代り映えのしない日常はクソだと思っていた。
だが、こちらの都合を無視してやって来る非日常もクソだった。
ようやく終わった。
そう思って意識が落ちて死んだはずが、体感で居眠りからはっと覚めた程度の時間で違う体で目が覚めてしまった。
日が昇る頃から起き出して、日が沈んだら大人しく休む。
異世界か過去なのか今の所わからないが、電気すらない環境での生活は不便すぎる。
肉体の年齢は10歳前後の男の子。
前世と性別が変わっていない事だけが救いかもしれない。
農家の三男でスペアのスペア。
なんなら長男が成人しているので、受け継ぐ物の無い立場として下の兄と一緒に賃金が払われず使われる奴隷のような扱いだ。
差別や身分差、迷信だって現役で存分に活躍して苦しめて来る。
木製で隙間風が入る雑な作りの家を藁と泥でましになっているのか分からない補修をして住んでいる。
最悪なのは娯楽が無いからといって、ヒッソリとヤッている心算でバレバレな両親の営みを聞かされる事。
俺の下の弟を養うのすらギリギリ、風邪に罹るだけで碌な看病すら出来ずに死なせるだろう現状で何をヤッてるんだか。
息を吸うだけで体が内側から痛んだりすると、前世の俺のようにさっさと終わってくれないかなと思うようになるほど辛いのに。
これは俺の感覚が現状とずれているのだろうか?
多く死ぬのだから多く産む、その常識に沿っての行動なのか。
多く産んだ事によって食事や世話の手の不足によって死ぬのは仕方無いと割り切らないといけないのか。
◇◇◇
クソのような状況が変わったのと、この世界がどんな所なのかを知るのは同時だった。
『念能力』の発現。
正確には既に存在して発動していた発が再度効果を発生させた事によって、その効果を認識できたと言うべきだろう。
『転生』と言えば聞こえがいいが、俺のそれは元の人物の魂を侵食して書き換え相手を『自分』にするものだった。
黎明さんの増え方とは違い元の人格は消化されて、その人格を下敷きにした俺が体を支配することになる。
兄弟と父親が自分になって、拙い纏だけだがオーラの操作に目覚めているのは外法による覚醒扱いだろうか。
殴って意識が飛んだ所で掴み掛かったのが能力を発動させるトリガーだと思う。
体感だが兄弟の方が能力の通りが良かったのは血縁か年齢の近さが能力の効果に関係しているのかも知れない。
ハンター×ハンターの世界なら、水見式による系統判断とそれに合わせた能力作製を考える時間が一番楽しみな部分だったのに、能力発現済みとはがっかりだ。
◇◇◇
最初に魂が入った体で行った水見式の結果は特質系。
そうだろうな、としか言いようの無い結果だった。
ヒソカのオーラ別性格分析でも特質系は個人主義だったしね。
まあ、俺のは個人主義(物理)なんだけど。
水見式の変化は、水に浮かべた葉っぱが葉脈を残して溶けながら水底に引きずり込まれて沈むもの。
悪役らしさしか無い見た目だ。
これまで過ごしてきた記憶などは欠けていないし、元の人格を消化しておおよそ同じ性格を持った俺が生成されているのは演技などボロの出そうな事をしなくて済みありがたい。
さらに嬉しい誤算は、兄弟や父で行った水見式の結果がばらけていた事だろう。
魂は同一だが肉体はそれぞれ違い、肉体と魂を繋ぐ精神も魂の侵食によって変質しているからだろうと仮説を立てておく。
問題は増やした自分達に単純に才能が無い事。
万人に一人の才能持ちどころか、本当にそこら辺にいる一般人なのだから順当なのだろうけど。
しかし二度目の人生まで、仕方ないと流されて死ぬまで過ごす気は無い。
なにせネームドにすらグロく惨い退場が用意される世界なのだから。
◇◇◇
幸いにも一般人を十分な戦力化する方法は原作で描かれていた。
継承戦編のモレナとハルケンブルグのやり方である。
後は時間と一定の実力者が必要だがグリードアイランドの才能の卵だろう。
現在保有している能力で実行可能なのはハルケンブルグのジョイント型能力による底上げだろう。
しかし先に効率良く侵食を進めるため、能力に名前を付け制約と誓約で能力の強化をしようと思う。
『
この能力は、同性にしか使う事ができない。
この能力は、非念能力者にしか使用できない。
この能力は、人間にしか使用できない。
この能力で発生した者は、メビウス湖の内部でしか活動できない。
能力の使用を同性に限定することで、能力の効果範囲を半分にまで縛る事で血の繋がった相手以外への侵食効率を上げる事を期待している。
非念能力者に限定するのはリスクを減らしているように見えるし、他人の作った能力使いこなすなんて器用な事が出来ないのも理由だが、念能力者なんて確定レアを引けない事は誓約として十分に機能すると思う。
なんせ自身の運が良くない自覚があるのだから。
設定上4%のURを引くのに100連回してUR二枚、確定SR以上有りの10連で回してこれならマシ程度の屑運だった。
最低保証や天井の無い状態で単発だけ回す事を選ぶのは爆死しに行っているようなものだろう。
人間以外を効果範囲外に設定した理由は、この世界には人並みの知能に人には無い特殊能力を持った魔獣や、人を取り込んだ事で基本性能で人を凌駕するキメラアントなどが出てくるが、彼等に対しての対抗手段を自分から一枚手放すのはリスクを冒す選択肢になり能力の向上ができるだろうとの考えからだ。
活動をメビウス湖内部に限定するのは、暗黒大陸の莫大なリターンに手を伸ばさないと言う事。
ジョイントの人数を増やした上で、目的に沿ったメタ能力で挑めば世界の在り方を変えるだけのリターンを俺等が手に出来る可能性も作れるだろうけど。
特に攻略優先度が高いのはパプだろう。
作中で近代5大陸でも犠牲者が発見されているからではなく、その異名に理由がある。
『人飼いの獣』つまりパプの縄張り周辺には暗黒大陸でも生活出来ている人類がいるはずなのだ。
その人々と接触できたなら交易や交換でリターンを得られる可能性もある。
そこまでいかなくとも暗黒大陸探索に有用な物品や情報を得られる可能性があるだけでもこの地域を他より優先する理由には十分だろう。
暗黒大陸で生活する上での常識や注意事項などの情報を手に入れる事はリターンに繋がる成果になるだろうし、他の地域を探索する際であっても最低限の常識や注意事項は有用なはずだ。
また問答無用で殺害しようとしていない、人を飼う対象にしているのも重要だ。
どこまでが人の範囲に入るのか、念獣で先行して調査した場合にどうなるだろう?
念獣から本体を特定されて囚われるのか、人では無い判定で探索が継続できるのか。
或いは本編で電脳世界の住人になっているキャラがいた。
つまり肉体以外に人格を移す手段が提示されている。
アンドロイドなどに人格を移し探索させたならそれは、人と判断されるだろうか?
ビヨンドも仲間にアンドロイドのような少女を加えていたのはここの攻略を想定してだろう。
パプのもたらす「快楽と命の等価交換」ここに攻略の糸口を見出す事も不可能では無いだろう。
ドン=フリークスの書いた新世界紀行がただの自慢話でないなら、攻略のヒントくらいはあるのではと思っている。
念獣や機械の体なら快楽の遮断が出来るだろうし、冷静に探索するための発を念能力で作り感情や感覚の極端な変化を抑え等価交換を成り立たなくしたらどうだろう。
操作系の能力であるなら先に操作しておく事で防ぐことが出来るが、防げなくとも違和感を感じ離脱できたなら対策として一定の効果ありと言えるだろう。
ビヨンドが取得を目指しているリターンは別の物だったが、あれは過去に自分が持ち込んだ厄災に対処する気なのだろう。
万病に効く香草ならゾバエ病程度どうとでもなるはずだ。
そうすれば厄災一つの攻略で過去の禊と次の厄災の攻略、そして2つ目のリターン確保が狙える。
一石三鳥の目標設定なのだろう。
帰り道で余計な事をしたために一度目は失敗しているが、リターンの確保と移送のノウハウを持っているのは強い札だ。
不思議なのは新世界紀行に出てくるリターン狙いで渡航している以上は、ドン=フリークスの後追いにしかならないのに何故か新ルート開拓に拘った事だ。
今の時点でもいくつか俺等がリターンを得る可能性が思い浮かべられるが、それを選ばない事は最新コンテンツ不使用縛り程度の差が将来出るリスクになるだろう。
また、各国の上層部が信用できないのも暗黒大陸進出に否定的な立場の理由だ。
リターンを巡って争い人類が衰退、文明崩壊程度なら起こりそう。
なんならその舞台で特殊技能持ちの精鋭が活躍する物語も面白そうだしな。
さらに言えば近代5大陸の次のステージが暗黒大陸である事に疑問を感じるのも理由としてある。
ドン=フリークスってRTA走者のような印象があるんだよな、それも世界記録持ちクラスの実力の。
本来なら近代5大陸の次はその外側にある大陸の開拓がメインストーリーで、初期の開拓に必要な道具や人員の選定や使いやすい開拓拠点開発の経験を積んでから暗黒大陸に挑むのが本筋。
なのにワールドレコード持ちの走者のショートカットを見て、その難易度を理解しないままにショートカットを真似しようとして失敗してるのが原作での暗黒大陸挑戦のイメージなんだよな。
明確な利益が提示されてしまっているのと、大昔の人物ができたなら今の技術と人員で出来ないはずが無いと思ってしまって余計に被害を拡大させてしまったのだろう。
これだけ制約と誓約を積んでいて、協力する念能力者が最底辺とは言え複数いる状況なら、意識の無い相手に触れて侵食完了まで離さない事が条件の能力でもこの集落か村くらいの規模なら簡単に制圧が可能だ。
しかしバレずに静かに自身を浸透させる方が面倒事を起こさなくて済む。
モラウさんだってそんなことを蟻編で言ってたし。
◇◇◇
季節が巡る程度には時間がかかったが、同性の侵食が完了した。
幸先が良いのか悪いのかここは大陸では無く、少し大きめの島だった。
まだまだ開発の余地があり島民の数が増えても大丈夫そうだ。
良い点は住人の男性が全て俺になった事。
反乱や分裂を警戒しなくて良い反面、ジョイントでの能力向上の爆発力は下がるかも知れないが人数でカバー出来るだろう。
悪い点は島だけで生産消費活動が回っているので、他の人里との交流が無い事。
お陰で今がどんな年代なのかすらわからないし、外洋航海技術を自力で獲得しないとホラー物の因習島程度の扱いで終わってしまう。
しかし、ここからお楽しみの念能力作製が始められる。
各系統が揃っているんだ現状を打破し、この世界への一歩を踏み出して気になる事や気になる物を見に行こうじゃないか。
◇◇◇
原作の人物で特に気になっているのは、流星街出身者のシーラ。
その彼女が憧れたと描かれていて、キーアイテムになりそうな本が冒険活劇ディノハンター。
恐竜らしきものがネテロの回想で暗黒大陸にいるのが判明しているし、なにより『ディノ』にギリシャ語で「恐ろしい程に大きい」との意味があるんだよな。
暗黒大陸の事を書いた新世界紀行が空想小説扱いだったのだから、ワンチャンこれも暗黒大陸関連書籍の可能性ないか?
ビヨンドが読み込んで調べたりしたなら、実在する場所だと気が付くように書いた仲間集めの策の一つとかだったら面白いな。
島の外に出たら探して読んでみたいものだ。
暗黒大陸探検隊にいないってことは無いと思う伏線が張ってある人物であり、旅団とクラピカどちらとも接点がある。
特にクラピカはシーラからはディノハンターをパリストンからは十二支んの子のポストを継いでいるため、パリストン=シーラ説が正しいなら色々な伏線のコンボが決まるから次の登場が楽しみだった。
まあ出てくる前にオリジナルの体がくたばったんだが。
単行本派で続きを読めなかったのが少し心残りだから、この世界がどうなるのかとても楽しみだ。
さて島一つ分の男性を侵食しておいて今更だけど、心配なのは俺が厄災扱いにならないかどうかなんだよな。
外来種(異世界産)で理性が無くなるゾバエ病よりはマシだけど、魂を侵食して上書きするから同居するアイより人体に有害。
侵食終了時に念に目覚めるのも、無暗に念を広める事が禁忌となっているからには問題だ。
でも人類を存続の危機に陥れたりはしないので危険度は低いはず。
大丈夫‼人間に寄生して擬態するから発見が困難だけど、今の所最初の個体からしか寄生と増殖が発生していないから。
つまり最初の個体が死ぬ前に増殖に必要な能力を他の個体でも使えるように引き継いでから退場したら不味いか?
……大丈夫‼俺、悪意は無い外来種だよ。
なお実害の有無については、黙秘させて貰いたい。