アイアスの奴が何か悩んでいる様だがガキじゃないんだ、自身でどうにかするか相方が発破をかけるだろう。
それよりも俺の方が差し迫った問題があるしな。
「ちょっと、兄弟子‼じじいに挑戦するって本気ですか?」
クイズに周囲が気を取られているが小声でビスケが話しかけて来た。
妹弟子としての立場を考えてかぞんざいな口の利き方では無く、気持ち少し丁寧に話している。
「ああ、随分長く待たせてしまったけど俺が胸を張ってあの人の弟子だと言うには手合わせで一本くらい取らないと」
本当は最強だった半世紀前のあの人に通用する自信が欲しかった。
自身に何か足りていないとの思いがずっとあったから、発が形になるのも随分と時間が掛かってしまった。
仕事より新大陸の環境を利用して体を鍛えるのを優先していても満たされなかった。
巨体に潰されずに相手取る技量を身に付けてなお足りていなかった。
そこでようやく俺は自身に『心』が足りていない事に気が付いた。
心源流を師範代にしてもらう程仕込んでもらったのに何とも恥ずかしい。
だから心技体を揃える事が出来るG.Iへの誘いは渡りに船だった。
若い頃の体が発する無暗に暴れそうになるエネルギーもこれまでの経験が御する術を身に付けさせていた。
調整役としてしっかりと心源流を修めているビスケがいる事も、間違いなく強者であるレイザーとルールの内側で対峙出来る事も糧に出来た。
時間は掛けてしまったがその分念獣は成長して百式観音が相手でも、なすすべなく叩き伏せられる事は無いだろう。
「確かに昔から会長とは呼んでいても師匠とは呼んでませんでしたね」
「そう呼ぶには俺の側が不足しすぎていたからな」
会う事が出来る最後の機会になるだろうこの時期に間に合ってよかった。
「面倒な連中の移送もあるようだし、立ち合いの見届けも兼ねてついて行ってあげるわさ」
「あの頃の面子も少なくなったしネテロ会長も喜ぶだろう」
元の姿の方が胸デカいから喜びそうだけど、ビスケの可愛いもの好きを知っているからそこは言わないでおく。
葬式の供物にエロ本を選ばれる元気な爺さんだが、弟子からそんな気遣いはいらんだろう。
武人に贈るなら覚悟と気合を乗せた拳こそが相応しい。
◇◇◇
ゲームマスターに聞いて貰った所ゲーム内のプレイヤーを封印系能力で隔離するとログアウト扱いになるそうだ。
移送が楽に出来て良いが時間を掛けると封印の性質もあり衰弱させてしまうだろう。
つまり手早くやれと言う事だな。
豚の様な見た目をしたモンスターの所長を有無を言わせず殴り倒して島から出るチケットを手に入れる。
ハンター協会の本部があるスワルダニシティーにも飛べるようなので移動は余り時間が掛からないだろう。
本部の建物に着いてまず行ったのは受付で、ミザイやチードルが居るのかの確認とアポイントメントを取る事だった。
俺から彼等に会いに本部へ来るのは面倒事を投げる為だと分かっているだろうから、時間が空いたらすぐに来てくれるだろう。
「やあ!珍しいギブソンさんじゃないですか‼」
この雰囲気はキラキラしていながら腹の底までどす黒い、副会長に収まっているハンターに面倒事を起こす原因を掌握されたくないだろうから。
……若返っているのに一発で俺だと分かったのは見た目だけじゃなくオーラか何かで人を判別しているのかね?
「パリストンか、丁度いいなミザイかチードルが今どうしているか知らないか?」
「うーん自分に割り当てられた部屋で仕事をされていると思いますが、ボクで出来る事なら承りますよ?」
「専門家の手が借りたくて来たんでな、気持ちだけ貰っておく」
「ボクこれでもトリプルですから‼様々な分野に対応できますよ?」
新しく玩具に出来そうな気配でも感じ取っているのか、にこやかに自分の得意な
「その必要は無い。こちらに要件を持って来てるんだ、オレが部屋で話を聞く」
流石!十二支んの苦労を背負わされる方だ。
即座に反応して面倒事をキャッチしに出て来たミザイが、副会長が話をデカくする前に駆けつけてくれた。
ちなみにもう一人の苦労人は自分から苦労を背負い込む戌の方。
「そうですか‼それじゃあボクも仕事に戻りますね!」
それでは!と言ってパリストンは去って行く。
明るく元気に見せている
◇◇◇
「では法的にどう判断されるか分からない場所での大量殺人犯を、どの様に扱うのが適当か判断が付かなかった為ここに犯人を連れて来たんですね?」
「ああ、同じ十二支んが絡んだ面倒事ならお前ら以上の適任はいないだろう?」
拳を握ってぐぬぬとなっているのはジンでも殴りたくなっているのだろう。
「ジンは電脳ページの極秘会員だしゲームって事になってる島での出来事なんて他の連中では手に余るだろう」
深くため息を吐いた後、少しの恨み言が口からこぼれる。
「あなたはいつも面倒事を持って来ますね」
眉間の皺を伸ばしながらカップからコーヒーよりミルクを大量に入れた飲み物を口に運んでいる。
「アイアスも一緒にゲームやってたんだが、友達を置いて来る訳には行かなくてこっちには来てないんだ」
「ああ、彼ですか……歪まず育ってくれているといいんですが」
俺達が立場のある人物を侵食出来たのなんて、ほぼ一世紀前の出来事だ。
穏便に済ませる為には資金に余裕を作り自前の孤児院を建てて、そこに捨てられた子供から仲間に加える方針になる事は避けられない出来事だったのだろう。
捨てた子供が
大抵は教育費などが親権を持つ者の全額負担になると知ったら
アイアスの親はその中でも割と酷い部類で、他にも捨てた子供が居るのに引き取ろうとしているのは稼ぎが良いうちに捨てた
ゴミ掃除に熱心なのも自分の欲しいものを定められず藻掻いているのも原因はこれだろう。
「自身で向き合って解決しないとどうにもならないが、あいつを一人だけにする事は無いから道を踏み外させはしないさ」
そうあって欲しいものです。
白黒付けられない事が多い中でどうにか折り合いを付けている男は疲れていてもちゃんと格好いいじゃないか。
「そう言えば会長と久々に手合わせしようと思って来たんだけど、スケジュールに空きがありそうな日って知らない?」
ついでだからここに来た用事をまとめて進めてしまおうとしたら、飲み物で
「本気ですか……?」
「持って来た面倒事が嘘だった事なんてなかっただろう?」
年長者の言う嫌な説得力のある内容にミザイが
「そこまでにしてあげなさいな」
ただの事実確認だったのに俺が悪いかのような遮り方だった。
「じじいには時間作るように連絡入れてあるから、仕事が一段落して用件を見たら本部にある道場に来るはずだわさ」
おお流石だ、元の姿だと出来る女感があるもんなビスケは。
「助かる。複数の事を効率よく捌くのにはどうも慣れてなくてな」
人数のごり押しでシングルタスクに抑え込むのが俺達の普段のやり方だったから……副官や秘書って大事なんだな。
さっさとゲンスルー達を引き渡して本命、本懐の為に心技体を整えて待ちたい。
ここを逃せば俺は、満足して死ぬ事など出来なくなるだろう。
最強の師匠に弟子として、今だから出来る最高の恩返しをしようじゃないか。