俺、黒川優斗の姉は黒川あかねである・・・突然なんだよと思うだろう。でも改めて事実確認がしたかったのだ、どうか許してほしい。
そう、姉は黒川あかね一人。
「黒川君、私の事は化野さんじゃなくてめいお姉ちゃんでいいよ?」
「どうか化野さんと呼ばせてください」
現在、何故か姉が2人に増えようとしていた。
化野めい、姉さんと同じララライ所属の劇団員で俺のお姉ちゃんをやりたがるというトンデモな人だ。彼女は姉さんの並外れた演技を同じ役者として尊敬しており、中でも最高の演技は俺が稽古場へ来たときに見せたものらしく。そのことから、姉弟愛は人の感情を引き出す力を持っていて自分もお姉ちゃんを体験すれば何か掴めるかも・・・という訳の分からない理論に行きついてしまったらしい。その理論違うと思いますよ??
前回会ったとき帰り際に「またね」と言われたけれど、あのとき互いに連絡先を交換したわけでもない。なのでまた会う確率は低いだろうと軽く考えていたが。
「普通にばったり会うとは、しかもこんなに早く」
「あのとき君と連絡先交換するの忘れちゃってどうしようと思ってたけど、また会えてよかった」
いやよく考えてみれば姉さんとしょっちゅう顔合わせてるし、知ることは簡単に出来るのでは?その疑問を聞いてみると化野さんは顔色が悪くなりトラウマを思いだすように軽く震えながら。
「・・・それはできないよ、前にこゆきが黒川君のを教えてってあかねに頼んだときのあの表情は二度と忘れられない」
「その、何て言うか・・・姉がごめんなさい」
化野さん曰く舞台では見せられない顔らしい、お客さん別の意味で号泣間違いしちゃいそうだなぁと遠い目をしながら思っていると化野さんが俺の頭を撫でていることに気がついた。
「化野さん!?」
「・・・あかねに気づかれたらまずいから今回だけ、本当にごめんね。今日だけ付き合ってくれない?」
正直これで何か掴めるとは全く思えないけど、そんな真剣な顔で頼まれてはこちらも断りづらい。姉さんは今家にいるし心配はない・・・よね?
それに舞台見に行ってるからわかるが、化野さんの演技も凄く上手くて人を引き込むものがある。俺もそれに楽しませてもらった一人だし、少しでも力になれるなら。
「わかりました、俺でよければ付き合います」
「ありがとう・・・じゃあ今から私の事はめいお姉ちゃんって呼んでほしい」
至って真面目な表情の化野さんを見て、悪いのはわかっているがどうしても思ってしまう・・・ホントにこんなので何か掴めるのか??
「め、めいお姉ちゃん」
「もっと自然な感じでできる?本当の姉だと思って」
お姉ちゃんとか最後に呼んだのいつだか覚えてないくらい昔なんですよ!?他人にやると思うと尚更恥ずかしいぞ、でもOKしたのは自分だし発言に責任は持たなければいけないよね・・・覚悟を決めた俺は深く呼吸をして精神を整え。恥じらいを捨てることを頭に言い聞かしながら口を開いた。
「めいお姉ちゃん!」
「・・・うん、凄くいいね。そんな感じで今日はお願い」
くっ、殺せ!くっころ案件だ、くっころ。こんな所姉さんに見られたら俺は終わ・・・
「・・・今お姉ちゃんって言ったよねゆうくん」
「あっ」
穏やか(まぁ時々暴走するけど)でいつも優しく怒ったりすることなど滅多にない姉さん、怖がられるような人間とは真逆に位置している。なのに不思議だよね、化野さん今めっちゃ震えてるし?でも理由は明白で。
「今日は家にいるつもりだったんだよ、でも買い物頼まれちゃって・・・意外だなぁ。ゆうくんって化野さんと面識あったんだね?」
一見優しく微笑んでいるように見えるが、その目はまっっったく笑っていなかった。