【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
輸送機に乗り込んで現地に着く。
荷物を持ちながら車によって移動をして、窓から見える街を見ていた。
輝く太陽の光を浴びて水面がキラキラと輝く。
街中に水路が引かれているのか、大から小まで石造りの橋が数多く存在した。
白い羽の鳥たちが水浴びをしていて、羽を広げて羽ばたいていく。
木造の家もあればコンクリートで出来た建物もある。
しかし、統一感があり、家の形はほぼ同じで色も青と白のものしかなかった。
アーチ状の門がある小さな屋敷に、アイスの看板がつけられた店。
人で賑わっている公国の首都の中を走行しながら、ゆっくりと車が停車した。
見れば、信号は赤であり歩道を住民が渡っている。
舗装された道に、統制された街並み。
背の高い建物はホテルや重要な施設で。
外敵からの攻撃を考えていないのだろう。
アレでは空中から狙い撃ちされるのがオチで……いや、敢えてそうしているのか?
住民たちに被害を出さない為に、敢えて目立つように建てているのか。
この街を作った人間じゃないから、その真意は分からない。
しかし、住民の安全を考えて作っているのだろうと思う箇所はあった。
ある一定の距離に設置されている円筒形の建物。
周りには柵が設置されていて、赤いランプと共にバーが下ろされている。
車が停まった時によく見てみれば、看板が掛けられていた。
そこには避難シェルター用のエレベーターであると書かれている。
恐らくは、アレに乗って地下へと逃げるのだろう。
つまり、重要施設への爆撃や攻撃が行われている間に、住民は地下へと避難する。
そうすることによって、国民への被害は最小限で済む。
大公がどう思っているのかは知らないが、何とも愛情深い王もいたものだと思った。
美しさに優しさが感じられる街を眺めて。
そうして俺たちは首都の南西に向かった。
中心地から離れた場所で車は停車して、荷物は置いていくように言われた。
事前にタグをつけておけと言われていたので、恐らくは部屋に運んでくれるのだろう。
急いで降車する様に言われて降りれば、アスファルトの地面が広がっている。
白い壁で仕切られた四角い青い建物の前には何人もの人間が立っていた。
その中心には、白い髭を整えた顔中に傷のある老人が立っている。
枯れ木のように細い体。しかし、彼からは弱さを全く感じない。
鋭い青い瞳を俺たちへと向けていて、傍には彼と同じ黒いスーツを着た人間が整列していた。
恐らくは、彼が今回の警護責任差であり、急遽合流することになった俺たちを見に来たのだろう。
予定では明日から一通りの流れや段取りを教えられる筈だったが……。
老人はゆっくりと俺の前に立つ。
俺の両側には偽物たちが立っている。
もしかしたら、不審に思ってくれるのではないかと淡い期待を抱いていた。
しかし、老人は他の三人には一切視線を向けない。
俺の目をジッと見つめるだけだった。
俺は額から汗を流しながら、何も言う事が出来ず固まっていた。
すると、老人はくしゃりと笑みを浮かべる。
「いい顔だ。よほど実りの多い人生を送ってきたのだろうな」
「え? あ、あの」
「私は警護責任者のムラサメ・ゴトウだ。貴殿らの話は中佐殿より聞いている。一騎当千の猛者を送るので、存分に使ってくれと言われているのでな。万が一の時は、切り札として期待している」
「ハッ!」
偽物たちが敬礼した。
俺も慌てて敬礼すれば、ゴトウさんは快活に笑う。
そうして、今日はゆっくりと休んでくれと言った。
ゴトウさんが背を向けて歩き出せば、傍に控えていた人の一人が歩み寄って来る。
そうして、俺たちが宿泊する場所に案内すると言った。
俺たちは礼を言いながら、彼の後をついて行った。
俺は両隣に立つ偽物たちを見る。
前を見ているが、完全に俺の動きを封じていた。
危機を知らせる事は出来ない。
ゴウリキマルさんたちから離れた今。
仲間の命が危機に晒される恐れはない筈だ。
だからこそ、現地についたタイミングでゴトウさんに知らせるか中佐に連絡を繋ごうと考えていた。
しかし、奴らが俺を自由に動かせる筈がない。
がっちりと両隣をガードされながら、ぼそりと中尉の偽物が言葉を発した。
「……何もするな。仲間の命は我々が握っている」
「何を言っている。もう基地にお前たちの仲間は」
「――本物の中尉が生きていると言えば?」
「――ッ!!?」
俺は驚きのあまり足を止めてしまった。
目を大きく開きながら偽物を見た。
すると、スーツを着た案内人は足を止めて首を傾げる。
偽物は「ホテルに宿泊できないことに驚いただけです」と誤魔化す。
俺は小さく頭を下げてからまた歩き出した。
前を見ながら歩いて、さっきの言葉は本当かと質問する。
すると、奴は器用に片手て端末を操作して一枚の写真を見せてきた。
そこには拘束具などをつけられて、憔悴しきった表情を浮かべる中尉がいた。
生きていた。生きていたことは嬉しい。
しかし、中尉は敵の手に捕まっており、どうすれば助けられるのか分からない。
「……彼女を解放しろ」
「……それはお前の行動次第だ」
深くは言わない。
しかし、全てが終わるまで黙っていろと言われたのは伝わった。
俺は表情を曇らせながら小さく「分かった」としか言えなかった。
ゴウリキマルさんたちの身の危険を取り除けば良いと思っていた。
だが、中尉が生きていると分かった今。
俺が奴らの計画の妨害をすれば、中尉は殺されてしまう恐れがある。
やっぱり俺には何も出来ないのか……黙って見ている事しか出来ないのかッ!
知っているのに何も出来ない。
分かっていても行動を起こせない。
まるで、見えない鎖で体中を縛り付けられているようだ。
息苦しさを感じながら、海の底へと沈んでいくしかない。
俺は悔しさを滲ませるように拳を硬く握った。
「……今夜、私と一緒に来い」
「……何をさせる気だ」
「……そう邪険にするな。話しがしたい……まぁお前の罪悪感を和らげてやろう」
「……何を」
何が目的かと聞いた。
しかし、偽物は黙ってしまった。
話がしたいと言ったが、それで何が変わるのか。
俺の罪悪感を和らげるなんて戯言……信じられる訳が無い。
こいつらは敵であり、俺を利用している。
作戦当日まで俺を黙らせておけばいいだけだ。
そうすれば、苦労もすることなく二人の暗殺が出来るのだろう。
どういう手口で暗殺をするのか。
それだけでも知れれば……いや、ダメだ。こいつらの作戦が失敗すれば中尉の身が危険だ。
今は言うとおりに従う他ない。
少なくとも俺が従順にしていれば、中尉は生かされる。
俺は犬になる屈辱に耐えながら、奴らの要求を呑む。
一体、今更になって俺に何の話をするというのか。
小さな疑問と大きな怒りを抱きながら、俺は無表情で前だけを見ていた。