よろしくお願いします。
一週間ほど経った後
ハグリットは逮捕され、ダンブルドアまでホグワーツからいなくなった。しかし、ほとんどの生徒と一人を除く教師全員は、まったく警戒をやめていなかった。
秘密の部屋の化け物は、まだ学校内を徘徊中だ、というのは校内のもっぱらの評だった。
キャサリンも、もちろんそう思っている。
キャサリンは、期末課題を一人、自室で片づけていた。魔法史のレポートは後30cmも書かなくてはならない。
同室のロメルダは階下で、2年生のラベンダーなどの女子とおしゃべりに興じている。来年は、ラベンダーが受講する占い学がヤバいらしい。恋占いを下級生にしてあげる約束をラベンダーは賑やかにしていた。
ジニーはどこかに行ってしまった。
階下の喧騒を尻目に、キャサリンのペンの音がカチカチと鳴る。
まったく気が乗らなかった。
キャサリンはジニーに嫌われたんだろうか?
キャサリンは、長い期間を共にする友達を作ったことが無い。マグルの子供たちには、魔法使いであることを理由に距離を置き、その場限りの浅い友情しかなかった。
ジニーは、女子同士の会話や雰囲気が苦手なキャサリンを輪に連れて行ってくれた。
普段は無口なくせに、はっきり物事をいい、他の生徒とケンカになることも気にしないところも好きだと言ってくれた。
ふと、部屋がだんだん暗くなっていることに気づく。
部屋の灯りが消えかけていた。キャサリンは部屋の灯りに魔力を足そうとして、杖を取り出した。
キャサリンの腕がとなりのジニーの机にぶつかる。
クリスマスにイカれた日記を見つけたところだ。アレを捨てたら、元気になったのに。
「キャサリン、まだ、起きてたんだ」
背後からいきなり声がした。
「魔法史のレポートをしてたんだ。ジニーは終わったのか?」
ジニーは、久しぶりに見た笑顔でにっこりと、何も言わずに笑う。
「ジニー。どうしたんだ?」
ジニーは、ただにっこりと笑う。
久しぶりに見た笑顔にキャサリンはドキリとした。
「キャサリン…。夜の散歩に行かない?」
軽く首を傾げて、聞いてくるジニーにキャサリンは戸惑った。いきなりこんなことを言い出すなんて、どうしたんだろう。
「ジニー?」
もう監督生や先生が見回りをしている時間だ。外に出たら、叱られてしまう。
「なんか眠れないんだ。」
ジニーは、振り返りもせずに部屋から出ていこうとする。キャサリンは、放っておけずに慌てて付いていった。
ふと、見ると、談話室には誰もいない。
「どうしたんだ?」
ジニーは、笑みを崩さず、寮を出て、すたすた歩いていく。
夜の見回りの裏を掻いているのか、誰にも会わない。
ジニーが杖に灯りもともさないので、キャサリンも灯すことができず、無言で付いていくことしかできなかった。
ホグワーツの暗い廊下をキャサリンは必至で付いていった。
何かがおかしい。
そのまま、ジニーは、3階の女子トイレにまっすぐに向かう。トイレに着くと、ジニーはくすくす笑い、息を吐いた。
「さあ、行こう、秘密の部屋へ。夜の散歩はこれからだよ。カーチャ」
キャサリンに振り返ったジニーはいつの間にか、あの邪悪な日記を胸に抱いていた。
スッと、周りの温度が下がる。
キャサリンは、ジニーから距離を取ろうと後ろに下がる。
キャサリンは、自分が罠にはめられたことを悟った。
「クリスマスぶりだな。トム・リドル」
キャサリンは、今のジニーが誰かわかってしまった。
「久しぶりだね、カーチャ。
僕は日記に宿って、ジニーの魂を喰って、こうやってジニーを操れるまでになったんだ。
でも、足りないんだ。お前に邪魔されたおかげだ。
まだ、実体化できない。
カーチャ、お前の魂も欲しくてね。それで、夜の散歩を持ちかけたんだ。秘密の部屋に行かないか?」
キャサリンは、背中から怖気が走るのを感じた。
あの邪悪な日記は、どうしたのかわからないが、ジニーの元に戻ったらしい。
そして、ジニーを操っている。
キャサリンは、ポケットの中の杖を握りしめた。
「そんなことさせると思うか?」
「断る選択肢は無いよ。ジニーの魂はほとんど吸い取ったから、完璧に操り人形さ。君が何かしたらジニーに傷をつける」
ジニーは、杖を取り出し、自分に向かって杖を向けた。赤い光が杖から漏れ、ジニーの首から、つぅっと赤い血が染み出る。
キャサリンは、何も言わず、頷いた。
もう頷くしかないと思ったのだ。
そして、手洗い場の蛇口の蛇の飾りを愛おし気に撫で、シューシューと囁く。
まるで、ハリーがパーセルタングを喋った時のような声だった。
ジニーに導かれるままに、キャサリンは手洗い場の蛇口から現れた通路を進んでいく。蛇のように曲がりくねるトンネルは、ひどく長く、トンネルの最後には扉があった。
大きなマンホールの蓋のようだが、大きなエメラルドの目を持つ蛇が二匹尾を嚙み合って一つの円を作っていた。
ジニーは、また、シューと言う音を立て、扉が開くのを聴き、ニィと笑った。
扉の向こうには、驚くほど広い空間が広がっており、緑がかった光に照らされていた。
何かがズリズリと這い回る不気味な音も聞こえる。
あれがもしかして、秘密の部屋の怪物なんだろうか?
「ここが秘密の部屋だよ。すごいだろう。後で、僕の怪物も紹介してあげる」
ジニーいや、ジニーの身体を乗っ取ったトム・リドルは、キャサリンに近づくように命じた。
キャサリンは、諦めて近づく。
ジニーの恐ろしいくらい冷たい手がキャサリンに触れる。
ジニーの手がキャサリンの手を握りこんだ瞬間、何かが奪われるのをキャサリンは感じた。
キャサリンの魂だ、それが欠けていくのをキャサリンは感じてしまった。
「ありがとう。カーチャ、ああ、やっとだ…。この一年待ち望んでいた…。」
ジニーの歓喜に震える声は、途中でジニーのものではなくなった。
知らない少年の声だ。日記が邪悪に輝き、半透明のものが秘密の部屋に降り立つ。
あれが、トム・リドルなのか?
端正な顔の少年で、ホグワーツの制服を着ている。
キャサリンとジニーを見て、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべていた。
キャサリンの身体に力が入らなくなる。キャサリンは地面に膝をついた。
頭が割れるように痛い。
「もう、君もダメそうだな。
紹介しよう。秘密の部屋の怪物のバジリスクだ。
おやつの時間だ、バジリスク!こっちに来て、カーチャを喰え!」
キャサリンは、ズルズルという重い物が引きずられて近づく音を聞いた。
さっき、魂を盗られたせいで身体に力が出ない。必死で、冷たいジニーを抱きかかえた。
荒い息が漏れる。
ぎゅっと目を瞑る。めまいがひどすぎて、目を開けられない。何も見えない中、ただ、音だけが聞こえた。
(死にたくない!!)
目の前に秘密の部屋の怪物がいることは分かった。
そのとき、手に握りこんだ杖が熱を持っていることを感じた。
まるで、キャサリンを励ますように…。
キャサリンはもう呪文は何も思いつかなかった。
ただ、本能の赴くままに杖を振った。
とにかく敵を足止めし、倒す魔法が欲しかった。キャサリンは、自分の本能が脈動し、体内の血が沸騰するような熱さを感じた。
杖から魔力があふれ出る。
それは、紫の炎の形だった。キャサリンの魔力と残った命を吸い込んで、紫の炎は爆発的に広がる。
キャサリンとジニーの周りを紫の炎は、天井までの防壁として囲んだ。
ギャーーーーーー
バジリスクは、炎に触れたと途端、絶叫した。
頭を守る頑丈な鱗が蒸発したかのように焼け落ち、骨が見える。
バジリスクの死をもたらす魔眼は、完全に焼けただれた。
恐怖の勢いのまま、後退する。
石の柱に尾がぶつかり、轟音を上げた。
「この紫の炎……。馬鹿な、そんなはずはない。
バジリスク!何をしているんだ。」
キャサリンは、あまりの悲鳴と熱気に思わず、目を開けた。紫の炎越しに見る風景は明るい紫に周囲がすべてぼやけて見える。
不思議な炎だった。炎なのに紫色で、命の無いものは焼かない。
ただ、本能的に、決して触れてはいけないものだとは理解できた。
キャサリンは、ますますジニーの身体を強く抱きしめる。
滲んだキャサリンの視界の端で、この一年間で見慣れた少年が現れるのが分かった。
“生き残った男の子” ハリー・ポッターがやってきたのだ…
読了ありがとうございます。