【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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100:擬態を見破る策

 何日経っても、俺の頭には靄がかかっていた。

 イサビリ中尉たちが死んだ可能性。

 そして、彼女たちに成り代わって現れたスパイたち。

 

 日常の中で、共に過ごしている偽物を気にしないでおくことなんて出来ない。

 俺だけが奴らを偽物であると認識している。

 この事を皆に知らせる事が出来たらどれだけ楽だったか。

 しかし、もしも俺が何の証拠も無しに奴らを偽物だと言えばどうなるか。

 

 最悪の場合、精神病棟に送られてしまうかもしれない。

 いくら公国を救った英雄だとしても、信じてもらえる可能性は低い。

 仮に信じてもらったとしても、奴らがボロを出すとは思えない。

 嫌疑を掛けられたと知ったが最後、奴らが自ら命を絶つ可能性もある。

 いや、まだそれならマシかもしれない。

 頭を過ったのはこの基地内で重要な役割を担う人間を殺す可能性。

 死ぬ前に俺たちの仲間を殺しにかかる場合だってある。

 追い詰められたネズミは何をしでかすかは分からない。

 

 今は刺激を与えず、機を伺うしかない。

 俺が勘付いている可能性があるとは奴らは気が付いていた。

 しかし、ゴースト・ラインの幹部が俺を殺すなと命令しているのなら。

 ある程度の行動を取ったとしても殺される心配は無い……筈だ。

 

 確証はない。

 やり過ぎれば殺されるだろう。

 その境界線を見極める事は難しい。

 何処まで行動をして、奴らにバレないように証拠を集めるか――俺の背後を奴が通る。

 

 中尉の姿をした偽物が、俺の背後を通った。

 現在は、食堂で軍曹たちと食事を取っている。

 俺の好きなカレーであるが、この状況では味なんて分からない。

 黙々とスプーンを口へと運びながら、チラリと偽物の中尉を見る。

 彼女は涼し気な顔でトレーを運んでいて、ゆっくりとそれをカウンターに置いてから去っていく。

 俺は次に偽物のウラカワ伍長とジェスラ曹長に目を向けた。

 距離を取って食事をしているからか、此方には目を向けていない。

 楽しそうに他の兵士と話しながら食事を取っていて、誰も違和感を抱いていなかった。

 

 偽物なのに、本物と同じ記憶を持っている。

 本物の記憶を持っているからこそ、話題を振られても答えられていた。

 かなり厄介な相手であり、どうやれば皆に気が付いて貰えるのか。

 

「……ごちそうさま」

「うぁ? もう食ったのか。今日はやけに早いな。腹が減っていたのか?」

「……えぇまぁ。昨日の夜は食べていないので」

「おぉ? 腹痛かぁ? 拾い食いはするんじゃないぞマサムネ。ははは!」

「……は、はは」

 

 俺は乾いた笑みを零してからトレーを持っていく。

 最後にもう一度伍長たちに目を向けて――すぐに逸らした。

 

 一瞬だけ目が合いそうになった。

 完全に此方の様子を伺っていた。

 まるで、警戒心を抱いている様子で。

 俺は何とかギリギリのところで目線を逸らせた筈だった。

 無表情でトレーをカウンターに戻してから、俺は足早にシュミレータールームに向かう。

 昼飯を食って午後からはあそこで訓練をする。

 俺は何時もよりも足を速く動かして歩いて行った。

 

 

 

 シュミレータールームに着けば、偽物の中尉が準備をしていた。

 パイロットスーツに着替えていて、メットを装着していた。

 皆よりも早く来て一人で訓練を始めるつもりだろう――そうはさせない。

 

 俺は着ていた上着を脱いでパイロットスーツを出す。

 台に置かれていたメットを取ってから、俺は中尉の元に駆け寄った。

 笑え、笑うんだ、自然に笑え――

 

「イサビリ中尉!」

「……何だ?」

「今から訓練ですか? 良かったら俺と模擬戦をしませんか? その、相手がいた方が身になると思います!」

 

 一対一の戦いを申し込む。

 俺はこの偽物と戦って、その記録を保存するつもりだ。

 どんなに顔を変えて記憶をコピーしようとも、操縦の癖は真似できない筈だ。

 確たる証拠にはならないかもしれない。

 でも、一番近くにいた中佐であれば、その違和感に気づくだろう。

 

 俺は一か八かの賭けに出た。

 もしも断れれば、また一から証拠を見つける方法を考えなければならない。

 猶予はあまりなく。

 出来る限り早期に奴らの正体を皆に知らせなければならない。

 

 本物の中尉であれば断らない。

 しかし、こいつは偽物であり断る可能性も――

 

「いいだろう。乗れ」

「……ありがとうございます!」

 

 偽物は俺の提案を断らなかった。

 爽やかな笑みを浮かべながら、彼女はメットのシールドを展開してシュミレーターに乗り込んだ。

 俺もメットを付けてシールドを展開する。

 アイツは何を考えているのか。

 バレないとでも思っているのか。

 何方にせよ、チャンスがこんなにも早く巡ってきたのなら好都合だ。

 

 俺は黒い箱の形状をしたシュミレーターに手を翳す。

 すると、俺の手形を読み取って機械の音声が俺の名を呼んでハッチを開いた。

 俺は中へと急いで乗り込んでから、コンソールを叩いてシステムを起動させる。

 偽物とデータをリンクさせて、ディスプレイに仮想戦闘領域が出現した。

 

 ランダムで生成されたのは、遮蔽物の無い荒野で。

 周りを見ても青空が広がっているだけで、特徴と呼べるものは存在しない。

 俺の機体は公国軍の主力量産機であるグラードを俺用にチューニングしたものだ。

 雷切で戦う事も出来るが、このシュミレーターでは俺のコックピッドを模倣する事は出来ない。

 少しだけ焦っていたこともあるが、敵に雷切の戦闘データを渡したくない事もある。

 不自然な事は無い。奴の違和感を焙りだすのなら、グラードでも十分だ。

 

 ゆっくりと前方に見える偽物の機体に目を向けて――目を細める。

 

 偽物が乗り込んでいる機体は、何時ものチューニングをしたグラードでは無かった。

 青を基調として、相手を恐れさせるような血のように赤いラインが入った青い双眼の機体。

 鋭角上の胴体部分に、腕はパイルバンカーらしきものと一体となってその杭が肩より上に伸びている。

 別のカメラによって敵の背部を見れば、板のようなスラスターが二枚付けられていた。

 上へと延びる長いそれと、やや下へと延びるやや短いそれ。

 脚部へと目を向ければ、少しだけ厚みがあり、何かの推進装置らしきものが取り付けられていた。

 

「……格闘戦用のモデルか? 見たことが無いぞ」

《イングリード。公国内のエースパイロットに支給される格闘特化のメリウスだ》

「……何故、それを選択したんですか? 何時もの中尉ならグラードを選択すると思ったんですが」

《ふふ、お前には言っていなかったが。私は昔、これに乗って戦っていた。お前のように異名で呼ばれていたこともある……まぁ部隊を指揮する立場となった今。これは私には不向きだと自分で判断して本部に返還したがな……データが残っていたから、今日はこれに乗って戦おう》

 

 昔を懐かしむように話す偽物。

 俺はそれを聞いて恐怖を感じた。

 まるで、自分の思い出のように語る偽物は不気味で。

 もしも、こいつが偽物だと知っていなければ、俺は何の疑問も抱かなかっただろう。

 

 俺は笑みを浮かべながら、彼女の事を賞賛した。

 表情では笑っているが、心の中では警戒心を強めている。

 何時も通りに振舞って、こいつがグラードを選択していれば証拠も掴みやすかった。

 グラードで戦っている中尉なら俺は見ていたから。

 しかし、イングリードという見たことも無い機体で戦う中尉の姿は知らない。

 

 どうする……いや、だけど中佐なら分かる筈だ。

 

 俺は彼女に見えないようにコンソールを操作する。

 記録機能を確認しようとして――少し動揺する。

 

 表情が僅かに動いてしまった。

 偽物はそれに気が付いて目を細めて声を掛けてきた。

 

《……どうかしたか?》

「……いえ! イングリードで戦う中尉を見るのは初めてなので緊張してしまいまして。はは」

《……そうか》

 

 動揺を悟られないように笑う。

 奴は気が付いていな様子で、通信を切断した。

 俺は額から汗を流しながら、記録機能が切られている事に焦った。

 

 可笑しい。兵士たちがシュミレーターを使えば自動で記録される筈だ。

 仲間との確認や上官からの指導など。

 それらに使う為に記録は自動でつけられている筈だった。

 しかし、今しがた確認してみれば記録機能が切断されていた。

 

 切れない筈だ。

 中佐ほどの権限があるのなら可能だろう。

 しかし、中尉クラスでは独断で記録機能を切断する事は出来ない。

 切ろうにもロックが掛っていて――思い出す。

 

 

『いや、無理でした……アレのロックは厳重です。下手につつけば此方の存在に気づかれるでしょうね。時間を掛ければもしかしたら……』

 

 

 ジェスラ曹長の偽物は、俺のメリウスを解析しようとしていた。

 それはつまり、システムへのハッキングの知識を持っているという事だ。

 シュミレータールームへアクセスして、その機能の一部を書き換える……出来るかもしれない。

 

 奴らがボロを出さない為に記録を改ざんしようとしている。

 中尉がシュミレーターで戦った記録を別のデータに変えるつもりか。

 基地内に潜入して日が浅い筈なのに、奴らは機転が利いている。

 まさか、此処まで考えて――目の前に拳が迫る。

 

「――ッ!!?」

 

 考え事をしていて気が逸れた。

 俺は本能で機体を動かして、寸での所で回避した。

 パイルバンカーが取り付けられた腕が胴体を掠める。

 コックピッド内が小さく揺れて、俺は頭を揺らした。

 

 上空へと逃れて、距離を取りながらライフルの弾を放つ。

 凄まじい勢いで飛来する弾丸を、機体を左右に振って回避した。

 集弾性能がレイジング・ソルよりも低い実体弾を使用するライフル。

 しかし、そうでなくともあんなにも軽やかに弾を避けられる筈がない……イサビリ中尉でも無ければッ!

 

 舌を鳴らしそうになるのを堪える。

 そうして、俺は中尉の真似をする敵に苛立ちを覚えた。

 ふつふつと沸き上がる怒り、此方よりも上手の敵への恐怖。

 それを心に抱えながら、俺は衝動のままに銃口を偽物へと向けた。

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