【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

103 / 302
102:大蔵研究所と彼女の繋がり

 ジジジという音が聞こえる。

 技術スタッフの中でも高い技術力を持つ人間に与えられる個室。

 その中で、小さな基盤と向き合う女性が一人。

 メリウスのパーツが散らばって部屋の中が汚いが、彼女は全く気にしていない。

 ゴーグルを嵌めながら、器用に基盤を弄っていた。

 俺はそんな彼女――ゴウリキマルさんを後ろから見つめていた。

 

 暇になった時間を彼女と過ごそうと思って尋ねてみれば、彼女は他の人間に頼まれた仕事をしていた。

 電子機器の修理であり、彼女であれば片手間で出来てしまう。

 だからこそ、邪魔になると思った俺も中へと入れてくれた。

 彼女は外装などの修繕を終えて、今は中身に取り掛かっている。

 もうそろそろ終わる事だろうと思っていれば、彼女はゆっくりと息を吐いてはんだごてを戻す。

 近くに置いてあった小さな機械を手に取って、それの中に基盤を組み込む。

 カチャカチャという音を聞きながら待っていれば、彼女は小さく「これでよし」と言う。

 

「……もういいぞ」

「あ、はい……何を修理していたんですか?」

「ん? あぁ、これは立体映像投射機だ。超小型だからな。直せる人間がいなくて困っていたんだってよ。ほら」

 

 彼女が箱の形をしたそれのボタンを押す。

 カチリと音がしたかと思えば、箱の外装がゆっくりと開く。

 そうして、上のレンズ状の何かから光が出てくる。

 空中に投射されたのは水着を着た金髪のお姉さんで。

 凹凸の激しい体つきの女性を見ていれば、ゴウリキマルさんは無言でもう一度ボタンを押した。

 

 映像が消えて、沈黙が流れる。

 ゴウリキマルさんは人でも殺しそうな顔をしていた。

 正直、直視していられないほど怖い。

 何も言いたくは無いが、何か言わなければ修理を依頼した人が殺されるだろう。

 だからこそ、俺はぎこちない笑みを浮かべながら、最近はどうなのかと聞いた。

 

 彼女はゆっくりと投射機を机に置く。

 そうして、眉間の皺を揉みほぐしながら「まぁまぁだ」と言う。

 メリウスの修理に、投射機のような複雑な機構の機械の修理など。

 彼女が行っている仕事は他の整備スタッフよりも多いと聞く。

 しかし、彼女はこんなことは序の口だと言わんばかりに器用に全てを熟す。

 俺はそんな彼女を見て、何となく気になったことを質問した。

 

「もしかして、現実でも整備士とかをしていたんですか?」

「……まぁ、家の教えでな……家は代々、技術屋の家系だからな……聞いてもいないのに、”バトロイド”の仕組みとか”強化外装”の製造工程なんかを叩きこまれたよ。今となっては、知ってて良かったとは思うけどな」

「……バトロイドに強化外装って。確か軍用兵器でしたっけ」

「お、知ってるのか? そうだよ。バトロイドは半自律思考型の機械体の総称で、主に戦闘で使われる機械だ。人間より遥かに上の運動能力に機動性。高い戦闘学習能力を備えた高性能ロボットだな。強化外装は、バトロイドとか人間を搭乗させて操る大型の戦闘兵器だな。知らないから教えておくけど、この世界のメリウスの元になったものはこの強化外装だ。メリウスに乗れる人間は、大体がこの強化外装で訓練を受けた人間だろうな。この世界では同じ名前のパワードスーツはあるけど、アレとはまた違うからな……軍学校では強化外装の操縦訓練が必修科目になっているから、軍学校を卒業した奴もいるかもしれねぇけどな」

「……バトロイドは他にも使われているんですか?」

「あぁ……まぁ中には清掃用に改造したり、汚染区域を通る為の車両の運転手にしたりする奴もいるな。ただ、バトロイドは戦闘用に作られているからな。戦闘以外の事をさせても、人間以上の働きは期待出来ないぜ」

「……じゃ、完全に自分で考えるバトロイドとかはいないんですか?」

「うーん。いないなぁ。大体が国の統制システムで管理されているから……あ、でも……あの事件に使われたアレは……」

 

 ゴウリキマルさんは顎に手を当てて考える。

 俺は彼女が呟いた事件とは何かと尋ねた。

 

「ん。いや、思い出したんだけど。遥か昔……それこそ、百年以上前の話だけどよ。ソビラト連邦のブラドレン・アザーロフっていうバトロイド開発の第一人者がいたんだけど。そいつが自国の統制システムにハッキングしてバトロイドを使って大戦争を引き起こしたんだ。その時に、使われたバトロイドは今使われているものよりは性能は劣る筈なのに、妙に思えるほど戦闘能力が高かったらしい」

「妙なほどに戦闘能力が高い……確か、バトロイドは高い戦闘学習能力があるって」

「あぁ、これは噂だけど。アザーロフは自国のバトロイドに別の機械の戦闘データをインプットしたらしい。それに使われたのが誰にも真似できないような完全自律思考型のロボットだったって話だけど……私の先祖も関わってるなんて爺さんから聞いたけどな」

「別の、機械? それは――っ」

 

 ずきりと頭が痛くなった。

 俺は片手で頭を押さえて、目を細めながら今の痛みは何かと考えた。

 ゴウリキマルさんを見れば、急に俺がふらついたのを見て心配している。

 

「……ゴウリキマルさんの先祖は何を、していたんですか?」

「え、あ、あぁ……確か、日本の研究所でロボットの開発をしていたって聞いたけど……マザーの開発にも関わってたって聞いた気もするけど……あぁ悪い。うろ覚えだから、ハッキリとは言えねぇな」

「……その研究所の名前は」

「えぇ、いや、うーん。何だったか」

 

 腕を組んで考えている様子のゴウリキマルさん。

 俺はスッと彼女にとある名前を言った。

 

 

「――大蔵研究所」

「ん? あぁ! それだそれ! 大蔵研究所だ……え、何でお前が知ってるんだよ」

 

 

 大蔵研究所という名前。

 U・Mの母艦の娯楽室で読んだ本。

 そこに添付されていた写真には、大蔵研究所が映っていた。

 研究所の前で笑っていた男女たち。

 今の今まで頭に残っていたそれが、此処にきて繋がった。

 

 大蔵研究所はマザーの開発に関りがある。

 しかし、ゴウリキマルさんの話ではロボットの開発もしていたらしい。

 俺の心が感じていた何かは、彼女と関係があったからなのか……いや、まだだ。

 

 ゴウリキマルさんと繋がりがあったからではない。

 まだ別の何かを俺は感じている。

 心の中で誰かが俺に囁きかけているように、俺の心は揺れ動いていた。

 大蔵研究所には何かがある。

 それは俺という人間が何者であるのかを知る為のピースである気がした。

 

「写真とかないですか? 何でもいいんです。あったら見せてくれませんか」

「お、おぉ。い、いいけど。急にどうしたんだよ? そんなに私の過去が気になるか? はぁ……アイツを思い出しちまう。くそ」

「……アイツ?」

「……告死天使だよ。アイツも、私の過去をしつこく聞いてきた」

「アイツがゴウリキマルさんの過去を? 何でですか?」

「あぁ? そんなの知らねぇよ。鍵がどうとか言っていたけど、アイツは自分の事は話さなかった……今思えば、何かを探していた気がする。私に近づいてきたのも、もしかしたら……はぁぁぁ、やめだやめ。胸糞悪ぃ」

 

 ガシガシと髪を掻いてから、ゴウリキマルさんは大きくため息を吐いた。

 俺はおろおろとしながら、何とか写真を見せてもらいたいとお願いした。

 すると、彼女はキョトンとした顔をする。

 そうして、ぷすりと笑ってから、顔の前で手をひらひらと振る。

 

「いや、探すよ。別に過去を詮索されたくないとかねぇから。見たいなら見せてやる……それも相棒の仕事だ……はぁ、久しぶりに家に帰るのかぁ」

「……嫌なんですか?」

「あ? あぁ……うん、嫌だな。クソ親父がいるから帰りたくない」

「く、クソ親父って」

「クソはクソだ。アイツは私に関心がない。私もアイツには微塵も関心がない。子供の頃も勉強ばっかり強制して、遊びに連れて行ってもらった記憶がまるでない。アイツにとって子供は道具だ。そんな奴の面なんか見たかねぇよ」

「そ、そうなんですか? た、大変でしたね」

「……別に。アイツは、私を恨んでいるだろうから…………あぁ! やめだやめ! 考えただけで胃がムカムカする! 写真は取って来るからもういいだろ! 今度はお前の話だ!」

「え、えぇ! お、俺の話って?」

「……隠しても無駄だ。最近のお前は妙に元気がない。何か嫌な事があったんだろ。言え」

 

 ゴウリキマルさんは腕を組んで目を細める。

 ジッと俺の事を見つめていた。

 俺は口を噤んで目を泳がせた。

 そんな俺をジッと見つめてくるゴウリキマルさん。

 

 言ってもいいのかと悩んだ。

 言ってしまえば彼女を巻き込んでしまう。

 しかし、彼女には告死天使の事も話している。

 イサビリ中尉たちの事も話しておいてもいいのではないか。

 

 

 俺は悩んだ。

 悩んで、悩んで、悩んで――がばりと立ち上がる。

 

 

「それじゃ!」

「あ、おい!」

 

 俺は彼女に頭を下げてから走り去る。

 乱暴に扉を開け放ちバタバタと走っていった。

 後ろの方でゴウリキマルさんが叫んでいるが無視する。

 告死天使の事は話せても、スパイの事は彼女に話せない。

 俺は殺される心配がなくても、彼女は狙われる恐れがある。

 彼女を危険に晒してはいけない。

 俺自身の手で、この問題は解決しなければならない。

 

 俺はゴウリキマルさんと話せてよかったと思った。

 俺が知りたかったことを知れて。

 不安が少しだけ和らいだ気がした。

 大蔵研究所と彼女が関りがあった事には驚いたけど……これで一歩前進だ。

 

 己を知る為の歩みが進んだ。

 今はそれを素直に喜ぼう。

 俺は笑みを浮かべながら、廊下を走っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。