一、二、三。相手のリズムに合わせて突きを捌く。あいにくこちらは丸腰なのに対してあちらは武装状態。リーチの差で詰めることは困難、的確に中心を狙った一撃は最小限の動きで避けることを封じてくるためカウンターも難しい。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これ何かの間違いだったりしないのか?
別に指名手配犯でもガキに手を出すような異常者じゃないぞ俺は」
「すまないがこちらも理由があるのだ。大人しくしてくれると助かるんだがね」
出の早い細かい突きを、刃の横から小突くようにして軌道を逸らす。体を常に捉えていたのが外れたのを機会に、間合いを詰めようとするが.....
それに合わせるように後方へステップした男は、小突かれた反動を利用して持ち手を右から左に持ちかえ、勢いを流すように体重を乗せて全速力の突きを放つ。
回避....は間に合わないので左手で肉を裂って受け止める。
痛いがそれだけだ。死にはしないのでまだなんとかなる。死ななければ安いがモットーだ。
エストックが刺さった部位を中心に力を込めて簡単には抜けなくする。そのまま男の横っ腹を蹴り上げると、柄から手を離して距離が生まれる。クソ痛い。
ていうか左手が触手になってるんだから痛覚ぐらいなくてもいいんじゃないかと思いたいが、どうやらそう都合よくはないらしい。
力を弱めて刃を引き抜けば、エストックは床に落ちて金属音を部屋中に響かせる。そのまま遠くへ蹴り上げて手の届かない位置へ滑らせた。
互いに丸腰になったが、武器なしならこっちに利はある。そろそろ体にガタは来ている年齢で徒手空拳は辛いだろう。
ファイティングポーズはそのままに、目の前の男へ話しかける。
「このままラウンド2でもするか?
それとも仲良く席に着いてお話しするか?今度は刃を突きつけながら話すことはないがな」
「.......いや、いい。君のことはよくわかった」
男は両手をあげて無抵抗の意思を示すと軽く手を叩いて合図をした。間髪を入れずに素早く部屋へ複数の人が入ってくる。
その中に、養護教諭と思われる白衣を着た女性が素早い動きで左手を手当てする。
「はぁ〜い、すぐ治るので動かないでくださいねぇ〜」
ガーゼで血を拭き取り薬品を塗り込む。そして包帯を巻いて医療用テープで止めるその動きはとてもスムーズで機械的だった。
そも、少し経てば傷は塞がるのであまり気にしなくてもいいのだが、極力再生のことは人に知られたくないので黙っておく。
どういうルートで誘救に知られるかわかったものじゃないからな。
中に入ってきたのはおそらく各学年主任と教頭、擁護教諭におそらく俺と同じ歪みとエリアについての実技・実践担当の教師だろう。こっちは臨時じゃなくて正規教員だろうけど。
「よぉ新人。だいぶこっ酷くやられたみてぇだな」
「校長の審査はいつも厳格だからな!俺も最初は両腕の関節を外された!」
「私もです。あの時は何もない部屋に急に閉じ込められて担当教科の問題をいくつも出されました」
「校長の癖みたいなものですからねぇ〜。私も話している時、急に負傷した校長をすぐに手当てしないといけなくて......」
「まぁ校長は毎回自分の体を使って試してますからね。それだけ本気で教師としての質を確かめてるんでしょう」
「生徒に任せるわけにも、どこかに委託するわけにもいかないからな。それに確かめているのは教師の質ではない。この学園での最低条件だ。これぐらい乗り越えられなければ、この『学園』で生徒を教える資格はない」
校長室の広々とした机にそれぞれが座り始める。皆慣れたような動きのため、これもいつものことなんだろう。
原作で学園の教師が校長のことをどこか恐ろしい人物のように言っていたのは、おそらくこれが原因なんだろうな。初業務開始の前にこんなことされたら誰だってビビる。
俺も空いている席に座れば、それを見届けた校長が話し始めた。
「皆席に着いたようだな。では話を始めよう
まずは、本日から『探求者認定課程』の授業を担当することになった『灰咲 慎語』君だ。詳しい自己紹介は後で頼む
詳しい業務はその書類に、職員室で詳細を『
泡榴は控えめに手を振り、ドゥーリはこちらをチラリと見ただけだった。う〜ん対応の差。
「次に業務連絡。2年生の生徒の間で禍具を使って教師の私物を盗むという悪戯が横行している。ものによっては大問題になるため、発見次第指導をするように
次に自習室の利用方法のマナーが悪いと、3年生を中心に訴えがあったため改めて全体に周知するように
また、生徒に配布したアンケートについて、1年生の解答率が低いため学年主任の
最後に.......近頃深夜に学園外を徘徊する学園生徒の目撃と通報がされている。L.E.A.Dからも警告と調査が行われているため、今度該当生徒との面談を行う。各学年の主任は声をかけておくように。参加の意思が見られない場合や抵抗する場合は私が出向こう
話は以上だ、それぞれ担当に戻るように。灰咲先生は話があるので残るように。すぐに終わらせるので気にしないでくれ」
そう言うと一人また一人と部屋を退出する。最後に泡榴がこちらにグッドサインをして扉を閉めると部屋に残ったのは校長と俺だけになった。
「まずは謝罪を。審査のためとはいえ唐突に君を襲ってしまったこと、そして傷をつけたこと、申し訳ない」
「いやいいっすよ。あれに関しては俺の判断ですし、自分で確かめたいって気持ちもわかります」
「しかし、君の体に傷をつけてしまったことは事実だ。本来ならば寸前で止めるか後遺症にならない程度に止めるのだが.....存外なことに高揚してしまってな、つい力をこめてしまった
幸いここにはある程度の傷を治す設備をそれを扱える人材がいる、その腕もすぐ治るだろう」
「そいつは助かります。まぁ腕伸ばすのが辛いぐらいなんで、基本は大丈夫だと思いますよ」
そう言って左手の擬態を解く。あらかじめ書類に左腕が変化していることは書いてあるのでここで見せても問題はない。
まぁ生徒はともかく、教師陣にはあらかじめ話しておいた方がトラブルも起きないし、俺みたいに体の一部が変形してるのは一定数いるからそこまで隠すことでもない。
俺が真に隠すべきは再生能力のことだからそれ以外はバラしてOK。
「あぁ、君の書類に書いていたな。一見すると何も異常はないように見えたので不思議だったが、擬態していたのか」
「そうです。まぁ、痛いのは痛いし、ちゃんと傷はつくっすけど」
「審査の時にその腕を使わなかったのは、君なりの敬意かね?」
「敬意ってほど綺麗なものじゃないっすよ。純粋に使うタイミングを見失っただけです、もしラウンド2をするなら出し惜しみせず使うところでした」
「そうか....勝利のための貪欲さは人生において必要なことだ。ぜひ生徒にも教授してほしい
さて、話が長くなったが本題だ。これが君のIDカードだ。学園内での移動には必須なので決して無くさないように
先ほども言ったが業務については書類にまとめてある、目を通してくれ
業務は基本職員室か実践区画にドゥーリ先生が使用している部屋がある。好きな方を利用して構わない
今の時間なら職員室にほとんどの教員がいる。今は教頭の海石榴《つばき》先生が朝礼中だから、そこで挨拶をするといいだろう
最後に.....ようこそ、『学園』へ。臨時とはいえ君はこの学園で生徒を導く光であり、知識を授ける本だ。光は明るくなければ知覚されず、本は読まれなければ意味を失う
生徒たちに見られ、手に取られる存在になってほしい。そのための協力は私からも、他の教員からも惜しまないだろう
短い間だが、これからよろしく頼む」
校長は手を差し出し、俺もそれに応えて握手をした。見た目と違って力強く、さまざまな苦労を抱えてきたのだと理解できる、そんな手だった。
それだけ言うと校長は机に座り、自身の業務へと戻る。俺も校長室を出て、そのまま職員室へ向かう。登校時間だからか、窓の外には校門を抜ける生徒の姿が見えた。
受け取ったIDカードを首から下げて、職員室の扉の前へ向かう。中からは幾人の話し声が聞こえる。どうやらまだ朝礼中のようだ。
身だしなみを軽く整え、自分の話すことを軽く頭に入れておく。
ある程度準備ができたので、扉をノックし....
『さっきから思ってたけど君の敬語ってチンピラみたいだよね』
(うるせぇ)
ずっと黙ってるなと思ってたけど言うことがそれかよ
少し楽になった気分で扉を開けた
実はちょくちょく頭の中の思考が誘救に漏れたりしてます
TIPS:都市の福祉
Hollow Cityの福祉とは名ばかりで、実態は「企業から購入するサブスク」として機能している。
まず、Hollow Cityには階層ごとによって受け取れる福祉の質が違う。
上層ではD-TEC直下の病院によって地球上に存在するほとんどの病気や怪我を治すことができる。教育も学園に匹敵するレベルで充実したエリート教育を受けることが可能で、如何に人を使うかと言う教育を受ける。
中層は一般的な福祉を受けることが可能だが、高度な再生医療やインプラント手術には多額の医療ローンが必要になり、それによって生活が狂うことは珍しくない。まさに生かさず殺さずの状態。
下層は福祉の質の幅広く、公的な病院も存在するが、裏で臓器売買や違法実験などを行っていることがある。
学園以外にも教育施設や保護施設はあるが、双龍会や零星、紫幇が運営している場所もあり、組織に使える兵士を育成するための場所になっている場所もある。
なお、金さえ払えるのであれば下層でも中層や上層のサービスを受けることは可能。
その際は下層に設置されている指定の施設を利用するか、各階層に存在する審査所を通過して階層を移動することが可能。