キャサリンのホグワーツ魔法学校での日々は、慌ただしく過ぎていった。
初めて受ける魔法の授業にクィディッチの試合観戦、基本的に楽しく愉快な日常だった。
グリフィンドールの他の同級生や上級生とも仲良くやっていけている。
ネビル・ロングボトムとは、その後にわかったが、はとこだった。ネビルはキャサリンと特にグリフィンドールで仲が良い先輩だ。
キャサリンが今、いちばんのお気に入りの授業はフリットウィック先生の”妖精の呪文“だ。
そして、いちばん嫌いなのは、“闇の魔術とその防衛”だった。
組み分けの次の日、預言者新聞の夏休みの例の記事をどこからか持ってきたコリンには肘鉄を食らわせた。画面から逃げ出そうとするハリーとキャサリンと、笑顔のロックハートの写真はキャサリンとハリーの共通の悪夢だった。
ハリーとは普通に仲が良い。
ハリーは“生き残った男の子”と言われていても、偉ぶったりしない良い人だった。
同級生のジニーとコリンはハリーのファンらしく、たびたびハリーを追いかけまわしている。
10月のある日の“闇の魔術とその防衛の授業”の教室は、すでに生徒の半分以上の目が死んでいた。1年生でもわかるゴミのような授業だった。
今、キャサリンがいちばん嫌いなのは、間違えなくギルデロイ・ロックハートの(先生ともつけたくない)“闇の魔術とその防衛”だ。
彼は本屋の件からキャサリンを忘れていなかったらしい。キャサリンを1年生の授業で助手にし、彼の小説を演劇にするという授業で何回も主人公の傍の役をやらせた。もちろん、主人公の役はロックハート本人だ。
キャサリンが当初抱いていた強くなるために必要な授業という期待は早々に打ち砕かれた。
一部の女子生徒以外の目はすでに死んでいる。キャサリンの目も死んだ魚のようだった。
ハロウィーンに近い今日の授業も似たようなものだった。
「さあ、みなさん、こっちを見てください。今日は、私がどのようにトロールを倒したかお見せしましょう!」
ロックハートが杖を一振りする。囚われの女旅人の役だったキャサリンの鼻にロックハートの杖から噴射された火花が当たりそうになった。
「さあ、ミスター・ルックウッド、トロールからミス・ロングボトムを開放するために何の魔法が適切でしょう?」
指名されたスリザリンの男子が嫌そうな顔をする。
「エクスペリアームス、武装解除の呪文とか?」
ロックハートは完璧な笑みを浮かべた。白い歯がきらりと
「チッ、チッ、“トロールととろい旅”の読み込みが足りませんね。正解は“トロールよ、去れ”です。」
「“トロールよ、去れ!”」
ロックハートがまた大きく杖を振り上げた。閃光が走る。キャサリンの傍にあった棚が崩れ、生徒たちが下敷きになりそうになった。その棚のガラスは砕け、30冊以上の本はすべて飛び出て、大きな悲鳴が上がる。
同時に授業終了のチャイムが鳴った。
「おや、授業はここまで。棚はみなさんで片づけておいてください。ミス・ロングボトムの名演技に感謝し、グリフィンドールに10点です。
それでは、来週!」
ロックハートはばたばたと教室から出て行ってしまった。
げっそりした顔の生徒たちも次々と教室から出ていく。
誰も棚を直そうとはしない。
残ったのはキャサリンとジニー、コリンだけだった。
「ジニー、行こうよ」
キャサリンもジニーを外に連れ出そうとした。ロックハートの失態をカバーするのはごめんこうむりたい。
授業を見もしないで、黒いノートらしきものに何か書き込んでいたジニーは、ハッとしたようになって立ち上がった。立った途端に机の横に立てかけていたカバンが倒れ、教科書がどさどさと落ちる。
「ごめんなさい。大丈夫だから」
ジニーとキャサリンが教科書を拾おうとしたところでコリンが駆け寄り、教科書を拾い集めた。
「レパロ」
聞きなれた少年の声が教室に響く。あいつだ。
いつのまにか次の授業のスリザリン生が到着したのだ。
そのとたん、傾いた棚の砕けたガラスと放り出された本が元通りになった。しかし、棚は傾き、机にのめりこんだままだ。
「すごい、ノット先輩、すごいです。」
コリンが驚き、声を上げる。修復呪文は物が破壊された際に教師たちがよく使用しているが、まあまあ難しく、一年生は使用できないのだ。
「どーも。つーか、噂の名女優様は直しもせずに出てくつもりかよ」
スリザリンの2年生が振り向いた。色白で茶髪のひょろりとした少年は、どこか傲慢そうな様子でニヤリと笑う。
キャサリンはムカついた。今までのホグワーツ生活からこいつの性格はわかっている。
「わたしも直すつもりだったさ、ノット。ウィンガーディアムレヴィオーサ、レパロ」
棚が浮き、元の場所に戻る。しかし、失敗だ。
棚がのめりこみ傷のついた机は元に戻らなかった。
「キャサリンもすごい!!」
スリザリンの1年生の1人もとい、セオドール・ノットは、パチパチと嫌味っぽく拍手する。
「まあまあだな」
「うるさい、ジニー、とっとと行こう」
こいつのことは気にしてもしょうがない。そうキャサリンは思っていた。あえば、ことあるごとに突っかかってくるのだから。
グリフィンドールとスリザリンは仲が悪いが、キャサリンも授業で目立ったからか、たびたびスリザリン生に絡まれていた。しかも、同級生からも先輩からもだ。
ノットもその一人である。他にも同級生のスリザリン生やマルフォイとかも出合い頭によく絡まれる。
ノットは、2年生のくせに大人げなく、ことあるごとに嫌味を言い、自分のほうが魔法が使えるというように、見下すように魔法を使う。
スリザリン生の中では、そこまで実害はないが、嫌味でいけ好かないやつだと、キャサリンは思っていた。
「またな」
ノットは嫌味な笑いを頬に残したまま、出て行ってしまった。
次の授業に教室を使うのかと思ったら、キャサリンがいたので嫌がらせをしにきただけのようだ。
キャサリンの舌打ちが静かな教室に響く。
キャサリンはいらだち紛れに机に杖を向けた。
今度は、さっきのノットや教師の杖の振り方を頭に思い浮かべる。
「レパロ」
棚がのめりこんだ机は瞬く間に元の形に戻った。
「キャサリンもすごいね」
ジニーがキャサリンを励ます。
キャサリンが少し苛立ったように足早にその場を去り、コリンとジニーもキャサリンについていった。
「今日もハリー先輩の写真撮れるかなぁ」
その次の日の早朝、コリンの話に付き合いながら、校庭を歩く。
日は上っており、校庭は明るいが、少し10月のはじめでもう肌寒い。
なぜ、こんな早起きかというとクィディッチのグリフィンドールの朝練が見たくなったからだ。
コリンは、いつものカメラをいつの間にか片手に握りしめている。
その頬は、ハリーの雄姿を想像してバラ色だ。
キャサリンも朝から眠いが、クィディッチが見れるならと思い、付いてきていた。
眠く、空腹なのでキャサリンの口数は少ない。
キャサリンを放っといてコリンは推しに対する愛を語っている。
ホグワーツ初日から意気投合した二人は暇さえあれば、こんな感じだ。
キャサリンは、ハリーも“生き残った男の子”かもしれないが、コリンの愛はヤバいと思っていた。
特に、コリンのハリーの全時間割を把握して追いかけるのはやりすぎじゃないだろうか。
同じくハリーを愛するジニーは兄のロンにかこつけてハリーに付きまとっている。それが、できないコリンはいつも話しかけるのに必死だ。
ハリーファン曰く、ハリーは“生き残った男の子”で、去年も事件を解決した英雄で、最高にかっこいい先輩らしい。
イマイチ理解できないが。
キャサリンから見ると、ハリーは普通の少年だと思う。
そこまで惹かれるものはない。
確かに、長所として、勇気があり、グリフィンドール生らしい。でも、それだけだ。
ハリーたち3人組の中だとハーマイオニ―・グレンジャーのほうが頭の回転が速く、機転が利く秀才だ。彼女の方がすごい。
「おやおや、車でホグワーツに乗り込んでくださったハリー・ポッター様じゃないか。」
しばらく歩き、赤い練習着を見た。
コリン曰く、グリフィンド―ルのクィディッチの制服だという。
そこで、2人は嫌なものを見てしまった。
スリザリンのクィディッチチームとマルフォイの取り巻きに絡まれているいつものハリー・ポッタートリオとグリフィンドールのクィディッチチームだ。
スリザリンチームの箒は驚くべきことに全員ニンバス2001だった。そして、話を聞くにあの箒専門店で夏休みにニンバス2001を大量購入したドラコ・マルフォイがシーカーに就任したらしい。
コリンがさっそくハリーの応援に駆け寄った。
「ハリー、おはよう!
ハリーがうらやましいのもわかるけど、マルフォイ先輩もこんなことしちゃだめですよ!」
おい、こら
コリンもなんてことを言うのだ。
そうだ、そうだ、と周りの何人かもうなずいている。冗談だろう。
スリザリンチームのいらだちはヒートアップしたらしい。
マルフォイは青白い顔を怒りで顔をゆがませる。
「カメラ小僧に、目立ちたがりか。
穢れた血め。」
“穢れた血”か。
ハーマイオニーの顔が青ざめ、コリンは戸惑った顔になる。
キャサリンは、マルフォイが好きではない。キャサリンなどのグリフィンドール生の下級生にもたびたび絡んでくるからだ。ただ、こんな暴言を言うとは思わなかった。
「賄賂でシーカーになったやつのほうが穢れてるだろ」
キャサリンがボソッとつぶやく。小さなつぶやきだったが、聞こえていたようで、マルフォイはキャサリンを睨みつけた。
ロンは顔を紅潮させ、杖を抜く。
「思い知れ!マルフォイ!」
ロンの杖から緑の閃光が飛び出た。
ボンッ
「ぎゃああ」
しかし、皆忘れることなかれ。ロンの杖は折れている。当然のように呪いは跳ね返り、ロンに直撃した。
ロンは、悲鳴を上げ、ナメクジの反吐を吐く。キャサリンは華麗にナメクジの反吐を避けた。
そして、さらに後ろで笑いながら杖を構え、ハリーとハーマイオニーを攻撃しようとしたスリザリンチームのメンバーに飛び蹴りを加えた。
「キャサリン、すごい!」
カシャッ、カシャッ
コリンのカメラの音が響く。
「逃げるぞ!」
気づけば、両チームの他の選手も杖を抜いたり、相手をこぶしで殴ったりして、ケンカを始めていた。
マーカスがウッドに黄緑の光線を飛ばす。ウッドはそれを避け、プロのようなパンチをお見舞いした。
ウッドが叫ぶ。
「1,2年生たち!ロンを連れて、避難してくれ!」
ロンはまだナメクジを吐きまくっている。ロンがやばい。
「ハグリッドの小屋に行きましょう!」
「OK!」
ハリーが叫ぶ。ロンの手をジニーとつかんだキャサリンはハリーとハーマイオニー、コリンとともに校庭から走り出した。
ハグリットの小屋についた5人はハグリットと共にロンを見守っていた。
「ねえ、穢れた血って、何」
ロンのナメクジ発作が少し収まってから、コリンがおずおずと切り出した。
「マグル生まれを蔑む言い方よ」
ハーマイオニーがコリンとハリーの疑問に答える。
彼女とキャサリン、ロンは意味が分かっているため、表情は暗い。
「マルフォイ一族みたいな“純血”って呼ばれてる連中には自分たちがいちばん魔法界で偉いって思ってる連中がいるんだ」
そして、“例のあの人”も強烈な純血主義を掲げ、マグル、マグル生まれや逆らった魔法族を惨殺していったのだ。だから、純血主義は魔法戦争時から激しく嫌われている。
ロンは、げぇっ、とまた一匹の大きなナメクジを吐き出すとニヤッと笑った。
「まあ、大半の魔法使いはそんなの関係ないって思ってるけどね。ロングボトムを見てみろよ。あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけたりしかねないだろ」
キャサリンの眉間にしわが寄る。
「なんだと!」
ハリーが慌てて弁明した。
「ごめんって。キャサリンもロングボトムなの忘れてた。ネビルのことだよ」
キャサリンはネビルをバカにされるのもムカついたが、ハリーの謝罪に一応怒りを納める。ロンはまた、桶に顔を突っ込んでいた。
ハーマイオニーが背中をなでている。
「おお、お前さんもロングボトムなんか、キャサリン」
「たしか、ネビルのはとこだよね」
そういえば、キャサリンはこの森番と会話するのが初めてだったことを思い出した。
当たり前のようにみんなからキャサリンと呼ばれていたので、名字を知らなかったらしい。
「そうだよ。よろしく、ハグリット」
ハグリットは大きな体に似合わぬ笑みで、ニコッと笑った。
「おう、これからよろしく頼むぞ、キャサリン。マグル生まれっちゅうても、ハーマイオニーの使えない呪文は一個もなかったぞ」
ハグリットは、ハーマイオニーを誇らしげにほめると、ハーマイオニーはうれしそうに頬を赤くした。
「そうだ。ハーマイオニーは純血のノットとかマルフォイの何倍も頭がいいだろ。たぶん半純血の私よりもな。コリンも十分頑張ってるし、気にしなくていい」
キャサリンも続ける。
まあ、コリンは写真を撮りまくるという迷惑行為をしまくっているが。
さらにナメクジを吐くロンの写真を撮ろうとしたので、カメラを取り上げた。
コリンはキャサリンからカメラを取り返そうと、ぴょんぴょんするが、あいにくキャサリンのほうが背が高いせいで、取り返せなかった。
今日は、朝の乱闘のおかげで、グリフィンドールとスリザリンは減点確定だろう。キャサリンたちが来る前からケンカしそうだったし、できれば罰則はなしがいいなあと、キャサリンは思った。
10月31日、ハロウィンパーティ―の日
そして、その日は来た。
夕方になり、ハロウィンパーティーはとっくの昔に始まっている。キャサリンは宴の途中で抜け出してきたのだ。
キャサリンは、宴の途中でトイレに行って戻ってこないジニーを探していた。大広間からいちばん近いトイレを覗いてもおらず、こんなにも姿がないのは心配で、おかしいことだった。
ジニーとキャサリンは仲が良く一緒にいることが多かったが、ここ最近、ジニーはどこかに行ってしまい、いつのまにか戻ってきていることが多い。
どこに行ったのか聞いても教えてくれなかった。
キャサリンは、ジニーがどこに行っているのか教えてくれないことよりも調子が悪そうで、それが日に日に悪化していることのほうが心配だった。
パーシーの持ってきた“元気爆発薬”もジニーには効果が無い様である。
キャサリンは、大広間から離れた3階の廊下を歩きながらジニーの不調について考えていた。気が付かないうちにこんなところまできてしまった。
風邪ではなさそうだろうし、なら精神的なもの?
でも、特に悩むようなことはあっただろうか?
むしろキャサリンのほうがスリザリン生などから突っかかられている。
キャサリンは少し幼いところがあり、ハリーへの恋心で悩むジニーの気持ちにはあまり考えが及んでいなかった。
ぽちゃん
耳のどこかが水音をとらえた。バタバタと人の走り回る音がする。1人ではない。
キャサリンは音の方向に向かった。
「だから、声だよ!声!なんで聞こえないんだ」
「ハリー、そんなもの聞こえないわ!」
「ハーマイオニーの言うとおりだ。僕にも聞こえないよ」
聞き覚えのある声がする。この声は…。
『うわー!!』
そして悲鳴も聞こえた。
キャサリンは柱の向こうから飛び出した。
「ハリー、ロン、ハーマイオニーまで、どうしたんだ?」
なぜだか、3人は答えてくれなかった。
キャサリンは3人の視線の先を見る。
「秘密の部屋…?」
壁にべっとりと染み付いた血のように赤いペンキ、濡れた廊下で死んだように動かない猫。
ホグワーツに新たな事件が起きる気配をキャサリンは感じた。