ベガパンクに会う為に世界徴兵で海軍所属になって、藤虎の下でドレスローザ編に介入とかまでは考えたんですよ。
でも、そこまで書ける気がしないので短編にしました
青い海、白い雲。そして、目の前には気絶し横たわっているならず者ども。
バカンスのつもりがどうしてこうなったんだ、と独り言ちる。
「お~~い!!ね~ちゃ~ん!!」
遠くからは助けてやった少年の声がする。近くにまだ賊が残っていたらどうするんだ、と思いながらも声の先に視線をやる。見れば、少年を先頭に大人達がスコップやら銛を持って、ゾロゾロとこの港へ走ってきている様子が見て取れた。
「お~~い!!無事か~~!!」
そう大人達まで無警戒に大声でこちらに向けて叫んでいる様を見て、つい苦笑してしまう。
あまりに無警戒な住民達だが、
こんな目の前に転がっている大したこともない海賊団に町を占拠されていた理由が少し分かった気がした。
周囲に残党がいないか
「ねーちゃん!」
「うおっ!?なんだ、こりゃ?!」
「嬢ちゃん!アンタがやったのか!?」
周囲に町民達が続々と集まってくる。どいつもこいつも武器とも言えない物を手に、息を切らせて走ってきた様だ。平和ボケに相応しいお人好しの集団なのだろう。単身で海賊共に喧嘩を売ったオレを随分と心配してくれている。
集団の一番前では、オレが助けた少年が息を切らしながらこちらを見上げている。オレが何度も姉ちゃん呼びは止めろと言っても聞かない変に頑固な少年だった。
「ねーちゃん、クマゴロウは……?」
「あん?ああ、ちょっとぶっ飛ばしたから……あっちの方で伸びてると思うぞ」
そう言って、東の方にある崩壊した建物を指差す。ちょうど今、集まってきた町民の一部がその建物へと向かっている最中だった。大したことない奴ではあったが、巨体だったから少し力を入れて殴ったのだ。
そうしたら思いの外、吹っ飛んでしまって建物が壊れてしまった。もう少し穏当に気絶をさせられる方法があった事を考えると、建物の持ち主には悪い事をしてしまったかもしれない。
「うおー?!これクマゴロウじゃねぇか!?」
「あの余所者がやったのか……?家まで壊れて、どんな怪力だよ」
倒壊した建物の周囲に人だかりが出来ている。驚いてはいるが、建物を壊した事を悪く思っている様子はない。それに一安心をして、少し屈んでから助けた少年へと笑みを浮かべて話し掛ける。
「どうだ、少年。オレは強いって言っただろ?」
この目の前のお子様は、オレがこの町に来て出会ってからというもの、随分とまあオレの実力を疑ってくれていたのだ。見てくれが若い女だからと舐めていたのだろう。海賊に占拠されているというから、一宿一飯の恩として助けてやると言っても止めておけの一点張りで、こいつの親まで止めてくる始末だった。
だからこそ、やっと舐められていた認識を覆せると、オレは得意気な笑みを少年へと向けたのだが、少年の反応は少々オレが期待していたものとは違っていた。
「あっ、えっ、いやっ」
少年は、何やらワタワタし言葉を濁しながら視線を右往左往させている。その視線は、オレの顔、胸の谷間、何もない所を行ったり来たりしている。頬を赤らめながらしているその仕草は、この
普段は”とある理由”で野暮ったい恰好をしているのだが、
「どうしたよ?酒場の時は威勢良く突っかかってきた癖にさ」
その様を見て、つい揶揄う様な口調で少年へと言葉を投げ掛けてしまう。だって、面白い。一丁前に冒険譚やらをせがんでくる癖に、半信半疑で小馬鹿にしてきてた生意気な小僧が、今は随分しおらしいのだから可笑しくもなるというものだ。子供のじゃれ合いだからして、大して気にも留めていなかったのだが、こういう時の子供の反応は面白くて、ついやってしまう。
オレのニヤケ面を見て、少年もオレの意図が分かったのだろう。顔を赤らめながらも少しバツの悪い顔をしている。
「だ、だって、ねーちゃんがこんな強いと思う訳ないじゃん。強い人はムキムキだったり、デカかったりするって大人は皆んな言うんだぞ」
そう言い訳してくるが、バツの悪い顔は変わらない。まあ、アタフタと言い訳しているが、ちゃんと悪いと思っているのなら十分だろう。むしろ、もっと生意気なヤンチャ坊主らしい反撃を期待していたのだが、それがないなら揶揄い甲斐もなく、逆にこちらのバツが悪い。そう思い、少年の方へと手を伸ばす。
「ま、勉強になったな、少年。人は見掛けで判断しちゃいけませんってこった。これからはチビだろうが女だろうが気を付けろよ」
「う、うん。わかった」
笑いながらワシャワシャと少年の頭を撫でてやると、また頬を赤らめて照れた様な顔をし出す。やはり面白い。
そんな事を考えながらボーっと頭を撫でていたら、少年が急に表情を真剣なものに改め、バッと頭を下げてきた。
「ありがとう!ねーちゃん!クマゴロウをやっつけてくれて!」
頭を下げた少年が、大きな声で叫ぶ様に言う。急に向けられた万感の思いがこもったと分かるその言葉にオレが呆気に取られていると、その少年の叫びが切欠となったのか、町民達からも喜びの歓声と共に感謝の声が叫ばれ始めた。
「ありがとう!!ありがとう!!」
「解放だ!熊手海賊団が壊滅した~~!!やるなぁ!アンタ!」
「よっしゃあ!俺、みんなに伝えてくる!!」
ありがとう、ありがとう、と周囲に人集りが出来ていく。予想よりも大層な反応に困惑してしまう。少年を揶揄っていた時の気持ちはどこへやら、だ。いつの間にか、目の前にいた少年も輪から消え、喜びながら両親に抱きついている。
聞いていた話では、占拠は一週間ほどだった筈だが、この喜び様からすると意外と鬱憤が溜まっていたのだろうか。
まあ、一度海軍が返り討ちに遭っている様だから、住民にとっては多大な不安があったのだろう。さすがにこの程度の手合いならば、援軍で解放されていたとは思うが、暴力を前にして無辜の民が不安と不満を抱えるのは無理もない。
大した事をしたつもりはないし、実際に大した事はしていないのだが、次々に彼等から掛けられる言葉に悪い気はしなかった。
しかし、こういうのは最近多くなったとはいえ慣れていないので、少々こっ恥ずかしくなる。
もう良いと言っても町民達は聞かず。結局、町長の爺さんと少年、少年の両親が止めてくれるまで、感謝の言葉が止まる事はなかったのだった。
各所でドンチャン騒ぎが聞こえてくる。町長からの感謝の言葉を皮切りに始まった宴は、まだまだ終わる気配を見せる様子はない。町の中央では、酔っ払い共が歌ったり踊ったりしているが、いまオレは少し席を外し町外れに来ていた。
感謝の言葉と共に酒を並々と注いでくれるのは結構なのだが、時間が経つにつれ、周りが若い男だらけになっていくのに辟易したからだ。それが
やはり、あの程度の輩に外套を脱いだのは良くなかった。あの後、すぐに再び頭から被ったのだが、その前にかなりの人数に見られてしまっていたらしい。時既に遅く、外套を纏っても隣に座ってくる男達からは、下心がありありと見える様になっていた。
町の恩人に下心を、などとは思うまい。むしろ、他の者に彼等がそう思われていないか心配なくらいだ。何故なら、
ヒトヒトの実 幻獣種 モデル”サキュバス”
それがオレの食べた悪魔の実の名前だ。実の特性は、食べた者を美貌の女に変え、他者から精気を吸える様にすること。加えて、異性を誘惑するフェロモンの様なものを出す効果のおまけ付き。
何の実か知ってて食べた訳ではない。いや、そもそもが悪魔の実とさえ知らずに食べたのだ。故郷の限られた強者しか入れない秘境に生っていた実を腹が減っていたからと食べたのが運の尽きだった。島内で最強の
そう、オレは元は男だったのだ。しかも、今の身長165cmほどのボン・キュ・ボンと言った体型ではなく、身長は200cm、体重も100kgほどもある筋肉質で大柄な体型をしていた。それがこの様なのだから堪らない。
だが、まあ、それだけならカナヅチになっただけでマシだった。通常の悪魔の実ならば、気に食わない能力だったなら使わなければ良いだけだからだ。
オレの食べた実の何が厄介かと言うと、能力が制御し切れない事にある。まず元の姿に戻れない。通常、ゾオン系の実は、人型、人獣型、獣型といった三段階に変化できる筈だが、この実は出来ないのだ。
何をどうしようとも、元に戻れない。それこそ、悪魔の実の力が減衰する筈の海や海楼石を触ろうとも戻らないのだから、通常の実とは何かが違うのだろう。
次に、異性を誘惑する能力を消せない。こちらは多少の強弱はコントロール出来るのだが、それでも完全な消去は行えていないのが現状だった。先ほど、この町の若い男がオレに下心を持ってしまっていたのも、この力の影響のせいに違いない。
最後に、精気を吸い取る能力を消せない。こちらも多少はコントロールが効くが、やはり完全なオンオフは行えていない。この能力は、オレが何かをする気がなくとも、近くの者から老若男女問わず、勝手に精気を吸い取るのだ。
勝手にオレは精気と呼んでいるが、元気・気力・体力と言い換えれば、この力の厄介さは理解できるだろう。下手をすれば生い先短い老人がポックリ逝きかねないのだから堪らない。
総じて、タチの悪い悪魔の実で消せるなら消したいくらいだが、良い点もある。というよりかは、もし野心ある女が食えばとんでもない大当たりの実と言えるだろう。
オレは活用する気はないが、美貌と誘惑の能力は上手く使えば一国の頂点に君臨できると言える程に強力なものだ。そうでなくとも、女なら美しく魅力的になって嬉しくない訳がない。
精気を吸い取る力も強力だ。ただ相対しているだけで敵の体力を奪い取り、直接触れれば更に高い効果を得られる。それに加え、吸った精気は己に取り込み力とする事が出来るのだ。白兵戦が得意な者ならば、効果は相乗的に増え、一対一でも多対一でも遺憾無く効果を発揮する凶悪な能力と言えるものだった。
こんな姿になっても、以前より強くなったのは喜ぶべきか、悲しむべきか。不思議な事に筋力その他全てが男の時と変わっていないのだ。むしろ、精気を取り込む力で、戦闘力は格段に上がっていた。強いて気になる点を挙げるならば、リーチが短くなった事と胸にぶら下がる二つの乳房が邪魔な事くらいで、戦闘面で他に支障をきたす要素は何もない。
用があって来たとはいえ、故郷を跳び出し、”
まあ、そもそも男に戻る方法や悪魔の実を何とかする方法など極めて限られているのだから仕方がない。無茶をするにしても、腕っ節だけで何とかならないならば、話は変わってくる。
正攻法は時間が掛かるし面倒なので、とてもではないが取りたい手段ではなかった。しかし、現状では、それら以外に当てがないのも実情としてある。
端的に言って、迷っている最中なのだ。だから、バカンスも兼ねて、望み薄だろうと件の人物の故郷がある”
その可能性が期待できるほどのものでも無い事は重々承知だが、それでも足を運ぶ程度には他に当てがなかったのだ。
ダメならば、いっそ無理矢理―――と考えた所で頭を振る。
酒が入って変に思考が逸れた。海を見ながら黄昏れていると、どうにも色々と考えてしまう。
せっかくの宴なのだから気分の良くない事ばかりを考えても勿体無い。そう思い、先ほどまでの思考を打ち切り、未だ騒がしい宴の中心へ戻ろうとしたのだが、その前に丁度こちらへ向かってくる気配に気付いた。
気配は二人。振り返って見た先には、町長の爺さんと助けた少年の二人が、こちらへとやって来ている。
「ねーちゃん!ここにいたのか!」
「ほっ、勇士殿は涼んでおる最中でしたかな?少しお邪魔しても?」
少年は開口一番、大声で。町長は静かに気を遣った言葉を発してきた。町長の物言いや物腰は、老齢ながらも未だ町長に就いてるだけあって謙らない程度に穏やかだが、少年の態度は、すっかり元の元気で喧しいものに戻っている。
「ああ、町長さん。いや、オレは戻ろうと思った所だったんだが……何か話でも?」
「ちょっ!ねーちゃん、やめろよ!」
姉ちゃん言うな、と少年の頬を軽く引っ張りながら、町長に言葉を投げ掛ける。引っ張っている手を退かせ様とする少年の可愛らしい反撃を尻目に、町長はオレの言葉に一つ頷き木箱に腰掛けると、戯れ合うオレと少年に微笑みかけながら口を開いた。
「そうして、その子が笑っていられるのも貴女様のおかげです。奴等、手慣れておって町民に無体は余り働いておらんのですが、それでも息の詰まる恐怖はありましたからな」
思い出したのか、町長はため息を一つ。そのため息には、気苦労や安堵を含め様々な感情が混ざっている様に見て取れた。
「そういえば、一週間も海賊が好き勝手した割に建物とかに被害が少ないな。あと、住民達に恐怖はあれど怒りは大して見られなかった」
通常、海賊に占拠された町は、建物が倒壊や炎上し、人は殺されるか陵辱される。海のならず者とは、そういった奴等も多い。その場合、視覚的に被害が判りやすいし、人々も恐怖と共に復讐の炎に取り憑かれる筈だが、この町ではそれらが見受けられず不思議に思っていたのだ。
「ああ、それには理由がありましてな。我々が大人しく従ったので、奴等は余計な反抗を嫌ったのでしょう。我々が譲歩できるギリギリの所までしか、無体をしてこなかったのです。我々とて仲間が殺されたり陵辱されたりもすれば、武装して反抗もあり得たでしょうが、金や物資の略奪だけとなると、やはり意見が分かれましてな」
「なるほど、手慣れてる、ね。まあ、そういったタイプの海賊もいるわな」
どこまでの意図があったかは知らないが、巨大で豪快そうな見た目の割に、クマゴロウとやらは意外にもクレーバーなやり方をしていたらしい。
確かに金や物資の略奪が目的ならば、無駄に反抗の意志を植え付ける必要はないだろう。抵抗するならば暴力で奪い取っただろうが、無抵抗の者達を傷付けても破壊欲や支配欲が満たされるだけで得はないと判断したのか、狼藉は働いてはいない様だった。
「という事は、こんなやり方してるなら海軍の増援が来る頃には、この町を出て行くつもりだったんだな、アイツ等」
「ええ、それが儂や寄り合いの大人達が読んでいた展望です。理由は推測でしかありませんが、奴等は事を荒立てるつもりはないと判断しました」
なるほど、だからオレが奴等を倒そうとしても少年の両親が止めて来たのだろう。その際に彼等から心配の念を感じたのは間違いないが、波風を立たせて欲しくなかったという意図もあったに違いない。
「しかし、それも我々の希望的観測でした。去る直前に町を焼き払う海賊とておりますからな」
「あー、いるだろうな。アイツ等がそのタイプかは知らないけど、溜まってたみたいだし、去る時についでとばかりに若い女の一人や二人連れ去られても、おかしかない」
下衆な類の海賊共が良くやる手口だ。特に船員に”そのための女”を抱えてない船には多い。運が良ければ海軍に助けられるか、次の島辺りで船から降ろされるのだが、運が悪ければ使えるだけ使って海に投げ捨てられる者もいると聞く。まさに下衆外道の所業だが、海賊に身を窶している者の中には、平気でそういう事をやる者が多くいるのも確かだ。
しかし、自分で言っておいてなんだが、胸糞が悪くなってきた。おまけに子供がいる前で話す内容でもなかったと少年を見て思い直す。当の本人は、町長と話していたオレに急に視線を向けられて、キョトンとしているが。町長がそんなオレ達を見て、苦笑しているのも少々バツが悪い。
「ねーちゃん、ゴンじいとの話は終わったの?」
視線を町長から外し彼に向けたからか、少年は話が終わったと思った様で、オレに声を掛けてきた。終わったかどうかで言えば、終わっていないのだが、そういえば町長の用件は何だったか。チラッと町長を見ると、こちらの意図は分かっているとばかりに彼は一つ頷いた。
「すまんな、オルマ。すぐ終わらせるから待っててくれんか。勇士殿、申し訳ありませんが、先程の話は飛ばして、用件を先に話してもよろしいでしょうか?」
「んっ?まあ、良いけど……感謝の言葉はもういらないぞ」
感謝の言葉は、もう聞き飽きたと言って良いくらい聞いている。町長には、宴の始まりに言ったので無いとは思うが、念のために釘を刺す。それを聞いて、彼も承知していると言わんばかりに苦笑し緩やかに首を振っている。
「用件なのですが、実は先ほど電伝虫で海軍と連絡がつきましてな。3日後には到着すると通達があったのです」
「海軍が?そりゃまた随分と急だな」
返り討ちにあって一週間。増援と再編に加え到着までの時間を考えると、中々の早さと言える。運良く、暇な将官クラスが近海にでもいたのだろうか。
「それが、どうも軍艦は無事だったからか、近くの支部に待機してくれておったそうです。増援はまだだったそうですが、クマゴロウ達の引き渡しを願い出たらすぐに行けると返答してきまして」
「ああ、確かに拘束してる奴の護送だけならいけるか」
あいつは悪魔の実の能力者だったし、それこそ海楼石の手錠でも掛ければ左官でも余裕だろう。今は奴等を鎖や縄で雁字搦めにしているが、それでも町民だけでは不安なので早くに引き取りに来てくれるのなら助かる。
「それで……失礼ながら手配書で拝見した事はなかったと思いますが、念の為に勇士殿には海軍がこの島に来る事を事前に伝えておいた方が良いかと思った次第です」
「あー……」
確かにオレがお尋ね者なら海軍が来るのは具合が悪い。世は大海賊時代。外海を旅している強い若者と言えば、海軍以外なら札付きばかりと相場は決まっている。だから、町長は失礼ながらと前置きしながらも確認を取ってくれたのだろう。
しかし、それはいらない心配ではある。
「教えてくれたのはありがたいけど、オレは大丈夫だぞ。別に大した事はしてないから指名手配もされてない筈だ」
「そ、そうですか」
オレがそう言うと、町長はホッとする様な顔をする。まあ、理由は海軍との板挟みをしなくて済んで良かったと言った所か。逃げてくれと言うつもりだったか、隠れてくれと言うつもりだったかは知らないが、来訪を事前に教えてくれるという事は、そういう事だろう。
「ただ、教えてくれたのは正直助かる。オレ、なんか海軍に勘違いされてるみたいで会いたくないんだよな。だから、来ても会うつもりはないから、アイツ等は適当にそっちで突き出しといてくれ。懸賞金は復興にでも使ってくれて良いからさ」
「いや、それは……」
「気にしないで良い、善意だけって訳でもないさ。単純にもう持てないんだよ。貰わないのも勿体ないし、好きに使ってくれ」
渋られても本当に要らないのだ。行く先々で似た様な事をしているから、懸賞金でトランクがもう一杯だった。奴等の懸賞金がいくらか知らないが、これ以上は持ち切れないだろう。預ける人も場所もないし、変に散財するよりかは復興にでも使ってくれた方がマシだ。
最初は戸惑っていた町長も、要らない理由をしっかりと説明し、オレが受け取る気がないと分かると諦めてくれた。
「分かりました。では、儂が責任をもって被害を受けた者達へと分配します。何から何までありがとうございます、勇士殿」
そう言って、町長は頭を下げる。まーた感謝だとは思ったが、これは別かと素直に受け取った。町長もその辺は心得ているのか、すぐに下げた頭を戻してくれている事だし、深くは気にすまい。
「それでは……儂の用件は以上なのですが、宴へとお戻りになられますかな?」
「そうだな……まあ、戻るとするよ。少年、お前はどうする?」
町長の用件は終わった事だしと手持ち無沙汰になっていた少年に問い掛ける。何やらオレを探していた様だし、こいつも何か用事があったのではないかと思い声を掛けたのだが、声を掛けられた少年は待ってましたと言わんばかりにバッと両手を挙げて、オレの方へと輝かせた目を向けてきた。
「当然、俺も行く!なあ、ねーちゃん!また冒険譚を聞かせてくれよ!」
それだけ言って、オレの周りを少年がウロチョロと周り出す。何の用事だと思ったら、遊びたいだけかと脱力する。いや、まあ、子供の用事なぞそんなものか、と思いウロチョロする少年を止める。
「聞かせるのは良いけど、適当な時間に寝ろよ」
既に日が沈んでから結構経っている。子供はそろそろ寝る時間だろう。ぶっ飛ばした海賊共が気になる事を言っていた事だし、オレも念の為に準備をしておきたい。
町の様子を見るに夜通し飲んで騒ぐ者もいそうな雰囲気だが、さすがに遅くまで付き合う気はオレにはなかった。
今日ではないにしても、もう一つ仕事が残っている。そんな予感と共に海を一瞥した後、オレは老人と少年に付いて、その場を後にした。
☆☆☆☆
夜分、
ユラリと巨大な船体を揺らしながら《ドクロが刻まれた》帆に風を受けて進むその姿は、見る者によっては大層な恐れを抱かせる威容を携えている。その長い航海に耐え得る為の巨大な船体には、所々に傷や補修の跡があり、それが辿って来た航海の期間や過酷さを物語っていた。
その歴戦の船の正体は、海賊船だった。
船主の名は、荒熊のゴクマ。”
そんな荒くれ者が今、苛立ちを隠せないかの様に船長室の机を指で叩いている。
「―――で?変わらずクマゴロウ達からは、音沙汰なしか?」
船内にある船長室にて、優に身長2mを超える巨漢が手下の男に言葉を投げ掛ける。カツカツ、と彼の指が動く度に鳴るその音は、まるで今の彼の心情を物語っているかの様だった。言葉を投げ掛けられた細いノッポの男は、その様に酷く萎縮している。
その巨漢の名はゴクマと言い、この海賊船の船長である男だった。”
そんな彼が苛立ちながら投げ掛けてくる言葉を恐れない船員は、彼の手下にはいない。彼の暴虐性やその力は、むしろ世間や海軍よりも船員である彼等の方が良く理解していた。苛立ち、酔ったゴクマに殺された船員とている程なのだから、いま対面している男にとっては、その暴威がいつ自分に向けられるかと気が気でなかった。
「へい……クマゴロウ親分からは、イコルズの港町の占拠を最後に音沙汰なく。それは今も変わりありやせん」
ゴクマの神経を逆立てないよう言葉に気を付けながらノッポの男が口を開く。内容はゴクマが義兄弟の契りを交わした弟分のクマゴロウの所在だった。
いよいよ
彼等にとって、そこまでは良かった。しかし、その後にクマゴロウ達からの連絡が一切途絶えてからは雲行きが怪しくなってきていた。待てども連絡も応答もない事を不審に思ったゴクマが、苛立ちを抱えながらも合流のため船員に急ぎ船を動かさせているのも、それが理由だった。
不精を起こしている訳ではないだろうとゴクマは思う。クマゴロウだけならば有り得るが、部下達にも散々に連絡を寄越すように言い含めていたのだ。大親分である自分の命に背く事はないと認識しているし、まさか部下全員が忘れているということはあるまい。彼等が連絡を寄越してきていない以上は、相応の理由があると彼は思っていた。
電々虫に何かあったか、クマゴロウ達自身に何かあったかは判然としない。
単なるトラブルか、海軍か、はたまた海賊か。トラブルならば、場合によっては単なる笑い話で済む。
海軍ならば撃退の報告の後の出来事だ。別動隊か、討ち漏らしかは分からないが、急がなければ護送が始まるだろう。
今いる海域からそう遠くない場所には、”元”海軍本部がある。容易に軍艦が行き来できる立地ではないので援軍は中々派遣されないだろうが、賞金首の護送自体は間違いなくそちらへ行く。そうなれば、追い付けるかどうかの一か八かになってしまう。
”先の大戦”の影響で元々あった戦力は見る影もないが、それでも一定の戦力が基地には残っている事は周知の事実だ。もしそんな”元”本部までクマゴロウ達を連れて行かれてしまえば、さすがに救出は不可能な事はゴクマも理解していた。
相手が海賊の場合でも種類によっては、まだ希望がある。キッチリとトドメを刺すタイプならば既にこの世にいないだろうが、大雑把な奴等が多い海賊の中には、相手を倒した後は気にしない者も多くいる。その場合は、急げば救出はできる可能性が大いにあるとゴクマは見立ていた。
詰まる所、どちらにせよ急いだ方が良いというのが、ゴクマが出した結論だった。他のトラブルだった場合でも、それは変わらない。
「急げよ。一分一秒でも遅れたら、結果が変わっちまうかも知れねーんだ」
言葉尻に怒気を含ませながらそう言うゴクマに、ノッポの男は緊張を走らせながら粛々と頷く。それは決してゴクマを恐れて適当に相槌を打ったのではない。実際、この船の航海士である彼の目算では、もうそろそろクマゴロウ達が赴いたはずの島に着く頃だったのだ。
男は島に着きさえすれば、全てが解決すると思っていた。クマゴロウの音信不通も、ゴクマからの威圧も何もかもが。
それが間違いだと気付いたのは、目的の港が目視できる距離に近付いてからだった。
彼等は理解していなかった。勘違いをしていた。相応の実力はあったが、
そう、彼等はここで
最初の異変は上陸の準備をさせていた甲板の子分共から報じられた。
「へぇ、意外に船はデカいし規模も結構なもんだな。”
船長室より出てきたゴクマの目の前に一人の女が立っていた。その女は海賊船にいるにも関わらず、物怖じした様子も一切見せずに何事もないかの様に気付けば、そこに佇んでいた。
「すげー良い女だ……」
そう呟いたのは、誰だったか。間違いなく船員の誰かではあったが、集団の中での複数の呟きだったせいで、誰かまではゴクマにも判然としなかった。
軟弱、見惚れてる暇があれば、とっ捕まえでもしろと常のゴクマならば叫んでいた事だろう。しかし、今この場では彼にもソレは出来なかった。
何故ならば、同じく彼も見惚れていたのだから。
ソレは、まさしく魔性の美貌だった。ソレは、魅惑的という言葉ですら足らない肢体と言えた。
その顔は人のモノとは思えぬ程に整っており、艶やかな黒髪は月の光の影響か、輝いているかの様に眩く。黒のショートパンツからは艶かしい足が存在を強調しているかの如く露出しており、服越しからでも分かる形の良いふくよかな胸や括れた腰は、男の理想を煮詰めたかの如く男達を魅了して止まない存在として君臨していた。
雰囲気すらも異常なまでに妖艶で、禁欲を強いられがちな海賊達にとっては、その女は余りに刺激的に過ぎた。
そんな女が荒くれ者達の中心に悠然と立っている。
本来ならば船の長であり、強者でもあるゴクマが女に夢中になる事など有り得ない。性欲を満たすための女など、その辺の島でいくらでも調達できるという事もあったが、それよりももっと先の目的を彼等は見据えていたからだ。
異常、とゴクマが感じた頃には遅きに過ぎた。目の前で子分である船員達が倒れていく中で、あまりにも彼の思考は、動きは、鈍重だった。
迎撃を、と身構える間も無く、甘い、花の様な匂いが鼻腔をくすぐった瞬間、腹部に強い衝撃を受け、ゴクマの意識は闇に落ちた。
☆☆☆☆
「ジケード大佐!”熊手のクマゴロウ”及び”荒熊ゴクマ”の収容完了いたしました!」
「ご苦労」
まだ年若い一兵卒の海兵の言葉に壮年の男が返答をする。ジケード大佐と呼ばれた男は、この近海を担当している海軍本部所属の海兵であり、今回クマゴロウの護送の任を指揮する立場にある者だった。包帯が巻かれた痛々しい出で立ちながらも、己が使命を果たさんと、いま港で任の一つを果たした所であった。
「ご協力ありがとうございました、町長殿」
ジケードが港町の町長である老人に敬礼しながら話し掛ける。時刻は正午を回る頃、予定通りに到着した軍艦にクマゴロウを収容した所だった。堅苦しい物言いで、厳しい顔を更に険しくしているジケードに、老人が苦笑いを向ける。
「こちらこそ、迅速な対応ありがとうございました、大佐殿。拘束しておったとは言え、いつ暴れ出すか儂ら町民はヒヤヒヤしておりました」
己に厳しそうな目の前の傷だらけの男を見て、老人は彼を労る様に礼を言う。港に到着した第一声が町民への謝罪だったからして、この男が誠実な海兵なのは、町長である老人にも分かっていた。
「いえ、礼など……先日は海兵の責務を果たせず、申し訳ありませんでした」
そう頭を下げる男を見て、老人は思う。一定数いるズボラな海兵は困りものだが、これだけ堅苦しい海兵は、それはそれで困りものだ、と。
目の前の男は、海兵の責務が果たされなかった時の惨事を何度も見たのだろうとは思う。世は大海賊時代だ。海軍の手が回っていない事は、周知の事実だった。そもそも、海軍が在中している島以外は、間に合う訳もない。
今回は運が重なり、町や住民に被害はほぼなかったが、手遅れだった島の様な惨状が広がっていた未来を思うと老人とて今の様な気持ちでいられなかった可能性は高い。
しかし、それは”たられば”だ。現実は、そうはならなかったのだから、こうも畏まられるとやりにくい。
「頭を上げてくだされ。此度は何事もありませんでした。それで良いではないですか」
被害はほとんど物損のみで、それも大した事はない。偶然の来訪者による望外の幸運とはいえ、この状況で生真面目な海兵をイジメる様な気質は、老人にも町の人々にもなかった。
「そう言っていただけると……ありがとうございます」
あくまで物腰柔らかく言う老人に根負けした様にジケードも、ようやく頭を上げる。その顔からは幾分か険が取れている様に老人には見えた。
これでやっとまともに話が出来る。そう思いながら老人は話を進めようと口を開く。
「では……先に申しました通り、復興はこちらでやりますので、護送の方をすぐにでもお願いします」
「ええ、それは責任を持って務めさせていただきます。ただ、申し訳ありませんが船員たち全てを一度に護送は出来かねますので……」
「大丈夫です。しっかりと捕縛の上、見張りも立てておきます」
また別の話題で申し訳なさそうにするジケードに老人は苦笑する。海賊団が二つに増えた事が想定外だった事は、既に散々に説明を受けた後だった。”熊手のクマゴロウ”と”荒熊ゴクマ”が、兄弟分だった事は、海軍内でも情報が出回っていなかったらしい。
下手をすれば大事ではあったのだが、先ほどと同じく無事に終わった事だ。そこを責め立てる気は町民達にないのも同様だった。
「懸賞金につきましては、後日申請が終わり次第、支払わせていただきます」
「……ええ、お願いします」
クマゴロウとゴクマで締めて2億6千万ベリー。それが今回の金額だと言うジケードに、老人は少々後ろめたい気持ちになる。
好きに使ってくれと言ってくれた若者の姿が老人の脳裏に過ぎる。クマゴロウを討伐した夜は素直に受け入れたが、ゴクマの方までは予想外に過ぎた。元々が大金ではあったが、それが二倍以上に増えたのだ。さすがに、彼女にも海軍にも後ろめたい気持ちが多大にあった。
とはいえ、それで貰える物を貰わないほど老人も若くはなかった。しかも、事が己だけでなく町全体に波及するのだ。海賊達に壊された物の修復自体には要り様なので、金が有って越した事がないのも間違いない。彼女は預ける先がないと言っていたので、最悪は町の借りとしておけば良いと老人は結論付けていた。
「なるべく遅くならないよう手配はしますので。では、町長殿、失礼します」
そんな老人の内心を露知らず、ジケードは護送の任を果たそうと船へと足を向け―――数歩ほど歩いた後、老人の方へと振り返った。
「そう言えば、仰っていた善意の協力者である黒髪の女性についてなのですが……名前は聞いていたりしませんか?」
「うん?……いえ、そう言えば聞いていませんな」
ジケードの問いに、老人が応える。それに嘘はない。真実、老人は彼女の名を聞いてはいなかった。自ら名乗らないならば尋ねるべきではない。それは、この大海賊時代を生きる年長者が持っている処世術としては当然のものだった。
「そうですか……やはり、名乗っておりませんか」
「やはり、とは?」
ジケードの気になる言い回しに、今度は老人が問い掛ける。やはり、という言葉が意味する所は、ジケードが事前に知っていたという事だろう。女性が名乗っていない事も、それこそ女性が何者であるかも。
余計な詮索を老人もするつもりはなかったが、さすがに恩人の事となれば話は違う。彼女にとって都合の悪い内容ならば、聞いて知らせてやるべきだろう。そう思い、老人は言外に回答を促すかの様に、ジケードの方へ眼差しを向けた。
老人の眼差しを受けたジケードは、少しの逡巡のあと、特に気負う事なく口を開いた。それは彼にとっても海軍にとっても、大して隠している内容でもなかったからだった。
「実は最近、海軍で話題になっているのです」
「話題……ですかな?」
「ええ。悪しき海賊共から人々を守る、正義の女性の話です」
そう言うジケードの言葉には、少々の熱が篭っている事を老人は感じた。その様子を見て、老人は彼女が海軍に会いたくないと言っていた事を何故か思い出していた。思い返せば、聴取を受けた際に協力者の話になった時も、若い海兵の反応はどこかおかしかった様な気がした。
「正義の女性ですか。それが今回の方だと?」
「ええ、特徴から間違いないでしょう。この辺りにいるのも、最近の目撃情報と合致しています」
人々へ狼藉を働く海賊共を殺さず無力化し、それを海軍へと突き出す女性。なるほど、風貌の合致まで加味すれば確かにジケードが自信あり気に言うくらいの特徴ではあると老人は思った。
この海では、海賊でも海軍でもない若く強い女は酷く珍しい。それ以外となると、噂に聞く革命軍とやらに所属している者くらいしか、老人とて聞いた事がないくらいだった。
「海軍の一部では、その戦い振りや行いから”黒腕の再来”と呼ぶ者もおりましてね。軍内にも助けられた者が多数おり、その見た目も相まって若い海兵にはファンもいるくらいです」
そんな若い海兵達を見て、軟弱とはジケードは思わなかった。年配のジケードでも若い海兵の情動は良く分かったからだ。いま海軍は少しでも明るい話題を求めている所だった。
理由は、現在の海軍が激動の時代を迎えているからである。
事の発端は、1月ほど前に海軍本部マリンフォードにて起こった”とある大事件”―――俗に言われる”頂上戦争”に因るものだった。その戦いで海軍は勝利を収めはしたものの、完全勝利とは程遠い内容だったというのが海兵達の間での共通認識としてあった。
歴戦の海軍元帥”仏のセンゴク”の退陣による大幅な人員・配置転換に続いて、最高戦力である大将”青キジ”の離脱。新しい四皇”黒ひげ”や新しい海賊達の台頭もあいまり、海軍内部や
そんな最中に若い海兵達が明るい話題に食いつくのも無理はない。それ程までに先の大戦の被害は大きいものだったとジケードは認識していた。
「もしまた目撃されたならご一報ください。なに、悪い様にはしません。ただスカウトをするだけですから」
「スカウトですか。それは”例の制度”絡みですかな?」
「ええ、そうです。”世界徴兵”という世界政府公認の正式な形で、です。ですが、ご安心を。アレは拒否された方をどうこうする制度ではありませんので」
その言葉に、この町の恩人を害する気はないという意図がある事を老人は感じた。意図は感じたが、老人は海軍に彼女の事を話す気はなかった。それが彼女との約束だったからだ。
そもそも、彼女のあの様子では望みは薄いだろうと老人は思う。今の話だけなら海軍に裏があるとは思えないが、会わせた所で双方に良い話になる気はしなかった。
「再び会えましたら連絡しましょう」
老人にはそれしか言えなかったが、それで問題ないといった風にジケードは一つ頷いて敬礼した。
「ありがとうございます。では、今度こそ本当に失礼しようと思います、町長殿。何かありましたら私の名前を出してもらって構いません」
そう言ってジケードは軍艦へと乗り込んで行った。
港から離れ行く軍艦を尻目に老人は思う。海軍があの様子では、1月後の海は落ち着くのではなく、更に荒れている事だろう、と。
彼等、海軍を悪く言うつもりは老人には毛頭ない。彼等が広い海の治安を良くする事に尽力している事を老人は知っている。ただ、”世界徴兵”など、長い年月を生きてきた老人ですら聞いた事がない、前代未聞の戦力の補充方法だ。それが示唆する事が何かは、世を多少は知っている老人なら理解はできた。
なぜ海軍が四皇”白ひげ”に手を出したのかは定かではない。しかし、彼等が引き金を引いたのは間違いなかった。”白ひげ”の死と”
この町を襲った事件は序章に過ぎない事を老人は予感する。そして、今回の様な事をして歩いている彼女もまた、時代のウネリに巻き込まれる事も老人には容易に想像できた。
これは前日譚だ。
彼等に待っているのは、時代の荒波に違いない。荒れた海は人が読み切れるものではない事を老人は良く理解していた。
願わくば前途ある若者達に幸あらん事を。
今はまだ穏やかな海を行く海軍の船を眺めながら、彼等と彼女の行く末を老人はただ祈る事しか出来なかった。
以上です。