大陸遠征の成果を持ち帰った事で島の住人、女性たちに対して出稼ぎと説明出来るようになったので遠出も可能になっていた。
この数十年の成果はそれだけではなく一番は『ギアススクロール』同意した契約を確実に守らせる事の出来る契約書を具現化できた事。
この能力によって本当の意味で代えの利かない人員が居なくなった。
生物を入れる事の出来ない縛りで製作した念空間に自身の死後、保有する発とオーラの使用を『皆は一人の為に』へ移譲する委任状を全員が入れている。
手足を捥いでも頭を潰しても一人でも生き残っているなら再起できる。
簡単に死ぬけれど完全に滅ぼす事までは楽には出来ない群体型の在り方、不死ではなく不滅へと至った。
だからと言う訳では無いけれど、ハンター試験を強化系で前衛型のギブソンに参加させる決断をした。
事前情報の収集と分析は人海戦術を使えるので本試験までたどり着けない事は無いだろう。
1950年代に入ったのでネテロ会長も修行を終えて道場を開いている時期のはずだ。
◇◇◇
今回の試験が開催されるのはハンター協会所有の土地が近くにある街で行われるみたいだ。
たらい回しのストレスの溜まるお使いをさせられた後に着いた集合場所は、同じ思いをしている者やこうした試験だと慣れている者など様々だった。
原作の様に番号の書かれたプレートを貰ったが、発信機などは流石に付いていないだろう。
具現化物なら位置が分かるだろうけど試験の為の能力を作っては無いと思う。
「今年も飽きずにまた大勢が来たもんだな」
スタジアムの様な大型の室内に良く響く声が聞こえた。
「よく来たな。お前らが覚えておく必要のある事は俺の言葉がルールだという事」
この言葉にざわついていた参加者の声が止んで静けさが辺りを覆う。
「無駄口など叩くなよ、さっさと進めるぞ。二人倒して自分のプレートと合わせ三枚のプレートを持った状態でこちらの扉から出ろ」
試験官が自分の後ろにある扉を親指で指した。
「俺が合格者の数は十分だと判断したら、お前らがじゃれ合ってる最中でも残ってる奴は不合格だ」
それから試験官は何人かを見渡しこちらにも視線を寄越した後にこう続けた。
全員ぶっ倒せば自分だけが合格者だ、そんな事を考えている奴がいるなら俺が設定している制限時間を過ぎたら、その時点でどれだけプレートを持ってようが扉から出ていない以上不合格だ。
自分のプレートを守れない奴は論外だな。
そう付け加えた後で扉へ向かって歩いて行き。
「このコインが落ちたら始めろ、せいぜい気張れよ」
キンッとこちらの事などお構いなしに言いたい事を一方的に言ってコインを跳ね上げた。
参加者の視線がコインに集中している間に、出口となる扉側へ絶を使いながら移動する。
同じように扉側を確保しようと動いているのは場慣れしている参加者だろうか?
チャリンとコインが落ちる音が聞こえると同時に静寂は破られ、参加者の怒号で埋め尽くされた。
定員や制限時間が分からない為に皆が短期決着を狙っている。
損害度外視で突破しようとしている者もいるが、第一試験でそれはマズいだろう。
倒すのは難しく無いがプレートを取る際に周囲の警戒も必要で、それをこの乱戦の中で熟さなければいけない。
近くにいた参加者に腹パンを見舞って動きを止めて、用が済んだら壁としての再利用をさせてもらう。
壁にぶつかって動きが止まった奴を狙おうとした者からプレートを貰い即座に離脱。
密度が上がると圧死の危険があるが対処できるのだろうか?
元からハンター試験は死んでも自己責任だから、いらん事をした自分達が悪いで終わるのだろうか。
◇◇◇
扉を抜けると既に数人が待機していた。
念を使える者はわかるが、それ以外は体術のお陰だろう。
見るからにボクサーの人はハンドスピードの速さでプレートを取り、フットワークで乱戦をすり抜けたのだろう。
他の人も何かしらの流派を修めているのかもしれないが、ぱっと見ではどの様なモノかは分からない。
第一試験に合格と言われた訳ではないので、扉を越えた者達も話したりはせずお互いに距離を取って待機していた。
待つ事になった時間はそれほど長く無く一時間程度だろうか、しかし参加者は十分の一程度まで減っていた。
「残ったのはお前らか、それじゃあ第二試験の会場まで移動するからついて来い、言うまでも無いがついて来れなければ脱落だ」
そう言ってさっさと走り始める試験官を見て、やはりハンター自分の道を行く連中だと再認識させられた。
キルアの受けていた試験と似た内容だと思っていたら、サトツさんのマラソンに近い内容だった。
しかし湿原の謎生物による選別の様に死者が出にくい形にしている事は評価したいと思う。
しかし参加者の意識を短期決着に持って行った後に持久走をさせるのは、怪我してでも試験を突破しようとした連中を振るい落とす為だろうか?
実際の仕事で最初に無茶をして悪化したコンディションで仕事を続けたら死ぬ危険性も高い。
こちらの事をまるで気にかけていない様に振る舞いながら、死なせずに離脱可能な内容の試験を考えているあたりツンデレのオッサンなのかもしれない。
◇◇◇
怪我をしていた連中以外の脱落が無いまま第二試験の会場へと到着した。
そこは鬱蒼とした森の中なのに真新しくデカい小屋が建っていた。
「おや、やっぱりあんたが担当すると数が絞られるね」
絵本の中から出て来たと言われても違和感の無い魔女が小屋から出て来た。
魔女のインパクトが強くて第一試験の試験官の姿がどうだったか意識から外れた気がしたので見てみると、意識して見ないと姿が記憶に残らない。
恐らく隠蔽型の発を使っている事がわかった。
何故そんなものを試験中まで使っているのかは分からないけど。
「他の連中に無駄が多いだけだ。頭なら本試験に来ている時点で最低限保証されている」
だからフィジカルと判断力を見る内容にすれば受かる可能性のある連中だけが残る。
見込み有りと言われたようで少し嬉しくなる。
「さて、ワタシがあんたらが課す課題はこれだよ」
パンッと老婆なのに力強く拍手を打って注目を集め言い渡されたのは、小さな陶器に入った恐らくは薬。
「あんたらにはこれを作ってもらう」
魔女の様な深い笑みで語られたのは第二試験の内容だった。
「調合に必要な物は森の中、小屋で揃う。今すぐに始めろとは言わないが時間にも気を配る事だ」
第一に続いて今回の内容も無言の圧に背中を押されながら、神経を削られる内容になるみたいだ。
残った参加者全員に陶器の器が配られ、それだけを頼りに第二試験が始められた。
まずマラソンの疲労を抜く為に座って息を整える者と、小屋の中を確認するものとに分かれた。
俺は渡された薬のサンプルをパッチテストの様に腕に塗ってから小屋の探索に入った。
そのせいで第一試験に続いてソロ活動が決まってしまったみたいだ。
小分けされた薬草らしき物や乳鉢など素人が考える調合に必要そうな物が置いて有り、貸し出しは老婆に声をかければ良いみたいだ。
強化された五感で薬について大体の事はわかった。
これは筋肉痛とかに使う塗り薬だろう。
親切心から渡された物ではなく、用法用量を超えて使うと筋弛緩効果が出るので悲惨な目に合う。
ハンター試験に出てここまで来れる奴なんて他人より優れているとの自負があるはず。
それが迂闊に他人から渡された物を使って下の世話を焼かれるなんて伸びた鼻っ柱をへし折られるだろう。
この試験の教訓は他人から渡された物を信じすぎるなと、薬も使い方次第で毒になるかな?
後はこけても立ち上がるのを見守れる環境でこけさせて、増長しがちな若者が立ち上がれるかを見ているのかもしれない。
先に入っていた連中は植物図鑑を見つけた様で、この近隣にも生えている薬草に当たりを付けて採取に出るようだ。
悪い笑顔で見ている老婆に気が付いてないのかい?
これが普通の笑顔の可能性もあるけど……
老婆に頼んで薬草の匂いを嗅がせてもらい、必要な二種類を分けてもらった。
必要な物は小屋の中でそろったが、ここも森の中にあるからわざと紛らわしい言い方をしたのだろう。
後は少量の水を加えながらペースト状になるまですり潰して提出用の容器に移し老婆へ渡すだけだ。
「可愛げのない子だ、ちゃんと想定通りに動いた子達を見習いな」
笑いながら言われたのは、試験官を引き受けたのは掌の上で人を転がすのが楽しみでやっている?と思う言葉だった。
または獲物が想定通りに動けばハンター冥利に尽きるという事なのか。
ただ常識で考えて触るだけで害の有る物が珍しく無い植物を、素人に採取させた上で調合させるなんて危険な行為をさせるのは考えにくかっただけだ。
常識外の行為を行うのがハンターでも基本を知らないままで、そうした行動を取るのは蛮勇でしかない。
悪い魔女の様にニンマリ笑うと「合格だ。他の連中が来るまでは、奥の部屋で過ごしてな」と隔離された。
まあ、ここにいて合格だと知られたら試験のネタバレになるからそんなものだろう。
好みから外れた行動を取ったから塩対応されたのではないはず。
◇◇◇
原作の様な落ち着いた好々爺ではなく、自分こそが最強なのだとの自信に溢れたカリスマが目の前にいた。
「ありゃ随分お冠だったな、最近の若者には未知に対する警戒心や挑戦する気概が欠けとると」
少量なら口に含んでも問題無いので匂いや味で識別してもいいし、塗って効果から図鑑の説明を探しても良かった。
他にもまだ正解に繋がるような仕掛けが用意されていたのかもしれない。
掌の上で転がしたいが、こけた後に立ち上がり正解を見つけ、そこから飛び出す事を望んでもいた訳か面倒な趣味だな。
「本来ならもう一つ試験があったんだがな。小島で宝探しでもさせるつもりでいたが、一人だけではレクリエーションにしかならんからの」
プレート争奪戦の亜種だろうか?
サバイバルをしながら目標物を探して守り抜くか、見つけている者から奪うかを選ぶ試験か。
ハンターと密猟者の戦いを模したモノなら目標物が破壊されても駄目だろう。
最終試験が別にあるなら探し出した方が評価が上がりそうな内容だ。
楽しそうだからやってみたかったとも思う。
念が使えたのにここまで残らなかった人は戦闘向きの発だったのかも知れない。
そうだとすると身内以外の念の使い手との戦いになっていただろうから、ホッとしたような惜しいような。
「だからまあ、最後は面接だな、お前さん何でハンターを志したんだ?」
口調は恐らく意図して軽い砕けた形にしている。
自然体だが隙は見えず、ただそこにいるだけで場を支配できる力を理解させられる。
「独力での鍛錬に限界を感じており、ハンターライセンスを持っていれば一般には公開されていない禁書なども閲覧できる特典を求め試験を受けました」
嘘など簡単に看破されるだろうし、時間の無駄なので特典目当てだと正直に答える。
「ハンターになって何かしたいのではなく、あくまで目的を達成する手段だと?」
「ええ、ハンターとしての仕事は自分の探求に一般に公開できる部分が出来たなら、後からついて来るだろうと」
少し空気が重くなった様に感じるが目の前の相手からは、目を逸らさない。
「まっええじゃろ、その気があるなら心源流の道場の門を叩くと良い、お主でも軽く揉んでくれる連中がおるぞ」
いいんなら変な溜めを作らないで欲しかった。
一応背景を調べられていたりしても、軍需産業や非合法な物品は扱っていない新興の技術屋に見えているはず。
少し心拍数が上がったと思う。
念を覚えている為に下手な道場などを紹介できないからかも知れないが、全盛期のネテロ会長に門下生に誘って貰ったと思うとなんだか嬉しい。
監視の為だとしても俺は修行と神字などの技術の学習しかしないから、なにか疑ってるなら潔白だと分かる行動を心掛けよう。
「試験が終わりましたら是非最寄りの道場に寄らせて頂きます」
「うむ、ライセンスの発行手続きが終わったようじゃな」
事務の者からライセンスの説明を受けたらこの街にも道場は有るから行ってみると良い。
そう言って後ろ向きに手を振りながら部屋を出て行くのを見送り、扉がしまってから深く息を吐いた。
実力者ほど力の差を正確に感じ取り自然と頭を垂れる程の高みにいるんだろうな。
「伝説はやはり伊達ではないなぁ」
ほとんどため息のような独り言が漏れるくらいの存在感がさっきまでこの空間を占有していた。
◇◇◇
ちなみに道場に顔を出したらネテロ会長がおり、今期のハンター試験の合格者として紹介されて「手が空いとるなら揉んでやれ」と余計な一言を付け加えて帰って行った。
そんな事言ったら十二支ん並みにあんたに心酔してる連中に
このアウェー感どうしてくれるんだ‼