道場で正座をしてネテロ会長が来るのを待つ。
オーラを静めて心の内側に意識を向ける。
一緒に道場へ来たビスケは何も言わずに控えていてくれて正直助かる。
爆弾魔達を封印して運ぶのを見た時はそんな事が出来るなら移送に付き合う必要ないじゃないかと怒っていたが、一旦付き合うと言った事は覆さず手合わせの立ち合いをしてくれるみたいだ。
好きな事をやりたい時にやっているようでも、TPOがキチンと分かっているいい女だと思う。
自分の眼鏡にかなう宝石を見つけた時は自制心が怪しくなるが、そこまで夢中になれるものがあるのは人生に張りが出るだろう。
俺はそうしたものとは無縁だと思っていたが、どうもそうではないらしい。
ネテロ会長と発ありで手合わせをしたいのは何も最強に興味がある訳ではない。
自己満足と言えばそれでお終いだが俺達の方針である代を重ねて自己強化を図る計画に逆行してでも、俺自身の実力でネテロ会長から一本でいいので取りたかった。
技量を向上させる際に、他の連中からのバフさえも切って自身の体一つで鍛え直した。
その事で足りなくなった時間を若返りなんて、なりふり構わない形でどうにかした。
強くなりたいなんて雑でも真剣な願いを形にしてくれた念獣は一心同体だからこそ、結果で成果を示してやりたい。
だからか今の俺には、近づいて来る会長と連れ立ってこちらに来ている連中がここからでも分かる。
これがヒソカの言う感度ビンビンな状態なんだろうか?
十二支んの例外以外で本部に居た連中を連れて来ているのは、もしかしたら彼らに自分に従うだけでは無く挑み越えようとして欲しいと願っているからなんだろうか。
それなら悪いけど、挑む気はあっても俺こそが上だ‼なんて気構えで手合わせを願ってる訳ではないんだよな。
◇◇◇
「すまんの、少し待たせたか」
「いえ、スケジュールも確認せず来たのに即日応じてもらえるとは思っていませんでした」
目を開き、立ち上がってネテロ会長を迎えて少し話をする。
「随分と懐かしい姿じゃな」
「さっきまでジンの作ったゲームで彼の息子と遊んでいました。若さを分けて貰うような眩しさでしたね」
G.Iの事はネテロ会長も知っているだろうから詳しい説明はいらないだろう。
「そうか、ちゃんと精進しとるようでなにより」
腹の中の読み合いなんてものはパリストンとでも楽しんでくれたらいい。
俺に出来るのは愚直に前に出る事だろうから。
「久々ですが手合わせをお願いしてもいいですか?」
「なにか掴んだ顔をしとるの、いや悩みでも吹っ切れたのか?」
その答えは口で語るものではないだろうから、構えを取る。
「発ありでお願いします」
「分かって言っておる様じゃな」
ネテロ会長の使う発である百式観音は不可避の速攻。
後手から出してさえ相手に行動を許さず叩き伏せる事を可能としている。
一旦構えを解き、一礼してから仕掛ける。
気が付いた時には巨大な手が上から振り下ろされている。
だが念獣がしっかり衝撃を反射して相殺する事で一歩前に進む事が出来る。
左右から虫でも叩くかのように掌が迫る。
二歩目は圧迫感は無いが体が包まれそうになる事で若干進む速度を落とされた。
しかしそれでも若返った肉体だからこそ出せる速度は俺をネテロ会長に肉薄させている。
三歩目でこちらの拳が届く距離まで詰め、習い覚えた一撃を師匠の胸に流によって右の拳を攻防力を70にした凝で正拳突きを放つ。
武人としてのアイザック・ネテロなら違う行動をしただろうが、師として弟子との手合わせに胸を貸そうと考えていた故にそれを避けずに流そうと拳に手を添えようとした。
自身の技量で実現出来ればそれに越したことはなかったが、メモリを割いて発を作った事でこの一撃を届かせる事が出来るならたとえ使う機会がほとんど無いとしても無駄遣いではない。
『
◇◇◇
「こりゃ一本かの?」
「ご自分で後ろに跳んで、衝撃を逃がしているのだからそれは無いのでは」
しかも手を差し込んで防御していたから直撃ですらないのに。
「いつも使っておった鋭いオーラを纏った一撃が使えなくなった訳じゃなかろう?」
少し師匠の目が鋭くなってる。
手加減したんじゃなく、確実に当てる為に使わなかったんだけどな。
「すまんな、なんとも寝惚けた状態で立ち合っとった」
「半世紀近く待たせてしまったんです。微睡むくらいは仕方ないでしょう。完全に
「言うじゃねえか‼まさか、これで終わりって事はねぇよな?」
うーむ、師匠さっきより気持ちが入ったからかより強くなってね?
接近する最低限程度にしか百式観音に対応出来ないから気合入れられると敵わないんだが。
久々の地獄組み手になるだろうなこれ、さっきの一発で気分よく終わったりは出来ないか。
自分の命に届く攻撃を持つ相手として対応されたら近づくのも無理かもしれん。
◇◇◇
無理でした。
九十九の掌みたいな前進を止められる攻撃をされるとこちらは打つ手無しなんだが。
他にも零は奥の手だから使われないだろうけど、あれはオーラによる攻撃だから使われたら吸収出来ずに普通に食らって死ぬと思う。
いくら若返っていても百式観音の攻撃を迂回して前に踏み込む事が出来る程、人間は速く動けないんだから前進を止めつつ打たれると画面端で受けるハメ技コンボみたいになってしまう。
念獣の能力は燃費がいい方だから支援受けずに一般人が千回は死ぬ様な衝撃をどうにか出来たけど、本体の師匠自体が強いから突破しても状況は好転しない戦いなんだよな。
むしろ突破させてからの打ち合いを楽しんでさえいるだろうこの
生涯を懸けて研鑽したメタを張った能力を一日もかけず対応されると不器用だと自覚があってもへこむぞ。
そもそも実戦ではなく、組み手の相手なら出来る程度までしか実力を高められなかった。
レベルを上げて物理で殴っても相手の方が高レベルだと普通に負けるよな。
武人のアイザック・ネテロどころか百式観音を部分的にしか攻略出来る様に成れなかった。
生き生きとして俺をぶっ飛ばしてくる師匠を止めてくれたのはビスケだった、しかしこれで終わりって事じゃなく魔法美容師で二人のコンディションを整えてやるから一旦仕切り直しにしろって話だった。
「二人とも年を考えず、はしゃぎすぎだわさ」
一応俺は若返ってここに来てるんだけど、年相応の行動をしろって意味なら耳が痛いな。
でも百発中一、二発しか殴り返せてない状況を続けさせようとするなよ。
心が折れたりはしないが若手の糧になってる訳でもないから、
「随分と強くなっとったな。今なら誰が見ても文句なしに師範代を任せられるだろう」
「俺もやっと自分の実力を認めてやれそうです」
あまり認めてくれなさそうな強火会長大好き勢もここにいるけど。
自分達以外がネテロ会長に認められているのに対抗してか、メディカルチェックをしてくれているチードルは外から見ても気合に満ちている。
面倒事を投げつけたミザイも気力が戻って来たのか目に力がある。
「急ぎの用事が無いならしばらく
「俺一人で師匠の相手してたら体が持たないんですが?」
イエスマンな十二支んのいる所で反対意見を出して睨まれるのはいい事ではないが無理なものはどうしょうもない。
「ビスケとチードルが
「ちょっと‼私の予定を聞きもしないで決めないでくれる⁉」
治癒能力と強化系の自己治癒があって俺の衝撃を吸収出来る念獣の能力、そこに疲労回復が出来る能力があれば出来なくはないけど本気か?
「せめて飯も美味いの用意してくださいよ?」
「まったく‼せっかく手に入れたブループラネットを愛でる暇も無いなんて……依頼料は高くつくわさ‼」
「ホッホッホ。まっいいじゃろ、吹っかけて来てもその分しっかり働かせりゃあいいからのぅ」
出来るなら道場に居た時の様な交代要員が居ればなお良しだが、師匠に恩返し出来る最後の機会なんだ。
キツかろうが付き合うしかないだろう。
十二支んの意識改革まではどうにもならないと思うけど。
◇◇◇
転生なんて経験をしたのは選ばれた存在だったからではなかった。
むしろ逆なんだろうと今なら分かる。
死を超越したのは人以上になったからでも、人以外になったからでもなかった。
『心』が欠けて人未満だったからこそ、こんな能力を発現させて未練がましく死にぞこなっているんだ。
数千人のバックアップがあってようやく一人が満足できる人生を、心を満たすものを見つけてくれたからそれに気が付いた。
始まりは様々な理不尽に怯え、それらを遠ざけたがった事だろうか。
事故や病気などで死ぬ事はなくなり、治外法権を獲得出来るだけの財力と権力を持ち念による武装をした事でそれはもう叶える事が出来た。
悪人が我が物顔で好き勝手しているのが許せなかった。
海上拠点『カルネアデスの板』と新大陸は善人が犯罪者を乗せずに蹴落として許される場所になるようにルールを作った。
だから、
さっきから気を抜くと意識がどこかへ飛んで行きそうになるのを感じている。
俺から派生した残っている連中も……これからは好きに過ごせばいい。
その結果俺達がこの世界から居なくなっても未練が残らないならそれでもいいだろう。
女性の念能力者などは避けていた連中が多いが、これから恋仲になるなりして俺達の事がバレたとしても別にいいだろう。
様々な分野で人類に貢献して来た実績を積んでいる以上、何がなんでも駆除なんて話にはならないだろう。
実際、魂こそ同じでも同一人物と呼ばれるかは観測する人次第なのだから。
オリジナルが居なくなっても大丈夫だと信じよう。
今はまだ
これでオリジナルとギブソンが一区切り。