何話かで秘密の部屋編を完結させたいと思っています。楽しみ待っていただけると光栄です。
前話と同日 夕方
「えーー!セオドール・ノットが継承者?」
夕日の差し込んだ医務室のベッドで、ハーマイオニーは驚いた。マダム・ポンフリーを警戒し、とっさに声を抑える。
いきなりキャサリンがやってきて、ハーマイオニーの同級生のセオドール・ノットが継承者だと言い出し始めたのだ。
ハーマイオニーにとって、キャサリンは仲が良い後輩の一人だ。見た目は飾っておきたいぐらいかわいいのに、言動は男の子っぽい。ただ、ときどきちょっと意地悪だ、とも思うが。
キャサリンも面倒見がいいハーマイオニーを先輩として慕っている。
そして、彼女の一番いいところは、秘密の部屋の事件が起きても、ハリーの味方として働いてくれたところだ。
今回は、お見舞いがてらに、50年前に秘密の部屋が開かれたらしいことと、今回の犯人の情報を持ってきた。
キャサリンは前回の事件だ、と言って、新聞記事のコピーを机の上に置く。
ニコッと、明るい笑みを見せて言った。
「ニャーマイオニーだって、そう思うだろ?」
そのあだ名、本当にやめてほしい。
ハーマイオニーは痛切にそう思い、心の奥でため息をついた。
確かに、今のハーマイオニーは半分猫の猫人間だ。身体は猫の毛で毛むくじゃらで、目は瞳孔が割れており、猫耳としっぽが生えている。かろうじて二本足で立っているが、ねこじゃらしやマタタビが目の前にあると反応したくなる。
あと数週間はこのままの予定だ。
それもこれもすべてクリスマス前にポリジュース薬の変身に失敗してしまったせいだ。ハーマイオニーは、間違えてパンジー・パーキンソンの猫の毛を使ってしまったのだ。
ハリーとロンは、直接クラッブとゴイルから髪の毛をもぎ取ったため、2人は無事に変身し、マルフォイを探ることはできて作戦は成功したから良いものの、ハーマイオニ―はこのザマだ。
ポリジュース薬は、完璧に他人に化けることができる魔法薬だが、人間以外のものに変身できない。そして、失敗したときのリスクは運だ。今回は、不可逆の変化で無かっただけ、良かったと思わなくては。
キャサリンは、クリスマスの次の日にはお見舞いに来て、猫っぽくなったハーマイオニーを見た途端、“ニャーマイオニー”というあだ名を付けた。
そして、ロンとハリーにまで“ニャーマイオニー”が気に入り、そう呼ぶので、ハーマイオニーはうんざりしていた。
キャサリンは、悪い子ではない。ときどきいたずら好きなだけだ…。
「セオドール・ノットって、喋ったことないわね。キャサリンによく絡んでくるんですっけ?」
「まあ、陰気なやつだからな!あいつの父親は50年前にホグワーツにいて、継承者にマートル・ワーレンが殺された。今は息子がホグワーツにいる。これって、偶然じゃないだろ」
本人も認めたんだ、とキャサリンは付け加える。
ハーマイオニーは、セオドール・ノットのことをそれなりにがんばって思い出した。
スリザリン寮の同級生でひょろりとした少年だ。成績上位者でハーマイオニーの下に名前が書いてあることがよくあるため、かろうじて顔と名前が一致する。しかし、まったく喋ったことはなく、ほぼ知らない相手だ。
キャサリンは、ハーマイオニーが医務室から動けない間に秘密の部屋について随分と調べていた。この様子では他にも調べたことがありそうだ。
しかし、ハーマイオニーはキャサリンの持論に慎重だった。スリザリン寮に潜入したハリーとロン曰く、マルフォイは誰が継承者か知らなかったらしい。
いくらノットが寡黙でも、スリザリン寮の同級生にもまったく気づかれないというのはないのではなかろうか?
実のところ、ノットはスリザリン生もノットのことをよく知らないくらいの一匹狼なのだが、それをハーマイオニーは知らなかった。
キャサリンは、たびたびノット相手に口げんかをしているし、売り言葉に買い言葉ということもある。
「あのね、どうやって知ったのかはいえないけど、たぶん違うと思うわ」
ハーマイオニーがキャサリンに疑問を呈すると、キャサリンは頬を不満げに膨らませた。
「じゃあ、誰なんだ!」
「そんなの知らないわよ。それにキャサリン、どこで秘密の部屋は50年前に開かれたなんて知ったのよ」
キャサリンは、口ごもり、話したくない、と返事する。
ハーマイオニーは、情報は秘密にしたい出所由来だと察した。
自分たちにも秘密はある。ポリジュース薬の件など、絶対にバレてはいけない。キャサリンは秘密を軽率に他人に話すタイプでもないが、真似されても困る。
それに、出所を聞くよりもキャサリンの話で気になる点もあった。
今、犠牲者の名前をマートル・ワーレンと言わなかったか?
「マートルって、もしかして嘆きのマートルのこと?」
「誰だ、それ?」
不思議そうなキャサリンの顔をハーマイオニーは見返して苦笑した。
まあ、キャサリンはトイレで隠れて泣きたいことなんてないだろう。
「3階の女子トイレに住んでいるゴーストよ」
キャサリンの瞳孔が驚きで大きく開く。
「あー!3階の女子トイレが使えない理由で聞いたことある。無茶苦茶うっとおしいので有名なやつだろ」
「ええ、彼女はそこまで古いゴーストじゃないし、調べる価値はあるわ。キャサリン、代わりに聞いてきてくれない?
わたしは、わたしで調べてるから」
キャサリンはすぐに頷き、医務室を出ていく。走って出ていこうとしたので、マダム・ポンフリーが叱りつける声が聞こえ、最後に医務室の扉が大きな音を立てて閉じた。
どうせ、今、泊まり込んでいる生徒は皆石化してしまっており、キャサリンがどれだけ騒ごうと反応することなんてあるわけないのだが。
ハーマイオニーは、キャサリンから取り込んだ情報、そして、今までの被害者の状況を頭の中で整理し始めた。
キャサリンは、3階の女子トイレに恐れずに入っていった。夕方のまぶしい日の光も届かず、薄暗い。
暗がりからゴーストが今にも出そうだ。というか、本当に出るトイレなのだ。
3階の女子トイレは、使ってはいけないトイレだと言われている。
なぜかというと、かなーりめんどくさい性格のゴーストが住み着いているからだ。
キャサリンは、女子トイレの中心に備え付けられた手洗い台からボコボコと水音がするのに気づき、じっと見つめる。
なぜか、手洗い台の銅製の蛇口の脇のところに、ひっかいたような小さな蛇の形がほってあるのが妙に目についた。
手洗い台の上部から噴水のように、さらに水が溢れ出した。
そして、一人の少女のゴーストが現れた。
分厚いメガネをかけ、おさげが動くたびにゆらりと揺れた。着ている服はホグワーツの制服で、見た目はおそらくキャサリンよりも少し年上だ。
マートル・ワーレンは14歳で死んだレイブンクロー生だし、計算が合う。
「あーら、見ない顔。知らない子ね」
“嘆きのマートル”が宙に浮かび、キャサリンをじろじろと見る様子は、まるで値踏みするようだった。
「いきなり訪ねてきてごめん。あなたが、マートル・エリザベス・ワーレンか?」
キャサリンが問うと、“嘆きのマートル”は驚いた顔をした。その顔が答えを物語っている。
キャサリンの鼻先まで近づき、ニヤニヤ笑う。ゴーストの冷気を感じたキャサリンは、慌てて距離を取った。
「あんた、いい子じゃない。わたしのことを本名で呼んでくれたのは何年ぶりかしら?うふふ」
「マートルはどうやって死んだんだ?」
嘆きのマートルの笑みがますます深くなる。よくぞ聞いてくれましたとでもいいたげに、誇らしそうに胸を張る。
「オォォォゥ、怖かったわ。わたし、あそこの小部屋で死んだの。オリーブ・ホーンビーがわたしのメガネをからかったから、鍵をかけて泣いてた。そしたら、前の手洗い台のとこで男子が外国語で何かを喋ってたのよ。だから、出て行けって言うつもりで、外に出たらー
死んだの」
嘆きのマートルは、にんまりと笑った。締まりのない口から、出っ歯が覗いた。
「その男は、どうやってマートルを殺したんだ」
嘆きのマートルはえらそうにそっくり返り、顔を輝かせた。
「それは、わかんないの。でもねぇ、最後に見たのは、大きな黄色い目玉が2つ。それを見たら、身体が苦しくなって、それで終わりってわけ。
アハハハハ」
そして、女子トイレに住むゴーストとなり、今に至るというわけだ。
マートルが死んだ小部屋を見ていたキャサリンに嘆きのマートルは詰め寄り、そのまま通り抜けようとする。キャサリンはとっさに避けると、嘆きのマートルは残念そうな顔をした。
そのまま、手洗い台の上に再びプカプカ浮かんだ。
「ねえ、この話なら何回だって聞かせてあげる。そうよ、わたしは死んだあと、オリーブ・ホーンビーに憑りついてやったのよ。あいつは、わたしを一生忘れない♪」
嘆きのマートルは、恍惚とした表情で、いじめっ子への復讐を語り始めた。
もうこれ以上欲しい情報は手に入らないことを察したキャサリンがマートルの話を遮る。
「話を聞かせてくれてありがとう。
追加で聞きたいんだけど、このトイレに物を流したら、どうなるんだ?」
マートルは不思議そうな顔をした後に、泣きそうな顔になった。
「あんた、わたしが下水と一緒に湖まで流れちゃぇって思ってるのね。酷いわ。せっかく優しくしてあげたのにぃ!」
嘆きのマートルはヒステリックに悲鳴を上げ、泣き叫び始めた。同時に、ボコボコと下水が巻き上がる。
キャサリンは、嘆きのマートルがどうしてそう呼ばれ、嫌われるのかの理由がとてもよくわかった。
そして、一つのアイディアが胸に沸き上がり、下水を被らない内に、急いでグリフィンドール寮に向かった。
次の日の放課後、キャサリンは誰にも気づかれないように、3階の女子トイレを訪れた。
カバンの中にはトム・リドルの日記がある。
今日の魔法薬学の授業中、ジニーがカバンから目を離した隙に盗ったのだ。代わりにジニーのカバンにはそっくりな黒い本を入れた。
しばらく気づかないことを願う。まあ、無事にキャサリンがここまで持ってこれたので、もうジニーにバレてもいいが。
嘆きのマートルが例の小部屋でシクシク泣きわめく声だけが女子トイレに響いていた。
キャサリンは、トイレの一つに入り、便器の中に、トム・リドルの日記を押しこむ。無理矢理折り曲げ、なんとか便器に詰め込むと、そのままレバーを引いた。
ごぼごぼ、という音がして、再びトム・リドルの日記は下水と共に流されていった。昨日、マートルが言ったように、きっと湖まで行くのだろう。
こうすれば、もうジニーはトム・リドルの影響を受けずに済む。
キャサリンは、安心して、大きく息を吐く。
(これでもう大丈夫だよな?)
ジニーの不調もきっと治るはずだ。忌々しいトム・リドルの日記が何をジニーにしていたのかが不可解ではあったが、もう大丈夫だ。
読了ありがとうございます!!
キャサリンにホラーな日記をトイレに流してもらいました(普通の水洗では詰まるので絶対にやめましょう)
嘆きのマートル
ホグワーツの3階の女子トイレに住み着く、あまりかわいくない女の子のゴースト。性格も皮肉れたいじめられっ子。ただ、自分と同じように女子トイレで泣くホグワーツ生には共感し、相談に乗ることも