開拓する新大陸を発見するための船の器を完成させる事が出来た。
当初の予定と違い中型の船になったが完成度はこちらの方が圧倒的に上だ。
資材の段階からオーラを馴染ませて消耗品以外には神字を刻んでいる。
コーティングにもこだわったが、一番重要なのは運用の為に船員の皆を組み込んだ発の存在だ。
船体自体は恐ろしく頑丈に出来た自信がある。
例えば、鋼鉄製の戦艦相手でもぶつかったならラムアタックで真っ二つにできるだろう。
無論こちらにはダメージは入らない。
砲撃されると乗り込んだ能力者で迎撃するしかないのがまだ弱い点だけど。
更にこいつは、これから成長していく船として作られた。
役職持ちが船を降りる時、彼を強化していたレベルが船に譲られるのだ。
そして引き継いだ者は役職と初代の名前も引き継ぐ、元の部品が無くなるのは船ではなく船員の方である。
そして船のクルーだった者が死んだなら、この船に宿り操船の補助を行う。
最終的な完成形は死後の念のジョイントによって船体を強化して、船に組み込んだ地図の判明している範囲内なら自動で目的地まで航行できるようにしたい。
これは俺達の根幹をなす能力にも言える事だが、死後の念をジョイントでシステムに組み込むのが元から予定していた完成形だ。
カキンの守護霊獣の様にならないように事前に能力の移譲の為の委任状を書いているし、そもそも継承する相手が自身なので歪む方がおかしいはずだ。
◇◇◇
発を含めると船の完成度は二割程度だが、艤装自体は問題なく使える。
乗って動かす事で最適化されて成長出来るはずなのでさっさと出港しよう。
物資の積載量だが、船の一室と始まりの島を神字の補助を入れオーラを消費すれば使える転移装置を作成できたので、実質制限が無い。
武装に関してはまだ普通の火器を放出系の者が扱う事でお茶を濁している。
帆船なら大砲だろうと思うのだが、パッと思いついたのがBoF4の呪砲だった。
ゾバエ病の患者は死なないのでカートリッジよりはデカい程度の器に封入できる。
そこに音響兵器で苦痛を与える事で溜まった怨嗟や絶望を砲弾として撃ち出す、弾切れしない最悪の兵器が出来そうだなと思ったのだが、実際に作ったりしたら蟻の王より酷い人類の敵ルートに入りそうで計画さえ無かった事にした。
念を絡めなくても最近の砲は高火力だけど、本来想定していない程の大型の生物相手には効果が望めるか不明であり、弾切れやそもそも弾薬を積載することで空間を圧迫する問題が解決できない。
大型生物なら体内への攻撃がセオリーだけど、デカいと生命力つまり身に纏うオーラも増えるのでそちらへの対処も必要だ。
表皮を貫通出来るなら体内をテルミットで焼いてもいいけど、刺さる事さえなかったら効果が半減どころでは無い。
やはり非実弾型で考えたいところだ。
◇◇◇
マスト上部にラインを繋ぎ具現化した気球で高度を稼いで、いざという時消せるように分身の念獣を二体哨戒の為に配置している。
片道で最短四週間長くなってもその倍を目安に新大陸を探す予定なので、この辺りはただ地図を埋めるくらいの意味での配置だ。
海上だと本来娯楽が不足するものだが、距離にほぼ影響されないネットワークがあるので不自由さは感じていない。
半舷休息時に島に帰る事も出来るので、栄養面や料理の献立などに悩まされる事も無い。
時折島と誤認しそうになる生物が報告されるくらいで、初の外洋航海にしては順調に進んでいる。
中間補給拠点として使えそうな島が見つかったのは航海開始から三週間目になった頃だった。
ただ面倒なのは今は無人だが、かつては人がいた事を匂わせる痕跡がある事だ。
人類の祖先が暗黒大陸からこちらに逃げてくる際にもこの島が休息の為に使われたのか、または近代5大陸で人口が増えた後で外側へ入植を考えここに寄ったのか?
各国が渡航を試みた時の痕跡にしては、古い痕跡に見えるので専門家による保全が必要だろう。
本格的な調査をしない予定だったので、この場を荒らさない様に立ち去るしか選ぶ事が出来なさそうだ。
残っていた壁画のようなものは大昔のピクトグラムだろうか?
画家でなくとも書く事が出来て、何となく意味が読み取れる作りに見える。
幸先悪いな。
巨大な位しか何者か分からないモノが存在していて人はそれから逃げようとしていた?
暗黒大陸の事ならいいがこの周辺にいる生物だったなら、対策装備が無く決定打を与えられない。
出来るのは哨戒を密にして異変を早期に察知する事だけだ。
◇◇◇
思っていたより早く異変が発生した。
島に停泊していた船が航路に戻る為の地点に海中から触手らしき物が浮上してきたのだ。
「クラーケンとはベタな海の怪物だな。ただこいつは烏賊や蛸ではなさそうだが」
現状の把握の為に声を出してみたが状況は余り良くない。
この島に残った人達は殿でコレから本隊を逃がす為にあえて閉じ込められた、またはコレをこの海域に縛り付けているのか?
ただの船ならば詰んでいただろうが、こちらは英雄の名を冠した船だぞ。
危機にこそ強くなければ話にならない。
伝令を飛ばし本土から必要な能力を持った者を呼び寄せる。
艦載兵器では末端の触手を千切る程度で効果が薄い。
触手は無数に浮かんできているのだから。
怪物を破るために必要なものは相場が決まっている。『英雄』が居ればいい。
戦場が海の上である事を考えると『魔法使い』も欲しいが、科学で代用が利くだろう。
「よくこの仕事に呼んでくれた。これで本懐を遂げる事が出来る」
ハンターとしての後輩になり、才能の卵に『自身を英雄にする事』を願った趣味人。
普段は危険で駆除するしかない獣を相手にしている危険生物ハンターだ。
「念獣共々また一段と成長しているな」
蟻の王と違い実体ではなく相手のオーラを武器型の念獣によって捕食して、自身のLVと念獣の強化をする。
敵と戦い生き残る事で強くなり続ける能力、鍛錬による自己強化を選んだ俺とは違う頂を目指す者だ。
しかしこいつもコロシアムは利用しているので、技量も磨いている。
「肖った英雄の名に恥じない働きを約束しよう」
『クレス』光輝や栄光を名に持つ男は、そう言って自身を奮い立たせ不敵に笑って見せた。
ならば後は戦場を整えよう。
液体の上に立って戦うのが出来ないなら固体にすればいい。
省エネでコスパの良い能力を考える中で作られた一つ『
大気中の窒素を液体窒素へ変化させる念弾だ。
高熱を変化系などで作り出すのと違い、元々周囲にある物質を操作する事でオーラの消費は抑えている。
念弾が着弾し弾けた先の窒素を誘導、操作して極低温攻撃を可能とした。
実体のある攻撃だが環境自体を変化させるので、オーラによる防御が効かない初見殺しでもある。
環境破壊になるかも知れないが、海水を凍結させて人力で流氷を作り出してクラーケンまでの道を作る。
「まずは遠巻きに触手の範囲外から敵の見える範囲を凍らせろ」
最初は安全確保と戦闘準備、オーラの外部供給が出来るので存分に念弾の精度を上げる糧にして欲しい。
出ている触手は恐らくどれだけ潰しても痛手にはならないだろう。
壁画に正体不明の形で描かれていたのは、本体の姿が分からないから巨大である程度しか情報を残せなかった。
描かれていた効果線の様なものが今見えている触手ならば、何故戦わず逃げる姿が描かれていたのか?
触手が空中に現れたりしている所を除けば、馬鹿でかいサイズのクラゲが海中にいるように思う。
毒持ちなのは前提として随分長生きな奴だ。
普通のクラゲにも自己複製が出来る種がいたからクラゲ界隈では特異な事でないのかも知れないが。
普通の大型のクラゲの様に傘の大きさの十倍程度の長さの触手があると考えて傘が十メートルでも本体は海中で百メートルは下にいるわけだ。
絡まったのか囚われているのか数十、数百のクラゲの塊と考えるのが楽観的な方。
単体でこの範囲に触手を展開できる大きさになるなら、本体は海中一キロ以上は下にいる事になる。
デカくて単純な生き物だからこそ生命力が強いので、概念系の呪いなどが質量の違いで弾かれかねない。
クレスは自身の能力『
◇◇◇
分かっていた事だが、ゲームの様に触手を切っていけば本体が浮上してきて攻撃可能になるなんて楽な展開はなかった。
それどころかクレスがサンプルとして回収してきた物以外は切り落とした部分が他の触手に同化吸収されている。
触手が途中から凍り付いて動きが鈍くなっていてこれか。
確かにこんなモノに絡まれたら逃げる以外選択肢が無いのも頷ける。
但しそれは俺達以外ならの話だ。
周辺に人はおらずこの探索に動員しているのも俺達だけだが、情報収集系の発の存在もあり可能なら秘匿したかった。
対死後の念を想定した殲滅処理チームまで原生生物相手に使う事になるとは……
ネテロ会長が暗黒大陸を見て自分が求めている強さはこれじゃないとなったのも、今なら同意出来る。
「クレスそこまでだ、殲滅に切り替える」
自己強化と趣味を両立する狩りをしていた後輩を呼び戻す。
「怪物狩りだと張り切ってみたが、デカすぎる怪獣相手だとまだ殺しきれないようだ」
戦う前と比べて生物として強靭になっている。
未知の環境で活動するなら武を修めるより向いている能力と言える。
それでも殺しきれない生物が普通にいるのがこの世界で、だから生き残れば強くなれる事を選んだのは正解だろう。
宇宙服の様な密閉型の防火服を纏った顔も体形も情報を得られない三人組が船から出て来る。
「済まないが処理を頼む」
こちらの指示に声を出さずジェスチャーで了解を示し、声も漏らさない事を徹底している。
三人が間隔を空けて氷の上を歩いて行き、触手の範囲に入る前に火炎放射器を構えて相手を燃やしにかかる。
物質だけではなくオーラをも燃やす性質を持たせた炎だ。
念能力者相手なら絶をしなければ延焼し続け、念の防御を解けばオーラの籠った炎に曝される。
死後の念であっても燃料はオーラだ。
ならそれが尽きるまで消費させれば消えるのが道理だろう。
熱に関わる二つの能力、実はヒソカの能力対策に考えた結果出来たものだ。
ゴムやガムならば凍れば伸びず縮んだり出来ないし、オーラをも燃やせるならばそれで対策が終わりだ。
単独での戦闘で勝てる見込みは立たなかったが、完成したのは周囲への被害を考慮しないなら強い能力だ。
特に炎はオーラまで燃やす為に専用の消火能力を使わないと人工物以外に際限なく燃え広がるのが難点だ。
幸いここは海で燃やす対象が海中にいるので延焼の心配はいらないだろう。
まだ大陸すら発見していないのにこんなモノと出くわすなんて、先が思いやられるな。
クラーケン(クラゲ個体)
元は人類生息域でも存在する大型のクラゲ。
ただ大規模な群れになって漂い船くらいの大きさの生き物まで捕食していた。
今はクラゲの群体とそれをこの海域に縛りる為、人身御供になった人々の死後の念のジョイントが結びついたモノ。
死んでいるし生きてもいる、そこにあり周囲のモノを自身に取り込み肥大化し続ける準厄災クラス。
サンプルも海に捨てたりしたなら周囲のモノを取り込み際限なく肥大化するだろう。
意思や命の有無などもはや関係なく、そういったモノに成り果てているのだ。