ゲーム『ディスコネクト』において、工房はただの鍛冶場ではない。凡百の製品を大量に生産するだけなら企業の足元にも及ばない。
そのため工房は独自の技術や製法、素材などによって差別化を図り顧客を獲得する必要がある。それができない工房は廃れていくため、必死になって技術を高めていく。
そんな工房たちをまとめて、サポートしているのが日本発祥の軍事企業『KAMNABI』だ。
KAMNABI傘下の工房は特許の申請やテナントの確保ができるほか、相互に技術の提供を行いその技術が有用だと判断されればKAMNABIの開発部門に吸収される。
KAMNABIが世界最先端の軍事会社であり続ける理由はこれにある。優秀な工房の技術を自社のものにすることで、独占的に開発と技術を占有することができる。工房からするとそれは夢であり一つの目標のようなものだ。
「すいませ〜ん、爺さんいるか〜」
「ようやく顔見せやがったな若造。ほれ、見せてみろ」
工房区画の一角にある隠れた外見の工房。店頭にかかったのれんをくぐってここの工房長である老人を呼べば奥の鍛冶場から一人の男が現れる。
白髭を生やした老齢の男だが、至る所にある傷と、鍛えられた無骨な肉体、そして何よりその目には燃えるような活気で溢れていた。
「あんだけ口うるさく言われたら流石に来るっての。武器も見てもらいたかったし」
「儂が丹精込めて作った我が子の様子を見たくなるのは当然だろうが。ほれ、見せてみい、打ってやる」
腰にかけた『Waltz』をテーブルに置く。ちなみにこの武器の変形技術自体は爺さんのものだが、命名とデザインはKAMNABIの開発部によるものだ。この爺さんにそんなセンスを期待してはいけない。
鞘に収められた近代的な日本刀をテーブルに置くと、爺さんは鞘と刀身を軽く確認すると襖を開けて鍛冶場へと持っていく。
鍛冶場には何人もの職人が手作業で金属を打ち、木材を切り、塗料を塗っている。爺さんの工房のように手作業で装備を作る工房は少なくない。機械を導入するのにもコストがかかるし、何よりエーテルを使って自動化しようにも品質による差別化ができない。
エーテルはその汎用性の高さから日常の至る所で使われているが、こと装備や工芸品といった品質が左右されるものには向かない。
汎用性の高さは品質に影響されないことの裏返しであり、エーテルによって作られた製品は同じ品質のものしか作れない。
できるのはどれも並程度の出来上がり。量産には向くがそれ以上のことはない。粗悪品が生まれないのは利点だが、少数精鋭の探求者からすると装備の品質は高いに越したことはない。
ゆえに工房では鉄や鋼、そしてエリアでしか採取できない特殊な金属を使用している。
「ッチ、相変わらず気に食わん意匠だ。もっとよくできるところがあるだろうに....KAMNABIの馬鹿どもは」
「爺さんいつも文句言ってるよな。俺は好きだぞ、近代的なデザインだし」
「これだから若造は。見ろ、これでは本来の刀にあるべき雅さが失われているだろう。儂が教えてやったというのに連中、やれ「戦術上の観点」だの、やれ「無駄のない機能性の追求」だのと後から変えおって.....審美眼のない連中にはうんざりするわい」
文句を言いながら炉で刀身を熱し金床で形を整える。水で冷却し、また炉に入れ今度は何度も刀身を叩き、繰り返す。
形を整え終わると、刀身に焼刃土を薄く、刃先を厚く塗る。塗り終わるともう一度熱し、水で冷却。
すると先ほどよりしなやかになった刀身と、先ほどにはなかった刃文が生まれていた。
武器を整備するというよりは新しく生まれ変わらせるような工程は、爺さんのある種意地のようなものなのだろう。
最後に砥石で刃を鋭くさせれば、美しく整えられた刀身の出来上がりだ。
爺さんはそれに満足したのか綺麗な布で刀身を磨くと、次に鞘を手に取り中を開く。
鞘の内側には複雑な機構で構築されており、レーザーカッターのようなもので切れ込みを入れて幾らか分解すると新しく部品を取り替える。
本人は今の角がついた鞘の形が気に食わないらしく、どうにか変更したいようだが構造的にできないようになっているため本人はいつもそのことを嘆いている。
爺さんの横で作業を眺めていると、それに気付いたのか不機嫌そうに鼻を鳴らして手を振った。
「若造、武器の手入れは欠かさずしとるようだな。目立った損傷も刃こぼれもない」
「前にそれで爺さんに酷い目に遭わされたからな。今でも悪夢に見てる」
「当たり前だ。日本にはな「あらゆるものに神や魂が宿る」という教えがある。俺ら職人はそれを心情に日々作ってるんだ。物を大切にできない奴には売れん」
作中でもこの爺さんは結構な堅物だった。KAMNABIの指示も自分の理念から外れると何がなんでも拒否するし、客も選ぶ。
しかし何者にも左右されない信念を持っているその姿は魅力であり、それについていく者も少なくない。彼が多くの弟子を育て工房をここまで大きくしたのは、その折れぬ心による影響が強いだろう。
「ふむ、これで整備は完了だ。さっさと代金を払って帰れ」
「そっちから呼んどいてそれはないだろ.....けどすっごい綺麗になったな、さすがKAMNABI随一の職人」
「やめい。実質奴らの飼い殺しみたいな存在なんだ。奴らの下にいることを褒められたとて嬉しくはない」
カウンターの方へ移動した爺さんに金を払い、釣りをもらう時。ふと気になったことを爺さんに聞いてみた。
「さっきKAMMABIに飼い殺しにされてるって言ってたろ。ならなんで今でも工房を続けてるんだ」
爺さんの工房はほとんど強制的にKAMNABI傘下の工房にさせられた。脅しまがいの行為と将来を人質に取られ、技術と人手を搾取された。
普通ならほとんど諦めて言いなりになるし、人によっては工房をたたむこともあるだろう。
だけどこの爺さんは今でも反抗するし工房の経営を続けてる。
その意志の強さは一体どこから来ているのか、ふと気になって聞いてみることにした。
爺さんのような人間からは学べることが多いと思うから。
爺さんは少し目を開いてこちらを見た後、当たり前のことのように言った。
「簡単な話だ。儂の作りたいものを作る。それをすることに誰かの許可が必要か?
否、それは誰にも奪うことのできない、儂だけの権利よ
だから儂はあんな連中の言いなりなんぞにならずに、己のためだけに槌を振るだけよ」
どこか誇らしげな表情を浮かべた爺さんは、釣りを渡してまた鍛冶場へと消えていった。
姿が消える最後の瞬間まで、俺は瞬きをすることなくその姿を追っていた。
『Waltz』の見た目はCyberpunk 2077に登場する刀をイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれない
TIPS:
Law Enforcement Administration Department(法執行管理機構)
HCにおける警察機関。当初は政府運営の公的機関だったが、資金・人員の不足により運営が絶望的だったところをD-TEC社が買収。
今ではD-TECによって運営され、完全に民営化された警察機関となっている。
表向きは「市民の命と財産を守る番人」を謳っているが、その実企業や政府との癒着、事件の揉み消し、情報の検閲、権力の乱用が横行している。
一応最低限の治安維持も行なっているが、複数の組織との交戦も多々起きるため殉職者が多く常に人手不足に悩まされている。
一般職員では対処できない事案の際には、最新鋭の武装で装備された特殊重武装制圧部隊『A.R.T』が対応を行うことがある。
「制圧」という名目でミサイルや重機関銃をぶっ放すその姿から、「歩く災害」と呼ばれている。