神ゲーの世界に転生したけど推しは死ぬかもだし世界は崩壊寸前らしい 作:深海潜水艦
工房へ向かったダストと反対を進んだ誘救は、事務所へ向かう道を逸れて歩いていた。
いくらか通りを抜けた先に見えるのは、
L.E.A.Dは下層〜上層にそれぞれ本部が設置されており、各層で犯罪や業務を担当している。
中でも下層の業務量は他と比べて数倍の差があり、常に対応に追われている。
あまりの多忙さに業務の一部を探求者に委託することがあるくらいだ。法律すら怪しい連中に警察の業務を任せるのって普通に問題な気がするが、人手不足だから仕方ない。
威圧感を容赦なく与える正面玄関をくぐり、受付窓口へと迷いなく足を進めると、職員たちが忙しなく動いているその場所で、一人だけ頬杖をついている職員がいる。
誘救はその職員のもとへ近づけば、向こうもそれに気付いたのか右手を振って手招きをした。
「お〜、誘救くんやないか。おひさ〜」
「久しぶり『宮下さん』、ここは相変わらず忙しそうだね」
「みたいやんな〜。まぁ、うちには関係あらへんけど」
接客中であるにも関わらず、敬語もなく気だるげに話すその姿はいつものことで周りも大して気にしていない。もちろん誘救もそのうちの一人であり、気にせずに話し始める。
「
そう言って一枚の封筒を渡す。ある程度の厚みがあるそれは、誘救なりの誠意が反映されていると思っていいだろう。
宮下はそれをすんなりと受け取ると、懐へ仕舞った。その顔は満面の笑みで溢れていた。
「あんがとさん。久しぶりに頑張った甲斐があるってもんや」
「どっちかっていうと報酬用意する側の僕が疲れた気がするよ.....それじゃ僕はこれで失礼するから」
そうして出入り口の方へ戻ろうとすると、宮下が少し焦ったような声で引き留める
「ちょいちょい、ちょっと待ってや!
久しぶりに会ったのにそれだけで解散かいな!もうちょっと話したって罰は当たらんとちゃう?」
「そう言われても....僕もこのあとやらないといけないことあるんだけど?」
「ほんの少しだけ!
そっちもうちに頼み事したやろ?ならこっちの話を聞くぐらいならしてくれてもいいんやない?」
軽く頭を押さえながら少し考える。何を言っても駄々をこねて聞かないだろうということは明白なので、仕方なく向き直って明らか不機嫌な顔をする。
宮下はそれに満足したのかニヤニヤと笑みを浮かべて話し出す。
「よしよし....実は一つ誘救くんたちに頼みがあんねん」
「「たち」っていうことは、頼みは個人的なものじゃなくて正式な依頼ってことでいいんだよね?
聞くだけ聞くけど」
「話が早くて助かるねんな〜。ほな早速」
そう言うと宮下はカウンター下から資料を取り出して、誘救の前に広げて見せる。
資料には地図に少年、少女の顔写真とそのプロフィール。LEADの捜査官によるものと思われる考察や捜査記録などが事細かに記載されていた。
「実は最近『学園』の生徒が何人も行方不明になってるんやけど、証拠も犯人も見つからへんくて、上から事故として処理しろって言われてるんよ。
でも、その子たちの親族が泣きついてきてるねん。
放置するのもまずいと思って、学園を捜査しようにも断られちゃって、調べようにも調べられんくて......せやからそっちで裏から探ってくれへん?」
「行方不明って....それ結構大事だと思うんだけど、そんなのを依頼で済ませちゃっていいの?」
『学園』はある種、警察学校や士官学校のような場所であり、政府公認の教育機関である。
学園全体は厳重に警備されており、生徒も訓練を受けているため一般人よりははるかに強い。簡単に消せられるとは思えない。
それに、中では上層階級出身の生徒もいるため、普段であれば総力を上げて調べるべきはずのものだが.....そうなっていないのは酷く残酷な理由だった。
「まぁ....ぶっちゃけた話、行方不明になっている子が中層、上層の家系じゃないからそこまで重要視されてないんやろね
それに、学園側としては入学率にも影響が出るから大体的に問題にしたくないんやと思う」
学園とて評判は今後の学校運営に直結する。特に学園に出資しているのは企業だけでなく入学している生徒の親からの寄付もある。
1000人ほどの生徒を抱えている学園は、政府から支給されている予算だけでは賄うことができず、学長含む運営陣は利益と以下に権力者と仲良くするかしか考えていない。
表向きには「未来のエーテル産業に向けた、探求者の育成と促進」を謳っているが、上層階級の子息と、一攫千金を夢見るスラム出身者や高齢者が混在しており、陰湿なイジメや生徒同士の派閥争いが絶えない。
清廉潔白な名門マンモス高の皮をかぶっているが、よく隠せているものだとある意味感心してしまう。
「なんともらしいというか....どこも変わらないね」
「良くも悪くもやけどな」
「事情は把握した....けど別に僕らじゃなくても良くない?
もっと実力の高いところとか、やる気のあるところにしなよ」
興味のある依頼だが、そこまで受ける理由を感じない。今まで表面化されてなかっただけで、おそらく今までも行方不明なんてことは起きていたはずだ。
今更調べたところで大した結果を得られるとは思わないし、何か変えられるとも思わない。
それに僕自身がそこまでやる気がない。ダストもおそらく断るだろう、だって面倒くさいし。
あぁいや、でも彼は変なところでやる気を出すことがあるから一概にも断定はできないな。
それに学園には夢も通っているし.....一応話だけは通しておくか
「.....あいつにも一応今回のこと聞いてみる。けど多分断るだろうから期待はしないでおいてね」
「お、意外〜。てっきりここで断られると思たわ」
「一応だよ一応。僕の独断で決めるわけにはいかないから」
「ふ〜ん、そかそか。......まぁ近いうちに返事もらえると助かるわ〜」
「明日には連絡するよ。僕としては「NO」を突きつけたいけどね」
今度こそ出入り口の方へ足を進める。フードを目深に被って、人混みに紛れてしれずに姿を消す。
もはや簡単にできるようになってしまったほど慣れたその行為に、少し辟易する。いくらかL.E.A.D下層本部から離れると、相棒へ通話をかける。
『もしもし誘救?どうしたんだ急に通話してk....』
「帰ったら実験体ね」
『え?』
それだけ言って通話を切る。ただの八つ当たりだ、もちろんそのつもりはない。
けど自分でもびっくりするぐらい気が立っていたので、そういう時は
ひっきりなしに通話とメッセージが送られてくるが、既読をつけずに流れてくる文章だけを見てスルーする。
やっぱり相棒を揶揄うのは楽しい。普段互いに言い合っているからこそ、こうやって気兼ねなく思いっきり発散できる。
ちなみに、こういうのは向こうもやってくるのでどっちかが一方的に殴られることはない。やられたらやり返すを身内で繰り返しているのである。
逸れた道から、少し複雑な道を辿って普段の道へ戻る。
視線の先には暁灰庵の事務所が、そしてあちらこちらを右往左往して落ち着きのないダストが窓から見えた。
その姿にどこか安心感のようなものを覚えて、事務所の扉へと向かった。
◆
話を終えて建物から出た誘救を最後まで見届ける。
そのまま受付のカウンターに突っ伏した彼女は、しばらくしてまたやる気のなさそうな顔で姿勢を戻す。
本来は刑事課のエリートとして、出世街道を歩むはずだったはずの宮下だが、今や窓口へと左遷されてしまった。
周りからは避けられ、何をするでもなく職場で過ごす日々。活気のあったあの頃はとうに昔のことだ。
そんな彼女も、たった一つのことのためならば、目を覚ました獅子のように己の全てを使うだろう。
彼女にとって、ただ一人の身内である弟だけは、大切な家族である弟のためならば喜んでその身の全てを利用するだろう。
彼女にとってはそれが生きる理由なのだから。
先ほど誘救から受け取った封筒を懐から取り出し、封を開けて中身を確認する。
封筒の厚みの正体は何十枚といった写真だった。
彼女と同じ橙色の髪をした、目つきの悪い少年の写真だ。
宮下はそれを見ると体いっぱいで封筒を抱きしめ、恍惚とした表情を浮かべる
(あぁ〜、いつ見ても可愛いなぁうちの弟は
ごめんなぁ、姉ちゃんいつも家に帰れなくて寂しい思いさせとるよなぁ
今週は絶対帰るから楽しみに待っててなぁ。姉ちゃんも楽しみにしとるからなぁ)
心の中で弟に思いをぶつけると、すぐに業務へと移る。
彼女にとってL.E.A.Dのことなどどうでもいい。学園のことも、企業のことも、この都市のことも。
それでも彼女がこの場所にいるのは、ひとえに弟という存在があるからこそ。
たとえどんなことをしようとも、彼女は弟のためならばなんだってするだろう。
だからこれは義務だ。彼女にとっての、呪いのような、しかし決して不幸ではない。避けられぬ義務なのだ。
探求者は主にエリアの探索による成果で生計を立てていますが、人によっては稼ぎのない時に一般で依頼を受けることがあるため、ある種の何でも屋のように扱われることがあります。
(個人差はあるけど)
TIPS:D-TEC社
Hollow Cityに本社を置く世界的大企業。歪みが世界中で発生してから最も早くそれを商売に利用した会社。
HC中のインフラ、食品、医療、通信の全てに手を出しており、実質的な都市の支配者となっている。政界にも顔を出しており、HCのみならず世界各国にも融通が効くほどの影響力を持っており、世界全体への経済効果は凄まじい。
歪みによって得られる利益を最大限に独占し、利用しており、それを主要な商品としている。
利益のためにはあらゆることを行い、不要な人物の消去も容赦なく行うため、一企業とは思えないほどの技術力を保有している。
なお、給料、福利厚生も破格で就職人気も高いらしい。