪のおっさんはさっき見たニンバス2001を買い占めていたお貴族様だった。さっきは、もっと上品そうな雰囲気だったんだが。
こんなところでいい大人が恥ずかしくないんだろうか。
キャサリンン人は、の波をくぐって騒ぎの中心に近づく。フレイヤは思ってもみない人ごみにオロオロしていたので、キャサリンは母には羽ペン、羊皮紙とインクを買っておいてくれるように頼み、数十分後には本屋の前で落ち合う約束をして別れた。
別に殴り合いを最前列で見たいわけではない。騒いでいる連中の後ろの棚の教科書が欲しかったのだ。
「そこどいて」
赤毛の女の子の後ろに目的の教科書があると踏んで、声を張り上げて話しかけた。
「わっ、ごめんなさい。」
無事に魔法薬学の教科書ゲット。
あとは、呪文学と変身術だろうか。魔法史は教科書が50年は変わっておらず、きれいな中古本も古本屋にいっぱいあるということなので古本屋と事前に決めていた。
闇の魔術とその防衛の教科書であるギルデロイ・ロックハートの著作は、もともと好きで誕生日の度に買ってもらっていたので全部家にある。
ギルデロイ・ロックハートの本は、冒険譚としては面白いのでキャサリンは好きだが、あんなに買わせて授業はどうする気なのだろうか?
まさか、アレで授業!そんなバカな…。
「あっ、その本、もしかしてあなたも今年からホグワーツなの?」
「わっ、ジニーの同級生⁉」
考え事をしているとさっき押しのけた女の子と横の黒髪の少年が話しかけてきた。口ぶりと背格好からホグワーツの新入生と生徒らしい。
新入生らしいのは、赤毛でそばかす、キャサリンよりも少し高い背、愛嬌のあるかわいい女の子だ。彼女は恥ずかしそうに笑う。
「そうだ!あなたもなんだ。わたしはキャサリン・ロングボトムだよ。これからよろしく」
「わたしは、ジネブラ・モリー・ウィーズリー。ジニーって呼んで。これからよろしく。あと、お父さんがこんな風になっちゃってごめんね。」
キャサリンは、気にしていない、という気持ちが伝わるように笑い返す。
初めてのホグワーツの友達になれるかもしれない女の子だ。どんな状況でも会えてうれしい。
それに、赤毛のおっさんがどんな人でもあんまり関係ないと思っている。親は子どもを選べないし、子どもも親を選べない。
ロンドンの下町でマグルと遊ぶことのあったキャサリンの周りにもとんでも無い親に育てられている子どもはたくさんいた。キャサリンの母も結婚せずにキャサリンを育てているため、下に見る連中にあったこともある。しかし、子ども本人がどう育つかは本人次第だと、キャサリンは思っていた。
「そっちの名前は?」
キャサリンは、金髪のおっさんのパンチに舌打ちをした黒髪の眼鏡の少年に声をかけた。緑の瞳がキラキラしている。
「僕は、ハリー・ポッターだ。2年生だよ。よろしく」
キャサリンは目を見開いた。ハリーはキャサリンの反応に慣れた様子で恥ずかしそうに笑う。
キャサリンも魔女の家で育ったから知っている。
“例のあの人”を倒した“生き残った男の子”。
額に呪いの傷跡を持つという少年。
「すごいな!」
キャサリンが目を丸くしたのを見て、ジニーはうれしそうに笑った。
「そうよ。ハリーなの。グリフィンドール生の兄の友達で夏休みはうちに遊びに来てるの」
「うん。ジニーの兄のロンとは親友だよ。夏休みもすごく楽しかった」
ハリーもくしゃりと笑い、キャサリンに握手を求める。キャサリンもその手を握り返した。
「ホグワーツに入ったら仲良くしてね」
「もちろんだ!ジニー、ハリー」
そんな会話をしていたら、赤毛のおっさん、もといジニーのお父さんが金髪のおっさんにストレートパンチを食らわせ、同時に新しく表れた髭もじゃの今まで見たことがないような大男がおっさん同士を引き離した。
「こんなところでいい加減にせんか」
大男が叫ぶ。
その上、大騒ぎに気付いた日刊預言者新聞の記者とギルデロイ・ロックハートが奥から現れ、奥から一緒にやってきたファンたちにキャサリンとジニーはもみくちゃにされ、本棚に押し付けられてしまった。
キャサリン達は、新しい“闇の魔術とその防衛”の教師がだれか、一足先に知ることになったのだ。
ギルデロイ・ロックハートと記者は、ハリーを見た途端、目の色を変えた。
「これは、これは、ハリー・ポッターくんが本日私の前に現れてくれるなんて!なんてすばらしい偶然なんでしょう!
私、ギルデロイ・ロックハートは宣言します。今年度から私はホグワーツ魔法学校の闇の魔術とその防衛の教師として勤務することになります!
さあ、ハリー・ポッタ―くん。一緒に写真に写りましょう!」
ギルデロイ・ロックハートは白い歯をきらりと輝かせながら、完璧に計算されたアイドルの笑顔を浮かべた。
明らかにカメラを嫌がっているのに、ハリーはカメラの前に引きずられていく。
キャサリンはハリーがかわいそうになってしまった。
だから、余計なことをしてしまった。
「嫌がってるから止めたらどうですか、ロックハート先生。」
ハリー・ポッターの手首を抑え、一言。
ギルデロイ・ロックハートは、初めてキャサリンを認識したという風にキャサリンをまじまじとみた。
「やあ、お嬢さん、こんにちは。私のことを先生と呼ぶのだから、もしかしてホグワーツの生徒さんだね。ここであったことに感謝して一緒に写真に写ろう!
さあ、こっちにおいで!」
パシャッ、パシャッ
無常にカメラの音が響く。キャサリンもハリーもカメラにばっちり写ってしまった。
「サイン本もどうかな!ちょっとしたサービスだよ!」
最新作“私はマジックだ”サイン入りを抗う術もなく渡され、キャサリンもハリーもバランスを崩す。
「ふんっ、目立ちたがりだな」
冷笑交じりの皮肉も後ろから聞こえてきた。
「黙れ、マルフォイ。」
その声の金髪の少年は、ハリーの知り合いだったらしく、さらに赤毛の一団との店から出ていきながらの口喧嘩まで始まってしまった。
さっき引き離された金髪のおっさんもまだなんか言い争っている。
キャサリンは、もう先に行くことにして、軽く手を振ってジニーとハリーと別れる。ジニーはにこりと笑って、手を振り返した。
本屋の前の柱の陰で待っていたフレイヤと合流する。
サイン入りの“私はマジックだ”と魔法薬学の教科書を見せて苦笑いすると、フレイヤもよかったわねと言いたげに、柔らかい笑みを浮かべる。
キャサリンは、ジニーとハリーに手を振る。
そして、すぐに会計をして、魔法書店から脱出した。
「さっきの子は、ジニーっていうんだって。黒髪はハリー・ポッターだよ!」
「すごいわね。もしかして、ジニーちゃんはウィーズリーの家の子かしら」
キャサリンはあの後、魔法の杖を手に入れるためにダイアゴン横丁を歩いていた。
フレイヤ曰く、杖はオリバンダーの店ではないといけないのだと。
フレイヤもオリバンダーの店で買ったらしいし、イギリスの魔法使いの杖はほとんどオリバンダーの店で作られているらしい。
「ウィーズリー夫婦なら知っているわ。ホグワーツの後輩だったし、奥さんのモリーは私の妹の婚約者の妹だったのよ。」
「え!ママ、妹がいたの!」
ウィーズリー一家はフレイヤの親戚のようなものだったらしい。キャサリンはそんな話、初めて聞いた。というか、ロングボトム家で親戚の話は出たことがない。
そうよ、とフレイヤは頷く。そして、微笑みを消し、物思いにふけるように顔を曇らせた。
「ええ。14年前に死んでしまったのだけど…。
そうね。モリーも本当なら義妹だったんだわ。父も妹も闇払いで…。カーチャ、あなたみたいにかっこよかったの。
今は、皆いないのね」
キャサリンは戸惑った。前から、フレイヤの出身のロングボトム家がそこそこ有名な魔法族なのは薄っすらと察していた。そして、12年前までのあの戦争で命を落とした闇祓いたちが多くいたこともキャサリンは知っていた。
もしかして、母の家族は、…。
黙り込むキャサリンの頭を、フレイヤは優しく撫でた。
「大丈夫よ、カーチャ。今はあなたがいるから悲しくないの。
あなたの名前はあなたのお父さんが付けてくれて、…。
あなたは、私に残った唯一の宝物で、私が頑張る理由だから。
あなたはあなたらしく、元気に過ごして欲しいの」
キャサリンは驚いて、上を向く。フレイヤは気にしないでいいのよ、いつもの柔らかな笑みを浮かべていた。
父親の話はごくわずかに聞いたことがある。でも、名前の由来は初めてだった。キャサリンは、あまりにありふれた名前で、愛称だけは異国風だ。キャサリンは愛称のカーチャが示す通り、イギリス人じゃないマグルなのだと思っていた。
きっと、弱くて母を支えられないマグルだったのだろう。フレイヤの言い回しは、いつも絶対に会えない人に対するものだった。
フレイヤは歩き始める。キャサリンもそれに付いていきながら心の中で誓った。
(私はママを守れる力が欲しい。大切な人を守れる魔法使いになりたいんだ)
「杖は、オリバンダーじゃなきゃダメよ。ええっと、どこだったかしら。」
「ここじゃない?」
「あら、本当だわ。ありがとう、カーチャ。」
二人はしばらく歩いた後、“オリバンダーの店”と看板を掲げた店の前で足を止めた。
看板も店のつくりもすべて古ぼけた店だ。
カランッ
ドアを開け、店内に入る。店内は外と同じく古臭く、薄暗く、魔法の気配のする細い箱が店中に積みあがっていた。
カウンターの上では、老人が一人作業をしている。彼が母曰く、イギリス最高の杖職人のオリバンダーらしい。
「お客さんですかな。」
「ええ、今年からホグワーツなの。お久しぶりです。私はフレイヤ・ロングボトム、この子は娘のキャサリン」
「おお、もちろん覚えておるとも。フレイヤ・ロングボトム、姉妹で来店。25cm、ハナミズキに一角獣のたてがみ、振りやすい、でしたな」
キャサリンは、驚いた。母の杖のことを正確に言い当てたからだ。この人は今まで売ってきたすべての杖についてもしや覚えているのだろうか。
「そう、わしは今まで売ってきたすべての杖を覚えておる。キャサリンさん。」
キャサリンは、思っていることを読まれてしまった。
オリバンダーの説明が続く。杖の材質とその性質について、そして杖は持ち主を選ぶということ。同じ杖は1つも無いこと。
キャサリンは素直に面白いと思った。この日を11年間待っていたのだ。最強の杖が欲しい。
「強い杖が欲しいな。ママを守れる位強くなりたいんだ」
「ご心配なさるな、絶対に合う杖を見つけてきますからな」
オリバンダーは、強気なキャサリンのセリフを聴き、微笑んだ。
利き腕を出せ、と言われたので、キャサリンはおとなしく右腕を出した。
オリバンダーは細い箱を何個も持ってきて開け始める。
「ハンノキに一角獣の尾、よくしなる、24cm、振ってみなされ。」
素直に差し出された杖を軽く振る。
ボンッ
杖を向けた先にあった空箱が爆発した…。
「ごめんなさい!」
「大丈夫じゃよ、合わぬ杖を持たぬとこうなる。ふーむ、次はどうしようかの。
これはどうかの。リンゴに不死鳥の尾羽、硬い、30㎝。」
ボンッ、ボンッ
さっきより激しい爆発が起きた。
フレイヤの後ろの箱が全部落ち、間一髪でフレイヤはそれを避けた。
「ママ、怪我はない?ごめん」
「大丈夫よ、気にしないで。」
「次は、セイヨウトネリコにドラゴンの心臓の琴線、27㎝、堅実。振ってみなされ。」
杖を向けた先の窓ガラスが割れる。合わなかった。
「カバノキに一角獣のたえがみ、22cm、かなりしなりがよい。どうぞ」
握っているところが冷たい。合わなかった。
5本目、6本目…。
15本目、20本目…。
どんどん箱が積みあがっていく。ガラス越しに見ると外はうっすらと赤くなりかけていた。
でも、オリバンダーはむしろ嬉しそうだ。しわくちゃの顔に笑みを浮かべ、店を修理し、ダメだった杖の箱を脇にやる。
「難しいお客じゃの。ご心配なさるな、必ず合う杖を見つけますからな。」
そう言うと、オリバンダーは奥から箱をさらに持ってきた。開けた箱は、すごく古ぼけた箱で空けると埃が辺りにまき散らされ、3人ともくしゃみをしてしまった。
「リンボクにドラゴンの心臓の琴線、31㎝、恐ろしく攻撃的で頑固。凶暴過ぎて今まで持ち主がおらんかったやつじゃ」
この杖だ。
キャサリンが握ったとたん、彼女の身体が暖かくなった。力が湧いて出る。思いっきり振ると花火のように紫色の火花が散った。
「ブラボー、ブラボー、すばらしい。」
「まあ、決まったのね!」
カウンターに戻ったオリバンダーにフレイヤが杖の代金7ガリオンを払い、杖はキャサリンのものとなった。
「ありがとうございました!」
代金を受け取り際にオリバンダーがつぶやくように喋りだした。
「不思議じゃ、不思議なことじゃ。わしは売ってきたすべての杖を覚えておる。オリバンダーの杖は、すべて違うものじゃ。木材と芯もほとんど同じものは使わん。
その杖は、わしが若い頃にとある杖のために、試作したもので、戦いと死と勝利を求める杖じゃと作った後に確信した。
去年は最も間違った道に進んだ者の兄弟杖が、生き残った少年を選んだ。
戦いのために作られた杖が続いて、主を選ぶ。
これは不吉じゃ」
キャサリンは、手の中で、杖を握りしめた。紫の炎の残滓が杖に宿り、ドクドクと脈打っていた。
フレイヤの顔が夕日に照らされ、全身が血で赤黒く濡れているように見えた。
「行きましょう。お世話になりました。オリバンダーさん。」
フレイヤが今までされたことがないくらい強い力でキャサリンの手首をつかみ引っ張る。
キャサリンは、店の外に引きずり出されていく。
オリバンダーは、追いかけるわけでもなく、ただつぶやきを続けていた。
「あなたも戦いの道を歩むのかもしれぬ。
あなたがどんな道を歩むにせよ、その杖はあなたの闘争を喜ぶじゃろう。」
オリバンダーのつぶやきはキャサリンの耳にいつまでも残っていた。
キャサリン・ロングボトム
ジニーと同い年の少女。愛称はカーチャ。目つきが悪く、少しきつい感じで愛想も悪いが、長身の少女
運動神経が良い。ネビルのはとこだが、今まで親族とはほとんどあったことが無い。基本、無口でボーイッシュ
かなりのマザコンでフレイヤ大好き
フレイヤ・ロングボトム
キャサリンの母。ネビルの父親といとこで、未婚のままキャサリンを生んだシングルマザー
腰まである金髪と青い瞳の41歳。垂れ目で優し気な顔立ちで、いつも柔らかな笑みを浮かべている。
少女のように若々しい美女
キャサリンを唯一の家族として愛している