アシスタントD君の証言(標準語訳)
東京で泊めて貰った漫研の先輩の家に、臨時のアシスタント要請が来た。何とあの新妻エイジの所だという。
――いいなあ
――お前も来るか?
そんな軽いノリでいいの? と思ったが、新妻先生は思ったより怖くなくて、ベタとトーンしか出来ない自分にも優しくしてくれた。
嬉しくなって、最近スマホにおさめた画像を見せた。
「ウヒョォ――!」
喜んで貰えた、よかった。
「どんな画像?」
「フィギュアっス、CROWの」
「CROWのフィギュア?」
CROW(クロウ)は異形の変身ヒーローで、新妻エイジのヒット作品。アニメも土曜の夕方で子供に人気が高い。
近所の観光イチゴ農園の受け付けカウンターにCROWのフィギュアが置いてあって、あまりに見事だから許可を得て写真を撮った。上京して思いがけず新妻エイジに会えたので、嬉しくてその画像を見せたとの事。
「イチゴ農家の、CROWの、フィギュア……?」
イチゴ繋がりはしたが、情報が余計にこんがらがった気もする。
「あれ見たら誰でも撮りたくなっちゃうスよ。一目で新妻先生も食い付いていたし。アドレス教えてくれたら送りますよ」
Cメールで雄二郎のメールアドレスを送ると、すぐに数枚の画像が送られて来た。
「うおお」
四人で覗き込んだ画像に眠気が半分ふっ飛んだ。
高さ40㎝くらいの思ったより大きめのCROWがイチゴの乗ったカウンターの上で決めポーズを取っている(シュールだ)。
確かにクオリティが高い。荒い画像で素材までは分からないが、シルエットに気品というか威厳がある。これは撮りたくなるわ。
イチゴ農園の親父さんと八歳位の男の子がフィギュアを抱えて立っている写真も混ざっていた。
「……知らない製品だ……」
雄二郎が呟く。
CROWの商品化権は遊栄社が持っているし、エイジが執拗に監修しているから、彼が知らないフィギュアがある訳がない。
「イチゴ農家の子供が誕生日プレゼントに貰ったらしいッス」
普段から野菜をあげたり懇意にしている山奥の造形師に、『誕生日に何が欲しい?』と聞かれて、『CROW!』と答えたら作ってくれたとの事。
「個人の趣味の範囲やし、大丈夫やよね?」
再び電話したD君が心配そうに聞く。
「う、うん、そういうのなら問題ないと思う」
贅沢な誕生日プレゼントだ。親もカウンターに飾ってみたくなったのだろう。
だんだん繋がって来た。
『ボクにも――ボクにも作って――!』
と椅子をギコギコ揺らすエイジが目に浮かぶ。
「それで、新妻先生が、君の車に乗って直接その造形師に会いに行ったんだ?」
「はい。近所付き合いをしない人やし、その……うちら辺では……親父とかに、あまり関わっちゃアカン言われてて……(田舎だからかな?)。僕は車の中で待っとったんス。したら、『話が長くなるから帰っていいです――』ってガソリン代とお礼をくれて。いい人っスねぇ、新妻エイジ」
その後も、イチゴ農園で子供と遊んであげるエイジを何度か見掛けたらしい。
どうやらフィギュアを発注して、造形師を度々訪ねるような親しい仲になったようだ。
マンションの男四人は取りあえず肩を下ろした。
「今日もそこへ行っている可能性大だな」
「あんまり人の仕事を邪魔していないといいけれど」
内緒にされていたのは寂しいが、自分達以外にも友人が出来るのは良い事だ。
あの人の事だから、そのうち突然自分でフィギュアを作り始めちゃったりしてな。
「ありがとうね、D君」
「あ、は、はい……」
福田が雄二郎の膝裏をキックした。
「うぎゅ」
「ハットリさん?」
「あ、あのね、君の原稿見たら、アドバイスしたい箇所が沢山あったから、また日を改めてメールか電話をするよ」
「本当っスか、宜しくお願ぇしまス」
そんな通話をしている後ろで高木と真城が
「あ――あ、フィギュアかよ、エイジもまだまだ子供だな」
「誰だよ、『女性の影』なんて言った奴」
なんて話をしている。
「あの……」
「ん、まだ何かあるの、D君?」
「造形師さん、女性っスよ、けっこう若い」
――!!