ある日、世界中で発生するようになった『歪み』という超常現象。
「あらゆるものを捻じ曲げる」という気まぐれで危険なそれは、陸海空あらゆる場所に発生し、規模によっては国を滅ぼすレベルの災害となる。
突発的に発生する局地的で予測不能な災害。しかも、エリアの核である『C.o.r.e』を破壊して対処しなければ半永久的に続くときた。世界中の上層部にとっては悩みの種であることは間違いない。
そんな特性から長らく対応が後手に回っていた『歪み』だったが、数年ほど前に発足した『世界歪み調査機構』
もとい『
これが中々便利で、WDSOが開発したアプリをスマホに入れることで、近隣の歪みの発生地点と確率を見ることができる。
ファンの間では「天気予報」と言われている。俺もそれにしか見えない。
こいつのおかげで、『探求者』の動きも早くなった。
確率が高いとこにあらかじめ待機しておいて、発生したら『エーテル』なんかの資源を貰えるだけもらう。発生しなかったら近場の発生確率が高い場所までダッシュで赴いての繰り返し。運が良ければ1日で10万メディは稼げる。
ちなみに『メディ』ってのはこの都市独自の通貨で、レートは1ドルで大体1メディ。10メディあれば、日本の食パンぐらいは買える。
今日の夕食は何で済ませようかと考えながら、スマホ片手に歩く。
画面の地図上には、赤い円と「%」、そして「Lv」が書かれている。これが歪みの発生率と範囲であり、Lvはエリアの危険度をⅠ〜Ⅹの10段階で表したものだ。
今から行くのはLvⅢのエリア。適切な装備さえしていれば基本死ぬことはないエリアだ。とはいえ油断は禁物、今回は範囲も比較的広いので、多方面から襲われることを覚悟しないといけない。
今回の依頼は「エリアの生物を何でもいいから新鮮な状態で持ってくる」という内容。どうやら剥製にして金持ちに売りつけるらしい。中間層以上の金持ちは羽振りがいいらしく、コレクターも多いためよく売れるそうだ。
『マガツ』はエリア外に出ると体を維持できずに消滅するが、特殊なアーティファクトのカプセルやポッドを使えば、体を維持したまま外に持ち出すことができる。
また、自力でエリアの外に出ることができる『イビツ』という、マガツよりも高度な知能と肉体を持った存在もいる。理由は今のところ不明だが、内部に含まれた高純度のエーテルが影響してるのではないかと言われている。
まぁそんなわけで、今回はマガツを狙いつつ、可能ならばイビツを捕りに行くことにした。
そこそこの大きさでLvⅢ、下層に出現するエリアを探した結果、たどり着いたのが今の場所。
ホロウシティ下位層北部にある繁華街。日本でいう歌舞伎町を一回りほど大きくした後に、治安をブラジルのスラムと中東の紛争地を足して2で割ったぐらいまで落としたような場所である。
「え〜、なになに.....元々はチャイニーズマフィアとコリアンマフィア、ジャパンマフィアが勢力争いをしていた場所で、裏の連中が集まった結果、政府の手が届かない無法地帯になったと........行きたくね〜。絶対面倒ごとに巻き込まれるじゃん」
ゲーム『ディスコネクト』において、ここは『双龍会』、『
心の底から本当に行きたくない。奴らと関わるだけでろくな目に遭わないからな。
なんだったら双龍会はエンドによってはダストを殺してくるし、紫幇は誘救を売った。零星では奴隷にされた。どこも碌でもない連中ばかりである。
神ゲーだけどこういう鬱要素の多さは異常だ。多分制作者にそういう性癖の奴がいる、間違いない。
『しょうがないだろ、ここより条件の良いエリアがなかったんだから』
インカム越しに誘救の呆れた声が聞こえる。実際その通りで、ここ以外のエリアは狭いか、大したレベルじゃないか、既に先客がいるかのどちらかだった。
「にしても人の気配がないな〜。目的地周辺は下層の中でも栄えてるはずなのに、なんでこうも人がいないのかね?」
辺りを見渡せば、人の気配はなく、チカチカと点滅する電灯の光だけが存在する。この辺りは歪みの発生範囲ではないし、平日でもないのに、車の光すら見当たらない。
『君は近くに犯罪者どもの集落があるのに、夜一人でなんの目的もなくぶらつくのかい? 僕だったら怖くてできないね』
「あぁ、まぁそりゃそうか。マフィアの居住地が近くにあったら、殺されるか攫われるかされてもおかしくないわ。……ひぇ〜、怖いね〜。関わらんようにしとこ」
『今からそこに飛び込むんだけどね』
「歪みが発生するから、マフィアの連中も避難してるだろ。流石に........してるよな?」
いくら裏社会の連中といえど、警察と歪みは恐れるものだろう。あぁいや、どっちも恐れない連中もいるにはいるか。
とはいえ歪みは恐怖の象徴だ。命が惜しいのなら発生範囲にわざわざ巻き込まれに行く奴はいないだろう。
なんて思っていたが、相方はそうでもないらしく、希望を打ち砕くことをさらっと言う。
『むしろ稼げるチャンスだと思って、周辺に潜伏してそうだけどね』
「......こんなとこにいられるか! 俺は帰らせてもらう!!」
『君、それは死亡フラグってやつだよ。駄々をこねてる暇もないからね、行け』
「鬼! 悪魔! 人でなし! 人の心とかないのか!?」
『あるよ〜? だからこそこうやって君のサポートをしているし、応援もしている。ほら、頑張れ頑張れ』
「クッソ、こいつ相変わらずムカつく!」
そんな話をしているうちに、目的地へと辿り着く。
ギラギラとネオン色に光る看板と、散乱するゴミ、そして表とは真逆の光景な真っ暗な路地裏。正面の門には掠れた文字で『宵闇町一番街』と書いてある。
空気が一変したのを感じ、スマホをポケットにしまい、腰に携えた日本刀の柄に手をかける。
一歩一歩と確実に進む。そうして、繁華街の入り口へと辿り着き、ぴたりと足を止めた。
通りの中心。三叉路に差し掛かる手前の道の空気が、捻れたように歪んでいる。
「誘救、目的の場所についたぞ」 『了解。それじゃあちょっと待ってて、もう少ししたら開くから』
そう言われて少し時間が経てば、空中の歪みが膨張し、あたり一体へと広がっていく。薄い膜のようなものが、ドーム状の半球となって広がり、繁華街を囲んだ。
「うげ、これ想定よりデカくないか? 諸々の物資が足りるか心配なんだが........」
『まぁ僕の方でサポートするし、ジリ貧になった時用の撤退ルートは作っておくから』
「さっすが〜、頼りになる〜! その調子でこれからも頼むぜ〜」
『全部を僕に丸投げる......なんてしないことを祈るよ』
突入前に軽口を叩く、いつも通りのルーティーン。危険な場所に突入するというのに呑気なものであるが、互いに慣れてしまったのか辞めることはない。
「さてさて。そんじゃあ行きますかね」
『オッケー。今回はインカム壊さないようにしてくれよ』
「何〜? 心配してくれちゃってんの〜? このツンデレが〜」
『アーゴメンナンカ電波急二悪クナッタミタイデ今回サポートデキナソウダワー』
「あ〜、ちょっと待ってごめん謝るから! できるだけ頑張るから!! だから許して!!! 誘救のサポートないと俺死んじゃうから普通に!!!!」
ギャーギャーと騒ぎ立てながら、俺はエリアへと足を踏み入れた。
薄膜のヴェールの向こう側。ダストの視界は、外から見たものとは全く変わっていた。
月明かりの光は消え失せ、星明かりも、外からの街灯の光も消え失せ、あるのは目に痛い繁華街の電光灯だけ。
本来満天の星が広がっていた空には、何の光も届かない闇があるだけ。
そこはまるで深海。暗く深い海の中を、不似合いなネオンの繁華街が道となって続いている。まるで水族館の海中トンネルを通っているかのような感覚。
息ができないわけではない。体が重いわけではない。だが、ここは間違いなく海の中だ。
生命の原点であり、循環であり、神秘そのもの。原始の大海である。
水中を歩くという不思議な感覚に襲われながら、一歩また一歩と歩みを進めていく。視界の隅で、星のような気泡が、空を昇る途中で弾ける。地上に届くことなどないというのに。
「うへぇ〜。今回のはこういうタイプかぁ.......ちょっと面倒くさいか?」
『センサーフルで稼働しないとキツいねぇ。バッテリーが持つといいんだけど』
(ていうかここ、始海か。ここ、ドロップはおいしいんだけど立ち回りミスると一気に死にかけるんだよな)
エリア『始海』。
序盤の初心者殺しエリア代表とも言われるこの場所は、360°あらゆる角度から敵が出現する。
一体一体はそこまで強くないのだが......何より数が多い。単独で来ようものなら四方八方からボコボコにされてTHE・END。広範囲攻撃持ちがいないとジリ貧で削られていく。
つまり、その両方が不足してる今の状況はなかなかにまずいというわけである。 落ち着いて周りを見て、神経を研ぎすませよう。自ずとマガツの気配を察知できるはずだ。
この世界ではこういうことが当たり前のようにできないと生きていけない。できないやつは、出演したとしてもほんの一瞬。なんでかって言えばそりゃ...........
「こんなふうになるからなぁ!!」
刀を勢いよく上に振るえば、何かがぶつかったような音が響く。
暗闇から素早くこちらへ突っ込んできた影を切り伏せると、今度は左から放物線を描くような軌道で向かってくる。振った勢いを利用して体の軸を回転させ、次の攻撃を受け止めた。
ネオンライトに照らされ、攻撃を仕掛けた存在の姿が露わになる。 一見するとアジや秋刀魚などの小型の魚。だが、よく見れば異様な姿をしていた。
表面は爛れ落ちたように変色して歪んでおり、頭部は幼虫のようなものに置き換わっていて、絶えずガチガチと顎を鳴らしている。目が複眼のように幾つも集まり、そのどれもがこちらを見ている。
あまりにもグロテスクで冒涜的。正気が削られていくのが感覚でわかるくらいには、悍ましい存在であった。
「『
LV.Ⅱ以上の大型のエリア内に発生する魚のイビツ。普段は水の中におり、群れで行動することが多い。
単体であればさほど脅威ではない......が、それが数十匹単位で襲ってくるのであれば話は別だ。
どんなに質のいい武器やアーティファクトがあっても、圧倒的な物量に呑まれて、押し潰されるのみ。
『しかも.....見たところ、これだけじゃないみたいだね』
深海の暗闇からは、大小さまざまな影が伸びてくる。
奇怪な形状の半魚人、無数の目が生えたクラゲ、触手が人の腕のタコ、ゲームのバグのように体の一部が至るところから生えている複眼のサメ........。
おぞましく奇怪な生命体の群れが、辺り一帯を囲むように現れる。
「なるほど〜? これはだいぶ骨が折れそうだな。今回はサポート頼んでもいいか?」
『今回"も"の間違いじゃないの〜? 僕なしでキレイに依頼が完了したことってあったっけ?』
「俺のこと舐め過ぎじゃね? 流石にあるだろ.....多分」
『そこは言い切ってくれないと困るんだけど。まぁ任せるといい、ここには天才ハッカーの誘救様がいるんだからね!』
「さっすが〜。んじゃ、今回も頼らさせてもらいます!」
通話しながら、刀でマガツを切り伏せつつ間合いを確保する。
ドス黒い体液が断面から溢れ、深海の水と溶けて消えていく。刀を握った『左手』は、人間の可動域を超えた動きで縦横無尽に動き回り、前方のマガツたちを斬り伏せていく。
歪みに蝕まれていることで体はすでに人間を辞めている。左腕は触手のように変形していて、タコの足のように何本も分かれていた。普段は人間の腕に擬態しているが、こういう時には擬態を解いて刀を振るう。
関節や距離などを無視して攻撃できるので悪いことばかりではないが、気色悪い絵面になってしまうのが難点だ。
そうして、もはや血と水の違いがつかないほどマガツの数を減らせば、耳元のインカムから指示が飛んでくる。
『さ〜て、それじゃあ準備完了ってことで.......まずは4時の方向、200m先まで移動して!』 「はいよ!」
この数だ。あの場で止まっていればジリ貧は必至。
いくらこの身体が「リセット」できても、生き返った瞬間に喰われて、復活してまた喰われるの無限ループが始まるのでNGだ。彼奴等のご機嫌な朝食になる気はない。
「ポイントに着いたぞ。次は?」
『僕の【目】を飛ばして! こっちで誘導する!』
「はいよ!」
腰にぶら下げていた15cmほどの球体を空中に放り投げれば、メカメカしい機械音を鳴り響かせて起動する。
遠隔操縦型戦闘支援ドローン『I』。使用者と視覚を共有し、偵察からハッキング、撹乱までこなす『KAMNABI』社が誇る戦術兵器である。
『さ〜て、食いつけ食いつけ。お前たちの好きな餌のプレゼントだよ〜』
ドローンの周りから波のようなものが発生し、全域へと広がっていく。
エーテルを媒介にした音波だ。あいつらはエーテルに食いつく習性がある。そのためかこの世界の物質やエーテルに敏感だ。エーテルがあればそれを喰らい、生命体を見つければ跡形もなく喰らい尽くす。
だから今回のように、エーテルを一定周波数の音波に変換することで、音波に付着したエーテルを狙ったマガツを、火に吸い寄せられる虫よろしく一箇所に誘い込むことができる。
『ある程度は集め切ったか......次、任せたぞダスト』
「はいはい頼まれましたよっと!」
冒涜的な魚群の塊の元へ向かう俺の手には、刀ではなく一つの小さなカプセルが握られている。
ガラスのように細く、稲妻が走るかのように電流が絶えず奔流し、虚空のような黒が表面を覆っているそれ。
あるアーティファクトの劣化コピー品、『出来損ないの次元の狭間』。
効果は単純明快だが強力。
『エリア内の常識を、こちらの世界の常識に上書きする空間を生み出す権能』。
今回で言うエリアの常識は、「範囲一体を海とし、自由に泳ぐことができる」。
では、こちらの世界の常識は? ここは本来、ただの繁華街。ネオン色に輝く「地上」だ。
「てめぇらだけ泳いでんのはずるいだろ? 少しは地上の空気でも吸ってみたらどうだァ!」
カプセルを魚群の中央へ、剛速球で放り投げる。
鮫(に見えるナニカ)に突き刺さると、カプセルは周囲の空気を吸収し、虚空のように黒い半球を顕現させた。
ドームの中のマガツ共は、飛ぶ鳥が落ちるが如く地面へと叩きつけられる。跳ねて水音を発生させるその光景は、まさしく「打ち上げられた魚」だった。
「はっは〜! 見ろ誘救! 大漁だぞ大漁!!」
『そうだね。これだけあればいくつか実験用に回しつつ、普段以上の稼ぎになる』
マガツを殺すことで、殺したマガツの身体の一部や身につけていた装備を落とすことがある。一説によると、死んだマガツ共の遺志に反応したエーテルが、その個体にとって象徴となるものを具現化させているのではないかと言われている。
.........まぁ、教団の狂信者共は「大いなる歪みの意思が、我々人類を発展させるための奇跡」だとか何だか言ってるらしい。結局どっちも具体的な証拠はないから、信じるか信じないかはそいつ次第だ。
ちなみに俺はどっちも信じていない。前者はシーカーの間での噂話程度だし、後者は純粋に俺が神を信じてない。俺は無神論者だ。
このドロップシステムを作った開発者の顔なら見てみたいが。
あらかた魚を捌ききると、そろそろアーティファクトの効果が切れてきたようで、半球のドームがチカチカと点滅する。空間の構築ができなくなってきているようだ。
「さ〜て、あらかた片付けたし、俺はここの『C.o.r.e』を破壊するとするかな......」
軽く体を伸ばして、調子を整える。 『C.o.r.e(Collapse of reality essence)』とは、エリア内部に存在する不定形の発生装置だ。球体、多面体、生物型など様々で、それらを破壊することでエリアは消滅する。
『了解。一応もう一体の
「手厚いサポート感謝。だけどそんな信用されてないの? 俺って?」
『信用してるからこそだよ。君の場合、なんでも精神論で解決しようとするんだから。そのせいで僕が皺寄せを喰らうってこと、いい加減理解してよね』
ドローンが浮かび上がらせたホログラムマップには、マガツとイビツの反応が点滅している。その中で、一際大きな反応がある。おそらくそれが今回のC.o.r.eだろう。
..........本当であれば単独で行動したいところであった。理由は一つ、誘救にダストの『蘇生』のことを知られずに済むからだ。
『ディスコネクト』でも一度も誘救に不死のことを教えたことはなかった。
(好感度次第だけど)主人公には伝えていたが、誘救に教えることは絶対にしないと誓っていた。
誘救を守るために俺が何度も死んだ事実を知れば、本人は絶対に背負い込んでしまう。
無論俺もその方針は変わらず、誘救には悟られないようバレずに生き返っていた。気にしなくていい時は日本兵よろしくバンザイ突撃を敢行するが、基本は命大事にをモットーだ。
そんなわけで、今回もどうにかバレないように突破しなければならないのである。
『前方に大きな反応を検知! 進行上邪魔になるから迂回して!』
目の前には、立ち塞がるように現れた大型のウナギ。大きく開けた口からは、不気味な一つ目がこちらを瞬きもせずに見つめている。
まともに戦うのも面倒くさいし、突っ切るのも難しいだろう......だが。
「んなめんどくせぇことするよりよぉ! こっちのほうが早いだろ!!」
刀を鞘ごと抜き出し、柄を軽く捻る。
抵抗もなく捻れた柄に合わせて刀身が変形する。金属がぶつかり合う音と、機械が変形する音が幾度か響く。何度か折り曲がりながら、内部の機構がスライドし、変形する様は、産業革命期の機械を想起させる。
そうして幾度かの変形が繰り返されると、現れたのは無骨な銃身。二つのバレルと簡略的な見た目のそれは、一撃の火力に全てを賭けたダブルバレルショットガン。
二者択一式環境対応型兵装、通称『Waltz』。KAMNABI社の特殊兵装で、ブレード状態と銃状態を自由に切り替えることができる特殊兵装である。
ある特定の動作を起点にして、形態を変更させ環境に応じた最大限の火力を誇ることができる。完全オーダーメイド式で、ブレードと銃の形状などは自由に決めることができる。
俺が選んだのは火力全振りの構成。刀からのショットガンだ。ショットガンはスラグタイプと通常散弾、焼夷弾といろんな弾丸を使う機構になっている。
鮮やかな金属光沢と、眼前の敵を滅さんとするその姿はさながら鋼鉄の龍。Waltzを正面に向け、引き金に指をかける。
「ぶっ飛べ」
引き金を引く。撃鉄の衝撃で飛び散った火花が火薬に乗り移り、スラグ弾がマガツを穿つ。口内に侵入した弾丸は頭蓋を貫通し、そのまま奥へと通り過ぎていった。
「流石の火力。やっぱこいつは最高だな!」
『このレベル相手にはオーバーキルすぎない?』
「バッカお前、火力は正義なんだぞ?」
そう、火力は正義なのだ。『工房』の連中もそう言っている。火力は何より優先され、火力は何よりも正しい。よってこの攻撃も正当なものなのである。(QED証明完了)
『資源の無駄遣いだけはやめてよね........っと、そろそろポイントだ。準備しといてね』
マップの大きな反応へと近づいてみれば、そこはどこかのバー。外見からして繁華街によくあるキャバクラだろう。入り口の前にはご丁寧にNo.1キャバ嬢の看板が立てかけられている。
「キャバクラぁ? なんでわざわざこんな場所にC.o.r.eがあんだ?」
『そんなこと僕に言われても知らないよ。まぁ、見た感じ物体型だから楽に終わるでしょ』
中に入ってみれば、ドリンクや手荷物が雑多に置かれたまま残っている。
そうしてカウンター席の奥。ワインラックの中の一本が、怪しく、妖艶に光っていた。淡い赤紫色に発光するそれが、今回のC.o.r.eだ。
ラックからワインを取り出し、コルクを抜く。果実風味の香りが鼻腔をくすぐり、軽い酩酊感が頭を揺らす。
匂いだけ堪能した後に、手からボトルを離す。重力で落下する途中のボトルを、サッカーボールよろしく蹴り飛ばせば、綺麗な軌道を描き甲高い音を立てて割れた。
『おぉ〜、綺麗に蹴ったね〜。ナイスショットとでも言えばいいかな?』
「そこはこっちに聞くんじゃなくて素直に言ってくれよ。素直じゃないなぁ」
『ハイハイスゴイスゴイ』 「いや雑ぅ!?」
ボトルの液体は徐々に光量を失っていき、一瞬の静寂の後、地鳴りのような音がそこら中から響く。
エリアの崩壊が始まり、境界が剥がれていけば、深淵のような深海に地上の光が差した。
「ふい〜。なんとか無事に切り抜けられた。依頼用のサンプルはきちんと確保してあるよな?」
『そりゃもちろん。変形したイビツと、カプセルに入れたマガツ。片方は生きたままの状態だから、依頼料ふっかけてもいいかもね』
「さっすが誘救! 毎回毎回頼りになんな〜!!」
『そうだろうそうだろう。それじゃ、帰りに何かデザート買ってきてね』
「おいおいまたか? 一昨日も反転栗のモンブラン食べてたろ?」
『頭脳労働には糖分が必要なんです〜。よってこれも仕方ない出費だよ』 「先週もそれを聞いたが?」 『........てへ⭐︎』
てへってなんだよてへって。くっそ可愛いなこいつ......。 だが男だ、惑わされてはならぬ。(たぶん)
.........カジキザメの赤身アイスでも買うか? あれもデザートだろ。うん。
「ま、そんな可愛い声では誤魔化されないぞ〜。買いたいなら自分で買ってこい」 『かわ!?!?』
「そういうわけだから俺はこのまま帰るぞ〜。途中まで案内頼む........あら? 聞いてるか誘救?」
『か、かわ.....かわわわわわ.........///』
急にどうしたこいつ? なんか壊れたラジオみたいになってるんだが?
働かせすぎだろうか、昭和のテレビみたいに叩けば直らないかなんて思いながら、キャバクラの受付を抜け、出口へと繋ぐ階段を登る。
……マフィアたちが潜伏していることも、神ゲーのリアリティもすっかり忘れて。
月光が差し込む玄関を抜けた瞬間。 俺は、数十人の黒服の連中から一斉に銃を向けられていた。
「は?」
突然の状況に頭がショートしかける。
そういえばここは、マフィアが占拠してる無法地帯だったということを、全方位から放たれる実弾の殺意を感じつつ、ようやく思い出した。
あまりにも危機的状況の中、俺の心は一つの言葉だけを叫んでいた。
.............俺なんかしたっけなぁ!?!?
ダスト君(の中の人)は無自覚天然朴念仁です
Tips
『
歪みが世界で発生した数年後に発足した国連組織
歪みの発生パターンや歪みがもたらす経済効果、歪みの正体について調べている
世界各国の天才が集まる組織だが、人権を無視した実験や企業、政府との汚職などを行っているため健全な組織とは言えない
ネレミスという量子コンピュータを開発し、これによって歪みの発生確率とレベルを事前に知ることができるようになった
『Normality』という歪みを調査し、時にはエリアを破壊するための戦闘部隊を抱えている