アシスタントA君の証言
「新妻先生に変な所? 変じゃない時ってあるんですか?
ああ、去年あたりから仕事中にやたら話し掛けて来られるようになったのが変っちゃ変かなぁ。それまでは俺らなんか空気扱いでしたから。
あ、いや、不満ってんじゃないですよ、慣れれば気を使わなくていい最高の職場ですから。
話の内容? 大した事は……学生時代の事を聞かれたかな。先生、在学中にデビューしちゃったから普通の高校生活送っていないじゃないですか。ファンタジー描写は凄いけど、リアルな教室風景とかたまに現実味に欠けてるなって思う事ありますし、本人も気にしてらしたんじゃないかな。
俺は男ばっかりの専門学校だったから、もう一人の奴との方がよく喋っていましたよ」
アシスタントB君の証言
「はい、去年からよく話し掛けて来られて、緊張しました。学校生活の事? 聞かれましたけれど、拙者、陰の者だったので…… ヒエラルキー上の人達の様子を話しましたが、先生は『ピンと来ないですねぇ~』って仰っていました。ご期待に添えなくて残念でした。
あとは暦の本を少々お貸しした位……そちらは作品の資料だと思いますが。
あっ、それと大分前に、運転免許の事を聞かれました。僕が教習所に通って免許を取った経緯を話すと、『めんどっちぃですね~』って。
そしたらもう一人のアシさんが試験場で一発免許を取った人で、その後はずっとその人と話をしていたみたいです」
アシスタントC君の証言
「俺は突発アシでたまにしか行かんし、センセの事とかそんな分かんねぇっスよ。
一発免許の事? そういややたら喰い付いて来たな。
漫画家のセンセによく聞かれるんだけど、個人的には教習所通って確実なコースたどった方がお勧めだよ。俺は甘いって噂の試験場を探したり住民票移したり、それなりに労力使ったモン。
まぁ、新妻センセならイケるかもね、あの人、動きが野性動物だし。
そういえば…… その前に新妻センセん所に行った時……えっとあれ、年明けぐらいだったかなぁ。急にAさんBさんが来られなくなって俺に声が掛かった日。
あの時たまたま俺の同郷の後輩が持ち込みに上京してて、ベタとトーン貼りくらいならイケるだろって連れてったんスよ。
なに、勝手に? いいじゃん、センセがオッケー出したんだし、本人も大喜びだったし。
センセ、そいつとめっちゃ話が弾んで、仕事放っぽり出して、そいつのスマホ覗き込んでテンション爆上がりでさ。珍しいなとは思った、あの人が原稿以外に夢中になってるの見た事ないから。
あっ、もういいスか? バイト中なんで、休憩終わっちゃう。
内容? そんなの気にして…… チラッと見えた画像がイチゴぐらいだった事しか。じゃ、また仕事あったら宜しくっス」
***
「イチゴォ・・?」
高木が声を上げた。そんな可愛いの代名詞みたいな果物を男二人で眺めて、何を盛り上がっていたんだ?
「いや、これを見てみろ」
真城が指差すシンクの三角コーナーにはカラカラに干からびたイチゴのヘタ。結構大量にある。っていうか生ゴミくらい捨てろよ、いつのだよ。
「あっ!」
雄二郎が何かを思い出して手をポンと打った。
「編集部員の誰だったかがイチゴを箱で持ち帰った事があった。漫画家の先生に貰ったから皆で食べてくれって。えっと誰だっけ……」
「港浦(みうら)さんじゃないですか? 『+NATURAL』原作の秋名愛子の担当でしょう?」
と真城。
「あ、そうそう港浦君。男ばっかりの編集部で果物なんか誰も喜ばないからね。気の利く奴がそのままレディス誌の編集部へ持って行った気がする」
「ビタミンは摂るようにした方がいいっスよ」
と高木。
「新妻先生がイチゴの大量買いをしてお裾分けしたって事? イメージ湧かないな」
「高校生活に運転免許、そしてイチゴ…… それで訳が分からなくなって俺らにSOSしたんですか、雄二郎さん?」
「うん……」
俺らだってそんなの分かりませんよ! と言いたい亜城木たちだが、途方に暮れる雄二郎の前ではっきり言えず、取りあえず考えてみる。
「高校生活は分かります。恋愛漫画の定番舞台だし」
「あと、アンケートを書くような読者は学生が多いしな」
「やっぱり自分の弱点が気になっていたんでしょうか。後は免許とイチゴ……」
「その、スマホを見せていたC君の友人とやらには聞き取りしたんですか?」
「それが、Cがまだバイト中で連絡先を聞けなくて……」
いきなり扉がバタンと開いた。
一瞬期待したが、そこにいたのは部屋主ではなく……
「話は聞かせて貰ったぜ!」
「ふ、福田先生!?」
***
エイジ達と同じく少年ジャックの連載作家、福田真太がドヤ顔で仁王立ちしていた。
雄二郎は、亜城木と同時に彼にもSOSを出していた事を思い出した。
「真城、高木、お前ら仮にも探偵物を描いていた身だろ、もっとチャキチャキ推理出来んのか」
「面目無い」
「そうは言ってもヒントが少なすぎて……」
「ヒントが無ければヒリ出せばいいだろがよ。よおし、ここは吉祥寺のコナ○君こと福田真太様がアガ○博士もビックリの名推理を披露してやるぜ」
(やめてそれ他社の漫画!)
と心で叫びつつ、雄二郎はもう藁にでもモズクにでもすがりたい気持ちだった。
時刻はもう零時をまたごうとしている。