ベテラン以上、星未満   作:誠一

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こちらはみのひつじさん主催
♯3分で読めるノベル企画
お題「秘密(約束、神秘、ギャップを含む)」へ
投降した作品となっております。

前回「キセキの価値は」の続編。
ギャグ回…のつもりです。


ハニーハントハント

 

 

「予約していたコースの変更…?」

 

 

申し訳なさそうに店主は切り出した

 

 

「ええ…当店で使用してる特別なハチミツが特殊なアオアシラに狙われて

入荷出来ず…ハチミツ農家さんにも被害が出ているようで…」

 

 

「そうでしたか…どうしたものか」

 

 

今日は先日こちらの都合で闘技場クエストに、しかも得意武器の双剣が選べない状況で

付き合ってもらった相棒への礼も兼ねて、ちょっとお高めの店にやってきた。

ギルドでも隠れた名店として噂されている、

【悉くを喰らわせるネルギガン亭】である。

 

食べられる食材、メニューは多岐に渡り今回は

『暴食竜の胃袋爆散コース』という希少部位から珍味的な味わいのある肉までを、

それこそイビルジョーの胃袋すら破裂させる程の量で出す最高級コースである。

ハチミツが一体、何の役割をしているのかは知らんが被害が出てるとなると、

個人的には心配だし気になる。可能なら助けに行きたい。

しかし今日は相棒の希望が最優先だ。相棒へ目線で尋ねると

 

 

「こればっかりは仕方ないね。美味しいお肉が食べられれば別のコースでもいいよ」

 

 

俺が思っている危惧は全く通じていない。こいつの脳内には「イマ、ニク、クウ」しか

無いんだと思う。暴食竜はここにいた。ハンターギルドさん、こいつです。

とりあえず今日は相棒の希望が最優先である。農家さんには悪いが食後にギルドへ

行きクエストが出てれば急ぎ対応するとしよう

 

 

「じゃあ…今日は『激昂ラージャンにっこりコース』でお願いします」

 

胃袋爆散コースは質、量が尋常じゃない(そしてお値段も尋常じゃない)が、

にっこりコースはランクは下がるものの激昂ラージャンですら微笑むと評判で、

最後にキリンの角を使ったデザートが出るのがウリだ。実はちょっと気になってた

 

「お客様、重ねて申し訳ございません。本日ご提供できるのは、

海鮮系コースのみとなっ…ており…まして…」

 

 

 

店主の言葉が尻すぼみになり最後は蚊の鳴くような声になってしまった。

無理もない。

 

 

【肉 が 食 え な い】

 

 

そう理解した相棒から全身が総毛立つような殺気が漏れ出ていた

周囲の空気が痛いほどに張りつめ、喧騒や草木の揺れる音が急激に遠ざかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は確信した。

 

この店主が受け答えを間違えたら、こいつは死ぬ。

 

 

止めたい、なんとかして止めたい。でも方法を間違えると今度は俺が死ぬ。

たかだか肉の事なのにどうしてこうなってしまうのか『なんで』は俺が聞きたい

 

 

「はっ…あ、あの…肉関係の仕入れ先の…流通が滞って…おり…」

 

 

 

 

「いつならいいの」

 

 

 

 

空気が指先で触れられそうな程に張りつめていく。

店主の額からは脂汗が流れ、体が小刻みに震えていた

 

 

 

 

「あ…の…先程の…アオ…アシラの影響なので…なんとも…申し、訳ありません」

 

 

 

 

 

店主が顔面を蒼白にし地面に膝をついた瞬間、張りつめていた空気が霧散した

店主は外聞も無く必死に新鮮な空気を肺に送り込んでいる。

 

 

 

「ルードくん」

 

 

「はい」

 

 

「狩り、準備。今すぐ」

 

 

 

 

俺は確信した。

 

 

アオアシラはもう間もなく死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

「この度は本当にありがとうございました!」

 

 

「いえ、あの…なんか逆にすいませんでした」

 

 

テーブルの上には空になった皿がドンドルマの外壁のように積み上げられていた。

店主は事態が解決し喜色を浮かべているが出発前のアレがあった以上、

良かったねという気持ちより申し訳なさが勝つ。10対0で勝つ

 

 

「やっぱりさ、困ってる人がいたらさ。放っておけないよね。

ご飯も美味しくたべられなくなっちゃうし」

 

 

一番最初は、肉さえ食べられればスルー予定だったくせに、

何をぬかしているのかコイツは。爆速で狩りを終えて店に直行しては

「駄目だ。待てない」「ここで待つ」とか言って、

壁に寄りかかって座りだした時はどうしようかと思った

俺が自分で自分の片手をへし折れば許してもらえたのだろうか。

いや今はすっかり上機嫌なのでもうこちらも忘れよう。それがいい。それが一番だ

 

 

「肉の舌先でとろける質感には感動しました。ご馳走様でした」

 

 

「ありがとうございます…しかしあれも今後は難しいかもしれません」

 

 

「…といいますと?」

 

 

先程まで浮かべていた喜色が急速に薄れ、表情に影が差す

「今回お世話になったお客様ですから特別に申し上げますが…あの農家さんが、

提供してくださる【秘蜜の花園】。あのハチミツを加えた秘伝の漬け込みタレが

絶妙な味わいと口でほどける肉質の秘訣なのです。ただ今回の被害ですと…」

 

駄目だ。こういう話を聞くと俺はダメなんだ。

ふと相棒を見ると…

 

 

「…こればっかりは仕方ないね」

 

好きにすれば?と席を立ち荷物をまとめ始めた。

普段こそアレな相棒だが…こういった時の理解の早さは素直にありがたいと思う。

 

 

「…今日は世話になりました。これ代金です」

 

 

店主に暴食竜以下略セット2人分…の倍の料金を手渡した。

 

 

「え、いやあの…多すぎます!頂けません!」

 

 

慌てた顔で過剰な分の代金を返そうとする。いや駄目だ。駄目なんだ。

 

「…また来ます。また来させて欲しいんです。お願いします…」

 

 

正直しんどい。ぶっちゃけ総額考えると俺の全身防具フル強化ぐらいの金だ。7桁だ

でもボロボロになりながらも涙ながらに感謝してくれたあの農家が廃業とか…

ありがとうとしがみ付いてきた小さい子供とか思い出すともう駄目だった。

しかし俺が直接施しをしてはいけない。常に近くで助けられるワケでもなければ、

支援し続けられるワケでもない。ここでこの店に預ければ…店としても必要な、

相手である以上、商売の一環としてなんとか…なんとか…

店主は真剣な俺の目を見て、ハッとした表情をし、そして

 

「わかりました。『次回も』必ずご提供できるよう、このお代はお預かり致します」

 

 

笑顔で答えてくれた。応えてくれた。言葉にすればそれは強制になってしまう

今はこれだけで十分なのだ。俺は店主から差し出された手を握り返し、店を後にした

 

その後、【悉くを喰らわせるネルギガン亭】は長年に渡り繁盛し、時を同じくして

とあるハチミツ農家も大きく規模を広げる事になるのだが…その背景に、かなりの間、

携帯食料だけで生活する事になったハンターがいた事は…ここだけの秘密である

 

 

 




お読み頂きありがとうございました。
100%ギャグ回にしようと思っていたのに書き上げてみたら、
なんかしっとり〆になるパターンが時々ありまして、
このお話も勝手に筆が暴れた感じでなんか着地しました。

隠し味のシークレットハニーと言う事で秘密、
最後の最後にあった文字通りの秘密と約束。
あとリィンさんのON/OFFギャップなどをお題に絡めて、
練り込んでおります。

ここまでお読み頂きありがとうございました
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